トップレベル 女子剣道選手 の 技術傾向
:全日本剣道選手権大会 の 男女比較 を 通 じて
Tendency of Top Female Kendo Players’ Technique:
Through a Comparison between Male and Female Players’ Matches at All Japan Kendo Championships-
キーワード : ゲームパフォーマンス 分析,打突,攻 め
Keywords: Analysis of game performance, Datotsu, Seme
瀬川 剛
1)佐々木 陽一朗
2)進藤 暖佳
2)大野 達哉
3)SEGAWA Go SASAKI Yoichiro SHINDOU Haruka OHNO Tatsuya
1)東京女子体育大学 2)筑波大学人間総合科学研究科 3)サレジオ工業高等専門学校
Tokyo Women ’ s College of Physical Education Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba
Salesian Polytechnic
Abstract
This research, aims to clarify female kendo players’ unique techniques through a comparison between male and female players’ datotsu and seme. We looked at data from quarterfinals and above for a total of 55 matches sourced from the 55-58th All Japan Women’s Kendo Championships and the 64-67th All Japan Kendo Championships. The following two findings were concluded to help teach female kendo players;
1) Regarding datotsu, while hiki-waza is observed at a high percentage in female players’ matches, debana-waza, kaeshi-waza and katsugi-waza are observed at a high percentage in male players’ ones. While hiki-waza is especially indicated as an indispensable technique for female players’ matches. On the other hand, the debana- waza is often observed at male players’ matches, which is avoided by females players because of issues relating to risk control.
2) Regarding the style of “seme”, while “datotsu-motion (feint)”, “pressing down opponent’s shinai” and “containing by hitting opponent’s tsubamoto” are observed at a high percentage at female players’ matches, “narrowing down maai by keeping one’s kamae” and “lowering kensen” are observed at high percentage at male players’ ones.
Hitting by bouncing from shinai-contacted condition is a tendency at female’ players’
matches. Similar results are also acquired in case of ending up with yuko-datotsu.
緒言
剣道 は ,江戸時代中期 における 竹刀・防具 の 開発 によってそれまでの 剣術 から 脱皮 し ,現代剣道 を 形成 する 起点 となった . その 後, その 精神及 び 身体 の 錬成 効果 に 教育的価値 が 見出 され ,発展 してきた
25). し かし ,第二次世界大戦後,
GHQの教育民主化政策 のもと ,戦争遂行 に 加担 したものとして ,剣道 は 禁止 さ れた .禁止期間 は1953 年 まで8 年間 にわたり , その 間,
「 しない 競技」 を 経 て ,再出発 を 果 たしたが , そこで 新 たに 大 きな 軸 となったのが ,女子剣道 である .学校 教育 として 復帰 していく 中 で ,
1960年代 には 男女共学 が 一般化 したことや 女性 の 社会進出 の 機運 が 高 まっ ていったことも ,女子剣道 の 活性化 に 大 きな 影響 を 与 えた .
これまでにも ,女子剣道 を 対象 としたものは ,前田
6)の 体育 における 女子剣道 の 位置 について 質問紙法 を 用 いて 明 らかにした 研究 を 皮切 りに ,佐藤 ら
19)の 大 学女子剣道選手 の 稽古頻度 が 体力及 び 技術向上 に 及 ぼす 影響 を 明 らかにした 研究,山神 ら
22)の 上下肢 の 脂肪・除脂肪断面積 を 算出 し, 女子剣道競技者 の 形態的特性 を 明 らかにした 研究 など 各領域 で 有益 な 知見 が 得 られている . また ,新里 ら
20)は 女子剣道 の 誕生前史 を 「 しない 競技」 に 焦点 を 当 て ,明 らかにす るなど 戦後 の 剣道復活 から70 年近 くが 経 ち , その 歩 みを 振 り 返 るような 研究 も 散見 される .
