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音楽づくりの活動を通した読譜・記譜能力獲得の可能性

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『心理学紀要』(明治学院大学)第 22 号 2012 年 45-60 頁

音楽づくりの活動を通した読譜・記譜能力獲得の可能性

水 戸 博 道

(明治学院大学)

千 葉 由紀子

(宮城教育大学大学院修了)

要 約

 本研究の目的は,音楽づくりの活動を通した読譜・記譜能力の獲得の可能性を検討することである。調査の対象とし たのは,137 人の小学生の児童である。調査は,読譜・記譜の事前学習と音楽づくりの授業の2つから構成される。事前 学習では,児童は読譜・記譜の能力の向上を目指したドリルを行い,4時間の授業では,児童は4小節の旋律を楽譜を使っ てつくった。音楽づくりの授業では,読譜・記譜能力の向上を目的として,明確な音楽構造を持った旋律をつくることが 求められた。

 4時間の授業の過程で児童の読譜能力がどのように変化するのかを調べるために3回の読譜・記譜テストが行われた。

さらに,音楽づくりの授業のどのような点が読譜・記譜能力の向上につながるのかを調べるために,音楽づくりの授業に 対する児童の意識を問うアンケートを行った。

 学校外での音楽のお稽古事の経験のある児童とない児童の双方とも,今回の授業を通して一定の読譜・記譜能力の向 上を示した。また,多くの児童が,音楽づくりの活動における読譜・記譜の必要性や可能性を実感することができた。音 楽づくりの活動のこうした側面は,読譜・記譜能力の獲得につながる重要な特徴であることがわかった。

Ⅰ.はじめに

1.読譜・記譜教育の現状

 現在,日本においては,小学校で 358 時間,中 学校で 115 時間すべての児童・生徒が音楽の授 業を受けている。そして,楽譜の読み書き能力 の習得は,音楽の授業の中の重要な目的の一つ であり,音楽の授業における活動が,五線譜を読 み書きできることを想定して行われることも多 い。しかし,学校教育を通して多くの児童・生 徒が十分な読譜・記譜能力を身につけているか といえば,現状は厳しい。山本(2006)も,9年 間の義務教育の中で,多くの子どもたちに,十分 な読譜・記譜能力が身についていないことを音 楽教育の課題として取り上げている

1)

。  読譜・記譜能力が不十分であるいう点は,生 徒の読譜・記譜能力に対する教師の意識を聞い

た調査においても浮き彫りにされており,杉江

(2009)の調査では,小学校で 94%,中学校で 98%の教師が子どもの読譜・記譜能力の不足を 感じていることが報告されている。また,この 調査では,現在の児童・生徒の読譜・記譜能力 と過去の児童・生徒の読譜・記譜能力を比較し た質問も行っているが,現在の児童・生徒が,10 年以上前の子どもたちに比べると読譜・記譜能 力が「低下した」と感じている教師が小学校で 40%,中学校で 53%にも上ることが報告されて いる

2)

2.読譜・記譜指導の課題

 学校の音楽教育における読譜・記譜教育の必 要性を否定する教師は少ないだろう。その中で,

学校現場での読譜・記譜教育はなぜ十分な成果

をあげられなかったのだろうか。

(2)

46

 尾見(2009)は読譜教育の問題点として,音 楽教育全体における読譜・記譜指導の位置づけ の欠如と,方法論の不在をあげている。尾見は,

音楽の授業の中で,読譜教育について継続的且 つ系統的に教えるということが少なかったこと や,読譜教育がその場しのぎの教育に甘んじて いた点を,学校における読譜・記譜教育の課題 として指摘しているのである

3)

 尾見が指摘するように,読譜・記譜の能力は 短期的な学習で身につくものではなく,長期に わたる継続的な学習が必要である。さらに,歌 唱,器楽,音楽づくり,鑑賞といったすべての 領域において読譜を系統的に取り上げていく必 要もある。学校における読譜・記譜教育の課題 は,9年間を見通した読譜・記譜教育の在り方 を音楽教育全体の中に明確に位置づけ,すべて の領域の活動における読譜・記譜の学習を有機 的に結びつけていくことであると考えられる。

 こうした中,平成 20 年に告示された小学校学 習指導要領の音楽の改訂では,児童に音楽の基 礎的内容を定着させることを目標とした[共通 事項]が新設され,その中で児童の読譜・記譜 能力の定着を求めている。さらに,今回改訂さ れた指導要領の注目すべき点は, [共通事項]の 指導が,それだけが単独で行われるのではなく,

音楽の様々な活動を通して行うように指示され ていることである。読譜や記譜の指導に関して も, 「音符,休符,記号や音楽にかかわる用語につ いて,音楽活動を通して理解すること。」

4)

と いう文言によって,その指導は音楽教育全体の 活動の中に織り込まれるべきであることを示し ているのである。

3. 音楽づくりにおける読譜・記譜指導の可能 性

 このような背景を受け,これからの音楽教育 では,さまざまな活動の中で,どのように読譜・

記譜の指導を位置づけていかなくてはならない のかを,より包括的な立場から考えていくこと

が求められてくる。

 本研究では,五線譜を使った音楽づくりの活 動を通して,児童の読譜・記譜能力を伸ばす可 能性について探求する。

 その大きな理由として,五線譜を使った音楽 づくりの活動には,読譜・記譜能力が大変重要 な役割を持ち,それが児童・生徒の読譜の必要 性に対する意識を向上させるという点があげら れる。器楽や歌唱の活動においても,もちろん 読譜の能力は必要ではあるが,音楽をつくって いく過程において,読譜・記譜能力は特に大き な役割を持ち,さらに読譜・記譜能力が音楽づ くりの活動をより広げていくと考えられるので ある。

 坪能・伊野(2008)は,音楽づくりにおける 記譜の重要性を以下のように提言している。

 「音楽づくりの場合も,友達と作った簡単なリ ズムや旋律を記譜することで,表現方法を確か めたり,見通しをもった音楽づくりをしたりし やすくなります。」

5)

