日本サンゴ礁学会誌 第 23 巻,1-19(2021)
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の
利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布
阿部博哉
1,*・三ツ井聡美
1, 2・鈴木はるか
1・北野裕子
1・熊谷直喜
1, 3・山野博哉
1 1 国立環境研究所生物・生態系環境研究センター 〒305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 2 北海道大学大学院農学院 〒060-8589 北海道札幌市北区北 9 条西 9 丁目 3 国立環境研究所気候変動適応センター 〒305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 要旨 足摺宇和海国立公園には高知県土佐清水市から愛媛県宇和島市にかけての沿岸部の広い範囲が指定 されているが,この海域は水温と沿岸域の生態系構造の南北勾配が特徴的である。気候変動の影響による 生態系や生態系サービスの変化が想定される中で,保護区内で生態系をどのように利用・保全するかが課 題である。本研究では,対象域で優占する造礁サンゴと大型海藻に着目し,潜水調査により分布を把握す るとともに,関係者への聞き取り調査や行政文書の解析等によりこれらの生物資源が地域でどのように利 用・保全されているかを整理することを目的とした。調査の結果,実際にサンゴが分布する海域と観光利 用や保全活動が実施されている地域が異なることがあり,空間的なギャップが生じていることが示され た。一方,大型海藻に関しては養殖業が盛んな地域では保全の必要性に対する認識は乏しく,保全活動の 規模もサンゴと比べて限定的であることが明らかとなった。 キーワード サンゴ群集,海藻藻場,温帯域,国立公園,生態系管理,気候変動はじめに
温帯の沿岸域では,造礁サンゴ(サンゴ群集)や 大型海藻(ガラモ場,コンブ場等)に代表されるよ うに多様な生物(生物群集)がみられ生態系を構成 している。これらの生態系は,生物の生息場・餌資 源の供給や波浪の軽減,水質調整,漁業資源,観光 利用などの役割を通じて非常に高い生態系サービス を有することが良く知られている(Moberg and Folke 1999; Costanza et al. 2014)。生物の分布や行 動は水温をはじめとする環境要因の影響を強く受け るため,生態系の構造は地域によって大きく異な り,その結果我々が享受する生態系サービスにも空 間的な違いが生じることが想定される。沿岸域は漁 業・養殖業やマリンレジャーの場といった様々な形 で利用されているが,景観上高い資質を有する地域 は国立公園などの保護区に指定されることが多い (渡辺ら 2012)。観光やツーリズム分野における生 物多様性の果たす役割は沼田(2019)で議論されて おり,その中ではツーリズムが自然保護地域を含む 様々な観光地にもたらす経済的なメリットと生態系 サービスの持続的な享受のための生物多様性の保全 の重要性が指摘されている。国立公園等の海洋保護 区では生物多様性の保全に加えて観光利用を推し進 めることが重要である一方で,沿岸漁業や養殖業が 近接した距離で同時に行われることもあり,保護区 の管理は利害関係者間での調整が不可欠となる。生 物分布と利用や生態系保全の状況に空間的なギャッ プがあるような場合には,生物資源を十分に活用で きなかったり生態系の劣化が進行してしまったりす ることが生じる可能性があり,市町村レベルの空間 スケールで様々な観点に基づき沿岸域の状況を把握 することが重要であると考えられる。調査地と目的
本研究では四国の南西岸に位置する足摺宇和海国 * 連絡著者 E-mail: [email protected] 担当編集者 : 渡邊 剛(環境・保全分野) 原著論文立公園域(高知県土佐清水市,大月町,宿毛市,愛 媛県愛南町,宇和島市)とその北側に位置する地域 (愛媛県西予市,八幡浜市,伊方町)を対象とした (図 1a)。本国立公園の海域の見どころとしては, 造礁サンゴやソフトコーラル,それらに蝟集する熱 帯魚類が挙げられる(環境省足摺宇和海国立公園 ホームページ 2017)。沿岸部の公園区域は,高知県 の土佐清水市から愛媛県宇和島市にかけて,宿毛湾 をはじめ港湾等に隣接する一部の区域を除いて沿岸 部の大部分が指定されている(図 1b)。足摺岬沖を 流れる黒潮と瀬戸内海の間に位置する豊後水道は南 北およそ 80 km の間での海洋環境の変化(特に水 温の南北勾配)が非常に大きいことが特徴的である (吉田ら 2011)。例えば,足摺岬から佐田岬にかけ ての 2 月の平均水温は 13.5~18℃程度(図 2a),8 月の平均水温は 26.5~28℃程度(図 2b)であり, 南北にかけての顕著な水温勾配が冬季に形成され る。水温勾配に対応し,生態系構造が対象域内で大 きく異なると想定されることから,地域ごとの沿岸 生態系の利用や保全・管理の状況にも違いがみられ ると考えられる。また,将来的な水温上昇により生 態系構造が変化した場合には,利用できる生態系 サービスや生態系保全に必要となる方策が現在とは 異なる可能性がある。 沿岸域では気候変動による水温上昇や海面上昇, 海洋酸性化といった地球規模のストレスに加えて, 陸域負荷や開発などの地域規模の両方のストレスを 受ける可能性が高い(Scavia et al. 2002; Burke et al. 2011; Hernández-Delgado 2015)。そのため,沿 岸生態系は環境変化が生じやすい比較的脆弱なシス テムであると考えられるが,国立公園では沿岸部の 埋め立てなどの開発の影響は少ないため,気候変動 が生態系に与える影響を評価することに適してい る。一方で,国立公園などの保護区内においては, 沿岸漁業や海面養殖業が盛んで観光業と水産業の両 立が課題となる地域もあることから(例えば大森ら 2010; 桜井 2011; Lopes et al. 2015),足摺宇和海国 立公園は沿岸域の利用と生態系の保全の枠組みを示 す上で良い事例となりうる。海洋環境や沿岸生態系 の変化が人間活動にどのような影響をもたらすかを 事前に評価し,気候変動に対する適応策を検討する ことは重要な課題であるが,この場合生物の分布だ けではなく,生態系がどのように認識・利用・管理 されているかを予め把握することも不可欠である。 本研究では,対象域の広い範囲において沿岸生態 系を構成する主要な生物群集であるサンゴ群集や海 藻藻場に着目した。対象域の一部の海域では造礁サ ンゴ(以下,サンゴ)や大型海藻(ホンダワラ類) の 分 布 域 の 長 期 的 な 変 化 が 報 告 さ れ て い る が (Yamano et al. 2011; Tanaka et al. 2012; Kumagai et al. 2018),生態系の変化による影響や生態系保全 の現状・課題については整理されていなかった。本 研究の目的は,1)潜水調査により現状のサンゴ群 集や海藻藻場の分布状況および沿岸生態系の利用・ 保全状況を把握すること,2)生物分布と利用・保 全状況の空間的なギャップを明らかにして,気候変 動の適応策の検討に向けた課題を抽出することであ る。なお,我々の研究グループでは,足摺宇和海国 立公園とその周辺地域を対象に沿岸生態系の将来予 測とそれによる影響評価を実施し,地域の特徴を反 映した適応策の検討を行うことを目指しており,本 研究はその第一段階として位置付けている。