一方 で ,大塚
13)14)は 女性剣士 が 男女 の 相違 を 十
分理解 する 必要 があるとし ,剣道 の 技術 は 基本的 に 性差 がないとされているが ,身体的・精神的特性 は 異 なるため ,今後,女性 ならではの 特性 を 活 かした 技術 や 修練方法 の 研究・検討 が 望 まれていると 述 べ ている .植田 ら
23)は ,男女 の 打突動作 を 比較,検討 し , 男女間 の 相違 は ,筋力 などの 身体的特性 の 差 による ものであると 報告 している . ここで 明 らかにされた 男女
間 の 相違 は ,打突動作 についてのみであったが , こ れ 以外 にも 男女間 で 違 いが 見 られるはずである .江 刺家
3)は ,男性剣道実践者 からとかく 「 タイミングが 合 わない 」「調子 が 狂 う 」 と 言 われるが , それは 男性 よ りも 柔軟性 や 巧緻性 で 上回 っている 可能性 が 示唆 さ れるとしているが , それを 裏付 けるデータは 示 されて
いない . つまり ,先行研究 においては , その 身体的特 性 や 意識 を 明 らかにされているものの ,女性剣道選 手 が 如何 なる 技術特性 を 保有 するかについては 管見 の 限 り 明 らかにされていない .
こうした 技術 を 明 らかにする 手法 として , ゲームパ フォーマンス 分析 がある .選手 が 試合 で 達成 したパ フォーマンスの 分析 がコーチング 活動 を 効果的 に 行 うために 重要 な 意味 を 持 っていることは 現在 ではコー チング 現場 で 広 く 認 められている
15).剣道 においても , ゲームパフォーマンス 分析 はこれまで 数多 く 行 われて いる .恵土 ら
2)は ,全日本剣道選手権大会 で 発現 され た 攻 めと 打突 に 着目 し ,有効打突 に 結 びつきやすい 攻 めから 打突 の 流 れを 明 らかにした .中村 ら
12)は 試 合開始 から 終了 までの 全動作 を 把握 するためのプロ グラムを 作成 し ,試合者 の 対応動作 を 比較 しつつ , そ の 有効性 を 明 らかにした .
ただこれらはいずれも 対象 が 男子 の 試合・大会 で あり ,女子大会 の 試合内容分析 は 報告数 が 少 なく , 近年 では ,鷹見
22)が 全日本女子剣道選手権大会 を 対象 として 試合内容分析 を 行 い , 「女子大会 では ,先 行研究 の 男子大会 と 比較 して ,性差 による 体格・体 力 の 影響, およびそれに 伴 う 体 の 運用 ならびに 竹刀 操作 の 影響 に 起因 すると 推察 される 相違点 が 各項目 でみられた . 」 と 報告 している . ただ , この 研究 は 単年 度 の 大会 を 対象 としており ,試合数 も 少量 であり ,包 括的 な 分析 には 至 っていない .
そこで ,本研究 では ,第
55〜58 回全日本剣道女子 選手権大会 と 第
64〜67回全日本剣道選手権大会 準々決勝以上,計
55試合 を 対象 として ,男女両選手 の 発現 する 打突及 び 攻 め 方 の 比較・検討 を 行 うこと で ,女子剣道 トップ 選手特有 の 技術傾向 を 明 らかにし , 女子剣道選手 への 指導 の 一助 となる 有益 な 知見 を 得 ることを 目的 とする .
方法
対象大会及び試合
2016〜2019年
に 開催 された 第
55〜58 回全日本女
子剣道選手権大会,第64〜
67回全日本剣道選手権大会 を 対象 とし ,各大会準々決勝以降 の7 試合,計
下 の 通 り 分類・集計 した .
攻 め 方 の 分類 は, 「剣先 をまわし 中心 を 攻 める 」
,「打突 モーション ( フェイント )」 「相手
,の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」
,「竹刀 を 頭上 に 大 きく 振 りかぶ る 」
,「相手 の 鍔元 を 叩 き 牽制 する 」 「腕
,を 伸 ば して 相手 の 喉元 に 剣先 を 付 ける 」 「剣先
,をげ 中心 を 攻 める 」 「構
,えを 維持 し 間合 をつめる 」
,「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」 の
10項目を 分類 項目 とした.
(2)
有効打突 に 繋 がった 攻 め 方
対象試合 で 発現 された 有効打突直前 の 攻 め 方 を ,分類・集計 した .分類項目 は ,上記 の (1)
と 同様 とした .
