宇都宮共和大学における初年次教育の現状と課題(2)
−平成22年度「コミュニケーション講座」授業報告と意識調査結果−
Issues in education for the First-Year Student at UTSUNOMIYA KYOWA UNIV (2) Class Reports and the results of a questionnaire survey
松 田 勇 一
概 要 本稿では、宇都宮共和大学において平成22年度のコミュニケーション講座の授業報告 と、本講座を受講した新入生に対して行った意識調査の結果を示した。授業報告では、 まず、前年度のコミュニケーション講座の問題点を踏まえて変更した点を述べた。次に、 コミュニケーション講座の目的、方法、各回の概要を示し、また授業の問題点を述べた。 意識調査では、大学生活、今後の勉強、コミュニケーション、コミュニケーション講座 に大別し、各項目に関する質問とその回答結果を示した。結果から、入学年度による意 識の違いや日本人学生と留学生の相違点等が明らかになった。また、コミュニケーショ ン講座に対する評価から、今後の改善点などを示した。 キーワード:初年次教育 コミュニケーション ポートフォリオ 意識調査 留学生 目 次 1. はじめに 2. 講義概要 2.1 目的 2.2 講義の方法 2.3 成績評価 2.5 担当教員ミーティング 3. 授業報告 3.1 授業概要 3.2 授業についての反省点等 4. 意識調査 4.1 調査概要 4.2 結果と考察 5. まとめと今後の課題1. はじめに
本学では、平成21年度春学期より初年次教育「コミュニケーション講座」が開講され、 松田(2010)はその授業報告と学生に対して行った意識調査の結果を示した。そこでは、 大学生活に対する新入生の満足度は高いとは言えないこと、他人とのコミュニケーショ ンに自信がない学生が多いこと、平成21年度のコミュニケーション講座に対する評価は 高いとは言えないこと等が述べられている。 平成22年度コミュニケーション講座では、平成21年度の結果を踏まえ、シラバスを大 幅に見直すと共に、授業前学習とポートフォリオ評価を導入した。本稿では、その内容 を報告し、受講した学生を対象とした質問紙調査の結果を踏まえ、今後の授業改善の課 題を提示することを目的とする。2. 講義概要
平成22年度春学期のコミュニケーション講座は、松田(2010)の結果を踏まえ、平成 21年度シラバスの大幅な変更、授業前学習とポートフォリオ評価の導入を図った。シラ バスの変更点については、本稿と松田(2010)を比していただければ明確であるが、大 まかに言うならば、講義の重点を「書く」から「話す」へ移行したことである。平成21 年度はアカデミック・ライティングに重点を置いたため、「書く」技能を身に付けさせる 活動が多かった。しかしながら、本学の学生の場合、「話す」ことに対する苦手意識が 強く、他人とのコミュニケーションをうまくとることができない者が多い。そのような 状況を踏まえ、平成22年度は「話す」技能を身に付けさせる活動を多く取り入れ、シラ バスを作成した。また、授業前学習は、出欠点呼前に漢字ドリルを配布し、集中力を高 めるために実施した。ポートフォリオは、学生に自分自身の成長を振り返ってもらい、 自己分析、自立学習を促すために導入した。 2.1 目的 平成22年度のコミュニケーション講座の目的は、以下の通りである。 (1) 基本的な口頭コミュニケーション能力を習得させる。 (2) アカデミック・ライティング(レポート作成)を習得させる。 (3) より多くの学生・教員と知り合う機会を提供する。 以上の目的は、平成21年度と同様のものであるが、平成22年度はアカデミック・ライ ティングは、レポート作成に的を絞った。平成21年度はアカデミック・ライティング全 般の習熟のための教室活動が多く、その結果「話す」ことに関する活動が減ってしまっ た。平成22年度はレポート作成に的を絞ることによって、「話す」技能の習熟に重点を 置いた。2.2 講義の方法 講義形態は、全体講義とグループ活動に分けることができるが、本講座の特徴は、全 体の講義の流れを統括する主任教員の他、グループ活動の際に学生のグループを担当す る複数の教員が授業に携わることである。