食生活と食中毒について
堀 籠 平 吾
(1980年11月15日受理)
1 は じ め に
近年家庭用冷凍冷蔵庫の普及発達,家庭用燃料のガス化による炊事用器具の発達と普及,さらに 生活様式の多様化と共に加工食品,冷凍食品の普及等により私共の食生活水準は向上し文化的生活 を営んでいるにもかかわらず,食中毒に関するいたましい情報をしばしば目にし,耳にしている。
食中毒の起こる条件が少なくなったと考えられるわけなのにどうしてそのようなことが起こるの であろうか。その一端を探るために統計(厚生省)にあらわれた数値をもとにして考え,検討を加 えてみた。
∬ 食中毒の原因別による分類
食中毒とは,食品中に有毒菌や有害物質が存在し,それを摂取するととによって起こる疾病を一 般に食中毒とよんでいる。
食中毒をその原因別によって,細菌性食中毒,化学性食中毒,自然毒中毒の三つに分けることが
できる。
1.細菌性食中毒
(D感染型,細菌で汚染された飲食物を摂取し,体内でその細菌が増殖しておこるもの。たとえ ば,サルモネラ,病原大腸菌,腸炎ビブリオ,ウェルシュ菌など。
(2)毒素型
i 細菌の生産する毒素によるもの。たとえば,ブドウ球菌,ボッリヌス菌など。
亘 細菌の腐敗産物によるもの。たとえば,アレルギー様食中毒。
2.化学性食中毒,有毒な化学物質によるもの。たとえば,メタノール,銅,鉛,水銀,ヒ素,農 薬など。
3.自然毒食中毒
(1)植物性自然毒,植物固有の毒によるもの。たとえば,毒キノコ,毒ゼリ,発芽したジャガイ モの基部など。
(2)動物性自然毒 動物固有の毒によるもの。たとえば,フグ,毒貝など。
皿 食中毒の発生状況
1.病因物質別の食中毒発生状況
98 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)
(1)過去5年間の食中毒発生状況は,表1のようである。
表1.病因物質別食中毒発生状況(厚生省)
1973年 1974年 1975年 1976年 1977年
件 数(% 1,201(100.0 1,202(100.0) 1,783(100.0) 831(100.0) 1,276(100.0)
総 数 患者数(%) 36β32(100.0) 25,986(100.0) 45,277(100.0) 20,933(100.0) 33,188(100.0)
死者数(%) 39(100.0) 48(100.0) 52(100.0) 26(100.0) 30(100.0)
件 数(%) 800(66.6) 795(66.1) 1,196(67」) 605(72.8) 958(75,1)
病因物質判
セしたもの 患者数(%) 23,545(63.9) 18ρ57(67.5) 34,009(75.1) 15,412(73.6) 23,469(70.7)
死者数(%) 35(89.7) 45(93.75) 41(78B) 22(84.6) 28(93.3)
件 数(%) 401(33.4) 407(33.9) 587(329) 226(27.2) 318(24,9)
病因物質不
セのもの 患者数(%) 13,237(36.1) 7,929(30.5) 11,268(24.9) 5,521(26.4) 9,719(29.3)
死者数(%) 4(10.3) 3(6.25) 11(21.2) 4(15.4) 2(6.7)
表工にみられるように,5年間の平均発生数は,事件数で約1,300件,患者数で約34,000人,
死者数で約40人であり,事件数,患者数でおおむそ横ばいの傾向にある。
(2)病因物質の判明率は,1961年(昭和32年)頃腸炎ビブリオの倹査が行なわれるようになって から向上し,最近5年間の病因物質判明,不明の食中毒発生状況は,表1のようである。これによ ると原因物質の判明率は,1973年件数で66.6%であったものが1977年には,75,1%となり次第に向 上していることがわかる。
(3)病因物質の判明したものについての病因物質別食中毒発生状況は,表2のようである。
表2にみられるように,
i 細菌性食中毒は,1973年には670件(83.8%)であったものが1977年には857件(89.5%)
と上昇し漸次増加の傾向にある。その原因として腸炎ビブリオ,ブドウ球菌,サルモネラ菌属,病 原大腸菌などがあげられる。