 つまり,自分のつくった音楽を推敲していく 過程において読譜・記譜能力は非常に重要な役 割を担うのである。

 こうした音楽づくりの過程における読譜・記 譜能力の重要性は,児童・生徒が読譜や記譜の 必要性を自ら実感することにつながると考えら れる。自分が作ったものを記録すること。それ に基づいて書いたものを推敲すること。友達の 作品と自分の作品とを比較すること。そしてな によりも,自分の作ったものを作品として残せ ること。こうした活動の中から児童・生徒は楽 譜の役割に気づき,音楽づくりの過程における 読譜・記譜の必要性を自ら実感することができ るのではないだろうか。さらには,読譜・記譜 能力が音楽づくりの活動を,より広げていくこ とも実感することができると考えられる。

 これまで音楽の授業において,読譜・記譜の

指導をなかなか徹底することができなかった一

つの理由に,読譜や記譜を教え込むということ

が児童の音楽嫌いにつながるのではないかとい

(3)

47 う危惧をあげることができる。一條(2009)も,

「もし, 「読譜」について音楽それ自体の楽しさ と結びつかない知識として教えた場合,音楽嫌 いの原因にもなりかねないリスクをかかえてい る」

6)

と指摘し,読譜教育は教えようとすれば するほど,子どもたちの学びのハードルは高く なり,音楽嫌いを作ってしまう傾向にある危険 性を指摘している。しかし,児童・生徒が読譜・

記譜の必要性を自ら実感した上で読譜・記譜の 学習に取り組むことができれば,こうした問題 は飛躍的に解決すると考えられる。

 杉江(2009)は, 「音楽教育の場において「読 譜指導」を行う以上は,音楽活動における「読 譜」の意味と役割を学習者の実態に即して再 度見直し,学習者に明確に示す必要がある」

7)

と述べているが,音楽嫌いをつくらないために も,読譜指導にはこうした視点が必須であると 考える。そして,音楽づくりを通した読譜・記 譜の指導には,児童・生徒にこうした読譜・記 譜の意味と役割を自ら実感させることができる 大きな可能性を持っていると考えた。

4.読譜・記譜教育の実際

 それでは,児童・生徒が読譜・記譜の重要性 を実感できる音楽づくりの授業として具体的に どのような活動が考えられるのか詳述したい。

 今回の指導要領の改訂では,音楽づくりにお いて「音を音楽に構成するために,音楽の仕組 みを手掛かりとして,いくつかの音を関連付け てまとまりのあるものにしていくことがねらい となる」とあり,音楽づくりの活動に変更が加 えられた

8)

。今までの音楽づくりでは,即興的 に音を組み合わせる活動が多かったが,児童に 音楽のつくり方を明確に示さなかったために,

実際の授業の場面では,音遊びや音を探る活動 に終わってしまっている場合も多かったのであ る。

 今回の改訂では,音楽づくりに取り組ませる 際に,活動が単なる効果音づくりにならないよ

うに, 「音楽の仕組み」を意識させる必要性を強 調しているのである。坪能・伊野(2008)は,

音楽づくりのポイントとして「一見自由さが大 切なように見えますが,実は何らかの約束事を 付して限定したほうが,多様な発想を得ること につながります。」

9)

とし,音楽をつくる際の 約束事の必要性を説いている。

 さて,こうした音楽のしくみを重視した音楽 づくりの活動は,読譜・記譜能力に密接につな がっていくと考えられる。森下(2009)は,音 楽の構造学習において楽譜が有効な道具である ことを強調している

10)

。たとえば,音楽の反復 や問いと答えといった構造を知る上で,視覚的 な楽譜の音列はその発見に大きな手掛かりとな る。また,楽譜を見ながら同じ部分を見つけ出 すことや,曲の特徴と思われる部分に印を付け る等の授業展開にも楽譜は重要な役割を担うの である。

 先に,子どもたちが音楽嫌いにならず読譜・

記譜能力を身につける方策として,楽譜の必要 性を実感することが大事であると述べたが,音 楽のしくみの理解に根ざした音楽づくりの活動 は,この点にも深く関係している。楽譜を媒体 として音楽のしくみを発見し,理解したしくみ を音楽づくりに取り入れていく過程において は,児童は知らず知らずの間に読譜・記譜の学 習に主体的に関わっていく。そして,その中で 児童は楽譜を読むことの必要性を感じることが できるのである。

5.研究の目的

 ここまで述べてきたように,音楽づくりの活

動では,読譜や記譜は重要な役割をにない,その

ことから児童・生徒がその重要性や可能性を実

感することができる。このため,音楽づくりの

活動においては,押しつけられた形ではなく,き

わめて自主的な形で音楽を読んだり書いたりす

る活動に関わっていくことができると考えられ

る。 

(4)

48

 本研究は,読譜や記譜の活動を取り入れた音 楽づくりの授業実践が,児童の読譜・記譜能力 の向上にどのような効果があるのかを明らかに する。音楽づくりの授業実践は,読譜・記譜の 事前学習と読譜・記譜を取り入れた音楽づくり の授業から構成される。授業は,音楽の仕組み を考えたふしづくりの活動とし,読譜や記譜を 用いた授業を展開していく中で,児童の読譜・

記譜能力の向上を見取る。また,授業の過程で の児童の意識の変化や音楽づくりの様子などか ら,音楽づくりの授業のどういった側面が読譜・

記譜能力の向上に関係していくのかを検討す る。

 序論において,音楽づくりにおける読譜・記 譜能力育成の可能性を,⑴児童が読譜の必要性 や可能性を実感することができる⑵音楽の仕組 みの理解に基づいた音楽づくりの授業展開が,

読譜・記譜の必要性の実感に結びつくという2 点に集約して説明した。本研究では,授業実践 の成果が最終的にこの2点にどのように結び付 いていったかを検討していく。

6.表現活動としての音楽づくりの授業

 実践研究の検討に入る前に確認しなくてはな らない重要なポイントは,音楽づくりの活動の 目的である。本研究の‘研究’としての目的は,

音楽づくりを通して読譜・記譜能力向上の方策 を探ることである。しかし,音楽づくりの授業 の主目的は,音楽をつくることによる表現活動 であって,読譜・記譜を学習することが,表現活 動としての音楽づくりを飛び越して主たる目的 に持ち上がることはない。一條(2009)も,創 作を通した読譜・記譜指導の実践研究の中で,

