Title
[報文]青切りシイクワシャーの低温貯蔵
Author(s)
広瀬, 直人; 前田, 剛希; 井上, 裕嗣; 恩田, 聡
Citation
南方資源利用技術研究会誌 = Journal of the society tropical
resources technologists, 19(1): 29-34
Issue Date
2003-10-01
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/14194
報 文
青切りシイクワシヤーの低温貯蔵
広瀬直人*,前田剛希*,井上裕嗣*,恩田 聡**
沖縄県農業試験場化学部流通加工研究室*,沖縄県農業試験場名護支場果樹茶業研究室**
The low temperature storage of citrus -'Green Shiikuwashas-I
Naoto HIROSE*, Gouki MAEDA*, Hirotsugu INOUE*, and Satoshi ONDA*
Food Conservation and processing Laboratory, Okinawa Prefectural Agricultural Experiment Station
Fruit Trees and Tea Cultivation Laboratory, Okinawa Prefectural Agricultural Experiment Station, Nago Branch
Keywords:シイクワシヤー,青切り果,低温貯蔵
はじめに
シイクワシヤー(Citrus depressa Hayata)は 南西諸島から台湾の主に山間部に自生する小型の柑 橘類であり、沖縄では「シークワ-サー」 「ヒラミ レモン」などの名で生食や香酸柑橘、あるいは芭蕉 布の染み抜きや洗浄に利用されるなど、古くから親 しまれてきた。シイクワシヤーの原産地や由来は明 らかでないが、日本のタチバナと紀州ミカンのよう な中国産のマンダリンとの雑種と考えられている。 また、種子繁殖が主に行われてきたことから雑種や 変異が多い。沖縄では本島大宜味村や本部半島、本 島周辺離島等で主に生産されており、 「大宜味クガ ニー」 「カーアチ-」 「イシクニブ」などの系統が知 られている(1)。 シイクワシヤー果実の利用形態はユニークなもの であり、 8月下旬から10月中旬に収穫される青切り 巣は優れたフレーバーと酸味を活かした香酸用途と して調理用に、 10月下旬以降の黄化が始まり酸が減 少して甘みが加わったものは加工用途として主にジュー ス用に、更に12月中旬から1月下旬には生食用果実 *沖縄県那覇市首里崎山町4-222 **沖縄県名護市名護4605-3 の収穫が行われる。そのため各々の果実は収穫時期 依存の季節性が大きい消費形態である。 近年、シイクワシヤーにノビレチンやタンゲレチ ンなどの柑橘特有のフラボノイドであるポリメトキ シフラボノイドが多く含まれること、これらのポリ メトキシフラボノイドが血糖値・血圧上昇抑制作用、 発ガン抑制作用などの優れた機能性を有することが 明らかとなっている。また、ポリメトキシフラボノ イドは果汁よりも果皮に多く含まれていること、系 統間でそれらの含量は大きく異なることが報告され ていること(2)などから、果汁だけでなく果皮も利 用する香酸用途青切り巣の需要増大が予想される。 しかし、シイクワシヤー果実の貯蔵技術は未開発で あり、前述のような季節依存の出荷に加えて収穫期 外の需要を満たすためには貯蔵技術開発が急務であ る。そこで、青切りシイクワシヤーの供給期間の拡 大を目的として低温貯蔵試験を行い、貯蔵による品 質変化について検討した。 実験材料および方法 1.供試材料 青切りシイクワシヤーは沖縄県農業試験場名護支 場の実験圃場において系統保存されているもののう
