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慶應義塾大学総合政策学部 〒2528520 藤沢市遠藤5322
Faculty of Policy Management, Keio University, 5322 Endo, Fujisawa, Kanagawa 2528520, Japan (E-mail: aosets@sfc.keio.ac.jp)
39 ― 223 ― 特集これからの微小重力実験機会 (解説)
宇宙の国際協力と日本の貢献
青木
節子
International Cooperation in the Exploration and Use of Outer Space:
Possibility of Japan's Contribution
Setsuko AOKI
Abstract
International cooperation has been of vital importance for the successful space exploration and use. Among the many types of international cooperation, this paper is to analyze the assistance and coordination aspects of space applications from the space faring nations with the emphasis on the earth observation and disaster monitoring. After recent develop-ments being explained on the follow-up activities of UNISPACE III, GEOSS 10 Implementation Plan, CEOS, Disaster Charter, etc., Asian developments are to be explored in some depth with the special focus on the APRSAF and APSCO. Based on such study, a certain conclusion would be given with respect to the possibility of Japan's contribution.
. はじめに―問題の所在 . 日本の国際協力プロジェクトISS, TRMM,リ モート・センシング 先端科学技術の粋を集め,巨額の費用をかけて行う宇宙 開発は,軍事利用を除いては,現在,一国のみで完結する ものの方が珍しく,何らかの国際協力に基づくプロジェク トがほとんどである.日本の宇宙開発利用もその多くが国 際協力に係るのが実情である.そのうち,大規模なものに はレーガン大統領の提唱により約20年前に開始した国際宇 宙ステーション(ISS)プロジェクトがあり,日常的小規 模な宇宙機関間協力としては,たとえば,宇宙航空研究開 発機構( JAXA)と米 NASA の共同プロジェクトとして, 熱帯降雨観測(Tropical Rainfall Measuring Mission: TRMM)衛星運用がある.TRMM 計画は1987年にフィー ジビリティ研究を日米共同で行って以来,今日まで続いて いる国際協力である.熱帯地方の降雨は全世界の降雨の約 60を占めるため,降雨の実態や変動を把握することは地 球環境の維持のため重要な役割を担っているにもかかわら ず,宇宙からの世界規模の観測はほとんど行われてこなか った.そこで,日米共同で観測システムを開発することと なり,日本側が衛星の打上げと降雨レーダの開発を行い, 米国側が衛星バス,可視・赤外放射計およびマイクロ波放 射系の開発,追跡管制,データ中継システムを担当した. 1996年,JAXA
の前身である「宇宙開発事業団」(NAS-DA)は NASA に降雨レーダを引渡し,NASA が TRMM 衛星にレーダを取り付け,一連の試験を終了した後,1997 年 8 月,同衛星は種子島宇宙センターに輸送された.同年 11月に HII6 により高度350キロの円軌道に投入され,以 後宇宙からの降雨観測技術の確立に大きな役割を果たして いる.2003年10月,管制運用を担当する NASA が,3 年 という設計寿命を大幅に超えた運用継続は安全上の懸念が ある という理 由で,衛星 の運用終了に ついての提 案を JAXA に対して行い,2004年 7 月にはいったんは,運用終 了が合意された.しかし,その後の協議により,現在2009 年 9 月30日までの運用延長が JAXA と NASA の間で合意 されている.その後の延長可能性については,運用期間の 最後に改めて検討することとなっている. 前述の 2 つの例は,先進宇宙活動国間の協力プロジェク トだが,日本が宇宙開発における発展途上国に対して行う 国際協力も多岐にわたる.一例は,タイのリモート・セン シング受信設備保有・運用に関する協力である.タイは, 東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国の中でも,最も 多くのリモート・センシング衛星受信局を運用してきた国 であるが,1986年,タイと日本の政府は「海洋観測衛星 (MOS1)を利用したリモート・センシング共同研究計画 のための協力に関する口上書」を締結し,運用機関である NASDA とタイ国家研究評議会(NRCT)の間で「直接受 信に係る了解覚書」を締結した.そして,1988年にはタイ に日本からの協力として MOS1(「もも」)受信用設備を
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設 置 し た . そ の 後 1993 年 に は , 別 途 , 地 球 資 源 衛 星 ( JERS1)(「ふよう」)について同様の口上書と了解覚書 を政府間および機関間で交わし,以後データの提供を行っ てきた.協力の相手方であるタイの NRCT は,2000年に は 地 理 情 報 ・ 宇 宙 技 術 開 発 機 構 ( Geo-Informatics and Space Technology Development Agency: GISTDA)となっ た.2002年までは,リモート・センシングデータの受信・ 処理に関する協力プロジェクトを行ってきたが,同年11月 にはプロジェクトは終了した.その際,タイが地上設備を 有効に使用するため,NASDA は受信アンテナ等地上設備 の所有権を GISTDA に移転した.両国はまた,「地球観測 及び衛星応用分野の協力に係る協定」に基づいて将来にわ たって協力関係を継続することを希望し,2004年 9 月には 打上げ予定の ALOS データ受信のためのデータ受信地上 局更新に関する契約を日本の財リモート・センシング技術 センターと GISTDA の間で締結した.