五 化学性食中毒は,著しく減少し1973年には5件(0.6%)で1977年には9件(0.4%)とな り漸次減少の働向にある。最近メタノールによる中毒は減少したが,農薬によるものが主体となっ ているようである。
2.原因食品による食中毒発生状況
(1)原因食品の判明率は,60〜70%程度である。
(2)原因食品としては,
i 魚介類,魚介類加工品で原因食品中最も多く40〜50%をしめている。
銭 穀類およびその加工品で10〜14%である。
血 野菜およびその加工品で6〜8%。
拉 複合調理食品で8%内外。
v 肉類および加工品,3〜5%。
vi菓子類 3〜4%。
vii卵類およびその加工品 2%内外。
viii乳類およびその加工品 o.3〜o.5%である。
ヱ977年の原因食品別による食中毒発生状況は,表3のようである。
表2.病因物質別の判明したものについての病因物質別食中毒発生状況(厚生省)
病 因 物 質 1973年 1974年 1975年 1976年 1977年
総 件 数 670(83B)
654(82.3) 1,059(88.5) 524(86.6)857(89.5)
患者数
23,380(86.6) 17,364(96.2) 33,054(97.2) 14,981(97,2)23,048(98②
数 死者数
7(20.0) 8(17.8) 10(24.4) 8(36.4) 5(16,9)苑 件 数 62(78) 66(8.3) 73(6.1)
81(13.4)114(119)
業
患者数
2,405(10.2)2ρ70(1L5) 3,349(88 1,607(1α4) 2,180(9.3)
ラ
死者数 1(2.9) 3(6。7) 1(2.4) 5(22.7) 0(
腸炎
件 数
356(44.5) 368(46.3) 667(55.8) 195(32.2) 9,626(41.0)細
与患者数 8ρ21(34D)
7,903(43.8) 15,958(46.9) 4,900(31.8) 9,626(41.0)リ
死者数 1(29) 4(8.9) 4(9.8) 0 2(7.1)
病原
件 数 20(2.5) 16(2.0) 22(1.8) 26(4.3) 23(2.4)
大腸
患者数
玉,750(7.4) 1,040(5.8) 3,888(11.4)2β68(1&6)
1,196(5.1)菌 死者数 0 0 0 0 0
ブ
件 数
212(26.5) 184(23.1) 275(23.0) 207(34.2) 225(23.6)菌 ぢ
患者数
7,299(31.0) 4,858(26.9) 7,058(20.8) 3.396(22.0) , 8,147(34.7)球菌
死者数 0 0 5(12.2) 1(4.5) 1(3.6)
否
件 数 3(O.4) 1(0.1) 1(0.0) 2(α3) 5(0.5)
斐 患者数 22(0.1) 12(0」) 1(0.0) 5(α0) 6(0.0)
ス 死者数 5(i43) 0 0 1(4.5) 1(3.6)
そ
件 数 17(2.1) 19(2。4) 21(1.8) 13(2.1) 28(2.9)
窪
患者数 883(3.8) 1,481(8.2) 2,800(8.2) 2205(14.3) 1β90(8.1)
露
死者数 0 1(22) 0 1(4。5) r(3,6)
総 件 数 5(0.6) 15(1.9) 7(0.6) 4(0.7) 9(0.4)
患者数
2,721(11,6)276(L5) 386(n) 95(0.4)
化 数
死者数 1(29) 0 0 0 1(3.6)
学
メ件 数 0 1(0.1) 0 0 1(0.1)
的 患者数 0 5(0.0) 0 0 1(0.0)
物
ノレ死者数 0 0 0 0 1(3.6)
質 そ化 件 数 5(0.6) 14(L8) 7(0.6) 4(0.7) 8(0.7)
篇 患者数
2,721(11.6)271(L5) 386(L1)
54(00,4)94(0.4)
の質 死者数 1(29) 0 0 0 0
総 件 数
125(15。6) 126(15.8) 130(10.9) 77(12.7)92(9.6)
患者数 444(1.9) 417(2.3) 69(0.2) 377(2.4) 326(1.4)
自
数 死者数
27(77.1) 37(82.2) 31(75.6) 14(53.6)22(8.6)
植物
件 数 73(9.D 49(6.2) 79(6.6) 36(6.0) 45(4.7)