統計処理
全 て の 統 計 処 理 に は
IBM SPSS Statistics ver.27.0(IBM社製)を 用 いた .男女 の 差 を 検討 するた めに , カイ2乗検定 を 行 った . その 後 の 事後検定 として ,
残差分析 を 行 い ,割合 の 比較 を 行 った .全 ての 分析 で 有意水準 を5% 未満,有意傾向 の 水準 を10% 未満 とし ,微細 な 相違 を 積極的 に 検証 できるようにした .
結果
1.打突について
(1) 発現
した 打突 の 部位別 の 割合
表1には ,男女 の 対象試合 で 発現 した 打突(女 子1155 本,男子650 本) の 部位別 の 割合 と 本数 を 示 した .
発現 した 打突 の 部位別 の 割合 については ,男女 ともにメン , コテ , ドウ , ツキの 順 で 発現割合 が 高 かっ た .発現打突 の 部位別 の 割合 には ,男女間 に 有 意 な 差 はみられなかった (X
2[3] = 3.84 , p=0.28).56
試合 から 上段選手 の 試合(第
58回全日本女子剣 道選手権大会準々決勝第
2試合)を 除 いた55 試合 を 分析 した .男女各
4大会を 集計 し ,各項目 でそれぞれ 比較・検討 を 行 った .
分析方法
対象試合 の 映像資料 は
,全日本剣道連盟が 公表 し
ている 動画 を 再生 し, 女性 を 含 む 剣道有段者4 名 で , 剣道指導要領
25)と 先行研究
2)17)を 参考 に 作成 した 分類項目 に 準 じて 分類・集計 し ,検討 した .
分析対象
分析対象 は, 対象試合 で 発現 された 技
,攻め 方 と した.
本研究 では, 打突 の 要件 を
・竹刀 の 打突部 で 相手 の 打突部位( メン ・ コテ ・ ドウ ・ ツキ ) の4種類 を 打突 していること.
・打突 の 際 に 声 を 発 していること
.・踏 み 込 み 動作 を 行 っていること. (胴技 は 踏 み 込 ま ない 場合 もあるので 例外 とした.)
これらの 要素 を 伴 った 打 ちを 打突 と 判断 した.
分析項目
1.打突について
(1)発現
した 打突 の 打突部位
対象試合 で 発現 された 打突 の 部位 は 「 メン 」
「 コテ 」 「 ドウ 」 「 ツキ 」 と 分類・集計 した.
(2)発現
した 打突 の 技
対象試合 で 発現 された 打突 を ,剣道指導要 領
25)の 技 の 項目 に 基 づき 以下 の 通 り 分類・集計 した.しかけ 技 は 「一本打 ちの 技,連続技,払 い 技,
捲 き 技,出 ばな 技,引 き 技, かつぎ 技」 の7項目,
応 じ 技 は 「抜 き 技, すり 上 げ 技,返 し 技,打 ち 落 と し 技」 の4項目,計11 項目 とした .
(3)発現
した 有効打突 の 技
対象試合 で 発現 された 有効打突 を ,分類・集 計 した .分析項目 は ,上記 の (2) と 同様 とした .
2.攻め方について (1)
発現 した 攻 め 方
対象試合 で 発現 された 打突直前 の 攻 め 方 を 以
表1 発現した打突の部位別の割合
(2) 発現した打突の技別の割合
表
2には,男女 の 対象試合 で 発現 した 打突 の 技別 の 割合 を 示 した .
女子 では ,一本打 ちの 技,引 き 技,連続技,
出 ばな 技, かつぎ 技,返 し 技,抜 き 技,払 い 技,
すり 上 げ 技,打 ち 落 とし 技,捲 き 技 の 順 であっ た .男子 では ,一本打 ちの 技,出 ばな 技,引 き 技,
連続技, かつぎ 技,返 し 技,抜 き 技, すり 上 げ 技,
打 ち 落 とし 技,払 い 技 の 順 であった .捲 き 技 は 発 現 がなかった .
発現 した 打突 の 技別 の 割合 には ,男女間 で 有意 な 差 がみられた (X
2[10]= 689.80 , p <0.000).事後検定
の 結果,引 き 技 の 発現割合
に 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 高 かった
(p<0.01).一方,出 ばな 技,返 し 技, かつぎ 技 の 発現割合 にも 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 低 かった (p<0.01). また ,一本打 ちの 技,
払 い 技 の 発現割合 に 有意傾向 がみられ ,女子 が 男子 よりも 高 かった (p<0.1).一方 で ,抜 き 技 の 発現割合 にも 有意傾向 がみられ ,女子 が 男子 よりも 低 かった (p<0.1).