「学習者にとっては,あくまで「音楽を読み書き する力は創作するためのツール」であり,読譜 自体を学ぼうとするのではなく, 「創作をするこ とでいつの間にか音楽の読み書きが身につい た」とならなければならない」と述べ,創作の 実践における読譜・記譜学習の位置づけを確認

している

11)

 本研究では,音楽づくりの授業実践における 読譜・記譜能力育成の可能性に焦点を当てて報 告するが,今回の音楽づくりの授業は,表現活動 としての目的を見失わないように行った。

Ⅱ.実践研究

1.調査対象児について

 授業実践を行った調査対象児は,仙台市郊外 にある公立小学校,5年生児童4クラス 137 名 である。それぞれのクラスの児童数は,1組 34 名,2組 34 名,3組 35 名,4組 34 名である。

2.調査方法

 ⑴ 調査の流れ

表1 調査の流れ

事前調査① 意識調査① 読譜・記譜調査① 事前学習 予備プリント8枚

事前調査② 読譜・記譜調査② 授業Ⅰ リズムづくり

授業Ⅱ 授業Ⅰのリズムにふしづけ 授業Ⅲ リズムづくり

授業Ⅳ 授業Ⅲのリズムにふしづけ 事後調査 意識調査② 読譜・記譜調査③

 表1は事前・事後調査,事前学習,授業を含む

調査全体の流れである。授業は全部で4時間行

い(授業Ⅰ~Ⅳ),4時間の授業が始まる前に事

前学習を行った。そして,児童の読譜・記譜能

力の変化と意識・行動の変化を見るために,事

前調査を2回(事前調査①と②),事後調査を1

回行った。2回の事前調査(①と②)は事前学

習の前後に行い,事後調査は4時間の授業の終

わった後に行った。また,毎回の授業で使用し

たプリントに,音楽をつくった感想と友達への

アドバイスの内容を記入させた。

(5)

49  ⑵ 事前・事後調査

 事前調査と事後調査は,読譜・記譜調査と意 識調査からなる。表1に示したように,読譜・

記譜調査は,1回目の事前調査,2回目の事前調 査,そして,事後調査の中で3回行い,意識調査 は1回目の事前調査と事後調査で2回行った。

読譜・記譜調査は,読譜と記譜の2種類の筆記 テストによって行った。読譜の筆記テストは,

ト音記号の五線譜にランダムに示された1点 ハから2点ハまでの音符(全音符で示す)の音 名を,ドレミで答えるものである。また,記譜の 筆記テストは,ドレミのカタカナで示された音 名(同じく1点ハから2点ハまで)に対応する 音符を五線譜に書き込むものである。読譜テス ト,記譜テストの両方とも 50 問をそれぞれ1分 間で答えさせた。これらのテストだけで読譜・

記譜能力を十分に調査できているとはいえない が,時間的制約や児童の日ごろの学習を鑑み,そ れぞれのクラス担任と検討した結果,この形の テストが学校の実情に即しているものと判断し た。

 意識調査は,選択式の回答と自由記述を含む アンケートによって行った。アンケートの内容 は,調査結果の項において説明する。

 ⑶ 事前学習

 事前学習では,ト音記号の1点ハから2点ハ までの音の読み書きの練習と, 「歩いているふし

(ドレミファ等)」 「とぶふし(ドミレファ等)」 「同 じ形のふし」などの音楽の仕組みの理解を目指 し,授業が始まる2週間前に始めた。1枚が 10 分程度でできるドリル的な B 5のプリントを 8枚用意し,1週間に4枚ずつ行うように,それ ぞれのクラスの担任に依頼した。ただ,1週間 に4枚のプリントをどの程度のペースで行うか は,それぞれのクラスの事情に合わせ,担任に一 任した。8枚のプリント(プリント①-⑧)の 内容は次のとおりである。

 プリント①は読譜の練習に関するもので,五 線譜にランダムに示された音符(全音符で示す)

の音名を,ドレミで答えるものである。プリン

ト②は記譜の練習に関するもので,ドレミのカ タカナで示された音名に対応する音符を五線譜 に書き込むものである。プリント③は,ドレミ で音名が示してある<子犬のマーチ><こぐま の2月><ふじ山>の曲の4小節までを記譜す るものである。プリント④は, 「歩いているふし」

「とぶふし」を4小節ずつ4種類記譜するもの とした。プリント⑤は,プリント①をより高度 にした読譜に関するもので,プリント⑥は,プリ ント②をより高度にした記譜に関するものであ る。プリント⑦は, 「歩いているふし」 「とぶふし」

を含んだ4小節のふしを3種類記譜させた。リ ズムとふしは提示していて,カタカナ表記のも のを楽譜に記譜するものである。プリント⑧は 同じ形のふしを見つけて印をつけ,同じ形のふ しを記譜する内容である。2つのふしを提示し,

それぞれについて記譜したり同じ形のふしを見 つけたりさせた。ほとんどの児童が教師の助け をかりず,自力で答えることができていた。

 ⑷ 授業 

 今回の音楽づくりの授業では,最終的にハ長 調,4分の4拍子,4小節の旋律をつくることを 目標とした。授業は表1に示したように授業Ⅰ からⅣの4時間構成とし,授業ⅠとⅢは旋律の リズムをつくる授業で,授業ⅡとⅣはつくった リズムに,ふしを付ける授業である。授業Ⅰと

Ⅲでは,4小節の旋律の1小節目のリズムを教

師側からの指定とし,2,3,4小節目を児童

がつくる活動とした。ただ,本調査の対象となっ

た児童は,自分でリズムパターンを考えて,その

通りのリズムを記譜することはまだ難しいこと

が,予備調査や担任との検討会で明らかになっ

ていたので,あらかじめ複数のリズムパターン

を児童に提示し,それらの組み合わせを児童が

考えてリズム旋律をつくらせる活動とした。2

小節目は1小節目の反復を用いて,同じリズム

でつくるようにし,3小節目は続く感じのリズ

ムを3種類提示し,そこから選ばせた。4小節

目は終わる感じのリズムを3種類提示し,そこ

から選ばせた。それぞれ,自分が選んだリズム

(6)

