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衝撃工学の基礎と応用 1. 金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性

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(1)「材料」 (Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 70, No. 5, pp. 420-426, May 2021. 講 座 講 座. 衝撃工学の基礎と応用 Fundamental Issues and the Applications of Impact Engineering 材料や構造の衝撃問題は,工学や理学の根幹をなす基礎的な問題であるとともに,その解決に広範な分野の知見を要 するきわめて学際的な問題でもある.最も基本的な捉え方として,衝撃問題は,衝撃負荷にともなって発生する動的応 力場の問題と,衝撃負荷にともなって発生する動的変形や動的破壊の問題に大別される.前者は,種々の因子によって 物体に生じる内力を考える際に,慣性力の影響を無視し得るか否かということが主要な論点であり,慣性力の影響を無 視し得ない状況では,弾性波や塑性波の伝播挙動として内力を捉える必要がある.一方,後者は,物体に生じる内力と 変形との関係を考える際に,変形速度や変形加速度が両者の関係に大きな影響を及ぼすということが主要な論点であり, 破壊や強度の議論とも深くかかわる問題である.これらの事象は,高ひずみ速度下における材料の変形・破壊挙動の解 明,衝撃荷重下における計測技術の開発,衝撃荷重を利用した生産技術の開発,各種構造物の動的数値解析技術の開発 など,様々な研究・開発課題に落とし込まれ,その成果は衝撃工学として体系化されている. この講座では,このような衝撃工学の基礎と応用について,以下のように全 5 回に整理し解説する.すでに衝撃工学 に通じておられる方はもとより,これから衝撃工学に触れられる方にも大いに活用いただければ幸いである. 1. 金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性 小川 欽也(スペース・ダイナミックス研究所) 2. ホプキンソン棒法の発展と応用 横山 隆(岡山理科大学) 3. バイオメカニクスにおける衝撃問題 田邊 裕治(新潟大学) 4. 衝撃波伝ぱをともなう固体の衝撃問題 川合 伸明(熊本大学) 5. 衝突による衝撃荷重と応力 足立 忠晴(豊橋技術科学大学). 1.金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性 小川欽也*. Ⅰ:Temperature and Strain rate Effect on the Flow stress of Metals by. Kinya OGAWA* Key words: Temperature, Strain rate, Flow stress, Thermal activation, Metals 1 緒 言 衝撃荷重下における材料の応答を明らかにするため の 衝 撃 変 形 実 験 は J.Hopkinson1) と そ の 息 子 B.Hopkinson2)によって行われ,その後,B.Hopkinson3) が Hopkinson 棒法を提案し,応力波伝ぱを実験する手 法を与えた.動的応力―ひずみ関係を実験的に求める試 みは Nadai ら 4)により回転円盤を用いて行われたが, Davis5)により開発された弾性波の測定手法を参考にし て Hopkinson 棒 法 を SHPB 法 (Split Hopkinson Pressure Bar Method:スプリット・ホプキンソン圧力 棒法) に改良して動的応力―ひずみ関係を測定したのは, Kolsky6)が最初である.その後,Kraft ら 7), Hauser ら 8)や,Campbell ら 9),Davies ら 10)によって実験手法と. 解析法についての精力的な改良が行われ,今日の SHPB 法として発展した.この SHPB 法の黎明期に,恩師の田 中吉之助先生は U.C.Berkeley に滞在し,Hauser らの高 速変形実験を見学し,帰国後,1962 年の秋頃から高速変 形の研究を開始し,国内で最初の報告 11)が行われた.こ れとほぼ同時期に当時の金属材料研究所においても SHPB 試験装置が製作され,吉田らによる報告 12)が行わ れた.彼らは,打撃棒先端を丸めることで波頭に振動の 無い滑らかな矩形状入射波を得て,塑性変形開始時の応 力を高精度に測定できることを示した.この手法は国内 の研究者に用いられ高精度な応力―ひずみ関係を得る ことに貢献したが,海外では,1995 年になって初めて滑 らかな入射応力波形を得る方法 13)が提案された. 計測. C 2021The Society of Materials Science,Japan ReceivedOct.10.2020○. +. 原稿受理. 令和2年10月10日. *. 正 会 員. 合同会社スペース・ダイナミックス研究所 〒616-8255 京都市右京区鳴滝音戸山町,Inst. of Space. Ondoyamacho,Ukyou-Ku,Kyoto. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 420. Dynamics,Narutaki,. 616-8255. 2021/04/14. 10:59:47.

