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雑誌名 山梨学院大学法学論集

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(1)

モリス S. アーノルド アメリカ民事訴訟における 法廷地選択条項の効力

著者名(日) 椎橋  邦雄

雑誌名 山梨学院大学法学論集

巻 46

ページ 105‑114

発行年 2000‑11‑25

URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000850/

(2)

105 アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力 訳

       アーカンソー州西部地区連邦地方裁判所判事モリスSアーノルド

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      O鼻aωけ簿①ω9ω鼠g冒猪ρ≦①ω8毎ヨωけユgo︷︾爵きω器寓o霞一ωω︒>同口o匡        椎橋邦雄

         目   次

         はじめに

        一 従来のルール

        ニ 近時の動向

        三 将来の課題

        四 結  語

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

105 

翻 訳

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

アーカンソ

1

州西部地区連邦地方裁判所判事

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椎 橋 邦 雄

目 次

はじめに 従来のル

1

近時の動向

将来の課題

(3)

訳者あとがき 法学論集 46〔山梨学院大学〕 106

はじめに

 おそらく過去二十年間におけるアメリカ法の歴史の特色となっている訴訟の爆発的増加のゆえに︑今日では︑他

人と契約を締結しようとする者が︑契約の中に︑当事者間に将来発生する可能性のある訴訟に関連する条項を組み

入れることはきわめて一般的になっている︒このような条項は︑契約から生ずる紛争の解決にあたってどこの州の

法律が適用されるのかを取り決める形をとることが多い︒近年︑このような条項が判例において顕著になってお

り︑これは︑このような条項が契約においてますます多く利用されていることを示している︒これらは︑いわゆる

法廷地選択条項と呼ばれるものであり︑契約関係から生ずるすべての紛争について一定の裁判所を専属的な法廷地

︵<窪器︶とする条項である︒本稿ではこのような条項について検討する︒

一106一

従来のルール

 裁判所は︑長い問︑私的な当事者は合意によって管轄権︵冒岳9&窪︶を作り出すことはできないと判示して

きた︒この明快な法理は︑裁判所は法律によって創設されたものであるので︑法律によって裁判所に与えられてい

ない管轄権を行使することはできないという単純な前提に基づいていた︒この前提を争う弁護士はいなかった︒し 訳者あとがき

106 

46 (山梨学院大学〕

はじめに

おそらく過去二十年間におけるアメリカ法の歴史の特色となっている訴訟の爆発的増加のゆえに︑今日では︑他

人と契約を締結しようとする者が︑契約の中に︑当事者聞に将来発生する可能性のある訴訟に関連する条項を組み

法学論集

入れることはきわめて一般的になっている︒このような条項は︑契約から生ずる紛争の解決にあたってどこの州の

法律が適用されるのかを取り決める形をとることが多い︒近年︑このような条項が判例において顕著になってお

り︑これは︑このような条項が契約においてますます多く利用されていることを示している︒これらは︑ いわゆる

法廷地選択条項と呼ばれるものであり︑契約関係から生ずるすべての紛争について一定の裁判所を専属的な法廷地

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とする条項である︒本稿ではこのような条項について検討する︒

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裁判所は︑長い間︑私的な当事者は合意によって管轄権(︺尾町内出己目︒ロ)を作り出すことはできないと判示して

きた︒この明快な法理は︑裁判所は法律によって創設されたものであるので︑法律によって裁判所に与えられてい

ない管轄権を行使することはできないという単純な前提に基づいていた︒この前提を争う弁護士はいなかった︒し

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(4)

107 アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

かしながら︑長年にわたって︑多くの裁判所は︑これよりもはるかに議論の余地のある前提︑すなわち︑紛争解決

のための専属的法廷地についての当事者の合意には効力が認められないという前提に立っていた︒これらの裁判所

がこのような結果をとった根拠は︑そのような合意は︑当事者が管轄権のない裁判所に管轄権を付与しようと試み       ︵1︶ る状況の裏返しにすぎないというものであった︒しかし︑このような類推はきわめて不完全であり︑説得力に欠け