そして,2006年 1 月に打上げに成功した ALOS(「だいち」)の画像提供サー ビスが可能になるのを待って,データ提供を再開すること になった. 同様の国際協力は,1995年以来,NASDA がインドネシ ア宇宙庁(LAPAN)との間でも展開しており,「ふよう」 データを利用した共同研究も行っていた.1999年に研究プ ロジェクト終了とともに,地上局は LAPAN に譲渡され た. . さまざまな国際協力と本稿の範囲 国際協力のありかたについては,世界的規模のものと地 域に根ざした協力に分類する方法,政府間協力と非政府団 体である宇宙機関間の共同プロジェクト型(多国間または 二国間協力)に区別する方法,さらには,先端開発の共同 プロジェクト型協力と途上国への国際援助型協力とに分け る方法,当該協力が法的拘束力をもつ条約等の文書に基づ いて実施されているか否かにより分類する方法,など考察 の目的と視点によりさまざまな分類方法が存在するであろ う.本稿の目的は,宇宙開発の国際協力における日本の現 状を考察し,これまでの評価をするとともに,今後,どの ような点に一層の努力を傾注するのが世界と日本にとって 望ましいかを考察することである.そこで,国際貢献型の 国際協力を考察の中心とし,特に,今後の日本の国益に資 する国際協力はどのようなものとなるのか,外交政策の一 部としての宇宙戦略という観点から,考えていくこととす る.そのため,先進国間の協力について記述するのはこの 節のみで,第 2 節以降においては扱わない. 先進国間の協力のうち,今後,さまざまな議論がなされ るであろうものとして,たとえば,ブッシュ大統領が2004 年 1 月に発表した月・火星探査計画に対する参画問題を挙 げることができるであろう.これについては,ISS 建造に ついての経験も踏まえてその利害得失を評価し,今後の計 画を議論していくことが必要であろう.ISS 建設にかかる 費用の 8 分の 1 は日本が担っており,すでに6500億円以上 費やしていまだに「きぼう」は地上にあり,「セントリフ ュージ」(生命科学実験施設)の打上げは中止されてしま ったのである.JAXA の予算が 1 年で2000億円を下回るこ とを考えても,慎重な対処が必要であろう.先進国間の協 力としてはまた,たとえばスペースデブリ低減策を構築 し,実施する国際機関間スペースデブリ調整委員会(In-teragency Space Debris Coordination Committee: IADC)の 活動なども重要である.IADC は政府間国際機関ではな く,法的地位としては,国際 NGO にすぎない.そして, ここで作られるガイドラインは,法的拘束力のある義務で はないが,この問題に知見,関心,責任感を有する専門家 が中心となって作成した標準ということで,ある意味で は,国際条約以上に遵守され,より安全な宇宙空間という 環境整備に向けて各国が統一的な行動するという点が注目 に値するのである.しかし,このような,なにが本当に守 られる法か-法源論-の観点からの議論も本稿から除く. 日本は,世界第 2 位の経済大国という地位を長く維持し てはいるものの,少子高齢化が急速に進み,遠からず中国 やインドに経済規模でも国際政治における地位においても 追い越させると推測する資料も少なくない.そのような 中,「国際社会において,名誉ある地位を占め」(日本国憲 法前文)るために,どのような宇宙協力が日本の国際社会 における存在感を高め,かつ,宇宙を「全人類の活動分野」 (宇宙条約第 1 条)と規定する国際宇宙法に合致するもの であるかを検討するために,国際貢献型の国際協力を本稿 の考察の中心とする.まず,次節において,国際宇宙法は 国際協力をどのように規定するかを概観する.その後,世 界規模の貢献型協力を国連の枠組で行うものとそれ外のも のとに分けて論じ,続いてアジア地域での協力の実体を調 べる.国際貢献型の宇宙協力は,宇宙応用,特にリモー ト・センシング活動における国際協力が中心的な現状に鑑 みて,リモート・センシング事例を中心に記述する.最後 に,日本が今後10年に実施することが好ましい国際貢献型 協力について,若干の私見を述べる. . 国際宇宙法に規定する宇宙の探査・利用に おける国際協力 . 国際宇宙法の中心COPUOS で採択した宇宙関 係条約 国際協力は必ずしも国際法に基づいて行うものではない が,国際協力の義務自体は国際宇宙法が規定している.国 際宇宙法の中心は,1959年に常設機関となった国連宇宙空 間平和利用委員会(Committee on the Peaceful Uses of Out-er Space: COPUOS)で世界全体の国が加盟することを期 待して作成された条約である.(概念上の「条約」は名称 のいかんによらない.法律上の要件と効果について記載す る文書は,条約,協定,憲章,議定書,交換公文等,すべ て「条約」であり,効力関係の上下はない.) COPUOS はコンセンサス方式で条約を採択するため,
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加盟国が増えるに従い合意形成が困難となり,1979年の 「月その他の天体における国の活動を律する協定」(「月協 定」)以降は四半世紀以上,新しい条約を作ることも既存 の条約の改正をすることもできなくなってしまった.その ため,新しい国際宇宙法は,国連の枠組の外で,有志国に より作られるようになっていった.また,宇宙開発利用 は,米国をはじめとするごく少数の国が圧倒的な実力をも つ分野であるため,米国等の国内法が「事実上の標準」と して,国際法の代替物となる場合もある.この「事実上の 標準」も,世界の多数の国が,当該標準の遵守を法的義務 と確信して,長期間これに適合する形で行動すれば,慣習 国際法という法源になる. . 宇宙関係条約にみる協力義務 国連で採択した宇宙関係条約は以下のとおりである. ◯ 1967年「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び 利用における国家活動を律する原則に関する条約」 (「宇宙条約」)(現在99カ国加盟)(発効1967年) ◯ 1968年「宇宙飛行士の救助及び送還並びに宇宙空間 に打ち上げられた物体の返還に関する協定」(宇宙救 助返還協定)(現在89カ国加盟)(発効1968年) ◯ 1972年「宇宙物体により引き起こされる損害につい ての国際的責任に関する条約」(「損害責任条約」)(現 在83カ国加盟)(発効1972年) ◯ 1975年「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関 する条約」(「宇宙物体登録条約」)(現在46カ国加盟) (発効1976年) ◯ 1979年「月その他の天体における国の活動を律する 協定」(「月協定」)(現在12カ国加盟.