Ⅰ はじめに 1 研究の背景
1)児童生徒の実態の重度・重複化の現状 平成19年,特殊教育から特別支援教育に移行して から約10年が経過しようとしている.特別支援学校 においては,在籍する児童生徒の重度・重複化,多 様化が進み,より個々の教育的ニーズに応じた教育 内容の提供や指導方法の充実が求められている.
本研究で取り上げる障害の重い児童生徒とは,い
くつかの障害を併せもつ重複障害の児童生徒のうち
「重度・重複障害児」にカテゴライズされるものと する.重度・重複障害児の概念については,昭和50 年 3 月に特殊教育の改善に関する調査研究会によっ て報告された「重度・重複障害児に対する学校教育 の在り方」に示されている.しかしここでは,学校 教育法施行令22条の 3 に規定する障害を 2 以上併 せ有する者のほかに,発達的側面から見て,「精神 発達の遅れが著しく,ほとんど言語をもたず,自他 の意思の交換及び環境への適応が著しく困難であっ て,日常生活において常時介護を必要とする程度」
の者,行動的側面からみて,「破壊的行動,多動傾 向,異常な習慣,自傷行為,自閉性,その他問題行 動が著しく常時介護を必要とする程度」の者を加え た,より学校の実態に即したものとしている.さら に最近では重度・重複障害児の中でも,特に常時医 療的な介護が必要な児童生徒を「超重度・重複障害 2017年11月24日受理
† Status and Challenges in Education for Severely and Multiply-Disabled Children in Special Needs Schools:
The Future of Home-Visit Teaching for Children Needing Medical Care
* Yoko TAKADAYA, Faculty of Education and Human Studies, Akita University
** Shoko TAKAHASHI, Affiliated School for Special Needs Education, Faculty of Education and Human Studies, Akita University
特別支援学校における重度・重複障害児をめぐる教育の現状と課題
†-医療的ケア対象児における訪問教育の今後のかかわり-
高田屋陽子* 秋田大学教育文化学部 高橋 省子**
秋田大学教育文化学部附属特別支援学校 近年,特別支援学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化,多様化がより複雑な要
素をもつ課題となっている.これまで特別支援学校においては障害の重い児童生徒の教育 的ニーズに対応した「訪問教育」を実施し成果をあげてきた.しかし,医療的ケア等の必 要な児童生徒が増加する一方で,学校看護師等の配置により訪問教育の対象者は全国的に 減少傾向である.こうした状況の中,これまで培ってきた訪問教育の指導のノウハウを通 学生の医療的ケア対象児にも活用し,学校全体で共有していくことが求められている.そ こで,訪問教育を担当する教師へのインタビュー調査を実施し,重度・重複障害の児童生 徒における実態把握から指導に結びつける過程,情報共有の実際について検討した.その 結果,訪問担当の教師の意識の深化による児童生徒の捉え方の変化や,他者評価の取り入 れにより指導のノウハウが形成されることが明らかになり,これらを通学生である医療的 ケア対象児にも活用し,校内で共有することで,特別支援学校の重度・重複障害の児童生 徒の指導の充実につながることが示唆された.
キーワード:訪問教育,重度・重複障害児,医療的ケア
児」あるいは「超重症児」という用語を用いて表現 する等,よりその状況が複雑化している傾向にある ことを考慮する必要がある.
この重複障害の児童生徒数の割合について,平成 28年度の文部科学省特別支援教育課「特別支援教育 資料」によると,平成27年度の全国の重複障害児は 全在籍人数に対して27.8%であり,中でも小学部に 至っては40.7%と高い割合を示している.一方,高 等部は18.3%となっており,特別支援学校において 障害の比較的重い児童生徒が小学部から入学し,学 校全体としてはより多様な実態の児童生徒の教育的 ニーズに対応していくことが求められている現状が 見えてくる(表 1).
