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ダイズ安定生産に資する耐冷性と耐倒伏性の遺伝育種学的研究および品種育成への応用

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特 集 記 事

ダイズ安定生産に資する耐冷性と耐倒伏性の遺伝育種学的研究および品種育成への

応用

山口直矢

北海道立総合研究機構 十勝農業試験場,北海道河西郡芽室町,〒 082-0081

Genetics and breeding studies on tolerances to chilling temperature and to lodging for

stable soybean production

Naoya Yamaguchi

Tokachi Agricultural Experiment Station, Hokkaido Research Organization, Memuro-cho, Kasai-gun, Hokkaido 082-0081, Japan

キーワード ダイズ,耐冷性,耐倒伏性,遺伝解析,品種育成

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.はじめに

ダイズは日本型の食生活に欠かせない豆腐,煮豆,納 豆,味噌,醤油などに加工される主要作物であり,輪作 体系を維持するためにも重要な作物である.ダイズは全 国で 146,600 ha 作付されており,そのうち北海道では 40,100 ha作付けされ,都道府県では全国 1 位の作付面積 である(2018 年 農林水産省).また,ダイズの収量は 全国平均で 144~168 kg/10 a であるのに対し,北海道平 均は 205~245 kg/10 a と大きく上回り,全国一の収量レ ベルである(2016~2018 年 農林水産省).しかし,北 海道はダイズ栽培の北限に位置するため,冷害に見舞わ れる事例があり,特に近年では種子品質の低下が安定生 産の障壁となっている.また,北海道ではコンバイン収 穫が一般的であることから機械収穫時の損失を減らすた め,また品種のポテンシャル収量の向上のため,耐倒伏 性の向上が求められている.本稿では,ダイズの耐冷性 と耐倒伏性の遺伝育種学的研究の成果を概説するととも に,品種育成にどのように応用されているかを紹介した い.

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.耐冷性の遺伝解析

1)低温裂開抵抗性 近年,北海道では,背側種皮が裂け子葉部が露出する “裂開粒”の発生による種子品質および歩留まりの低下 2020年 9 月 16 日受領 日本育種学会奨励賞受賞(第 57 号) 2020年 11 月 11 日 J-STAGE 早期公開 Correspondence: [email protected] が栽培上の問題となっている(図 1).まず,栽培現場で 裂開粒発生が多い基幹品種「ユキホマレ」の裂開粒多発 事例を解析し,開花から 14~21 日後の平均気温と裂開粒 率の間に有意な負の相関があることを見出した(表 1). 次に過去の圃場試験の裂開粒発生事例の解析から,裂開 抵抗性には品種間差があり,「十育 238 号」等は裂開抵抗 性が強いことを明らかにした(表 2).人工気象室で裂開 抵抗性の品種間差を再現するために,様々な低温処理条 件を検討した.その結果,開花 10 日後から 21 日間の処 理条件が適切であることを明らかにし,これを裂開抵抗 性検定法とした(表 2).人工気象室を用いた検定法は精 度が高い一方,人工気象室の面積とコストの観点から, 初期世代からの選抜に適用するのは困難である.そこで, 裂開抵抗性の DNA マーカー選抜を可能にするため,開 発した検定法を用いて遺伝解析を行った.裂開抵抗性が 基幹品種「ユキホマレ」で発生した裂開粒. 背側種皮が裂け子葉部が露出する.屑粒として扱われる ため,生産者の歩留まりが低下する. 図 1.

