金沢 大 学 十 全 医学 会 雑 誌 第1 0 4巻 第3号 35 ト 3 6 2 (1 9 9 5)
ア ミ ノ 酸イ ン バ ラ ン ス 輸液製剤の抗腫 瘍 効果に関する基礎 的 研究
一 書田肉 腫 担 癌ラッ ト による実 験 的検 討 ‑
3 5 1
う
亀 鼠 野
i 杢 象 私 園 や
÷ き
㌻ i 泉 懲
‰
尋〉 l龍 野
・ J
篭管
̀
亀
呈
農猥
F
、
金沢 大 学 医 学 部外 科 学 第一 講 座 (主任: 渡辺 洋 字教 授)
松 智 彦
ア ミ ノ酸インバ ラン スが腫 瘍 増 殖を抑 制 すること が知ら れて いる. 今回著者は, ビリミジン ヌ クレオ チドの生 合 成 系
(de n o vo 合成 系) と尿 素サイク ルが, カルバ ミルリン酸 (c a rba m oylpho sphate) を共通の基 質とすることに着目 し た. そ して
本 研 究でほt 尿 素サイク ル の賦 活によ るビリミジン合 成 抑 制を 目的と して, ア ルギニンを過 剰に含み, これに オ ル ニチンを添 加し た輸 液 鮎 軋 金 沢ア ルギ ニ ン ・ オル ニテン増 量輸 液1号( Ka n a z a w a a rginin e a nd o r nithin e e n riched s olutio n n u mbe r l,
K A O‑1) を作 成し, アス パラギソ酸トラン ス カ ル バ ミ ラー ゼ(a spa rtate tr a n s c a rba myla s e) 阻 害 作用 を有し ている N‑フォス
フォ ンアセ チ) t/‑しアス バルテ ー ト ( N‑(pho spho n a c et yl)‑I・‑a Spa rtate,P A L A)との併 用によ る抗腫 瘍 効果と宿主に及ぼす 影響を 検 討し た■ 実 験 動 物には吉田肉 腫を接種し た雄 性ドンリュ
ー ラット を 用い, 総 合ア ミ ノ酸 投 与群 (Ⅰ群), K A O‑1 投 与 群 川 群), P A L A 投 与群 (n]群), K A O‑1 + P A L A 投 与 群 (Ⅳ群) の4群にわけ, 8 日間にわ たって無拘 束 下に中心静 脈栄 養を施 行し
た・ 輸液 期 間中の窒 素 平衡, 腫 瘍 重 乱 実験 前 後の宿主体 重, お よ び実験 終 了 時の血液 生化 学検 査, 血衆 道 離ア ミ ノ酸 濃 鼠 尿 中ア ミ ノ酸 量, 肝 鼠織 中遊 離ア ミ ノ酸 濃度, 腫 瘍組 織 中 遊 離ア ミ ノ酸 濃度, 膿 瘍 細胞ヒス ト グラム 上底 瘍 内核 D N A, R N A
お よ び蛋 白量を測 達し た・ 輸 液 期 間 中の累積 窒 素 平衡は, 全 例で正の値を 示 し各群 間に差を認め な かっ た. 輸 液終了時の腫 瘍 重量を み る と, Ⅰ群と比 較し て 甘群, Ⅳ群で有 意の腫 瘍増 殖 抑制を認め(p <0.0 1), Ⅱ群と比 較してもⅣ群で ほ有意に腫 瘍増 殖 が抑 制さ れて いた(p< 0・0 5). ま た, 宿主体 重の変化には各 群間に差を認め な かった. 血液 生 化学 検 査では, 赤血球 数,
ヘ モグ
ロ ビン値,
ヘ マ ト クリッ ト億はいずれもⅠ群と比較し, 他の3 群でほ有 意に低 下し ていた (p <0.0 1). ま た, 血小板 数は逆に Ⅰ 群と比 較し Ⅱ群 (p< 0・0 1) お よ び Ⅳ群(p < 0.0 5) での増 加を認め た. ま た Ⅱ群, Ⅳ群に血清尿 素 窒素の有 意な 上昇と 血清尿酸値
の有 意な低 下を認め た が(p <0・01), 肝 機 能 障害や腎 機 能障 害の発 生を 示唆する所 見は な かった. 血紫 遊 離ア ミ ノ酸濃 度では,
Ⅰ群と比較して] 群で シ ト ル リ ン, オ ル ニチン , ア ルギニンの有意な 上昇を認め た (シ ト ルリン , オ ル ニ チン p <0.0 5; ア ルギ
ニ ン p< 0・01 ). ま た Ⅲ群で ほ, シ トル リンとアルギニ ンの有 意な 上昇を認め (シ トル リン p< 0.0 5;) アルギニ ン p <0.01 ), Ⅳ群
でも, シ トルリン, オ ル ニチ ン, アルギニ ンの有 意な 上昇を認めた (p <0.Ol ). 尿中ア ミ ノ酸 分析では, Ⅰ群と比 較してⅡ群と