(3) 発現した有効打突の技別の割合
表
3には,男女 の 対象試合 で 発現 した 有効打 突(女子:
47本,男子:
49本) の 技別 の 割合 を
示 した .
一部同 じ 割合 もあるが ,女子 は 一本打 ち 技,
引 き 技,出 ばな 技,払 い 技,連続技,抜 き 技,返 し 技, かつぎ 技, すり 上 げ 技 の 順 であった . なお ,
捲 き 技 と 打 ち 落 とし 技 は 有効打突 となった 打突 はなかった .男子 は ,出 ばな 技,一本打 ちの 技,
返 し 技, すり 上 げ 技,連続技,引 き 技, かつぎ 技,
抜 き 技 の 順 で 発現割合 が 高 かった . なお , 払 い 技,
捲 き 技,打 ち 落 とし 技 は 有効打突 となった 打突 は なかった .
発現 した 有効打突 の 技別 の 割合 には ,男女 間 で 有意 な 差 がみられた (X
2[8] = 16.56 , p <0.035).事後検定
の 結果,引 き 技 の 発現割合
に 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 高 かっ た (p<0.01).一方,出 ばな 技 の 発現割合 にも 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 低 かった
(p<0.01).
2.攻め方について (1) 発現した攻め方の割合
表
4には ,男女 の 対象試合 で 発現 された 打突 直前 の 攻 め 方(女子
654回,男子
511回)の 割合 と 回数 を 示 した .女子 は , 「構 えを 維持 し 間合 を つめる 」, 「打突 モーション ( フェイント )」, 「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」, 「剣先 を 下 げる 」, 「相
表2 発現した打突の技別の割合表3 発現した有効打突の技別の割合
手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」, 「相手 の 竹刀 のつ ば 元 を 叩 き 牽制 する 」, 「腕 を 伸 ばして 相手 の 喉 元 に 剣先 をつける 」, 「剣先 を 開 く 」, 「竹刀 を 頭 上 に 大 きく 振 りかぶる 」, 「剣先 を 回 す 」 の 順 であっ た .男子 は , 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」, 「打 突 モーション ( フェイント )」, 「防御 の 体勢 で 間 合 をつめる 」, 「剣先 を 下 げる 」, 「相手 の 竹刀 を 自分 の 鎬 で 上 から 押 さえる 」, 「剣先 を 回 す 」, 「剣 先 を 開 く 」, 「腕 を 伸 ばして 相手 の 喉元 に 剣先 を つける 」, 「竹刀 を 頭上 に 大 きく 振 りかぶる 」, 「相 手竹刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」 の 順 であった . 発現 した 攻 め 方 の 割合 には ,男女間 で 有意 な
差 がみられた (X
2[9] = 54.36 , p < 0.000).事後検定 の 結果, 「打突 モーション ( フェイント )」,
「相手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」, 「相手 の 竹刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」 の 発現割合 に 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 高 かった (p<0.01).
一方, 「構 えを 維持 して 間合 を 詰 める 」, 「剣先 を 下 げる 」 の 発現割合 にも 有意 な 差 がみられ ,女 子 が 男子 よりも 低 かった (p<0.01). また , 「竹刀 を 頭上 に 振 りかぶる 」 の 発現割合 に 有意傾向 が みられ ,女子 が 男子 よりも 高 かった (p<0.1).
(2) 有効打突に繋がった攻め方の割合
表
5には,男女 の 対象試合 で 発現 された 有効 打突(女子:
34本,女子:
51本)に 繋 がった 攻
め 方 の 割合 の 割合 と 回数 を 示 した .
