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248 Journal of the Japan Petroleum Institute, 60, (5), (2017) [Regular Paper] Molecular Dynamics Simulation of Adsorption and Replacement of M

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(1)

1. 緒   言 石油・天然ガス開発の常識では,在来型の石油・天然ガス貯 留岩に比べて非常にち密で空げき率が小さく浸透率も3けた以 上低いシェール層からの石油・天然ガスの生産は不可能である と考えられてきた。しかし,一時「シェールガス革命」と呼ば れたように水平坑井の掘削と多段階水圧破砕の技術によって, 2004年以降,北米を中心にシェール層からのガスの開発と生 産が活発化している1)∼3) シェール内の有機質部である“ケロジェン”にはナノサイズ の孔隙(以下,ナノ空げき)が卓越して存在しており4)∼7),そ の内部に吸着している CH4ガスが非在来型の天然ガス資源と なっている8)∼10)。したがって,シェールガス開発の可採埋蔵 量評価においてケロジェンのナノ空げき内の吸着 CH4ガス量 を正確に評価することが重要である10),11)。現在,貯留層シミュ レーターでは,その吸着ガス量を Langmuir の吸着等温式を用 いて評価しているのが一般的である。しかし,実際の CH4ガ スの吸着が Langmuir の吸着等温式の仮定である単層吸着状態 になっているかどうかなど,不明な点が多い。 また,シェール開発で実施されている多段階水圧破砕にはフ ラッキング流体として様々な薬剤を含む大量の水が用いられる ことから,その実施は水質汚染と水資源不足の原因として問題 視されている12)。これらの問題に対処する方法の一つとして, 水の代わりに CO2をフラッキング流体として用いる方法が提 案されている。この方法では,圧入した CO2がケロジェンの ナノ空げきに吸着した CH4と置換することで,シェールガス の増進回収と温室効果ガスである CO2の地中貯留を同時に行 うことができるという二つのメリットがある。しかし,フラッ キング流体が水の場合と CO2の場合とでケロジェンのナノ空 げきからの CH4産出挙動にどのような違いがあるのか,ケロ ジェンのナノ空げきにおいて CO2と CH4の置換がどのように 起こるのか,さらにケロジェンのナノ空げきに存在する H2O が CH4の産出にどのように影響するのかについてはよく分かっ ていない。

Yunosuke S

AWA

, Yunfeng L

IANG

, Sumihiko M

URATA

, Toshifumi M

ATSUOKA

,

Takashi A

KAI†5)

, and Sunao T

AKAGI†5)

†1) Hokkaido District Office, Japan Petroleum Exploration Co., Ltd. (JAPEX), 134-648 Numanohata, Tomakomai, Hokkaido 059-1364, JAPAN †2) Research into Artifacts, Center for Engineering (RACE), The University of Tokyo, Kashiwanoha 5-1-5, Kashiwa, Chiba 277-8568, JAPAN

†3) Dept. of Urban Management, Graduate School of Engineering, Kyoto University,

Cluster C, Kyoto Daigaku-katsura, Nishikyo-ku, Kyoto 615-8540, JAPAN

†4) Fukada Geological Institute, Hon-Komagome 2-13-12, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0021, JAPAN †5) Technology & Research Center, Japan Oil, Gas and Metals National Corp. (JOGMEC),

1-2-2 Hamada, Mihama-ku, Chiba 261-0025, JAPAN (Received April 7, 2017)

Characteristics of CH4 adsorption and CH4 replacement with CO2 in kerogen micropores were investigated by

molecular dynamics (MD) simulations to obtain accurate estimates of CH4 volume and reduction of environmental

load by applying multi-stage CO2 fracking for shale gas development. Firstly, CH4 density in the kerogen

micro-pores was found to be about 1.8 times higher than in the mesomicro-pores outside the kerogen, indicating that an adsorp-tion model accounting for the micropore filling is essential to correctly evaluate the volume of CH4 adsorption.