方法
沿岸生態系の現地調査 対象域周辺における大型海藻の繁茂時期である春 季から初夏(Choi et al. 2006; Haraguchi et al. 2018) を 対 象 に,2018 年 5~6 月,2019 年 5~6 月,2020 年 5 月にかけて,国立公園内の計 6 海域(高知県土 佐清水市竜串,大月町西泊,大月町柏島,愛媛県愛 南町西海,愛南町須ノ川,宇和島市津島),国立公 園外の計 4 海域(高知県宿毛市藻津,愛媛県西予市 明浜,八幡浜市大島,伊方町三崎)において水中景 観に関する現地調査を実施した(図 1a)。各海域に 設定した数地点において,水深およそ 5 m までの範 囲を 2~4 名の調査員が SCUBA もしくはシュノー ケルにより 1 地点あたり 1 時間程度遊泳した。海藻 藻場については出現した大型海藻の種を記録し,サ ンゴ群集についてはエンタクミドリイシ Acropora solitaryensis complex, ク シ ハ ダ ミ ド リ イ シ A. hyacinthus complex,ハナヤサイサンゴ Pocillopora damicornis の有無を確認した。サンゴ群集のこれ ら 3 種は日本のサンゴ礁・高緯度サンゴ群集域にお いて広く分布しており,分布や生態に関する文献も 比較的多く存在することから,分布を確認する種と して適していると考えた。また,エンタクミドリイ足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 3 シおよびクシハダミドリイシは,水中景観を構成す るテーブル状サンゴの代表種および放卵放精型の種 の一つ(波利井 2008)として,ハナヤサイサンゴ は幼生保育型の種の一つ(波利井 2008)として, 対象種に選定した。なお,エンタクミドリイシは 2 種の隠蔽種の存在が指摘されているが(Suzuki and Fukami 2012),本調査ではこの 2 種を区別した上 で,Kitano et al.(2020)に従い Acropora solitary-ensis complex と表記している。 行政文書・利用状況等の収集整理 沿岸生態系の利用状況および管理・保全状況を把 握するため,①公園管理,産業振興・環境計画等の 行政文書(表 S1),②観光業および水産業における 空間利用の状況(ダイビング,シーウォーカー,海 底透視船,海水浴,遊漁(渡船),養殖区域 ; 表 S2),③サンゴ・大型海藻の採捕に関する規制状況 (表 1),④サンゴ・大型海藻の定期モニタリングお よび食害生物の駆除活動の実施場所(表 S2),に関 するデータを紙媒体またはインターネット上から収 集した。①および③の資料は文字データとして,マ リンアクティビティや海洋生物・生態系等に関する 特定のキーワードを抽出し,各文書での記載の有無 を確認するとともに,①の文書ではキーワードの出 現頻度をカウントし,対象海域の県や市町ごとに整 理した。位置情報を有する②,④のデータに関して は GIS 上で空間分布を整理した。なお,対象海域 におけるダイビングや遊漁等における地域ごとの具 体的な利用者数のデータが得られなかったため,ダ イビングショップ・ダイビングポイントや渡船業者 の数を利用強度の簡易的な指標として用いることと した。また,沿岸域における磯根資源の利用状況の 指標として,政府統計の総合窓口 e-Stat から各市 町の採貝・採藻の漁獲量を入手した。さらに,③に 関しては規制対象種をまとめるとともに,海洋環境 やサンゴ,大型海藻類の保全やモニタリングといっ た管理方針の記載の有無についても整理した。 現地関係者・専門家への聞き取り調査 観光業,水産業,地方行政における沿岸生態系の 状況の把握のため,2017 年 9 月から 2020 年 1 月に かけて地方自治体(県,市町,水産試験場等;15 団体計 24 名),観光業者(主にダイビング事業者; 15 団体計 21 名),水産業者(主に漁業協同組合;7 団体計 8 名)といった現地関係者,および専門家 (環境省,大学,公益財団法人等)7 団体計 8 名に 対して聞き取り調査を実施した。現地関係者へのヒ アリング調査は,対象地域を南北の位置関係に沿っ 図 1 (a)本研究で対象とする市町村および(b)足摺宇和海国立公園の指定区域。公園区域は生物多様 性センター(http://gis.biodic.go.jp/webgis/sc-026.html?kind=nps)から引用。水中景観の現地調査を実 施した海域を×で示している Fig. 1 (a) Location of the study area and (b) designated area for the Ashizuri-Uwakai National Park by the Ministry of the Environment, Japan. The park area was obtained from the Biodiversity Center of Japan (http://gis.biodic.go.jp/webgis/sc-026.html?kind=nps). Our field observation areas are shown by cross marks in (a)
表 1 高知 県 およ び 愛媛 県 の研 究 対象 域 にお ける イ シサ ン ゴ類 ・ 大 型海 藻 類 (藻 場 構成 種 )の 採 捕に 関す る 法令 に よる 規 制状 況 。 なお , 生 物名 の 表記方法は参考にしたそれぞれの資料に従った。* はイシサンゴ類もしくは大型海藻類に関する記載がなかったことを示している Table 1 Regulatory status by law for collection of reef-building corals and canopy-forming macroalgae in the study area of Ehime and Kochi prefectures. Asterisk represents that there was no mention of the keywords with respect to corals or macroalgae
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 5 て 4 つに分け(伊方町・八幡浜市,西予市・宇和島 市,愛南町,宿毛市・大月町・土佐清水市),それ ぞれ 7,9,12,16 件実施した。地方自治体および 水産業者への聞き取り調査の件数は 4 地域で同程度 であったが,観光業者は利用強度の違いから南側ほ ど多くなり,調査件数に差が生じている。聞き取り 調査の項目は「対象域の特徴」,「現在生じている問 題と過去からの沿岸生態系の変化」,「将来の沿岸生 態系の変化に対する期待・懸念」に大別され,詳細 な内容は表 S3 に記載した。得られた聞き取り調査 の結果は,サンゴおよび大型海藻の分布の認識や利 用状況に関して 4 つの地域毎に整理した。
結果