加盟国はオース トラリア,オーストリア,ベルギー,チリ,カザフス タン,メキシコ,モロッコ,オランダ,パキスタン, フィリピン,ペルー,ウルグアイ)(発効1984年) 「宇宙の憲法」といわれることもある宇宙条約は,第 1 条で,宇宙空間は「全人類に認められる活動分野」として, 活動の自由を保証するとともに,「すべての国の利益のた めに,その経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく」 実施すべきものと規定する.また,第 9 条で諸国の「協力 及び相互援助の原則」を強調し,自国の計画する宇宙活動 や実験が他国のもつ同等の権利に「潜在的に有害な干渉」 を及ぼすおそれがある場合には,事前の協議により活動の 権利を調整することを義務づける.また,他国の計画によ り悪影響を受けると確信する理由がある国は,逆に協議を 要請することができる.しかし,あくまでも協議義務であ り,協議の結果を保証するものではなく,また協議を拒否 した場合の制裁規定も宇宙条約にはない.続く第10条も 「宇宙空間の探査及び利用における国際協力」を促進する ことを条約の義務として謳い,自国の宇宙活動については 国連事務総長,世界の公衆および国際科学界に実行可能な 最大限度まで情報を提供するよう要請する(第11条).さ らに,すべての国は,「天体のすべての地域への立入りは, 自由である」(第 1 条)という原則の帰結として,月その 他の天体上の「すべての基地,施設,装備及び宇宙飛行機」 の相互訪問を当事国の代表者に保証する(第12条). 宇宙条約第 5 条で「人類の使節」である宇宙飛行士が事 故,遭難の結果,他国領域における緊急着陸を余儀なくさ れた場合に,条約の当事国はすべての可能な援助を与える ことなどを規定するが,第 5 条を発展させた救助返還協定 においても,遭難したり落下したりした宇宙飛行士や宇宙 物体を発見した条約当事国は,その旨を国連事務総長およ び打上げ国に通報し,安全に送還し,返還する義務を負 う.宇宙物体打上げ国は,回収や返還に要した費用を支払 う義務はあるが,自国の衛星等の落下や落下の可能性に関 する情報を事務総長や被害を受けそうな関係国に提供する 義務は,少なくとも救助返還協定には規定されていない. また,救助返還協定を離れて,慣習国際法上の義務がある かというと,否定的に解さざるを得ない.もっとも,国際 協力の精神,国際礼譲からは,情報を提供する方が好まし いことはいうまでもない.また,衛星等の落下後も,それ をみつけた領域国の「要請に応じ」(救助返還協定第 5 条 3),宇宙物体やその構成部分の識別に必要な資料を提供す る,という構成になっており,宇宙活動国以外の国に対し てより厳しい国際協力義務が課されているともとれる規定 ぶりである.慣習国際法上は,自国領域に落下した他国の 移動体や機器について,被害国といえる国がその情報を提 供する義務や,打上げ国に対する返還義務までも課すもの ではないからである.条約に基づく一種の受忍義務ともい え,それだけ宇宙活動が国際公益のために行われるもので あることを前提としているといえよう. もっとも,救助返還協定は,宇宙活動先進国の論理であ るとする批判は当初からあったので,損害責任条約を作成 し,宇宙物体が外国領域に落下し,外国や外国の私人に 「損害」(定義は(条約第 1 条(a))を与えた場合に打上げ 国が無過失完全賠償の責任を負うことを規定し,被害者志 向の損害責任追及手続きを用意して,バランスを取った. また,衛星,ロケットやそれらの構成部分を中心とする 「宇宙物体」(定義は損害責任条約第 1 条(d)および宇宙物 体登録条約第 1 条(b))に責任をもつのはどこの国かとい うことを識別するための登録制度について詳細に記したの が宇宙物体登録条約である. 主要な宇宙活動国が一国も入らず,意義は乏しいなが ら,月協定については,新しい国際協力制度を規定したと いう点を特筆することができる.月協定(この条約の適用 上,地球以外の太陽系の天体はすべて「月」とみなす.第 1 条 1)は,月の資源の自由な商業利用を許さず,月およ びその天然資源は「人類の共同遺産」(common heritage of mankind)として,天然資源の開発が可能となった時に, 資源開発のための「国際制度」を設置することを規定する (第11条).地球上の公海は,「万民共有物」(ローマ法時代 以来の法概念)としてどこの国の領域ともならず,すべて
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の国が他国の同じ自由に合理的な考慮を払いつつ自由に使 用する場所となっているが,それを超えて,どこの国の主 権にも服さないだけではなく,利用の条件や収益の分配も 「国際制度」が定める,という計画経済制度を創設したの である.このような国際協力に進むことをソ連(のちにロ シア)や中国を含む宇宙活動先進国は合意せず,2004年 1 月にブッシュ大統領が月・火星探査についてのビジョンを 発表したのを機に,今後の惑星探査と天然資源の利用につ いて,現実的な法制度づくりの気運が宇宙活動国内で盛り 上がりつつある. 以上,国連宇宙関係条約における国際協力規定につい て,まとめると以下の結論となるであろう.宇宙関係条約 は,宇宙活動から生じた事故の際の国際協力については, 実体法と手続き法を用意しているが,月協定を除いては平 時の宇宙活動における協力については抽象的な規定にとど まり,具体的な権利義務の配分が特定されていないと言い 得る. . リモート・センシング原則と国際協力 1980年代以降,COPUOS では条約を作るコンセンサス に至ることができず,勧告的意義しかもたない国連総会決 議という形式をもつ文書をこれまでに 5 つ作成した.1982 年の直接放送衛星原則,1986年のリモート・センシング原 則,1992年の原子力源衛星の規制についての原則,1996年 のスペース・ベネフィット宣言,そして2005年の「打上げ 国」概念適用に関する決議,である.その中で,本稿でい う国際協力に最も関係があるのは,リモート・センシング 原則である.同原則は,NASA のランドサットがほとん ど唯一の組織的・継続的な民生リモート・センシングプロ グラムであった時代の産物であり,原則採択とほぼ前後し て市場に参入した SPOT 衛星画像販売のような商業活動 を十分射程に入れたものではないという限界はあるが,全 15原則のうち主要な部分は慣習法化し,慣習国際法として 法的拘束力をもつという見解もある. この原則の成立までには準備期間も入れると約20年かか っているが,これは,リモート・センシングにより自国領 域 の 画 像 を 撮 影 さ れ 配 布 さ れ る 国 が デ ー タ (「 一 次 デ ータ」,「処理データ」「解析された情報」についての定義 は原則 I(b), (c), (d))についてどのような権利をもつか についての妥協が困難であったという背景による.