(2) 衝撃工学の基礎と応用 1.金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性. 法のディジタル化は世界に先駆けて日本において実施 され 14),PC とフロピーディスクの汎用化により 1980 年代以降急速に発展し,今日に至っている. SHPB 法では,同材質,同断面積の二本の弾性棒に挟 まれた試験片の応力𝜎𝜎 ,ひずみ𝜀𝜀 ,ひずみ速度𝜀𝜀�はそれぞれ の弾性棒を伝わる入射応力波𝜎𝜎� ,反射応力波𝜎𝜎� ,透過応 力波𝜎𝜎� によって次のように求められる.. 𝜎𝜎 � 𝜀𝜀� �. �. ��� �. �𝜎𝜎� � 𝜎𝜎� � 𝜎𝜎� �. ����. (1). �𝜎𝜎� � 𝜎𝜎� � 𝜎𝜎� �. (2). ここに,入,出力棒の断面積,密度,棒中の縦波の速度, 試験片の断面積,長さを𝐴𝐴,𝜌𝜌,𝐶𝐶 ,𝐴𝐴� ,𝐿𝐿� とする. 試験片両側での応力が等しく,試験片の加速度が無視で きる場合には(2)式は. 𝜀𝜀� �. �. ����. �𝜎𝜎� � 𝜎𝜎� �=. �. ����. �𝜎𝜎� �. �� �. 𝜎𝜎�. (3). と表せ,これを時間積分して試験片のひずみが得られる. 一定のクロスヘッド速度で実施される準静的試験では, ひずみ速度は試験機剛性に依存し,荷重変化が大きい変 形初期のひずみ速度は小さく,変形の進行とともに増加 する.一方,SHPB 法による衝撃試験では,一定振幅の 入射波の場合,ひずみ速度は変形初期で大きく,流動応 力が増加するにしたがって減少するため,衝撃変形での 降伏応力などの測定では入射波の波頭を制御すること が重要となり,吉田らによる手法は極めて重要である.. 2 熱 活性 化過程 論 多くの金属材料において流動応力は温度の上昇ととも に減少し,融点を Tm として(0.4~0.5)Tm より低温域で は転位のすべり運動が流動応力を支配していると考え られる.図 1 にはアルミニウムの降伏応力,引張り強さ の温度による変化を示す.低温域での流動応力は純アル. 421. 比較的狭く,熱運動の助けによって転位が越えることが できる比較的短範囲の応力場に対応し,後者はその影響 が広範囲におよび,熱振動の助けによっては転位が越え られない応力場に対応すると考えられている. いま,各温度での応力を 0K での弾性定数 E0 と各温度で の弾性定数 ET との比によって補正した値を. 𝜎𝜎� � �𝐸𝐸� 𝐸𝐸� � ∙ 𝜎𝜎. (4). 等と表すと,各温度での応力の熱的成分は. 𝜎𝜎� ∗ � 𝜎𝜎� � 𝜎𝜎�� � 𝜎𝜎� � �𝐸𝐸� 𝐸𝐸�� ��𝜎𝜎� � ���. (5). �. と表せ,𝜎𝜎 � 𝜇𝜇 は温度に依らず一定値となる.𝐸𝐸𝑇𝑇 は応力 の熱的成分がゼロとなる温度 T0 での弾性定数である. 転位が熱振動の助けにより障害物を乗り越えて運動 することで変形が進むとき,ひずみ速度は次式で表せる.. 𝜀𝜀� � 𝜌𝜌� 𝑏𝑏𝑏𝑏� 𝑠𝑠� 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒 ��. � ∗� ��� ��. � � 𝜀𝜀�� 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒 ��. � ∗� ��� ��. �(6). 