現在の沿岸生態系の構造 水中観察の結果,対象域においてはイシサンゴ類 図 2 2009 年から 2018 年までの(a)2 月および(b)8 月における月平均海面水温の比較。(a),(b)は 10 年間の平均値,(c),(d)はそれぞれ 10 年間の月平均値の最低値,最高値を示している。水温のデータ は NOAA(https://coastwatch.pfeg.noaa.gov/erddap/griddap/jplMURSST41mday.html)から引用。2 月 (a,c)および 8 月(b,d)のカラーバーの範囲は異なっている Fig. 2 Mean sea surface temperatures (SSTs) in (a) February and (b) August from 2009 to 2018. (a) and (b) are 10-year mean values. (c) and (d) represent the minimum and maximum monthly mean over the 10 years, respectively. Data were obtained from NOAA (https://coastwatch.pfeg.noaa.gov/erddap/ griddap/jplMURSST41mday.html). February (a, c) and August (b, d) have a different range of color barsを主とするサンゴ群集および大型海藻のホンダワラ 類で構成されるガラモ場などが広範囲でみられた (表 2; 図 3)。また,八幡浜市大島および伊方町三崎 ではコンブ類(主にクロメ Ecklonia cava kurome) で構成されるコンブ場が確認された(図 3a)。海藻 藻場は対象域全体をみると,温帯性種(クロメ,イ ソモク Sargassum hemiphyllum 等)からなる藻場 と亜熱帯・暖温帯性種(ヒイラギモク S. ilicifo-lium,コブクロモク S. crispifolium; 田中ら 2013) からなる藻場の推移帯に位置しており,クロメは八 幡浜市以北,イソモクは宿毛市以北,ヒイラギモク は西予市以南で確認された。造礁サンゴは,津島よ りも北側の海域では出現種や被度が著しく限られて いたが(図 3a),宇和島市の津島以南ではテーブル 状のエンタクミドリイシやクシハダミドリイシが広 くみられ(図 3b, c), 愛南町須ノ川以南ではハナヤ サイサンゴも出現した。なお,温帯域で分布域を北 方に拡大している主な種としてスギノキミドリイシ Acropora muricata の報告があるが(例えば野村 2009; Yamano et al. 2011),本種には隠蔽種の存在 が示唆されていることから(Hatta et al. 1999),そ の分布拡大を議論する上では種分類の妥当性も含め た検討が必要である。 沿岸生態系の利用状況 収集した行政文書(表 S1)に記載されたマリン アクティビティおよび海洋生物・生態系に関する キーワードについては地理的な差異が明瞭であった (表 3)。マリンアクティビティとして,愛南町以南 ではダイビングに関する記載が各市町でみられ,同 時に生物に関するキーワードとしてサンゴが挙げら れることが多かった。一方,国立公園区域を有する 宇和島市では,行政文書においてはダイビングやサ ンゴといったキーワードが出現しなかった。また, 高知県が発行した行政文書内では,サンゴに関連し たキーワード(サンゴ,オニヒトデ)が大型海藻類 に関連したキーワード(藻場,海藻,ホンダワラ) よりも 2 倍程度多かったが,愛媛県ではサンゴが 7 表 2 現地調査を実施した海域における主なイシサンゴ類と大型海藻類の出現状況。●は出現 が確認された,━は出現が確認されなかったことを示している。2018 年 5 月,2019 年 5 月か ら 6 月,2020 年 5 月の観察結果に基づいている。As:エンタクミドリイシ,Ah:クシハダミ ドリイシ,Pd:ハナヤサイサンゴ,Ek:クロメ,Sh:イソモク,Si:ヒイラギモク,Sc:コ ブクロモク。表中の市町名は対象域の北側から順番に記載した Table 2 Presence-absence data of representative scleractinian corals and macroalgae in the study area during May 2018, May to June 2019, and May 2020 field observation. As: Acropora solitaryensis complex, Ah: A. hyacinthus complex, Pd: Pocillopora damicornis, Ek: Ecklonia cava kurome, Sh: Sargassum hemiphyllum, Si: S. ilicifolium, Sc: S. crispifolium. Filled circle and cross bar represent existence and absence, respectively. The names of cities and towns in the table are listed in order from the north to south of the study area
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 7 件,大型海藻類に関するものが 41 件あり高知県と は逆の出現傾向であった。 対象域におけるマリンレジャーおよび養殖漁場の 空間分布を図 4a~g に示す。ダイビングサービス を提供するショップは土佐清水市から宇和島市,そ して八幡浜市に分布するが,大月町の柏島では 10 軒程度あり特に集中していた(図 4a)。また,主要 なダイビングポイントは愛南町以南(宿毛湾を除 く)に集中していることが分かる(図 4b)。一方で, シーウォーカーや海底透視船(グラスボート)によ る観光ツアーが行われている場所は愛南町から土佐 清水市にかけてのそれぞれ 1,3 か所と非常に限定 的であった(図 4c, d)。海水浴場は対象域内に広く 分布していたものの,西予市以北で比較的多くみら れた(図 4e)。渡船業者は主に磯釣り客のためであ るが,土佐清水市から宇和島市にかけて数多くあ り,特に宇和島市内では軒数が多かった(図 4f)。 魚類や二枚貝類の養殖漁場は波浪の影響を受けにく い静穏な場所に形成されるが,対象域では愛南町か ら八幡浜市にかけて広く分布していた(図 4g)。愛 南町および宿毛湾の南部では養殖漁場(図 4g)と 主なダイビングポイント(図 4b)が非常に近接し ていることが分かった。 図 3 研究対象域(a:伊方町,八幡浜市,西予市,b:宇和島市,愛南町,c:宿毛市,大月町,土佐清 水市)におけるサンゴおよび大型海藻類を中心とした代表的な水中景観の一例。各写真中で優占するサン ゴもしくは大型海藻類は,a1:エダミドリイシ,b1・c1:エンタクミドリイシおよびクシハダミドリイシ, a2・b3:イソモク,a3:クロメ,b2・c2:ヒイラギモク,c3:ヒイラギモクおよびコブクロモク Fig. 3 Examples of representative underwater landscapes mainly composed of coral and macroalgae in the study area (a: Ikata Town, Yawatahama City, and Seiyo City, b: Uwajima City and Ainan Town, c: Sukumo City, Otsuki Town and Tosashimizu City). Dominant coral or macroalgal species in each figure are a1: Acropora pruinosa, b1 and c1: A. solitaryensis complex and A. hyacinthus complex, a2 and b3: Sargassum hemiphyllum, a3: Ecklonia cava kurome, b2 and c2: S. ilicifolium, and c3: S. ilicifolium and S. crispifolium