南方資源利用技術研究会誌 ち、久米島で採取された1株から収穫選別した青切 り果(平成14年10月25日収穫・平均果重32.0g、 Brix 7.7、酸度oco/¥ を用いた。 2.貯蔵試験 青切り果実を5個ずつポリエチレン袋(厚さ0.02 mm)に入れて密封したものをポリ袋試験区、そのま まダンボ-ル箱に詰めたものをダンボ-ル試験区と して貯蔵試験に用いた。貯蔵試験温度は他の香酸用 柑橘のうちカボスやスダチでは3-5℃、レモンは 低温障害の発生を考慮して5 ℃以上が推奨されてい ること(3)などを参考に4℃および10℃と設定し、 高湿度保持型冷蔵コンテナ(ヤンマー製CRB800) を用いて貯蔵した。なお、冷蔵コンテナの庫内温度 は、試験中はいずれも設定温度±1.2℃ (湿度は95 %程度)の範囲内で推移した。貯蔵試験期間は最長 4ケ月間とし、貯蔵開始後半月(2週)、 1ケ月、 1.5ヶ月、 2ケ月および3ケ月目にサンプリングを 行い、品質評価に供した。 3.測定項目および方法 シイクワシャ一再切り巣の品質評価は、重量、果 実硬度、糖度、酸度、糖組成、有機酸およびアスコ ルビン酸含有量、におい強度、果皮色および外観の 測定により、 1試験区当たり5果実の平均値を用い た。 (1)重量 貯蔵前の重量を基準とした重量減少率を測定した。 (2)果実硬度 果実硬度計(藤原製作所製KM-1)に直径12mm の半球型チップを装着し、果実赤道部において変形 が生じる瞬間の加圧力を測定して果実硬度とした。 (3)糖度、酸度 シイクワシヤーを剥皮し、砂のう部を家庭用ジュー サー(テスコム製 TJ-9)で搾汁し、遠心分離 (l,500rpmXIOmin)で固形分を除去して得た果汁 について、糖酸度分析装置(堀場製作所製 NHl 1000)を用いて測定した。糖度/酸度の値を糖酸比 として評価した。 (4)糖組成 糖組成の分析は高速液体クロマトグラフィー(H PLC、島津製作所製)によった(義DO 3mlの果 汁に50%EtOHを0.9ml加えてよく混和した後に蒸 留水を5.1ml加えて0.45〃′mフィルターろ過したも のを分析に供した。標準試料には果糖、ブドウ糖お よびショ糖を用いた。 (5)有機酸およびアスコルビン酸含有量 有機酸およびアスコルビン酸はC18カラムを直列 接続したHPLCによる同時分析を行った(表1)0 2mlの果汁に5%メタリン酸を2ml加えてよく混 和した後に蒸留水を6 ml加えて0.45〃′mフィルター ろ過したものを分析に供した。標準試料には酒石酸、 リンゴ酸、アスコルビン酸、クエン酸およびコバク 酸を用いた。 (6)におい強度 果汁5mlを250ml容の測定用試料ビンに入れ、密 封して25℃で1時間保持した後に、ヘッドスペース のにおい強度をにおいセンサー(新コスモス電機製 XP-329)を用いて測定した。 (7)果皮色 色彩色差計(ミノルタカメラ製CR-300)で果実 赤道部の任意の1点について色調を測定した。表色 にはL a、 b値を用い、 a/b値を果皮色の色相とし て評価した。 (8)外観 萎びおよび病害発生の様子を目視観察した。 表1. HPLC分析条件 糖 組 成 有機酸組成 使用カラム 移 動 相 流 速 カラム温度 蝣蝣!蝣 ii ::; Shim-pack SCR-101N 7.9mm ¢) ×30cm 蒸留水 0.8ml/min 50℃ 示差屈折計 Shim-pack VP-ODS (× 2本・直列接続) 4.6mm ¢) × 15cm 2% KH2PO4 (pH 2.4) O.oml/min 常温 紫外分光光度計 210nm, 260nm