可動転位密度𝜌𝜌� ,バーガースベクトル𝑏𝑏,デバイの振動 数𝜈𝜈� ,転位の移動距離𝑠𝑠� ,ボルツマン定数𝑘𝑘 であり,𝐻𝐻 は活性化エネルギである.転位に働く応力による仕事を 考えると,𝐻𝐻 は応力の熱的成分の減少関数として表され る. �∗. �∗. 𝐻𝐻�𝜎𝜎� ∗ �=𝐻𝐻� � �=𝐻𝐻� � �� 𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙𝑙� ∗ � 𝐻𝐻� � �� 𝑣𝑣 ∗ 𝑑𝑑𝑑𝑑� ∗ (7). ここにν*は活性化体積で,応力の熱的成分の減少関数 である.ν*が一定値であれば,流動応力の熱的成分は. 𝜎𝜎� ∗ �. �. �∗. �𝐻𝐻� � 𝑘𝑘 �𝜀𝜀�� 𝜀𝜀�� 𝑇𝑇�. (8). となり,ひずみ速度の対数に比例し,勾配は温度に比例す る.一定のひずみ速度では応力は温度に比例して減少し,. 𝑇𝑇� = 𝐻𝐻� k 𝑙𝑙𝑙𝑙�𝜀𝜀�� 𝜀𝜀��. (9). で示す温度 T0 以上では 0 となる. 𝜈𝜈 ∗ が応力に依存する 場合,応力とひずみ速度の対数とは比例しないが,その ことをもって熱活性化過程ではないとすることはでき. ない.𝜀𝜀�� が温度とひずみ速度に依存する場合には,活性 化エネルギと活性化体積は次のように与えられる.. 𝐻𝐻�𝜎𝜎 ∗ � 𝐻𝐻�𝜎𝜎. ��. 𝜈𝜈 ∗ � �. �∗ ��. �� � � �� � �∗ ��. � � � �� ��. ����. �. ���. �. ������ �� ������. � �� �� � � ��� � �� �� � ��∗. �� �� �� �. ��∗∗ �� �� ���� �� � ∗∗ ��. ������ �� �� ��. �� � �. �������� ����. 𝑘𝑘𝑇𝑇�� �� � ��. �� ��. �� (10)(10) ����. (10). (11). �. これより,𝜀𝜀�� がひずみ速度,温度に依存しないときは. 𝐻𝐻�𝜎𝜎� ∗ � � �. 図 1 アルミニウムの強度の温度依存性 ミニウムとアルミニウム合金の種類によって大きく異 なるが,温度による変化は大きくは異なっていない.こ のことから,流動応力σは温度に強く影響される成分 (応力の熱的成分σ*)と弾性定数の温度変化の効果を 除けば温度に依存しない成分(応力の非熱的成分σμ) に分けることができ,いずれも転位の運動を妨げる障害 物によるものではあるが,前者はその影響の及ぶ範囲が. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 421. �∗ ��. �� � � �� � �∗ �� �� �� �� � �. �. 𝜈𝜈 ∗ �. ��. �∗ �� �� �� �� � �. (12). となり,ν*は応力のひずみ速度依存性から求まる. いま,温度―ひずみ速度パラメータξを. � � 𝑘𝑘𝑇𝑇� ɛ� � �  ɛ� �. (13). と定義すると,(5),(6)式より. σ � � 𝜎𝜎�� � 𝐻𝐻 �� �𝜎𝜎� ∗ � � 𝜎𝜎��𝜉𝜉 𝜀𝜀�. (14). を得るから, ɛ� � の値を適切に選ぶことで,様々な温度, ひずみ速度での流動応力とξの関係を一本の曲線で表 すことができれば,熱活性化過程としての取り扱いがで き,活性化エネルギー,活性化体積と応力の熱的成分と. 2021/04/14. 10:59:48.

