競泳自由形におけるフリップターンのバイオメカニクス的研究
~大学競泳選手を対象として~
小石 麿由桂(スポーツ学研究科 競技スポーツ系 スポーツ情報戦略分野)
主査:高橋佳三 副査:豊田則成,村瀬陽介
キーワード:クイックターン,三次元動作分析,水泳
The Biomechanical study of flip turn in swimming freestyle of college swimmer Mayuka Koishi
Keywords:quick turn, 3D motion analysis, swimming 1.緒言
競泳は,主にスタート局面,ストローク局面,
ターン局面フィニッシュ局面の4つの局面に 分けることができる.
Thayer and Hay(1984)は「25mプールの 大会でターンはトータルタイムの 33%を構成 し,ターンは重要な要素」と述べている.また,
Puel(2012)は「最速のターンタイムは回転 を開始する時の頭から壁との距離,水平速度の 力のピーク,ターンの間の通り道の長さの削減 によりもたらされる」と述べており,Lyttle et al(1999)は壁へのプッシュオフの時間が長 いほど,速度は速くなるが,過度の時間を費や すと,かえって悪影響であることを指摘した.
以上のことから,ターン動作を詳細に研究した ものはなく,どのようなターン動作が速いター ンに繋がっているか解明されていない.そこで 速いターン動作を確立することで,競技記録向 上に貢献できるのではないかと考えた.
1.2目的
本研究では以下二つの研究課題を設定した.
研究課題1:水泳の自由形におけるフリップタ ーンの早い選手と遅い選手の動作を比較し,タ ーン動作改善のための有用な知見を導き出す こと.
研究課題2:研究課題1から導き出した特徴通 りのターン動作を行うことで,実際にターンタ イムが短くなるのかを検証すること.
1.3局面分け
以下5つの局面に定義分けを行った.
・タ ー ン 準 備 期 :入水~頭下げる
・ターン初期前半:頭下げる~頭最下点
・ターン初期後半:頭最下点~着壁
・ド ラ イ ブ 期:着壁~離壁
・グ ラ イ ド 期:離壁~10コマ 2.研究課題1
2.1方法
被験者はB大学水泳部員男子16名であった.
20分程度のウォーミングアップ後,3~5回の ターン動作を全力で行わせ,最もタイムが早い 1本を分析対象とした.ハイスピードカメラ
(OLIMPAS TG-3)を水中に3台設置し,タ ーン動作を毎秒120コマで撮影した.そして 得られた画像から三次元DLT法を用いて三次 元座標を算出し,重心速度,関節角度および身 体部分角度などを算出した.
2.1.1被験者のグループ分け
本研究では被験者をターン初期開始時の肩 の関節角度(以下,肩関節角度)により3つの グループに分けて比較した.肩関節角度が 110°以上をA群,60°~110°をB群,60°未満 をC群とした.
2.2結果
ターンタイムとターン準備期の間に正の相 関関係がみられ(r=0.87),ターンタイムと 50mベストタイム,及び50mベストタイムと 100mベストタイムとの間にも正の相関関係 がみられた(それぞれ50mベストタイム r=0.62,100mベストタイムr=0.73).
肩関節角度とターン準備期の所要時間,及び ターンタイムとの間に,それぞれ負の相関関係 がみられ(それぞれターン準備期r=-0.82,タ ーンタイムr=-0.84),ターンタイムとターン準 備期開始時における頭から壁との距離に正の
相関関係がみられた(r=0.67).
最終ストロークの手の後方へかく速度はタ ーン準備期とターン初期前半,ターン初期後半 において,A群が突出して速く,ターン準備期 とターン初期において全ての群間に有意差が みられた.また,重心が壁に近づく速度ではタ ーン初期前半から後半にかけてA-B間A-C間 に有意差がみられた.
2.4考察
ターンタイムが短い被験者は競技記録も短 い.また肩関節角度が大きく,手が大きく前方 に伸びた状態から速い速度で最終ストローク をかくと同時にターンに入ることで,最終スト ロークと回転が同時に行われることになり,結 果として推進力を得続けながら回転すること ができ,その結果,壁に近づく重心速度を維持 したまま回転をすることができるのではない かと考えられる.
3.研究課題2 3.1方法
被験者はB大学水泳部員男子8名であった.
20分程度のウォーミングアップ後,下記のよ うな3種類のターン動作を指示し,各3試技 ずつ計9本全力で行わせた.
試技① 通常のターン動作
試技② 最終ストロークをかききってから回 転を始める
試技③ なるべく壁に近づき,最終ストローク の手が入水した直後に回転を始める
ハイスピードカメラ(OLIMPAS TG-3)を水 中に3台設置し,ターン動作を毎秒120コマ で撮影した.そして得られた画像から三次元 DLT法を用いて三次元座標を算出し,関節角 度および身体部分角度などを算出した.
3.2結果
試技のターンタイムは試技③,試技①,試技
②の順で早く,試技①-③間,試技②-③間にお いて有意差がみられ(試技①1.65±0.21秒,
試技②1.82±0.16秒,試技③1.40±0.14秒,
p<0.05),各試技のターン準備期の所要時間は 試技③,試技①,試技②の順で早く,全ての群 間において有意差がみられた(試技①0.29±
0.15秒,試技②0.44±0.04秒,試技③0.14± 0.09秒,p<0.05).また各試技のターン準備期 にける頭から壁の距離は試技試技③,試技①,
試技②の順で短く,試技①-③間,試技②-③間 において有意差がみられた(試技①1.67± 0.20m,試技②1.81±0.14m,試技③1.26± 0.19m,p<0.05).そして各試技の肩関節角度 は試技試技③,試技①,試技②の順で大きく,
全ての群間において有意差がみられた(試技① 68.21±23.71°,試技②20.87±14.81°,試技
③114.91±29.79°,p<0.05). 3.3考察
これらのことから,研究課題1から導き出し た早いターンの特徴を行うことでターンタイ ムを早くできることが明らかとなった.試技① は研究課題1のB群の動きに近く,試技②は C群の動きに近く,試技③はA群の動きに近 かった.また,研究課題2では実験日に実験試 技の詳細を説明し,選手に試技を行わせた.実 験日当日に簡単な説明をしただけでターンタ イムが変化し,差が出たことはこの方法が指導 現場においても非常に有効であり,且つすぐに 取り入れられる内容であることを示している.
4.本研究のまとめと現場への提言
①ターンの早い選手はなるべく壁に近づき,最 終ストロークの手が入水した直後に回転を始 める特徴があった.これによりターン準備期の 所要時間を短縮されていた.
②研究課題1から導き出した早い選手の特徴 を研究課題2において追認できた.
③最終ストロークをかききってから回転を始 めることはターンタイムが長くなることに繋 がる.
④「なるべく壁に近づき,最終ストロークの手 が入水した直後に回転を始める」ことができる よう指示することで,短時間でターンタイムを 向上させることができる.
主な参考文献
・Puel,F. Morlier,J. Cid,M. Chollet, D.Hellard, P.(2012) Biomechanical factors influencing tumble turn performance of elite femail swimmers