Secondly, CO2 molecules with linear shape easily passed through the throat of the kerogen micropore, whereas

CH4 molecules with regular tetrahedron shape did not. Thirdly, CH4 was easily replaced by CO2 in the kerogen

micropores due to the higher affinity for CO2 than CH4 of oxygen atoms, which are much more common than other

heteroatoms in the kerogen molecule. Finally, H2O molecules in the kerogen micropores and mesopores were

aggregated by hydrogen bonding around the heteroatoms and prevented the replacement of CH4 by blocking the

pathways. Keywords

Adsorption, Kerogen, Micropore, Molecular dynamics, Shale gas, Carbon dioxide

This paper was presented at the Kyoto Convention of JPI (46th Petroleum-Petrochemical Symposium of Jpn. Petrol. Inst.), Kyoto, Japan, Nov. 17-18, 2016.

DOI: doi.org/10.1627/jpi.60.248

To whom correspondence should be addressed. E-mail: [email protected]

(2)

そこで,本研究ではケロジェンのナノ空げき,特にケロジェ ン内部に存在するミクロ孔における CH4分子の吸着挙動と CH4 分子と CO2分子の置換挙動,ケロジェン内部のミクロ孔およ びケロジェン外部のメソ孔に存在する H2O分子がミクロ孔か らメソ孔への CH4分子の移動とメソ孔からミクロ孔への CO2 分子の移動に及ぼす影響について,分子動力学(MD)シミュ レーションによる検討を行った。 2. 分子動力学 (MD) シミュレーション 2. 1. MDシミュレーションでの基本設定 MDシミュレーションは,各原子間の相互作用を考慮した上 でニュートンの運動方程式に基づいて全原子の軌跡を計算する 手法である。本研究では,フリーの MD シミュレーションソ フトウエアパッケージである GROMACS(バージョン 4.5.5) を用いて計算を行った。シミュレーションでの1タイムステッ プは1 fs とした。また,シミュレーションで用いた力場は,ケ ロジェンに対して GAFF(General AMBER (Assisted Model Building with Energy Refinement) Force Field)14),CH

4に対して

OPLS-AA(Optimized Potentials for Liquid Simulations-All Atom)15)

CO2に対して EPM2(Elementary Physical Model 2)16),H2Oに対

して SPC/E(Simple Point Charge/Extended)17)である。

シミュレーションの圧力・温度条件は,シェールガス層の圧 力・温度条件を勘案して,10 MPa,400 K を基本設定とした。 しかし,圧力については原子数,体積,温度が保存される NVTアンサンブルで計算しているため,系の設定に応じて 10 MPaから変化する。また,境界条件には,設定したシミュレー ションボックスに対して周期境界条件を設定した。 2. 2. ケロジェンの分子モデルの構築 Shinnは石炭の液化の研究を行うため,公開されている石炭 の分析データを幾つか組み合わせて用いることで,Fig. 1(a) に 示すケロジェン(Type III)の分子モデル(C661H561O74N11S6)を 構築した18)。本研究では, MD シミュレーションを実施するた め,この Shinn のモデルから次の方法で Fig. 1(b) に示すケロ ジェンの分子モデル(C675H603O74N11S6)を構築した。 MDシミュレーションを実施するには,半経験的量子論に基 づいて各原子に電荷を割り振るとともに,レナード・ジョーン ズポテンシャルのパラメーターを調整する必要がある。しか し,Fig. 1に示すようにケロジェン分子は非常に多数の原子で 構成される複雑な分子であるため,分子全体が安定な状態にな るまで調整するには非常に長時間の計算を要する大変な作業と なる。そこで,まずケロジェン分子を Fig. 2に示す12個のパー ツに切り離し,それぞれに対して上記の作業を行い,次に元の 位置でそれらを再結合させた後,改めて全体が安定な状態にな るように結合位置近傍の原子に対して上記の作業を行った。な お, Fig. 1(a) に示した Shinn の分子モデルで明記されていない 末端の官能基は全てメチル基とした。 2. 3. ケロジェンのバルク系の作成 まず,前節で構築したケロジェンの分子モデルに対して Berendsenの温度制御19)による NVT アンサンブル計算を行い, 0 Kの緩和状態でのケロジェン分子モデルを定めた。次に,シ ミュレーションの圧力・温度条件で,複数のケロジェン分子か らなるケロジェンモデルを得るため,緩和状態にある12個の ケロジェン分子モデルを6×6×30 nm のボックスに入れ,周期 境界条件を設定して10 MPa,400 K で系全体のエネルギーが最 小化するように原子数,圧力,温度が保存される NPT アンサ ンブルで z 方向にのみ圧縮する計算を行った。この時,温度圧 力制御には Berendsen の温度圧力制御20)を用いた。その結果, Fig. 3に示すように 6×6×5.8 nm のボックスに入る密度が 0.97 g/cm3のミクロ孔を有するケロジェンモデルが得られた。 そこで,次章以降のシミュレーションでは,上で得られたケ ロジェンモデルを2,3個 z 方向に重ねることで,ある程度厚 Fig. 1● (a) Structural Model of Type-III Kerogen Molecular