(3) 小  川  欽  也. 422. の関係が求まり,障害物の特性を明らかにできる.Kocks ら 15)は,多くの実験結果から,活性化エネルギーの一般 的な形として次式を提示している.. �� � � �𝜎𝜎� ∗ 𝜎𝜎�� �� �� ���. 0<p<1. 1<q<2 (15). 一方,高速転位に働く摩擦力が流動応力を支配する場 合として,転位に働く伝導電子との相互作用 16),熱弾性 効果 17), フォノン散乱 18), フォノン粘性 19),などが考 えられているが,伝導電子との相互作用は極低温を除け ば大きくなく 16),熱弾性効果の寄与も大きくないことが 知られている 17).Follansbee ら 20)は面心立方金属である 銅について 104/s 程度より高いひずみ速度域での急激な 流動応力の上昇がひずみ速度履歴効果によるもので,熱 活性化過程が支配的であることを実験的に示した.高ひ ずみ速度域での逆温度依存性など明確に熱活性化過程 を否定する実験結果はごく少数にとどまっている 21),22). 図 2 には,亜鉛の底面すべりについて得られたせん断応 力とせん断ひずみ速度関係を示す.流動応力はひずみ速 度に比例して上昇し,ひずみ速度履歴の効果が無く, Mason らが予測するフォノン粘性の効果と良く対応して 温度の上昇とともに流動応力も上昇する.. 図 3 Ti 合金の応力-ひずみ関係 26),28) 図 3 には,77K~723K で得られた CPH 構造をもつα型 Ti 合金と(α+β)型二相合金について準静的変形と衝 撃変形で得られた応力―ひずみ関係を示す.加工硬化率 は温度,ひずみ速度に大きくは依存せず,低温の高ひず み速度では若干の低下が見られる.. 図4. 図 2 高ひずみ速度下の底面すべり応力の温度依存性 23) 金属材料の衝撃強度については,作井 24)による優れた 解説が過去に行われているが,ここでは,SHPB 試験法 によって得られた代表的な結晶構造である稠密六方金 属, 面心立方金属,体心立方金属の衝撃変形試験の結果 を中心として, その流動応力の温度とひずみ速度依存 性を熱活性化過程論に基づいて解説する.. 3 金 属材 料 の強度 の 温度 とひず み 速度 依存性 3.1. 稠密六方(CPH)金属 Mg 合金や Ti 合金など稠密六方金属は軽量,高強度材 料として注目されているが,格子定数の軸比 c/a が 1.63 より大きい Zn や Cd では主すべり系は底面すべりで,錐 面すべりと変形双晶が生じる.一方 c/a が 1.63 より小さ い Mg や Ti では,主すべり系は柱面であり,錐面すべり と変形双晶が生じる.このように性質の大きく異なる変 形様式が混在して活動するため,その変形挙動はいまだ に十分明確にされておらず,今後の課題となっている. Mg 合金の衝撃特性に関する新しい報告 25)もあるが,こ こでは,Ti 多結晶体について流動応力の温度,ひずみ速 度依存性についてその特徴を解説する 26)-29).. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 422. Ti-合金の流動応力の温度とひずみ速度依存性 27). 図 4 には,各温度における 5%流動応力とひずみ速度の 関係を示す.高温での低ひずみ速度域ではセレーション が生じ,ひずみ速度の増加により流動応力が低下するが, それ以外の温度では,温度の低下,ひずみ速度の増加に より流動応力が増加する.各ひずみ速度で得られた流動 応力の値を連ねて得た流動応力のひずみ速度依存性は 準静的ひずみ速度域で行ったひずみ速度急変化試験で のひずみ速度依存性とほぼ一致する.. 図 5 温度,ひずみ速度履歴を受けた応力-ひずみ関係 26) 図 5 には,異なった温度とひずみ速度で予ひずみを与 えた試験片を同一の温度とひずみ速度で変形し,それぞ れの応力―ひずみ関係を比較したもので,温度およびひ ずみ速度の履歴効果がほとんど認められない.したがっ て,応力の非熱的成分がひずみのみの関数であることが 分かる.. 2021/04/14. 10:59:49.

