1 仙台市立南小泉中学校 -64- - 仙台市科学館 研究報告 第 30 号 2020 64-67
2011 年東北地方太平洋沖地震後の蒲生干潟におけるイシガレイの成長
(2020 年度調査報告)
Growth of Stone flounders in the Gamou Lagoon after the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake
佐藤賢治
1 SATOU, Kenji 要約;蒲生干潟は 2011 年東北地方太平洋沖地震により大きな被害を受け,そこに住む生物は多大なる影響 を受けた。昨年は 5 月までは河口域にイシガレイが生息していることを確認したが,6 月以降は全く確認 できなかった。七北田川河口では,5 月から 7 月にかけて導流堤工事のための鉄板を撤去する工事が行わ れた。河口域には重機が入り,土砂が流入した。この工事はイシガレイのみならず,多くの生物に影響を 与えたと考えられる。このような昨年の状況を考慮し,イシガレイの成長について調査・考察を行った。 キーワード;イシガレイ,水の出入り,水門 1.はじめに 仙台市宮城野区にある蒲生干潟は,多くの生き 物であふれていた。干潟は魚類の成長過程におい て重要な位置を占めているが,2011年東北地方太 平洋沖地震により蒲生干潟は地形が変わるほどの 大きな被害を受けた。本研究は震災後の干潟・七北 田川河口域におけるイシガレイ仔稚魚の成長を, 2011年度から継続して調査・考察したものである。 これまでの調査で,潟湖内で採集される個体は減 少しているが,七北田川河口では順調な成長を見 せていた。イシガレイは冬期に河口域沖合で産卵 し,仔稚魚は河口域へ移動し成長,再び外海へと移 動する。震災前の蒲生干潟では春に多くのイシガ レイの稚魚が観察できた。 2.採集地点 七北田川河口域,及び潟湖内で採集を試みた。 潟湖内では,導流堤に設置された水門の近くで1 匹だけ5月10日に採集した(図1)。水門を通過 し,さらにオイルフェンスを通過する稚魚は多く ないのであろう。 七北田川河口域(図2)では多くの稚魚を採集 することができた。 図2 河口域の採集地点(2020.5.10) 導流堤 七北田川 河口 オイルフェンス 図1 潟湖内の採集地点(2020.5.10)Bulletin of Sendai City Science MuseumNo.30 - 65 - 3.蒲生干潟全体の環境 堤防工事の進捗により,蒲生干潟の環境は変化 し続けている。2018年4月に設置されたオイルフェ ンス(図1)は2020年12月に撤去されていることを 確認した(図3)。 導流堤には水門が3基設置された(図3)。また, 低い通水部も2カ所作られている(図4)。七北田川 からの水の出入りは,潟湖内の環境に大きな影響 を与える。オイルフェンスの撤去と水門の設置に より,水の出入りがスムーズに行われることが期 待される。 4.採集個体について 2020年は1月13日より調査を開始した。七北田 川河口域では多数の稚魚を採集したが,潟湖内で は年間を通して1匹のみである。12月にオイルフ ェンスが撤去されたので,2021年は潟湖内にも多 くの稚魚が入り込むのではないかと思われる。採 集個体は全長を測定し一部を写真撮影した後,全 て放流している。 2020年の調査でイシガレイの稚魚を採集できた のは2月16日,3月15日,4月12日,5月10日,6月7 日である(表1)。7月以降は,確認することはで きなかった。 表1の5月10日のデータには,水門付近で採集し た11個体と,それ以外で採集した9個体の平均全 長を記録した。水門付近の稚魚の平均全長は,そ れ以外の個体のおよそ1.18倍である。全長が1.18 倍であれば体積は1.18の三乗でおよそ1.64倍,従 って重量は1.64倍となる。水門の付近は流れの影 響で水深が深い。このような場所は鳥などに補食 される可能性が低い。また,深い水底に張り付い ている稚魚はあまり流れの影響を受けず,エネル ギーの消費が少ないため,成長が早い可能性が考 えられる。 水門 図4 水が通る通水部(2020.12.26) 図3 導流堤と水門(2020.12.26) 表1 イシガレイの全長と採集日・採集数