平成22年度の本講座においては、主任教員1 名の他、グループ担当教員5名の計6名の教員が携わった。平成21年度は、講義前半を全 体講義、後半をグループ活動としていたが、「全体→グループ→全体→グループ」のよ うに講義が進行することもあるため、平成22年度においては前半・後半という区分は設 けなかった。平成22年度は、学生を6つのグループに分け(各グループ学生は9,10名)、 各グループには担当教員を配し学生への指導、助言を行った。なお、グループ活動の際 には机、椅子を移動させ、グループ全員が向き合う形態とした。学生グループは、出身 校、性別、国籍等を考慮して編成し、学期中に再編成を行った。 コミュニケーション講座の具体的な流れは以下の通りである。 ○ 漢字ドリルを受け取って着席。 ○ 出欠確認点呼(学生は漢字ドリルを継続して行う。) ○ 漢字ドリルの解答を板書。 ○ 当日の学習内容、タスクの提示。 ○ グループに分かれて、タスクの実施。 ○ タスクに対するフィードバック。 ○ 3分間シートの作成。 ○ ポートフォリオの提出。 平成22年度は、出欠確認前に漢字ドリルを配布し、漢字能力と学習に対する集中力の 向上を図った。さらに、講義終了時には、授業を振り返るための「3分間シート」を作 成させた。漢字ドリル、3分間シートは、ポートフォリオとして学生個々に管理させ、 授業終了時に提出させた。なお、ポートフォリオ評価は、平成22年度が初めての試みで ある。なお、ポートフォリオには、漢字ドリル、3分間シートの他、学生が1週間の生活 を自己評価する「1週間の振り返りシート」があった。学生が提出したポートフォリオ は、グループ担当教員が確認し、コメントを付した上で、オフィスアワー等を使って学 生に返却した。 2.3 成績評価 通常課題20%、ポートフォリオ50%、講義中の発言・態度10%、期末レポート20%と した。なお、欠席は、総合点からマイナスするという形で成績評価に取り込んだ。通常 課題+ポートフォリオ=70点であるが、単位取得の為には期末レポート提出は必須とし、 単位認定は出席2/3以上の者を対象とした。また、通常課題とポートフォリオはグルー プ担当教員が添削、確認を行ったが、採点の基準は「全て記入している→10点」、「記入
しているが未記入の部分がある→5点」、「殆ど記入していない、全く記入していない→0 点」とした。期末レポートの確認、及び最終的な成績評価は、主任教員が一括して行っ た。 2.5 担当教員ミーティング 平成21年度同様、毎回の授業の前に担当教員6名によるミーティングを行った。ミー ティングは、授業当日の昼休み時間中に行った。ミーティングでは、まず前回の授業で の問題点、改善点などを述べ合った。次に、主任教員が当日の教案を示し、グループ担 当教員に指導のポイントなどを示した。
3. 授業報告
以下、平成22年度春学期の「コミュニケーション講座」各回の授業報告を行う。また、 授業についての反省点等を示す。 3.1 授業概要 第1回 オリエンテーション・グループ編成(1) ○ グループ発表 ○ 授業の説明(本科目の意義、成績評価、ポートフォリオ等について。) ○ 各教員の自己紹介 ○ グループに分かれる。 ○ 家族探しゲーム(30人・30人に分かれて6人家族を探す。) ○ 3分間シート 第2回 自己紹介 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(自己紹介シート記入。→グループ内で自己紹介し、シートに記入。) ○ 3分間シート 第3回 50の質問 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(「50の質問」に記入し、他人に聞いてみたい3項目を選びインタビュー。) ○ 3分間シート第4回 情報交換ゲーム ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(10人グループを5人グループに→情報カードをもとに商店街の配置図 を考える。) ○ 3分間シート 第5回 情報交換ゲームフィードバック/アサーティブ・チェック ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認 ○ 前回の授業の確認(対人行動と人間関係についてのプリントを配布。) ○ グループ活動(3人グループ→お願いゲーム:A依頼人B被依頼人C判定者) ○ アサーティブ・チェックシート ○ 3分間シート 第6回 アサーティブ・チェック/相互信頼 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認 ○ 前回の授業の確認(アサーティブ・チェックシート) ○ グループ活動(ペア→花と槍ゲーム) ○ 3分間シート 第7回 グループ編成・自己紹介 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(思い出の写真についてスピーチする。→聞き手は質問する。) ○ スピーチに対する自己評価。 ○ 3分間シート 第8回 グループ編成(2)・自己紹介 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認 ○ これまでの授業の振り返り(グループ内のコミュニケーション・ポートフォリオの整 理・授業中のマナー等について。) ○ 新グループ、担当教員発表
○ グループ活動(自己紹介シートに記入→グループ内で自己紹介) ○ 3分間シート 第9回 名前暗記・協力ゲーム ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(名前暗記ボールゲーム) ○ グループ活動(4人グループ→カードを使って協力して正方形を作る。) ○ 3分間シート 第10回 情報整理 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(情報整理ゲーム) ○ グループ活動(模擬店配置図の作成) ○ 3分間シート 第11回 レポートの書き方 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認 ○ レポート提出までの流れについて ○ レポートと感想文の違いについて ○ 誤りのあるレポートについて ○ レポートの書式について ○ 3分間シート 第12回 ブレーン・ストーミング ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(ブレーン・ストーミング→グループごとに発表。) ○ 期末レポートの提示 ○ 3分間シート 第13回 グループ・ミーティング ○ 漢字ドリル
○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(グループで雪山遭難時の対処法について話し合う。) ○ 3分間シート 第14回 ブレーン・ストーミング(2) ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認と今回の活動内容説明 ○ グループ活動(ブレーンストーミング→グループごとに発表する。) ○ 3分間シート 第15回 E-Mailの書き方 ○ 漢字ドリル ○ 出欠確認 ○ E-Mailの書き方について ○ 3分間シート ○ 授業アンケート 3.2 授業についての反省点等 ・ 「家族探しゲーム」が難しく、6人家族を見つけられたグループはわずかだったが、 活動の目的は「家族を見つけること」ではなく、教室の雰囲気作りである。教室の 中が、コミュニケーション活動の場であることを認識できるようにすることが大切 である。 ・ 各グループの人数が10名であったため、グループ内の自己紹介だけでも時間がかかる (最低60分)。残り時間などを随時示しながら講義を進める必要がある。 ・ 「50の質問」には類似したものが多いため、質問が冗長になってしまった。今後は、 質問項目を精錬させる必要がある。 ・ 「情報交換ゲーム」、「アサーティブ・チェック」についてのフィードバックが、次回 の授業へ持ち越しになってしまった。活動は、フィードバックを時間内に行えるよ うに設定すべきである。 ・ グループ内でスピーチを行った際、グループ同士の距離が近いため、落ち着いてスピ ーチを聞くことができなかった。 ・ グループの形態は円形が適当であるが、教室が狭かったため縦長の形態になってしま ったりした。 ・ 課題を提示しても、しっかりと準備してくる学生が少ない。宿題を前提とした授業は 成り立たないため、授業中にできるタスクを考える必要がある。