2)訪問教育の現状
これまで重度・重複障害の児童生徒のうち,通学 が困難な者に対しては養護学校義務制開始と同時に
「訪問教育」という形態で教育を提供してきた経緯 がある.この訪問教育は,身体上の理由のため,通 学による教育を受けることが困難な児童生徒に対 し,教師が家庭や病院,児童福祉施設等を訪問して 指導を行う教育形態であり,教育の機会均等を図る ことを目的として実施されてきた.この教育形態に より,すべての児童生徒が教育を受けることが可能 となった.訪問教育においては,担当教師は障害の 状態が重く,表出の少ない児童生徒に対して保護者 等と連携を密にし,児童生徒の実態を細やかに把握 し,継続的で段階的な指導を積み重ねることにより 成果を上げてきた.
しかし,この訪問教育対象の児童生徒数が平成28 年の文部科学省特別支援教育課「特別支援教育資料」
によると大きく減少していることが分かる.平成11 年度には全国で3,319名の児童生徒が訪問教育を受
けていたが,平成27年度には2,985名となっている
(図 1).
3)医療的ケア対象児の増加
近年,小児医療の発展により多くの低出生体重児 や疾患を有する新生児が救命されることになった
(河野・三科2008).このこと自体は大変喜ばしいこ とであるが,急性期の治療は終了したのちに,重度 の障害により養育だけでなく,吸引,経管栄養等の 医療的ケアが必要な幼児児童生徒が増加していると いう現状がある.平成28年度の文部科学省「特別支 援学校等の医療的ケアに関する調査結果」によると,
平成18年度は5,901名であった医療的ケア対象幼児 児童生徒が年々増加し,平成28年度には8,116名と なっている.
これまでであればこうした児童生徒は訪問教育の 対象であったが,保護者の負担軽減や教育の充実を 目的に学校看護師の配置により通学という教育形態 を選択することも増えてきており,特別支援学校に おいて医療的ケアを実施する看護師が平成18年度 は707名であったが,平成28年度は約2.3倍にあたる 1,665名が配置されている(表 3).つまり,これま では訪問教育で対応していた重度・重複障害の児童 生徒数自体が減少したわけではなく,教育の場が学 校に移行したものであり,従って通学生においても 訪問教育で必要とされてきた児童生徒の細やかな実 態把握や個々の教育的ニーズに沿った指導が求めら 表 1 平成27年度 重複障害児の現状
(全国 国・公・私立計 1,114校)
文部科学省初等中等教育局
特別支援教育課「特別支援教育資料」(平成28年 6 月)
幼稚部 小学部 中学部 高等部 合 計 全在籍人数 1,499 38,845 31,088 66,462 137,894 重複障害学級在籍者
数(人)
177 15,840 10,158 12,195 38,370 重複障害学級在籍率
(%)
11.8 40.7 32.6 18.3 27.8
図 1 訪問教育対象児童生徒数の推移
(全国 特別支援学校小・中・高等部)
文部科学省初等中等教育局
特別支援教育課「特別支援教育資料」(平成28年 6 月)
れるようになってきたと言える.
文部科学省もこうしたニーズに対応して,平成10 年には医療的ケアに関する「調査及びモデル事業」
を実施し,平成16年には40都道府県に看護師を配置 する等,体制整備の面では整いつつある.しかし,
教育の充実ということに関しては,実態としてこれ までの特別支援学校の通学生における指導内容や方 法を中心としながら,より障害の状態が重い医療的 ケア対象児が「集団に参加すること自体が目的」と なっている状況も少なからず見受けられ,本人主体 の教育の充実に関しては今後も検討を進めていく必 要があると思われる.
4)A県における訪問教育の取組
A県の訪問教育を受けている児童生徒数も,こう した流れを受けて減少しているが,A県の対象児童 生徒数が大きく減少した平成13年度はA県におい て学校看護師による医療的ケアが開始した時期であ る.平成28年度現在,医療的ケアを受けている児童 生徒が全県で73名,そのうち訪問教育の児童生徒が 38名,通学生が35名である.児童生徒の状況を考え ると,いずれの学校にあっても学校全体でこれまで の訪問教育で培った細やかな実態把握や教育的対応 を生かして支援を進めていくことが求められてい る.一方,各校の訪問教育においてはこれまで丁寧 な指導が積み重ねられてきているが,その担当者は 限られており,実際の指導の状況や指導のノウハウ が校内において十分共有されているとは必ずしも言
えない状況にある.これらを重度・重複障害児の教 育における転換期の課題として受け止め,ここで改 めて,訪問教育の担当者が重度・重複障害の児童生 徒における実態把握から指導に結びつける過程につ いて明らかにし,指導のノウハウについて校内で共 有できるようにすることは非常に重要なことだと言 える.
