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特集にあたって (特集1 カンボジア国家建設の20年)

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特集にあたって (特集1 カンボジア国家建設の20年

)

著者

初鹿野 直美

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

219

ページ

2-3

発行年

2013-12

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003556

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  二〇一三年七月二八日、カンボ ジアで第五回国民議会議員選挙が 行われた。一九九三年に国連監視 下で行われた制憲議会選挙から二 〇 年 を 経 た 今 回 の 総 選 挙 は、 与 党・人民党が六八議席、野党・救 国党が五五議席を獲得し、人民党 は辛勝したものの救国党の躍進が 際立つ結果となった。   二〇〇八年の地滑り的勝利にい たるまでに築いてきたはずの人民 党の支配体制は、一見強固なもの にみえたが、国民の「変化」を求 める声を前に、二〇一三年選挙で は大幅な後退をせざるをえなかっ た。一九九三年の最初の選挙から 二〇年間、ときには多少強引なや り方を用いても国内の融和につと め、どうにか国を安定させ、経済 を成長させることをめざしてきた や り 方 が 曲 が り 角 を 迎 え た こ と が、今回の選挙からみえてきたと いえよう。   本特集では、過去二〇年間の国 家建設の歩みを振り返りつつ、主 要政党や市民社会はどのように人 びとの声にこたえたのか、それを 取 り 巻 く 国 際 環 境 は ど の よ う で あったか、政策的な変化はみられ たのか、といった各視点から第五 回国民議会選挙および選挙前後の カンボジアの動きを分析する。

●各論文の紹介

  「 変 革 を 迫 ら れ る 人 民 党 一 党 支 配 体 制 」( 山 田 裕 史 ) で は、 過 去 二〇年間の政治・選挙の流れを概 観したうえで、今回の選挙での主 要政党の動向・選挙戦の特徴を検 討する。救国党の躍進を支えたも のとして、若者の力、ソーシャル メディアによる既存メディアでは 報じない多様な情報提供、人びと が求める「豊かさ」の変化を挙げ る。   コラム「第五期国民議会指導部 と フ ン・ セ ン 内 閣 の 顔 ぶ れ 」( 山 田裕史)では、二〇一三年九月二 三日に野党不在の国民議会で承認 された新政権および国民議会指導 部を紹介する。党内での若手登用 や派閥間の力関係の変化など、人 民党自身の変革の一端を観察する ことができる。また、コラム「カ ンボジアの都市と農村における選 挙 運 動 」( 秋 保 さ や か ) で は、 こ れまで表立って政治にかかわるこ とのなかった農民や若者が、具体 的 に ど の よ う に 選 挙 運 動 に か か わったかを報告する。票数からみ てとれる変化以上に、市井の人び とのときとして生々しいやり取り は、今回の選挙で起きたことをよ りわかりやすく説明してくれる。   「 二 〇 一 三 年 カ ン ボ ジ ア 総 選 挙 における市民社会の戦術転換」 (上 村未来)は、選挙監視を行うNG Oに注目する。とくに今回の選挙 で市民社会が状況分析室を設置し て連帯したことは、これまでより も一歩進んだ取り組みを可能にし たと評価する。   「 二 〇 一 三 年 カ ン ボ ジ ア 総 選 挙 と外部アクターの役割」 (チアン・ バナリット)では、国連やアメリ カなどの外部アクターがこれまで の選挙をどのようにみてきたかを 紹介する。二〇一三年選挙後に選 挙 不 正 へ の 疑 い か ら「 政 治 的 危 機」が生じたように、カンボジア の選挙民主主義定着まで、いまし ばらく国際社会の支援が必要と論 じる。   「 経 済 成 長 の 歩 み と フ ン・ セ ン 政権の四辺形戦略」 (初鹿野直美) では、過去の経済成長の歩みを紹 介しつつ、主要な政策文書である 「 四 辺 形 戦 略 」 に て、 政 権 が 今 後 五年間に何を目指しているのか、 産 業 開 発 や 天 然 資 源 管 理 の イ シューに対し、同戦略が若年層や 農 村 地 域 の 要 望 に 応 え た も の と なっているのかを検討する。   「 カ ン ボ ジ ア の 天 然 資 源 政 策: 漁 業 資 源 管 理 と 国 家 」( ト ー ル・ ディナ)では、政権への社会経済 的な不満の主要な要素となった天 然資源政策について、とくに漁業 資源政策に焦点をあてる。貧困層 の生活改善や水産資源の保全のた めに過去に実施されてきた改革に ついて、その施行が効果的に行わ