沿岸生態系の管理・保全状況 サンゴおよび大型海藻類の採捕に関する規制状況 を表 1 に示す。高知県および愛媛県の漁業調整規則 では一部の大型海藻の採取が規制されている。ま た,愛媛県の宇和島市と愛南町の一部の海域では県 指定天然記念物(宇和海特殊海中資源群)として, 有用海藻類を除く海藻類と造礁サンゴを含む花虫類 が規制の対象となっている。足摺宇和海国立公園内 の海域公園地区においては多数のサンゴ(イシサン ゴ類)およびフタエモク(ヒイラギモク)の採取が 規制されていることが分かる。 対象域における行政文書に記載された海洋生態系 の管理方針についてみると(表 4),高知県および 愛媛県が発行した文書内ではサンゴ群集および海藻 藻場の保全に努める旨が記載されている。一方,市 町村レベルで見た場合には,土佐清水市でオニヒト デ Acanthaster cf. solaris の駆除に関する活動が明 記されていたのみで,沿岸生態系の管理に関する位 表 3 収集した行政文書(表 S1)に記載のあったマリンアクティビティおよび海洋生物・生態系の リスト。マリンアクティビティはシーウォーカー,釣り,潮干狩り,シュノーケリング,ダイビング, 磯遊びの計 6 語,海洋生物・生態系はサンゴ・海藻・海草に関連したキーワード(サンゴ,オニヒト デ,藻場,海藻,ホンダワラ,海草の計 6 単語)に限定して抽出し,出現回数(括弧内の数値。部分 一致を含む)が多かった順に並んでいる。* は文書中に対象のキーワードの記載がなかったことを示 している Table 3 List of marine activity and marine life/ecosystem described in the collected administra-tive documents (Table S1). The keywords concerning marine activity and marine life/ecosystem were extracted the ones related to 1) sea-walker, fishing, shell gathering, snorkeling, diving, playing on rocky shores and 2) corals, coral-eating seastars, seaweed/seagrass bed, seaweed, Sargassum, seagrass, respectively. The values in parenthesis represent the number of occurrences of the keyword. Asterisk denotes that there was no mention of the keywords in the document
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 9 置付けが低いことがうかがえる。また,国立公園の 管理計画書ではオニヒトデの駆除だけでなく,サン ゴ等の損傷や海水汚染の防止など多くの管理方針の 記述がみられた一方で,大型海藻類の保全を意図し た記述はなかった。 サンゴおよび大型海藻類のモニタリングおよび保 全活動(食害生物駆除)の 2019 年度における実施 場所を図 4h~k に示す。サンゴの定期的なモニタ リング事業としては環境省のモニタリングサイト 1000(http://www.biodic.go.jp/moni1000/moni1000/) や NPO によるリーフチェック(http://reefcheck. jp/)などが実施されている(図 4h)。一方,大型 海藻に関しては対象海域で散発的な調査は行われて きたものの,統一的な手法で毎年実施されるような モニタリングはみられない(図 4i)。食害生物の駆 除に代表される保全活動は,サンゴでは環境省(マ 図 4 (A)対象とした市町および水深 30 m の等深線,および表 S2 の地理情報に基づく(a)ダイビング ショップ,(b)ダイビングポイント,(c)シーウォーカー,(d)海底透視船,(e)海水浴場,(f)渡船業者, (g)養殖漁場,(h)サンゴのモニタリング,(i)大型海藻のモニタリング,(j)サンゴの食害生物駆除,(k) 大型海藻の食害生物駆除,の位置・実施地点。エンタクミドリイシおよびクシハダミドリイシの分布北限 の指標となる 2 月の最低水温(14℃; Takao et al. 2015b および山野ら(未発表))の等温線を同時に示し た Fig. 4 (A) targeted municipalities and 30 m deep isobath, and position or area of (a) diving shop, (b) diving point, (c) sea walker, (d) glass boat, (e) beach, (f) connecting vessel for surf fishing, (g) aquaculture, (h) coral monitoring, (i) seaweed monitoring, (j) extermination of seastars and snails for coral, and (k) extermination of sea urchins for seaweed. The isotherm of the lowest surface water temperature in February (14℃; Takao et al. 2015b and Yamano et al. (unpublished data)) that is an indicator of the northern distribution limit of Acropora solitaryensis complex and A. hyacinthus complex is also shown