Ⅳ群で シ トルリン , オ ル ニ チン , アルギ ニ ンの有 意な排泄 増 加を認め た・ ∵方, Ⅶ群で ほ逆に ア ルギチンとシ トル リンの尿 中 排泄 量が有意に低 下して いた. 肝 覿 織 中 遊 離ア ミ ノ酸 濃度で ほ Ⅰ群と [ 群の間にほ有意 差を認め な か った が, Ⅲ群, Ⅳ群でほ
Ⅰ群と比 較して全 般 的に遊 離ア ミ ノ酸の有 意な増 加を認め た. 腫 瘍 組 織 中遊 離ア ミ ノ酸 濃 度で ほ, Ⅰ群と比 較し て Ⅱ群 (p <0・05 ) と Ⅳ群 (p < 0.0 1) で は オ ル ニチンの有 意な 上昇を認め た. 腫 瘍細 胞の細 胞周期分 析の結 果でほ, Ⅱ群お よ び Ⅳ群にお い てS 期への細 胞 集 積が認めら れ た. 腫 瘍 細 胞の核D N A 量, R N A 量お よ び蛋 白 量の変 化をみる と, Ⅱ群, Ⅳ群で R HA 量の 有意な減 少(p <0.05 ) と D N A 量の減 少 傾 向を認め た. 以 上の ア ミ ノ酸 分 析結 果か ら, 過 剰に投 与さ れ たアルギニ ンと オル ニチ
ンは尿 素サイ クル に流入 し, 順 調に代 謝さ れ るものと推 測さ れ た.
d 方, Ⅲ群の血祭シ トルリン値の推 移か ら, P A L A ほ カル バ ミル リン酸の ビ リ ミジン へ の代 謝を有 効に阻止する ものと考え られ た. 以 上の成 績によ り, KAO‑1 の投 与によって担癌生体 内で尿 素サイクルが賦 活さ れ, 腫 瘍の増 殖が抑 制さ れ ること が 示 さ れ た. ま た, P A L A は有効に アス パ ラギン酸ト ラン スカル バ ミ ラ ーゼを阻 害 する と推測さ れ, K A O‑1 との併用によ り その抗 腫 瘍 効 果を増 強させること が判明 し た.
Key w ords a min o a cid im balance, ur ea CyCle, P A L A , arginine, 0 mit hine
癌 化学 療 法が臨床に応用 さ れて約5 0年, 癌 治 療のな かで化 学 療 法の果たす 役 割は近 年 飛 躍 的に高まっ て いる. な かでも, 核 酸 代謝 関連 酵 素 阻害や D N A 二重 鎖の複 製 阻 害はl 分裂 能の高
い細胞によ り大 きな障 焉を与え る た めの悪 性 腫 瘍の化学 療 法に
し ば し ば応用 さ れ る1 ト 3,. 代 表 的な代 謝 括 抗 剤5‑フ ル オロ ウ ラ
シ ル(5‑flu o r o u r a cil,5‑F U ) の標 的 酵 素であるチ ミ ジル酸 合成 酵 素(thymidylate syntha s e,T S ) も, ビリミジン ヌクレオ チ ドの
生 合成 系(dg 乃OUO 合 成 系) 律 速 酵 素である. し か し, か か る代
平成7 年3 月2 0 日受 付, 平 成7 年5月1 日受 理
A b bre viatio n s : A L P ,alkalin epho sphata s e ; A L T ,ala nin e a minotrasfe rase;A S T, a SPa rtate a min otr a n sfe r a s e; A T C, aSpartate trans ca rba myla s e ; d U M P, deoxyurid in e m on opho sphate; F A O, F o od and Agric ulture
Organization of the U nited N atio n s ;F d U M P ,5‑fluo r o‑2,‑deo xyu ridin e‑5,‑m On Ophosphate; 5‑F U , 5‑flu o rou r a cil; T‑G T P , T‑gluta m yl tr an spep tida se;I R, inhibitio n rate ; K A O‑1, K a n aza w a arginin e a nd o r nith ine e n riched
3 5 2
謝 系ほ生体 維 持にきわ めて重 要である た め, 薬理作用 か らの逃 避と解釈さ れ る標 的 酵 素の誘 導や描 因子の相 対 的 欠 乏が容 易に
生 ずる4 )5). これ らの事 象ほ, 抗癌 剤に対 する腫 瘍の低 感 受 性と
して捉え ら れ, 消 化 器 病に対 する化 学 療法で良 好な成 績が得ら れ ない要 因にな る と考え られ る. こ のよ う な事 態の打 開には,
観 点の異な る新た な化 学 療法の模 索が必要である.