るものであった︒当事者が裁判所から管轄権を取り上げることができないことは明白である︒しかし︑契約の中で

指定されていない裁判所には提訴してはならないとする契約をなぜ裁判所が執行すべきでないのかという問題は上

記の原則とは関係ない︒このような条項は裁判所から何も奪うことはない︒すなわち︑裁判所の管轄権は何らの影

響も受けないのであり︑このような条項の執行を求める当事者は︑契約の効力を認めてもらった上で︑裁判所にそ

の管轄権の行使を求めているにすぎないのである︒一般論として︑このような契約条項の執行を禁ずる理由は何も

ない︒

二 近時の動向

 現在でも︑従来の熟慮を欠いたルールを頑なに守り︑法廷地選択条項の執行をまったく認めない地域は少なくな

いものの︑合衆国最高裁判所は︑連邦裁判所においては︑少なくとも連邦問題の事件については︑従来のルールを

採用しないことを明らかにした︒ωおヨ窪ダN巷簿餌O斥曽o賊①Oo﹂ミqφ一︵這認︶事件において︑最高裁判所

は︑﹁すべての紛争はロンドンの裁判所で処理される﹂ことを規定した法廷地選択条項に直面した︒最高裁判所は︑ かしながら︑長年にわたって︑多くの裁判所は︑これよりもはるかに議論の余地のある前提︑すなわち︑紛争解決 のための専属的法廷地についての当事者の合意には効力が認められないという前提に立っていた︒これらの裁判所 がこのような結果をとった根拠は︑ そのような合意は︑当事者が管轄権のない裁判所に管轄権を付与しようと試み

る状況の裏返しにすぎないというものであった︒しかし︑このような類推はきわめて不完全であり︑説得力に欠け

るものであった︒当事者が裁判所から管轄権を取り上げることができないことは明白である︒しかし︑契約の中で

指定されていない裁判所には提訴してはならないとする契約をなぜ裁判所が執行すべきでないのかという問題は上

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

記の原則とは関係ない︒このような条項は裁判所から何も奪うことはない︒すなわち︑裁判所の管轄権は何らの影

響も受けないのであり︑このような条項の執行を求める当事者は︑契約の効力を認めてもらった上で︑裁判所にそ

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の管轄権の行使を求めているにすぎないのである︒ 一般論として︑このような契約条項の執行を禁ずる理由は何も

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近時の動向

現在でも︑従来の熟慮を欠いたル l ルを頑なに守り︑法廷地選択条項の執行をまったく認めない地域は少なくな

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(5)

法学論集 46〔山梨学院大学〕 108

条項が﹁詐欺︑不当威圧または交渉力の隔絶﹂が存在する状況の中で作成されたというような特段の事情がないか

ぎりは︑そのような条項は﹁当事者によって尊重されるべきであり︑裁判所によって執行されるべきである﹂と判

示した︒犀簿寅最高裁判所は︑このような結論を引き出すにあたって︑﹁契約の自由という古典的な概念﹂にふ

れ︑また︑﹁国際的な取引︑貿易︑契約における不可欠の要素﹂として訴訟がどこで提起されるかについての不確

実性を排除する必要に言及した︒峯讐耳嵩−置最高裁判所は︑また︑男①馨舞o冨⑦旨︵ω①8&︶900昌旨9亀

鍔≦昌︒ ︒︒︵一︒置︶が採用した﹁法廷地選択条項は︑不当または不合理でないかぎり︑効力を認められる﹂との原則

にも好意的に言及している︒おもしろいことに︑最高裁判所は︑ブレーメン判決の結論は︑乞&9巴国2言ヨ⑦艮

刃①導算い痒ダo D鎧喜①貸ω謡O●ω﹄巨︵ぢ9︶事件において同裁判所が承認した前提の裏面にすぎないと述べてい

る︒この事件において︑最高裁判所は︑連邦裁判所については︑ある地域において送達を受けることができない当

事者が︑その地域において送達を受けるための﹁代理人﹂を契約で指定することによって︑有効に応訴することが

できると判示した︒峯緯5−F言い換えれば︑ある地域において︑応訴に合意することができるのであれば︑そ

の地域において︑提訴しないことまたは応訴しないことを契約することもできるということである︒

 ω9R犀ダ︾一び震86三<RO9﹂嵩qω﹄8︵お濯︶事件において︑最高裁判所は︑再び︑法廷地選択条項の問題

に直面し︑その執行を力強く確認し︑﹁あらかじめ紛争が持ち込まれる裁判所を指定する契約の条項は︑すべての

国際的商取引にとって必須である予測可能性や規則正しさ︵o鼠R浮8ω︶の達成のための不可欠な前提である﹂

と判示した︒犀暮蟄9さらに︑最高裁判所は︑﹁そのような条項は︑契約の対象となった紛争が当事者の一方の

利益に反する裁判所または当該紛争に慣れていない裁判所に持ち込まれる危険を回避させる﹂とまで判示した︒

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条項が﹁詐欺︑不当威圧または交渉力の隔絶﹂が存在する状況の中で作成されたというような特段の事情がないか

