王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞 ─ 三字
の形状語に注目して ─
著者
木村 真理子
雑誌名
集刊東洋学
巻
118
ページ
1-19
発行年
2018-01-24
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129937
1 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村)
王延寿﹁魯霊光殿賦﹂における躍動と停滞
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三字の形状語に注目して
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木
村
真理子
一、はじめに 王 延 寿︵ 一 四 三 頃∼ 一 六 三 頃 ︶ は、 ﹃ 楚 辞 章 句 ﹄ を 著 し た 王 逸︵ 九 〇 頃∼ 一 六 五 頃 ︶ の 息 子 で あ り、 ﹃ 後 漢 書 ﹄ に 伝記が残っているものの、記載される行跡はごくわずかで あ る ︶1 ︵ 。 彼の書いた作品は、 ﹁魯霊光殿賦﹂ 、﹁王孫賦﹂ 、﹁夢賦﹂ 、﹁桐 柏淮源廟碑﹂が﹃全後漢 文 ︶2 ︵ ﹄に収められている。そのうち ﹁魯霊光殿賦﹂は、 ﹃文 選 ︶3 ︵ ﹄巻一一・宮殿に自 序 ︶4 ︵ とともに採 録 さ れ、 劉 勰︵ 四 六 五 頃∼ 五 二 〇 頃 ︶﹃ 文 心 雕 龍 ︶5 ︵ ﹄ 巻 二・ 詮賦において﹁延寿の霊光、飛動の勢を含む﹂ ︵延寿靈光、 含飛動之勢︶ と評価を受けている。一般的な解釈に従えば、 劉 勰 は、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ を、 躍 動 的 な 観 点 か ら 評 価 し た こ とにな る ︶6 ︵ 。﹃文選﹄ への採録や、 ﹃文心雕龍﹄ の評価から、 ﹁魯 霊光殿賦﹂は、六朝期以前の宮殿賦の代表作と言ってよい であろう。 しかし、日本における﹁魯霊光殿賦﹂の専論は見当たら ず、中国の論文も数篇に止ま る ︶7 ︵ 。とりわけ、 ﹁魯霊光殿賦﹂ の表現面についての考察は不足しており、 後述するような、 躍動感と停滞感を醸し出す表現の対比という面から考察し た論文は、管見の限り見られない。 停滞感を醸し出す表現については、三字の形状語が深く 関与していると考える。三字の形状語は、すでに竹治貞夫 氏 が、 ﹃ 楚 辞 ﹄ に 多 く 見 ら れ る 表 現 で あ る こ と を 論 じ ︶8 ︵ 、 後 世 へ の 展 開 に も 考 察 を 加 え る ︶9 ︵ が、 三 字 の 形 状 語 が、 ﹁ 魯 霊 光殿賦﹂において重要な役割を果たしているという点には 言及していない。しかし、三字の形状語は、 ﹁魯霊光殿賦﹂ 以前の京都・宮殿賦においてほとんど用いられていない表 現 方 法 で あ り、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ を 分 析 す る 際 に は、 三 字 の 形状語に注目する必要があると考えられる。 集刊東洋学 第一一八号 平成三十年一月 一 −一九頁2 以上の理由により、本論の第二章では、躍動表現と停滞 表現の顕著な対比を、第三章では、三字の形状語の効果に ついて、第四章では、三字の形状語を含む六字句の効果に ついて考察する。 考察に先立って、序を除く﹁魯霊光殿賦﹂の段落分けを 行う。 段落 1. ︻漢 の 歴 史 と 霊 光 殿 の 起 こ り ︼ 漢 王 朝 の 代 々 の 君 主について述べ、霊光殿がどのように建てられた かを説明する。 ﹁粤若稽古﹂ ∼﹁昭列顯於奎之分野﹂ ︵一〇四字︶ 段落 2. ︻霊 光 殿 全 体 の 姿 ︼ 全 体 の 概 観 か ら、 か き ね、 門 ま で を 描 写 す る。 ﹁ 瞻 彼 靈 光 之 爲 狀 也﹂ ∼﹁ 方 二 軌 而並入﹂ ︵一三〇字︶ 段落 3. ︻堂、 建 物 内 部 ︼ 堂、 建 物 内 部 を 描 写。 堂 に は 光 で溢れかえっているさまが描かれるが、建物内部 には空虚で静かな中に響く音や光、暗く静かな様 子 が 描 か れ て い る。 ﹁ 於 是 乎 乃 歷 夫 太 階﹂ ∼﹁ 心 偲 狡 偲 狡而發悸﹂ ︵一九三字︶ 段落 4. ︻建物の構造︼建物の細部の造りを観察。 ﹁於是詳 察其棟宇﹂ ∼﹁各有所趣﹂ ︵一三七字︶ 段落 5. ︻彫刻︼ 木材に彫り上げられた彫刻を描写する。 ﹁爾 乃懸棟結阿﹂ ∼﹁若鬼神之髣髴﹂ ︵二〇七字︶ 段落 6. ︻絵 画 ︼ 宮 殿 の 壁 に 描 か れ た 絵 画 を 描 写 す る。 開 闢の時代からの賢愚を描きつくす。 ﹁圖畫天地﹂ ∼ ﹁善以示後﹂ ︵一二〇字︶ 段落 7. ︻霊 光 殿 の 周 辺 ︼ 霊 光 殿 周 辺、 楼 閣、 道 路、 台 な ど附属する建物を描写する。 ﹁於是乎連閣承宮﹂ ∼ ﹁仰不見日﹂ ︵九一字︶ 段落 8. ︻瑞 祥 と 称 讃 ︼ 瑞 祥 を 描 写 し、 漢 室 と 霊 光 殿 を 称 讃する。 ﹁何宏麗之靡靡﹂ ∼﹁孰亦有云而不珍﹂ ︵一 四二字︶ 段落 9. ︻乱︼ 双声、 畳韻を用いて霊光殿の姿を再度讃える。 ﹁彤彤靈宮﹂ ∼﹁永不朽兮﹂ ︵八六字︶ 二、光と陰、躍動と停滞の描写 ﹁魯霊光殿賦﹂の段落 3は、宮殿の堂における光や色彩、 建物の中の空虚で静かな中に響く音や光、さらには暗さと 静けさの描写が印象的である。三者は連続して綴られてお り、 相 互 の 対 比 に よ っ て そ れ ぞ れ の 描 写 が 際 立 っ て い る。 本章では、段落 3を換韻から①②③④の四つに分 け ︶10 ︵ 、それ ぞれについて原文を挙げながら考察を加える。
3 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) 二ー一、光、躍動の描写 ①は、霊光殿の堂から始ま る ︶11 ︵ 。 ①於是乎乃歷夫太階、 是 に 於 い て か 乃 ち 夫 の 太 階 を 歴 、 以造其堂。 以て其の堂に造る。 俯仰顧眄、 俯仰顧眄し、 東西周章。 東西に周章す。 さてあの大きな階段を経て、霊光殿の堂に到る。伏し 仰いで左右を見、東西にめぐる。 ①は、ほぼすべて四字句からなる。 ﹁夫の太階を歴﹂て、 ﹁以て其の堂に造 る ︶12 ︵ ﹂。大きな階段を経て、堂に到る。そし て、 ﹁俯仰顧眄し、東西に周章す﹂と、あたりを見渡す。 続く②では、眼前の堂の様子が描かれる。 ②彤彩之飾、 彤彩の飾り、 徒何爲乎、 徒だ何をか為さん、 㵆㵆涆涆 。 㵆㵆涆涆 。 流離爛漫。 流離爛漫。 皓壁暠曜以月照、 皓壁 暠曜として以て月のごと く照らし、 丹柱歙赩而電 烻 。 丹柱 歙赩として電のごとく 烻 かがや く。 霞駮雲蔚、 霞駮らに雲蔚んに、 若陰若陽。 陰の若く陽の若し。 瀖濩 燐亂、 瀖濩 燐乱、 煒煒煌煌。 煒煒煌煌。 赤い飾りは、いったいどうか。光が溢れかえる。分散 して遠のいていく。 白い壁は輝いて月のように照らし、 丹い柱はきらめいて稲妻のように光る。朝焼けが入り 交じって雲がみち、陰のよう陽のよう。流れて滴り落 ちて蛍が飛び乱れるようで、きらきらぴかぴかしてい る。 堂 に 到 っ て、 ま ず 目 に つ く の が﹁ 彤 彩 の 飾 ﹂、 赤 い 飾 り である。赤い飾りに﹁徒だ何をか為さん﹂と感嘆し、それ は﹁澔澔 涆涆 ﹂﹁流離爛漫﹂と表現される。 李善︵七世紀︶は﹁ 㵆㵆涆涆 ﹂に、 ﹁光明の盛んなる貌﹂ ︵ 光 明 盛 貌 ︶ と 注 す る。 李 善 は こ の 表 現 を 光 が 盛 ん な さ ま と解釈するが、本来はどのような意味を持ち、どのような 場 面 で 使 わ れ て き た の で あ ろ う か。 ﹁ 㵆 㵆 涆 涆 ﹂ の﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ 以 前 の 用 例 は 見 当 た ら な い が、 ﹃ 文 選 ﹄ 巻 八・ 司 馬 相 如︵ 前 一 七 九∼ 前 一 一 七 ︶﹁ 上 林 賦 ﹂ に、 次 の よ う に ある。 明月珠子、 明月の珠子、 的 皪 江靡。 江靡に的 皪 たり、 蜀石黄 碝 、 蜀石黄 碝 、