(C661H561O74N11S6) Generated by Shinn18) (reproduction of

Fig. 4 in ref. #18), and (b) Present Structure Proposed in this Study, in which Cyan, White, Red, Blue, and Yellow Spheres Indicate C, H, O, N, and S Atoms, Respectively

Fig. 2● Twelve Individual Components of the Kerogen Molecular Model Shown in Fig. 1(b)

Fig. 3● Kerogen Bulk Model Generated by Compressing the 12 Molecular Models in Random Locations in the z Direction at 10 MPa and 400 K with the NPT Ensemble Using Berendsen Temperature Coupling

(3)

みのあるケロジェンのバルク系とした。 3. CH4分子の吸着挙動に関する検討 3. 1. 計算系の設定とシミュレーション方法 ここでは,まず第2. 3. 節で作成したケロジェンモデルを z 方 向に二つ重ねることで6×6×11.6 nm のケロジェンのバルク系 を作成した。次に,圧力が約10 MPa となるように,CH4分子 モデルを6×6×6 nm の領域にランダムに配置して Berendsen の温度制御による NVT アンサンブル計算を500 ps 行い,温度 400 Kの CH4のバルク系を作成した。最後に,Fig. 4に示すよ うに,CH4のバルク系の両端がケロジェンのバルク系と重なら ないように 2 nm のスペースを空けて z 方向に重ね,6×6× 21.6 nmの計算系を設定した。x,y,z 方向ともに周期境界条 件を設定することで,ケロジェンのバルク系が CH4分子で満 たされた幅10 nm のスリット状のメソ孔を挟んだ計算系が設定 される。 この計算系に対して Berendsen の温度制御による NVT アン サンブル計算を3 ns 行った後,Nosé-Hoover の温度制御20)によ る NVT アンサンブル計算を1 ns 行うことで計算系の熱平衡状 態を確保し,CH4分子の吸着挙動について検討した。 3. 2. 計算結果と考察 6×6×21.6 nm の計算領域を一辺が 0.15 nm の立方体のボク セルに分割し,そのボクセル毎に CH4分子の数密度を計算し た。ここで,数密度は系全体が平衡状態に達した後に500 ps 間 の CH4分子の平均重心位置を求め,各ボクセルに含まれるそ の数から算出したものである。Fig. 5に y 座標が異なる七つの xz断面における CH4分子の数密度の分布を示す。この図から, ケロジェンのバルク系内のミクロ孔での CH4分子の数密度は スリット状のケロジェンのメソ孔に相当する CH4のバルク系 での数密度に比べて1.8倍程度高いことが分かる。 このようにケロジェンのミクロ孔での CH4分子の密度がバ ルク状態のものに比べて大きくなる現象は先行研究でも示され ている。Ambrose らはグラファイトで挟まれた幅 1.95 nm と 3.92 nmのスリット状の空げき内における CH4分子吸着の MD シミュレーションを行い,CH4分子の吸着層の厚さは約0.7 nm で,その吸着層における CH4分子の平均密度がバルク状態の CH4分子の平均密度の1.8倍から2.5倍になることを示した10)。 グラファイト表面での吸着層の厚さが0.7 nm であれば,本研 究のケロジェンモデルでは,直径が1.4 nm 程度のミクロ孔が 吸着層の CH4分子で充填されていると考えられ,本研究で得 られた結果は,Ambrose らの結果と整合する。また,CH4分子 の分子動力学的直径は0.38 nm であることから,ミクロ孔での CH4分子の吸着は Langmuir の吸着等温式の仮定である単層吸 着状態になっていないと考えられる。したがって,ケロジェン のミクロ孔での CH4分子の吸着量を評価するには,単層吸着 状態を仮定しないミクロ孔充填を考慮した熱力学に基づく Dubinin-Radushkevich (DR)モデル21),22)あるいはその拡張モデ ル23)などを用いる必要があると考える。 4. CH4分子と CO2分子の置換に関する検討 4. 1. 計算系の設定とシミュレーション方法 ここでは,まず第2. 3. 節で作成したケロジェンモデル内の ミクロ孔に250個の CH4分子モデルをランダムに配置したケロ ジェンモデルと250個の CH4分子モデルに加えて250個の H2O 分子モデルをランダムに配置したケロジェンモデルを作成し, それぞれ z 方向に三つ重ねることで6×6×17.4 nm のケロジェ ンのバルク系を2種類作成した。これらのケロジェンのバルク 系にはそれぞれ 750 個の CH4分子のみと 750 個の CH4分子と 750個の H2O分子の両方が含まれている。次に,1331個の CO2 分子モデルと 20,000 個の H2O分子をそれぞれ 6×6×30 nm の ボックスに入れ, Berendsen の温度圧力制御による NPT アンサ ンブル計算を1.5 ns 行うことで,10 MPa,400 K の CO2と H2O のバルク系を作成した。その結果,これらのバルク系の大きさ は,6×6×18 nm となった。最後に,これらのバルク系が上で 作成した CH4分子および H2O分子を含むケロジェンのバルク 系と重ならないように2 nm のスペースを空けて z 方向に重ね, 6×6×39.4 nm の計算系を設定した。以下では,CH4分子のみ を含むケロジェンのバルク系に CO2のバルク系および H2Oの バルク系を重ねて作成した計算系をそれぞれ System-1,System -2 Fig. 4● Initial Setting of Kerogen Bulk System and CH4 Bulk

