中空光ファイバを用いた赤外スペクトルイメージン
グに関する研究
著者
黄 晨暉
号
6
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
医工博第37号
URL
http://hdl.handle.net/10097/60643
16 氏名(本籍地) 黄HUANG 晨CHEN暉H U I 学 位 の 種 類 博 士(医工学) 学 位 記 番 号 医工博 第 37 号 学位授与年月日 平成27年 3月25日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 研 究 科 、 専 攻 東北大学大学院医工学研究科(博士課程)医工学専攻 学 位 論 文 題 目 中空光ファイバを用いた赤外スペクトルイメージングに関する研究 論 文 審 査 委 員 (主査)東北大学教 授 松浦 祐司 東北大学教 授 梅村晋一郎 東北大学教 授 西條 芳文 東北大学教 授 山田 博仁 東北大学准教授 片桐 崇史
論 文 内 容 の 要 旨
第1章 緒言 物質の赤外吸収特性を利用する赤外分光分析技術が急速に進展している。特に生体組織の赤外分光 検査の研究は最も注目されており、様々な利用価値がある。フーリエ赤外分光器(FT-IR)を用いて 測定した赤外スペクトルには、正常部位と腫瘍部位のタンパク質の構造に起因する吸収ピーク位置お よび形状の差異が現れる。この差異をフォーカルプレーンアレイ(FPA)やマルチチャネル検出器を 用いて画像化することにより、分光スペクトルの2 次元マッピングが可能となる。これによって、ご く早期の腫瘍などの検出が可能となり、定量的な病理診断への応用も期待される。 これらの従来の分光イメージングは赤外フーリエ分光器の内部に生体組織薄片を配置し測定を行 う。また、インビボでの観察も実現可能であるが、ごく一部の体表に限られている。人体内の消化器 や循環器に対する検査を行う場合、内視鏡の鉗子等を用いて組織の体内採取を行う必要があり、より 侵襲の小さい診断法が必要とされる。 そこで、本研究では、細径かつ可撓性がある光ファイバを用いて、内視鏡下で人体内組織の赤外分 光イメージングを取得可能なファイバプローブを提案し、新しい非侵襲的な診断法の確立を目指す。 生体組織の赤外吸収特性は基本的に中赤外領域に現れるため、中赤外光が伝送できる光ファイバが必 要となる。一般的な通信用の充実型石英光ファイバを用いた近赤外光のイメージング伝送が報告され ているが、そのコア材料である石英は赤外域での材料吸収が顕著であるため、中赤外光の伝送が極め て困難であり、目標の赤外分光イメージング用プローブとして利用できない。赤外光を低損失で伝送 するためには赤外域吸収が少ない材料を選択する必要があるが、赤外光用ファイバであるカルコゲナ イドガラス製ファイバはその有毒性により、本研究での使用は不適切であると判断される。 本研究では中赤外域の広い領域で低損失性を示す中空光ファイバを選択した。中空光ファイバのコ アは空気であり、材質による赤外吸収が皆無であるため、中赤外域で低損失伝送が可能である。更に、 前述のカルコゲナイド製のファイバのような毒性がなく安全であり、本研究の目的に最適なファイバ である。17 今まで我々のグループでは、単一の銀内装中空光ファイバを用いて生体組織(口腔粘膜)表面の赤外 分光分析を行ってきたが、これは点測定に限られ、二次元である画像情報を取得するためにファイバ をスキャニングしながら行う測定は困難である。従って、本研究では、中空光ファイババンドルとフ ォーカルプレーンアレイ(FPA)を導入することにより、同時に同じ平面におけるマルチピクセルの測 定を行うことにより、二次元の面測定を試みる。そしてこの結果に基づき、内視鏡下で人体内組織の 赤外分光イメージが取得可能なファイバプローブを実現することを目的としている。 第2 章 中空光ファイババンドルを用いた赤外分光透過イメージング 本章は赤外カメラを用いたフーリエ赤外分光測定系の構築について紹介した。内径0.7 mm のファ イバと赤外カメラを用いてFT-IR の測定原理を模倣した方法で、中空光ファイバの出射光パワースペ クトルを測定した。カメラとFT-IR の同期化を実現し、複数回のインターフェログラム測定結果を平 均化することにより高精度のインターフェログラムが得られた。そして、カメラ専用ソフト ThermalCAM Researcher を解析することにより、インターフェログラムの取得からスペクトルの取 得までの全自動化が実現できた。 その後、中空光ファイババンドルを用いた各種のサンプルの透過光分光イメージング測定を行い、 ファイババンドルによるイメージングプロセスを確立し、サンプルの透過率をマッピングすることに より画像構築の自動化が実現できた。まず、透明ポリエチレンフィルムを用いて分光イメージングの 有効性を検証した。次に、生体構成物である脂肪の検出を目指して、油脂混合物を測定し、混合物の 油脂成分を検出した。更に、マイクロトームを用いて赤外光が透過できる程度の厚さの豚肉片サンプ ルの製作を行い、赤身と脂身の吸収ピークが現れる3.4-3.7 μm の透過率を積分し、積分値をマッピン グすることにより、赤身と脂身の分布と一致する分光イメージが得られた。