「一次 データ」と「処理データ」については,被探査国は「無差 別かつ合理的な費用で」当該データにアクセスすることが でき,「解析された情報」についてはリモート・センシン グ実施国が有するもの(私企業が所有するものは除外する 意図)で利用可能なものについてのみ,「無差別かつ合理 的な費用で」アクセス可能である,という合意がようやく 成立した(原則 XII)が,画像配布についての事前の同意 権や画像や情報への優先的なアクセスを求めていた途上国 の主張はいれられなかった.その不満をやわらげるため に,国際協力の枠組で,被探査国も活動の利益を得られる よう配慮する,という了解があった.そのため,この原則 には国際協力にかかる規定が多い.具体的には,宇宙活動 国が途上国にリモート・センシングに参加する機会を提供 することを要求し(原則 V),受信局設置やデータ配布に おいて可能な限り便宜を図ることを奨励し(原則 VI),技 術援助をすることを要求する(原則 VII).また,国連や 国連に関連する機関はリモート・センシングの国際協力を 促進し(原則 VIII),自然環境に有害な現象を回避するた めの情報をもつ国は,関係国にその情報を公開し(原則 X),自然災害の被害軽減に有益な「処理データ及び解析 された情報」(定義は原則 I(c)(d))を有する国は,それ を可能な限り迅速に加盟国に送付することを要求し(原則 XI),リモート・センシング実施国は被探査国に参加の機 会を提供し,かつ相互利益を増大させるために,被探査国 から の要請に 応じて協議 を行うことを 要求する( 原則 XIII).原則 XII のリモート・センシングの自由で生じる 紛争は,原則 XIII にある協議により解決しようとする意 図である. また,1996年のスペース・ベネフィット宣言は,宇宙の 探査および利用における自由と公平を規定する宇宙条約第 1 条の解釈を試みた国連総会決議である.国際協力は公平 かつ妥当な条件で関係国の知的財産権を遵守しつつ行う (第 2 項)と規定するなど,必ずしも途上国の満足のいく ものではないが,この原則宣言の随所に記載される,特に 宇宙応用について国際協力を行い,リモート・センシング を中心とする宇宙応用の成果を途上国に優先的にもたらす 努力は,国連を中心に広範に実施されていることは確かで ある.国連原則宣言は総会決議という文書の地位から,前 述のように法的拘束力をもつものではないが,そのような 形式的な効力と実際の運用における効果とは必ずしも一致 せず,国際協力という第二次世界大戦後の国際社会を規律 する大前提は,平時においてはそれなりに尊重されている とはいえそうである. . 国際協力義務違反に対する対応 ところで,国内法と異なる国際法の問題点として,法規 範が守られない場合の制裁規定,紛争解決規定の欠如が指 摘されることがしばしばある.宇宙関係条約もその例外で はない.しかし,その後の解決手続きが全く存在しないわ けでもない.協議に応じない(宇宙条約第 9 条違反),活 動についての必要な情報を提供しない(同第11条違反), 施設の相互訪問を許さない(同第12条違反),といった条 約規定違反を宇宙活動国がおかしたために損害を被ったと 考える国は,国連憲章の用意する紛争の平和的解決続き (憲章第33条)に進むことができ,また,それでも不十分 なときには,場合によっては国連安全保障理事会(「安保 理」)に「平和に対する脅威,平和の破壊又は侵略行為」 (第39条)があったと訴えることが可能である.安保理が, 「平和に対する脅威」等を認定する場合には,国連として の経済制裁や究極的には武力制裁(1950年の朝鮮国連軍や
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1991年の湾岸戦争での多国籍軍の活動など)に進むことも 可能である(第41, 42条).しかし,これら国連憲章の紛 争解決制度は宇宙活動の日常的な紛争解決になじむものと は必ずしもいえず,その点で,国際法の不備といってよい であろう. また,違反や不遵守の場合に国家の国際責任が追及され るのは形式的に法源として認められる条約と慣習法につい てのみであり,勧告的効力しかもたない国際文書の違反に 責任を追及することができないことはいうまでもない. . 宇宙活動における国際協力 . 国連を中心とする国際協力 これまで国連は,1968年,82年,99年の 3 回,宇宙空間 の探査および平和利用会議(通称「UNISPACE」)を開催 した.このような会議を開くことにより,宇宙技術の応用 を促進するための部署が国連に開設され,また,地域協力 も始まって,継続的な国連の関与のもとでの宇宙協力が確 保されるという利点がある.1987年に COPUOS 科学技術 小委員会(「科技小委」)において「UNISPACE 82」で出 された200以上の勧告の実施状況についての評価が始ま り,国連が最も求められるのは,地域の宇宙センターでの 教育や訓練であるという結論が得られた.1990年代前半か ら計画が進んでいた UNISPACE III は,1999年 7 月にウ ィーンで開催され,100カ国と30の国際機関が参加した. この会議は,気候変動を含む世界や地域の問題の解決に宇 宙を役立てる方法や途上国のニーズを確定し必要な宇宙技 術を提供する手順などについて議論を行った.会議終了時 に出された「宇宙と人間の発展に関するウィーン宣言」に 基づいて,災害低減策,途上国の能力向上,天然資源管理 など具体的に33の活動計画を国連が主体となって展開する こととなり,11(後12に増える)のアクションチームが結 成された.ウィーン宣言の履行には,51カ国,12の国連機 関,23のそれ以外の国際機関(政府間機関と NGO の双方 を含む)が関わっている.アクションチームのうち,アジ ア諸国では,インドが「天然資源管理向上」チームの議長, 中国が「資源災害低減防止管理」チームの,マレーシアが 「宇宙通信サービスへの普遍的アクセス」チームの共同議 長を務め,日本も「人的・資金的資源の開発による能力向 上」チームの議長を務めるほか,環境監視,天然資源管理 向上,資源災害低減防止管理,気象・気候予報の強化など さまざまなアクションチームのメンバー国として活発に国 連の枠組で協力を行う.また,COPUOS の中でも特に科 技小委では,今後もユニスペース III の実施状況を議題と し続け,実利用を促進するための措置を取り続けることは 確実である.アクションチームに参加する各国は,毎年自 国の取った措置や前進を科技小委に報告しなければなら ず,このような透明性確保の努力が,履行状況を高めてい る.履行確保メカニズムを有するという意味でも国連の COPUOS は,宇宙活動における国際協力の最大の基盤を 有しているといえるであろう. 