System for the Study of Adsorption Characteristics of CH4 in

Kerogen Nanopores Using MD Simulation in Chapter 3

Fig. 5● 2D Number-density Distribution of CH4 Extracted from

Seven Different xz-Planes with Different y-Coordinates as Shown by the Blue Lines

(4)

とし,CH4分子と H2O分子の両方を含むケロジェンのバルク 系に CO2のバルク系を重ねて作成した計算系を System-3とす る。以上の計算系の作成の概要を Fig. 6にまとめて示す。 これらの計算系に対して x,y,z 方向ともに周期境界条件を 設定して Berendsen の温度制御による NVT アンサンブル計算 を10 ns 行った後,Nosé-Hoover の温度制御による NVT アンサ ンブル計算を 2 ns 行うことで計算系の熱平衡状態を確保し, CH4分子と CO2分子の置換挙動,ケロジェンのナノ空げきから の CH4ガスの産出に及ぼす水の影響について検討を行った。 4. 2. 計算結果と考察 4. 2. 1. 圧入流体を CO2とした場合 まず,圧入流体を CO2とした場合に相当する System-1に対 するシミュレーション終了時のスナップショットを Fig. 7(a) に示す。また,Fig. 7(a) の点線で示した範囲を z 方向に厚さ 0.05 nmの区間に区切り,CH4分子と CO2分子の平均密度を求 めてプロットしたものをそれぞれ Figs. 7(b) と7(c) に示す。な お,Figs. 7(b),7(c) では,シミュレーションの最初と最後の 1 ns間の平均値をそれぞれ点線と実線で示している。 Fig. 7(a)から,最初にケロジェンのミクロ孔にのみ存在して いた CH4分子が,シミュレーション終了時には CO2のバルク 領域に多く出てきていることが分かる。特に,CO2のバルク領 域に近いケロジェンのバルク領域の CH4分子が少なくなって おり,この領域の CH4分子が CO2のバルク領域に出てきたこ とが分かる。これに対して,最初に CO2のバルク領域(ケロ ジェンのメソ孔)にのみ存在していた CO2分子はシミュレー ション終了時にはケロジェンのバルク領域の奥にあるミクロ孔 ま で, 全 体 に わ た っ て 入 り 込 ん で い る こ と が 分 か る。 Figs. 7(b),7(c) でも,それぞれ時間経過により CH4分子の平 均密度はケロジェンのバルク領域,特に CO2のバルク領域に 近い領域で減少し,CO2のバルク領域で増加すること,CO2分 子の平均密度はケロジェンのバルク領域全体で増加し,CO2の バルク領域で減少することを示しており,上記の現象を裏付け ている。 いくつかの先行研究では炭素表面の化学的不均質性が CO2 分子の吸着を促進させることを報告している24),25)。そこで,上 で述べたような現象の生じる原因がケロジェン分子内のヘテロ 原子(O,N,S の各原子)と CH4分子および CO2分子との親