実験結果と考察 (1)重量および果実硬度変化 ポリ袋貯蔵区の重量減少率は4℃、 10℃貯蔵区共 に2ケ月目で2%程度、 4ケ月目では4℃区で4%、 10℃区では8 %とやや差が生じたが、貯蔵中の重量 減少が良く抑えられていた。一方、ダンボ-ル貯蔵 区では重量減少が大きく、いずれの温度区でも2ケ 月目で10%、 4ケ月目では25%に達した。このこと から、シイクワシヤーの低温貯蔵に際しては袋詰め 等を行い、蒸散による目減りを防止する必要がある と思われた。果実硬度は貯蔵1.5ヶ月目まではいず れの試験区にも大きな変化は見られなかった。 2ヶ 月目以降は、 4℃貯蔵区は僅かに減少していったが、 10℃貯蔵区は大きく減少した (図1a、 b)。後述 のように10℃貯蔵区では果皮の黄化が進み熱が進行 していることが窺えたことから、果実硬度の減少は 一、 3 、-・ t 、 餐 欄 欄 10 In 20 重量減少に伴う萎びや浮き皮の発生に加えて、熱の 進行による影響があるものと考えられた。 (2)糖分、酸分の変化 糖度(Brix)は貯蔵期間中を通じていずれの試 験区にも大きな変化は見られなかったが、糖組成で はダンボ-ル貯蔵区で果糖及びブドウ糖に減少傾向 が見られ、特にブドウ糖はポリ袋貯蔵区で顕著に減 少した。酸度はいずれの試験区でも貯蔵と共に減少 し、 4ケ月目では1%程度まで減少したが、 4℃・ ダンボ-ル貯蔵区では4ケ月目で2.1%と減少量が 小さく、酸度が良く保持されていた。有機酸組成に ついては、クエン酸含有量は、 4℃・ダンボ-ル貯 蔵区で良く保持されていたが、それ以外の試験区で はいずれも減少傾向にあり、特にポリ袋貯蔵区では 4ケ月目に1%程度まで減少した。アスコルビン酸 含有量は、ダンボ-ル貯蔵区ではいずれの温度区に
貯蔵期間(月)
0 0.5 1 1.5 図1 a.シイクワシヤー青切り黒の低温貯蔵による重量減少率 0 0.5 1 1.5 貯蔵期間(月) 図1 b.シイクワシヤー青切り黒の低温貯蔵による果実硬度の変化南方資源利用技術研究会誌 表2.シイクワシヤー青切り栗の低温貯蔵による成分変化 試験区 貯蔵期間 Brix 酸度(%) 糖組成(%) 有機酸組成(%) におい 果糖 ブドウ糖ショ糖 クエン酸アスコルビン酸強 度 貯 蔵 前 7.7 2.5 1.3 4℃・ダンボ-ル区 4℃ ・ポリ袋区 10℃ ・ダンボ-ル区 10℃ ・ポリ袋区 0.5月 1月 1.5月 2月 3月 4月 0.5月 1月 1.5月 2月 3月 4月 8.6 9.9 8.5 9.2 8.3 9.1 8.1 9.4 7.3 8.2 8.0 6.2 0.5月 8.7 1月 10.1 1.5月 8.4 2月 8.3 3月 8.8 4月 6.6 0.5月 9.3 1月 10.2 1.5月 7.7 2月 7.4 3月 6.1 4月 9.1 3.0 2.8 2.5 2.4 2.6 2.1 2.5 2.4 2.2 2.1 1.7 0.7 2.7 2.5 IK IE! 1.2 0.6 2.9 2.7 2.0 1.7 0.9 ォi IK 1.5 IE! 1.5 IK 1.5 IE! 1.6 1.2 IK IK 1.2 1.5 1.7 1.6 1.6 1.6 IE! 1.5 1.7 IE! IK 1.0 ォi 1.6 2.1 2.4 0.016 ォi IK 1.2 IK ォi 1.2 1.2 IK 1.0 ォi 1.0 0.7 1.2 1.5 IK IE! IE! 1.2 1.2 1.5 1.2 1.0 0.7 0.8 2.2 2.8 2.4 2.9 2.2 2.7 2.4 2.9 2.0 2.5 2.6 2.1 2.3 2.8 2.6 2.9 3.0 3.1 2.4 3.0 2.4 2.4 2.3 2.8 3.4 3.4 2.9 3.0 3.3 2.9 2.8 2.9 2.5 2.3 2.2 ォi 3.1 3.1 2.2 1.7 1.7 2.3 ,-i ,1 3.3 2.5 2.2 1.2 1.0 0.015 0.015 0.013 0.013 0.017 0.018 0.012 0.016 0.011 0.010 0.014 0.004 0.015 0.017 0.013 0.011 0.019 0.017 0.015 0.015 0.013 0.011 0.009 0.013 250 260 220 220 180 350 270 230 210 330 400 660 310 360 440 430 480 540 370 310 320 340 630 840 も大きな変化は見られなかったが、ポリ袋貯蔵区で は減少傾向にあるようであった(表2)。