中国 -- コインにまつわるよもやま話 (特集 途上
国とコイン)
著者
山田 七絵
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
215
ページ
10-11
発行年
2013-08
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003643
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﹁私はお金が大好きです﹂
数年前に中国の大学で日本語教 師をしていた日本人の友人から聞 いた笑い話だが、彼女はある時学 生 に「 私 の 好 き な も の 」 と い う テーマで日本語作文の課題を出し た。その際わかりやすい文章を書 くコツとして、冒頭に一番重要な メッセージを書くようアドバイス した。数日後、ある学生が提出し た作文の一行目に書かれたのが冒 頭の一文である。学習中の外国語 で書いたという拙さを差し引いて もあまりの素直さに笑いを禁じえ な い。 名 誉 の た め に 言 い 添 え れ ば、この学生は決して守銭奴とい うわけではなく自分や家族の生活 のためにお金は必要不可欠だ、と いう主旨でこの作文を書いた。中 国において金銭が話題にならない 日はなく、人々にとって一と言っ て二と 下 さが らぬ関心事であることは 容易に察せられる。初対面の相手 に対しても給料、家賃から夕飯の おかずの値段に至るまで細々と質 問しても失礼には当らないし、こ れらはごく他愛のない日常的な話 題 に 過 ぎ な い。 こ こ で は 中 国 の 人 々 の 生 活 と 切 り 離 せ な い「 お 金 」、 特 に コ イ ン の 話 を し た い。 三〇〇〇年以上にわたる中国の貨 幣史を語るのは筆者の手に余るの で、個人的な体験も交えて現在の コイン事情に関する話をしたい。●もっぱら脇役
現在流通している硬貨は額面の 大きいものから順に一元、五角、 一角(一元は約一五円、角は元の 一〇分の一)である。中国人民銀 行は一九五五年に硬貨の発行を開 始し、これまでに額面やデザイン を四回変更した。第一期(一九五 五~九二年)に発行された三種類 の ア ル ミ 製 の 分( 角 の 一 〇 分 の 一)硬貨は現在では銀行で利子の 支払い等に使用される以外ほとん ど 絶 滅 寸 前 だ が、 「 中 国 人 民 銀 行 法」には何人たりとも分硬貨によ る支払いを拒否してはならない、 とわざわざ明記されている。ただ し、発行量の少ない二分硬貨は蒐 集 家 の 間 で 高 値 で 取 引 さ れ て い る 。 残念ながら(特に北方では)日 常生活において硬貨は影が薄い。 硬貨の 全種類の額面に加え二角紙 幣まで発行されており、代替可能 だからかもしれない。実際公園な どで将棋や麻雀で人々が小銭を賭 けている時、卓上に散らばってい るのはたいてい紙幣である。街に 自動販売機はほとんど無く、地下 鉄の券売機では紙幣が使える。大 都 市 の 公 共 バ ス で は チ ャ ー ジ 式 カードが普及し、かつて大きな鞄 を首から提げて切符をさばいてい た車掌の仕事は専ら乗客がカード を正しくパネルに接触させたかど うかの監視になってしまった。 報 道 で の 取 り 上 げ ら れ 方 も 然 り で 、 最 近 硬 貨 が 登 場 し た の は 駐 車 料 金 の 一 部 を 小 銭 で 払 っ た 女 性 が 係 員 に 小 銭 を 目 の前 で 投 げ 捨 て ら れ 抗 議 し た 、 と い う な ん と も 寂 し い 事 件 で あ っ た 。 こ れに 対 し 紙 幣 の 報 道 は 景 気 が 良 い 。 例 え ば 一 時 期 不 動 産 バ ブ ル の 象 徴 と し て 恐 れ ら れ た 「 温 州 炒 房 団 」( 温 州 出 身 の 不 動 産 投 機 集 団 ) は 、 麻 袋 一 杯 に 札 束 を 詰 め 、 大 型 バ ス で 各 地 の 大 都 市 に 乗 り 付 け 不 動 産 を 買 い 漁 っ た 。 実 際 見 た わ け で は な い が 、 袋 か ら 無 造 作 に 取 り 出 さ れ 、 積 み 上 げ ら れ る 札 束 の 鮮や か な 赤 が目 に 浮 か ぶ よ う で あ る 。 某 団 体 は 、 当 局の 情 報 統 制 に 対 抗 し て 一 元 札 に 反 政 府 メ ッ セ ー ジ を 印 刷 し 流 通 さ せ た と国 際 的 に 報 道 さ れ た 。 筆 者 も そ の 一 枚 を 偶 然 釣 銭 と し て 受 け 取 っ た こ と が あ る 。 ま さ に カ ネ は 天 下 の 回 り 物 、 な の で あ る 。 では、市民は一体どこでコイン を使うのか。筆者が滞在した二〇 〇八~一〇年当時の北京と青島で は、一元硬貨をタクシーや商店の 釣 り 銭 と し て 時 々 目 に す る も の の、 小 額 硬 貨 を 使 う 場 所 は ス ー特 集
途上国とコイン
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アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)パーくらいに限られていた。とは いえレジの機械から律儀に飛び出 してくる五角や一角の小銭を受け 取ると、はてどう処理したものか とむしろ面倒な気分になり、結局 そのままスーパーの出口にある義 捐金の箱に投入するのが常であっ た。一方「農貿市場」と呼ばれる 小規模な食料品市場では量り売り で 値 段 交 渉 に も 応 じ て も ら え る が、端数はおまけなどで調節され てしまうため、一元以下の小銭が 必要になることはほぼなかった。 南方ではコインの使用頻度がもう 少し多いようだが、これも南北の 気質の違いに起因するのかもしれ ない。北京の友人たちは自分達の 大 ら か さ を 誇 り、 「 北 方 人 は ネ ギ を束で買うが、ケチで細かい上海 人は一本一本買う」と言ってはよ く笑いの種にしていたものだ。