国連では,また,1947年に設置された最初の地域経済委 員会であるアジア・太平洋経済社会委員会(ESCAP)と いう枠組も宇宙協力に利用されている.ESCAP は,アジ ア・太平洋の地域の具体的な開発必要性を考慮した活動を 行っており,天然資源委員会,台風委員会,鉱物資源,技 術移転,総合農村開発などの分野に重点を置いたプロジェ クトを実施し,この中で宇宙技術の移転なども積極的に実 施されている.ESCAP は,後述するアジア地域の新しい 宇 宙 協 力 メ カ ニ ズ ム で あ る APRSAF, AP MCSTA, APSCO などのオブザーバーでもある.また,ESCAP に 似たものとして,国連には国連地域宇宙プログラム(UN RESAP)という地域に焦点を当てたものや,宇宙とは限 らないが国連国際防災戦略(UNISDR)等の宇宙技術応 用も重要な役割を果たす枠組がある.さらに,後述のよう に,災害早期警戒システムの構築として,2005年には,近 い将来,国連が国際災害低減機関として災害管理国際宇宙 活動調整機関(DIMISCO)を設置することが報告された. . 国連外の政府間協力GEO グローバルな政府間協力としては,地球観測グループ (GEO)により展開される「全地球観測システム(GE-OSS)10年実施計画」が重要である.発端は,2003年 6 月 のエビアンでの G8 サミットで合意された「持続可能な開 発のための科学技術 G8 行動計画」である.同年 7 月に第 1 回地球観測サミット(米国ワシントン)が開催され,世 界全域を対象とした人工衛星や地上観測など多様な観測シ ステムを統合した単一のシステムを今後10年間で構築し, 政策決定者や公衆など,利用者が真に必要とする情報を提 供することが合意された.多様な観測システムを統合した 1 つのシステムを作り上げるという意味で,Global Earth Observation System of Systems (GEOSS) と名づけられ, 「GEOSS10年実施計画」を推進するための国際調整の仕組 みとして,Group on Earth Observation (GEO) が設置され た.事務局はジュネーブに置かれている.GEO は,名目 上は政府間会合であるが,実質的には小規模な政府間国際 機関といってよい. GEOSS10年実施計画の正式な意思決定を行うのは,各 国の環境省や科学技術省等の閣僚が集う GEO の本会合 (60カ国,30国際機関)である.GEO の第 1 回本会合は 2005年 5 月にスイスで開催され,そこで GEO の執行体制 が決定した.GEO の執行委員会は,通常の国際機関の理 事会にあたるもので地域ごとに代表国を選出する仕組みを 取る.12カ国の執行委員会メンバー国は,アジア(オセア ニアを含む),欧州,米州,から 3 カ国ずつ,アフリカか ら 2 国,旧ソ連圏から 1 国という地域的バランスで選出さ れる.アジア・オセアニアからは日本,中国,タイがメン バー国となった.GEO の下には,データや情報の相互運 用性を確保しデータの価値を高めるための構造・データ委 員会(議長国は,日本,米国,世界気象機関(WMO))
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や能力開発委員会などの常設委員会が置かれる.また,災 害,気候,気象,生態系,農業など九つの公共利益分野に 分けて,地球観測システムの構築を行う体制が整備されつ つある.観測システムの中心は衛星によるリモート・セン シングであり,津波対策の観測には特に力を入れるなど, アジア地域の宇宙協力の国際的枠組としての有用性は特に 大きいといえそうである. 2005年12月の第 2 回 GEO 本会合で,中国,タイ,イタ リアが津波作業部会の議長国となった.また,この会合で は,前述のように,災害早期警戒システムの構築として, 国連が DIMISCO を設置する予定であることが報告され た.今後,国連と GEO との宇宙協力による災害管理の前 進が期待される.GEO には WMO や欧州気象衛星機関 (EUMETSAT)をはじめとして多くの国際機関も参加す る. . 非政府間国際協力CEOS 世界的規模のものとして,非政府間機関が主体となるも のも多く存 在するが, ここでは, 地球観測衛 星委員会 (CEOS)を挙げる.CEOS は,1984年に設立された世界 の宇宙機関が中心となる国際 NGO で,地球観測活動の国 際調整,データや情報等リモート・センシング成果物の技 術標準設定,共通データ原則構築のための機関間合意の醸 成などを通じて,地球観測の便益を高めることを任務とす る.常勤職員や決まった予算はなく,参加主体がそれぞれ 必要な費用を分担する.現在23の宇宙機関および21の政府 や国際機関(国連や WMO,ユネスコなどの国連専門機 関,さらに ESCAP など国連内部機関)が参加する. アジアの宇宙機関としては,日本,中国,韓国,インド の機関が CEOS に参加する.この 4 カ国が現在のアジア の宇宙協力でも主導的立場を示すことができる存在である ことを示す事実といえそうである. CEOS は第 1 回地球サミットの後の GEO 政府間会合に 代表を出し,その後も地球サミットや GEO に参加し, GEOSS10年実施計画の作成や実施に協力を惜しまない. 政府間協力と非政府間協力が重層的にからまっている例で ある.なお,CEOS は,1998年,地球をさまざまな方法 で観測する目的で,国連を中心とするする国際機関やシス テムなどとの間に統合地球観測戦略パートナーシップを (IGOSP)を設置し,データ提供の国際機関間協力を強 化した. . 国際災害チャータ
UNISPACE III 開催中,欧州宇宙機関(ESA)とフラン スの宇宙機関 CNES が主導して「自然または人為的災害 時における宇宙設備の調和された利用を達成するための協 力に関するチャータ」という正式名称の国際システムを作 ることが決定され,2000年 6 月に ESA と CNES という両 宇宙機関長の署名によっていわゆる「国際災害チャータ」 が 発 効 し た . ESA は ERS と ENVISAT を , CNES は SPOT 衛星のデータを災害発生時に無料で提供する.同年 10月にはカナダ宇宙機関(CSA)(レーダーサットデータ 提供)がこの非政府間国際組織の設立文書に署名をした. その後,米国の国家海洋大気庁(NOAA)(ランドサット データ提供),インド宇宙機関(ISRO)(IRS データ提 供),アルゼンチン宇宙機関(CONAE)(SACC 衛星デー タ提供)がチャータに署名をし,2001年11月には正式にこ のシステムの運用が開始された.JAXA(ALOS データ提 供)の参加は比較的遅く2005年 2 月である.その後,米国 の地質研究所(USGS)(やはりランドサットデータ提供) が参加した.また,国の宇宙機関ではない宇宙関係の民生 団体としては,英国の宇宙機関(BNSC)とサリー大学の スピンオフ企業 SSTL(UKDMC 衛星データ提供)を中 心としてアルジェリア(アルサット 1),ナイジェリア (ナイジェリアサット),トルコの宇宙機関(ビルサット 1) からなるジョイントベンチャー「災害監視衛星コンステ レーション(DMC)」も参加した.DMC はメンバーであ る各宇宙機関や SSTL がもつ小型衛星のコンステレーショ ンからのデータを災害監視時に提供する. 