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強い「十育 248 号」(裂開抵抗性系統「十育 238 号」が 親)と弱い「ユキホマレ」の組換え自殖系統群(RILs) を用い,2 つの量的遺伝子座(QTL)を検出した(表 3). 2つの QTL は 2 年連続で検出され,残余ヘテロ系統由来 の準同質遺伝子系統(NILs)においても効果が認められ た. このうち一つは低温着色抵抗性に関与する主要な QTL(Ic)と同領域に検出された.黄ダイズにおいて,I 座は臍色を決定する因子の一つであり,Ic と I は対立遺 伝子である.常温ではどちらも黄色の臍となるが,低温 下において,I は低温で臍が褐色に変色しやすいのに対 し,Ic は変色しにくい(Ohnishi et al. 2011).着色粒の種 皮ではプロアントシアニジン(PA)が臍周辺に蓄積して いることが 4-Dimethylaminocinnamaldehyde 染色により示 唆されている.また PA は種皮物性を変化させ,裂皮を 生じさせる原因物質の可能性がある(Senda et al. 2017). 低温処理を行った粒肥大最大期の種皮の PA 蓄積を観察 したところ,「ユキホマレ」(I)では臍周辺および背側に PAが蓄積していたのに対し,「十育 248 号」(Ic)は PA が検出されなかった(Senda et al. 2018). また,残余ヘ 開花後の平均気温と裂開粒率の関係 開花後期間(日) 相関係数(r) 0–7 −0.29  7–14 −0.48* 14–21 −0.73*** 21–28 −0.44* 低温で裂開粒が発生しやすい「ユキホマレ」を用いた.2001~ 2011年の圃場試験の平均気温および裂開粒率を用いた(n = 26). *5%水準で有意.***0.1% 水準で有意. 表 1. テロ系統から作出した Ic/I の NILs を用いても同様の結果 となった.「十育 248 号」の育成系譜上の系統を裂開抵抗 性検定に供試したところ,「十育 225 号」は Ic への変異 発生と裂開抵抗性の獲得が同時に起きていた(図 2).以 上より,Ic は「十育 248 号」の裂開抵抗性 QTL の原因遺 伝子である可能性が高く,PA 蓄積の抑制は裂開抵抗性に 繋がることが示された. 2)低温着色抵抗性 裂開粒の他に,開花後の低温によって臍周辺部が着色 する“着色粒”発生も栽培上の問題となる(図 3).人工 気象室を用いた検定法により,低温着色抵抗性に関する QTLが検出され,Ic を識別する DNA マーカーが開発さ れた(Ohnishi et al. 2011).検定法は開花 1 週間後から 2 「十育 248 号」育成系譜上の系統の裂開抵抗性と qCS8-1 遺伝子型の関係. 強,中,弱は裂開抵抗性を指す.Ic への変異は「ツルコ ガネ」と「トヨムスメ」の交配から,「十育 225 号」を育 成する過程で生じたと考えられる. 図 2. 圃場と検定法における低温裂開抵抗性の品種間差 品種・系統 裂開粒率(% ) 裂開抵抗性 多発年圃場(n = 9) 検定法(n = 3) ユキホマレ 5.1 a 32.4 a 弱 トヨムスメ 2.3 a 47.6 a 弱 十育 238 号 0.1 b 4.5 b 強 トヨホマレ 0.2 b 2.1 b 強 多発年圃場は「ユキホマレ」で裂開粒が 1% 以上発生した圃場試験の平均値.検定法 は人工気象室で開花 10 日後から 21 日間の低温処理を行った(昼 18℃/夜 13℃).異 なるアルファベット間に 5% 水準の有意差がある(Tukey-Kramer 検定). 表 2. 低温裂開抵抗性の QTL 解析結果(十育 248 号×ユキホマレ RILs) 染色体 年次 位置(cM) 最近傍マーカー LOD 寄与率(% ) 相加効果(十育 248 号) QTLの名前  8 2013 2.0 Ic 6.2 20.4 −6.8 qCS8-1  8 2014 0.0 Ic 2.7 7.6 −4.1 11 2013 63.0 GMES0027 3.3 10.9 −5.0 qCS11-1 11 2014 68.0 Satt597 3.2 10.0 −4.7  2 2013 65.1 Sat_227 2.3 8.6 −4.4 qCS2-1 コンポジットインターバルマッピング法による(QTL Cartographer version 2.5).QTL 解析には,各年次の裂開粒率(% )の逆正弦変換 値を用いた.qCS2-1 は 2013 年のみ検出されたため,効果が不安定とみなし,のちの解析からは除外した. 表 3.

