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hp160092 「京」以外HPCI産業利用(実証利用)
HPCI other than K Industrial Use
高機能性カーボンナノチューブ材料の開発に向けた
大規模シミュレーション
Large-scale simulations for the development of high- functionalized carbon
nanotube material
風間 吉則、谷村 雄大 Yoshinori Kazama, Yudai Tanimura
古河電気工業株式会社 FURUKAWA ELECTRIC CO., LTD.
要旨
カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube; CNT)[1][2]の導電性向上メカニズムを明らかにするた め、第一原理計算を用いて CNT にカリウム(K)原子をドープしたときの吸着安定性と電荷移動量 について計算した。2 層 CNT(Double Walled Carbon Nanotube; DWCNT)、3 層 CNT(Triple Walled Carbon Nanotube; TWCNT)、バンドル状態のモデルをそれぞれ作成し、計算を行った。DWCNT で は K から CNT に電荷が移動し、K 原子に近い層ほど電荷移動量が多く、K 原子から遠い層ほど 電荷移動量が少ないことが分かった。また、TWCNT では K 原子から一番遠い層へも微量ながら 電荷が移動しており、K ドープによる影響を受けていることが分かった。更に、バンドル状態へ のドープの計算結果から、単独の CNT にドープするよりもバンドル状態へドープした方が、電 荷移動量が多くなる傾向にあると考えられる結果を得た。 キーワード:ナノ構造化学、ナノ構造、ナノ・チューブ、ナノ構造物理、計算科学、数値シミュ レーション Abstract
In order to clarify the conductivity improvement mechanism of Carbon Nanotube; CNT[1][2], adsorption stability and charge transfer amount when CNT was doped with potassium (K) atom were calculated by first-principles calculations. Double-walled carbon nanotube (DWCNT), triple-walled carbon nanotube (TWCNT), and bundle state model were respectively created and calculated. In DWCNT, the charge transfer occurred from K to CNT, the charge transfer amount was larger in the layer closer to the K atom, and was smaller in the layer farther from the K atom. In TWCNT, it was also found that charge was transferred from the K atom to the farthest layer while the amount is small, namely K doping also affects the distant layer. It was also found that in doping to the bundled state, the amount of charge transfer tends to be larger when doping to the bundle state rather than doping into an isolated CNT.
© 2020 Research Organization for Information Science and Technology All rights reserved. Received: 21 January 2020
Accepted: 7 December 2020 Available online: 25 December 2020
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Keywords:Nano structure chemistry, Nano structure, Nanotube, Nano structure physics, Computational science, Numerical simulation
1. 研究の背景と目的 現在、地球温暖化防止の観点から輸送機器分野では厳しい燃費規制や CO2排出規制が制定され、 輸送機器の省エネルギー・軽量化、電力配電分野の軽量化の強いニーズがある。古河電気工業で はカーボンナノチューブ(CNT)[1][2] 導体を用いた超軽量電線の開発を行っている。本研究では CNT の持つ多くのパラメータ(直径、カイラリティ、層数、ドーピングなど)を設計・制御し、 高機能化 CNT を得るため、第一原理計算を用いてそれぞれのパラメータに対応したモデルの構 築と電子状態解析を行い、特に導電性向上メカニズムを明らかにすることを目的とした。特に、 本研究では異原子を CNT にドープすることによって、キャリア密度を増加させ、導電性が向上 できないか検討することを目的としており、吸着エネルギーの計算により CNT に対してドーパ ントが安定であるか、また、電荷移動量の計算によりキャリアを増やすことができるかを検討し た。 2. 