ぎりは︑そのような条項は﹁当事者によって尊重されるべきであり︑裁判所によって執行されるべきである﹂と判

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・丘尽・最高裁判所は︑このような結論を引き出すにあたって︑﹁契約の自由という古典的な概念﹂にふ

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できると判示した︒冨・巳忌ーロ・言い換えれば︑ある地域において︑応訴に合意することができるのであれば︑

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(6)

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三 将来の課題

109 アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

 ブレーメン判決が出たことによって︑最近の判例には︑法廷地選択条項を有効とする傾向がみられる︒多くの裁

判所は︑上記の閑①ω辞無①目窪叉ω90民︶909鴎一鐸9ピ≦亀・ ︒︒で用いられた表現︑すなわち︑条項は﹁不当また

は不合理でないかぎり﹂有効であるとの基準を採用している︒この基準は︑合意の執行をまったく認めないことに

比べれば進歩しているものの︑この基準はあまりにも幅が広いので︑裁判所に具体的な指針をほとんど示していな

い点が問題となっている︒そのために︑法廷地選択条項について交渉する当事者は︑合意が有効と認められるか否

かを正確に予測するができない状態におかれている︒

 第九巡回区控訴裁判所の最近の判例は︑リステイトメントの基準の適用には困難が伴うことを議論するための格

好の素材を提供している.ωビ9戸O巽鼠く包ρ菖器ぴ3$o ︒零男臣ωミ︵︒夢Ωぴお8︶は︑客船の乗客が船会社

に対して転倒事故によって受けた傷害の損害賠償を求めた事件であった︒原告は︑被告に過失があったとして︑ワ

シントン州西部地区の連邦地方裁判所に提訴した︒しかし︑原告が購入したチケットには︑﹁本契約に基づいてま

たは関連して生じた紛争または問題のすべては︑裁判で争われる場合には︑他州または他国の裁判所を排除して︑

合衆国のフロリダ州の裁判所において裁判する﹂との条項があった︒犀鉾鴇O●第九巡回区裁判所は︑州籍相違事

件であるにもかかわらず︑まず匡き①鼠均舘8ヨ冒ρ〇二8凶︾ヨ︒﹂昌90 ︒誘男鑓㎝β㎝嵩︵O浮Ω5這o

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は不合理でないかぎり﹂有効であるとの基準を採用している︒この基準は︑合意の執行をまったく認めないことに

比べれば進歩しているものの︑この基準はあまりにも幅が広いので︑裁判所に具体的な指針をほとんど示していな

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い点が問題となっている︒そのために︑法廷地選択条項について交渉する当事者は︑合意が有効と認められるか否

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たは関連して生じた紛争または問題のすべては︑裁判で争われる場合には︑他州または他国の裁判所を排除して︑

109 

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法学論集 46〔山梨学院大学〕110

拠して︑法廷地選択条項については連邦法が適用されることを宣言した︵この点については︑98跨ダ 旨ωき犀

O毘曽ωふ蕊男ω∈P旨父頃q︾詩●お︒︒刈︶参照︶︒それから︑裁判所は︑法廷地選択条項は執行されるとのブレーメ

ン判決で宣言された一般原則に言及した︒しかし︑同裁判所は︑本件においては︑当事者間の交渉力が隔絶してい

るので︑法廷地選択条項は無効であるとして︑原告に不利な契約条項の執行を拒否した︒匡暮ωo

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︒︒同裁判所は︑

﹁条項が当事者の自由な交渉によって取り決められた証拠はない﹂とし︑また︑本件の契約書は︹個々の内容につ

いての変更を許すものではなく︺たんに購入者に購入するか否かの選択しか与えない形式のものであったと判示し

た︒さらに︑裁判所は︑﹁原告が︹条項︺の文言について交渉しえたことを示す記録は何もない﹂と判示した︒算

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 この判決に対しては批判的な検討が加えられなければならない︒同裁判所が依拠した理論は︑今日のアメリカの