一部同 じ 割合 もあるが ,女子 は , 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」, 「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」,
「打突 モーション ( フェイント )」, 「相手 の 竹刀 を 自分 の 鎬 で 上 から 押 さえる 」, 「剣先 を 開 く 」, 「剣 先 を 回 す 」, 「竹刀 を 頭上 に 大 きく 振 りかぶる 」, 「相 手 の 竹刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」 の 順 であっ た . なお , 「腕 を 伸 ばして 相手 の 喉元 に 剣先 をつ ける 」, 「剣先 を 下 げる 」攻 め 方 は 有効打突 に 繋 がるケースはなかった .男子 は , 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」, 「剣先 を 下 げる 」, 「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」, 「剣先 を 回 す 」, 「腕 を 伸 ばし て 相手 の 喉元 に 剣先 をつける 」, 「打突 モーショ ン ( フェイント )」, 「相手 の 竹刀 を 自分 の 鎬 で 上 から 押 さえる 」, 「竹刀 を 頭上 に 大 きく 振 りかぶる 」,
「剣先 を 開 く 」 の 順 であった . なお , 「相手 の 竹 刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」攻 め 方 は 有効打突 に 繋 がるケースはなかった .
有効打突 に 繋 がった 攻 め 方 の 割合 には ,男 女間 で 有意 な 差 がみられた (X
2[9] = 25.97 , p< 0.002).事後検定
の 結果, 「 フェイント (打突 モーション )」, 「相手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」 に 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 高 かっ た (p<0.01).一方, 「構 えを 維持 して 間合 をつ める 」 にも 有意 な 差 がみられ ,女子 が 男子 よりも 低 かった (p<0.01). また , 「剣先 を 下 げる 」 には , 有意傾向 がみられ ,女子 が 男子 よりも 低 かった
(p<0.1).
表4 発現した攻め方の割合
表5 有効打突に繋がった攻め方の割合
考察
打突について
打突部位別 で 見 ると ,男女 で 有意 な 差 は 見 られな かったが , メンが 最 も 多 く , コテがそれに 続 き , ドウとツ キが 一割程度 という 比率 は ,先行研究
2)10)12)を 支持 する 結果 となり ,選手 が 選択 する 打突部位 は 時代 や 性別 を 超 えて ,共通 するものであると 言 える .
技別 で 見 ると ,男女 ともにしかけ 技 の 一本打 ちの 技 が 最 も 大 きい 割合 を 示 し ,女子 の 方 が 有意 に 高 い 割 合 を 示 した .
女子 で 続 いて 多 いのが , 引 き 技 である .男子 が9.7%
に 対 し ,女子 は18.2%であり ,有意 に 高 い 割合 を 示 し た .一方,男子 では 出 ばな 技 が 多 く 見 られた .男子 の
10.2%を占 め ,女子 の3.6%と 比較 し ,有意 に 高 い 割 合 を 示 した . トップレベルの 大学女子剣道選手 の 試 合特性 を 明 らかにした 研究
8)においても ,女子 は 一 本打 ちの 技 の 次 に 引 き 技 が 多 く ,出 ばな 技 が 少 ないと されており ,先行研究 を 支持 する 結果 となった .
引 き 技 に 関 しては ,先行研究 で 前田 ら
7)が 高校生 と 大学生 の 男女 を 対象 に 研究 しており , 「引 き 面」「引 き 小手」 などの 技 は ,男子 より 女子 に 多 くみられると 報告 しており , これを 支持 する 結果 となった .
佐々木 ら
17)は 男子 において ,平成前期 に 引 き 技 の 技術 が 向上 したことで ,平成後期 では 引 き 技 を 打 たせない 技術 がさらに 高 まり ,結果 として 引 き 技 が 減 少 したとしている . この 傾向 が 本研究 でも 見 られ ,男子 よりも 女子 が 有意 に 多 い 傾向 を 示 したのではないかと
考 えられる .今後,女子 でも 同様 に ,防御 の 技術 が 高 まることで 引 き 技 が 減少 する 可能性 もあり ,動向 を 注
視 する 必要 がある .
また ,馬場 ら
1)は 剣道 の 試合 の 本質 はお 互 いの 一 足一刀 による 攻防 の 技前 による 緊張感 と 充実感 が ,行 う 者 と 観 る 者 に 剣道 の 醍醐味 と 魅力 を 与 えてきたと 報 告 している .男子 の 大会 では 審判員 も 最高位 の 範士 八段 を 保有 する 者 が 勤 めており ,教士七段 の 女性 を 中心 とする 審判員 が 裁 く 女子大会 よりもそうした 剣道 本来 の 醍醐味 である 技 で 勝負 を 決 するべきという 観 点 が 強 いと 考 えられることから ,選手 も 鍔 ぜり 合 いから , 引 き 技 を 出 すのではなく , こう 着状態 を 早 く 解消 しようと
するのではないかと 推察 する .