(4) 衝撃工学の基礎と応用 1.金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性. 423. た 𝜀𝜀́� � を選ぶことで,それぞれ滑らかな曲線で応力 とξの関係が得られる.同様な結果は代表的な(α+β) Ti 合金の Ti-6Al-4V においても観察される.. 図 6 応力と温度―ひずみ速度パラメータの関係 27) 図 6 には,各ひずみで得られた応力と温度ひずみ速度 パラメータξの関係を示す. 𝜀𝜀́� � ���と選ぶと, 準静的ひずみ速度で得た各ひずみでの応力とξの関係 を実線(A)で示す滑らかな曲線で表せる.田上ら 30)は準 静的な試験で得られた結果に対して  𝜀𝜀́� � ,を得 ている.ここでの結果に対して(13)式を適用すると,破 線の曲線で示す関係と図中に示す p,q, 𝜉𝜉 �� � �,𝜎𝜎 �� の値が得られる.点線で示した曲線は,後に示す Zerelli ら 31)の体心立方金属モデルを適用した場合である. ひずみが増加すると低温,高ひずみ速度での応力は曲 線 A から外れてくる. 高ひずみ速度変形では断熱状態 であるから,塑性変形で生じた熱による試験片の温度上 昇を考慮しなければならない.この時の温度上昇ΔT は 次式で表される.. ∆ � �𝛽𝛽 𝛽𝛽� ∙ 𝛾𝛾�σ ∙ ∆ε. 図 7 応力と温度―ひずみ速度パラメータの関係 29) 体心立方構造のβ-Ti 合金の場合には, 𝜀𝜀́� � と選 ぶと,同様に応力とξの関係が一本の滑らかな曲線で表 されるが 28),(α+β)型 Ti 合金の場合には,図 7 に示す ように,ξの小さい低温域ではα相に対して得られた  𝜀𝜀́� � を,ξの大きい高温域ではβ相に対して得られ. 423. 図 8 には,α-Ti 合金 Ti-5Al-2.5Sn,β-Ti 合金 Ti-15V3Cr-3Sn-3Al(未時効材),(α+β)Ti 合金 Ti-15V-3Cr-3Sn3Al(時効材),について準静的ひずみ速度と高ひずみ速度 で得られた流動応力と温度関係を示す.二相合金では低 温域でα相の,高温域ではβ相の挙動に対応しているこ とが分かるが,ひずみ速度の増加によってα相の寄与が 高くなることが分かる. 高強度で,かつ流動応力が大きい温度依存性を示すチ タン合金では高速変形中の断熱加熱による強度の変化 が大きく,断熱せん断帯の発生による局所変形が生じや すい.図 9 には 78K での高ひずみ速度変形によって生じ たせん断破壊を示す.. (15). ここに,熱変換率βは 0<β<1,𝜌𝜌 ,𝛾𝛾 は試験片の密度と 比熱である.SHPB 法での応力とひずみ速度の関係は(3) 式で与えられるから,(15)式と曲線 A の応力とξの関係 を用いて,応力―ひずみ関係,温度―ひずみ関係が得ら れる.図 6 中の曲線 B は得られた応力とξの関係を示 し,実験点は予測結果と良く一致している.ここで,β =0.8 とし,比熱の温度による変化が考慮されている.. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 図 8 α-,α+β-,β-Ti-合金の温度依存性の特徴 29). 図 9 断熱せん断帯の発生と破壊(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al) 3.2. 面心立方(FCC)金属 アルミニウム 32)や銅 33)をはじめとして面心立方金属 の衝撃挙動については多くの研究があり,ひずみ速度 104/s 以上での研究 34)も行われている.また最近では, オーステナイト系ステンレス鋼に関する研究 35)も報告 されているが,ここでは異なった熱処理で得られたアル ミニウム合金の流動応力の温度とひずみ速度依存性 36), 37)について紹介する. 図 10 には, A6061-T6 の各温度で得られた応力―ひ ずみ関係を示し,図 11 には,5%ひずみでの流動応力の ひずみ速度による変化を示す.なお図中には Yadev ら 38) により得られた結果も示す. 弾性定数の温度変化を考慮して,77K での弾性定数を 用いて補正した各ひずみでの真応力と,温度―ひずみ速 度パラメータξとの関係を表すと図 12 に示す結果が得 られるから,強度の温度とひずみ速度依存性を変形が熱 活性化過程に支配されるとして取り扱える.. 2021/04/14. 10:59:49.