Bulletin of Sendai City Science MuseumNo.30 - 66 - 5.成長の様子 図5は2011年からのイシガレイの稚魚の採集日 と平均全長を示している。これまでのデータから, イシガレイは全長7~8cm程度に成長すると外海へ 移動すると考えられる。 2020年はこれまでの調査で最も成長が早い年で あった。6月7日を最後に,その後は確認できなか ったが,成長して外海に移動したと考えるのが妥 当であろう。 七北田川河口ではウナギ釣りの餌とするために イソシジミ(図6)を採集する人が多く見られる。 採集している人に話を聞いたところ,七北田川で イソシジミを採集し,北上川でウナギを釣るとの ことであった。時間をかけて取りに来るほど,七 北田川河口には多くのイソシジミがいるのであろ う。イソシジミの水管はイシガレイの稚魚にとっ 図5 採集日とイシガレイの平均全長 図6 イソシジミ(2020.8.9)
Bulletin of Sendai City Science MuseumNo.30 - 67 - て重要な餌である。七北田川河口は十分な量の餌 が確保された場所と考えて良いであろう。また, 2019年から2020年にかけての冬は,例年になく暖 かい日が多かった。そのような環境も成長の早さ に影響を与えたかもしれない。 6.堤防工事の影響について 導流堤工事が進み,設置された水門や通水部に よって,潟湖と七北田川の間における水の出入り がスムーズになった。ただし,オイルフェンスが 撤去されたのが11月から12月にかけてのため,潟 湖内に入り込んで成長するイシガレイはわずかで あった。 2020年も七北田川河口では多くのイシガレイが 成長しており,来年は潟湖内での成長が期待でき る。2011年の津波で導流堤は破壊されたが,その際 多くのイシガレイが潟湖内で採集された。また,震 災前には観察会に参加した小学生の手網に入るほ ど多くのイシガレイが潟湖内で成長していた。今 回のレポートで,流れの影響を受けにくい場所で はエネルギーの消費が低く成長が早い可能性を指 摘したが,過去の調査では潟湖内のイシガレイは, 河口域の個体よりも大きい傾向があることを確認 している。流れの影響を受けにくい潟湖内はイシ ガレイにとって河口域よりも好ましい環境なのか もしれない。工事は現在も続いているが,水の出入 りが確保された現在の環境であれば,潟湖内にイ シガレイが入り込み,成長することができるであ ろう。 7.おわりに 2011年東北地方太平洋沖地震から10年,その間 蒲生干潟の環境は変化し続けた。工事は現在も続 いているが,導流堤の工事にはめどがついたよう に見える。設置された水門などにより潟湖と七北 田川の間の通水が確保されれば,環境は震災前に 近づき潟湖内でもイシガレイが成長するであろう。 しかし,防潮堤の工事は現在も続いている。土 砂の流入や重機の侵入があれば,イシガレイを始 め多くの生物は影響を受けるであろう。調査を始 めたときは,10年あれば環境は落ち着くであろう と考えていた。しかし,かなり進んだとはいえ, 工事は終了していない。工事が完全に終了し環境 が落ち着くまで,調査を続けていく所存である。 引用文献 大森みちお・佐々木浩一・伊藤絹子・片山知史. 2001.イシガレイ稚魚のイソシジミ水管摂食と 水管の再生.農林水産系生態秩序の解明と最適 制御に関する総合研究(バイオコスモス計画) 成果集平成13年.134-135 佐藤賢治.2012.2011年東北地方太平洋沖地震後 の蒲生干潟における魚類の成長.仙台市科学 館.第21号別冊東日本大震災関連調査.24-27 佐藤賢治.2013~2019.2011年東北地方太平洋沖 地震後の蒲生干潟におけるイシガレイの成長. 仙台市科学館.第22号別冊東日本大震災関連調 査.17-21.第23号研究報告.60-63.第24号研 究報告78-81,第25号研究報告63-66,第26号研 究報告62-65,第27号研究報告58-61,第28号研 究報告63-66,第29号研究報告54-57 図7 イシガレイ全長1.5cm(2020.2.16) 図8 イシガレイ全長8.5cm(2020.6.7)