糖酸比は 4℃ ・ダンボ-ル貯蔵区では4ケ月目で4.4と貯蔵 期間を通じて大きな変化が見られなかったが、 4℃ ・ ポリ袋貯蔵区では3ヶ月目以降に急増し、 4ケ月目 には9.3となった。 10℃貯蔵区ではいずれの試験区 でも貯蔵期間と共に糖酸比が増大し、 4ケ月目には 40に達した(図2)0 (3)におい強度 果汁のにおい強度はいずれの試験区でも貯蔵2ケ 月目までは大きな変化は見られず、官能的にも良好 なフレーバーを保持していた。貯蔵4ケ月目には、 におい強度の増加が見られたが、これは腐敗臭や発 酵臭等の異臭の発生によるものであると思われた (表2)0 (4)色調変化 4℃貯蔵区ではダンボ-ル、ポリ袋貯蔵区共に貯 蔵1.5-2ケ月目にわずかに色相の変化が見られ、 貯蔵4ケ月目には色相が大きく変化して黄化が目立 つようになった。 10℃貯蔵区では0.5ヶ月目以降の 色相変化(黄化)が大きく、黄化が抑制できないこ とが示された(図3)。シイクワシヤーの青切り巣 では果実の緑色が商品上の特徴であることや、熱の 進行と共に酸が減少することから、香酸用途の青切
り巣の貯蔵には10℃は適さないものと考えられた。 (5)外観変化 果実の萎びは貯蔵2ヶ月目以降に目立ち始め、特 にダンボ-ル貯蔵区ではいずれの温度区でも果梗部 や切り口の萎びが顕著に現れた。ポリ袋貯蔵区では 萎びの発生は抑えられる傾向にあったが、 4ケ月目 にはいずれの温度区でも腐敗巣が発生した。カビ等 の病害の発生は2ヶ月目以降に観察されたが、 4℃ ・ ダンボ-ル貯蔵区では4ケ月目でも病害は発生しな かった。 以上の結果より、香酸用の青切りシイクワシヤー の低温貯蔵には、 4℃でダンボ-ル詰め貯蔵を行う ことにより、もっとも成分変化や黄化が抑制され、 2ケ月間は良好に貯蔵されることが明らかとなった。 また、 10℃貯蔵では黄化が抑制できないことから香 酸用途巣の貯蔵には適さないが、食味は劣らないよ うに感じられたので、生食用巣の貯蔵方法としては 0.2 0.0 ニ ー0.2 こ iZg
晋-0.4
コ ー0.6 -0.8 可能性が有るものと考えられた。ポリ袋密閉貯蔵で は蒸散等による目減りや萎びの発生は抑えられたも のの、糖や酸の減少や異臭(発酵臭等)が見られた。 柑橘類を密閉状態で保持すると呼吸によって低酸素 状態や高二酸化炭素状態に至り、分子間呼吸が生じ ることが知られている(4)。このことから、蒸散の 抑制には、酸素や二酸化炭素の透過率を考慮した機 能性フイルムの利用が必要であると思われた。今後、 低温貯蔵による機能性成分の動向や予措による保鮮 効果の検討、冷凍による保鮮期間の延長等による、 更なる保鮮技術の開発が必要である。 本研究は「平成14年度低コスト輸送体系確立事業 (沖縄県)」において実施したものである。 0 0.5 1.5 貯蔵期間(月) 図2.シイクワシヤー青切り黒の低温貯蔵に糖酸比の変化 0 0.5 1 1.5 貯蔵期間(月) 図3.シイクワシヤー青切り黒の低温貯蔵による色相(a/b)の変化南方資源利用技術研究会誌 概 要 シイクワシヤーの青切り巣について,低温貯蔵に よる鮮度保持効果を検討した。その結果、ダンボ-ル詰めで4℃で貯蔵することにより、 2ケ月間は良 好な鮮度が保たれることが明らかとなった。 参考文献 1) 「シイクワシヤー(特産果樹情報提供事業報告 書)」中央果実基金調査資料 No.173 (2000) 2)和田浩二、他「シイクワシャ一系統間における 果実特性と機能性成分」日本食品工学会第49回大 会要旨集、 204 (2002) 3) 「果実の鮮度保持マニュアル」流通システム研 究センター(2000) 4)茶珍和雄、他「農産物の鮮度管理技術」 (社) 農業電化協会(1992)