・ 無言で正方形を作るゲームは難しく、ゲーム本来の趣旨が不明確になってしまった。 言葉を使わないということの不便さ、言葉の大切さというものを実感してもらうた めに、少し時間が経過したら言葉を使わせても良いと思われる。
4. 意識調査
4.1 調査概要 調査は、平成22年度春学期コミュニケーション講座の最終回において実施した。調査 票に回答した学生は47名、うち12名が留学生であった。 調査方法は、日本語で調査票を作成し、選択肢法、5段階評定法、自由回答法で回答 させた。調査票は、大きく、大学生活、勉強、コミュニケーション、コミュニケーショ ン講座に関する部分に分かれている。なお、コミュニケーション講座に関する質問項目 は、夏目(2007)、溝上(2007)、高橋(2007)、関内(2007)等を参考にした。なお、 平成22年度版は平成21年度版に、コミュニケーション講座各回の授業についての項目を 追加したものである。 4.2 結果と考察 以下、質問と共に集計結果を示す。 4.2.1 大学生活について 1)宇都宮共和大学に、1週間にどのくらい来ますか? 2)宇都宮共和大学では、授業中以外は主にどこにいますか。よくいる場所を3つ選んで ください。3)宇都宮共和大学では、授業中以外は主に何をしていますか。よくしていることを3つ 選んでください。 4)宇都宮共和大学での学生生活の中で、楽しいと思うことは何ですか。当てはまるも の全てに○をつけてください。 5)あなたの今の生活の中で、重要だと思うことは何ですか。当てはまるもの全てに○ をつけてください。
6)宇都宮共和大学での学生生活の中で、困っていることがありますか。当てはまるも の全てに○をつけてください。
質問1)は、通学の回数であるが、ほとんどの学生が週4日以上大学に来ていることが分 かる。質問2)は、学生の居場所であるが、これについては平成21年度と同様、全体では 「パソコン室」が最も多かった。しかし、日本人学生と留学生とでは結果が異なり、日 本人学生は「パソコン室」に次いで「2F学生ホール」が多かったが、留学生は「図書館」 が最も多く、次いで「パソコン室」であった。日本人学生が学生ホールで友達との交流 をしているのに対して、留学生は図書館やパソコン室で一人でいることが多いことの現 れであろう。 質問3)4)の結果から、新入生の多くは学内では「友達と会って話すこと」が最も多く、 同時に楽しいと感じていることが分かる。しかし、それ以外の活動の割合は低く、サー クル活動の参加率も高くない。 質問5)の結果から、新入生の多くは「大学の授業」と「友達付き合い」に重要性を感 じていることが分かる。また、質問6)の結果を見ると「授業が難しい」と感じている学 生が多く、留学生は8割を超えている。これらの結果は、平成21年度と同様である。 質問7)8)の結果から、殆どの学生は本学に入学してから新たな友人ができたことが分 かる。平成21年度は、友人ができていないと回答した学生がいたが、平成22年度はいな かった。 質問9)∼12)は、日本人は留学生の友人ができたかどうか、留学生は日本人の友人が できたかどうかを聞いたものである。日本人学生の34.3%が留学生の友人が、留学生の3 割が日本人の友人が、それぞれいない。平成21年度も同様であったが、日本人学生と留 学生とでは、各々が親しくなりたいと思う意識についても隔たりがある(5段階評定: 日本人=3.51、留学生=4.82)。留学生の殆どは日本人と親しくなりたい強く考えている が、日本人学生は留学生ほど意識が高くない。今後も学内の国際交流をさらに推進する 必要があろう。 以下の質問については、5段階評定法(1全然そう思わない、2あまりそう思わない、3 どちらとも言えない、4少しそう思う、5とてもそう思う)により回答を得た。また、比