国際災害チャータ設立文書によると,生データは災害時 無料で提供することとし,加工したデータや情報について は自主的な拠出にまかされる.SPOT 画像は災害時に最も 役立つため,最も要望の多い画像である.そのため,デー タについては無料の提供が義務づけられる現状でデータを 配布するフランス宇宙機関の負担が最も重い.チャータ条 文によると,各宇宙機関は,半年ごとに拠出額を自ら呈示 することになっている. チャータは政治的約束文書(前文および全 8 条)という 位置づけであり,法的拘束力はない.しかし,災害時に被 害者を救済するという人道的要求に基づいて活動するシス テムにおいて,最善の努力を尽くす意図で参加する宇宙機 関や企業などに対しては,データを無料で提供しなかった から制裁を課す,というような方法は取る必要はない場合 がほとんどであろう.したがって,チャータが条約に基づ く団体で国際法人格をもつか,単なる政治的約束文書に基 づく NGO にすぎないのかは,その運用上の有効性にあま り関係がない,といえるのではないであろうか.2006年 8 月25日にスーダンの洪水において災害チャータの活動が開 始されたのを入れてこれまで89回,画像提供による救援が 行われた. 以上,世界的規模で展開されるさまざまな宇宙協力を, 宇宙応用の中でも最も協力が進むリモート・センシング活 動を中心に記載した. . アジアの地域協力 . はじめに アジアの地域的国際協力としては,日本の主導するアジ ア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)と中国のアジア太 平洋宇宙協力機構(APSCO)が現在顕著なものとして双 璧をなす.APRSAF と APSCO は,アプローチは異なる
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が,それぞれリモート・センシングデータへの確実なアク セスや小型衛星保有という希望を満たすこと,災害低減策 に宇宙を効果的に用いるための進んだ通信・放送システム などに重点を置いており,アジア諸国が現在の発展段階で 望ましいものを提供しようとする姿勢は同じである.その 点からも,APRSAF も APSCO も地域の特性にあった貢 献といえるであろう. . 日本主導の宇宙フォーラムAPRSAF .. APRSAF の沿革 APRSAF は,1992年のアジア太平洋国際宇宙年会議に 基づき,日本の文部科学省および宇宙開発事業団(2003年 10月以降 JAXA)の主催でほぼ毎年開催する国際フォーラ ムである.アジア太平洋地域の宇宙機関や国際機関等の参 加による情報交換を通じて,地域の宇宙技術利用の普及や 協力の強化を目的とする.第 1 回(1993年)から第 4 回 (1979年)まで東京で開催され,第5回(1998年)に初めて モンゴルがホスト国となった.その後,第 8 回(2001年) はマレーシア,第 9 回(2003年)は韓国,第10回(2004年) はタイ,第11回(2004年)はオーストラリアで開催された が,2005年は国際宇宙学会(IAC)がほぼ四半世紀ぶりに 日本(福岡)で開催されたこともあり,IAC の直前に開 催した APRSAF も日本で会合をもった.2006年は12月に インドネシアで第13回会合を開催する予定であり,参加国 が順にホスト国になるという形式が根づいてきたようであ る. 第12回会合においては,日本,オーストラリア,バング ラデシュ,ブルネイ,カンボジア,中国,韓国,インド, インドネシア,ラオス,マレーシア,モンゴル,ミャン マー,ネパール,フィリピン,ロシア,シンガポール,ス リランカ,タイ,米国,ベトナムの21カ国の宇宙機関が参 加した.台湾と北朝鮮以外のほとんどすべのアジアの国・ 地域が参加している.また,国際組織や団体としては,ユ ネスコ,国連宇宙部(COPUOS の事務局),ESCAP,メ コン川委員会,ASEAN 宇宙技術利用小委員会,アジア太 平洋宇宙技術応用・多国間協力会議(APMCSTA),ア ジア工科大学(AIT)が参加した.APMCSTA は,中国 が主導する APSCO の前身であったフォーラムである. APRSAF では,最初の 5 回は各国宇宙機関や国際組織 による宇宙開発政策やプログラムの報告とそれに続く国際 協力のための関心分野の特定および情報交換に主たる努力 を傾注してきた.その中で,リモート・センシングと地域 のネットワーク構築によるデータ利用の促進ならびに宇宙 活動の人材育成教育が喫緊の課題として浮上してきた.第 8 回会合以降は教育・普及,宇宙環境利用,地球観測,通 信・放送という 4 つの分科会を設け,また,会合ごとに勧 告を採択し,履行状況の報告などが次会期に向けて行われ る体制を整備していった.人材交流や人材能力の向上を図 るための宇宙関連情報交換は毎年勧告として採択される が,具体的には,国際チャータに係る情報,アジア地域で 開発される小型衛星情報などが特に強く要求され,2004年 には小型衛星意見交換会,災害低減ワークショップ等が開 催された.また,災害軽減策や資源管理のためのパイロッ トプロジェクト促進とともに,国連の宇宙関係プログラム や GEOSS という枠組と APRSAF 活動の協調を探ること が要請される.それらの勧告実施のための財源開拓も勧告 として採択された. .. 「アジアの監視員」(Sentinel Asia)構想 インド洋津波災害を経験して,一層宇宙からの情報の時 宜に適った取得が要請されるようになった.2005年の会合 では多くの宇宙機関,防災機関,地域機関等の参加を得て, APRSAF に「アジア防災・危機管理システム」を構築す ることが決定され,具体的な第一歩として,日本が主導し て「アジアの監視員(Sentinel Asia)」パイロットプロジ ェクトを実現することが決定された.これは,2006年から 2007年にかけて実施する.災害監視観測システム用には, 日 本 の ALOS デ ー タ や NASA の MODIS デ ー タ を 提 供 し,災害情報共有のためのプラットフォームは,アジア防 災センター,インターネットと地理情報システム(GIS) をベースとした「ディジタル・アジア」等を活用する. ALOS の即時配信システムを軸とした災害監視データ共 有の枠組づくりといってもよく,能力向上のための訓練は JAXA と AIT の間で行う. 早速2006年 2 月に第 1 回の共同プロジェクト会合をベト ナムで開催し,共同プロジェクトチーム( JPT)の運営規 約を採択した.14カ国の23機関と 4 つの国際機関や大学が JPT に参加することになったが,第12回の APRSAF に参 加した国の中では,インド,ラオス,フィリピン,韓国が JPT 参加 の 決定 を 延 期し た . 