和性にあると考え,次に RDF(Radial Distribution Function)を 用いてその親和性について考察を行う。一般に,特定の粒子 A に対する粒子 B の RDF は,粒子 A の周囲に存在している粒子 Bの存在率を粒子 A からの距離 r の関数として表したものであ る。具体的には,粒子 A を中心とする半径 r,厚さ dr の球殻 における粒子 B の平均密度を,粒子 A を中心とする最大球に おける粒子 B の平均密度で除した値で求められる。なお,本 研究では6×6×39.4 nm の計算系を用いたので,最大球の半径 Fig. 6● Initial Setting of MD Simulation Systems for the Study of the Replacement of CH4 by CO2 in Kerogen

Nanopores in Chapter 4

In (a), molecules of CH4, CO2 and kerogen are shown as cyan, red

and dark gray, respectively.

Fig. 7● (a) Snapshot of System-1 after Simulation, in which the Periodic Boundary is Shown by the Blue Frame, and the Density Distributions of (b) CH4 and (c) CO2 in the Area

(5)

は3 nm となる。また,球殻の厚さ dr を0.01 nm とし,RDF は シミュレーション最後の1 ns 間の平均値とした。

Fig. 8に各種 RDF の計算結果を示す。Fig. 8(a) はケロジェ

ンの酸素原子に対する CH4分子と CO2分子の RDF であり, Fig. 8(b)は同じくケロジェンの酸素原子に対する CO2の酸素 原子と炭素原子の RDF である。また,Figs. 8(c) と8(d) はそれ ぞれケロジェンの窒素原子および硫黄原子に対する CH4分子 と CO2分子の RDF である。Fig. 8(a) から分かるように,ケロ ジェンの酸素原子に対して CO2分子は約0.3 nm の距離でピー クを示すのに対し,CH4分子は明瞭なピークを示さない。した がって,CO2分子は CH4分子よりもケロジェンの酸素原子に対 し て 強 い 親 和 性 を 有 し て い る も の と 考 え ら れ る。 な お, Fig. 8(b)から分かるように,CO2分子の親和性はその炭素原子 が担っている。これはケロジェンの酸素原子の電荷がマイナス であるのに対して,CO2分子の炭素原子の電荷がプラスである ことによるものと考えられる。一方,Fig. 8(c) から分かるよう に,CH4分子も CO2分子もケロジェンの窒素原子に対して明瞭 なピークを示さず,ケロジェンの窒素原子は CH4分子と CO2 分 子 に ほ と ん ど 影 響 し な い も の と 考 え ら れ る。 さ ら に, Fig. 8(d)から分かるように,ケロジェンの硫黄原子に対して CH4分子,CO2分子は共に0.4∼0.5 nm の距離に明瞭なピーク を示し,どちらの分子もケロジェンの硫黄原子に対して同程度 の強い親和性を有しているものと考えられる。ここで,ケロ ジェンの分子式(C675H603O74N11S6)を見ると,ヘテロ原子の中 で酸素原子の割合が最も大きく,CH4分子が親和性を示す硫黄 原子の数は酸素原子の数の10 % 以下である。このため,ここ で用いたケロジェンに対して CO2分子の方が CH4分子よりも 強い親和性を示したものと考えられる。このように,CO2分子 の方が CH4分子よりもケロジェンに対して強い親和性を示す ことが,ケロジェン外部のメソ孔に CO2が圧入されると CO2 分子がケロジェンのミクロ孔内に入り込み,先に存在している CH4分子と置換することで CH4分子をケロジェンのメソ孔に移 動させる原因となっているものと考えることができる。また, ケロジェン分子に含まれる酸素原子と硫黄原子の割合から CO2 分子と CH4分子それぞれのケロジェン分子に対する親和性の 強さを比較することが可能となり,CO2の圧入による CH4ガス 増進回収法の実施対象となるシェール層の選択に応用すること が考えられる。 さらに,先に述べたように,CH4分子は CO2のバルク領域に 近いケロジェンのミクロ孔から出てきているのに対し,CO2分 子はケロジェンのバルク領域の奥にあるミクロ孔にまで全体に わたって入り込んでいる。この理由として,上に述べたケロ ジェン分子に対するそれぞれの分子の親和性の違いに加えて CH4分子と CO2分子の形状の違いが考えられる。CO2分子は直 線状であるのに対し,CH4分子は正四面体の構造をしており, CO2分子の方がケロジェンの狭いミクロ孔の孔隙喉を通過しや すいためと考えられる。 4. 2. 2. 圧入流体を H2Oとした場合 次に,圧入流体を H2Oとした場合に相当する System-2に対 するシミュレーション終了時のスナップショットを Fig. 9(a) に示す。また,Fig. 9(a) の点線で示した範囲に対して Fig. 7の