5)目的
本研究では,A県の特別支援学校において訪問教 育を担当している教師に,これまで訪問教育で培っ た児童生徒の実態の捉え方や指導の実際,校内での 具体的な情報共有の在り方について聞き取り調査を 行うことで重度・重複障害児の具体的な指導方法に ついて検討し,今後の校内の指導及び体制の充実に 資することを目的とした.
Ⅱ 対象と方法 1 対象
調査対象は,平成29年A県の訪問教育を担当し ている教師36名の中から,経験年数と学校の体制が 異なる 4 名を著者が抽出した.
2 調査方法
2017年10月20日から11月10日にかけ,各教師が勤 務する特別支援学校においてインタビュー調査を実 施した.
インタビューはインタビューガイド(表 2)を作 成し実施した.インタビューの内容はすべてマイク ロレコーダーに録音し,トランスクリプトを作成し た.その後,トランスクリプトを意味の上での単位 に区切って切片化し,話の要旨を集約した.これを カテゴリーごとに内容を整理し,分析を行った.な お,経験年数が児童生徒の実態把握に影響を及ぼす 大きな要因と予測されるため,特別支援学校におけ る勤務経験年数10年未満と10年以上の 2 グループに 分けて比較検討しながら分析を行った.
Ⅲ 結果と考察
1 対象者の属性の区分(表 3)
4 名の教師のうち,2 名は特別支援学校の勤務年 数が10年未満,他 2 名は10年以上である.また,対 象者B教諭は教職経験としては長いが,特別支援学 校の勤務は 1 年目である.また,訪問先別には病院 図 2 医療的ケア実施幼児児童生徒数・看護師数の推移
文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課
小・中学校における医療的ケアに関する調査(平成28年 5 月)
訪問と在宅訪問がある.抽出の共通項として,担当 している児童生徒 4 名すべてが医療的ケア対象児で あることとし,さらに内 3 名は人工呼吸器を常時装 着する等,より配慮が必要な児童生徒である.
2 児童生徒の実態の捉え方(表 4)
児童生徒の実態の捉えについては,予測通り経験 年数が大きく影響している様子が伺えた.4 名の児 童生徒の中ではB教諭の担当している生徒のみ人工 呼吸器の装着がないため,比較的体の動きがあるの だが,表情の読み取りが難しく,実態把握において 非常に困惑している様子が見える(b1).しかし,
校内の他の教師が生徒にかかわっている様子を参考 にすることで,生徒のわずかな反応を読み取ろうと する視点が生まれてきている(b2).同じく経験年 数が比較的少ないC教諭であるが,同じ生徒を担当 して 2 年目となるため「(担当している)生徒自身 が変わったというよりは,自分自身の読み取りが細 かく,より深くなったのではないか(c1).」と述べ ている.また,児童の状態としては最も変化が見え にくいE教諭だが,心拍数の数値を手掛かりにしな がら,聴覚,嗅覚,視覚と五感に働きかけること で,児童のわずかな変化を読み取ろうとする様子が 見られた(e1).児童生徒とのコミュニケーション においては,4 名の教師とも他の教師の働きかけや ビデオ撮影した映像を分析することで自分の指導を 振り返ったり,児童生徒のわずかな変化に気が付い たりと客観的な視点をもつことにつながったことが 分かった.こうしたことから,担当教師が同行訪問 やビデオ撮影を介したケース検討会等,複数の教師 で連携して指導にあたることで,教師の指導の不安 を軽減し,指導の基盤となる実態把握につながるこ とが分かった.