4 水玉磊砢。 水玉は磊砢たり、 磷磷爛爛。 磷磷爛爛。 采色澔汗。 采色澔汗。 藂 積乎其中、 其の中に 藂 積す、 明月の珠が、川のほとりにきらきらとしている、蜀石 や黄色い 碝 石、水精の玉がごろごろとし、光り輝いて いる。 彩りはきらめく。 その中に群がり重なっている、 ここでは、 川のほとりの玉石の彩りがきらめくさまが ﹁采 色 澔 汗 ﹂ と さ れ て い る。 ﹁ 澔 汗 ﹂ は﹁ 澔 澔 涆 涆 ﹂ に 通 じ る 表 現 で あ り、 ﹁ 澔 澔 涆 涆 ﹂ は﹁ 澔 汗 ﹂ が 強 調 さ れ て 畳 字 に 変化していると見てよいであろう。 ﹁上林賦﹂ を踏まえれば、 霊光殿の赤い飾りは、水に濡れた玉石の照らすように、つ ややかな光を放っている。 ﹁ 流 離 爛 漫 ﹂ に、 李 善 は﹁ 流 離 爛 漫 は、 分 散 し て 遠 ざ か る貌﹂ ︵流離爛漫、 分散遠貌︶ と注する。しかし ﹁流離﹂ は、 ﹁ 流 ﹂ の 字 か ら も 分 か る よ う に、 本 来 液 体 の 動 き を 連 想 さ せ る 言 葉 で あ る。 ﹁ 流 離 ﹂ の 液 体 と し て の 用 例 は、 ﹃ 文 選 ﹄ 巻一六・司馬相如﹁長門賦﹂に次のようにある。 左右悲而垂淚兮、 左右悲しみて涙を垂れ、 涕流離而從橫。 涕流離して従横す。 左右は悲しんで涙を垂れ、涙ははらはらとしとどに流 れる。 ﹁ 流 離 ﹂ は、 涙 の 流 れ 落 ち る さ ま と さ れ て い る。 ま た、 揚 雄︵ 前 五 三∼ 一 八 ︶﹁ 甘 泉 賦 ﹂ に は﹁ 紅 采 の 流 離 た る を 曳 き、 翠 気 の 宛 延 た る を 颺 ぐ ﹂︵ 曳 紅 采 之 流 離 兮、 颺 翠 氣 之宛延︶と、帯状の赤い気のようなものがたなびいて流れ ているさまを描く。 ﹁爛漫﹂ は、 ﹃荘 子 ︶13 ︵ ﹄ 外篇 ・ 在宥に ﹁大徳は同じからずして、 性 命 は 爛 漫 す ﹂︵ 大 德 不 同、 而 性 命 爛 漫 矣 ︶ と あ り、 李 善 とほぼ同時代の成玄英︵七世紀︶の疏には﹁爛漫は、散乱 するなり﹂ ︵爛漫、 散亂也︶とある。また、 ﹃楚 辞 ︶14 ︵ ﹄巻一四 ・ ﹁ 哀 時 命 ﹂ に﹁ 天 墬 に 生 ま れ て 之 れ 過 ぐ る が 若 く、 忽 ち 爛 漫して成す無し﹂ ︵生天 墬 之若過兮、 忽爛漫而無成︶ とあり、 王逸注に﹁爛漫は、猶お消散するがごときなり。言うここ ろは己 天地の閒に生まれ、忽ち風雨の過ぐるが若く、 晻 然 と し て 消 散 し、 功 を 成 す 無 き を 恨 む な り ﹂︵ 爛 漫、 猶 消 散也。言己生於天地之閒、忽若風雨之過、 晻 然而消散、恨 無成功也︶とある。以上の例か ら ︶15 ︵ 、﹁爛漫﹂は、 ﹁散﹂るこ とを共通の要素として用いられると捉えれば、前掲の李善 注が﹁分散して遠ざかる貌﹂というように、 ﹁魯霊光殿賦﹂ の﹁爛漫﹂は、光が分散していくさまと考えられよう。 ﹁魯霊光殿賦﹂の﹁流離爛漫﹂は、 ﹁彤彩の飾﹂から発せ られた光が、流れるようにして遠くへ分散していく様子で あろう。
5 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) ﹁ 晧 壁 暠 曜 と し て 以 て 月 の ご と く 照 ら し、 丹 柱 歙 赩 と して電のごとく 烻 く﹂と、白い壁は月のように照らし、朱 い柱は稲妻のように光 る ︶16 ︵ 。これも霊光殿の輝きを喩えたも の で、 ② に お い て 例 外 的 に 四 字 句 で は な い。 こ の 聯 で は、 白い壁を﹁月﹂に、朱い柱を﹁電﹂に喩えることで、霊光 殿の輝きを宇宙空間に重ね合わせる。 続く﹁霞駮らに雲蔚んに、陰の若く陽の若し﹂は、 ﹁霞﹂ ﹁ 雲 ﹂ と い う 単 語 で、 霊 光 殿 の 光 を、 空 の 明 暗 に 喩 え る ︶17 ︵ 。 光彩と雲が入り交じるさまは、空から雲を通して至る、淡 い光を連想させる。これまで見てきた﹁澔澔 涆涆 ﹂と畳字 で 強 調 さ れ た 玉 石 の 光 や、 ﹁ 流 離 爛 漫 ﹂ と 散 ら ば っ て い く ほ ど 強 い 光、 ﹁ 暠 曜 し て 以 て 月 の ご と く 照 ら し ﹂ と い う 月 の 光、 ﹁ 歙 赩 と し て 電 の ご と く 烻 く ﹂ と い う 稲 妻 の 光 と は 異なる、微かな柔らかい光であ る ︶18 ︵ 。 ② の 末 聯 は﹁ 瀖 濩 燐 亂、 煒 煒 煌 煌 ︶19 ︵ ﹂ で あ る。 ﹁ 瀖 濩 ﹂ の 上字である ﹁ 瀖 ﹂ について、 ﹃文選﹄ 巻一二の木華 ︵三世紀︶ ﹁ 海 賦 ﹂ に は﹁ 瀖 泋 濩 渭 ﹂ と い う 表 現 が あ る。 李 善 は﹁ 瀖 泋 濩 渭 は、 衆 波 の 声 ﹂︵ 瀖 泋 濩 渭、 衆 波 之 聲 ︶ と 述 べ て い るので、 水音を表す表現と考えられる。下字の ﹁ 濩 ﹂ は、 ﹃説 文解 字 ︶20 ︵ ﹄ 巻一一上に ﹁雨 流れて霤り下る貌﹂ ︵雨流霤下皃︶ と あ る。 下 字 に 注 目 す れ ば、 ﹁ 瀖 濩 ﹂ は、 光 が 雨 の よ う に 流れてしたたり落ちるさまと考えることができるが、李善 の﹁ 瀖泋濩 渭は、衆波の声﹂が﹁ 瀖泋濩 渭﹂を音の形容と す る 注 で あ る こ と を 踏 ま え れ ば、 ﹁ 瀖 濩 ﹂ と は、 光 が 雨 の ようにぽたぽたと音を立てているさまとも想像される。 ﹁ 瀖濩 ﹂ の下に ﹁燐乱﹂ が続く。 ﹁燐﹂ は燐火である。 ﹃詩 経 ︶21 ︵ ﹄巻八 ・ 豳風 ・﹁東山﹂に﹁町 畽 は鹿場、 熠 燿 宵に行く﹂ ︵町 畽 鹿場、 熠 燿宵行︶とあり、毛伝に﹁ 熠 燿は、燐なり。 燐 は、 蛍 火 な り ﹂︵ 熠 燿、 燐 也。 燐、 螢 火 也 ︶ と あ る。 以 上 の 点 を 踏 ま え る と、 ﹁ 瀖 濩 燐 亂 ﹂ は、 光 が 雨 の よ う に 流 れ て 滴 り 落 ち、 蛍 が 乱 れ 飛 ぶ よ う な 様 子 で あ る と 言 え よ う ︶22 ︵ 。 ﹁ 煒 煒 煌 煌 ﹂ の﹁ 煒 ﹂ は、 ﹃ 詩 経 ﹄ 巻 二・ 邶 風・ ﹁ 静 女 ﹂ に﹁彤管に煒有り、 女の美を説懌す﹂ ︵彤管有煒、 説懌女美︶ とあり、毛伝に﹁煒は、赤き貌﹂ ︵煒、赤貌︶とある。 ﹃漢 書 ︶23 ︵ ﹄巻九九・王莽伝には﹁青煒 登平し、景を考うるに晷 を以てす﹂ ︵青煒登平、考景以晷︶とあり、 ﹁青煒﹂につい ては、 如淳注に ﹁青気の光輝なり﹂ ︵青氣之光輝也︶ とあり、 晋 灼 注 に﹁ 言 う こ こ ろ は 青 陽 の 気、 始 め て 升 り て 上 が り、 以て万物を成すなり﹂ ︵言青陽之氣、 始升而上、 以成萬物也︶ とある。 ﹁煌﹂は、 ﹃説文解字﹄巻十上に﹁煌煌は、煇くな り ﹂︵ 煌 煌、 煇 也 ︶ と あ る。 賦 の﹁ 煒 煒 煌 煌 ﹂ は、 盛 ん に 輝く様子が畳字で表現されていると考えられる。 以上、②では、彩りや輝きが、動きを伴って描かれてい