著 者ほ, ビリミジン ヌ クレオ チ ドの生 合成 弟と尿 素サイク ル が, カ ル バ ミ ルリソ酸 (c a rba moylpho sphate) を共 通の基 質と することに着目 し た. 尿 素サイ ク ル のメ ンバ ー であるア ルギ ニ
ンの大 量投 与は ぃ 腫瘍 細 胞 内への核 酸 合 成 前駆 物 質の取り込み を抑 制 すること が報告さ れ ている が6 ) 71, そ れ ほカ ル バ ミ ル リソ
酸の消 費によ りビリミジン合 成の基 質が 不足する た め と解 釈さ れ る. 本 研 究では, ア ルギニ ンに加えて同じく 尿 素サイク ル の
メ ンバ ー であるオ ルニ チンを増 量さ せ た新 紅成ア ミ ノ酸 輸 液」
Tablel. A min o a ci d c o r npo sitio n of M o ripr o n a nd K A O‑1
A mi n o a ci ds Mo ripr o n(W/V %) K A O‑1(W/V %) Is ole u cin e
Le u cin e
Lysin e ・ H CI M ethio nin e
P be nylala nin e
T br e o nin e
Try p topha n
Valin e
A la nin e
Arginin e ・H C I Aspa rtic a cid Cystin e ・ H CI Gluta mic a cid H istidin e ・ H C l・ H20 Pr olin e
Se rin e
Tyr o sin e
G lycin e
Or nithin e ・ H C l
0.5 6 0 0.2 5 5 1.2 5 0 0 .5 6 9 1.1 0 0 0 .5 0 0 0.3 5 0 0 .1 5 9 0.93 5 0 .4 2 5 0.65 0 0.2 96 0.1 3 0 0.0 5 9 0.45 0 0.2 05 0.62 0 0.28 2 0.95 5 3.1 5 0 0.38 0 0.1 7 3 0.1 45 0.0 6 6 0.6 50 0.2 9 6 0.8 11 0.3 6 9 0.3 3 0 0.1 5 0 0.2 2 0 0.1 0 0 0.0 3 5 0.0 1 6 1.0 7 0 0.4 8 7 2.7 3 0 Total fr e e a min o a cids a r e c o ntain ed l O.0 0 0 W/V % in
Mo ripr o n, a nd 8.9 3 9 W/ V % in K A O‑1. T he r atio of
e s s e ntial/n o n‑e S S e ntial a min o a cids a r el.0 9 in M o ripr o n, a nd O.3 8 in K A O‑1.
Tab Ie2. Com
po sitio n cf T P N s oIutio n(/body/day)
金 沢ア ルギニ ン ・ オル ニチ ン増 量輸 液1 号( Ka n a z a w a a rginin e a nd o r nithin e e n riched s olutio n n u m be rl, K A O‑1) 作 成し, い わ ゆ るアイレギニ ン ・ オ ル ニチ ソ ・ インバ ラ ン スが腫 瘍増 殖㌣こお よ ぼす影 響をラッ ト担 癌モデルを 用いて検 討し た. 一 方, カル バ ミ ル リン酸は, アス パ ラギ ン酸ト ラン ス カ ル バ ミ ラ ー ゼ (a spa rtate tr a n s c a rba myla s e. A T C )に代謝さ れ てビリミジンの
生 合 成に, オル ニチ ソ トラ ン ス カ ル バ ミ ラ ー ゼ (O r nithin e tr a n s c a rba myla s e, O T C) に代 謝さ れ て尿 素サイ クル に流入す る. L た がっ て, カ ル バ ミル リン酸の欠乏 下に A T C 阻害 剤を 併用すれ ば, よ り確 実な ど リ ミジン ヌ ク レオチ ド合 成 抑制が得 ら れ る と考えられ る. そ こ で A T C 阻 害 剤N‑フ ォ スフ ォンア セ チ ル ーL‑ア ス バ ル テ ー ト ( N‑(pho spho n a c et yl)‑L‑a SPa rtate,
P A L A ) と K A O‑1 との併用効 果を, 同じく 担 癌ラット を 用いた 実験で検 討し た.
