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嗅覚障害と認知症

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Academic year: 2021

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日 鼻 誌 60(1):51 ∼ 53,2021

シンポジウム1

― 51 ― はじめに 国立長寿医療研究センターでは,多くの高齢者が嗅覚 低下について受診するが,原因不明も多く,鼻副鼻腔炎, 感冒後嗅覚障害,アルツハイマー病(AD)やパーキン ソン病(PD)などを除外した場合,多くが加齢による 嗅覚低下ではないかと推測している。近年ADやPDなど の認知機能障害と嗅覚障害の関連について論文が発表さ れ,これらの神経変性疾患では初期から嗅覚低下が起こ ることが報告されている。高齢者の嗅覚障害の診察にお いても,鼻腔の構造や鼻汁の分泌を確認して気導性嗅覚 障害を除外することは重要である。また嗅覚障害の診断 から神経変性疾患が早期に発見されることができれば意 義が高い。 対象と方法 嗅覚低下があり,国立長寿医療研究センター耳鼻いん こう科を受診した副鼻腔炎所見のない患者184名(認知 症25名,軽度認知障害(MCI)32名,加齢性嗅覚障害 (加齢性)76名,感冒後嗅覚障害(感冒後)51名)につ いてオープンエッセンス(OE),基準嗅力検査(T&T),

においアンケート,Visual Analog Scale(VAS),Mini- Mental State Examination(MMSE)を施行し,疾患別に 比較した。MMSE23点以下,あるいはアルツハイマー病 の診断がついている者を認知症,MMSE24∼27点,また はMCIの診断がついている者をMCI,原因が不明で認知 症やMCIに該当しない60歳以上を加齢性嗅覚障害とした。 結  果 患者全体では,年齢の上昇は,OEスコアの低下や, T&T認知域値の上昇と関連を認めた(図1)。またMMSE の低下(認知機能の低下)は,OEスコアの低下と関連が あり,T&Tの認知域値が上昇する傾向がみられた(図2)。 OEの疾患別比較では,認知症群,MCI群,加齢群は感冒 群に比べて大きくスコアが低下した(図3)。特に墨汁, 材木,カレー,ガス,ひのき,にんにくの嗅素は認知機 能が低いほど正解率が低かった。また認知症群の中で も,カレーが正解できない場合はMMSEが特に低かっ た。T&Tの疾患別比較では,検知域値の平均値は認知症 群,MCI群,加齢群,感冒群の間で差は認められなかっ たが,認知域値の平均値は認知症群が最も悪く,加齢群 や感冒群と有意差がみられた(図4)。また認知域値と検

嗅覚障害と認知症

鈴木 宏和

国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科

年齢とOE

0 2 4 6 8 10 12 40 50 60 70 80 90

認知症 OEスコア MCI OEスコア

加齢性嗅覚障害 OEスコア 感冒後嗅覚障害 OEスコア

年齢とT&T認知域値

-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 40 50 60 70 80 90

認知症T&T認知域値 MCI T&T認知域値

加齢性嗅覚障害T&T認知域値 感冒後嗅覚障害T&T認知域値 T&Tスコア 年齢 OEスコア 年齢 P <0.01 , R2=0.12 P <0.01 , R2=0.21 図 1 嗅覚検査と年齢の関係

(2)

日 鼻 誌 60(1),2021 ― 52 ― T&T スコア T&T スコア * Dunnettʻs test, P < 0.05 1.73 1.86 1.71 1.59 5.13 4.58 4.20 3.85 高度低下 嗅覚脱失 図 4  T&Tの比較。検知域値と認知域値

MMSEとOE

0 2 4 6 8 10 12 10 15 20 25 30

認知症 OEスコア MCI OEスコア 加齢性嗅覚障害 OEスコア 感冒後嗅覚障害 OEスコア P =0.03 , R2=0.21

MMSEとT&T認知域値

-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 10 15 20 25 30

認知症 T&T認知域値 MCI T&T認知域値 加齢性嗅覚障害 T&T認知域値 感冒後嗅覚障害 T&T認知域値 T&Tスコア MMSEスコア OEスコア MMSEスコア P =0.06 , R2=0.12 図 2 嗅覚検査と認知機能の関係 OEスコアDunnettʻs test, P < 0.05 * * Trend test , P < 0.01 * * 3.6 6.7 2.7 2.9 図 3 OEの平均正解数の比較

(3)

日 鼻 誌 60(1),2021 ― 53 ― 知域値の差も認知症群が最も大きく,加齢群や感冒群と 有意差を認めた。個別の嗅素について認知症群は嗅素C (生ごみのにおい)をなんとか正解できるものの,他の 嗅素はほとんど正解できなかった。特に嗅素E(糞臭)が 最大濃度でもほとんど正解できない点は他の群との違い がみられた。また日常のにおいアンケートとVASについ て,認知症群は他の3群に比べて非常に高い自己評価を 記入する割合が多く,認知症は嗅覚低下に気づいていな いことが示唆された。 考  察 OEは認知機能が低下すると不得手になるにおいが存 在したが,それらのイメージを忘れてしまったか,にお いが弱いため,記憶が呼び起こされなかった可能性があ る。においの学習や記憶化には個人の生活環境や文化的 背景も関連があり,個人にとってなじみのあるにおいの ほうが記憶に残りやすいのかもしれない。T&Tでは,何 かにおっていても何のにおいかが表現できない場合が多 かった。T&Tは,被検者がにおいを言葉で表現しなけれ ばならないので,記憶力や語彙力などの認知機能がより 成績に反映される可能性がある。日常のにおいアンケー ト,VASによる自覚評価では,認知症では本人が嗅覚低 下を気付いていないか,深刻だと認識していないことが 多く,このような検査結果の乖離を利用して,アルツハ イマー病などの認知機能低下をスクリーニングできる可 能性がある。

参照

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