6 ることが分かる。 二ー二、影、停滞の描写 続 く ③ は﹁ 陰 夏 ﹂︵ 北 向 き の 建 物 ︶ の 描 写 で あ る。 前 掲 の①と②がほとんど四字句で構成されていたのに対し、③ では全五聯が六字句に揃えられており、六字句は三︱一︱ 二に分かれる構成になっている。竹治貞夫 ﹃楚辞研究﹄ は、 ﹃楚辞﹄の﹁叙述形式﹂を考察し、 ﹁三字の形状語﹂という 小節で、次のように述べる。 楚辞は多く句首に三言の要素を有し、その三言は通 常﹁ 1・ 2﹂の形に分析されるもので、その一言には しばしば一字の形状語が用いられ、その二言には頻繁 に重言 ・ 双声 ・ 畳韻の形状語が用いられる。この一言 ・ 二言に同時にこれらの形状語が用いられた場合に、い わゆる三字の形状語が発生するわけである。⋮楚辞体 を継承した漢賦には、三字の形状語が好んで用いられ ている。⋮漢代には右に挙げたごとく楚辞体の賦が多 く作られたが、一方司馬相如の子虛・上林賦を代表と する叙事詠物の新体が興り、楚辞の体を脱却して漢賦 の主流となっている。いま子虛・上林賦の句形を観る と、四言・三言の句を多く畳用して離騒型の長句を用 いること少なく、三字の形状語はほとんど見出すこと ができな い ︶24 ︵ 。 竹 治 氏 に よ れ ば、 ﹃ 楚 辞 ﹄ は 句 首 に 多 く 一 言 と 二 言 で 分 けられる三言の要素を有しており、その一言に一字の形状 語が、二言に重言・双声・畳韻の形状語が同時に用いられ た際に、三字の形状語が発生するという。そして、楚辞体 を 継 承 し た 漢 賦 に は、 三 字 の 形 状 語 が 好 ん で 用 い ら れ る。 一方で、 楚辞体を脱却した、 叙事詠物の新体である﹁子虛 ・ 上林賦﹂には三字の形状語はほとんど見出すことができな いという。 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ は﹁ 兮 ﹂ 字 を 用 い な い、 楚 辞 体 な ら ぬ 新 体の作品でありながら、一言と二言で構成される三字の形 状 語 が 随 所 に 確 認 さ れ る。 と く に 段 落 3の ③ に お い て は、 著しい。その点に注意しつつ③を見ていく。三字の形状語 には傍線を付す︵以下同じ︶ 。 ③隱陰夏以中處、 陰夏に隠れて以て中に處れば、 霐 寥 窲 以崢嶸。 霐 寥 窲 として以て崢嶸。 鴻 爌炾 以 爣閬 、 鴻 爌炾 として以て 爣閬 、 飋 蕭條 而清泠。 飋 蕭条として清泠なり。 動滴瀝以成響、 滴瀝を動かして以て響を成し、 殷雷應其若驚。 殷として雷のごとく応じて其れ 驚くが若し。 耳嘈嘈以失聽、 耳は嘈嘈として以て聴を失い、
7 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) 目 矎矎 而喪精。 目は 矎矎 として精を喪う。 駢密石與琅玕、 密石と琅玕とを駢べ、 齊玉璫與璧英。 玉璫と璧英とを齊しくす。 北向きの建物に隠れて中に居ると、 奥深く深遠である。 ゆったりとして明るく、すがすがしく涼しい。滴が垂 れて響けば、雷のように響いて驚かせるよう。耳はざ わざわとして聴力を失い、目はぎらぎらまぶしく視力 を失う。密石と琅玕石とを敷き並べ、玉と璧の美しい 色を揃える。 ③ は、 ﹁ 陰 夏 に 隠 れ て 以 て 中 に 處 れ ば ︶25 ︵ ﹂ か ら 始 ま る。 ② の冒頭は霊光殿の堂に見える赤い飾りや霊光殿の光の描写 に 始 ま る が、 ③ は﹁ 陰 夏 ﹂、 す な わ ち 北 向 き の 建 物 に 入 っ てからの霊光殿の様子である。 ③ の 二 句 目 は、 ﹁ 霐 寥 窲 と し て 以 て 崢 嶸 ﹂ で あ る。 李 善 はこの句に﹁幽深の貌﹂ ︵幽深之貌︶と注するだけである。 冒頭の﹁ 霐 寥 窲 ﹂の出典は不明であるが、 下二字の﹁崢嶸﹂ は﹃ 楚 辞 ﹄ 巻 六・ ﹁ 遠 遊 ﹂ に﹁ 下 は 崢 嶸 と し て 地 無 く、 上 は 寥 廓 と し て 天 無 し ﹂︵ 下 崢 嶸 而 無 地 兮、 上 寥 廓 而 無 天 ︶ と 見 え る 語 で、 王 逸 が﹁ 幽 墟 に 淪 む な り ﹂︵ 淪 幽 墟 也 ︶ と 注 す る。 ま た、 ﹁ 遠 遊 ﹂ の﹁ 寥 廓 ﹂ と い う 語 に は﹁ 寥 ﹂ の 字 が 見 え る の で、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ の﹁ 寥 窲 ﹂ も 奥 深 い さ ま を 表 し て い る と 考 え ら れ る。 ﹁ 霐 寥 窲 と し て 以 て 崢 嶸 ﹂ と いう句は、六字句全体で深遠なさまを表現していよう。 三句目は、 ﹁鴻 爌炾 として以て 爣閬 ﹂である。張載は、 ﹁鴻 は、 大なり。 爌炾 、 爣閬 、 皆な寛く明るきなり﹂ ︵鴻、 大也。 爌 炾 、 爣 朗、 皆 寛 明 也 ︶ と い う。 こ の 句 を 構 成 す る、 ﹁ 鴻 爌炾 ﹂、 ﹁ 爣閬 ﹂は、広く明るいさまを表す。この句は、六 字句全体で広大で明るいさまを表している。 四句目の ﹁ 飋 蕭条として清泠﹂ の ﹁ 飋 蕭條﹂ については、 李 善 は﹁ 飋 蕭 条 は、 清 涼 の 貌 ﹂︵ 飋 蕭 條、 清 涼 之 貌 ︶ と 三 字ひとまとめに注する。しかし、もともと﹁蕭條﹂は﹃楚 辞﹄巻六・ ﹁遠遊﹂に﹁山 蕭 条 として獣 無し﹂ ︵山蕭條 而無獸兮︶と出てくる独立した畳韻で、王逸注には﹁渓谷 寂寥として禽少なきなり﹂ ︵溪谷寂寥而少禽也︶ とある。 ﹃楚 辞 ﹄ と 王 逸 注 と を 踏 ま え れ ば、 ﹁ 蕭 條 ﹂ の 意 味 は﹁ 寂 寥 ﹂ に近い。 ﹁ 飋 ﹂は王延寿以前の用例が見当たらないが、 ﹁風﹂ 偏を用いており、 ﹃玉 篇 ︶26 ︵ ﹄巻二〇・ ﹁風部﹂には﹁ 飋 は、秋 風﹂ ︵ 飋 、秋風︶とある。 ﹁ 飋 蕭 条 として清泠﹂は、 ﹃楚辞﹄ 巻 二・ 宋 玉﹁ 九 辯 ﹂ の 冒 頭、 ﹁ 悲 し い 哉 秋 の 気 為 る や、 蕭 瑟 と し て 草 木 揺 落 し て 変 衰 す ﹂︵ 悲 哉 秋 之 爲 氣 也、 蕭 瑟 兮 草木揺落而變衰︶を思い起こさせる。また、竹治氏は三字 の 形 状 語 の 一 字 と 二 字 と の 関 係 を、 ﹁ 二 詞 が ほ ぼ 概 念 を 同 じくするもの﹂と﹁二詞が概念を異にして相補うもの﹂と の二種類に分け、前者を﹁即ち一言の形状語に、重言・双
8 声・畳韻より成る同類概念の形状語が接続し、その意義が 強調されているものである﹂とし、後者を﹁即ち一言・二 言の形状語が少しく概念を異にし、これを結合することに よ っ て そ の 意 義 を 複 雑 に し 豊 富 に す る も の で あ る ﹂ と す る ︶27 ︵ 。﹁ 飋 蕭條﹂について、 ﹁秋風﹂を意味する﹁ 飋 ﹂と﹁空 虚 ﹂ に 近 い﹁ 蕭 條 ﹂ と で は﹁ 少 し く 概 念 を 異 に ﹂ し、 ﹁ 意 義を複雑に﹂しているように見える。しかし、多様な印象 を 含 む で あ ろ う﹁ 飋 ﹂ と い う 語 の 直 下 が、 ﹁ 蕭 條 ﹂ と い う 寂しげなありさまを表す語になっていることで、 ﹁ 飋 ﹂と ﹁蕭 條 ﹂ と の 関 係 は、 ﹁ 意 義 を 限 定 す る も の ﹂ と 言 っ て も 差 し 支 え な い と 考 え ら れ る。 さ ら に、 ﹁ 飋 蕭 條 而 清 泠 ﹂ と い う 句は、 ﹁ 飋 蕭條﹂で浮かぶ秋風の寂しげなイメージを、 ﹁清 泠﹂という涼しい感覚に集約させる構成になっている。四 句目は、一句全体で寂しげな涼しさを表現していると言え よう。 この場が持つ静寂と空白は、明るさ、涼しさを導く。続 く 五、 六 句 で、 ﹁ 滴 瀝 を 動 か し て 以 て 響 を 成 し、 殷 と し て 雷のごとく応じて其れ驚くが若 し ︶28 ︵ ﹂と、水滴の音が雷の音 のように変化すると描かれる。七、八句に﹁耳 嘈嘈とし て 以 て 聴 を 失 い、 目 矎 矎 と し て 精 を 喪 う ︶29 ︵ ﹂ と あ る の は、 こ の 場 所 が が ら ん と し た 空 虚 さ を 持 っ て い る か ら で あ ろ う 。 以上をまとめれば、 ﹁陰夏﹂の中は、 奥深く、 広く明るく、 が ら ん と し て 涼 し い。 ﹁ 霐 寥 窲 ﹂﹁ 鴻 爌 炾 ﹂﹁ 飋 蕭 條 ﹂ と、 三句にわたって三字の形状語を用いている。