裁判所における契約事件全般にとって新しいものではない︒というのは︑実際同裁判所が引用したように︑同裁判

所が採用した基準については数多くの先例が存在したからである︒事実︑ブレーメン判決の文言がこの判決の模範

となったのである︒ミd●ω﹄江㌣一︒ ︒およびPに︵﹁これは︹原告が︺変更を加える権限のない画一的で詳細な文

言で書かれた契約書ではない﹂︶参照︒しかしながら︑ここで問題とすべきことは︑第九巡回区裁判所が適用すべ

きとした基準は︑効用に疑問があり︑正義に合致しないことである︒

 まず第一に︑いずれの当事者がいわゆる交渉力の隔絶を証明する責任を負うのかが問われなければならない︒シ

ュート判決では︑被告に交渉力の隔絶がないことを証明する責任があるとされた︒しかし︑この判決は論理的でな

い︒というのは︑原告に突きつけられた契約文言の明白な趣旨を回避したいと望んでいるのは原告であるからであ

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法学論集

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所が採用した基準については数多くの先例が存在したからである︒事実︑プレ

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(8)

111 アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

る︒しかしながら︑より基本的なこととして︑﹁交渉力の隔絶﹂という語が正確にどのようなことを意味するのか

が問題とされなければならない︒この言葉はたしかに二十世紀の裁判官をひきつけるものであるが︑判例において

この語が定義されたことはない︒第九巡回区裁判所は本当に︑何らの証言もないのに︑原告は合意文言を変更する

権限がなかったと認定したのであろうか︒しかし︑反証がないかぎりは︑ある程度の代価を払ってでもチケットか

ら法廷地選択条項を削除したいと望む者がいると考えるのが通常であろう︒もし︑そうであるならば︑合意を規制

し︑また合意の中の条項の無効を宣言する権限はチケットの代金に反映されていたのであり︑そのために船会社は

交渉する利益を奪われたと裁判所は仮定したことになる︒おそらく︑裁判所はたんに代金はある意味で﹁法外﹂に

なると仮定したのであろう︒しかし︑そうであるならば︑裁判所は︑同時に︑商品が取引される価格を設定する権

限を仮定したことになる︒しかし︑このような権限は︑とりわけ生活必需品とは呼べない商品の取引の場合には︑

裁判所または政府機関が何をなすべきかについての伝統的概念では正当化されない権限である︒多くの人は客船に

乗らなくなるであろう︒

 また︑シュート判決では︑他の船会社のチケットには法廷地選択条項がないとの証拠は何もなかった︒もし存在

するならば︑シュート事件の原告が合意の文言を変更する﹁権限がなかった﹂と言うのは誤りであることは明白で

ある︒しかし︑おそらく︑最も基本的なことは︑このような原告は︑条項に違反するまでもなく︑豪華客船に乗る

ことを止め︑そのお金を何か別のレジャーに振り向ける権限を有することである︒シュート判決は︑証拠もなく︑

﹁原告がチケットに印刷されている文言や条件を審査する機会を有したか否か疑問である﹂と述べているが︑これ

が真実だとしても︑ム呈思によって生じた義務を無効とすることはない︒というのは︑裁判所は︑以前より︑契約の る︒しかしながら︑より基本的なこととして︑﹁交渉力の隔絶﹂という語が正確にどのようなことを意味するのか が問題とされなければならない︒この言葉はたしかに二十世紀の裁判官をひきつけるものであるが︑判例において この語が定義されたことはない︒第九巡回区裁判所は本当に︑何らの証言もないのに︑原告は合意文言を変更する 権限がなかったと認定したのであろうか︒しかし︑反証がないかぎりは︑ある程度の代価を払ってでもチケットか ら法廷地選択条項を削除したいと望む者がいると考えるのが通常であろう︒もし︑ そうであるならば︑合意を規制

し︑また合意の中の条項の無効を宣言する権限はチケットの代金に反映されていたのであり︑そのために船会社は

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

交渉する利益を奪われたと裁判所は仮定したことになる︒ おそらく︑裁判所はたんに代金はある意味で﹁法外﹂に

そうであるならば︑裁判所は︑同時に︑商品が取引される価格を設定する権 なると仮定したのであろう︒しかし︑

限を仮定したことになる︒しかし︑このような権限は︑ とりわけ生活必需品とは呼べない商品の取引の場合には︑

裁判所または政府機関が何をなすべきかについての伝統的概念では正当化されない権限である︒多くの人は客船に

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﹁原告がチケットに印刷されている文言や条件を審査する機会を有したか否か疑問である﹂と述べているが︑これ