対 象お よび 方 法
Ⅰ. 実 験 材 料 1 . 実 験 動 物
全実 験を通じ, 6 適齢の雄 性ドンリ ュ ー ラッ ト (静 岡 実 験 動 物, 浜 松) を使用 し た. 実 験 開 始ま で ほ,
一定の空 調 室 内で固形 飼 料C R F‑1(日本チ ャ ー ルズ リバ ー , 厚 木) お よ び, 水道水 を自 由 経口摂 取せ し め た.
2 . 腫 瘍 ドンリ ュ
ー ラ ット由 来の吉田肉 腫は金 沢 大 学が ん研 究所 化学 療 法 部 佐々 木琢 磨 教 授よ り分 与を うけた. 吉田肉 腫ほ, 同系
ラッ ト腹腔 内に接 種, 継 代し接 種7・日日の腹 水 細 胞を実験に供
し た.
3 . 輸液 製 剤
高 張グル コ ー ス電 解 重 液と し てバ レ メ ンタ ー ル@ A お よ び B ( 森 下ル セル , 大 阪) を, ま た総 合ア ミ ノ酸 製 剤と して国連 食糧
農業 委 員 会・ 世 界保 健 機 構( Fo od a nd Agric ultu r e Orga niz at,
io n of the United Natio n s・W o rld He alth Orga niz a tio n,
F A O ・W H O) 基 準に基づ く市 販ア ミ ノ酸 輸液, モ リプロン㊧ (森 下ル セ ル) を使用 し た. さ らに アルギ ニン ・ オル ニ チン ・ イン バ ラン ス輸 液と して K A O‑1 を使 用し た. K A O‑1 は, モリ ブロ
ン⑧
に アルギ ニ ン , オ ル ニチ ンを増 量し, 総ア ミ ノ酸 含 有 量が
モリプロ ン⑧と等し く な る よ うに調 整してある (表1 ). ま た A T C 阻 害 剤で ある P A L A ぱト t O ), U S B I O S C I E N C E 社 (P h iladelphia, U.S. A.) よ り分 与を受 けた.
松
Amin o Na+ K+ Cl Ca2+ M g
2+ Total Total No n‑Pr?tein N P C/N Eル Gr o up
.'
P詣芯1 M 群n K器 用冒;㌻S e a憲S (mEq) (mEq) (mEq) (m Eq) (m Eq) 7ヒv 符e 競; 諾:三1; r atio r atio
l.皿 4 5 2 2 14.1 2.2 0 5.2 1 1.6 9 4.6 6 0.4 5 0.3 4 6 7 6 5.2 5 6.4 1 6 9 1・09
Ⅱ,Ⅳ 4 5 2 2 1 4.1 1.9 7 3.9 0 1.6 9 9.2 3 0.4 5 0.3 4 6 7 6 4.3 5 6.4 1 3 7 0・罪 T P N・tOtal pa r e nte r aln utritio n‥N P C/N r atio・r atio ofn o n‑
Pr Otein c alo rie s/nitr ogep; E川 r atio・r aio of e s s e ntiaVn o n‑e S Stialamin o a cids・
dDu ringthelollo wing 8 days.the c a n n ulated r ats r e c eiY ed thefo u rd if fe r e nt r egl me n S・ Gr o up I■r egula r 且 min o a ci d + hy pe r alime ntatio n; gr O uP ロ,
K A O‑1 + hy pe r alim e ntatio n; gr O up m,r egula r a min o a cid + hy pe r a]ime ntatio n十 P A L A; gr O up Ⅳ, K A O‑1 + hy pe r aIim e ntatio n+ P A L A・ a nd P A L A wa s inle cLed 2 0 m gintr a v e n o u sly to r ats o n day l.2a nd 3.
s olutio n nu m be r l; N O, nitric oxide; N P C/N , n O n ‑prOtein calorie s/nitroge n; O T C ,O r nithin e tr a ns c arbamyla s e;
P A L A , N,(phospho nac et yl)‑しa spartate; P B S , phosphate buffe red solutio n ; PI, prOpidiu m
.iodide; T C, ternary
c o m plex ; T S , thymidylate synthase ; U A , uric acid; U T P, uridin e triphosphate; W H O , W o rld H e alth Orga niz atio n