場合と同様に,CH4分子と H2O分子の平均密度をシミュレー ションの最初と最後の1 ns 間の平均値を求めてプロットしたも のをそれぞれ Figs. 9(b) と9(c) に示す。 Fig. 9(a)から,最初にケロジェンのミクロ孔に存在していた CH4分子は,シミュレーション終了時においてもほとんど H2O のバルク領域に出てきていないように見える。Fig. 9(b) では その様子を詳細に見ることができる。この図に示すように, H2Oのバルク領域との境界近傍のケロジェンのミクロ孔に存在 する CH4分子の平均密度が減少し,H2Oのバルク領域の CH4 分子の平均密度がわずかに増加している。このことから,H2O のバルク領域との境界近傍のケロジェンのミクロ孔に存在する CH4分子がわずかに H2Oのバルク領域に出てきたことが分か

Fig. 8● (a) Radial Distribution Functions (RDFs) of CH4 and CO2

Molecules around the Oxygen Atoms in the Kerogen Molecule; (b) RDFs of Oxygen and Carbon Atoms Forming the CO2 Molecules around the Oxygen Atoms in the Kerogen

Molecule; RDFs of CH4 and CO2 Molecules around the (c)

Nitrogen and (d) Sulfur Atoms in the Kerogen Molecule

In (a), molecules of CH4, H2O and kerogen are shown as cyan, blue

and dark gray, respectively.

Fig. 9● (a) Snapshot of System-3 after Simulation, in which the Periodic Boundary is Shown by the Blue Frame, and the Density Distribution of (b) CH4 and (c) H2O in the Area is

(6)

る。また,Fig. 9(a) から,H2O分子はシミュレーション終了 時でも H2Oのバルク領域との境界近傍のケロジェンのミクロ 孔に入り込むに止まっていることが分かる。このことは, Fig. 9(c)において H2Oのバルク領域との境界近傍のケロジェ ンロのバルク領域で H2O分子の平均密度がわずかに増加し, H2Oのバルク領域の H2O分子の平均密度がわずかに減少して いることからも裏付けられる。 このような結果の原因の一つとして,次の System-3に対す る結果の考察で述べるように,H2Oのバルク領域にある H2O 分子が互いに水素結合することで大きな分子の塊となり (Fig. 11参照),ケロジェンのミクロ孔に入り込み難くなって いることが考えられる。 4. 2. 3. CH4分子と CO2分子の置換に及ぼす H2O分子の影響 次に,CH4分子と CO2分子の置換に及ぼす H2O分子の影響 を考察するため,System-3に対する結果を以下に示す。Fig. 10 は,System-1と System-3に対するシミュレーション終了時の 各分子の平均密度分布を示したものである。Fig. 10(a) は System-1に対するものであり,Fig. 7(b) に示したものと同じで ある。また,Fig. 10(b) は System-3に対するものである。なお, 図中の点線で示した水平線は両者の結果を比較しやすいように CH4の平均密度が10 kg/m3のレベルで引いたものである。 これら二つのグラフを比較してみると,ケロジェンのミクロ 孔に水が存在している System-3では水がない System-1に比べ て CO2のバルク領域において CH4分子の平均密度が低くなっ ていることが分かる。また,この領域での CO2の平均密度も System-3の方が System-1よりも高いことが分かる。この結果 は,ケロジェンのミクロ孔に H2O分子が存在することで CH4 分子が CO2のバルク領域に出て来難くなると同時に,CO2分子 もケロジェンのミクロ孔に入り込み難くなることを示してい る。 そこで,このように H2O分子の存在が CH4分子や CO2分子 の移動を困難にする原因を考察するため,System-3に対してシ ミュレーション前後のケロジェンのバルク領域内(ミクロ孔 内)における H2O分子のスナップショットを Fig. 11に示す。