リンワーカー事業)・水産庁(水産多面的機能発揮 対策事業)・県・市町村といった様々な事業(予算 元)に応じて実施されており,ダイビングポイント の分布と大きく重なる形で,愛南町や宿毛市の沖の 島周辺,大月町の柏島・西泊,土佐清水市の竜串に おいて活動が行われている(図 4j)。また,活動の 記録によると,ダイビング業者と漁業者が実質的な 活動主体として参画することが多い。一方で,大型 海藻の保全活動は水産庁による事業(主にウニ類の 駆除)のみが土佐清水市,大月町,宿毛市,宇和島 市および伊方町において実施されており(図 4k), 漁業者による活動がほとんどである。ダイビングブ イの設置やサンゴの植え付け,海藻藻場造成のため の大型海藻の移植といった漁業協同組合やダイビン グ事業者単位で実施されているような小規模の保全 活動は本研究では網羅出来ていないものの,サンゴ 群集や大型海藻類を保全すべき対象として認識して いるかどうかは地域によって大きく状況が異なるこ とがうかがえる。 聞き取り調査に基づくサンゴおよび大型海藻の認 識・利用状況,沿岸生態系の攪乱要因 観光業もしくは水産業に携わる現地関係者への聞 き取り調査において,サンゴおよび大型海藻の認 識・利用状況に関して 4 つの地域ごと(伊方町・八 幡浜市,西予市・宇和島市,愛南町,宿毛市・大月 町・土佐清水市)に整理した結果を表 5 に示す。な お,表 5 では各地域において複数人からの回答によ り得られた認識・利用状況に関する特徴を記載し た。本地域ではサンゴ群集そのものがダイビングの 見どころとなっているとは限らないものの,愛南町 以南ではサンゴ群集で構成される生態系が観光資源 として認識されているという結果が得られた。伊方 町や八幡浜市ではイシサンゴ類は僅かに分布してい るが(図 3a),地元の漁業者にとってサンゴの存在 はほとんど認知されていなかった。ホンダワラ類も しくはコンブ類で構成される海藻藻場はどの海域で もみられるが(図 3),伊方町や八幡浜市以外では, 資源としての認識は低いもしくはほとんど認識され 表 4 収集した行政文書に記載のあった 1)海洋環境の保全・改善・モニタリング,2)サンゴの 保全・再生・モニタリング・食害生物駆除,3)大型海藻の保全・再生・モニタリング・食害生 物駆除に関する管理方針の分類結果。海岸清掃など生態系保全に間接的に関連するものは除いた。 文書中に記載が見られた場合を●,記載がみられなかった場合を * で示している Table 4 Examples of management policy for 1) conservation, improvement, and monitoring of marine environment, conservation, improvement, monitoring, and predator extermination of 2) corals, and 3) macroalgae described in the collected administrative documents (except for indirectly related ones such as coastal cleaning). Filled circle and asterisk represent that there was description and no description on each item (1-3), respectively
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 11 ていない状況であった。 沿岸生態系(サンゴ群集および海藻藻場)のこれ までの変化とその要因となる物理現象(気象・海 象)についてヒアリングを実施したところ,台風や 豪雨に伴う土砂流入,高水温,低水温といったイベ ントによる影響が認識されていた。2003 年と 2004 年には台風の高波浪により高知県内でサンゴが広範 囲で損傷した。2001 年 9 月(高知県西南豪雨)に は土佐清水市竜串,2018 年 7 月(西日本豪雨)に は大月町柏島で豪雨により大量の土砂が流入しサン ゴが斃死した。後者のイベント時には,宿毛湾内の 藻場においても土砂が堆積し大きな被害を受けたこ とも指摘された。2018 年 2 月には低水温(黒潮の 蛇行と寒波)の影響を受け,対象域の広い範囲で浅 場に生息するサンゴの白化が生じた。また,2008 年と 2017 年の夏季に高水温によりサンゴが若干白 化したものの,大規模な斃死には至らなかった。ま た,物理現象だけでなくオニヒトデによる食害に よってもサンゴの被度が大きく低下したことが指摘 された。
考察
水温勾配と生物分布 本研究対象域の海洋環境は,足摺岬の沖合を流れ る黒潮,そして佐田岬の北側にある瀬戸内海の水塊 の影響を受け,水温の南北勾配が非常に大きいこと が特徴である(図 2)。対象域におけるサンゴや大 型海藻の分布は夏季の最高水温および冬季の最低水 温に強く支配されると想定される。そのため,代表 的な生物種の活動条件と水温の関係を文献値に基づ いて整理した(表 6)。冬季の最低水温(図 2c)も しくは夏季の最高水温(図 2d)の等値線と各生物 の分布の南限もしくは北限を比較すると,南方系の 種(ここでは,エンタクミドリイシ,クシハダミド リイシ,ハナヤサイサンゴ,ヒイラギモク)に関し ては,表 6 で示した生残の目安となる水温と等値 線,本調査対象域内での分布北限が良く合致してい た(図 5a, b, c, f)。また,図 5 では示していないも のの,オニヒトデの大量発生が問題となっている海 域(愛南町須ノ川以南;表 5)と生残の目安となる 冬季の最低水温(15℃; Yamaguchi 1987)の等値線 表 5 足摺宇和海国立公園周辺海域におけるサンゴおよび大型海藻類の認識・利用状況に関する ヒアリング結果の概要 Table 5 A brief summary of hearing survey results for recognition and usage situation of coral communities and seaweed beds around the Ashizuri-Uwakai National Parkの位置も良い合致を示した(図 2c)。一方で,温帯 性のクロメおよびイソモクに関しては,最高水温に よって分布範囲が規定されている傾向はみられたも のの,夏季の最高水温から想定される分布域よりも 南限が大きく北側に位置していた(図 5d, e)。冬季 間の食害の影響によって大型海藻の分布が規定され るという報告もあることから(Takao et al. 2015a; Kumagai et al. 2018),大型海藻類の分布域の推定 には水温だけでなく食害圧の影響を併せて考慮する ことが特に重要であると示唆された。 生物分布と利用・保全の関係および沿岸生態系の管 理方針 図 6 にこれまで述べてきた指標生物の分布(図 6a-f),生態系の保全活動(図 6g, h),沿岸域の利 用状況(図 6i-l)に関する地理的な特徴を整理した。 以下では,サンゴと大型海藻類に分けて,市町村レ ベルで生物分布と保全・利用の間の空間的なギャッ プの有無に関して議論する。 サンゴ(イシサンゴ類)は研究対象域の広い範囲 で確認されたが,宇和島市津島より北側の海域では 出現種や被度が大きく限られた(図 3a)。八幡浜市 や伊方町の沿岸部においてもイシサンゴ類が分布し ているが,その存在はほとんど把握されておらず, 分布と認識にギャップがみられる(図 3a; 表 5)。水 温上昇によって今後サンゴの被度が高まることが想 定され,変化を捉えるためにも継続的なモニタリン グの実施が不可欠である。サンゴの食害生物である オニヒトデは近年愛南町以南で大量発生の傾向が続 いており(表 5),複数の予算元(環境省,水産庁等) 図 5 2009 年から 2018 年にかけての 2 月の月平均海面水温の最低値(青線)もしくは 8 月の最高値(橙線) の等温線(℃)と 2018 年から 2020 年にかけての潜水調査に基づく生物の出現状況。(a)エンタクミドリ イシ,(b)クシハダミドリイシ,(c)ハナヤサイサンゴ,(d)クロメ,(e)イソモク,(f)ヒイラギモク Fig. 5 Contour of monthly-mean surface water temperature (℃) in February (blue line) and August