50

パターンを自分の楽譜に記譜するように指示し た。こうして1つのリズム旋律ができ上がると,

今度は別のリズムパターンをつくるように指示 し,いくつかのリズム旋律をつくらせた。

 授業ⅡとⅣはそれぞれ前回の授業で作ったリ ズムにふしを付ける活動をさせた。ふしを付け る際は,①2小節目は1小節目を反復するふし の形とする②3小節目は「歩くふし」 「とぶふし」

などのふしの形を意識する③使う音は1点ハか ら2点ハまでと限定し,最後の音はドにする,な どの約束事を明確に指示した。どの授業でも,

旋律をつくっていく過程で自分のつくった旋律 を鍵盤ハーモニカで演奏し,それを隣の人やグ ループのメンバーに聴いてもらい,お互いにア ドバイスし合う活動を取り入れた。

 4クラス4時間の授業は,校長の許可をとっ て,それぞれのクラスの担任と著者の一人であ る千葉が共同で行った。

 ⑸ 調査の観点

 事前学習と4時間の授業の中で,音楽づくり を通した読譜・記譜能力の育成にどのような可 能性があるのかを,以下に示す2つの観点から 調べた。

観点1 音楽づくりの授業実践を通して児童の 読譜・記譜能力がどの程度向上するか。

観点2 音楽づくりの授業におけるどのような 点が読譜・記譜能力の向上に関係する のか。

 観点1に関しては以下の方法によって調べ た。前述したように,事前学習前後に読譜・記 譜調査を2回,4時間の授業後に読譜・記譜調 査を1回行った。この3回の読譜・記譜調査の 過程で,読譜・記譜能力の向上について検討し た。また,授業開始前の読譜・記譜能力の違い によって,その向上の度合いにどのような変化 が見られるのかを調べるために,読譜・記譜の 能力別に点数を集計した。このように,本研究 は,児童の読譜・記譜能力の変化をテストの得 点といった数量的な変化によって見ていく。し かし,本研究は,諸条件が十分に統制された仮説

検証型の実験的研究を目指すものではなく,数 量的な変化は,児童の能力の変化を見る一つの 目安として扱う。そのため,1回目から3回目 までの得点の差の統計的検定は行わず,その代 わりに,児童一人一人のデータの一部も示すこ ととした。また,読譜・記譜調査の結果に加え て,授業中に児童がつくった作品数も,読譜・記 譜能力の向上の度合いをみる一つの指標として 参考にした。

 観点2に関しては以下の方法によって調べ た。事前学習の前の意識調査①,授業後の意識 調査②,そして,毎回の授業プリントの感想から 児童の読譜・記譜の学習に対する意識と行動の 変化を見た。児童の意識に関しては,読譜・記 譜に関する自分の能力や,今後の読譜・記譜の 学習に対する意欲等についての質問を行った。

また,行動については,それぞれの作品を聴き合 う活動において,楽譜がどのように機能してい たのかに焦点をあて,授業プリントに記述した 友だちへのアドバイス内容を分析した。

 

Ⅲ.調査結果

 本項においては,これまでに示した2つの観 点と調査視点にもとづいた調査結果を述べる。

1. 音楽づくりの授業実践を通して児童の読譜・

記譜能力がどの程度向上するか

 ⑴ 読譜・記譜調査の結果

 3回の読譜・記譜調査の結果を,4クラス全 体,能力別グループごと,個人ごとに分析した。

グループ分けは音楽経験のある児童(音楽に関 する習い事をしている児童)をAグループとし,

その他の児童をさらに1回目の読譜・記譜調査 の成績がさほど低くなかった児童(Bグループ)

と,成績が低かった児童(Cグループ)に分け,

3つのグループで検討した。

 読譜・記譜調査は,読譜テストが 50 点,記譜

テストが 50 点の合計 100 点満点で行い,同じ種

(7)

51 類のテストを3回行った。

 図1のグラフは,5年生4クラス全員の読譜・

記譜調査の平均値を示したものである。1回目 の平均値が 41 点なのに対し,2回目では 63 点,

3回目では 66 点と,テストの成績が回を重ねる ごとに着実に上昇しているのがわかる。

 図2のグラフはグループごとの平均値を表し たものである。どのグループも回を重ねるごと に得点を伸ばしている。特にCグループの児童 が1回目の読譜・記譜調査から2回目にかけて 大きく得点を伸ばしている様子がわかる。

 次に,各グループの結果について説明する。

図3-1と2のグラフは,5年3組の結果で,図 3-3のグラフは5年4組の結果である。グ ループ内の全員が3回すべての読譜・記譜テス トを受けたクラスのデータを提示した。個人ご との結果は,全4クラスがおおむね同じ傾向を 示していた。Aグループは1回目の読譜・記譜 調査から得点が高かったが,多くの児童がその 後も得点を伸ばしている様子がわかる。特に変 化が大きかったのはCグループの児童で,1回 目の読譜・記譜調査ではきわめて得点が低かっ たにもかかわらず,3回目の読譜調査ではほと んどの児童が 50 点程度まで得点を伸ばすこと ができていた。

0

20 40 60 80 100

1回目 2回目 3回目

得 点

読譜調査の回数

図1 5年生全員の読譜・記譜調査の平均値

0 20 40 60 80 100

A B C

得 点

能力別グループ名

1回目 2回目 3回目

図2 グループごとの読譜・記譜調査の平均値

0 20 40 60 80 100

B1 B2 B3 B4 B5 B6 B7 B8 B9 B1 0

B1 1 得

Bグループの個人名

1回目 2回目 3回目

図3-2 B グループ個人ごとの読譜・記譜調査結果 0

20 40 60 80 100

A1 A2 A3 A4 A5 A6 A7 A8 A9 A1

A1

Aグループの個人名

1回目 2回目 3回目

図3- 1  A グループ個人ごとの読譜・記譜調査結果

(8)

52

 ⑵ 4回の授業でつくった作品の数

 図4のグラフは,それぞれの児童が4時間の 授業全体でつくった作品の総数とその人数であ る。作品数は,リズム旋律とふしづくりでの作 品数を合わせた数である。表からも明らかなよ うに最も少ない作品数だった児童(1名)も6 曲の作品をつくっており,最も多い児童は 24 曲 つくっていた。