Fig. 11(a)がシミュレーション前のものであり,Fig. 11(b) が

シミュレーション後のものである。また,Fig. 11(b) の一部を 拡大したものを Fig. 11(c) に示している。なお,分かりやすい ようにケロジェン分子は省略した。Fig. 11(c) から,シミュ レーション前はほとんどばらばらに存在していた H2O分子が シミュレーション後は互いに連結して,一部は塊になっている ことが分かる。これは H2O分子の水素結合によるものと考え られ,水素結合によって大きな塊となった H2O分子がケロジェ ンのミクロ孔を閉そくし,CH4分子や CO2分子の移動を妨げる 原因となったものと考えられる。 このような H2O分子のブロッキング効果は,H2O分子とケ ロジェン分子の親和性が高いほど強固になることが予想され る。この親和性もケロジェン分子内のヘテロ原子と H2O分子 との親和性に依存するものと考えられることから,第4. 2. 1. 項 と同様に RDF を用いて検討を行った。Fig. 12にケロジェンの 酸素原子および窒素原子に対する H2O分子,CH4分子,CO2分 子の RDF を示す。Fig. 12(a) が酸素原子に対するもので, Fig. 12(b)が酸素原子に対する H2O分子の水素原子と酸素原子 の RDF を示している。また,Fig. 12(c) が窒素原子に対するも ので,Fig. 12(d) が窒素原子に対する H2O分子の水素原子と酸 素原子の RDF を示している。 Fig. 10● (a) Density Distributions of CH4 and CO2 after Simulation

for System-1; (b) Density Distributions of CH4, CO2 and

H2O after Simulation for System-3 Fig. 11(a) Snapshot of System-3 before Simulation, in which only

H2O Molecules are Visualized for Simplicity; (b) Snapshot

of System-3 after Simulation; (c) Enlarged Snapshot of Part of (b)

(7)