較のために、平成21年度のデータを併記する。 まず、質問1の「入学して良かった」については、留学生の評価は平成21年度よりも下 がっているが日本人学生の評価は上昇し、全体でも3.10から3.57に上がっている。質問1 の他に、平成21年度よりも全体の評価が上がった項目は、質問3「大学生活は楽しい」、 質問7「授業に満足」、質問8「授業は楽しい」、質問9「授業は役立つ」、質問11「教え方」 であった。日本人学生の回答は平成21年度と比して殆どの項目で数値が上昇しているが、 留学生の回答では殆どの項目で低下した。これは、平成22年度の留学生の多くが海外協 定校からの入学者だったことが原因の一つと考えられる。海外協定校からの留学生は、 入学してから初めて大学を見る者が殆どであり、カリキュラムやシラバスについても詳 しく知らない場合が多い。国内在住の留学生は、オープンキャンパスや入学試験などを 通じて、大学を見たり教員と接する機会がある。来日して初めて大学の実態を知り、想 像していた大学像との相違を感じた結果、このような数値となって現れたと考えられる。 今後は、海外協定校からの留学生に対する入学前の事前説明を改善する必要があろう。 次に、大学生活大学生活、大学の施設、授業、教員の対応などについて、不満な点、 意見等を回答してもらった結果を示す。なお、回答方法は自由記述によった。 【自由記述】 ・ 英語に関しての英語力・・・。あれ中1レベルのような気が・・・。(日本人学生) ・ バスケットボール場にライトがないこと。(留学生) ・ 先生と生徒の双方向の授業を行ってほしい。そしたら寝る人も減ると思う。(日本人学生) ・ 共和大学に体育館がないことや図書館の本の蔵書が少ないのは少し困っている。(日本人学生)
・ 喫煙場所を屋内にしてほしい。 (日本人学生) ・ エレベーターをもっと効率よく動かしてほしい。(日本人学生) ・ 元は観光について学びたかったのに、全然学ばなくてがっかりした。(留学生) ・ パソコンをもう少しどうにかしてほしい。(日本人学生) ・ ○○先生の授業は1回目から専門的な話をされてよく理解できない。(日本人学生) ・ 食堂のメニューがもっと欲しい。焼きそばを常に・・・。(日本人学生) ・ 近くにコンビニがあったらいいかも。(日本人学生) ・ 運動の施設をもっともっと増やして欲しい。(留学生) ・ 大学の全てが中途半端に思えてならない。(日本人学生) 4.2.2 これからの勉強について 以下の質問については、5段階評定法(1全然そう思わない、2あまりそう思わない、3 どちらとも言えない、4少しそう思う、5とてもそう思う)により回答を得た。 まず、全体の結果を見ると、質問5「資格試験に取り組みたい」が3.66から4.09に上が っている。これは、日本人学生の数値が3.55から4.11に上がったためだが、昨今の大卒者 の就職率の低下を受け、在学生の危機意識が高まったことに影響されていると考えられ る。その他の全体の結果では、平成21年度と比較して大きな変化はないが、留学生の回 答の中で質問4「履修科目の卒業要件」、質問10「先生からの指導」は、0.6ポイント程下 がっている。質問4に関しては、単に卒業要件を満たすだけではなく、専門知識を学び、 卒業後に役立てたいという意識が関わっていると考えられる。質問10に関しては、留学 生と教員との関係に関するものであるが、留学生に最も身近な問題である日本語科目の 授業を中心として、その信頼関係を構築することが大切だと考える。オフィスアワー等 を利用し、留学生の生活相談等に応じていきたい。
4.2.3 コミュニケーションについて 以下の質問については、5段階評定法(1全然そう思わない、2あまりそう思わない、3 どちらとも言えない、4少しそう思う、5とてもそう思う)により回答を得た。 まず、全体の結果を見ると、平成22年度は平成21年度と同様、学生の対人コミュニケ ーションに対する意識の高さと自信の無さが見て取れる。特に質問6、質問7、質問10は、 コミュニケーションに対する自信、能力についてであるが、いずれも結果は2点台後半 ∼3点台前半となっており、学生自身が自分のコミュニケーション能力が不足している ことを理解していることが分かる。 次に、日本人学生と留学生を比較すると、全体的に留学生の方がコミュニケーション に対する意識が高いことが分かる。特に質問1、質問2、質問3、質問4では、留学生の回 答結果は4点台後半となっており、他者と親しくなりたいという意識が高いことが分か る。 