そして最後の ﹁ 飋 蕭條﹂を、 ﹁而﹂で繋ぐ直後の﹁清泠﹂で、含意をさら に限定する。 ③末聯の﹁密石と琅玕とを駢べ、玉璫と璧英とを齊しく す ︶30 ︵ ﹂は、宝石の描写である。直前の句で﹁ 矎矎 として精を 喪 ﹂ っ た 目 に、 輝 く 宝 石 が 見 え て く る。 ﹁ 密 石 ﹂ は き め の 細かい飾りとなる石、 ﹁琅玕﹂は真珠に似た石である。 ﹁玉 璫﹂は、李善の引く﹃文選﹄巻一 ・ 班固︵三二∼九二︶ ﹁西 都 賦 ﹂ に﹁ 金 璧 を 裁 ち て 以 て 璫 を 飾 る ﹂︵ 裁 金 璧 以 飾 璫 ︶ とあり、 その注に﹃文選﹄巻八 ・ 司馬相如﹁上林賦﹂の﹁華 榱璧璫﹂と、 その韋昭︵三世紀︶注﹁金を裁ちて璧と為し、 以 て 榱 頭 に 当 つ ﹂︵ 裁 金 爲 璧、 以 當 榱 頭 ︶ が 引 か れ る。 こ れらによれば、 ﹁玉璫﹂とは、 玉で飾られた垂木の頭である。 続く﹁璧英﹂は、 李善の引く﹃孝経援神契﹄には﹁玉英は、 玉に英華の色有り﹂ ︵玉英、 玉有英華之色︶とある。 ﹁璧英﹂ は、璧の美しい色合いであろう。霊光殿の随所が美しい石 で飾られていることが分かる。 以上、③では、空間的な広さと、空間に充満する明るさ および清涼感、雷のように轟音に聞こえる水滴の響きが描 写され、 耳や目が感覚を失うほど刺激されると表現される。 また、随所が美しい宝石で飾られていることが描かれてい
9 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) た。 ④ か ら は、 ﹁ 金 扉 ﹂ を 開 い て 北 に 入 っ て い く。 こ の 段 に も三字の形状語が用いられている。三字の形状語には、③ と同じく傍線を付す。 ④遂排金扉而北入、 遂に金扉を排きて北に入り、 霄靄靄 而 晻 曖。 霄靄靄として 晻 曖たり。 旋室 㛹 娟以窈窕、 旋室 㛹 娟として以て窈窕、 洞房叫 窱 而幽邃。 洞房 叫 窱 として幽邃なり。 西廂踟 躕 以閑宴、 西廂 踟 躕 として以て閑宴、 東序重深而奧祕。 東序 重深にして奧秘なり。 屹鏗瞑 以勿罔、 屹鏗瞑として以て勿罔、 屑黶翳 以懿濞。 屑黶翳として以て懿濞たり。 魂悚悚其驚斯、 魂 悚悚として其れ斯に驚き、 心 𤟧𤟧 而發悸。 心 𤟧𤟧 として悸を発す。 そのまま金の扉を開いて北に入ると、暗く霞んで薄暗 い。曲がった部屋は伸び続いて奥深く、奥まった部屋 は幽邃である。西の脇部屋は互いに連なってひっそり と安らかで、東の脇部屋は深くうかがい知れない。高 大でぼんやりしてはっきりせず、薄暗く静まり返って いる。魂はぞくぞくとおののき、心はどきどきと動悸 がする。 ﹁ 遂 に 金 扉 を 排 き て 北 に 入 ﹂ る と、 ﹁ 霄 靄 靄 と し て 晻 曖 ﹂ としている。この句に張載は﹁深 䆳 を言うなり。霄は、冥 なり﹂ ︵言深 䆳 也。霄、 冥也︶と注する。 ﹁霄靄靄﹂の﹁霄﹂ について、 ﹃説文解字﹄ 巻一一下には ﹁霰 雨 ふ るは霄為り﹂ ︵雨 霰 爲 霄 ︶ と あ る。 あ ら れ の 降 る こ と を 指 す。 ﹁ 靄 ﹂ に つ い て詳しいことはわからない が ︶31 ︵ 、五臣の張銑注に﹁靄靄、 晻 曖は、 暝 くら き色﹂ ︵靄靄、 晻 曖、暝色︶とある。 ﹁ 晻 曖﹂につ いては、 ﹃玉篇﹄巻二〇 ・﹁曖﹂に﹁ 晻 曖は、 暗き貌﹂ ︵ 晻 曖、 暗貌︶とある。これらのことから、④の二句目は、一句全 体で暗いさまを表していると判断される。 続 い て﹁ 旋 室 ﹂﹁ 洞 房 ﹂﹁ 西 廂 ﹂﹁ 東 序 ﹂ の 様 子 が そ れ ぞ れ 描 か れ る。 ﹁ 旋 室 㛹 娟 と し て 以 て 窈 窕、 洞 房 叫 窱 と し て 幽邃な り ︶32 ︵ ﹂は、曲がった部屋はぐるぐるとして奥深く、奥 ま っ た 部 屋 は 幽 邃 で あ る。 ﹁ 西 廂 踟 躕 と し て 以 て 閑 宴、 東 序重深にして奧秘な り ︶33 ︵ ﹂は、西の部屋は連なってひっそり と安らかで、東の部屋は深く隠れている。 ④ の 七、 八 句 目 は 前 六 句 を ま と め て、 ﹁ 屹 鏗 瞑 と し て 以 て勿罔、屑黶翳として以て懿濞たり﹂と形容する。この聯 に、張載は﹁寂寞の 形 さま なり﹂ ︵寂寞之形也︶と注する。 ﹁屹鏗瞑として以て勿罔﹂ の ﹁屹鏗瞑﹂ について、 ﹁屹﹂ は、 本賦の段落 2に﹁屹として山のごとく峙ち以て紆鬱、隆崛 岉 として青雲なり﹂ ︵屹山峙以紆鬱、 隆崛 岉 乎青雲︶ とある。 そ の 張 載 注 に﹁ 屹 は、 猶 お 孽 の ご と し。 高 大 の 貌 ﹂︵ 屹、
10 猶 孽 。高大貌︶という。 ﹁鏗瞑﹂の下字﹁瞑﹂は、 ﹃説文解 字 ﹄ 巻 四 上 に﹁ 目 を 翕 す な り ﹂︵ 翕 目 也 ︶ と あ り、 眼 を 閉 じることである。 ﹁勿罔﹂は、張載によれば、 ﹁審びらかな ら ざ る 貌 ﹂︵ 不 審 貌 ︶ で あ る。 ④ の 七 句 目 で は、 高 大 な 中 で目を閉じたような暗さが表現されている。 ﹁ 屑 黶 翳 と し て 以 て 懿 濞 な り ﹂ の﹁ 屑 黶 翳 ﹂ に つ い て、 五 臣 は、 ﹁ 屑 ﹂ に﹁ 微 か な り ﹂︵ 微 也 ︶ と 注 し、 ﹁ 黶 翳 ﹂ に は﹁ 暗 蔽 の 貌 ﹂︵ 暗 蔽 貌 ︶ と 注 す る。 ﹁ 黶 ﹂ は﹃ 説 文 解 字 ﹄ 巻十上に﹁中黒なり﹂ ︵中黑也︶とある。 ﹁翳﹂は﹃説文解 字 ﹄ 巻 四 上 に よ る と﹁ 華 蓋 ﹂ で あ る。 ﹁ 屑 黶 翳 ﹂ は、 華 蓋 の中にいるように、 薄暗いさまを表していると考えられる。 ﹁懿濞﹂には、五臣は﹁深 䆳 の貌﹂ ︵深 䆳 貌︶と注する。④ の八句目は、奥深く薄暗いさまを表していよう。 目を閉じたような暗さ、奥深く薄暗いさまは、前掲した 張載のいうように、 ﹁寂寞﹂を体感させるであろう。 以上、④では﹁遂に金扉を排きて北に入﹂って以降の暗 さが描かれ、 その暗さによって魂や心が驚くと表現される。 三 字 の 形 状 語 は、 金 扉 を 開 い た 最 初 の 印 象 と し て、 ﹁ 霄 靄靄﹂とあられの降る暗い様子に使用される。さらに、 ﹁旋 室 ﹂﹁ 洞 房 ﹂﹁ 西 廂 ﹂﹁ 東 序 ﹂ の 印 象 を ま と め て﹁ 屹 鏗 瞑 ﹂ すなわち高大な中で目を閉じたように暗いさま、 ﹁屑黶翳﹂ すなわち華蓋の陰にいるように薄暗いさまを表すのに用い られる。 ﹁屹鏗瞑として以て勿罔﹂ ﹁屑黶翳として以て懿濞 たり﹂と二句に渡って暗いさまが展開される。それゆえ④ は﹁魂は悚悚として其れ斯に驚き、心は 𤟧𤟧 として悸を発 す ︶34 ︵ ﹂と結ばれる。光や音が目や耳といった感覚器を刺激す るのに対し、暗さと静けさは、魂や心をおそれさせるもの として表現されている。 以 上 の よ う に、 段 落 3で は、 ② の 躍 動 的 な 光 の 描 写 と、 ③以降の空虚で静かな空間に響く音や光の描写、④の暗く ひっそりとした空間の描写が連続することによって、対比 の効果が生じ、明暗 ・ 騒静それぞれの描写が際立っている。 そして、その対比が三字の形状語や三字の形状語を冒頭に 持つ六字句に支えられている点に注目すべきであろう。 その三字の形状語を冒頭に持つ六字句は、 ③にあった ﹁ 飋 蕭条として清泠﹂のように、上三字と下二字とが類似する 概念を表すことが分かった。 第三章では、三字の形状語の効果について考察を加えた い。 三、三字の形状語について まず、 ﹁魯霊光殿賦﹂ 本文に見える三字の形状語の用例を、 段落ごとに挙げ、その特徴を整理してみよう。便宜上、イ