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週間の低温処理(平均気温 16℃)を人工気象室で行うた め,圃場で低温に遭遇する場合と比較して厳しい条件で ある.この検定法を用いた QTL 解析では,Ic 以外にも効 果 の 小 さ な QTL が 第 14 染 色 体 に 検 出 さ れ て い る (Ohnishi et al. 2011).このため,Ic だけで圃場レベルの 低温に対して十分な抵抗性を有するか検証が必要とされ ていた. 本研究では,Ic の NILs を含む育成系統を北海道網走 市の冷涼地圃場に供試し,Ic の効果を検証した.2017 年 の網走市圃場では,開花 1 週間後から 2 週間程度の低温 (平均気温 16–18℃)に遭遇し,育成系統の一部に低温着 色粒が多発した.Ic 型の系統は I 型の系統よりも有意に 着色程度が低く(図 4),また品種「とよみづき」に Ic を 導入した NIL は完全に着色粒の発生を抑えられた(図 5).これらの結果より Ic の効果は非常に大きく,Ic だけ で圃場での着色粒発生を十分に抑えられることが明らか となった. 冷涼地圃場で発生した低温着色粒. 低温着色に弱い「十系 1296」号の種子.臍周辺部が褐色 になり,裂皮を生じることもある.このため落等要因と なり,生産者の収益に影響する. 図 3. 3)開花期耐冷性 開花前後の低温による着莢障害は“障害型冷害”と呼 ばれ,冷害下で最も大きな減収要因となる.カナダやス イスなどの海外の研究機関では,低温処理後の着莢数を 評価する検定法が開発されてきたが(Schori et al. 1993, Gass et al. 1996, Cober et al. 2013),収量ベースでの評価法 は開発されていなかった.これまでに道総研では,常温 区と低温区の収量比を評価する開花期耐冷性の検定法を 開発し(Kurosaki et al. 2003),開花期耐冷性が強い品種 として,「トヨホマレ」(湯本ら 1995),「ハヤヒカリ」(湯 本ら 2000),「トヨハルカ」(田中ら 2015)などを育成し てきた.遠縁の遺伝資源は多収系統選抜のために有効と の報告が多数あり(Li et al. 2008, Palomeque et al. 2009, Kim et al. 2012),北海道での安定多収のためには開花期 耐冷性の強い海外品種を選定することが重要である. 本研究では,開花期耐冷性の強い海外遺伝資源を選定 冷涼地圃場で栽培した「とよみづき」と「十系 1284 号」 の種子の外観. 「十系 1284 号」は連続戻し交配で「とよみづき」に Ic を 導入した NIL.「とよみづき」は臍部に着色が見られる が,「十系 1284 号」は全く着色が見られなかった. 図 5. 冷涼地圃場における Ic の効果. 着色程度は臍および臍周辺の着色面積から 0(無)−4(甚)で 1 粒ずつ評価し,1 区あたり 50 粒を調査(乱塊法 2 反復の試験). ( )内は各遺伝子型の着色程度平均値を示す.***0.1% 水準で有意. 図 4.

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するため,Kurosaki et al.(2003)の検定法を用いて,北 海道と同じ高緯度地域の海外品種の中からスクリーニン グを行った(図 6).その結果,カナダ,スイス,ポーラ ンド等の中から開花期耐冷性の強い 6 品種「Maple Arrow」,「AC Proteus」,「Ceresia」,「Pelvoux」,「Silvia」, 「Mazowia」を選定した(図 7).これらの品種は共通し て,スウェーデンの育種家が開発した樺太の遺伝資源に 由来する「Fiskeby」を系譜上に持っていた(図 8).北海 道の耐冷性品種育成にも樺太の遺伝資源が使われてきた ことから,世界的に見ても樺太のダイズは耐冷性向上に 重要と考えられた. 開花期耐冷性の品種間差. 人工気象室で開花始から 28 日間の低温処理(昼 18℃/夜 13℃)を行った.開花期耐冷性が強い北海道品種「とよみ づき」(左)と弱いカナダ品種「Maple Belle」(右).低温 処理を行った「とよみづき」の成熟後に撮影した.「とよ みづき」は着莢数が多く,葉が落ちているのに対し,「Maple Belle」は著しく着莢が少なく,葉が残ったままである. 図 6. 開花期耐冷性スクリーニングの結果(強い品種のみを抜 粋). 「トヨハルカ」は強,「ユキホマレ」はやや強,「トヨムス メ」は中の標準品種である.Chilling Tolerance Index(% ) は(低温区の子実収量)/(常温区の子実収量)×100 の式 から求めた(Kurosaki et al. 2003). 図 7.