中国 か ら は国 立 防災 セ ン ターが参加する.国際機関としては,国連宇宙部や ES-CAP,ASEAN 事務局が,大学としては能力開発のための 訓練の対象である AIT が参加する. JPT 運営規約は,APRSAF 参加国やその機関,防災機 関,地域,国際機関が参加主体となること(第 2 条)や, 年 2 回会合を開催すること(第 4 条),事務局は JAXA が 行うこと(第 5 条)などを規定し,非常に柔らかい国際組 織の様相を呈する.業務内容は第 3 条に規定する. セ ン テ ィ ネ ル ・ ア ジ アに 提 供 す る ALOS 衛 星 ( 通 称 「だいち」)は2006年 1 月に打上げに成功した高精度の衛星 で , 光 学 セ ン サ ー ( AVNIR 2 ) お よ び 電 波 セ ン サ ー (PALSAR)からの立体画像の精度は特筆に値する.この 衛星の初期機能確認中,レイテ島地滑りについて世界で最 も早く,JAXA が災害チャータにその立体画像を提供し, フィリピンの災害からの立ち直りに有益であったと賞賛さ れた. パイロットプログラム終了後のセンティネル・アジアの 姿として,近い将来 JAXA が打ち上げる超高速インター ネット通信衛星 WINDS による動画像転送や音声双方向 通信,ならびに技術試験衛星 ETSVIII(移動体通信)を
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利用する超小型端末による遭難救援システムなどを有機的 に組み合わせてセンティネル・アジア防災システムの構築 を 図 る こ と が 可 能 で あ る . 既 存 の デ ー タ リ レ ー 衛 星 (DRTS)を用いる衛星間通信もセンティネル・アジアに 欠かせないであろう. . 中国主導の政府間国際宇宙機構APSCO .. APSCO の誕生 2005 年 10月 28日 , 北 京で ア ジ ア 太平 洋 宇 宙 協 力機 構 (APSCO)条約の署名式が開催され,バングラデシュ,中 国(2006年 6 月全人代で批准),インドネシア,イラン, モンゴル(最初の批准国),パキスタン,ペルー,タイ政 府代表が APSCO 条約に署名をした.APSCO 条約は 5 カ 国が批准すると発効(第29条)するため,早ければ2006年 中にも正式の政府間国際機構の発足が発表される見通しで ある.署名式に参加した国のうち,アルゼンチン,ブラジ ル,マレーシア,フィリピン,ロシア,ウクライナはオブ ザーバーとしての出席で署名をしなかった.2003年の AP-SCO 条約採択時にはオブザーバーとして参加し,署名式 に出席しなかった国は,チリと韓国である.逆にアルゼン チンは署名式において初めて出席した.また,2006年 6 月 1 日,トルコは後からの参加として APSCO 条約に署名し た.APSCO は,ESA を範にとり,民生利用のための包括 的な国際組織を「アジア太平洋」において設立しようとす るものではあるが,イラン,トルコ,ロシア,ウクライ ナ,ブラジル,ペルー,アルゼンチン等を含めて考えてお り,地理的に「アジア」も「太平洋」も相当緩やかに解し た構成になっている.これは APSCO 成立の背景,すなわ ち中国の宇宙戦略によるものと思われるので,以下,AP-SCO 成立に向けての沿革を簡単に記す. .. APSCO の沿革 APSCO 条約採択時に事務局としての役割を示したのは, 1992年に設立されたアジア太平洋宇宙技術応用多国間協力 会議(APMCSTA)という緩やかな国際フォーラムであ った.APMCSTA は中国とパキスタンの宇宙機関および タイの運輸通信省(現「情報通信技術省(ICT)」)の三者 が交わした了解覚書により設置された.了解覚書によると, APMCSTA の目的は,アジア太平洋地域における宇宙技 術の平和的応用に関する協力を促進することであり,具体 的には,宇宙技術応用の共同プロジェクトの実施や人材能 力開発のための訓練プログラム等を想定していた.この地 域の要請に合致したものとして,APMCSTA は小型衛星 技術,衛星通信技術,災害管理監視システムおよびリモー ト・センシング技術応用についてそれぞれ作業部会を設け た.1992年の中国での了解覚書署名の後,タイ(1994年), パキスタン(95年),韓国(96年),バーレーン(97年), イラン(99年)など広範囲の国で APMCSTA の会議や ワークショップを開催し,アジア太平洋の外からも宇宙関 係のさまざまな専門家が会議に出席して交流を行った.そ の後,MPMCSTA のメンバーは16カ国の宇宙機関等に 広がった. 20世紀中は,APMCSTA は自己の法的地位を明確に規 定することなく,「APMCSTA メカニズム」と称し,参 加団体の範囲もゆるやかにしか規定されていなかった.し かし,2001年 7 月には再び中国で会合が開かれた際,そこ で,事務局を北京に設置することが決定され,同時に MP MCSTA メカニズムを正式に国際法人格を有する国際機 構として設立することが全会一致の勧告で決定された. 2002年にはそのためのワークショップがマレーシアで開催 された.APMCSTA メカニズムのメンバーとして参加し たのはバングラデシュ,ブラジル,ブルネイ,中国,イン ド,イラン,韓国,マレーシア,モンゴル,パキスタン, フィリピン,タイである.国連の ESCAP はオブザーバー として参加した.ワークショップで APSCO 条約草案を議 論した後,中国政府はアジア太平洋の28カ国に条約草案を 送付し,今後の起草に加わるように促した.応じたのは, バングラデシュ,チリ,中国,イラン,マレーシア,パキ スタン,フィリピン,ペルー,ロシア,タイであり,これ らの国が参加する起草会議において,2003年の夏までに中 国がホスト国となる形での APSCO 構想が確立した. 2003年11月の APSCO 条約採択には,バングラデシュ, 中国,イラン,マレーシア,モンゴル,パキスタン,ペ ルー,フィリピン,タイが正式に参加し,ブラジル,チ リ,インドネシア,韓国,ロシア,ウクライナがオブザー バーとして出席した.国連 ESCAP と国連宇宙部もオブ ザーバーとして出席した.同会合において,採択された条 約に署名をしたい国は APMCSTA の事務局に通報する こととされた.以上,国名をいちいち挙げたのは,参加メ ンバーとオブザーバー,会議に参加した国と実際の署名国 等に常に若干のずれがあるためである.これはなぜか. APSCO の設立が,一定の目的のために有志国が着実に行 動するという国際組織を設置する場合の常道を踏んでいな いからである.いかに中国の主導が強いのか,参加国の意 思が固まっていないのか,さまざまな段階での国の参加の 有無から透けてみえる.そのような APSCO の性質を明確 にするためにもいささか煩瑣ではあるが,国名を詳細に記 した.
