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タイの縫製業と移民労働者 (特集2 メコン地域の移民労働者)

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Academic year: 2021

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(1)

タイの縫製業と移民労働者 (特集2 メコン地域の移

民労働者)

著者

矢倉 研二郎

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

245

ページ

35-38

発行年

2016-02

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003014

(2)

生き残りが図られてきた。縫製業 もそうした産業のひとつである。   以下、タイの縫製業における移 民労働者への依存の深化の背景を 概観するとともに、移民労働者へ の依存と産業の高度化との両立可 能性について考察したい。   縫製業はタイの製造業のなかで 重要な位置を占めてきたが、過去 二〇年あまりの間にその製造業に 占める比率は徐々に低下し、二〇 〇六年頃を境に産業の規模も縮小 し つ つ あ る( 図 1) 。 ま た、 タ イ の縫製製品の多くは外国へ輸出さ れているが、過去一〇年余りは輸 出額も停滞している。その間にベ トナムやカンボジアといった近隣 諸国で縫製業が急拡大し、輸出額 においてタイはそれら二国に追い 越されその差は拡大の一途をたど   こんにちのタイ経済の課題は、 「中進国の罠」 、すなわち、経済の 発展が中所得段階で停滞してしま う状況の回避である。端的には、 低賃金労働力に依存し生産性の低 い労働集約的な産業を中心とする 産業構造から、より資本集約的で 高度な技術を要する産業を主体と する産業構造への変化、つまりは 産業の「高度化」が求められてい る。   ただし個々の産業や企業レベル では必ずしもそれに沿った変革が 円滑に進んでいるわけではない。 少子化の進行やタイ人労働者のい わゆる三K労働の忌避にも起因す る「人手不足」を背景として、タ イの労働集約的な産業においては、 「 高 度 化 」 で は な く、 カ ン ボ ジ ア、 ラオス、ミャンマーという隣国か らの移民労働者を雇用することで っ て い る( 図 2) 。 こ れ ら 近 隣 諸 国での縫製業の発展はその賃金水 準の低さに負うところが大きい。 作業の機械化が困難で人手を多く 要する縫製業では、労働者の賃金 の低さが競争力を大きく左右する。 それゆえ、タイの縫製業が国際市 場で生き残るには、より付加価値 の高い製品の生産へ比重を移すと いった高度化が求められる。しか し、タイの縫製製品の輸出単価は 伸びてはおらず、高度化という点 でも停滞しているようにみえる。   ここで個々の産業や企業におけ る高度化とは何を指すのかについ て整理しておきたい。高度化とは、 獲得できる付加価値を増大させる ような産業全体としての変化、あ るいは個々の企業の事業の変化を 指すといえる。そして既存の研究 は、 高 度 化 を「 生 産 面 」「 製 品 面」そして「機能面」の三側面に 大別している。生産面での高度化 とは、生産工程ないしは生産技術 の改善による生産効率や品質の向 上で表される。製品の付加価値を 高めることが製品面での高度化で ある。機能面の高度化は、ひとつ の産業を製品の企画から小売り段 階に至る間に組み込まれた多数の 機能の連なりと見立て、より高い 付加価値の得られる機能を担うよ うになることを指す。   縫製業の場合、とくに機能面で の高度化という観点から、企業の 事業タイプをCMT、OEM、O DM、OBMの四つに分類するこ とが一般的である。CMTは、ア パレル小売り企業や商社といった バイヤーからの注文を受け、バイ ヤー側が用意した原材料を用いて 衣料品を受託製造する事業を指す。 OEMでは、発注者の仕様に沿っ て製品を製造するが、原材料は製 造業者自らが調達する。ODMに なると製品のデザインも行う。そ してOBMでは自社ブランドの製 品の生産・販売まで手掛ける。   縫製業に関する研究においては、 この枠組みに沿って、CMTから OEM、ODM、OBMへと事業

特 集 ❷

メコン地域の移民労働者

 

矢倉

  研二郎

(3)