3 児童生徒の指導方針(表 5)
4 名の教師とも児童生徒の表出を手掛かりに,優 位な感覚の発達を促そうとする試みが行われてい た.自立活動の目標である「調和的な発達」につい ては,「『調和的』とは全体のバランスだと思うが,
障害のこともあるし優位な感覚のところから発達を 促していければ(b3)」「表出した際に,相手に伝わっ たり,伝わったことが本人に実感として感じられた りということを目指していきたい(d3)」等,本人 の表出を細やかに分析し,優位な面を強化すること 表 2 インタビューガイド
質問項目 1)担当教師の属性
①年齢
②特別支援学校における勤務年数
③重度・重複障害の児童生徒の指導年数
④訪問教育の担当年数(病院訪問・在宅訪問)
2)児童生徒の実態の捉え方
①児童生徒の障害の状態をどのように捉えてきたか
②児童生徒のコミュニケーションの状況とその変化 3)児童生徒の指導方針
①児童生徒における自立活動の「調和的発達」の捉 え方
②児童生徒の目指す姿と指導の方向性 4)指導内容・方法
①これまで指導内容の設定、指導方法においての配 慮点
②指導における課題や悩み 5)連携の状況
①家庭との連携
②校内での連携
③外部専門家との連携
④通学生の医療的ケア対象児とのつながり
表 3 対象者の属性の区分 区分
(性別)
特別支援 学校 勤務年数
重度・重複障 害児担当年数
担当児童生徒 の状況 訪問形態 B教諭
(男)
1 年目
(小学校 22年目)
1 年目 高等部 医療的ケア有
病院訪問
C教諭
(女)
7 年目 2 年目 中学部 医療的ケア有 人工呼吸器有
在宅訪問
D教諭
(女)
14年目 4 年目 小学部 医療的ケア有 人工呼吸器有
在宅・病 院訪問 E教諭
(女)
30年目 7 年目 小学部 医療的ケア有 人工呼吸器有
在宅訪問
表 4 児童生徒の実態の捉え方
質問項目 B・C(経験年数 1 ~ 7 年目) D・E(経験年数14~30年目)
①児童生徒の障害の 状態について
・未だに実態把握については試行錯誤してい る.見えているのかいないのか.視覚について は追視もないので迷うところである.反応がと ても乏しいので.「何を考えているのだろう.」
と掴めなくて.ひとつだけ,「これはいやだ.」
ということは表情に出るので分かるけれど「こ れが好き」ということがまだ分からず迷ってい るところだ(b1).
・引継ぎの資料だけで実態がつかめなかった.
2 年目になって自分自身の生徒を見る目が肥え てきたのか「このくらいの状態だと少し休憩を 入れた方がいい.」等,少しずつ分かるように なってきた.本児自身が大きく変わったという よりは,自分自身の読み取りが細かく,深くなっ てきたのではないか(c1).
・姿勢はほとんど寝たきりの状態.時折,車い すのリクライニングで多少の角度をつけること はある.体の動きの制限はかなりあるが,瞬き をしたり,口をぱくぱくしたりするなど,表情 が豊かなので分かりやすい(d1).
・目は乾燥しないように塞がれている状況なの で表情が見えにくい.聞こえの方はいくらか聞 こえているのではないか.話しかけたり,歌を 歌ったりすると心拍数の数値が上がることがあ る.目のふちが赤くなうことも.香りも感じて いるのではないか.香りを近づけている間は心 拍数が動かない.意識を集中すると心拍数に変 化があるのではないかと捉えている(e1).
② 児 童 生 徒 と の コ ミュニケーションの 状況
・表情にあまり出ない生徒だが,他の教師が手 を握って話しかけると,少し反応があることに 気が付いた.話しかけると,少し指に力を入れ ることもある.何かを伝えているのではない か・・と.本児の思いを想像するのが一番難し い(b2).
・同行訪問の際に,他の教師が来ると「違った 先生が来た.」ということを感じるのかいつも と違う様子で相手の話を聴いていたり,視力も ぼんやりと見えているので相手に顔を向けたり しているように感じることがある.そうした本 児の姿をみていると「人とのつながりって大事 だな.」と思う(c2).
・ビデオで改めてみると,話しかけているとき に表情が出ていることに気付いた.話している 方に体を傾けたりしていることに気が付いた.
訪問担当の教師間でビデオを見たときに,「話 しかけているときに表情が動いているよね.」
と気が付くことがあった(d2).
・聴覚,嗅覚,視覚・・まだこちらが気付いて いない反応があるかもしれない.楽しみですね.
表出が少ない分,数値も参考にしている.ビデ オで様子を撮った時,表情ばかり見ていたが体 の別の部分が動いていた.数値を手掛かりにし ながらも本児の表出を見れる自分の目を養って いきたい(e2).