(5) 小  川  欽  也. 424. 体積と応力の熱的成分の関係が𝐵𝐵 を一定値として次式で 与えられることが実験的に明らかにされている 40).. 𝜈𝜈 ∗ 𝜎𝜎 ∗ � 𝐵𝐵. これより,図中に示した点線を表す次式を得る.. 𝜎𝜎 ∗ � 𝜎𝜎�∗ 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒��� 𝐵𝐵 � � 𝜎𝜎� 𝜀𝜀 �� 𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒𝑒�� � 𝐵𝐵�(17). 図 10. A6061-T6 の応力-ひずみ関係 37). 図 11 各温度での流動応力-ひずみ速度関係 36). 図 12 応力と温度―ひずみ速度パラメータの関係 36) 析出強化合金の場合,Seeger39)によって与えられた活 性化エネルギーを(7)式に用いると,応力の熱的成分は �. 𝜎𝜎 ∗ � �𝐻𝐻� 𝜈𝜈 ∗ � � � � � ��. ��. �. (16). と与えられる.破線は,その際の関係を示し,𝐻𝐻� は 40k J/mol,,ν*は(8.3~4.7)×10-22(cm3)とひずみと共に小さ くなるが,ひずみの増加と共に,実験点との違いは大き くなる.また,微細な析出物のみが強度を支配する場合 には,加工硬化はほとんど生じず,ν*もひずみには依存 しないとされる.これらのことから,変形機構として 転位の交切が考えられる.純アルミの場合には,活性化. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 424. ここで,ε 1/2 はひずみの増加と共に転位密度が増し,活 性化される転位の長さが減少することを考慮している. これは面心立方金属について提示された Zerelli ら 31)の 構成式と同形であり,実験点と良く合致している.同様 な取扱いを A6061-O 材についても行うと,図 12 に示し たと同じ応力の熱的成分と温度ひずみ速度パラメータ 関係が得られ,応力の非熱的成分のみの違いを考慮すれ ば統一的に取り扱えることが示された. 次に,このような熱活性化過程としての取り扱いが適 用できるひずみ速度域を検討してみる. 𝜀𝜀́� � であ るから,77K,ひずみ速度 1.5×102/s に対応する 289K で のひずみ速度は 2.0×105/s となり,(17)式を描くと,図 11 中の 289K での曲線が得られ,Yadev ら 38)が得た結果と の大きな相違は見られない.したがって,室温での 105/s 程度までの高ひずみ速度変形は,熱活性化過程として取 り扱うことができると考えられる. 3.3. 体心立方(BCC)金属 体心立方金属としては,Cr,Mn,などがあるが,実用金 属としては Fe がほとんど唯一であり,鉄と鋼の強度に ついての温度とひずみ速度の影響に関しては多くの研 究 41)―43)が行われてきた.ここでは,高強度鋼 CHLY980 の流動応力の温度,ひずみ速度依存性についてその特徴 を示す 44),45).. 図 13.高強度鋼の低ひずみ速度での応力-ひずみ関係 44) 図 13 には低ひずみ速度域で変形中ひずみ速度を周期 的に変換した場合の応力―ひずみ関係を各温度につい て示す.これより応力のひずみ速度依存性が求まるとと もに,ひずみ速度履歴効果がほとんど無いことが確認で きる. 図 14 には,弾性定数で補正した各ひずみでの真応力 と温度―ひずみ速度パラメータξとの関係を示す.ここ で, 𝜀𝜀́� � と選ぶと各ひずみでの応力を滑らかに結 ぶ曲線が定まり,すべてのひずみに対してほぼ同一の曲 線が得られた.したがって,応力の非熱的成分はひずみ のみの,応力の熱的成分はひずみに依らずそれぞれ与え られることが分かり,任意の温度における高変形速度で の応力―ひずみ関係が予測できる.. 2021/04/14. 10:59:50.