(orange line) and occurrence of reef-building corals (a: Acropora solitaryensis complex, b: A. hyacinthus complex, c: Pocillopora damicornis) and macroalgae (d: Ecklonia cava kurome, e: Sargassum hemiphyl-lum, f: S. ilicifolium) observed through our field observations during 2018-2020. Water temperature represents the lowest (February) or highest (August) monthly average between 2009-2018
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 13 による駆除活動が実施されている(図 4j)。宇和島 市周辺ではテーブル状のサンゴが多く見られるもの の(表 2; 図 3b),南の海域と比べてダイビングに よる海中の利用頻度が低い(図 4b)。宇和島市では 主だったサンゴの保全活動(食害生物駆除)は実施 されていないが(図 4j),水温上昇によるオニヒト デの分布域の北上を考えた場合(例えば Yasuda 2018),今後食害による影響が生じることが容易に 推測される。つまり,現時点でサンゴは分布してい るが,その利用頻度は低い宇和島市以北の地域で は,生物分布と利用・保全活動の場に空間的な ギャップが存在していると言え,将来的にオニヒト デが増加した場合には保全活動の着手の遅れが生じ ることが危惧される。食害生物の駆除には多大なコ スト(人,時間)を要するが,保全活動の中心的な 存在となるダイビング事業者数には大きな空間的な 偏りがあるとともに(図 4a),生物相の定期的なモ ニタリングが実施されていない(図 4h)。そのため, 沿岸生態系の変化を早期に捉えるとともに,保全活 動を推進する枠組みを前もって構築しておくことが 重要であると考えられる。 大型海藻類についてみると,藻場の構成種は地域 間で一様ではないものの,ホンダワラ類は全ての調 査地で出現した(表 2; 図 3)。一方で,大型海藻類 の食害生物であるウニ類(主にガンガゼ)の駆除に 代表される保全活動の実施場所には大きな偏りが生 じている(図 4k)。愛南町や宇和島市の離島部を除 く沿岸部では魚類や二枚貝類の養殖が盛んである一 方で,採貝・採藻等の磯根資源を利用した極沿岸域 での漁業の規模は大きくない。また,大型海藻類を 観光資源として直接的に利用することもないため, 大型海藻類を保全すべき対象として認識されていな いことが多いものと考えられる(表 5)。なお,伊 方町や八幡浜市では磯根資源の漁獲が盛んである が,南に位置する地域と比べて藻場の構成種の変化 や藻場の衰退が顕著な問題となっていないことか ら,保全活動は小規模なものに限られている(図 4k)。つまり,大型海藻類に関して,その分布域と 利用・保全活動の場に大きなギャップが存在してお り,今後磯焼けや食害が発生していたとしても多く の場所で保全活動が行われない恐れがある。磯根資 源の採取のような沿岸漁業が盛んでない地域であっ ても,大型海藻類(もしくは海藻藻場)がもたらす 生態系サービス(生物の生息場,水質浄化機能等) を踏まえた上で,保全活動を推し進めることが重要 であると考えられる。 本研究では,現在の沿岸生態系の生物分布と,そ れらの利用・保全活動が行われている場を把握する 表 6 サンゴ(エンタクミドリイシ,クシハダミドリイシ,ハナヤサイサンゴ),サンゴ食害生物 (オニヒトデ),大型海藻(クロメ,イソモク,ヒイラギモク)の活動条件に関する水温の影響の 一例 Table 6 Examples of the effects of water temperature on activity conditions of reef-building
corals (Acropora solitaryensis complex, A. hyacinthus complex, Pocillopora damicornis), coral-eating crown-of-thorns seastar (Acanthaster cf. solaris), and macroalgae (Ecklonia cava kurome, Sargassum hemiphyllum, S. ilicifolium)
ことで,両者には空間的なギャップがあることが明 らかになった。現状,行政によるサンゴや大型海藻 類の保全活動の実施方針を見てみると,県の行政文 書ではサンゴの食害生物対策や藻場再生に関する記 述が複数みられるものの,市町村単位の文書ではサ ンゴや藻場の保全に関する記載は乏しい。しかし, 地域ごとに異なる生物分布や利用・保全活動の状況 を鑑みると,地域の実情に沿った管理対策を行うに は,市町村単位(スケール)で,サンゴや大型海藻 類を資源として認識し,保全方法について検討する ことが必須である。熱帯・亜熱帯域においてはサン ゴと大型海藻は資源を巡って競合関係にあることが 良く知られているが(例えば Tanner 1995),対象 域の南部ではサンゴと熱帯性ホンダワラ類,中部で はサンゴと温帯性および熱帯性ホンダワラ類が同所 的に生育していることが多かった。どのような生物 種によって構成される沿岸生態系が望ましいかは地 域や観光業・水産業などの業種によって大きく異な ることが想定され,保全対象種の選定についてどの ように合意形成を進めていくかが課題である。 気候変動に伴う沿岸生態系の保全 近年,日本沿岸域を対象に将来の水温上昇等の変 化に基づくサンゴや大型海藻の分布域の変化予測が 行われている(Yara et al. 2011; Takao et al. 2015a, b; Kumagai et al. 2018)。本対象域についてみると, 藻場の構成種の変化(温帯性種から熱帯性種への置 き換わり)と同時に,サンゴの分布域の北上と種数 の増加が想定される(Kumagai et al. 2018)。ホン ダワラ類が温帯性種から熱帯性種へと変化すること 図 6 研究対象域における生物分布,保全活動,観光業,水産業の実施場所および利用強度の南北勾配を 示した概念図。生物分布の塗りつぶしは表記の種の成育が潜水調査により確認されたこと,白抜きは表記 の種の分布が確認されていることを示している。保全の塗りつぶしは食害生物駆除が行われている市町村 を,利用状況のカラーバーの色の濃淡は利用強度を表している。a:イシサンゴ類(エンタクミドリイシ およびクシハダミドリイシ),b:イシサンゴ類(ハナヤサイサンゴ),c:オニヒトデ,d:コンブ類(ク ロメ),e:温帯性ホンダワラ類(イソモク),f:熱帯性ホンダワラ類(ヒイラギモク),g:サンゴ食害生 物(主にオニヒトデ)駆除,h:大型海藻食害生物(主にウニ類)駆除,i:ダイビング,j:遊漁(磯釣り), k:磯根資源の採捕,l:魚類・二枚貝類養殖 Fig. 6 A conceptual diagram showing north-south gradient in the study area for biological distribution