一方,出 ばな 技 は 剣道指導要領
25)において ,相 手 が 攻 め 込 もうとしたり ,打突 をしようとする 動作 の 起 こ り 端 を 捉 えて 打 ち 込 む 技 とされ ,指導上 の 留意点 とし て 「瞬間的 な 技 であるので ,機会 を 的確 に 捉 えて 打 突動作 を 素早 く 身体全体 で 打 つように 」 と 述 べられて いる .男子 に 比 べ ,敏捷性 に 劣 る 女子 は ,出遅 れると 逆 に 相手 に 打 たれてしまう 出 ばな 技 を 選択 することが 少 ないと 考 えられる .
また , かつぎ 技 においても ,男子 の 方 が 高 い 割合 を 示 した . この 技 は ,竹刀 の 振幅 が 大 きく ,筋力 が 必要 とされる . そのため ,竹刀 を 振 る 力 が 優 る 男子 の 方 が
発現 させやすいと 考 えられる .
応 じ 技 は ,女子 はすべての 技 において 男子 より 低 い 割合 を 示 しており ,特 に 返 し 技 において , その 差 が 顕著 である .男子4.9%に 対 し ,女子
2.0%という結果 となり ,有意 に 高 い 割合 を 示 した .女子 の 試合 におい て 散見 されたのは ,相手 の 打突 を 防御 し ,鍔 ぜり 合 いの 状態 にしてから ,返 して 打突 を 出 すケースである . 集計上, これは 引 き 技 となるため ,返 し 技 をはじめとす る 応 じ 技 が 減少 したと 考 えられる .男子 に 関 しては 近 年 の 全日本選手権 において 「近間 での 応 じ 技(返 し 技) の 技術 が 発展」 したとする 先行研究
17)を 支持 す る 結果 となった .
また ,有効打突 についての 技別 では ,女子 は ,一 本打 ちの 技 が 発現打突同様,最 も 多 い 結果 となった . 一方,男子 は 出 ばな 技 が
47%で ,最 も 大 きい 割合 を 示 した .男子 は 一本打 ちの 技 が
34.7%であり,出 ば な 技 と 合 わせて 八割以上 を 占 め ,直線的 な 動 きが 多 い 試合内容 であることが 示唆 される 結果 となった .女 子 は ,二番目 に 大 きい 割合 が 引 き 技
23%,出ばな 技
21%と 続 き , この 3 つの 技 で 多 くを 占 める 結果 であった .
引 き 技 は ,男子 ではわずか 1本 のみであったことか ら , やはり 女子 の 試合 においては ,引 き 技 が 大 きな 鍵 を 握 ることが 明 らかになった .
男女 ともに 大 きい 割合 を 示 した 出 ばな 技 に 関 して 香 田
5)は 指導書 の 中 で ,出 ばな 技 は 相手 が 技 を 出 すと ころであり ,防御 ができない 状態 にあり ,試合 や 稽古
で 技 が 最 も 多 く 決 まる 打突 の 機会 であるとしており ,本
研究 においてもこれを 支持 する 結果 となった .
攻め方について
剣道指導要領
25)において 剣道 の 対人的技能 は
「攻 めて 打 つ 事 により 成 り 立 っているとされ ,単 に 積 極的 に 打突 するのではなくむしろ 打突 の 前 の 積極的 な 行動 すなわち 攻 めに 意味 がある 」 としている . また 佐藤
18)は ,充分 に 稽古 を 積 んできた 高段者 や 名選手 といわれる 剣士 たちの 稽古,試合 で 発現 される 打突 は 共通 して 無駄 のない 打突 であり , これらの 打突 や 動 きはただ 機械的 に 打 ち 込 んでいるのではなく , その 技,
その 一本 を 打 ち 出 すまでの 準備 の 段階 にそれぞれの 工夫 や 苦心,修練 の 特色 が 現 れているとし ,打突 に 至 る 前 の 攻 めの 重要性 を 述 べている .本研究 では , 打突 に 至 る 直前 の 攻 め 方 に 焦点 を 当 て ,男女 の 差 を 明 らかにし ,女子剣道特有 の 攻 め 方 が 如何 なるもの かを 考察 する . なお ,特 に 女子 において ,発現打突 の 回数 と 比 べ ,攻 めの 回数 が 少 ないのは ,引 き 技 や 対 戦相手 の 打突 より 後 で
,応 じ 技 である 抜 き 技
,すり 上 げ 技
,返し 技,打 ち 落 とし 技 のどの 技 にも 該当 しない 打突 をする ,所謂「後打 ちの 技」 を 多用 しているからである と 考 えられる .