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れなかったため、一時的な政治的 支持の獲得はもたらしたが、資源 政策としては失敗に終わってきた と主張する。   「 カ ン ボ ジ ア の 投 資 環 境 政 策 」 ( 道 法 清 隆 ) で は、 外 資 主 導 の 経 済成長を実現してきた投資環境を レビューし、二〇一〇年に本格化 した日本企業の進出について紹介 したうえで、選挙後の賃金動向お よび投資法などの改正に向けた動 き 等 、 投 資 環 境 へ の 影 響 を 論 じ る 。

●不満のひろがり

  州別に投票結果をみると、すべ ての州で野党(合併前の人権党お よびサム・ランシー党の合計値と 救国党との比較)は前回選挙より も得票率を伸ばしており、人民党 は八割の州で後退、残る二割の州 も前回とほぼ同じ得票率にとどま り、二〇〇八年に全体の七割以上 の議席を占めたような勢いはみら れなかった。とくに従来から野党 の支持が多かったプノンペンだけ でなく、コンポンチャーム、カン ダ ー ル、 プ レ イ ヴ ェ ー ン、 ス ヴァーイリアン各州では、救国党 が人民党を上回る支持を得た(図 1)。   社会にうごめく不満としては、 高い経済成長の恩恵を十分に受け て い な い の で は な い か と い う 不 満、たとえば、土地などの資源へ のアクセスが奪われつつあるとい う不満、最低賃金をめぐる不満な どがあり、そして、そんな自分た ちの声を野党が届けてくれるので はないかという期待が野党支持へ と つ な が っ た と 考 え ら れ る。 な お、これらの不満が、伝統的に国 内に存在する反ベトナム感情にも 結び付く事態も観察された。救国 党は「反ベトナム感情をあおるよ うなことはない」と主張するが、 支持者のあいだでは、現政権への 不 満 や 社 会・ 経 済 的 な 不 満 の ス ケープゴートとして、ナショナリ スティックな感情が広く共有され ていたことは、ソーシャルメディ ア等での発言等から観察された。

●今後の行方

  最後に、本特集執筆時点での政 治 情 勢 を 簡 単 に ま と め て お き た い。救国党は、投票日翌日に選挙 プロセスでの不正を理由として今 回の結果を受け入れられないと発 表し、デモや抗議集会を続けた。 本特集の原稿が執筆された二〇一 三年一〇月の時点では、野党の国 民議会ボイコットや抗議行動は続 いており、選挙結果を各勢力が受 け入れるところまでたどりついて いない。   事態を収束するための試みも、 断続的に行われている。国民議会 宣誓式一週間前の九月一六日、ノ ロドム・シハモニー国王の呼びか けに応じて、与野党の幹部各五名 が直接話し合いをする場がもたれ た。また、一〇月六日には、二〇 一 二 年 に 選 挙 人 名 簿 か ら 削 除 さ れ、議員への立候補資格が失われ ていたサム・ランシー党首が、選 挙 人 名 簿 へ の 登 録 手 続 き を 行 っ た。これは通常の手続きの範囲内 の 出 来 事 で は あ る が、 こ れ に よ り、同氏が議員になる可能性が開 かれた。   対話により平和裏に事態を収め ることができるか、これを機によ り公正な選挙制度づくりに向けた 改革ができるのか、カンボジアの 今後の民主主義の定着を占う試金 石となるであろう。さらなる経済 成長を確保しつつも、社会が抱え る不満への配慮といった政策課題 への早急な取り組みが必要とされ ている。より公正かつ包括的な発 展の実現に向け、フン・セン首相 の新しい五年間が始まった。 ( は つ か の   な お み / 日 本 貿 易 振 興 機 構 バ ン コ ク 事 務 所、 ア ジ ア 経 済 研 究所   研究員) (出所)国家選挙管理委員会資料より作成。 タイ湾 レプ ラッタナキリー州 ストゥントラエン州 プレアヴィヒア州 シアムリアプ州 ウッドーミアンチェイ州 コンポントム州 クロチェ州 コンポンチャーム州 カエップ州 コンポート州 コンポン  スプー州 コンポン  チナン州 ポーサット州 バッドンボーン州 (バッタンバン) ボンティアイ ミアンチェイ州 コッコン州 タ イ ベトナム ラオス トン サ ープ ンコ メ モンドルキリー州 ︶ オ ケ タ ︵ 州 ン リ イ パ 国 境 州 境 首 都 首都プノンペン プノンペン都 州 ン ア リ 図 1 州別得票数/地図 人民党 救国党 プレアシハヌーク シアムリアプ ラッタナキリー ポーサット プレイヴェーン プレアヴィヒア ウッドーミアンチェイ パイリン カエップ ターカエウ スヴァーイリアン ストゥントラエン プノンペン モンドルキリ クロチェ コッコン カンダール コンポート コンポントム コンポンスプー コンポンチナン コンポンチャーム バッドンボーン ボンティアイミアンチェイ 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000 0

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