また、平成21年度と平成22年度の比較において、0.5ポイント以上変化があった項目は、 日本人の質問5、質問7、留学生の質問6である。平成22年度の日本人学生は、平成21年 度よりも他人と話すこと、付き合うことに積極的な意識が伺える。留学生の質問6に関 しては、4.2.1でも述べたが、平成22年度は海外協定校からの留学生が増加したことが理 由の一つとして考えられる。平成22年度入学の留学生は、初めて来日した者もおり、日 本語でのコミュニケーション能力が十分ではない者が多かった。このようなことが、人 前で話すことの不安感、自信の無さに繋がっているのだと思われる。 次に、自分のコミュニケーション能力で不十分だと思うことについて、回答してもら った結果を示す。なお、回答方法は自由記述によった。
【自由記述】 ・ 勇気・気合。(日本人学生) ・ 相手の話を聞くこと(日本人学生) ・ 日本語で話すこと。(留学生) ・ 口数が少ない。(日本人学生) ・ 早口になってしまって時々相手に伝わらないこと。(日本人学生) ・ 語り不足。(日本人学生) ・ 自信がないので、人の前であまり話さないことである。(留学生) ・ 相手の気持ちを考えないで言葉を発する。(日本人学生) ・ うまい言葉がみつからないこと。(日本人学生) ・ 積極性。(日本人学生) ・ トークスキル(日本人学生) ・ 話し出すのに勇気がいる。(日本人学生) ・ 日本語。(留学生) ・ ネガティブに考えることが多々ある。(日本人学生) ・ 笑顔不足。(日本人学生) ・ 協調性のあまりない所。(日本人学生) ・ 言いたいことがいえない所。(日本人学生) ・ まず、話しかけるタイミングがつかめない。(日本人学生) ・ 感謝の言葉、謝る言葉がすぐに出ない。(日本人学生) ・ 日本語が下手なので交流がうまくできないです。(留学生) ・ 話すのが苦手。(日本人学生) ・ 話すこと。(留学生) ・ 万人うけしないこと。(日本人学生)
4.2.4 コミュニケーション講座について 以下の質問については、5段階評定法(1全然そう思わない、2あまりそう思わない、3 どちらとも言えない、4少しそう思う、5とてもそう思う)により回答を得た。 まず、全体の結果を見ると、平成22年度は平成21年度よりも殆どの項目において評価 が高まった。しかしながら、質問5「話すのが上手になった」は平成22年度も3.07と高い 数字ではなく、今後もコミュニケーションの核とも言える「話す」技能を如何に身に付 けさせるかを考慮していきたい。 次に、コミュニケーション講座についての要望や意見を示す。なお、回答方法は自由 記述によった。 【自由記述】 ・ グループ分けがビミョー(日本人学生) ・ もっと色んな人とコミュニケーションをとりたい。(日本人学生) ・ このまま変わらないでほしい。(日本人学生) ・ 楽しかったです。(日本人学生) ・ もっと話したいです。(留学生) ・ もっと先生たちと親しくなりたい。(留学生) ・ この講義をやるなら他の科目を取りたい。かえって、コミュニケーションが取りづらい。(日本人学生)
4.2.5 コミュニケーション講座各回の授業について 以下の質問については、5段階評定法(1良くなかった、2あまり良くなかった、3どち らとも言えない、4少し良かった、5とても良かった)により回答を得た。なお、この質 問項目は、平成22年度から設置したものであり、平成21年度の調査には無いものである。 まず、全体の結果の中で、平均値が3.5以下となった項目は、質問6、質問7、質問8、 質問11、質問18、質問20、質問21である。質問6「お願いゲーム」と質問7「花と槍ゲー ム」は、自分の対人意識をゲームを通じて把握する内容であるが、ゲーム内容について のフィードバックが次週に持ち越しになり、適切に行うことができなかった。その結果、 評価が低かったと考えられる。質問8「思い出の写真」は、グループ内で思い出の写真 についてスピーチをするという内容である。写真、スピーチ原稿は、事前に準備するよ うに指示を出したが、きちんと準備している学生は少なく、多くの学生がその場で話を 考えたりしていた。このような授業前の準備を前提とした活動は、うまくいかない場合 が多い。今後は、授業時間内に一連の活動が収まるように計画したい。質問11「協力ゲ ーム」は、4人グループで正方形のパズルを無言で組み立てるという活動である。この