然 薫
患者数 344(1.5) 224(1.2) 495 (1.5) 193(1.3) 203(09)
毒 死者数 0 1(2.2) 2(4.9) 1(4.5) 0
毒 物 件 数 52(6.5) 77(9.7) 51(4.3) 響 41(6.8) 47(4.9)
性自
患者数 .100(0.4) 193(1.1) 74(0.2) 184(1.0) 123(0.5)
然 死者数 27(77.1) 36(80.0) 29(70.7) 13(59.1) 22(78.6)
(注) ( )内は,病因判明物質を100としたときの数値(彩)である。
100 茨城大学教育学部教育研究所紀要13号特集(1980)
表3.原因食品別食中毒発生状況 1977年(昭和52年) (厚生省)
件 数(%) 患者数(%) 死者数(%)
総 数 1,276(100.0) 33,188GOO.0) 30(100.0)
原因食品不明 846(66.3) 23,916(72.1) 27 (90つ)
原因食品不明 430(33.7) 9,272(27.9) 3 (10.0)
原因食品判明総数 846(100.0) 23,916(ユ00.0) 27 (100.0)
総 数 433(51.2) 7,964(33.3) 23 (85.2)
貝 類 ユ78(21」) 3,434(14.4)
一■魚介類 ふ ぐ 41( 4B) 71( 0.3) 22(81.5)
そ の 他 214(25.3) 4,459(18.6) 1( 3.7)
総 数 30( 3.6) 678( 2.8) 1( 3.7)
魚介類 チ工品 魚肉ねり製品 5( 0.6) 42( 0.2) 一 そ の 他 25( 3,0) 636( 2,6) 1( 3.7)
肉類およびその加工品 26( 3.1) 354( 1.5) 一 卵類およびその加工品 17( 2.0) 660( 2.8)
一一乳類およびその加工品 『 一 一
穀類およびその加工品 93(1ユ.0) 2,365( 9.9) 一一
総 数 57(6.7、 548( 2.3)
一一野菜類
ィよび 豆 類 3(0.4) 33( 0.1)
一一そ の
チ工品 き のこ類 37(4.3) 157( 0.7) }
そ の 他 17(2.0) 358( 1.5)
旧一一菓 子 類 28(3.3) 1240( 5.2)
■一複合調理食品 67(7.9) 3,174(13.3)
一
そ の 他 95(11.2) 6,933(28.9) 3(11.1)
3.
食中毒発生と季節との関係
(1)細菌性食中毒は,急性胃腸炎型で原因菌の増殖温度である37°C付近すなわち夏期に多く,
冬期に殆ど発生しない。一般に5月頃から増加し7〜8月頃が最高で10月に入ると減少する傾向と なる。然し近年冬期にも食中毒が増加の傾向にあることは,冷暖房め普及等により季節にとらわれ ないで旅行や集会がもたれるようになったことと関係があるものと思われる。
(2)化学性食中毒は,誤用等により有害物質が食品に混入されるものであるから季節とあまり,
関係がないようである。
(3)自然毒による食中毒は,フグ毒やキノコに関係が深くフグ中毒は12〜3月頃のフグ毒が最 高に生産されるとき,またきのこによる食中毒は9〜10月のきのこの採取時期に関係している。
1977年における月別病因物質別食中毒発生状況は,表4のようである。
表4.月別病因物質別食中毒発生状況(件数)1977年(昭和52年) (厚生省)
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 総 数 総 数 47 15 29 42 36 88 316 231 301 88 50 43 1276
総 数 13 6 10 19 22 57 237
ユ75235 44 28 11 857 サルモネラ菌属 1 1 4 6 7 17 28 23 18 4 4 1 114 細 ブドウ球菌 6 2 2 10 10 22 55 50 32 18 15 4 226 ボツリヌス菌 2
『−『 一 一 『 一 『 1 皿 一 2 5
腸炎ビブリオ 1 一 1 1 13 148 97 172 20 7 1 461 菌 病原大腸菌 2 一 2 3 3 1 3 2 5 1 1 3 23
そ の 他 2 2 2 『 一 4 3 3 7 1 1
一 28
化学的物質 一
一一 一一1 1 1
ユ1 1 2 2
『 9
自