 表2は,1時間の授業でつくった作品数の平 均の推移である。リズム旋律をつくる授業Ⅰと

Ⅲ,ふし付けをする授業ⅡとⅣを比べてみると,

どちらも後の授業の方が作品数の平均が高く なっている。また, 「ふしづくりをやりたくない」

と授業前に答えていた児童も,作品数の平均値 が伸びているのがわかる。

表2児童の意識別作品数の平均値

児童の意識 授業Ⅰ 授業Ⅱ 授業Ⅲ 授業Ⅳ やってみたい 3,2 1,6 4,7 2,2 やりたくない 3,8 1,6 4,8 2

2. 音楽づくりの授業におけるどのような点が 読譜・記譜能力の向上に関係するか

 音楽づくりの授業のどのような点が読譜・記 譜能力の向上につながったのかは,児童の意識 の変化と行動により調査した。

 ⑴ 児童の意識

 児童の意識の変化は,意識調査と授業プリン トの記述に基づいて分析した。まず,意識調査 の結果から述べる。意識調査は,選択式の回答 のものと自由記述とに分けられる。

① 選択式回答の設問について

 授業前の事前調査で行った意識調査の選択式 の質問項目と回答項目は以下のとおりである。

○音楽の授業は好きですか?

・好き・やや好き ・あまり好きではない

・きらい

○楽譜を読むことはできますか?

・すらすら読める ・ドから数えると読める 

・読める音もある ・まったく読めない

○楽譜が読めるようになりたいですか?

・読めるから大丈夫 

・読めないから読めるようになりたい 

・読めないままでよい

○曲をつくったり,楽譜に書いたりしたことが ありますか?

・よくある ・何回かある 

・やったことがない

○音楽をつくってみたいと思いますか?

・やってみたい 

・やりたいけどできないと思う 

・やりたくない

 集計の結果,音楽の授業は好きですかの質問 には 69%の児童が「好き」と答えている。読 譜に関して「すらすら読める」と答えた児童は

0

20 40 60 80 100

C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8

Cグループの個人名

1回目 2回目 3回目

図3-3 C グループ個人ごとの読譜・記譜調査結果

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

授業での作品数

図4 4時間の授業でつくった総作品数

(9)

53 35%であった。「読めるようになりたいですか」

の質問には 49%の児童が「読めるから大丈夫」

と答えている。また, 「読めないから読めるよう になりたい」と答えた児童は 48%であった。 「読 めないままでよい」と答えた児童は4%だけ だった。楽譜を書いたことのない児童は 53%

おり,音楽づくりに関しては,55%の児童が「や りたい」と答えている。

 次に,授業後の事後調査で行った意識調査の 結果を述べる。事後調査の意識調査の選択式の 質問項目と回答項目は以下のとおりである。

○今回の楽譜を書く音楽の授業はどうでした か?

・好き ・やや好き ・あまり好きではない

・きらい

○楽譜を読むことが上達したと思いますか?

・上達した(すらすら読める)  

・少し上達した

・前と変わらない

○これからももっと楽譜が読めるようになりた いですか?

・読めるから大丈夫 

・読めるようになったのでこれからもがんばり たい 

・読めないままで良い

 今回の楽譜を書く授業について「好き」と答 えた児童は 64%, 「やや好き」と答えた児童は 24%であり,約9割の児童がこの授業を肯定的 にとらえていた。「楽譜を読むことは上達しま したか」の質問に対しても,91%の児童が「上 達した」と答えている。「もっと楽譜が読める ようになりたいですか」の質問には,60%の児 童が「読めるようになったのでこれからもがん ばりたい」と答えている。

 日ごろ音楽の授業に対し積極的でないと考え られる児童が今回の授業をどのようにとらえて いたかを見るために,音楽の授業が「やや嫌い,

嫌い」と答えた児童だけを抽出して質問結果を 集計した。その結果,73%の児童が今回の授業 を「好き,やや好き」と答えており,「楽譜を読

むことは上達しましたか」 の質問には 88%の 児童が上達したと答えている。「今後も楽譜を 読めるようになりたいか」の質問には 86%の 児童が「読めるようになったので,これからも がんばりたい」と答えており,音楽が好きな児 童と同程度に今回の授業に積極的に取り組んで いたことがうかがえた。

② 自由記述の設問について

 自由記述で回答するものは,授業の前後の意 識調査で聞いた「楽譜が読めるとどんなことが いいか」という質問と,毎回の授業後に行った 授業感想プリントである。

 まず,意識調査の「楽譜が読めるとどんなこ とがいいか」の質問に対する答えから説明する。

自由記述の分析は,児童が自由記述で答えた内 容を概観し,児童の回答を 「心情や興味関心の 向上」 「学習の利便性」 「技術の向上・音楽表現 の上達」「将来的利便性」の4つのカテゴリー に分類した。それぞれのカテゴリーの中で,ど のような記述が授業の前と後とで何人いたのか を表したのが図5の1から4のグラフである。

0 5 10 15 20 25

みんなに褒められる 音を楽しめる すっきりする 音楽が好きになる すらすら読めると良い 楽しくなる

回答人数 回

答 内 容

授業前 授業後

図5-1 心情や興味関心の向上

0 5 10 15 20 25

手間がかからない 便利 ドレミを書かなくて良い 練習が楽になる ぱっと見て分かる 時間がかからない

回答人数 回

答 内

容 授業前

授業後

図5-2 学習の利便性

(10)

54

 楽譜が読めることで良いと感じている記述の 中で最も多いのは, 「技術の向上」のカテゴリー の「すらすら演奏できる」という記述であった。

授業前後ともに全体の約 20%の児童が,この回 答をあげていた。次に多いのが「興味関心」の カテゴリーで「授業が楽しくなる」である。こ の記述は,授業後にさらに増えている。また, 「技 術の向上・音楽表現の上達」のカテゴリーでは,

「自分で曲がつくれる」という記述が,授業前は 一人もいなかったのに対し,授業後は 13 名にみ られた。また, 「学習の利便性」のカテゴリーで も 「ぱっと見てわかる」「ドレミを書かなくて よい」 などの記述がわずかであるが,授業後に 増えていた。