活動は、他人の心理を思いやることの大切さ、自分中心では物事が進まないことを教示 するためのものであったが、ゲーム自体が難しかったため期待した効果を得ることがで きなかった。質問18、質問19、質問20、質問21は、ポートフォリオに関する項目である が、留学生の評価が比較的高いのに対し日本人学生の評価が低い。これは、次に見るポ ートフォリオについての自由記述にもある通り、「面倒くさい」という意見が多い。漢 字ドリルにしても、留学生にとっては日本語の学習となるが日本人学生にとっては中学 高校の復習程度のものになってしまうのかもしれない。ポートフォリオについては、自 己成長の記録として学生自身が明確に自覚できるような形にしていきたい。 4.2.6 ポートフォリオを作成することについて 【自由記述】 ・ 必要ない(日本人学生) ・ とてもよいです。(留学生) ・ 今までのことを振り返れるので良いと思う。(日本人学生) ・ きっと必要ではないと思う。(留学生) ・ 何とも思わない。強いて言うなら大きすぎ。(日本人学生) ・ 自分が何をしたか振り返ることが出来るのでとても素晴らしいと思う。(日本人学生) ・ めんどくさい。(日本人学生) ・ 自分のことを振り返ることで参考になった。(日本人学生) ・ 自分は自分のことをよく理解できました。(留学生) ・ 少し面倒だと思う。(日本人学生) ・ 自分の生活について考えさせられました。(日本人学生) ・ めんどくさいが1週間何をやったか分かるからいいと思う。(日本人学生) ・ 先生と話す機会だと思う。(日本人学生) ・ 先生とコミュニケーションが取れるし楽しかったです。(日本人学生) ・ 自分のしてきたことを見れるのでいいと思います。(日本人学生) ・ 何をやったか分かるのでいいと思う。(日本人学生) ・ たまにめんどくさいと思った。(日本人学生) ・ 作成しなくていいと思います。(日本人学生) ・ 自分の生活。(留学生) ・ とてもよいと思います。(日本人学生) ・ 自分の1週間を振り返るいい機会だと思った。(日本人学生) ・ 1年生でも大学生としての責任を担っている感じがしていい。(日本人学生) ・ 率直な話ができて良かったです。(留学生) ・ いいかなと思いました。(日本人学生) ・ 今までしてきた活動が見れていいとは思うが、かさばって面倒。(日本人学生) ・ いいと思う。(日本人学生)
・ 自分のことを知るためにはいいと思う。(日本人学生) ・ 先生とのつながりになるので良かった。(日本人学生) ・ 自分のことが振り返ることができてよい。(日本人学生) ・ 先生とコミュニケーションがとれてよいと思う。(日本人学生) ・ 今までやってきたことを振り返ることができるので良いと思います。(日本人学生) ・ 面倒だけどまとめてあるのは便利。(日本人学生) ・ 振り返れます。(留学生) ・ 日記っぽいですね。(日本人学生) ・ 1週間を振り返ることができるのでいいと思う。(日本人学生) ・ とても楽しかった。(留学生) 4.2.7 自分のポートフォリオを見て自分がどのように変化したと思うかについて 【自由記述】 ・ 日本語だんだん話せるようになって来た。(留学生) ・ 3分間シートなどしっかり書けるようになっている。(日本人学生) ・ 前の自分よりもコミュニケーション能力が上がったと思います。(日本人学生) ・ 自分が入学してきた頃と自分が大きく人柄として変化したと思う。(日本人学生) ・ 少しずつ成長していると思います。(留学生) ・ 少し勉強する時間が増えた。(日本人学生) ・ 他人を考えるようになった。(日本人学生) ・ 自習するようになった。(日本人学生) ・ アクティブ。(日本人学生) ・ 過ごした時間をまた見直し。(留学生) ・ だんだんと字がきたなくなっている。(日本人学生) ・ 付き合う友達が変わった。(留学生) ・ 漢字が分からなくなってきたと思う。(日本人学生) ・ コミュニケーションのとり方は分った。(日本人学生) ・ 友達が増えたと思う。(日本人学生) ・ きちんとファイルすることができました。(日本人学生) ・ 先週何をやったのか思い出します。時間は私たちを待っていないと思いました。(留学生) ・ だんだん書けるようになってきた。(留学生)