(6) 衝撃工学の基礎と応用 1.金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性. 425. 報告され 46), 4340 鋼については同様な傾向が報告され ているが 47),今後の詳細な検証が必要であろう. 図 16 には,高ひずみ速度で得られた応力ひずみ関係 を実線で示す.破線は熱変換率β=0,0.9 の場合,鎖線 は図 15 で得られた室温での熱変換率を用いて予測した 場合の応力―ひずみ関係をそれぞれ示した.低温では図 15 での結果との整合性が認められる. 鋼については,強度の強度結晶粒度依存性が大きく, その温度,ひずみ速度依存性についても研究が多く行わ れているが文献 48)-51)を示すのみに留める.. 図 14. 各ひずみでの応力と温度―ひずみ速度パラメー タの関係 44). 3.4.金属間化合物 金属間化合物は特異な機能を備えるため,今後の発展 が期待されているが,その力学的特性の温度,ひずみ速 度依存性についてはまだ十分明らかにはされていない. ここでは,軽量な耐熱材料として期待される TiAl52),53), 形状記憶材料としての TiNi54)―56)について行われた衝撃 変形についての文献のみを掲げる. 4 結 言 衝撃変形下の金属材料の応力―ひずみ関係を統一的 に理解するため,熱活性化過程論による取り扱いは非常 に有効であることを示した.すなわち,室温での衝撃変 形実験のみでは構成式の構築や検証は困難であり,広範 な温度域での実験が不可欠である.特に低温での実験は 熱活性論ではより高変形速度の条件を与えることに対 応するため極めて重要であり,今後の更なる研究が望ま れる.このような熱活性化過程論での検討を踏まえて, 種々の高速運動転位機構が論じられるべきで,その際に も広範な温度域での詳細な検討が必要と考えられる.. 図 15 高強度鋼 CHLY980 と極低炭素鋼 IF28 の 熱変換率 44) 図 15 には,光電素子 HgCdTe を用いた高速温度測定 装置により得られた室温での高速変形中の熱変換率β を示す.低炭素鋼の場合には,変形初期からβ=0.7~0.8 であるが,高強度鋼の場合には,変形初期の熱変換率は 非常に低く,ひずみ 20%程度に至って,βは急激に増加 する.軟鋼での熱変換率は 0.9,1018 鋼では 0.8 程度と. 図 16 高ひずみ速度下での断熱加熱効果を考慮した 応力―ひずみ関係(実験と予測)44). 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 425. 参 考 文献 1)J.Hopkinson, “On rupture of iron wire by a blow”, Proc.Manchester Lit.Phil.Soc.XI, pp.40-45(1872). 2)B.Hopkinson,”The effects of momentary stresses in metals”, Proc.R.Soc.Lond.B.74, pp.498-506 (1905). 3)B.Hopkinson,”A method of measuring the pressure produced in the detonation of high explosives or by the impact of bullets”,Phil. Trans.R.Soc. Lond. A213 pp.437456 (1914). 4)A.Nadai, and M.J.Manjoine,”High-Speed Tension Test at Elevated Temperatures”, Trans.A.S.M.E. (Journ. Applied Mechanics), vol.63,A pp.77-91(1941),. 5)R.M.Davies,”A Critical study of the Hopkinson pressure bar”, Phil. Trans. Roy.Soc., A240, pp.375- 475 (1948). 6)H.Kolsky, ”An Investigation of the mechanical properties of materials at very high rates of loading”, Proc.Phys.Soc., B62, pp.676-700(1949). 7)J.M.Kraft,A.M.Sullivan,and C.F.Tipper, “The effect of static and dynamic loading and temperature on the yield stress of iron and mild steel in compression”,Proc.Roy. Soc.A.vol.221, pp.114-127 (1953). 8)F.E.Hauser,J.A.Simmons,and J.E.Dorn,”Strain rate effects in plastic wave propagation”, in P. G. Shewmon and V. F. Zackay eds., Response of metals to high velocity deformation, Intersience Publishers,New York,N.Y., pp.93109(1960). 9)J.D.Campbell and J.Harding,”The effect of grain Size, rate of strain, and neutron irradiation on the tensile strength of αiron”, in P. G. Shewmon and V. F. Zackay eds., Response of metals to high velocity deformation, Intersience Publishers,New York,N.Y., pp.51-75(1961).. 2021/04/14. 10:59:51.