 次に授業後の感想について説明する。図6の グラフは,毎回の授業で行った授業プリントの 中から「つくってみての感想」という質問の回 答をまとめたものである。全体的に見ると, 「難 しかった」以外の回答は,この授業をうけて, 「楽 しかった」「色々作れて良かった」, 「友達と同じ リズムになった」「明日のふし付けが楽しみ」

というプラス思考の回答になっている。

 ⑵ 授業中の児童の行動

 今回の音楽づくりでは,「隣の人に聞いてもら う」「グループの中で聴き合う」「全体の中で発 表する」活動をどの授業にも取り入れた。また,

グループ発表の場面では,友達にアドバイスを する活動をとり入れ,アドバイスした内容を授 業プリントに記入するようにした。児童の行動 は,こうした児童間での関わり合いの中で楽譜 がどのように機能していたのかを中心に分析し た。

 児童間でのアドバイスの内容から,楽譜がど のような役割を果たしているかを見るために,

プリントに記入したアドバイスの内容から,読 譜・記譜能力に関わると思われる記述を抜き出 し,それらを「使っているリズムに関するアド バイス」 「使っている音に関するアドバイス」 「間 違いの指摘に関するアドバイス」「ふしの形に 関するアドバイス」の4つのカテゴリーに分け た。

0 5 10 15 20 25 30 35 40 難しかった

慣れてきた 2回目でいっぱいできた 明日の音付けが楽しみ 友達と同じリズムになった 色々作れて良かった 楽しかった

回答人数 児

童 の 感 想

図6 授業後の感想(3時間目)

0 5 10 15 20 25

音楽のテストで役に立つ 習い事が上達する 音楽家になった時役に立つ 大人になっても使える 授業で役に立つ

回答人数 回

答 内 容

授業前 授業後

図5-4 将来的な利便

0 5 10 15 20 25

一人で演奏できる 友達に教えてあげられる 感情を込めて演奏できる 上手になる 曲のイメージがしやすい 好きな曲が出来る 楽譜が読める ピアノなど弾ける 自分で曲がつくれる すらすら演奏できる

回答人数

授業前 授業後

図5-3 技術の向上・音楽表現の上達

(11)

55

 図7のグラフは,それぞれのカテゴリーの記 述が何人あったのかをA・B・Cの3つのグルー プに分けて示したものである。

 「ふしの形」に関するアドバイスが一番多く,

全体で 36 人がこのカテゴリーに含まれる記述 をしていた。具体的な記述としては, 「歩くふし,

とぶふしを使っていた」「ふしの繰り返しが良 かった」「とぶふしがきれいだった」といった 内容が多かった。次に多かったのは「間違いの 指摘」で,合わせて 15 人にこの記述がみられた。

記述内容としては, 「3小節目のふしがつまずい ていた」「リズムのたたき方が違っていた」「リ ズムが分からなかったので教えてあげた」など である。友だちの楽譜を見ながら,友だちの演 奏を聴くという場面で,記譜と友だちの演奏が 違っている点についての指摘が多かったと見ら れる。「使っている音」に関しては 12 人が記述 しており, 「高いレを2回使っていた」「高い音 と低い音を上手に使っていた」「最後のドドド がいい」などの記述が見られた。友だちの楽譜 を見て気づいた点や,演奏した音に関するもの をアドバイスしていることが見て取れる。 「使っ ているリズム」に関しては, 「シンコペーション のリズムがうまい」「ウンの使い方がうまい」

などの記述がCグループの児童2名に見られ た。

Ⅳ.考察

1.読譜・記譜能力の変化について

 まず,読譜・記譜能力の変化について考察す る。全体の傾向としては,3回の読譜・記譜調 査において回を追うごとに成績の向上がみら れた。特に,事前学習の後の読譜・記譜調査に おいて大きな向上が見られた。一方,4回の授 業の後での読譜・記譜調査の結果は,向上が見 られたものの,事前学習後の向上に比べて少な かった。

 次に,グループごとの変化であるが,A,B,

Cすべてのグループに上昇傾向が見られた。特 にCグループの上昇率が高かった。ただ,Cグ ループにおいても,全体の傾向と同じように,事 前学習の後での成績の向上の度合いが,授業後 での向上の度合いを上回っていた。 

 4回の授業における読譜・記譜調査の点数の 向上が,事前学習ほどではなかった理由として,

短期間で習得できる読譜・記譜能力には限界が あるということが考えられる。つまり,事前学 習で習得することができた読譜・記譜能力を授 業でさらに大きく伸ばすには,長期的な授業の 結果を待たなくてはならないのかもしれない。

 ただ,授業でつくった作品の数には,読譜・記 譜能力の向上を示唆する傾向もみられ,児童は,

事前学習で身に付けた読譜・記譜能力を授業の 中でより実践的に発展させていったと捉えるこ ともできるだろう。今回の調査では,1回目の 読譜・記譜調査で 10 点以下の児童が少なから ずいたが,これらの児童の中にも授業を追うご とに多くの作品をつくっていった児童がいた。

たとえば,Cグループの児童S君は,事前学習後 の読譜・記譜調査の点数が7点から 54 点に上 がったにもかかわらず,授業後の読譜・記譜調 査の得点は 67 点と伸び悩んだ。しかし,S君は 授業Ⅱのふし付けでは1曲しかつくることがで きなかったにも関わらず,授業Ⅳのふし付けで は4曲つくることができた。読譜・記譜能力の 0 2 4 6 8 10 12 14 16

使っているリズム 使っている音 間違いの指摘 ふしの形

人数

Cグループ Bグループ Aグループ

図7 読譜に関する関わり合い

(12)

56

変化がさほどテストの成績には反映されなかっ たものの,こうした作品数の増加を見てみると,

授業の中で読譜・記譜能力の実践的な力がつい ていったと考えることもできるだろう。今回 行ったような授業を,繰り返し続けていくこと で,より確実な読譜・記譜能力の向上が見られ るのではないかと思われる。

2. 音楽づくりのどのような側面が読譜・記譜 能力向上につながるか

 音楽づくりの授業実践のどのような点が読 譜・記譜能力の向上に結びついていくのかとい う点は,児童の意識と行動を,意識調査と授業プ リントに基づいて調査した。考察においては,