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(9)

法学論集 46〔山梨学院大学〕 112

当事者は契約を読む義務があり︑また詐欺のないかぎり契約に拘束されると判示してきたからである︒

 最後に︑チケットの文言が印刷されていたという事実は︑シュート判決の採った見解とは反対に︑まったく重要

なことではない︒契約書が印刷されていることによって︑船会社の役員が文言を変更することを渋るとか︑担当者

が弁護士に相談することが多くなって︑交渉の費用が増加するおそれはある︒しかし︑これは︑チケットの文言の

変更ための代金が原告が喜んで支払う金額よりも高くなるかもしれないということを意味するにすぎない︒需要と

供給のカーブが交わらないという事実は︑裁判所が介入する理由とはならないし︑人の約束︵契約︶を守る義務を

免除する理由ともならない︒船会社が﹁購入するか否か﹂の選択しか与えないことについてはさらにその根拠を示

すまでもない︒というのは︑これはまさにシュート事件の原告が船会社に対して言えることだからである︒すなわ

ち︑何人も法律によって船で外国に行くことを強制されることはないし︑また︑チケットに法廷地選択条項がある

のであれば利用しないと船会社に言って拒否することもできるからである︒要するに︑客船の所有者は船の乗船に

ついて適切であると考える法的条件をつける権利を有するとの法的命題は正しいと考えられるのである︒

一112一

四 結

口口

 わたくしの考えは上記のごとくであるが︑合衆国最高裁判所が将来の事件においてシュート判決の見解を採用す

る可能性は否定しえない︒残念ながら︑現在のアメリカの裁判所ではシュート判決のとった考え方が広まってい

る︒もしそうであれば︑法廷地選択条項は︑商事事件または当事者双方が知識のある者の事件においては有効であ

112 

当事者は契約を読む義務があり︑ また詐欺のないかぎり契約に拘束されると判示してきたからである︒

最後に︑チケットの文言が印刷されていたという事実は︑

シ ュ

1 ト判決の採った見解とは反対に︑まったく重要

46  (山梨学院大学〕

なことではない︒契約書が印刷されていることによって︑船会社の役員が文言を変更することを渋るとか︑担当者

が弁護士に相談することが多くなって︑交渉の費用が増加するおそれはある︒しかし︑これは︑チケットの文言の

変更ための代金が原告が喜んで支払う金額よりも高くなるかもしれないということを意味するにすぎない︒需要と

供給のカ 1 プが交わらないという事実は︑裁判所が介入する理由とはならないし︑人の約束(契約)を守る義務を

法学論集

免除する理由ともならない︒船会社が﹁購入するか否か﹂の選択しか与えないことについてはさらにその根拠を示

すまでもない︒というのは︑これはまさにシュ l ト事件の原告が船会社に対して言えることだからである︒すなわ

ち︑何人も法律によって船で外国に行くことを強制されることはないし︑また︑チケットに法廷地選択条項がある

のであれば利用しないと船会社に言って拒否することもできるからである︒要するに︑客船の所有者は船の乗船に

ついて適切であると考える法的条件をつける権利を有するとの法的命題は正しいと考えられるのである︒

三五口口

わたくしの考えは上記のごとくであるが︑合衆国最高裁判所が将来の事件においてシュ l ト判決の見解を採用す

る可能性は否定しえない︒残念ながら︑現在のアメリカの裁判所ではシュ i ト判決のとった考え方が広まってい

る︒もしそうであれば︑法廷地選択条項は︑商事事件または当事者双方が知識のある者の事件においては有効であ

(10)