タイプを変化させていくことが機 能面の高度化ととらえられている。   タイの縫製企業の多くは地場企 業であり、外資系企業の割合が高 いベトナムやカンボジアとは対照 的である。しかし機能面での高度 化という点では、CMT中心のベ トナムやカンボジアに対しタイの 縫製企業にはOEMが多く、さら にODMやOBMを担う企業も少 なくないとみられる。しかし、先 にみたような生産や輸出の減少傾 向からすれば、タイの縫製業が変 革を迫られていることは明らかで ある。   タイの縫製業界もそのことを強 く認識し、策を講じてきた。たと えば、タイ縫製業協会やその姉妹 組織は会員企業向けに生産技術や 製品開発面でのサポートを行って き て お り、 生 産 面 や 製 品 面 の 高 度 化 を 追 求 し て い る こ と が 窺 え る。 さ ら に 機 能 面 で の 高 度 化 も 模 索 さ れ て い る。 た と え ば、 筆 者 が 二 〇 一 四 年 に イ ン タ ビ ュ ー を 行 っ た タ イ 縫 製 業 協 会 幹 部 に よ れ ば、 タ イ を 「 フ ァ ッ シ ョ ン・ ハ ブ 」 に す る こ と を 目 指 し て い る と い う。 す な わ ち、 生 産 拠 点 は 低 賃 金 の 近 隣 諸 国 へ と 移 し て い き、 タ イ 国 内 の 拠 点 は 企 画 や マ ー ケ テ ィ ン グ 等 の 本 社 機 能 を 担 う、 と い う こ と で あ る。 協会としても会員企業の対外進出 を奨励しているとのことであった。 実際、タイの縫製企業による対外 投資は少しずつ進んでいる。協会 の 資 料 に よ れ ば( 参 考 文 献 ③ )、 二〇一三年の段階で、二五〇余の 一般会員企業のうち、国外に生産 拠点を有するか、その準備を行う 企業は二五社ある。その進出先は、 近隣のカンボジア、ベトナム、ミ ャンマー、ラオスが大半を占めて いる。   他方で、こうした高度化が求め られるようになった時期に広がっ てきたのは、移民労働者、とくに ミャンマー人労働者の雇用である。 タイの縫製企業がミャンマー人を 雇用するようになったのは、一九 九〇年代の前半のことと考えられ て い る( 参 考 文 献 ① )。 も と も と 縫製工場はバンコクやその郊外に 集積していたが、ミャンマー人労 働力を活用するべく、多くの工場 がミャンマー国境のメーソットに も設立されるようになった。その 結果、メーソットの縫製工場のワ ーカーはミャンマー人で占められ ているとみられる。さらにこんに ちでは、バンコクとその周辺の工 場でも多くのミャンマー人が働く ようになっている。   ミャンマー人を雇用する最大の 理由は、メーソットの工場にとっ ては「低賃金」にあると考えられ る。かつてはタイの法定最低賃金 は地域により異なり、メーソット 地域はバンコクやその周辺部より も最低賃金が低かった。そして最 低賃金は法令上は外国人労働者に (出所) OfficeofNatinoalEconomicandSocialDevelopmentBoard,NationalAccountsofThailand, 2013(http://eng.nesdb.go.th/Default.aspx?tabid=94) より作成。 図1 タイにおける縫製業の付加価値額 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 (%) (100万バーツ) 付加価値額(2002年価格) 製造業に占める割合(右軸) 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 (出所) UNComtradeデータベース (http://comtrade.un.org/) より作成。 図2 縫製製品輸出額(HS コード61・62類) 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 (100万米ドル) ベトナム カンボジア タイ