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.耐倒伏性の遺伝解析

これまでにダイズの倒伏が収量やコンバイン収穫損失 に及ぼす影響について,多くの研究がされてきた(Weber and Fehr 1966, Woods and Swearingin 1977, Noor and Caviness 1980).完全な倒伏は 30% 以上の減収(齊藤ら 2012),20% 以上の収穫ロスとなる(内川ら 2006).ダイ ズの倒伏は気象,土壌などの環境条件に左右されるため, 育種においては DNA マーカーによる耐倒伏性系統の選 抜が有効と考えられる.倒伏程度を指標とした遺伝解析 については多くの報告があるが,その多くは熟性遺伝子 や伸育型遺伝子の近傍に QTL が検出されている(Mansur

et al. 1993, Lee et al. 1996, Orf et al. 1999, Specht et al.

2001).このため,これらの QTL が熟性遺伝子や伸育型 遺伝子の多面発現の可能性があり,育種に利用可能な DNAマーカーは未開発であった. 本研究では熟性遺伝子や伸育型遺伝子が分離しない北 海道品種同士の組合せを用いて,耐倒伏性の DNA マー カーを開発することを目的とした.まず,耐倒伏性が強 い「トヨハルカ」と弱い「トヨムスメ」の RILs を用い て,4 年間にわたって倒伏程度の調査を行い,QTL 解析 を行った(図 9).その結果,効果の大きい QTL,qLS19-1 を検出した(表 4).qLS19-1 は熟性遺伝子 E3,伸育型遺 伝子 Dt1 の上流に検出されたが,両親の「トヨハルカ」 と「トヨムスメ」はともに E3/dt1 と同じ遺伝子型である ため,qLS19-1 の責任遺伝子は新規の耐倒伏性遺伝子で ある可能性が高い.qLS13-1 は「トヨハルカ」型で倒伏 を助長し,主茎長の QTL が同領域に検出されたため, qLS19-1に絞って研究を進めた.次に,qLS19-1 の関与形 質の同定およびファインマッピングを進めるため,「トヨ ムスメ」を戻し交配親とする NILs を育成した.NILs に おいても,qLS19-1 は早晩性,主茎長,収量性等の農業 開花期耐冷性が強い海外品種の育成系譜. 下線は開花期耐冷性が強い品種を指す.太字はスウェー デンで開発された「Fiskeby」を指す. 図 8.

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形質に影響を与えず,耐倒伏性を向上させたことから, qLS19-1は地下部形質に影響を与える遺伝子の可能性が 高いと考えられた.NILs の生育途中で倒伏関連形質を調 査し,qLS19-1 は押し倒し抵抗モーメント比の向上に関 与していることを明らかにした(図 9,図 10). また, 押し倒し抵抗モーメント比と一次側根数の形質間には, 有意な負の相関があったことから(r = −0.881),調査が 簡便な一次側根数の評価法を用いて qLS19-1 のファイン マッピングを試みた.qLS19-1 近傍で乗換えが生じてい る 6 点の NILs の一次側根数を 2 年間調査し,候補領域 を 356 kb に絞り込んだ(図 11).候補領域の 3 点の DNA マーカーでは,QTL 解析のピークであった Sat_099 が最 も効果が高く,Sat_099 近傍に責任遺伝子が座乗する可能 倒伏程度の品種間差と倒伏関連形質の調査法. 莢伸長期~粒肥大期に倒伏が発生した「トヨムスメ」(2011 年 7 月 28 日撮影).qLS19-1 の関与形質を明らかにするた めに,「トヨムスメ」の倒伏が始まる前に押し倒し抵抗 値,地上部生重,重心高,一次側根数等の倒伏関連形質 を調査した. 図 9. 性が高い(図 11).北海道品種間では,Sat_099 近傍の マーカー遺伝子型は「トヨハルカ」に特異的であり,育 種選抜に利用できる.