これらの結果を総合して,今回の授業実践のど のような側面が読譜・記譜能力の向上につなが るのかをまとめていく。

 ⑴ 読譜・記譜能力を客観的に振りかえる  まず,今回の授業で明らかになった点は,児童 たちが,自分たちの読譜・記譜能力を客観的に 振りかえることができた点である。事前調査の 意識調査結果を見ると,児童の 35%しか「すら すら読める」と答えていないのに「楽譜が読め るようになりたいですか」の質問では 49%が

「読めるから大丈夫」と答えている。しかし,事 後調査の意識調査結果では,音楽づくりの活動 で自分の読譜・記譜能力が向上したと答えてい る児童が 90%を越えており,自分の読譜・記譜 能力が授業前にくらべて変化したことを実感し ている。このことは,児童たちが,自分の読譜・

記譜能力を客観的に振りかえることができたこ との一つの表れであると考えることもできるだ ろう。

 ⑵ 読譜・記譜の必要性を実感することがで きた

 読譜・記譜能力の振りかえりとともに,読譜・

記譜能力の必要性も実感することができた。繰 り返すが,最初のアンケートでは, 「読めるから 大丈夫」と答えた児童が多く,児童自身の中に,

現在の自分の読譜・記譜能力でもなんとかなる という無意識の安心感があったのではないだろ うか。そのために, 「読めないから何とかしなけ れば」といった意識は低かったように思われる。

しかし,事後調査の意識調査では, 「もっと楽譜 が読めるようになりたいですか」の質問に「読 めるから大丈夫」と答えている児童の割合が 減って, 「これからもがんばりたい」という児童 が6割も出てきた。自分の読譜・記譜能力を高 めたいと児童自身がこの授業を受けて感じてい ることがうかがえた。つまり,今回の音楽づく りの活動を通して,自分の本当の「読譜・記譜 能力」に向き合い,児童が「がんばろう」とい う気持ちになり,読譜・記譜能力の必要性を実 感できたことがうかがえる。

 ⑶ 読譜・記譜能力の向上が,音楽づくりの 活動を広げることが実感できた

 読譜・記譜能力の向上による音楽づくりの活 動の可能性の広がりは,事前調査と事後調査の 意識調査の両方で聞いた「楽譜が読めるとどん なことがいいか」という質問への回答から読み 取ることができる。楽譜が読めることの利点と して, 「自分の曲がつくれる」という音楽の新し い活動の可能性をあげている児童が 12 名いた。

また, 「すらすら演奏できる」「音楽が楽しくな る」といった回答も多く,読譜・記譜能力を上 げることによってもたらされる学習上での利点 に対する児童の期待が読みとれる。こうした意 識の広がりは,読譜・記譜能力の向上が,さまざ まな音楽活動の可能性を高めることの実感につ ながっていくと考えられる。

 ⑷ 音楽の仕組みの理解を通した読譜・記譜 能力の向上

 今回の授業では,お互いの作品に対してアド

バイスし合う活動を設けたが,この中で,音楽の

仕組みに関するアドバイスが多くみられた。こ

うしたことから,多くの児童が,今回の授業で学

んだ音楽の仕組みに基づいて自分の曲をつくっ

たり,友達の作品を聴き取ったりすることがで

きていたことがうかがえる。

(13)

57  重要な点は,こうした音楽の仕組みの理解に

楽譜が媒体として高く機能していたことであ る。授業中の児童どうしのアドバイスを観察し ていたところ, 「リズムが違っている」「歩くふ しがいい」「ラシドがいい」等のアドバイスの ほとんどは,友達の楽譜を見ながら行われてお り,楽譜が友達の演奏と聴いている自分をつな いでいる様子がみられた。友だちの作品を理解 する一つの助けとして「楽譜」が役に立ってい たのである。これがカタカナや絵記号での表記 であったらどうであろうか。旋律の形やリズム など,友達の表記から曲の構造を見取ることが 五線譜に比べて難しく,表記と演奏とがつなが らず適切なアドバイスが少なかったのではない だろうか。

 今回の授業では,音楽の仕組みを理解するこ とで,知らず知らずのうちに楽譜を繰り返し使 う活動が自主的に多く起きた。こうした活動が 読譜・記譜能力の定着に結びついていくと考え られる。

 ⑸ 読譜・記譜を楽しい活動としてとらえて いた

 授業後の感想では, 「難しかったけれど楽し かった」という感想が多かった。多くの児童は,

自分の作品をきちんと記譜して残すということ を,授業を受ける前はできないと思っていたの ではないだろうか。それが,音楽づくりを経験 したことで自分の作品が「できた」という自信 をもち,その結果として「楽しかった」という 感想につながったと考えられる。

 

Ⅴ.結論

 本研究は,音楽づくりの活動を通した読譜・

記譜能力の向上の可能性を,授業実践より探っ た。児童は,今回の授業を通して一定の読譜・

記譜能力の向上を示した。さらに,授業の細か い検討の結果,児童の意識の中に読譜・記譜の 必要性や可能性の実感が見られた。また,具体 的な授業内容に関しては,音楽の仕組みを理解

して音楽づくりをする活動において,楽譜が重 要な役割を果たしていることが見てとれた。楽 譜を通して音楽の仕組みを理解する過程におい て,読譜・記譜の活動が繰り返し行われ,それが 児童の読譜・記譜能力の向上に寄与しているこ ともうかがえた。また,重要な点は,読譜・記譜 教育が詰め込み式にならず,自主的で楽しい活 動となったことにもあると考えられる。

Ⅵ.今後の課題

 今回の授業実践においては,音楽づくりの授 業の持つ読譜・記譜教育の可能性を見出すこと ができた。しかし,音楽づくりを通した読譜・

記譜の教育の研究は始まったばかりで,今後の 課題は多い。  

 まず,今回の授業実践を,長いスパンの読譜・

記譜教育の中に位置づけた場合,4 時間の音楽 づくりは,その一断片にしかすぎない。序論に おいても述べたように,読譜・記譜教育の成果 は,長いスパンで考える必要があり,児童たちの 読譜・記譜能力の定着を考えた場合,今回行っ たような実践を 6 年間の義務教育の中でどのよ うに積み重ねるかが今後の重要な課題である。