.. APSCO と APMCSTA
APSCO の性質という点と関係するが,APMCSTA は APSCO の採択後,発展的に解消されたわけではなく,現 在も北京に置かれた事務局は APSCO の一部局のように機 能している.たとえば,2006年 3 月,APMCSTA の事務 局は APSCO 条約に最初に署名した一群の国に対して中国 の放送衛星の受信局を寄贈し,APSCO に加盟することの 重要性を強調している.APMCSTA の事業としては, 2006年 7 月には宇宙技術応用のマスターコースを中国の大 学に新たに設置し,バングラデシュ(1 名),インドネシ ア(2 名),イラン(1 名),モンゴル(2 名),パキスタン (2 名),ペルー(1 名),タイ(4 名)から学生を受け入れ
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た.また,APMCSTA が発行する雑誌『アジア太平洋宇 宙概観』(Asia Paciˆc Space Outlook)の最新号(2006年 7 月号)では APMCSTA の事務局が韓国を訪れ,韓国の 科学技術省や韓国航空宇宙研究所(KARI)の高官と韓国 の APSCO 参加について意見交換をしたことが記載され る.また,APSCO 条約署名国と韓国とが参加する AP MCSTA の小型衛星計画は衛星製造段階に入り,2007年に 打上げ予定である,といわれる. ブラジルと中国の国際協力による資源衛星「中国ブラジ ル地球資源衛星(CBERS)」1 号機は1999年に,2 号機は 2003年に打ち上げられ両国で共同運用するとともに,2006 年中の後継 機の建設・ 運用ならび にブラジル に有利な CBERS のデータ政策についての協定を,両国首脳が2004 年11月に署名した.これは二国間協力とみるべきか,AP MCSTA の一環とすべきかその点は截然と区別することは 難しそうである.また,APMCSTAやAPSCOと公式の 関係はないが,SSTL が関与する DMC パートナーシップ と中国の関係も深く,CDM も広い意味では,APSCO や MTMCSTA の枠組と重複していると考えてよさそうで ある. APSCO は,地域協力の一つの型ではあるが,中国の存 在が突出しており,ESA のようなより発展程度が均質な 地域の宇宙研究,開発,利用のための機構とは異なった方 向に発展しそうである.中国はナイジェリアやアルジェリ アとも小型衛星製造,打上げを調達するかわりに石油など を優先的に受領する資源外交戦略に宇宙を用いており,ブ ラジルとのリモート・センシング衛星協力やイラン,トル コとの協力にも地域の協力であると同時に二国間の資源外 交の側面が感じられる.これもまた,アジアの現状を反映 した一つの「協力」形態であろう.APSCO がどのような ものに成長するのか,興味深いものがある.日本は,条約 草案交渉への参加の打診を受け,また,採択後も署名を打 診されたともいわれるが,今のところ,APSCO に関与し ていない.そして,後述するように,日本がめざす国際協 力の思想からはそれが適切であると考える. . 結論として 日本の宇宙開発利用は,世界の宇宙活動国の中でもユ ニークなものである.それは,「宇宙の軍事利用」(「ミリ タリゼーション」を自らの自制により禁止して,平和利用 =非軍事利用に徹しているからである.宇宙条約の第 4 条 が禁止しているのは,宇宙空間に大量破壊兵器を配置する ことと,天体を軍事利用に用いることだけであるため,世 界的には,軍隊が画像偵察衛星や電子偵察衛星などを保有 することは当然とされ,米ロ中国のように,他国の衛星を 攻撃する衛星攻撃兵器(ASAT)までを開発しまたは保有 する国もある.地上の軍事能力を向上させるための宇宙の 利用を「宇宙のミリタリゼーション」,とよびこれは適法 行為というのが国際社会の合意である.一方,宇宙条約を はじめとする国連宇宙関係条約で禁止されてはいないが, 宇宙に攻撃能力をもつ宇宙物体を配備すること―「宇宙の ウェポニゼーション」―は立法論として禁止をめざそうと するのが世界の多くの国の見解である.日本は,宇宙のミ リタリゼーションも行わず,わずかに汎用化した宇宙技術 について,自衛隊がその顧客となることを許しているにす ぎないほど,宇宙の平和利用解釈は厳しい. したがって,日本が行う宇宙の国際協力は必然的に平和 利用に徹したものとなり,宇宙の平和利用を世界に広げる ことにつながるのである.その点をより効果的に広報しつ つ,日本の外交政策を貫徹するために戦略的に宇宙の国際 協力を行う仕組みを作り上げていくことが今後,求められ ているのでないか. 宇宙応用における日本の貢献として,まず,これまでに 誠実に履行してきた国連内外での世界的な枠組の国際協力 は高く評価したい.国連が関与するグローバルな基盤の下 で,実施する国際宇宙協力は,資金や技術面を含めより充 実しており,かつ長期的な計画の中で各国が責任をもつ正 当性あるプログラムとして確立されているからである.日 本はそこに,率先して参加し積極的に活動した.それはま た,アジアにおいて日本と中国のどちらに与するか踏み絵 を踏ませることなく,難しい地政学的立場にある ASEAN 諸国に,宇宙応用の果実を提供する機会を提供した,とも いえる. しかし,一方,即応性があり,地域の特色に根ざしたき めの細かいプログラムは地域で行うのが適しているように 思われる.「アジアの監視員」はその 1 つであろう.アジ ア地域で民主主義,人権,環境保護,などの価値を真に体 現し推し進めることができる国は日本であるということに 鑑みても,そのような日本の外交政策を実現するために, 宇宙協力を用いることを考えてもよいのではないか.つま り,民主主義国家としての道を誠実に歩む国に対しては, より密接な宇宙協力・貢献を行い,独裁国家とは緊急時の 人道的配慮に基づく宇宙協力に限定する,というような濃 淡をつけるのである. APSCO は中国の資源外交や地域の覇権という目的が露 骨に現れている部分がある.APSCO に参加する国を見て も,国際社会で必ずしも正統な価値の体現者とはいえない 国家が入っている.日本はそのやり方は取らない,という ことを明確にすべきであろう.第二次大戦後,日本がその 実現に努力してきた価値をともに追求する国や地域,非政 府団体に対する宇宙応用援助をすることが,地域のリー ダーとして,果たす責務であると思われる. そして,また,日本は COPUOS をはじめとする場で, アジアの代弁者として宇宙法の形成に関わるべきであると 考える.宇宙法はいまだ揺籃期にあり,現在秩序形成の最 中である.自由と公平,望ましい配分的正義の観念など, 宇宙の平和利用に徹してきた非西欧の先進国である日本が 提起できる論点は少なくないはずである.第一次大戦後,
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人種差別撤廃という新しい正義観念を国際社会で開陳した ときのようなパラダイムの転換ともなる思想を提示するこ とが,アジアの一国としての日本の責務といえるではない か. しかし,そのような発言権を確保するためには,日本は 真の宇宙大国とならなければならない.そして,それは可 能なはずである. 参 考 文 献 1) 衛星通信年報編集委員会編衛星通信年報,KDDI エンジニ アリング・アンド・コンサルティング,2005年
2) http://www.unoosa.org/oosa/(last visited on 10 August 2006) 国連宇宙部のサイトで一連の国連の国際協力活動について調
査した.
3) http://www.jaxa.jp/missions/int/(last visited on 14 August 2006)日本の国際協力活動について調査した.
4) http://www.disasterscharter.org/(last visited on 1 August 2006) 5) 文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球 推観測推進部会資料および GEO 構造及びデータ委員会対応 作業部会資料(2005年10月~2006年 8 月) 6) 経済産業省産業構造審議会航空機宇宙産業分科会宇宙産業委 員会宇宙産業化ワーキンググループ資料(2005年 1 月~2006 年 8 月)
7) http://www.apmcsta.org/(last visited on 2 August 2006).中 国の宇宙機構主導についての情報についての調査に用いた. 8) 青木節子日本の宇宙戦略,慶応義塾大学出版会,2006.