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.品種育成への応用

本研究で開発した裂開抵抗性検定法を活用して,2012 年に初の裂開抵抗性品種「とよみづき」を育成し(山口 ら 2014),道東地域を中心に普及している(2018 年 3,500 ha以上の作付).「とよみづき」は Ic を持たないが, 裂開抵抗性であることから,新規遺伝子の関与が示唆さ れる(千田ら 2019).そこで現在,「とよみづき」に由来 する裂開抵抗性 QTL の検出および効果検証を進めてい る(山口ら 2019).Ic が着色抵抗性だけではなく裂開抵 抗性にも効果があることを明らかにしたため,育種事業 では耐冷性を育種目標とする組合せで,Ic を保持する系 統を積極的に選抜している.開花期耐冷性の優れる海外 品種は母本として育種事業で利用し,ポーランド品種と 北海道品種の交配から,早生で開花期耐冷性が強い「十 育 251 号」(Yamaguchi et al. 2015),多収で開花期耐冷性 が極めて強い「十育 273 号」など複数の有望系統を選抜 した.特に「十育 273 号」については,既存の北海道品 種 を 上 回 る 開 花 期 耐 冷 性 を 持 ち , ポ ー ラ ン ド 品 種 「Mazowia」(図 8)と北海道品種「トヨハルカ」の耐冷性 の集積に成功したと考えられる.将来的には,「Mazowia」 に由来する開花期耐冷性の DNA マーカー開発が可能か もしれない. 倒伏程度の QTL 解析結果(トヨハルカ×トヨムスメ RILs) 染色体 位置(cM) 最近傍マーカー LOD 寄与率(% ) 相加効果(トヨハルカ) QTLの名前 19 110.9 Sat_099 11.4 19.8 −0.40 qLS19-1 13 123.3 Sat_313  3.7 10.9  0.29 qLS13-1 コンポジットインターバルマッピング法による(QTL Cartographer version 2.5).QTL 解析には,倒伏程度(0(無)−4(甚))の 4 年間 の平均値を用いた.qLS13-1 は「トヨハルカ」型で倒伏を助長し,主茎長の QTL が同領域に検出されたため,のちの解析からは除外 した. 表 4. 押し倒し抵抗モーメント比の調査結果. 「十系 1180 号」は連続戻し交配で「トヨムスメ」に qLS19-1 を導入した NIL.押し倒し抵抗モーメント比は(地上部生重)× (重心高)/((押し倒し抵抗値)×(押高さ))の式から求めた.押し倒し抵抗モーメント比が低いほど耐倒伏性が強い.各年次 の異なるアルファベット間に 5% 水準の有意差がある(Tukey-Kramer 検定). 図 10.

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2018年には「トヨハルカ」を系譜上に持ち,耐倒伏性 が優れる品種「とよまどか」を育成した(小林ら 2020). 「とよまどか」の育成系譜上の品種系統の qLS19-1 の遺伝 子型を調べた結果,「とよまどか」は「トヨハルカ」型の qLS19-1を保持していることが明らかとなった.このこ とから,qLS19-1 は不良形質の連鎖がなく,育種事業で も利用できることが示された.現在,北海道や東北の育 種現場では,様々な遺伝背景下で qLS19-1 の効果検証を 進めている.北海道では耐倒伏性が劣る高イソフラボン 品種「ゆきぴりか」に戻し交配による qLS19-1 の導入を 試みている.今後 qLS19-1 の責任遺伝子単離による高精 度マーカーの開発も期待される.