よって、本システムが生 体サンプルの測定に充分な感度を有していることが確認された。 第3 章 反射分光イメージング用中空光ファイバプローブの開発 本章では赤外反射分光イメージングのためのファイバプローブを提案した。従来の反射分光イメー ジングシステムではビームスプリッタを利用するため、75%のパワーが損失してしまう。また、ファ イババンドル往復分の損失が高く、特にサンプルが生体軟組織の場合、最終的に検出器に到達できる パワーはわずか 0.009%となり、分光測定は非常に困難である。そこで、本研究において、ビームス プリッタ不要のプローブ型光源およびハイブリッド型ファイバプローブを用いた赤外反射分光イメー ジングシステムを開発した。 散乱反射板に塗布した脂肪の測定を基準として、ビームスプリッタを用いた従来の反射分光イメー ジングシステム、プローブ型光源を用いたシステム、ハイブリッド型ファイバプローブを用いたシス テムの評価を行い、比較を行った。プローブ型光源では、ハイパワーな光源をプローブ先端に設置す ることによりファイバ伝送が一方向のみとなり、伝送損失が1/2 になることから、高感度な分光測定 を期待したが、熱放射の不安定やシステム由来のインターフェログラムのノイズによる低 SN 比 (SNR=9.2)、イメージング画像の欠陥などデメリットにより、システムの使用が制限され、生体組 織の分光測定には適切ではないことがわかった。 そこで、構造がより簡単なハイブリッド型ファイバプローブを開発した。このシステムはより安定 な測定が可能となり、測定した脂肪の吸収スペクトルのSN 比は 36.4 となり、従来の反射分光イメー ジングシステムのSN 比の 5.9 倍まで向上した。そして、このシステムを用いて細かい形状のサンプ
18 ルに対しても分光イメージングの測定が可能であることを確認した。また、低反射率(4-6%)のサン プルである歯牙に塗布した脂肪の測定を試みた。その結果、スペクトルのSN 比は 9.0 となり、イメ ージング可能な程度のSN 比に達し、分光イメージング測定では、歯牙に塗布した脂肪の有無も検出 できた。しかし、より低反射率(0.5-1%)の生体軟組織の測定に対しては、更なる高感度が必要とさ れる。 第4 章 波長可変赤外レーザーを用いた赤外分光反射イメージング 本章では赤外波長可変レーザを用いた赤外反射分光イメージングシステムの構築およびイメージ ングのアプローチを紹介した。このレーザは周期1 ms のパルス光を放射するため、それを正しく画 像化するための検出器の検討を行った。光電効果の瞬時性により、InSb 赤外カメラが測定したレーザ 光は明滅して観察される。カメラの積分時間を1 ms とすれば明滅はなくなるが、背景輻射とのコン トラストが弱く、反射分光イメージング測定は困難である。積分時間を短縮すれば、背景輻射とのコ ントラストが強くなるが、カメラがフリーランニングのため、測定は不安定となる。結局、この赤外 高速カメラは感度が高いものの、パルス光の連続的な測定ができないため、適切な検出器ではないと 判断した。逆に、ボロメータカメラの検出原理は熱電効果であり、物理量の変化は1 ms 以上である ため、測定が安定している。また、背景輻射とのコントラストも高いため、このカメラはパルス光の 測定において適切であると判断した。 レーザ光をモノクロメータで分光分析した結果、スペクトル幅は非常に広いことがわかった。本研 究に使われるサンプルはブタ肉片であり、その脂肪と赤身の反射光をボロメータカメラで検出したと ころ、脂肪の吸収帯域における差異が見られなかった。その原因はこの高出力レーザがサンプルに熱 影響を与え、反射光と黒体放射光が分離できないことと脂肪の吸収ピークに現れる帯域はカメラの低 感度帯域と重なっていることである。 反射分光イメージングを実現するために、積極的に熱放射を利用し、黒体放射の強度により間接的 に吸収を求める手法を提案した。この原理を利用して、ブタ肉の脂肪と赤身の差異が検出され、異な る組織の境界線も反射分光イメージングにより検出できた。この波長可変レーザを用いた赤外反射分 光イメージングシステムは生体軟組織測定に対して充分な感度があり、サンプル表面の凹凸やファイ バ伝送特性に対してもロバストな特徴を有する。これによって、ハイブリッド型ファイバプローブを 導入したレーザ反射分光イメージングシステムを用いた生体軟組織のイメージング測定に成功した。 第5 章 結言 本論文では中空光ファイバを用いて内視鏡下で実現可能な分光イメージングシステムについて研 究した。最初にフィジビリティスタディとして、中空光ファイババンドル、高速サーモグラフィー用 赤外カメラと赤外フーリエ分光器を用いて、赤外透過分光イメージングシステムを構築し、各種のサ ンプルの赤外分光イメージング測定を行い、透過分光画像の取得に成功した。その後、実際の応用に 向けて、赤外反射分光イメージング用のプローブを作製し測定システムを構築したところ、生体硬組 織の反射分光イメージング測定に成功した。しかし、生体軟組織の測定には更なる感度が必要ため、 新たに高出力の赤外波長可変レーザを用いたシステムを開発し、生体軟組織の反射分光イメージング に成功した。