11 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) からレまでの記号を付す。 ︻段落 2︼霊光殿全体の姿 イ. 洞 轇轕 乎 洞 轇轕 たるかな︵深遠であることよ︶ ロ. 隆崛 岉 乎青雲 隆崛 岉 として青雲なり︵高く大きいこ とは青雲︹に届くよ う ︶35 ︵ ︺︶ ハ . 鬱 坱圠 以嶒峵 鬱 坱圠 として以て嶒峵︵こんもりと果 てしなく深く広 い ︶36 ︵ ︶ ニ. 崱 繒綾 而龍鱗 崱 繒綾として龍鱗なり︵大きくぎざぎ ざとして龍の鱗︹のよ う ︶37 ︵ ︺︶ ホ. 汨磑磑 以璀璨 汨磑磑として以て璀璨︵清らかに高く ︹多くの材の飾りの玉が︺輝 く ︶38 ︵ ︶ ヘ . 赫 燡燡 而 爥 坤 赫 燡燡 として坤を 爥 らす︵きらきらと して地上を照ら す ︶39 ︵ ︶ ︻段落 3︼前殿、建物内部 ト. 霐 寥 窲 以崢嶸 霐 寥 窲 として以て崢嶸︵奥深く深遠で ある︶ チ . 鴻 爌炾 以 爣 閬 鴻 爌炾 として以て 爣 閬 ︵ゆったりとし て明るい︶ リ. 飋 蕭條 而清泠 飋 蕭条として清泠なり︵すがすがしく 涼しい︶ ヌ. 霄靄靄 而 晻 曖 霄靄靄として 晻 曖たり︵暗く霞んで薄 暗い︶ ル. 屹鏗瞑 以勿罔 屹鏗瞑として以て勿罔︵高大でぼんや りしてはっきりしない︶ ヲ. 屑黶翳 以懿濞 屑黶翳として以て懿濞たり︵薄暗く奥 深い︶ ︻段落 4︼建物の構造 ワ. 漂嶢 𡸣 而枝拄 漂嶢 𡸣 として枝拄す︵軽く不安定に屋 根を支え る ︶40 ︵ ︶ カ. 揭 蘧蘧 而騰湊 揭 蘧蘧 として騰湊す︵高く上がったと ころで集まってい る ︶41 ︵ ︶ ︻段落 5︼彫刻 ヨ. 𪃨 顤顟 而睽 睢 𪃨 顤顟 として睽睢す︵大きい頭でくぼ んだ目をして見張ってい る ︶42 ︵ ︶ タ. 憯 嚬蹙 而含悴 憯 嚬蹙として悴を含む︵憂えた様子で 悩みを含んでい る ︶43 ︵ ︶ レ. 忽 瞟 眇 以響像 忽 瞟 眇として以て響像︵ぼんやりとし て実体がな い ︶44 ︵ ︶ 段 落 2の イ .﹁ 洞 轇 轕 ﹂ が 四 字 句 の 冒 頭 に 配 置 さ れ る の を例外として、三字の形状語は六字句の冒頭に用いられて いることがわかる。 三字の形状語には、次のような特徴が見られる。 I 連 続 し て 一 つ の も の の 描 写 に 用 い ら れ る こ と が 多 い。 ︵イ∼へ、ト∼ヲ︶
12 II 何らかの動作の後や、描く対象物を明示した後、目に 入 っ た も の の 印 象 を の べ た り、 ま と め た り す る に あ たって最初に用いられることがある。 ︵ト、 ヌ、 ワ、 カ︶ III 高い場所、 不安定な場所を形容する場面に用いられる。 ︵ロ、ホ、ル、ワ、カ︶ IV 胡人の像の悲しげな表情描写に用いられる。 ︵ヨ、タ︶ V 神仙、玉女の像の不明瞭な様子に用いられる。 ︵レ︶ VI 明るい描写にほとんど用いられない。奧深い様子、暗 い様子、 がらんとした様子、 涼しげな様子、 ぼんやり、 ひっそりとしている様子に用いられている。 ︵イ、ハ、 ト、 チ ︶45 ︵ 、リ、ヌ、ル、ヲ︶ 三字の形状語の効果として、まず考えられるのは、強調 効果である。二字の形状語に比べて視覚的にも聴覚的にも 異色の三字の形状語は、一定の強調効果を生んでいると考 えられる。また三字の形状語は、 Iのように集中して用い られ、 IIのように初めの印象やまとめの部分に使われるこ とが多い。よって、読み手に何らかの印象を与える場所に 置かれ、効果を狙って意図的に配置されていると考えられ る。したがって、 三字の形状語が用いられている、 IIIの﹁高 い 場 所、 不 安 定 な 場 所 ﹂、 IVの﹁ 胡 人 の 像 の 悲 し げ な 表 情 描写﹂ 、 Vの﹁神仙、玉女の像の不明瞭な様子﹂ 、 VIの﹁奧 深 い 様 子、 暗 い 様 子、 が ら ん と し た 様 子、 涼 し げ な 様 子、 ぼ ん や り、 ひ っ そ り と し て い る 様 子 ﹂ が、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ において強調されている部分である、と考察できよう。 竹 治 氏 は、 ﹁ 屈 原 お よ び そ の 後 継 者 の 作 品︵ 漢 代 作 家 の も の を 除 く ︶﹂ に 見 ら れ る 三 字 の 形 状 語 を 挙 げ、 次 の よ う に総括する。 つまりその語彙の大部分は、悲憤憂愁の感情とその 感情を一層かきたてる遙遠、紛擾の景況を表現したも のであ る ︶46 ︵ 。 た し か に、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ の 用 例 を 取 っ て み て も、 三 字 の形状語は暗い描写や寂しい描写、悲しげな描写に用いら れ る こ と が 多 い。 し か し、 竹 治 氏 自 身 も、 ﹁ そ の 語 彙 の 大 部分は﹂と述べて例外を示唆するように、例えば ヘ に﹁ 赫 燡燡 而 爥 坤﹂ ︵きらきらとして地上を照らす︶とある。 ﹁赫 燡 燡 ﹂ は、 ﹁ 悲 憤 憂 愁 の 感 情 ﹂、 ﹁ 遙 遠、 紛 擾 の 景 況 ﹂ と は 結びつきがたいかもしれない。しかし﹁赫 燡燡 として坤を 爥 ら す ﹂ は、 段 落 2の 霊 光 殿 全 体 を 描 い た く だ り に あ り、 次聯には﹁状は積石の鏘鏘たるが若く、又た帝室の威神に 似 る ﹂︵ 狀 若 積 石 之 鏘 鏘、 又 似 乎 帝 室 之 威 神 ︶ と あ る。 殿 が高々と、天帝の居処のように地上を照らすとい う ︶47 ︵ 。この 時の視点は地上にあり、地上から見た霊光殿がはるか高み に 輝 い て い る こ と が 表 現 さ れ て い る。 そ の 輝 き の﹁ 遙 遠 ﹂ さが、三字の形状語によって表されていると考えられる。
13 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) ﹁ 高 さ ﹂﹁ 遙 遠 さ ﹂﹁ 暗 さ ﹂﹁ 奥 深 さ ﹂﹁ 静 寂 さ ﹂ が、 三 字 の形状語によって表されるのはなぜか。その一因に、三字 の形状語がリズムに停滞感を帯びていることが挙げられる のではないか。 吉川幸次郎氏は次のようにいう。 単綴語である中国語の詩は、二字の連語を一塊のも のとして発音し、それを純粋に一音の単語と交錯させ ることによって、リズムを成してい る ︶48 ︵ 。 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ に お け る 三 字 の 形 状 語 は、 ほ と ん ど が 次 の ような句型の冒頭に存在する。 ●●●△ ☓☓ ﹁●●●﹂が三字の形状語であり、 ﹁△﹂は助辞、 ﹁ ☓☓ ﹂ は二字の連語を為す。例えば十一頁に例を挙げた、 リの ﹁ 飋 蕭条として清泠なり﹂ ︵ 飋 蕭條而清泠︶という句は、 ﹁ 飋 蕭 條﹂が三字の形状語、 ﹁而﹂が助辞、 ﹁清泠﹂が二字の連語 で あ る。 吉 川 氏 の い う よ う に、 ﹁ 二 字 の 連 語 を 一 塊 の も の として発音﹂するのであれば、一字の形状語と二字の形状 語で構成される三字の形状語﹁ 飋 蕭條﹂においては、冒頭 一字﹁ 飋 ﹂の直後、または三字の形状語﹁ 飋 蕭條﹂の直後 に、一音分の休拍︵ ﹁ 間 ま ﹂︶が生じる。また、かりに一音の 休拍を設けなくとも、四字の語を置きうるところを三字を もって充足させようとすれば、一音一音がゆったりとした 調子を帯びる。それが、リズムだけでなく、読み手の意識 の停滞感へと繋がっているのではないか。 そ し て、 助 字 を 挟 ん だ 下 二 字﹁ ☓ ☓ ﹂、 直 前 の 例 で い え ば﹁清泠﹂は、二字ゆえに安定したリズムを持つ。その対 比によって、上部三字﹁ 飋 蕭條﹂が不安定なものとして際 立つ。 竹治氏は、本文二︱二に引用した文﹁いま子虛・上林賦 の句形を観ると、⋮三字の形状語はほとんど見出すことが できない﹂に、次のように付注する。 子虛・上林の賦には既に述べたように三言句が多く 含まれているけれども、これらの三言句を三字の形状 語で塡めた例は見えない。三字の形状語は、要するに 三字を以て一の形状概念しか表せないので、表現経済 の上から短句には不向きであり、また三字句の畳用は 活潑流動のリズムを生ずるので、戦陣や田獵のごとき 動的な事がらの叙述に適用されるためであろ う ︶49 ︵ 。 注意すべきは、 竹治氏が右にいう﹁三字句の畳用﹂とは、 例えば﹃文選﹄巻八・司馬相如﹁上林賦﹂の天子の狩猟場 面に、 ﹁白鹿を 䡺 り、 狡兎を捷る。赤電を軼ぎ、 光耀を遺し、 怪物を追い、宇宙を出づ。 ﹂︵ 䡺 白鹿、捷狡兎。軼赤電、遺 光 耀、 追 怪 物、 出 宇 宙。 ︶ と あ る よ う に、 ﹁ 動 的 な 事 が ら ﹂ を﹁活潑流動のリズム﹂を持つ﹁三字句﹂を以て表現する