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.おわりに

近年,日本の収量レベルは伸び悩んでいる.そのため, 安定生産の次のステップとして,収量ポテンシャル向上 にも取り組んでいる.多収の遺伝資源を探索するため, 北海道でも多収を示すカナダ品種「OAC Dorado」を見出 した(Yamaguchi et al. 2019).2018 年にはカナダから多 収の近代品種を導入し(山口 2017),更に多収の品種を 見出している.また,シンク能を最大化するため,主茎 莢数を増やす効果を持つ長花梗形質について遺伝解析お よび利用を進めている(Yamaguchi et al. 2014, Kitabatake

et al. 2020). 主に他殖性作物で用いられている,交配と選抜を繰り 返して優良遺伝子を集積する“循環選抜育種法”の開発 も進めている.同一集団内で交配を繰り返すことにより, 7つの収量 QTL と qLS19-1 を集積し,多収系統を複数選 抜している.このため,幅広い遺伝背景で循環選抜育種 法を用いれば,更に多収の系統を選抜できる可能性が高 い.循環選抜育種法では多数の交配が必要とされるが, ダイズは花が小さく,人工交配の成功率が低い.この問 題を解決するため,雄性不稔系統とミツバチを利用した 労力のかからない新規の交配法の開発に着手している(山 口 2019).近い将来,自殖性作物のダイズでは難しいと されてきた循環選抜育種法の開発も夢ではない. 育種家は毎年膨大な数の個体や系統を評価し,選抜し なくてはならない.更に不要な個体や系統は可能な限り 早く廃棄し,その分遺伝背景を広げる努力もしなくては ならない.本研究を進めるアイディアの多くは,実際に 育種家としてダイズ育種を行う上で,育種事業に必要な 選抜の効率化や遺伝背景の拡大を念頭に置いて着想して いった.その後,耐冷性や耐倒伏性の遺伝育種研究に関 する成果を育種事業にフィードバックし,育種の効率化 や品種育成に活用した.すなわち,本研究は育種事業と 遺伝育種研究の両輪を回すことによって実施できた.育 種家ならではの研究,育種家だからこそ実施できた研究 と感じている.

謝 辞

本研究は多くの研究者との共同研究の元に得られたも のである.弘前大学農学生命科学部の千田峰生教授をは じめ,農研機構 次世代作物開発研究センターの石本政 男博士,船附秀行博士(現:京都先端科学大学),加賀秋 人博士,田口文緒博士,西日本農業研究センターの佐山 貴司博士には一連の研究に関してご指導および多大なご 支援を頂いた.農林水産省のゲノムプロジェクトにおい ては,石本政男博士が北海道農業研究センターで立ち上 げたマーカー選抜支援課題に多大なご協力を頂いた.母 校である北海道大学農学研究院の先生方,特に学生時代 一次側根数を用いた qLS19-1 のファインマッピング.

NIL-A~NIL-F は連続戻し交配で「トヨムスメ」に qLS19-1 を導入した NILs である.各年次の NILs の一次側根数を NIL-F を対 照とした Dunnet の検定で有意差検定した.各マーカーの一次側根数の分散分析(ANOVA)は,年次と年次間反復を変量効果, 遺伝子型を固定効果とする混合モデルで行った.*5% 水準で有意.**1% 水準で有意.ns 有意差なし.

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からの指導教官である増田税教授には多くのご助言およ びご支援を頂いた.2016 年に実施したカナダの海外研修 では,オタワ R&D の Dr. Cober,グエルフ大学の Dr. Rajcan に同じ育種家の視点から多くのご助言を頂いた.共に育 種研究を進めてきた道総研の研究員,圃場管理業務を 担っている支援職員,調査や圃場作業の補助を担ってい る契約職員の皆様に感謝する. 本研究は,農林水産省のプロジェクト研究,文部科学 省の科研費,タカノ農芸化学助成財団,ノーステック財 団など多くのプロジェクトの支援を受けて実施した.こ の場を借りて御礼申し上げる.

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