計算モデル 計算ソフトには、擬ポテンシャルを用いた平面波基底 第一原理計算ソフトウェア 「Quantum Espresso」[3]を採用した。本検討では最大で三層の CNT を計算するが、その対象と してカイラリティがそれぞれ(10,0)、(19,0)、および(28,0)の CNT を採用した。これらは、CNT 径の差がおよそグラファイト層間距離に一致する点と、全て半導体性を示すカイラリティであ る点の 2 点から採用を決定した。計算のセルサイズは、CNT の径方向にはそれぞれ30Å、長手 方向には CNT(10,0)の繰り返し 2 単位分である8.54Å と設定した。ドーパントにはカリウムを採 用した。SWCNT(Single Walled Carbon Nanotube)の(10,0)では C:80 原子を、SWCNT の(19,0)では C:152 原子を、SWCNT の(28,0)では C:224 原子を、DWCNT では内層に(10,0)、外層に(19,0)を用 い C:232 原子を、TWCNT では第 1 層(最内層)に(10,0)、第 2 層(中間層)に(19,0)、第 3 層(最外層)に (28,0)を用い C:456 原子を、それぞれ使用した。K 原子については、単独の CNT には K: 1 原子を、 バンドル状態の CNT には K: 2 原子をそれぞれ使用した。 交換相関汎関数には一般化密度勾配近似 GGA-PBE[4]を用いた。カットオフエネルギーと k 点 分割数を変動させ、エネルギーが妥当に評価できる値に収束していることを確認し、カットオ フエネルギーは 50Ry を、k 点の分割数には 1×1×8 を採用した。格子定数の決定は、a・b 軸方向 (CNT 円周方向)については、実験値に対して 1%ずつ長さを変調させた条件で原子座標の構造最 適化計算を実施し、エネルギー最安定な構造を採用した。c 軸方向(CNT 長手方向)については、 (10,0)にて c 軸のみの格子定数緩和計算を行い、得られた値を(19,0)、(28,0)にも採用した。原子 座標の緩和は、原子に働く力の閾値:0.01eV/angstrom と設定した。また、ファンデルワールス 相関を考慮した。
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電荷移動量の計算は、Quantum Espresso で計算・出力された電荷密度分布に対して Bader Charge Analysis プログラム[5][6][7]を使用し、各原子の電荷量(Bader Charge)を得た。本報告では、カリウ ムドープによる C 原子の電荷量(Bader Charge)総和の変化量を電荷移動量と定義した。
3. 並列計算の方法と効果(性能)
計算ソフト「Quantum Espresso」は OpenMPI を利用した並列計算が可能である。本検討では、 TSUBAME に実装されている OpenMPI を利用して並列計算を実施した。検討した結果、4 ノード を基準として、16 ノードで並列化効率 77%を得ることができた。計算負荷が大きなモデルの計 算は 16 ノードの並列計算により行い、研究効率を上げた。 4. 研究成果 CNT の導電性向上メカニズムを明らかにするため、CNT に異元素をドープしたときの吸着安 定性と電荷移動量について計算した。特に本報告ではカリウム(K)ドープについて計算を行った ので以下で報告する。 4.1 DWCNT への K ドープ
2 層 CNT(Double Walled Carbon Nanotube; DWCNT)に K ドープした系について、図 1 のような モデルを用いて計算を行った。モデルでは 1 個の K 原子を DWCNT の内側(Inner)にドープしたモ デルと外側(Outer)にドープしたモデルの 2 種類を検討した。表 1 にその結果を示す。この系では K を Inner へドープする方が安定である。この結果は、UC Berkeley のグループによって計算され た SWCNT に K をドープした結果[8]と一致する。SW と DW の違いはあるが、CNT が単独の状 態(CNT 同士が隣接していない状態)での K ドープでは、K が Inner にドープされる方が安定であ る。[8]による(7,0)の計算では、K 原子は CNT のほぼ中心にいるが、本計算で用いた(10,0), (19,0) の DWCNT では、CNT の中心から少しずれた結果となった。この K と DWCNT の内層(10,0)との 距離は、これも[8]で述べられている通り K-doped GIC’s (GIC: graphite intercalated compounds) [9]と 同等の距離であった。
DWCNT への電荷移動量としては Outer へドープする方が若干であるが多いことが分かった。 また、DWCNT の内層と外層への電荷移動量としては、それぞれ K に近い層がより多く電荷移動 が起こっていることが分かり、遠い層へも微量ながら電荷移動が起こっていることが分かった。
77 図 1. DWCNT への K ドープモデル. (左)Inner へドープ. (右)Outer へドープ. 表 1. DWCNT への K ドープにおける吸着エネルギー[eV]と 計算セル当たりの電荷移動量[e=1.602×10-19 C]. Inner Outer 吸着エネルギー K→CNT への 電荷移動量 吸着エネルギー K→CNT への 電荷移動量 DWCNT -1.26 0.89 -0.55 0.95 ※内層 (10,0) 0.81 0.15 ※外層 (19,0) 0.078 0.80 4.2 TWCNT への K ドープ