(a: reef-building corals (Acropora solitaryensis complex and A. hyacinthus complex), b: reef-building corals (Pocillopora damicornis), c: coral eating seastar, d: kelps (Ecklonia cava kurome), e: temperate Sargassum (S. hemiphyllum), f: tropical Sargassum (S. ilicifolium), conservation (g: control of the number of coral eating seastars Acanthaster cf. solaris, h: control of the number of sea urchins), marine leisure (i: diving, j: surf fishing), (k) fishery for rocky living resources, and (l) fish and bivalve aquaculture. Shading of the color bar in i-l represents usage intensity on each activity
足摺宇和海国立公園周辺海域における沿岸生態系の利用・保全状況とサンゴ群集・海藻藻場の分布 15 で現存量の低下や,繁茂期間の縮小が生じるととも に,これまでホンダワラ類を利用していた生物が生 息できなくなることも考えられる(Terazono et al. 2012)。また,食害に関して,大型海藻類への摂食 圧の増加(Takao et al. 2015a)による磯焼けの発 生・拡大やオニヒトデの出現域の北上(Uthicke et al. 2015; Yasuda 2018)が危惧される。海域によっ てはサンゴの成育拡大と同時にオニヒトデの大量発 生が想定され,サンゴ群集を保全するために食害対 策を重点的に検討する必要がある。なお,沖縄県に おいては,オニヒトデ大量発生の対策のために駆除 活動だけではなく発生要因に関する複合的な調査研 究や発生予測のためのモニタリングなどが継続的に 実施されており(岡地ら 2019),要因の解明と対策 まで踏み込んだ事業の展開が理想である。また,気 候変動による豪雨頻度の増加も予測されており (Nayak et al. 2018),陸域負荷の削減等によりサン ゴ群集や海藻藻場への影響を軽減することが課題で ある。生態系保全における具体的な成果目標は対象 生物(生態系)の被度や現存量の維持または増加, 分布域の回復・拡大と言えるが,保全活動の前後に おける成果の定量的な評価までは至っていない事例 が多く,事業の効果を検証する枠組み作りが重要で ある。
気候変動に対する適応策の検討に向けた今後
の課題
気候変動による沿岸生態系の変化は水産業や観光 業などの様々な分野に影響を及ぼすことが想定され る。2016 年の夏季に南西諸島でサンゴの大規模な 白化が発生したが(川越 2017),この際に石西礁湖 ではサンゴ礁生態系に基づく生態系サービスの低下 が実際に生じている(Sato et al. 2020)。このよう に,生物の分布域もしくは被度の変化が生態系機 能・生態系サービスに与える影響を地域ごとに定量 的に評価することが今後の課題である。また,サン ゴおよび大型海藻の繁栄/衰退に対する影響は観光 業や水産業などの業種間で異なるとともに,資源や 空間を巡って異業種間での利用調整が必要となる場 面が生じることもある。日本のサンゴ礁域における 観光業者と漁業者の利害調整過程については豊島・ 灘岡(2016)によって報告されているが,本地域で もダイビングと遊漁の利用空間が重なる地域(図 4b, f)やダイビングと養殖業の実施場所が近接した 地域(図 4b, g)があり,利用場所を巡る競合や養 殖場からの残餌による水質悪化がダイビングの質に 影響を与えることなどが危惧される。南に開けた海 岸線では波浪の影響を強く受けることから養殖場が 設置されることが少ない。そのため,宿毛湾南部か ら宇和島市にかけて集中して養殖場が分布してい る。一方,ダイビングポイントは土佐清水市から愛 南町にかけて(宿毛湾の奥部を除く)広く見られる。 これらの要因により,宿毛湾の南部と愛南町では養 殖漁場とダイビングスポットが近接していると考え られる。なお,磯根資源の漁獲が盛んな海域では密 漁等の懸念が強く生じることから,ダイビング等に よる沿岸部の観光利用が盛んではないのが現状であ る。加えて,将来サンゴの分布域が北上し観光利用 されるような場合には,沿岸漁業や養殖業と観光業 の関係者間での調整が必要になると考えられる。 気候変動の緩和や適応において沿岸域の植生が重 要な役割を果たすため(Duarte et al. 2013; Spalding et al. 2014),EbA(Ecosystem-based Adaptation) や Eco-DRR(Ecosystem-based disaster risk re-duction)といった視点も踏まえて,沿岸生態系の 保全を推し進めることが重要である。気候変動およ びその影響が進行する中で,現在の利用および保全 状況が単純に継続されるような場合には,変化する 生物分布域と利用,保全活動の場との間のそれぞれ のギャップがますます拡大することに繋がる。その ため,将来の環境・生態系・生態系サービスの変化 の可能性に合わせて,現在の管理策に対して,今後 必要になりそうな適応策(サンゴ北上域でのサンゴ 群集生態系の観光活用・食害生物駆除体制の構築 等)を入れ込むことが重要であると考えられる。謝辞
本研究の一部は,環境省の地域適応コンソーシア ム全国運営・調査事業委託業務,国立環境研究所気 候変動適応研究プログラムにより実施された。環境 省中国四国地方環境事務所土佐清水自然保護官事務 所(当時)の山下淳一氏,公益財団法人黒潮生物研 究所には現地での調査に当たって様々なご協力をい ただいた。対象地域内の行政関係者,漁業協同組合,ダイビングショップをはじめ多くの皆様にはヒアリ ングにご協力いただき心より感謝する。サンゴの保 全活動の実施地点に関する情報は環境省土佐清水自 然保護官事務所および愛南町商工観光課,大型海藻 の保全活動の実施地点に関する情報は高知県水産振 興部漁業振興課,宇和島市産業経済部水産課から提 供いただいた。また,国立環境研究所生物・生態系 環境研究センターの瓜生真也氏,中嶋惠子氏には解 析作業にあたってご支援をいただいた。ここに感謝 申し上げる。