(7) 小  川  欽  也. 426. 10)E.D.H.Davies, and S.C. Hunter,”The dynamic compression test of solids by the method of the Hopkinson pressure bar”, J.Mech.Phys. Solids, 11, pp.155- 179(1963). 11) K.Tanaka, and M.Kinoshita, “The Effect of Temperature on the Compressive Strength of Aluminium at High Strain Rates”, Proc.7th Japan Congress. On Testing.Materials, pp.87-90(1964). 12)S.Yoshida and N.Nagata,”A Bar-Bar Type Impulsive Loading Apparatus for High Speed Stress-Strain Measurement, (Studies of High Velocity Deformation of Metallic Materials,I)”,J.Japan Inst. Metals,29,No1, pp.99104(1965). 13)D.J.Parry,A.G.Walker and P.R.Dixon,”Hopkinson bar pulse smoothing”,Meas. Sci. Technol.6(1995), pp443-446. 14) K.Tanaka and K.Ogawa,”Deformation of Pure Titanium and Titanium Alloys at High Strain Rate”, Proc. 19th Jap. Cong. Mater. 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(8) 衝撃工学の基礎と応用 1.金属の流動応力のひずみ速度および温度依存性. 427. 8,pp.949-958(1969). 49)S.Sakui, and T.Sakai,”The Effect of Strain Rate, Temperature and Grain Size on the Lower Yield Stress an Flow Stess of Polycrystalline Pure Iron”,Testu to Hagane,58-10, pp.1438-1455(1972). 50) K.Tanaka, T.Nojima, and H.Ishikawa, “The Strain Rate Effect on the Flow Stress of Mild Steel,” Proc. 15th Japan Congress on Materials Research, pp.99–102 (1972). 51)R.W.Armstrong and S.M.Walley,”High Strain Rate Properties of Metala and Alloys”,International Mat. Reviews, 53-3,pp.105-128(2008). 52)K.Ogawa,H.Bandou, and F.Sugiyama,”Impact Strength of γ -TiAl Intermetallic Compound”,Bull. Of JSME,A, 61590,pp.2247-2252(1995). 53)Z. Xiang, Y. Wang,Y. Xia,and Y. He” Strain rate effect on the tensile behavior of Duplex Ti-46.5Al-2Nb-2Cr intermetallics at elevated temperatures”,Materials Science and Engineering :A.498, pp. 296-301 ( 2008). 54)T.Tateishi,Y.Shirasaki,and Y.Suzuki, “Study on Compressive Impact Properties of NiTi Shape Memory Alloy”, Bull.of JSME, A.51-462, pp. 493-498(1985). 55)K.Ogawa,”Impact Deformation of Ti-Ni Shape Memory Alloy”,J.Aero.Apace Sci.Japan,35-406,pp.44-50(1987). 56)R.R.Adharapurapu,F.Jiang,K.S.Vecchiro,and G.T.Gray III,“Response of NiTi shape memory alloy at high strain rate: A systematic investigation of temperature effects on tension– compression asymmetry”,Acta Materialia,54-17, pp.46094620(2006).. 11-2020-0120-(p.420-426).indd. 427. 2021/04/14. 10:59:51.

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図 8 には,α -Ti 合金 Ti-5Al-2.5Sn, β -Ti 合金 Ti-15V- Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al( 未時効材 ), (α+β) Ti 合金  Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al( 時効材 ), について準静的ひずみ速度と高ひずみ速度 で得られた流動応力と温度関係を示す.二相合金では低 温域でα相の,高温域ではβ相の挙動に対応しているこ とが分かるが,ひずみ速度の増加によってα相の寄与が 高くなることが分かる.   高強度で,かつ流動応力が大きい温度依存性を示すチ タン合金
図 8 には,α -Ti 合金 Ti-5Al-2.5Sn, β -Ti 合金 Ti-15V- Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al( 未時効材 ), (α+β) Ti 合金  Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al( 時効材 ), について準静的ひずみ速度と高ひずみ速度 で得られた流動応力と温度関係を示す.二相合金では低 温域でα相の,高温域ではβ相の挙動に対応しているこ とが分かるが,ひずみ速度の増加によってα相の寄与が 高くなることが分かる.   高強度で,かつ流動応力が大きい温度依存性を示すチ タン合金
図 10 A6061-T6 の応力 - ひずみ関係 37 ) 図 11   各温度での流動応力 - ひずみ速度関係 36 ) 図 12  応力と温度―ひずみ速度パラメータの関係 36 ) 析出強化合金の場合, Seeger 39 ) によって与えられた活 性化エネルギーを( 7 )式に用いると,応力の熱的成分は

参照

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