3 層 CNT(Triple Walled Carbon Nanotube; TWCNT)に K ドープした系について、図 2 のようなモ デルを用いて計算を行った。TWCNT においては、1 個の K 原子を内側(Inner)へドープしたモデ ルについて計算を行った。表 2 にその結果を示す。吸着エネルギーはマイナスとなり安定な状態 を得ることができた。また、電荷移動量は DWCNT の Inner モデルのときとほぼ同様の値となっ た。構造緩和後の K の位置は、DWCNT Inner モデルのときと同様で、中心からは少しずれた位 置となった。K と TWCNT の最内層(10,0)との距離も同等の値となった、 また、各層別の電荷移動量を見てみると、K に近い層ほどより多く電荷移動していることが分 かり、K から一番離れている 3 層目においても非常に微量ではあるが K による電荷移動の影響を 受けていることが分かった。
78 図 2. TWCNT への K ドープモデル(Inner). 表 2. TWCNT への K ドープにおける吸着エネルギー[eV]と 計算セル当たりの電荷移動量[e=1.602×10-19 C]. Inner 吸着エネルギー K→CNT への 電荷移動量 TWCNT -1.36 0.83 ※第 1 層 (最内層 (10,0)) 0.72 ※第 2 層 (中間層 (19,0)) 0.11 ※第 3 層 (最外層 (28,0)) 0.00019 4.3 バンドル状態への K ドープ バンドル状態に K ドープした系については、図 3 のようなモデルを用いて計算を行った。この モデルでは、2 個の K 原子を 1 本の CNT と 1 本の CNT の間にドープする Interstitial というモデ ルを使用した。それぞれ(10,0)の SWCNT と(19,0)の SWCNT、およびそれらを合わせた DWCNT について計算を行った。表 3 にその結果を示す。吸着エネルギーについては(10,0)より(19,0)の方 が安定であり、DWCNT へのドープが一番安定であることが分かった。電荷移動量については、 DWCNT への Outer への K ドープ(4.1 節参照)と比較すると、K 原子 1 個分に対する電荷移動量 は、本節の結果であるバンドル状態へのドープ(Interstitial)の方が多くなる傾向にあると考えられ る結果となった。 図 3. バンドル状態への K ドープモデル(Interstitial). (左)SWCNT(10,0)へドープ. (中)SWCNT(19,0)へドープ. (右)DWCNT へドープ.
79 表 3. バンドル状態への K ドープ(K は 2 原子分)における吸着エネルギー[eV]と 計算セル当たりの電荷移動量[e=1.602×10-19 C]. Interstitial 吸着エネルギー K→CNT への 電荷移動量 SWCNT (10,0) -1.13 1.98 SWCNT (19,0) -3.47 2.06 DWCNT -3.60 2.20 ※内層 (10,0) 0.38 ※外層 (19,0) 1.82 4.4 電荷移動量についての考察 ここで表 3 にてK→CNT への電荷移動量(K は 2 原子分)の値が 2 を超えることについて考察 する。通常であればカリウム 1 原子からは最大でも 1 電子分しか電荷移動できないはずだが、本 計算ではカリウム 1 原子から 1 電子分を超える電荷が移動しているように見える。4.3 節の SWCNT(10,0), SWCNT(19,0), DWCNT の電荷移動量は多少異なる。一方でいずれのモデルも K の電荷 はゼロであった。すなわち、CNT 側の C 原子電荷総和量がある値(例えば(10,0)なら 320e)からずれ るのはBader Charge Analysis プログラム[5][6][7]の使用方法....に原因があると考えられ、今回の使用方 法では表 3 の DWCNT の結果から±10%程度の誤差を含む可能性が考えられる。そのため、4.1 節の DWCNT や 4.2 節の TWCNT の計算においても、この誤差を含んだ結果となっている可能性が考えら れるが、本検討では K 原子のドープ位置によって、CNT への電荷移動量が相対的にどのような傾向に あるかを知ることのみに留まり、数値の絶対性については更に詳細な検討が必要である。 5. まとめと今後の課題 高機能性 CNT 材料の開発に向け、特に CNT の導電性向上メカニズムを明らかにするため、 CNT に異元素をドープし、キャリア密度を増加させ、導電性が向上できないか検討することを目 的とし、吸着安定性と電荷移動量について第一原理計算によるシミュレーションを実施した。特 に本研究ではカリウム(K)ドープについて、DWCNT、TWCNT、およびバンドル状態への計算を 行い、ドープによる影響と傾向について検討した。 DWCNT では K から CNT に電荷が移動し、Inner と Outer のそれぞれについて、K 原子に近い 層ほど電荷移動量が多く、K 原子から遠い層ほど電荷移動量が少ないことが分かった。また、 TWCNT では K 原子から一番遠い層へも微量ながら電荷が移動しており、K ドープによる影響を 受けていることが分かった。更に、バンドル状態へのドープの計算結果から、単独の CNT にド ープするよりもバンドル状態へドープした方が、電荷移動量が多くなる傾向にあると考えられる 結果を得た。一方で本計算では、Bader Charge Analysis プログラムの使用方法に起因すると考えら
80 れる±10%程度の誤差が電荷移動量の値に含まれる可能性があり、本検討では K 原子のドープ位置に よって、CNT への電荷移動量が相対的にどのような傾向にあるかを知ることのみに留まり、数値の絶 対性については更に詳細な検討が必要である。その上で、今後は他の原子のドープによる影響の違 いや、CNT の直径による違いなどを検討し、実験との比較を試みていく必要がある。 参考文献
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