14 く だ り を 指 し て い る の で あ り、 ﹁ 三 字 の 形 状 語 ﹂ と は 明 確 に 異 な る こ と で あ る。 ﹁ 動 的 な 事 が ら ﹂ を 叙 述 す る の に 三 字句が用いられる一方、 ﹁三字の形状語﹂は、 ﹁魯霊光殿賦﹂ においては静かなものや空虚な雰囲気を描写するのに用い られている。 吉 川 幸 次 郎 氏 は、 俳 句 の 切 れ 字 等 に 言 及 し、 ﹁ 言 葉 の 流 れは、 そこに至って、 夷猶し、 停滞し、 中断し、 中断によっ て、その感情を蒸溜し、拡大する﹂とい う ︶50 ︵ 。三字の形状語 のリズムが持つ停滞感によって、 読み手は一瞬立ち止まり、 三 字 の 印 象 を﹁ 蒸 溜 ﹂ し、 ﹁ 拡 大 ﹂ す る ︶51 ︵ 。 そ し て、 た と え 明るい描写であっても、読み手は、どこか寂しげに感じた り、 恍 惚 と し た 心 情 を 催 し た り す る。 そ の こ と に よ っ て、 竹治氏のいう﹁悲憤憂愁の感情とその感情を一層かきたて る遙遠、紛擾の景況﹂が醸し出されるのではないか。 従来の京都・宮殿賦は、三字の形状語をほとんど用いな い ︶52 ︵ 。﹁魯霊光殿賦﹂は、効果的に、 ﹃楚辞﹄に見える三字の 形状語を用いていると言ってよいのではないだろうか。 四、三字の形状語を含む六字句について 停滞を生み出すもう一つの鍵は、三字の形状語が用いら れている六字句にもあると考え る ︶53 ︵ 。第三章ですでに指摘し た よ う に、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ に お い て、 三 字 の 形 状 語 を 含 む イ∼ レ の 全 十 七 例 中、 イ を 除 く 十 六 例 は 六 字 句 で あ っ た。 さらに、その構成は﹁●●●△ ☓☓ ﹂となっている。 第二章で分析したように、特に段落 3においては、三字 の形状語を持つト∼ヲの六例は、全て下二字﹁ ☓☓ ﹂も形 状語であり、三字の形状語である上三字﹁●●●﹂と近い 概 念 を 表 し て い る。 そ の よ う な 構 成 に な っ て い る こ と で、 結果的に、一句全体を使って一つの﹁形状概念﹂を表すこ ととなる。 例えば、一一頁に例を挙げた段落 3のト﹁ 霐 寥 窲 として 以て崢嶸﹂ ︵ 霐 寥 窲 以崢嶸︶ という句は、 主語や述語がなく、 ﹁ 霐 寥 窲 ﹂﹁ 崢 嶸 ﹂ と い う 形 状 語 と、 ﹁ 以 ﹂ と い う 助 辞 だ け で 綴 ら れ、 六 字 全 体 を 使 っ て 深 遠 な さ ま を 表 現 し て い る。 李 善 が﹁ 幽 深 の 貌 ﹂︵ 幽 深 之 貌 ︶ と 六 字 全 体 に 注 を し て い るのは、その証左と言えよう。 六字全体を使って一つの形状概念を表す句は、その句自 体が停滞感を醸し出すと考える。それは、竹治氏が述べる ﹁三字句の畳用﹂と比較すると分かりやすい。 竹 治 貞 夫 氏 は、 ﹁ 三 字 句 の 畳 用 は 活 潑 流 動 の リ ズ ム を 生 ず る ︶54 ︵ ﹂という。三字句が﹁活潑流動﹂のリズムを持ち、段 落 2の六字句が停滞するのは、句の構成要素と、文字数の 差によると推測される。句の構成要素というのは、たとえ
15 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) ば、 ﹃文選﹄ 巻八 ・ 司馬相如 ﹁上林賦﹂ の天子の狩猟場面 ﹁白 鹿を 䡺 り、 狡兎を捷る。 ﹂︵ 䡺 白鹿、 捷狡兎。 ︶という聯には、 六 字 の 中 に﹁ 白 鹿 ﹂ を﹁ 䡺 ﹂ り、 ﹁ 狡 兎 ﹂ を﹁ 捷 ﹂ る と い う情報、つまり現在の語で言えば動詞と目的語が含まれて い る。 さ ら に、 場 面 は 三 字 ご と に 切 り 替 わ る。 他 方、 ﹁ 魯 霊光殿賦﹂における段落 3のト∼ヲは、みな﹁●●●﹂と ﹁ ☓☓ ﹂が近い概念であり、 どちらも形状語である。さらに、 ﹁ ● ● ● ﹂ か ら﹁ ☓ ☓ ﹂ に か け て 場 面 は 切 り 替 わ ら ず、 継 続する。 例に挙げた司馬相如﹁上林賦﹂における三字句は、一句 が 動 詞 と 目 的 語 で 構 成 さ れ、 躍 動 感 を 生 み 出 す。 ﹁ 魯 霊 光 殿賦﹂の段落 3の六字句は、一句が形状語だけでまとめら れ、それゆえに停滞感を生み出す。 ま た、 先 に も 挙 げ た が、 竹 治 氏 は、 ﹁ 子 虛・ 上 林 の 賦 に は 既 に 述 べ た よ う に 三 言 句 が 多 く 含 ま れ て い る け れ ど も、 これらの三言句を三字の形状語で塡めた例は見えない。三 字の形状語は、要するに三字を以て一の形状概念しか表せ ないので、表現経済の上から短句には不向きであり﹂と述 べる。竹治氏のいうように、 ﹁子虛・上林の賦には︵中略︶ 三言句を三字の形状語で塡めた例﹂が見えないことに、 ﹁表 現経済﹂の問題が関わっているのであれば、 ﹁魯霊光殿賦﹂ において、六字を費やして一つの概念を表そうとする六字 句は、はなはだ不経済である。三字を費やして一つの概念 を 表 し た 上 に、 更 に 近 い 概 念 の 二 字 を 下 に 付 け 加 え れ ば、 六字を以て﹁一の形状概念﹂しか表せないからである。し か し、 あ え て そ う す る こ と で、 少 な い 情 報 が 複 雑 化 さ れ、 または限定して引き延ばされ、そこに停滞感が生まれる。 ひっそりしたもの、暗いものを表現するのに、三字の形 状語を含む六字句を用いることで、停滞感が生じ、その静 寂や、暗さがより強調される。段落 3の②のような躍動的 な表現は、③④に用いられた停滞感をもたらす手法との対 比によってこそ、際立つのではないか。 五、おわりに ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ の 宮 殿 描 写 は、 躍 動 と 停 滞 と を 対 比 す る ことでそれぞれの印象を深くしている。 第二章では、段落 3を例に、躍動表現と停滞表現を具体 的に考察した。たとえば、月のように輝き、稲妻のように きらめき、水のようにしたたり、蛍のように飛び交う光の 描写が躍動表現である。 他方、 ﹁陰夏﹂以降のがらんとした描写や、 ﹁金扉﹂以降 の 暗 く ひ っ そ り し た 描 写 は、 一 種 の 停 滞 表 現 と 言 え よ う。 ﹁陰夏﹂ の静寂によって、 前段の明るく動的な描写が際立つ。