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特集❷:タイの縫製業と移民労働者 対しても適用されるのだが、現実 にはミャンマー人に対しては最低 賃金に満たない賃金しか支払われ ないケースが少なくなかったとみ られる。そしてそうした状況は、 最低賃金が全国一律で一日三〇〇 バーツとなって以降も続いている 模様である(参考文献②) 。   しかし、こんにちバンコクやそ の周辺に工場をもつ縫製企業につ いていえば、低賃金ではなく「人 手不足」がミャンマー人を雇う直 接的な理由となっている。筆者が 面会した縫製企業の幹部曰く、タ イ人労働者が集まらないのでミャ ンマー人労働者を雇わざるを得な いのだという。そして確かに、こ れらの企業ではミャンマー人もタ イ人も職種が同じであれば賃金は 同じであり、一日三〇〇バーツか それ以上の額が支払われている。 ただし、こうした工場においても、 仮にミャンマー人を雇うことがで きずタイ人だけで十分な人数を確 保しなければならなくなれば、あ る程度の賃上げを行う必要に迫ら れるであろう。したがって、ミャ ンマー人を雇用することで賃金を 低く抑えることができているとと らえることもできる。   タイの縫製工場で働くミャンマ ー人がどれくらいいるのか、確か な規模はわからないが、縫製業協 会幹部の話では大部分の工場がミ ャンマー人を雇用しているという ことであり、ミャンマー人なしに は現在のタイの縫製業は成り立た ない状況にあると考えられる。し かし、ミャンマー人への依存は縫 製業の高度化にとってどのような 意味を持つのであろうか。   ミャンマー人に限らず、未熟練 外国人労働者を雇用することは生 産現場にマイナスの影響を及ぼす 可能性がある。たとえば、言語の 壁ゆえに生産上の指示や訓練に支 障が出るかもしれない。外国人の 就労期間が法的に制限されている 場合には、長期雇用を通じた技能 形成が難しくなる。また、職場に おいて差別的に扱われていると感 じるような状況があれば、外国人 労働者の就労意欲は低下し、さら にはチームワークも困難になるか もしれない。   こうした負の効果がタイの縫製 工場で存在するか否かについて、 一般化できるほどの情報はまだ得 られていないが、筆者が訪問した 企業の事例に基づいて若干考察し たい。   筆者は二〇一四年から二〇一五 年にかけてバンコクとその周辺部 に立地する縫製企業五社・六工場 を訪問した。そのうち三社の三工 場でミャンマー人を雇用していた ( ち な み に こ れ ら 六 工 場 に は ミ ャ ンマー以外の国から来た移民労働 者 は い な か っ た )。 こ れ ら 三 工 場 においてミャンマー人はいずれも ワーカーとして働いている。ただ しワーカーのなかにはタイ人もお り、生産班はミャンマー人とタイ 人の混成となっている。これら企 業の幹部曰く、ワーカーレベルの 従業員については国籍によって職 務は区別していないとのことであ った。また、これら三工場とも、 職務が同じであれば国籍にかかわ らず共通の給与体系と給与水準を 適用しており、いずれも一日三〇 〇バーツかそれ以上の基本給が支 払われている。   タイ人管理職がミャンマー人ワ ーカーに指示を行う際には通訳を 用いるが、タイ語の達者なミャン マー人ワーカーに通訳の役割を担 わせることもあるという。ただし、 タイでの就労年数の長いワーカー が少なくない模様で、ミャンマー 人ワーカーのなかにはタイ語を解 する人も多いとのことであった。   ミャンマー人ワーカーの技能や 働きぶりについても、これら三社 の幹部はとくに問題を感じていな い。ミャンマー人の方が残業をい とわない(むしろ残業手当を稼ぎ たいがため、残業が少ないと辞め てしまう)という声も聞かれた。 離職率についても、ミャンマー人 の方が高いという声は聞かれなか った。   それではこれら三工場における 「 高 度 化 」 の 状 況 は ど う で あ ろ う か。三社の幹部曰く、ミャンマー 人の雇用開始以降もこれらの工場 では生産性の向上と不良率の低減 を達成してきたという。すなわち、 生産面での高度化がある程度実現 しているということである。   このわずかな事例をそのままタ イの縫製業全体にあてはめること はできないが、これら三工場の例 は、少なくともやり方次第ではミ ャンマー人の雇用と生産面の高度 化(そしてそれは製品の高度化に もつながる)との両立は可能であ ることを示唆している。   何がその成功の鍵なのかについ ては、筆者自身、現在進行中の研 究で明らかにしようとしていると ころであるが、三工場の事例から