男女 ともに 最 も 多 く 見 られた 攻 め 方 が 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」 であった . ただ ,男子
42.9%に 対 し ,
女子 は33.3% と 有意 に 低 い 結果 となった .続 いて 多 い のは , 「打突 モーション ( フェイント )」 である .女子 で は23.9% を 占 めるが ,男子 では16.2%にとどまり ,女子 が 有意 に 高 い 割合 を 示 した .特 に , この 攻 め 方 からの コテが 多 く 見 られた . これは ,面 を 攻 めることで ,相手 の 手元 を 上 げさせ , その 隙 を 捉 える 技 であり , その 有 効性 は 指導書 でも 指摘 されている
21).
上記2つの 攻 め 方 で 考 えられるのは ,出 ばな 技 との 関連性 である .佐藤
18)はオーソドックスな 攻 め 合 い を 通 して , 「先」 を 取 っていると ,相手 が 意表 をついて 打 とうとしても , その 構 えの 崩 れがかえって 打突 の 好機 となって ,有利 なように 展開 するとしている .出 ばな 技 の 発現 が 多 い 男子 では , フェイントをする 際 にその 隙 を 捉 えられて ,相手 に 機会 を 与 えることになり 兼 ねない と 判断 し , この 攻 め 方 を 多用 せず , 「構 えを 維持 し 間 合 をつめる 」攻 め 方 が 多 くなり ,出 ばな 技 の 発現 が 少 ない 女子 では 割合 としてこの 攻 め 方 が 多 くなっている のではないかと 考 えられる .
次 に 「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」 が 多 く 見 られた . 女子 が16%,男子 が
15%で有意 な 差 は 見 られなかっ た . この 攻 め 方 について ,先行研究 において 中村 ら
11)は 右小手,面,右胴 を 同時 にカバーする 受 け 方(現 代的 な 防御方法) から 応 じ 技 のつながりという 観点 は ほとんど 見 られなかったと 報告 している .一方,近年 の 全日本剣道選手権優勝者 の 試合特性 を 明 らかにし た 研究17) では 「相手 から 打突 されるリスクを 減 らし 自 身 が 打突 する 際 に 得意 な 間合 に 入 る 技術, かつ 防御 の 体勢 から 打突 への 技術 が 向上 した 」 とその 有効性 が 指摘 されつつある .本研究 においてもこれを 追認 す る 結果 となった . この 攻 め 方 を 多用 すると ,消極的 な 試合展開 になる 恐 れがあることなど , その 是非 は 再考 すべきであるが ,現代剣道, とりわけ 試合 においては 必要 な 技術 であると 考 えられる .
その 他 の 攻 めの 方法 で ,女子 が 男子 よりも 有意 に 高 い 割合 を 示 したのが 「相手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」 である .佐藤
18)はこの 攻 め 方 について , 「押 さえて 打 つ 」 あるいは 「撥 いて 打 つ 」 と 表現 し , どちらにおいて も ,単独 の 動 きではなく ,打突 と 一連 の 動作 になるよう にするべきであると 述 べているが ,本研究 の 女子選手 もそうした 動作 が 数多 く 見 られた .一方,男子 が 女子 よりも 高 い 割合 を 示 したのは 「剣先 を 下 げる 」 である .
女子 の7.3%に 対 し ,男子 は13.5%であった .指導書 において 古川
4)は 構 えが 崩 れない 相手 に 対 してはこ の 攻 め 方 が 有効 であると 述 べている .男子選手 の 試 合 では ,構 えを 維持 し 攻 める 回数 が 多 いことは 前述 の 通 りである . それに 関連 して , この 攻 め 方 も 増加 したこ とが 示唆 される .
