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細胆管細胞癌成分に富む混合型肝癌の1例

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函医誌 第36巻 第1号(2012) 39

Ⅰ.臨床経過および検査所見

【症 例】70歳代 男性

【主 訴】便秘

【現病歴】C型肝炎にて近医でインターフェロン治療を 行い,持続的ウイルス学的著効(SVR)となった。7年 後腹部超音波検査にて肝細胞癌を疑わせる腫瘤を認め,

精査加療目的に当院消化器科入院となった。

【既往歴】白内障,前立腺肥大症

【家族歴】特記事項なし

【入院時現症】

身長168cm/体重84.50kg,BP 140/ 85mmHg,P 72,BT 36.4℃。

頭部,胸部,腹部著変なし。背部に刺青あり。

【入院時検査所見】

WBC 6300/μL RBC 456万/μL Hb 14.1g/dL Ht 43.4% Plt 20.3万/μL PT 10.2sec APTT 31.6sec Fib 238mg/dL INR 0.94 ATⅢ 80% T-Bil 0.6mg/dL D-Bil 0.2mg/dL TP 7.9g/dL Alb 4.6g/dL GOT 43IU/L GPT 37IU/L LDH 283IU/L ALP 174IU/L γGTP 56IU/L Amy 41IU/L BUN 16mg/dL Cr 0.8mg/dL CK 96IU/L Na 141mEq/L K 4.1mEq/L Cl 105mEq/L Ca 9.2mg/dL NH3 40μg/dL AFP 5.5ng/ml PIVKAⅡ 168ng/ml CEA 3.6ng/mlCA 19-9 15ng/mlHBsAg(−)

HBsAb(+) HBcAb(+) HCVAb(+)

HCVRNA(−)

【入院後画像所見】

腹部超音波:肝S 6 に28.4×26.4mmの高エコー腫瘤 CT:S 6 に30mmの早期濃染を伴い造影後期に辺縁にわ ずかに造影効果を伴う低吸収域(図1)。

MRI:肝S 6 30mmの不整形結節,超常磁性酸化鉄造影 剤SPI 0後顕在化。

アンギオ:肝S 6 単結節周囲増殖型肝細胞癌の診断 アシアロシンチ:HH 15 0.546 LHL 15 0.927 正常

【診 断】

肝細胞癌

Stage:単発・2cm以上・脈管侵襲なしでcT 2N 0M 0。 肝障害度:腹水−,TBil 0.6,Alb 4.6,ICG 8.8,PT 80以上よりA

child-pugh分類:脳症なし,腹水なし,bil,ALB,PT

=5点でA

【経 過】

①第1病日:消化器内科入院

第16病日:肝亜区域切除術S 6 T 2N 0M 0,Stage 2。 病理組織では異型細胞の索状型の肝細胞癌と細胆管細 胞癌を認め,混合型肝癌の診断となる。

②2年3ヶ月後:肝S 5/ 6 に多結節状の腫瘍,その他に 肝S 3 に2cm大,さらに肝門部リンパ節(#12a,# 12p)の有意腫大を認めた。造影効果から混合型あるい は胆管癌成分の再発でT 3N 1M 0stageaと考えられ た。

③2年4ヶ月後:肝右葉切除,S 2, 3 部分切除,リンパ節 郭清を施行した。

④2年8ヶ月後:再発のため全身化学療法目的に入院。

肺転移,縦隔,腹腔内リンパ節腫大を認めた。LFP療 臨床病理検討会報告

細胆管細胞癌成分に富む混合型肝癌の1例

臨床担当:柴田 賢吾(研 修 医)・山本 義也(消化器内科)

病理担当:工藤 和洋(臨床病理科)・下山 則彦(臨床病理科)

A  case  of  combined  hepatocellular  carcinoma  with  abundant  cholangiolocellular  carcinoma  component.

Kengo SHIBA T A,Y oshiya Y AMAMOTO,Kazuhiro KUDOH,Norihiko SHIMO Y A M A Key Words:Hepatocellular carcinoma−cholangiolocellular carcinoma

図1 造影CT S 6 に30mm大の早期濃染像を認めた

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40 函医誌 第36巻 第1号(2012)

法(CDDP 10mg+5 FU 500mg/day 1-5, 8-12)を施 行。

⑤2年9ヶ月後:2回目のLFP療法目的に入院。

⑥2年10ヶ月後:3コース目を開始,24日左上肢の浮腫。

CT左鎖骨下から上腕静脈にかけて血栓形成を認め LFP療法は中止し,UFT内服の上退院。

⑦3年4ヶ月後:全身倦怠感,呼吸苦で入院。エコーに より5リットルの腹水を認め呼吸苦あり利尿剤で対 症。体重も順調に減少し呼吸苦は軽快。全身倦怠感著 明でありデカドロンを処方し軽快。全身状態は改善さ れ本人の希望で退院。