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電子付録
表 S1 足摺宇和海国立公園周辺域を対象とし観 光・水産振興計画,環境計画および国立公園の管理 計画に関して収集した行政文書Table S1 Administrative documents collected focusing on tourism and fisheries promotion plans, environmental plans, and national park manage-ment plans in the study area 表 S2 足摺宇和海国立公園周辺域における沿岸域 の利用および保全状況の空間分布に関連して収集し たデータの一覧 Table S2 List of data collected in relation to the spatial distribution of the use and conservation of coastal areas around Ashizuri-Uwakai National Park 表 S3 現地関係者(地方自治体,観光業者,水産 業者)および専門家への主なヒアリング項目 Table S3 Main items to be interviewed with local stakeholders (local government, tourist agent, and fishermen) and experts 2020 年 9 月 19 日 受領 2020 年 12 月 4 日 受理 Ⓒ 日本サンゴ礁学会
19
Use and conservation of coastal ecosystems and distribution of
reef-building coral communities and macroalgae beds in the
Ashizuri-Uwakai National Park and its surrounding area
Hiroya ABE
1,*, Satomi MITSUI
1, 2, Haruka SUZUKI
1, Yuko F KITANO
1,
Naoki H KUMAGAI
1, 3, and Hiroya YAMANO
11 Center for Environmental Biology and Ecosystem Studies, 16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8506, Japan
2 Graduate School of Agriculture, Hokkaido University, N9 W9, Sapporo, Hokkaido 060-8589, Japan
3 Center for Climate Change Adaptation, 16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8506, Japan
* Corresponding author: H. Abe E-mail: [email protected]
Communicated by Tsuyoshi Watanabe (Environment and Conservation Editor)
Abstract A wide range of coastal areas between Tosashimizu City (Kochi Prefecture) and Uwajima City (Ehime
Prefecture) are designated as the Ashizuri-Uwakai National Park by the Ministry of the Environment, Japan, and this area has a characteristic of a strong north-south gradient of surface water temperature. The purpose of this study was i) to assess the underwater landscape with a focus on corals and macroalgae that dominates the study area and ii) to evaluate how these biological resources are used and conserved in the local tourism and fishery industries based on administrative documents. The results of the analysis indicate that the areas where many corals are actually distributed may differ from the areas where tourism use and conservation activities are inten-sively carried out. On the other hand, for macroalgae there was a low frequency of use and awareness of the need for their conservation in areas where the aquaculture industry is active, and the actual implementation of conser-vation activities was limited compared to corals. When considering management proposals against future cli-mate change, it is important to take into account not only environmental and biological projections, but also the human side of use and management. Therefore, the challenge is to build a consensus among stakeholders based on the findings of this study and reflect them in the management plan for each municipality.
Keywords: coral community, seaweed bed, temperate sea, national park, ecosystem management, climate change
Received: 19 September 2020/Accepted: 4 December 2020
Ⓒ Japanese Coral Reef Society
Journal of the Japanese Coral Reef Society 23: 1-19(2021) Original paper