 研究方法に関しても,課題を残した。今回の 研究では,読譜・記譜調査と意識調査等によっ て児童の実態を見取り,そこから音楽づくりの 授業の可能性について論じた。しかし,今回行っ た読譜・記譜調査や意識調査において,児童の 実態を十分に見取れたとは思わない。たとえば,

読譜・記譜能力は,もっと実践的な場面で児童 がどのように楽譜を読み書きしているのかを探 る必要があるだろう。また,児童の意識や行動 についても,実際の児童の発言や動きなどを多 角的に評価していくことが必要である。

 今回の研究では,数名の抽出児童について,授

業中の細かい行動を観察し,児童の音楽づくり

の過程の分析を試みた。しかし,筆者自身が授

業を行ったことや,個別の児童のビデオ記録が

難しかったことなどから,十分な記録を残すこ

(14)

58

とができず,客観的な分析結果を本項に示すに はいたらなかった。これらの課題について,今 後さらなる研究を続けていくつもりである。

Ⅶ.今後の展望

 本研究では,音楽づくりの授業を通して読譜・

記譜能力の向上を検討してきた。しかし,本研 究は,音楽教育の中で読譜・記譜能力の向上を 無条件に優先して提案するものではない。楽譜 の読み書きができなくとも音楽を聴いて十分楽 しめるばかりでなく,さまざまな音楽表現を行 うことができる。また,音楽科教育で取り扱う 音楽には,楽譜を媒体としない音楽も多くあり,

楽譜は決して音楽活動に必須のものではない。

しかし,楽譜が読めたり書いたりできることに よる音楽活動の広がりも決して看過することが できない大きな事実なのである。また,楽譜が 読めなくても楽譜を読めるようになりたいと 願っている児童・生徒は多いのではないだろう か。たとえば,大学生の音楽の基礎的能力を調 査した研究によると(竹内 1989),半数近くの 学生が著しく低い成績を示し,さらに,このよう な基礎的能力を前提にした音楽の授業に7割以 上の学生が「ついていけない」と答えていた。

それにもかかわらず,ほとんど全員が「聞こえ てくる音高,リズム,拍子などが分かり,自由に 楽譜に書き取ることができたらいいな」と答え ていた

12)

。さらに教師側に目を向けてみても,

杉江(2009)が調査したところによると, 「児童 は耳で聞いて模倣する力があるから,読譜指導 は不必要だ」と考える教師はほとんどいないこ とも明らかにされている

13)

 読み方が分からない五線の楽譜を目の前にし て音楽の授業を受けながら,実は,読めるように なりたいと願う子どもたち,また,読めるように させたいと願っている教師たちは多いのではな いだろうか。こうしたことを考えると,音楽科 教育において,読譜・記譜教育は大きな課題で ある。

 最後に,本論文は,千葉由紀子が宮城教育大学 修士論文と提出した論文のデータを,千葉と水 戸の二人で再検討し,全体の論理構成を再度組 み立て直したものである。

1)山本文茂(2006)『これからの音楽教育を 考える展望と指針』音楽之友社,p.28.

2)杉江淑子(2009) 「子どもや若者の「聴く力」

と読譜の役割」『音楽教育実践ジャーナル』

日本音楽教育学会第1巻1号,p.7.

3)尾見敦子(2009)「提言「読譜教育」の4 つの視点-ハンガリーの音楽教育に学ぶも の-」『音楽教育実践ジャーナル』日本音 楽教育学会第1巻1号,p.76.

4)文部科学省著「小学校学習指導要領解説  音楽編」(2008)教育芸術社,p.18.

5)坪能由紀子・伊野義博(2008)『小学校学 習指導要領の解説と展開,音楽編』音楽出 版,p.13.

6)一條昌子(2009)「創作をツールとして学 ぶミュージック・リテラシー」『音楽教育 実践ジャーナル』日本音楽教育学会 第1 巻1号,p.96.

7)前掲書杉江淑子(2009),p.15.

8)前掲書文部科学省著(2008),p.60.

9)前掲書坪能由紀子・伊野義博(2008),

  p.60.

10)森下修次(2009)「読譜にどう向き合うか

-楽譜の必然性と音楽学習-」『音楽教育 実践ジャーナル』日本音楽教育学会 第1 巻1号,p.28.

11)前掲書一條昌子(2009),p.97.

12)竹内俊一(1989)「音楽行動としての表現」

『季刊音楽教育研究』第 60 巻,pp.2-11

13)前掲書杉江淑子(2009),pp.13-14.

(15)

59

The possibility of music composition activities in the acquisition of musical literacy

Hiromichi MITO(Facnlty of Psychology, Meiji Gakuin University)

Yukiko CHIBA

Abstract

  Thepurposeofthepresentstudyistoexaminethepossibilityofmusiccompositionactivitiesintheacquisition ofmusicalliteracy.137fifthgradeelementaryschoolstudentsparticipatedinthestudy.Theprojectwasdividedinto twostages.Duringthefirststage,theparticipantswererequiredtocompletetheexerciseswhichweredesigned toimprovetheirmusicalliteracy.Duringthesecondstage,theparticipantsreceivedfourmusiclessons,inwhich theywereaskedtocomposefourbarmelodyusingmusicalnotation.Theparticipantswererequiredtocomposethe melodieswhichpossessaclearmusicalstructure,throughwhichtheywereexpectedtoimprovemusicalliteracy.

 Inordertoexaminehowtheparticipantsimprovedtheirmusicalliteracyinthecourseoffourmusiclessons,three musicalliteracytestswereconducted.Furthermore,forthepurposeofclarifyingthekeycharacteristicsofthemusic compositionlessonswhichcontributedtothedevelopmentoftheparticipants’musicalliteracy,thequestionnaire askingtheparticipants’opinionsonthelessonswasadministrated.

Theresultsindicatedthatboththeparticipantswhohadreceivedrichmusicaltrainingoutsideschoolandthose whohadnotreceivedmusicaltrainingshoweddevelopmentinmusicalliteracy.Theimportantfindingofthepresent studyisthatmanyparticipantscouldrealizetheimportanceandthepossibilityofmusicalliteracyinthemusical compositionactivities,whichwasconsideredtobetheimportantaspectsofmusiccompositionactivitiesinthe acquisitionofmusicalliteracy.

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