4.2.8 ポートフォリオの自己採点 質問紙の最後に、自分のポートフォリオについて100点満点で採点してもらったとこ ろ、次のような結果となった。 全体としては63.5であり、自己評価は高いとは言えない。また、留学生の方が日本人 学生よりも自己評価が高い。これは、外国語である日本語を用いてポートフォリオを作 成していることが影響していると考えられる。
5. まとめと今後の課題
本稿では、宇都宮共和大学において平成22年度のコミュニケーション講座の授業報告 と、本講座を受講した新入生に対して行った意識調査の結果を示した。 授業報告では、まず、松田(2010)に示された問題点を踏まえ、平成21年度シラバス の大幅な変更、授業前学習とポートフォリオ評価の導入を図ったことを示した。シラバ スについては、講義の重点を「書く」から「話す」へ移行し、「話す」技能を身に付け させる活動を多く取り入れた。また、授業前学習は、出欠点呼前に漢字ドリルを配布し、 集中力を高めるために実施した。ポートフォリオは、学生に自分自身の成長を振り返っ てもらい、自己分析、自立学習を促すために導入した。 意識調査では、大学生活、今後の勉強、コミュニケーション、コミュニケーション講 座に大別し、各項目に関する質問とその回答結果を示した。結果から、入学年度による 意識の違いや日本人学生と留学生の相違点等が明らかになった。具体的には、日本人学 生よりも留学生の方がコミュニケーションに対する意識が高く、他人と親しくなりたい という意識が強い。また、日本人学生、留学生共に自分自身のコミュニケーション能力 は十分ではないと感じており、「話す」技能について苦手意識を持っている者が多い。 コミュニケーション講座については、多くの項目において肯定的な評価が得られたが、 授業内容についてのフィードバックが適切ではない活動は学生の評価が低かった。平成 22年度のコミュニケーション講座は、「話す」技能に重点を置いたシラバスであったが、 学生のコミュニケーション能力の養成は十分ではなかった。齋藤(2004)は、コミュニ ケーションの四原則は、「目を見る」、「微笑む」、「頷く」、「相槌を打つ」ことだと述べ ている。来年度のシラバスには、「話す」技能に付随したこれらの項目を取り入れてい きたいと考えている。また、平成22年度から導入したポートフォリオについては、「面 倒くさい」と感じている学生もいる反面、「自分自身を振り返ることができて良い」、 「先生と話す機会ができる」という意見もあり、今後も内容を充実させ継続していきたいと考えている。 以上、本稿ではコミュニケーション講座担当者としての自戒と今後の課題を述べさせ ていただいた。今後も、学生が何を求めているのか、学生には何が必要なのかを注意深 く観察し、本学の日本人学生、留学生がより充実した学生生活を送れるように尽力して いきたい。 【参考文献】 齋藤孝(2004)『コミュニケーション力』岩波書店 関内隆(2007)「東北大学における『基礎ゼミ』実施の成果と展望」『大学における初年次少人数教育と「学び の転換」』東北大学出版会 高橋正克(2007)「長崎大学初年次少人数セミナー(教養セミナー)の現状と課題」『大学における初年次少人 数教育と「学びの転換」』東北大学出版会 夏目達也(2007)「名古屋大学における少人数セミナーの現状と課題」『大学における初年次少人数教育と「学 びの転換」』東北大学出版会 松田勇一(2010)「宇都宮共和大学における初年次教育の現状と課題−平成22年度「コミュニケーション講座」 授業報告と意識調査結果−」『宇都宮共和大学論叢』第11号 溝上慎一(2007)「京都大学における『新入生向け少人数セミナー(通称ポケットゼミ)』実施の成果と今後の 課題」『大学における初年次少人数教育と「学びの転換」』東北大学出版会 謝辞:平成22年度春学期開講のコミュニケーション講座では、本学の鈴木博教授、佐藤滋一准教授、松本晃子 准教授、笹川陽子専任講師、大石和博専任講師には、円滑な授業運営・グループ活動のためご協力をいた だき、また毎回の教師ミーティングの際にはご助言をいただきました。ここに心から感謝申し上げます。