るが︑他の事件においては有効であるか否かが明らかでないということになろう︒このような事態の結果の一つと

して︑客船の所有者はチケットの値段をどのようにつけるかについて確信がもてなくなり︑また︑法廷地選択条項

が無効であることを前提として︑その分のコストを消費者に転嫁するであろう︒これが成功した場合には︑乗客

は︑他の乗客が自らの都合で船会社に生じさせたコストを支払うことになろう︒このような形で契約法を二分し

て︑ある当事者にはあるルールを適用し︑他の当事者には別のルールを適用するのは︑道徳的に問題があるばかり

でなく︑非能率な不明確性のために会社の利益が損なわれ︑また︑予知できない価格の転嫁が生ずることになる︒

113 アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

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︒藤︶参照︒

訳者あとがき

 本論文の成立の経緯は一九九〇年の夏に遡る︒旧知のハロルド・ヴィエーター所長判事︵アイオワ州南部地区連

邦地方裁判所︶のお取り計らいによって︑同年七月にミズリー州カンザス・シティで開催された第八巡回区ジュデ

ィシャル・カンファランスに出席した折に︑多くの連邦地方裁判所判事の方々を紹介していただいた︒当時は︑ア

メリカ民事訴訟の骨組や個々の理論上の問題については︑翻訳書や数多くの論文等を通して︑すでにわが国に紹介 るが︑他の事件においては有効であるか否かが明らかでないということになろう︒このような事態の結果の一つと して︑客船の所有者はチケットの値段をどのようにつけるかについて確信がもてなくなり︑また︑法廷地選択条項 が無効であることを前提として︑ その分のコストを消費者に転嫁するであろう︒これが成功した場合には︑乗客

は︑他の乗客が自らの都合で船会社に生じさせたコストを支払うことになろう︒このような形で契約法を二分し

て︑ある当事者にはあるル 1 ルを適用し︑他の当事者には別のル i ルを適用するのは︑道徳的に問題があるばかり

でなく︑非能率な不明確性のために会社の利益が損なわれ︑また︑予知できない価格の転嫁が生ずることになる︒

アメリカ民事訴訟における法廷地選択条項の効力

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訳者あとがき

本論文の成立の経緯は一九九 O 年の夏に遡る︒旧知のハロルド・ヴィエ l タ 1 所長判事(アイオワ州南部地区連

邦地方裁判所) のお取り計らいによって︑同年七月にミズリ l 州カンザス・シティで開催された第八巡回区ジュデ

113 

ィシャル・カンブァランスに出席した折に︑多くの連邦地方裁判所判事の方々を紹介していただいた︒当時は︑

メリカ民事訴訟の骨組や個々の理論上の問題については︑翻訳書や数多くの論文等を通して︑すでにわが国に紹介

(11)

法学論集 46〔山梨学院大学〕114

されていたが︑アメリカ民事訴訟の実務が実際にどのように行われているかを具体的にわかりやすく解説したもの

は少なかった︒そこで︑アメリカ民訴の基本問題で︑かつ︑日本の読者にも興味深いと考えられた一〇の項目を椎

橋が選択し︑ヴィエーター判事を通して︑連邦地方裁判所判事の方々に執筆をお願いした︒本論文もその中の一つ

であり︑アーノルド判事からは︑翌年には早々と︑本論文の原稿を送っていただいた︒今日まで公刊が遅れてしま

ったのは︑ひとえに訳者の責任であり︑アーノルド判事にはお詫びの言葉もない︒その後︑本論文では︑控訴審の

判決を対象に論じていたシュート事件について︑合衆国最高裁判所による判決が出されている︒O︾肉呂<︾﹇

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訴審判決を破棄し︑法廷地選択条項の効力を認めた︒訳者としては︑この判決の紹介を中心に︑法廷地選択条項を

めぐる最近の展開を詳細な補注として付けるつもりであったが︑この問題については︑近く別稿を発表する予定が

あるため︑ここでは割愛することにした︒

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アメリカ民訴の基本問題で︑ かっ︑日本の読者にも興味深いと考えられた一 O の項目を椎 は少なかった︒そこで︑

46 (山梨学院大学〕

橋が選択し︑ヴィエ l タ l 判事を通して︑連邦地方裁判所判事の方々に執筆をお願いした︒本論文もその中の一つ

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ひとえに訳者の責任であり︑ ア l ノルド判事にはお詫びの言葉もない︒その後︑本論文では︑控訴審の

判決を対象に論じていたシュ 1 ト事件について︑合衆国最高裁判所による判決が出されている︒

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法学論集

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訴審判決を破棄し︑法廷地選択条項の効力を一認めた︒訳者としては︑この判決の紹介を中心に︑法廷地選択条項を

めぐる最近の展開を詳細な補注として付けるつもりであったが︑この問題については︑近く別稿を発表する予定が

あるため︑ここでは割愛することにした︒

参照

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