Fig. 12(a)から,ケロジェンの酸素原子に対して H2O分子の RDFは距離0.2 nm と距離0.3から0.4 nm にかけて明瞭で大きな ピークを示し,CH4分子や CO2分子に比べて強い親和性がある ことが分かる。また,Fig. 12(b) から,距離0.2 nm のピークは H2Oの片方の水素原子によるもので,距離0.3から0.4 nm にか けてのピークは H2O分子の酸素原子ともう片方の水素原子に よるものと考えられる。これより,H2O分子はその極性からケ ロジェンの酸素原子に対して強い親和性を示し,その酸素原子 と片方の水素原子がケロジェンから離れた位置になり,もう片 方の水素原子がケロジェンの酸素原子に向かうような形で吸着 していると考えられる。 また,Figs. 12(c),12(d) から,ケロジェンの窒素原子に対 する H2O分子の RDF も,距離0.3から0.4 nm にかけてのピー クは小さくなるものの酸素原子に対する RDF と同様であるこ とが分かる。したがって,H2O分子はケロジェンの窒素原子に 対しても強い親和性を示し,その酸素原子と片方の水素原子が ケロジェンから離れた位置になり,もう片方の水素原子がケロ ジェンの窒素原子に向かうような形で吸着していると考えられ る。 以上より,ケロジェン内部にあるミクロ孔に H2Oが存在す る場合,H2O分子は水素結合で互いに連結し大きい分子の塊に なるとともに,ケロジェンのヘテロ原子に吸着して CH4分子 や CO2分子の移動を妨げるものと考えられる。したがって, ケロジェン内部のミクロ孔に含まれる水分量もシェールガス開 発における CH4ガスの生産性および CO2圧入による増進ガス 回収法の効率にかかる重要な要因となることが考えられる。 その結果,ケロジェン内部のミクロ孔の CH4分子の数密度 はケロジェン外部のメソ孔の CH4分子の数密度の約1.8倍にな ることが分かった。この結果はミクロ孔充填によるもので,先 行研究の結果と整合している。また,先行研究での CH4分子 の吸着層の厚さから Langmuir の吸着等温式の仮定である単層 吸着状態ではないと推察され,ケロジェンのミクロ孔での CH4 分子の吸着量を評価するには,ミクロ孔充填を考慮した吸着モ デルを用いる必要があると考えられる。 次に,ケロジェン内部のミクロ孔に CH4分子を入れた系と ケロジェン外部のメソ孔として CO2分子のバルク系を重ねた 計 算 系(System-1),H2O分 子 の バ ル ク 系 を 重 ね た 計 算 系 (System-2),ケロジェン内部のミクロ孔に CH4分子と H2O分 子を入れた系とケロジェン外部のメソ孔として CO2分子のバ ルク系を重ねた計算系(System-3)を構築して,ケロジェン内 部のミクロ孔およびケロジェン外部のメソ孔に存在する H2O 分子がミクロ孔からメソ孔への CH4分子の移動とメソ孔から ミクロ孔への CO2分子の移動に及ぼす影響について,MD シ ミュレーションで検討した。 その結果,直線的な構造の CO2分子は正四面体構造の CH4 分子に比べてミクロ孔の狭い喉部を通過しやすいこと,ケロ ジェン分子に含まれるヘテロ原子の中で酸素原子は CH4分子 よりも CO2分子に対して強い親和性を示すのに対し,硫黄原 子は両分子に対して同程度の親和性を示すこと,酸素原子が硫 黄原子に比べて10倍以上多い場合,CO2分子は CH4分子より も容易にケロジェンに吸着して CH4を置換することが示され た。したがって,ケロジェン分子に含まれる酸素原子と硫黄原 子の割合から CO2分子と CH4分子それぞれのケロジェン分子 に対する親和性の強さを比較することが可能となり,CO2の圧 入による CH4ガス増進回収法の実施対象となるシェール層の 選択に応用することが考えられる。さらに,ケロジェンのミク ロ孔に存在する水は,CH4分子や CO2分子に比べてケロジェン のヘテロ原子に対する親和性が強く,ケロジェンのミクロ孔内 で水素結合によって集積するため,CH4分子や CO2分子の移動 経路を閉そくし,CH4分子の置換を妨げることが分かった。 謝 辞 本研究は,JSPS 科研費 JP24246148,新井科学技術振興財団, JST/JICA-SATREPSの助成と JOGMEC および JAPEX からの受 託研究費の一部により実施した。また,現・国際石油開発帝石

(株)(INPEX)の小林和弥博士からは非常に有用な助言を頂い

た。記してここに謝意を表する。 References

1) Boyer, C., Kieschnick, J., Lewis, R., Oilfield Review, 18, (3), Fig. 12● (a) RDFs of CH4, CO2 and H2O around the Oxygen Atoms

in the Kerogen Molecule; (b) RDFs of the Hydrogen and Oxygen Atoms Forming the H2O Molecules around the

Oxygen Atoms in the Kerogen Molecule with the RDF of H2O S h o w n i n ( a ) ; ( c ) R D F s o f t h e M o l e c u l e s

Corresponding to (a) around the Nitrogen Atoms in the Kerogen Molecule; (d) RDFs of the Atoms Corresponding to (b) around the Nitrogen Atoms in the Kerogen Molecule

(8)

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Fig.  2●  Twelve Individual Components of the Kerogen Molecular  Model Shown in Fig.  1(b)
Fig.  5●  2D Number-density Distribution of CH 4  Extracted from  Seven Different xz-Planes with Different y-Coordinates as  Shown by the Blue Lines
Fig.  6●  Initial Setting of MD Simulation Systems for the Study of the Replacement of CH 4  by CO 2  in Kerogen  Nanopores in Chapter 4
Fig.  9●  (a) Snapshot of System-3 after Simulation, in which the  Periodic Boundary is Shown by the Blue Frame, and the  Density Distribution of (b) CH 4  and (c) H 2 O in the Area is  Indicated by the Dotted Frame
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参照

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