⑧3年5ヶ月後:全身倦怠感,呼吸苦,高カリウム血症,

低ナトリウム血症で救急搬送され入院。

【最終入院の経過】

第1病日:全身倦怠感,呼吸苦,高K血症,低ナトリウ ム血症,脱水症で救急外来受診

第5病日:胸水貯留あり胸腔ドレーン留置。末梢ルート とれず鼡径から中心静脈カテーテルを挿入するも血栓を 認め中止。

第6病日:右内頚から中心静脈カテーテル挿入。

第13病日:痛みのコントロールのためモルヒネを開始 第14病日:血圧低下を認めドパミン(カコージン),ノル アドレナリン開始

第18病日:死亡確認

Ⅱ.病理解剖により明らかにしたい点

・肝臓およびその他臓器の状態

・肝癌の組織型

・背景肝の性状

Ⅲ.病理解剖所見

【主要肉眼所見】

 身長 168cm,体重 60kg。上腹部に逆Y字型の手術瘢 痕あり。

 胸腹部切開で剖検開始。腹水は黄色混濁調で2800ml。 右上腹部には術後の線維化,癒着あり。胸水少量。

 左肺 660g,右肺 490g,うっ血水腫の所見。右肺門部

に2.5cm大の腫瘤あり肝癌の転移と考えられた。縦隔に

は多発リンパ節腫張を認め肝癌の転移と考えられた。

 肝臓 910g23.0×11. 5cmS 4 3.2×3.0cmで壊死 を伴う腫瘤が見られた(図2)。左葉外側に1.8×1.8cm の腫瘤が見られそのすぐ内側に2.3×1.8cm大の腫瘤を 認めた。他小さい腫瘤が2−3個見られた。いずれも肝 癌と考えられた。背景肝は肝硬変ほどの硬度がなく慢性 肝炎と考えられた。

 脾臓は95gで軽度の脾腫の所見。膵臓は萎縮し脂肪化 の目立つ所見。左腎臓 145g,右腎臓 240g。灰白色腫瘤 が多発しており肝癌の多発転移と考えられた。胃内容は 黒色で消化管出血を疑うが胃粘膜は軽度の発赤を認める 程度であった。腹腔動脈および上腸間膜静脈周囲,腹部 大動脈周囲リンパ節に病変が形成され癌の転移と考えら れた(図3)。

 以上肝癌の再発による癌死と考えられた。

【病理解剖学的最終診断】

主病変

混合型肝癌術後+慢性肝炎(HCV 感染の既往あり)F 2- 1/A 0

術後再発 S 4 3.2cm大,左葉 2.3cm,1.8cmほか複数 転移大動脈周囲(腹腔動脈,SMA 周囲),両腎臓,縦隔 リンパ節,両肺門部リンパ節。両肺(血管内腫瘍栓,顕 微鏡で確認可能),右尿管(顕微鏡で確認可能)。

・混合型肝癌:右葉 3. 2cm腫瘍,左葉 1. 8cm腫瘍,縦 隔リンパ節,両肺門部リンパ節,下大静脈近傍リンパ 節

・細胆管細胞癌:肝左葉 2.3cm腫瘍,左腎,大動脈前面

・肝細胞癌:肝臓 1.2cm腫瘍,右腎,右尿管,左副腎,

両肺血管内腫瘍栓 副病変

1.腹水 2800ml 2.上部消化管出血疑い 3.気管支肺炎

4.右腎門部尿管炎+左腎嚢胞 5.粥状動脈硬化症軽度

6.膵萎縮+脂肪化+急性膵炎軽度

【総 括】

 肝臓の3.2cmの腫瘍,左葉 1.8cmの腫瘍,縦隔リンパ 節,肺門部リンパ節,下大静脈近傍のリンパ節では,以 前の手術材料と同様核小体が明瞭で腫大した核,好酸性 の細胞質を持ち,肝細胞に類似した異型細胞が索状に増 生するとともに(図4),徐々に背丈が低く細長−紡錘形 の細胞に移行し(図5),管腔が虚脱した腺管を形成しな がら増生している(図6)。肝細胞癌と細胆管細胞癌の両 者からなる混合型の肝癌の所見である。肝左葉 2.3cm の腫瘍,左腎,大動脈前面はほぼ細胆管細胞癌のみで あった。切り出しで出現した1.2cmの肝腫瘍,右腎,右 尿管,左副腎,両肺の血管内腫瘍栓は肝細胞癌と考えら れた。背景肝ではうっ血とそれによる肝細胞壊死が見ら れた。線維化はF 2-1。肝炎として活動性のある所見は確 認できなかった。

 組織標本上消化管粘膜には著変は見られなかったが,

肉眼所見からは上部消化管出血が疑われた。肺では好中 球浸潤,フィブリン析出を示す気管支肺炎の所見が見ら

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函医誌 第36巻 第1号(2012) 41

図7 肺組織像 肺炎(HE対物10倍)