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は次のような仮説が浮かび上がる。 それは端的には、先に挙げた外国 人労働者を雇用することで生じう る負の効果を発現させないような 環境ないしは取り組みが意味を持 つのではないか、というものであ る。   たとえば、上記三工場では、ミ ャンマー人ワーカーの平均的なタ イ語能力が比較的高く、言語の壁 は相対的に低いという可能性があ る。そして高いタイ語能力は、長 年にわたるタイでの就労によって 培われる。そしてさらにそのこと は、同じ工場での長期就労を可能 とし、技能形成をも助けることに なる。   また、すでに述べたように、上 記三工場では労働条件面でミャン マー人とタイ人を区別していない。 さらにタイ人従業員に対してミャ ンマー人を差別的に扱わないよう に指示しているところもある。こ うした平等な扱いは、ミャンマー 人の就労意欲の低下を防ぎ、また タイ人とミャンマー人が同じ班で 共同作業を行うことを容易にして いるのかもしれない。   一方、ミャンマー人を雇用する ことがタイの縫製業の機能面での 高度化、とくに前述のような生産 拠点を近隣諸国へ移してタイ国内 は本社機能に専念する、という形 での高度化に与える影響について は、 様 々 な 可 能 性 が 考 え ら れ る ( こ の 点 も 筆 者 が 参 加 す る グ ル ー プが取り組んでいる研究課題であ る )。 単 純 に 考 え る と、 ミ ャ ン マ ー人を雇用することによりタイ国 内での生産を維持できているとす れば、そのことは生産拠点の海外 移転を抑制する方向に作用すると 言えそうである。しかしミャンマ ー人を雇用することが企業の利益 増大に貢献しているとすれば、そ れは対外投資に必要な資金力を高 めることになり、海外移転を促進 するかもしれない。   生産拠点の海外移転に関連して はさらに興味深い例がある。筆者 が訪れたある縫製企業では、タイ 国内の工場で働いてきたミャンマ ー人従業員をミャンマーに設けた 子会社の工場の管理職クラスに抜 擢しているという。この事例は、 タイの縫製工場で技能を高めた移 民労働者が帰国することで、彼ら の母国へのタイ縫製企業の進出が 促進され、さらにはその国の縫製 業の発展につながる可能性がある ことを示している。   以上のように、移民労働者の雇 用はタイの縫製業の生き残りの可 能性とそのあり方に多大な影響を 及ぼしうる。そして同様のことは、 移民労働者に依存するタイのその 他の産業についてもあてはまるで あろう。   今後タイでは少子化により労働 人口が縮小していき、他方で隣国 での雇用機会不足やタイとの賃金 格差はしばらく続くと予想される ので、需要と供給の双方の要因に より移民労働者がさらに増加する 可能性は高い。さらに、タイのプ ラユット政権は、投資優遇措置対 象事業(いわゆるBOI事業)に 対して禁じてきた未熟練外国人労 働者の雇用を二〇一五年一月から 解禁している。これは二〇一六年 末までの時限措置ではあるが、企 業側のニーズの強さをふまえると 恒常化する可能性もある。こうし た状況下で、縫製業に限らず、タ イの広範な産業において移民労働 者への依存は今後さらに深まって いくものと予想される。   本稿が紹介した縫製工場の事例 のように、製造業における移民労 働者への依存は生産面や製品面で の高度化を阻害しないかもしれな い。しかしタイという国全体のレ ベルでみれば、大量の移民労働者 を受け入れることは、労働集約的 な産業を延命させ、長期的には国 全体の産業構造の高度化を遅らせ る可能性もある。このように、移 民労働者の受け入れの規模とあり 方は、タイが「中進国の罠」から 逃れることができるか否かをも大 きく左右しうるという意味で、タ イ経済にとって非常に重要な意味 を持っている。 ( や ぐ ら   け ん じ ろ う / 阪 南 大 学 経済学部准教授) 《参考文献》 ① Arnold, D. and Pickles, J., “Global work, surplus labor, an d th e pr ec ar iou s ec on om ies of the border, ” Antipode, Vol. 43, No. 5, 2011, pp. 1598-1624. ② Jaisat, K., Biel, E., Pollock, J. and Press, B., Migrant workers in Thailandʼs garment facto -ries, Amsterdam: Clean Clothes Campaign, 2014. ③ Thai Garment Manufacturers Association, Directory 2013-2014, Bangkok: Thai Garment Manufacturers Association, 2014.

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