16 第三章では、停滞の一因が、三字の形状語であると論じ た。三字の形状語は、文のリズムを変化させる。その変化 は、声に出して読んだ時のリズムを停滞させ、余韻を持た せ る 変 化 で あ り、 ﹁ 上 林 賦 ﹂ に 見 ら れ る よ う な﹁ 活 潑 流 動 のリズム﹂を持つ三字句と比較して、流れを滞らせる変化 である。 第四章では、三字の形状語を含む六字句が、六字を費や して一つの概念を表すことで、特定の対象に対する描写を 引き延ばして、一種の停滞感を醸し出すことを論じた。 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ で は、 従 来 の 京 都・ 宮 殿 賦 に は 稀 な 三 字 の形状語を効果的に用いることによって、躍動と停滞の絶 妙な対比が生まれている。三字の形状語は、 ﹁魯霊光殿賦﹂ における、注目すべき特徴と言えよう。 そうであるとすれば、第一章に挙げた﹃文心雕龍﹄詮賦 の﹁飛動の勢を含む﹂という評価は、 躍動表現だけでなく、 停滞表現をも含めてなされたのではなかろうか。今回取り 上 げ る こ と の で き な か っ た 段 落 の 考 察 や、 ﹁ 飛 動 の 勢 ︶55 ︵ ﹂ の 概念規定の問題については、稿を改めて論じたい。 注 ︵ 1︶ 王 延 寿 の 伝 記 は、 ﹃ 後 漢 書 ﹄ 文 苑 伝 上・ 王 逸 伝 に﹁ 王 逸 字 叔 師、 南 郡 宜 城 人 也。 ⋮ 子 延 壽、 字 文 考、 有 儁 才。 少 遊 魯國、 作靈光殿賦。後蔡邕亦造此賦、 未成、 及見延壽所爲、 甚竒之、 遂輟翰而已。曾有異夢、 意惡之、 乃作夢賦以自厲。 後 溺 水 死。 時 年 二 十 餘 ﹂ と あ る︵ ﹃ 後 漢 書 ﹄︵ 中 華 書 局、 一 九 七 九 年 ︶︶ 。 ま た、 ﹃ 博 物 志 ﹄ 文 籍 考 に は﹁ 靈 光 殿 賦、 南 郡 宜 城 王 子 山 所 作。 子 山 嘗 之 泰 山、 從 鮑 子 眞 學 算、 過 魯 國 而 覩 殿 賦 之。 還 歸 本 州、 溺 死 湘 水。 時 年 二 十 餘 也 ﹂ と あ る ︵﹃ 博 物 志 校 証 ﹄︵ 中 華 書 局、 一 九 八 〇 年 ︶︶ 。 な お、 ﹁ 覩 ﹂ の 原文は﹁都﹂だが、 注には﹁案﹃都﹄ 、 士禮居刊本作﹃覩﹄ 、 是 也 ﹂ と あ る の で、 こ れ に 拠 っ て 改 め た。 ﹁ 子 山 ﹂ に つ い ては、 ﹃後漢書﹄の李賢注に﹁文考一字子山也﹂とある。 ︵ 2︶ 厳 可 均﹃ 全 上 古 三 代 秦 漢 三 国 六 朝 文 ﹄︵ 中 華 書 局、 一 九 五八年︶ 。 ︵ 3︶ ﹁魯霊光殿賦﹂ の底本および ﹃文選﹄ の引用は、 李善注 ﹃文 選﹄ ︵上海古籍出版社、 一九八六年︶を用い、 尤袤刻本﹃文 選 ﹄︵ 国 家 図 書 館 出 版 社、 二 〇 一 七 年 ︶、 足 利 学 校 秘 籍 叢 刊 ﹃文選﹄ ︵汲古書院、一九七四年︶を参照する。 ︵ 4︶ 王 延 寿 の 自 序 に よ れ ば、 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ は、 前 漢 と 後 漢 の 間 の 争 乱 中、 多 く の 宮 殿 が 破 壊 さ れ た 中 で、 た だ ひ と つ 残った霊光殿を詠んだものである。 序は以下の通りである。 ﹁ 魯 靈 光 殿 者、 蓋 景 帝 程 姫 之 子 恭 王 餘 之 所 立 也。 初 恭 王 始 都 下 國、 好 治 宮 室、 遂 因 魯 僖 基 兆 而 營 焉。 遭 漢 中 微、 盜 賊 奔 突、 自 西 京 未 央 建 章 之 殿、 皆 見 墮 壞、 而 靈 光 巋 然 獨 存。 意 者 豈 非 神 明 依 憑 支 持、 以 保 漢 室 者 也。 然 其 規 矩 制 度、 上 應 星 宿、 亦 所 以 永 安 也。 予 客 自 南 鄙、 觀 蓺 於 魯、 覩 斯 而 眙 曰、 嗟 乎 詩 人 之 興、 感 物 而 作。 故 奚 斯 頌 僖、 歌 其 路 寢、 而
17 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) 功績存乎辭、 德音昭乎聲。物以賦顯、 事以頌宣、 匪賦匪頌、 將何述焉。遂作賦曰﹂ 。 ︵ 5︶ ﹃文心雕龍校注︵上︶ ﹄︵中華書局、二〇〇〇年︶ 。 ︵ 6︶ この評価を、 興膳宏氏は ﹁王延寿の ﹃魯の霊光殿の賦﹄ は、 今 に も 動 き だ さ ん ば か り の 気 勢 を は ら ん で い る ﹂︵ 一 海 知 義・ 興 膳 宏﹃ 陶 淵 明 文 心 雕 龍 ﹄、 筑 摩 書 房、 一 九 六 八 年 ︶ と訳し、 戸田浩曉氏は﹁延寿︵王文考︶の︿霊光殿賦﹀は、 飛 動 す る よ う な 勢 い を も っ て い る ﹂︵ 戸 田 浩 曉﹃ 文 心 雕 龍 上 ﹄、 明 治 書 院、 一 九 七 四 年 ︶ と 訳 し、 目 加 田 誠 氏 は﹁ 王 延 寿︵ 文 考 ︶ の﹁ 霊 光 殿 の 賦 ﹂ は 建 築 の 美 を 描 い て、 さ な がら飛動せんばかりの勢いがある﹂ ︵目加田誠 ﹃文心雕龍﹄ 、 龍溪書舎、一九八六年︶と訳す。 ︵ 7︶ ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ の 専 論 は 次 の と お り︵ 以 下、 簡 体 字 や 繁 体字の論文名、 書名は、 日本の新字体に統一して表記する︶ 。 劉 昆 庸﹁ 禀 才 瑰 穎、 体 含 飛 動 ︱ 論 王 延 寿 賦 ﹂︵ ﹃ 文 史 哲 ﹄、 二 〇 〇 〇 年 第 一 期 ︶、 呉 従 祥﹁ 論 王 延 寿︽ 魯 霊 光 殿 賦 ︾ 的 芸 術 創 新 性 ﹂︵ ﹃ 唐 都 学 刊 ﹄、 二 〇 〇 五 年 第 四 期 ︶、 黄 舜 彬﹁ 宮 殿 与 歴 史 ﹁ 魯 霊 光 殿 賦 ﹂ 与﹁ 阿 房 宮 賦 ﹂ 比 較 研 究 ﹂ ︵﹃ 人 文 社 会 学 報 ﹄、 二 〇 〇 八 年 ︶、 高 莉 芬﹁ 図 写 神 聖 王 延 寿 ﹁魯霊光殿賦﹂ 与辞賦宮殿書写的転変﹂ ︵﹃南京大学学報﹄ 、 二 〇 一 二 年 第 九 期 ︶、 孫 少 華﹁ 由﹁ 諷 上 ﹂ 至﹁ 頌 徳 ﹂ ︱ 以︽ 魯 霊 光 殿 賦 ︾ 為 例 論 漢 賦 文 学 功 能 的 変 化 ﹂︵ ﹃ 湖 北 大 学 学報﹄ 、二〇一七年 第五期︶ 。 ︵ 8︶ 竹 治 貞 夫﹃ 楚 辞 研 究 ﹄︵ 風 間 書 房、 一 九 七 八 年 ︶ は、 第 四 章 第 四 節﹁ 三 字 の 形 状 語 の 発 生 ﹂︵ 五 七 四 頁∼ 五 八 六 頁 ︶ など、 随所で三字の形状語に着目している。 ﹁三字の形状語﹂ に つ い て の 初 出 は﹁ 三 字 の 形 状 語 ﹂︵ ﹃ 支 那 学 研 究 ﹄ 二 八、 一九六二年︶ 。 ︵ 9︶ 竹治氏前掲書、七〇七∼七二九頁。 ︵ 10︶ 換 韻 は、 于 安 瀾﹃ 漢 魏 六 朝 韵 譜 ﹄︵ 河 南 人 民 出 版 社、 一 九八九年︶を参考にした。 ︵ 11︶ 分 析 時 の 本 文 に は、 ﹃ 文 選 ﹄ の 李 善︵ 七 世 紀 ︶ 注 と 李 善 注 の 引 く 張 載︵ 三 世 紀∼ 四 世 紀 ︶ 注、 ま た 張 載 注 や 李 善 注 が な い 箇 所 は、 場 合 に よ っ て 五 臣 注︵ 七 一 八 年 ︶ を 注 記 す る。実際は、 底本では李善注には﹁善曰﹂の表記があるが、 張 載 注 に は﹁ 載 曰 ﹂ の 表 記 が な い。 し か し 便 宜 上、 以 下 の 注 で は 張 載 注 は﹁ 載 曰 ﹂ と し、 李 善 注 は﹁ 善 曰 ﹂ と し て 挙 げる。五臣注は足利本による。 ︵ 12︶ 載曰、 造其堂、 觀其狀而賦之。善曰、 孔安國尚書傳曰、 造、 至也。 ︵ 13︶ ﹃荘子集釈﹄ ︵﹃諸子集成﹄ 、中華書局、一九七八年︶ 。 ︵ 14︶ ﹃楚辞章句疏証﹄第五冊︵中華書局、 二〇〇七年︶ 。以下、 ﹃楚辞﹄の底本はすべて同書による。 ︵ 15︶ 他 に 馬 融︵ 七 九∼ 一 六 六 ︶﹁ 長 笛 賦 ﹂ の﹁ 紛 葩 爛 漫、 誠 可 喜 也 ﹂ の﹁ 爛 漫 ﹂ に つ い て、 呂 向︵ 七 世 紀 ︶ が﹁ 紛 葩 爛 漫、聲亂而多也﹂と注する。 ︵ 16︶ 善曰、皜、白也。⋮崔 駰 七依曰、丹柱彫牆、 烻 光盛起。 ︵ 17︶ 張載は ﹁皓壁暠曜至若陰若陽﹂ に ﹁言其色狀也﹂ という。 ︵ 18︶ 朝 焼 け と 雲 が 入 り 交 じ る さ ま を﹁ 陰 の 若 く 陽 の 若 し ﹂ と す る 喩 え は、 本 文 最 終 段 落 に あ る、 ﹁ 包 陰 陽 之 變 化、 含 元