図6 肝腫瘍組織像 管腔が虚脱した細胆管様の腺管

(HE対物20倍)      

図5 肝腫瘍組織像 右側の肝細胞癌から左側の丈の低い 細胞に移行(HE対物20倍)        

図4 肝腫瘍組織像 肝細胞癌(HE対物20倍)

図2 肝臓割面肉眼像 3.2cmの充実性腫瘤(矢印) 図3 腹部大動脈リンパ節転移

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42 函医誌 第36巻 第1号(2012)

れ(図7),左肺下葉では器質化も見られた。右腎門部尿 管では癌の転移,びらん,浮腫,慢性炎症細胞浸潤が見 られた。膵臓ではわずかながら脂肪壊死が見られ急性膵 炎とした。

 以上,肝細胞癌と細胆管細胞癌の両者に分化する肝癌 が再発,多発転移している所見で癌死として問題ない所 見であった。

Ⅳ.臨床病理検討会における討議内容のまとめ

・背景肝はウイルス肝炎か。

 もともとC型肝炎だったが,ウイルス学的著効(SVR) 状態であった。

・本例は通常の肝細胞癌と比べて経過がよいのか。

 当初StageⅡだったので,再発した点は経過として

は悪い。再発してから1年少しもったが,現在の標準 程度の経過。肝予備能は良かったのでそれが大きかっ た。

・二年間の治療を行っていなかった空白の時期がある が,この間のフォローアップはどうなっていたのか。

 患者の社会的事情によりフォローアップできなかっ た。社会復帰したので診て下さいと言われて診たら再 発していた。

・最後の肺炎の治療は。

 かなり衰弱していたので何もしていない。

・最後の肝不全の程度は。

 肝機能自体は良かった

・肝細胞癌に分化していても胆管マーカーを発現するの か。

 もともと肝細胞と胆管細胞は隣同士なので,見た目 が肝細胞癌でも胆管マーカーを発現することもあって 当然のこと。胆管の性格が顕在化するときもあり,そ れだと病理医が混合型肝癌と診断することもあるし,

そうでない場合もある。

・初回の手術でリンパ節郭清をすべきだったか。

 術前診断が肝細胞癌で術式が亜区域切除だったらリ ンパ節の腫大の程度はまず見ない。術前診断が混合型 肝癌のだったらリンパ節を見たかもしれない。ただし リンパ節郭清するかどうか術中に決めるのは難しい。

郭清を行って治療成績が改善するかどうかもわからな い。

・混合型肝癌でも低用量FP療法を行うのか。

 肺転移があったので行った。ただしあまり良い治療

法はない。やるとしたらFPかテガフール・ウラシル

(UFT)が考えられた。ソラフェニブは当時発売に なったばかりで制約が多く,使用できなかった。

V.症例のまとめと考察

 混合型肝癌とは肝細胞癌と肝内胆管癌が混在したもの で,Wells1)の報告以来,Mixed tumor2)duplex type3) intermediate type Dなどの名称で報告されている。全国 原発性肝癌追跡調査報告では混合型肝癌の頻度は0.7% と報告されている4)。また,原発性肝癌のうち14. 25) 2, 4%6),2. 5%7)という報告がある。

 原発性肝癌取扱い規約第5版は混合型肝癌に関して,

肝細胞癌と粘液産生を伴う肝内胆管癌が混在したものを 指している8)。本例は肝細胞癌と粘液産生の乏しい細胆 管細胞癌の混在であり,規約でいう混合型肝癌の定義に は厳密には一致していない。しかし,他に適切な名称が ないため混合型肝癌と診断名を附した。本例のような腫 瘍について更なる症例の蓄積,適切な分類の確立が必要 と考えられた。

 混合型肝癌は希少であり,今後の治療方法を構築して 行く上で大変興味深い症例であった。

【参考文献】

1)Wells HG:Primary carcinoma of the liver.Am J Med Sci,1903;126:403-417.

2)L Esperance E:Atypical hemorrhagic malignant hepatoma.J Med Res,1915;32:225-249.

3)Koster H,Kasman LP:Primary duplex liver carcinoma.Am J Surg,1932;17:237-241.

4)日本肝癌研究会編:原発肝癌に対する追跡調査−10 報−.肝臓,1993;34:805-813.

5)A 1len RA,Lisa JL:Combined liver cell and bile duct carcinoma.Am J Patho 1,1949;25: 647-655.

6)Goodmann ZD,Ishak KG,Langloss JM et al: Combined hepatocellular‐cholangioma.Histological and imunohistological study.Cancer,1985;55: 124-135.

7)中原俊尚:混合型肝癌の臨床病理学的研究.肝臓,

1986;27:1431-1438.

8)日本肝癌研究会編:臨床・病理 原発性肝癌取扱い 規約(第5版).金原出版,東京,2008.

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