この2つの 攻 め 方 の 大 きな 差 は , お 互 いの 竹刀 が 接触 した 状態 で 打 ち 出 すか 否 かである .筋力 で 上回 る 男子 は ,剣先 を 一度下 げ , その 状態 から 大 きく 打 ち 出 すことを 得意 とするが ,女子 は 竹刀 が 触 れ 合 った 状態 で 操作 し ,打突動作 に 結 びつけて 行 く 傾向 が 強 いと 示唆 される . これは 「相手 の 竹刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」攻 め 方 にも 共通 し ,女子 では
22回(3.4%)
見 られるが ,男子 ではコテの1回 のみで ,有意 に 高 い 割合 を 示 した .前述 の 打突 でも ,払 い 技 で 有意差 が 見 られていることから , この 傾向 が 示唆 される .
有効打突 で 最 も 多 かった 攻 め 方 は ,発現打突同様,
男女 ともに 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」 であったが , 男子 は62.7%と 大 きい 数値 を 示 したのに 対 し ,女子 は
29.4%と 小 さい 値 を 示 したが 、 これも 発現打突同様 の 理由 であると 考 える . 続 いて ,女子 は 「防御 の 体勢 で 間合 をつめる 」 が
20.6%で,男子 の9.9% と 比 べ ,高 い 割合 を 示 した .笹木 ら
16)は 防御姿勢 が 試合結果 に 与 える 影響 を 明 らかにした 研究 において 「男子学生大 会 においては ,相手 より 防御姿勢 の 少 ない 方 が 勝率 は 高 く ,女子学生大会 においては 相手 より 防御姿勢 の 多 い 方 が 勝率 は 高 かった 」 と 述 べている .本研究 の 女子選手 も 防御姿勢 を 巧 みに 遣 い ,有効打突 を 生 み 出 している 傾向 が 見 られ ,先行研究 を 支持 する 結 果 となった .
女子 において , その 他 の 攻 めで 大 きい 割合 を 示 し たのは 発現打突同様, 「打突 モーション ( フェイント )」
と 「相手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」 でどちらも
17.6%(6 本) であった .男子 ではこの
2つの 攻 め 方 はともに
1本のみであり ,女子 に 有効 な 攻 め 方 であると 考 えられる .
結論
本研究 では ,第
55-58回全日本剣道女子選手権大会 と 第
64-67回全日本剣道選手権大会の 準々決勝以
上,計55 試合 を 対象 として ,男女両選手 の 発現 する 打突及 び 攻 め 方 の 比較・検討 を 行 うことで ,女子剣 道特有 の 技術 を 明 らかにすることを 目的 とすることで , 以下2 つの 女子剣道選手 への 指導 の 一助 となる 有益 な 知見 が 得 られた .
発現打突 では ,引 き 技 は 女子 が 高 い 割合 を 示 し , 出 ばな 技,返 し 技, かつぎ 技 は 男子 が 高 い 割合 を 示 した .有効打突 でも 同様 の 傾向 が 見 られ ,特 に 引 き 技 は 女子 の 試合 では 必要不可欠 な 技術 であることが 示唆 され ,逆 に 男子 で 多 く 見 られる 出 ばな 技 は , リス ク 回避 の 面 から 敬遠 している 可能性 が 示唆 された .
攻 め 方 では , 「打突 モーション ( フェイント )」, 「相 手 の 竹刀 を 上 から 押 さえる 」, 「相手 の 竹刀 のつば 元 を 叩 き 牽制 する 」 で 女子 が 高 い 割合 を 示 し , 「構 えを 維持 し 間合 をつめる 」, 「剣先 を 下 げる 」 は 男子 が 高 い 割合 を 示 した .女子選手 が 竹刀 を 接触 させた 状態
から 反動 をつけて 打 つ 傾向 が 示唆 された .有効打突 に 繋 がった 攻 めでも 同様 の 結果 を 得 た .
以上 から ,女子選手 は 男子選手 に 比 べ ,竹刀 を 接 触 させた 状態 から 反動 をつけた 攻 め 方 で 技 を 発現 す るが ,有効打突 に 結 びつかないケースが 多 く , その 後,
相手 と 鍔 ぜり 合 いになったところから 引 き 技 を 発現 さ せる 試合展開 が 多 いと 考 えられる .
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