18 氣 之 烟 熅 ﹂ と 響 き 合 う。 霊 光 殿 が 陰 の 状 態 に も 陽 の 状 態 に も 対 応 で き る、 全 て を 包 括 す る 宮 殿 で あ る こ と を 示 唆 し て いよう。 ︵ 19︶ 善曰、采色衆多。眩曜不定也。 ︵ 20︶ 以下、 ﹃説文解字﹄は段玉裁撰﹃説文解字注﹄ ︵中華書局、 二〇一三年︶による。 ︵ 21︶ ﹃詩経﹄ ︵﹃十三経注疏﹄ 、芸文印書館、一九九四年︶ 。 ︵ 22︶ 中 国 古 典 文 学 に お い て、 光 が 液 体 化 す る 現 象 は、 複 数 の 研 究 者 が 指 摘 す る と こ ろ で あ る。 橘 英 範 氏 は、 ﹁ 液 体 の 月 光 ︱ 中 国 古 典 詩 に お け る 月 光 表 現 管 見 ﹂︵ ﹃ 中 国 中 世 文 学 研 究 ﹄ 四 四、 二 〇 〇 三 年 ︶ に お い て、 月 光 が 液 体 と し て 表 現 さ れ て き た こ と を 論 じ る。 宇 佐 美 文 理 氏 は、 ﹁ 液 化 す る 風 景︱蘇東坡詩の風景把握﹂ ︵﹃中国思想における身体 ・ 自然 ・ 信仰﹄坂出祥伸先生退休記念論集、 東方書店、 二〇〇四年︶ に お い て、 蘇 東 坡 が、 風 や 光 を 液 体 と し て 捉 え る 手 法 を 用 いることを論じる。 ︵ 23︶ 以 下、 ﹃ 漢 書 ﹄ は﹃ 漢 書 ﹄︵ 中 華 書 局、 一 九 六 二 年 ︶ に よ る。 ︵ 24︶ 竹 治 氏 前 掲 書、 六 八 三 頁∼ 六 八 六 頁。 初 出 は﹁ 三 字 の 形 状語﹂ ︵﹃支那学研究﹄二八、一九六二年︶ 。 ︵ 25︶ 善 曰、 陰 夏、 向 北 之 殿 也。 韋 仲 将 景 福 殿 賦 曰、 陰 夏 則 有 望舒凉室、亦與此同。 ︵ 26︶ ﹁ 飋 ﹂ は﹃ 説 文 解 字 ﹄ に な い 字 で あ る た め、 ﹃ 玉 篇 ﹄ を 用 い る。 以 下、 ﹃ 玉 篇 ﹄ は す べ て﹃ 宋 本 玉 篇 ﹄︵ 北 京 市 中 国 書 店、一九八三年︶による。 ︵ 27︶ 竹治氏前掲書、六八三頁∼六八五頁。 ︵ 28︶ 善 曰、 言 簷 垂 滴 瀝、 纔 成 小 響、 室 内 應 之、 其 聲 似 雷 之 驚 也。説文曰、滴瀝、水下滴瀝之也。 ︵ 29︶ 載曰、 言炫燿也。 矎矎 、 目不正也。善曰、 埤 蒼曰、 嘈嘈、 聲衆也。廣雅曰、 矎 、視也。洞簫賦曰、愍眸子之喪情。 ︵ 30︶ 載 曰 、 琅 玕、 珠 也。 似 玉。 尚 書 曰、 球 琳 琅 玕。 善 曰、 李 軌 法 言 注 曰、 駢、 竝 也。 國 語 曰、 天 子 之 室、 加 密 石 焉。 韋 昭 曰、 密、 密 理、 謂 砥 也。 然 彼 以 密 石 磨 琢、 此 亦 爲 飾 也。 西都賦曰、 裁金璧以飾璫。璧英、 玉之英也。孝經援神契曰、 玉英、玉有英華之色。 ︵ 31︶ ﹁靄﹂ の字は、 ﹃説文解字﹄ の段注本には見られないが、 ﹃四 部 叢 刊 正 編 ﹄︵ 台 湾 商 務 印 書 館、 一 九 七 九 年 ︶ 所 収 の 大 徐 本では、巻一一に﹁雲貌﹂とある。 ︵ 32︶ 善曰、 淮南子曰、 傾宮旋室在崑崙 閶 闔之中。徐幹七喩曰、 連 觀 飛 榭、 旋 室 廻 房。 旋 室、 曲 屋 也。 㛹 娟、 迴 曲 貌。 楚 辭 曰、 姱 容修態、亘洞房。西京賦曰、望叫 窱 以經廷。 ︵ 33︶ 載曰、 西廂、 西序也。踟蹰、 連閣傍小室也。閑、 清閑也。 可以燕會。踟、 或移字。善曰、 踟蹰、 相連貌。毛萇詩傳曰、 宴、 安 也。 言 安 靜 也。 載 曰、 東 序、 東 廂 也。 互 言 之、 文 相 避耳。爾雅曰、 東西廂、 謂之序。善曰、 廣雅曰、 奥、 藏也。 字書曰、祕、密也。 ︵ 34︶ 載 曰、 驚 斯、 於 此 驚 也。 善 曰、 蘇 林 漢 書 注 曰、 葸 葸 、 懼 貌。 𤟧 與 葸 同。説文曰、悸、心動也。 ︵ 35︶ 載 曰 ⋮ 西 京 賦 云、 終 南 太 一、 隆 屈 崔 崒 。 崛 岉 乎 青 雲、 言 此物上逮青雲。
19 王延寿「魯霊光殿賦」における躍動と停滞(木村) ︵ 36︶ 載曰、⋮嶒峵、深空貌。善曰、 坱圠 、無齊限之貌。 ︵ 37︶ 載 曰、 崱 、 崱 嶷 然。 皆 其 形 也。 ⋮ 繒 綾、 不 平 貌。 甘 泉 賦 曰、嵌巖其龍鱗。繒、如字綾。音陵。 ︵ 38︶ 載 曰、 皆 其 形 貌。 光 輝 也。 威 神、 言 尊 嚴 也。 善 曰、 汨、 淨貌。磑磑、髙貌。璀璨、衆材飾貌。 ︵ 39︶ 載 曰、 皆 其 形 貌 光 輝 也。 善 曰 ⋮ 燡 、 光 明 貌。 爥 坤、 光 照 下土。 ︵ 40︶ 載曰、 楹、 柱也。又曰、 枝、 柱、 言無根而倚立也。善曰、 ⋮漂、輕貌。嶢 𡸣 、不安之貌。蒼頡篇曰、柱、枝也。 ︵ 41︶ 善 曰、 ⋮ 崔 駰 七 依 曰、 夏 屋 蘧 蘧 髙 也。 音 渠。 王 逸 楚 辭 注 曰、湊、聚也。 ︵ 42︶ 善曰、⋮ 𪃨 顤顟 、大首深目之貌。⋮睽睢、張目貌。 ︵ 43︶ 善曰、⋮孟子曰、嚬蹙而言。嚬蹙、憂貌。 ︵ 44︶ 善曰、 瞟 眇、 視不明之貌。説文曰、 瞟 、 睽也。廣雅曰、 眇、 莫也。響像、猶依稀。非正形聲也。 ︵ 45︶ チの﹁鴻 爌炾 ﹂は﹁明るい﹂様子であるが、 冒頭の﹁鴻﹂ は﹁広い﹂ という意味に取ることができる。この三語はゆっ た り と だ だ っ 広 い 中 の 明 る さ で あ り、 装 飾 的 な 光 の 明 る さ とは異なると考えたい。 ︵ 46︶ 竹治氏前掲書、五八四頁。 ︵ 47︶ 張 載 は、 ﹁ 皆 其 形 貌 光 輝 也。 威 神、 言 尊 嚴 也 ﹂ と 注 し、 李 善 は﹁ 積 石、 山 名。 西 都 賦 曰、 激 神 岳 之 嶈 嶈 、 帝 室、 天 帝之室。春秋合誠圖曰、紫宮、大帝室也﹂と注する。 ︵ 48︶ 吉 川 幸 次 郎﹁ 膠 着 語 の 文 学 ﹂︵ ﹃ 国 語 国 文 ﹄ 二 一、 一 九 五 二年︶ 、一八頁。 ︵ 49︶ 竹治氏前掲書、六九六頁。 ︵ 50︶ 吉 川 幸 次 郎﹁ 他 山 石 語 ﹂︵ ﹃ 吉 川 幸 次 郎 全 集 ﹄ 十 八、 筑 摩 書房、 一九七〇年︶ 、 七〇頁︵初出は﹃八雲﹄通巻二号︵八 雲書店、一九四七年︶ ︶。 ︵ 51︶ 吉 川 氏 の 挙 げ る 例 は、 三 字 の 形 状 語 で は な い が、 一 種 の 停 滞 が 結 果 と し て 読 者 の 感 情 を 増 幅 す る と い う 点 が、 三 字 の形状語にも当てはまるのではないかと考える。 ︵ 52︶ わずかな例外が ﹃文選﹄ ﹁西京賦﹂ の ﹁紛瑰麗以奢靡﹂ 、﹁東 京賦﹂の﹁紛焱悠以容裔﹂ 、﹁甘泉賦﹂の﹁ 閌閬閬 其寥廓兮﹂ 等である。 ︵ 53︶ 二 〇 一 七 年 度 東 北 中 国 学 会 ︵ 二 〇 一 七 年 五 月 二 八 日、 於 弘 前 大 学 ︶ に お け る 研 究 発 表 に て、 西 上 勝 先 生 よ り、 三 字 の 形 状 語 が 六 字 句 に 含 ま れ て い る こ と の 重 要 性 を、 上 原 尉 暢 先 生 よ り、 六 字 全 体 で 一 つ の 概 念 を 表 す 場 合 に 注 目 す べ き と い う 点 を、 ご 指 摘 頂 い た。 両 先 生 が 論 文 の 根 幹 に 関 わ る 重 要 な ご 教 示 を 下 さ っ た こ と に、 こ の 場 を 借 り て 厚 く 御 礼申し上げたい。 ︵ 54︶ 竹治氏前掲書、六九六頁。 ︵ 55︶ ﹁ 飛 動 ﹂ に つ い て は、 劉 勰 の 評 語 を 視 野 に 入 れ た 種 々 の 考 察 が な さ れ て い る。 例 え ば、 蒋 述 卓﹁ 説〝飛 動 〟﹂ ︵﹃ 文 学 遺 産 ﹄、 一 九 九 二 年 第 五 期 ︶、 黄 閩﹁ 論 六 朝 文 論 与 画 論 的 〝飛 動 〟之 美 ﹂︵ ﹃ 閲 読 与 写 作 ﹄、 二 〇 一 〇 年 第 七 期 ︶ な ど がある。