で「人とつながる」という感覚を育てていきたいと 願っていることが分かった.また,「児童生徒の目 指す姿」として,「一番は人に愛される,可愛がら れるような人になってほしい(b4).」「本人にとっ ての『生活の豊かさとは』人とかかわることが好き なので,より相手から話しかけられたり,可愛がら れたりという機会につながるとよい(d3).」「今ま で暗闇の中にいた部分も,少しずつ世界が明るく なっていくような(e3).」というように,児童生徒 の部分的な発達ではなく,全体的な発達や,変化を 目指していることが分かった.そして,その発達は 人とかかわりにおいて相互関係の中で充実させてい く方向を目指していた.
4 指導内容・方法(表 6)
「様々な素材を使ってみる.同じ素材でも固め,
軟らかめと状態を変えてそれぞれどのような反応が あるか(中略)やってみると反応が違うなと.も しかしたら,(手より)足の感覚の方が優れている のかもしれない(b5).」「繰り返し取り組んでいく ことの良さを感じた.少しずつ変えながら.(中略)
今年も題材(絵本)の選択にはとても迷って.やる からには将来の生活に生きていくものがいいかなと
(c5).」に表れているように,どの教師も本人のわ ずかな反応を注意深く見守りながら反応をフィード バックさせ,自分の指導を常に見直していることが 分かった.また,「人とのかかわりが少ない子ども 表 5 児童生徒の指導方針
質問項目 B・C(経験年数 1 ~ 7 年目) D・E(経験年数14~30年目)
③自立活動の「調和 的発達」をどのよう に捉えているか.
・「調和的」とは全体のバランスだと思うが,
障害のこともあるし優位な感覚のところから発 達を促していければと考えている.一番触覚が 優位な子だととらえているので触覚に働きかけ ることで,少しでも発達・・伸ばすことができ ればと考えている(b3).
・もしかしたら本児には高い願いになってしま うのかもしれないが,私自身としては「この先 生が来たから勉強だ!」とか見通しがもてるこ とにつながれば嬉しい.そのため,絵本の読み 聞かせの際の活動も順番を決めて,拍子木が 鳴ったらお話が始まるというように本児自身が
「やりたい」というような主体性を持てればい いなと思っている.繰り返しの指導が必要だと 思うが,(本児自身が)期待感をもって取り組 めるといいと思う(c3).
・人見知りも少なく,人から見られているとは りきるような様子が見られる生徒なので,表出 した際に相手に伝わったり,伝わったことが本 人に実感として感じられたりということを目指 していきたい.また,伝わるような表し方になっ ていけばよいと思っている.(中略)そうした 面を少しずつ慣れて.選択できることでこれか ら生活を送る上で豊かさにつながると思ってい る(d3).
・聴覚,触覚,嗅覚等の感覚を研ぎ澄ませて「伝 わる」というような経験を積んでほしいと思っ ている.どんな子にも言えることだが,愛され て,認められて・・ということが幸せにつなが ると思うので「表出」という部分も大事にして いきたい.今のところは自分が見つけたわずか な表出となるが,それらを確実にしながら伝え ていきたい(e3).
④児童生徒の目指す 姿について
・一番は人に愛される,可愛がられるような人 になってほしい.そう考えたときに人から話し かけられた場合,反応がある,分かることが大 事だと思うので,反応があるような子どもにし たいなと.現在高等部 1 年だが,卒業した後は この病院でずっと生活していくことになる.医 師とか看護師とか病院のスタッフに本児の特 徴,こんな風にすれば喜んでいる,喜ぶんです よとか伝えられるものがあるとよい.いやな ことについてはわかっていると思うのですが
(b4).
・本人にとっての「生活の豊かさとは」人とか かわることが好きなので,より相手から話しか けられたり,かわいがられたりという機会につ ながっていけるとよい(d4).
・今まで暗闇の中にいた部分も,少しずつ世界 が明るくなっていくような,寝たきりで刺激が ほとんどない状態から少しずつ変化をしていっ てほしい(e4).
なのでかかわりを大事にしていきたい.(中略)指 導の際は心地良いものから始める.例えば香りであ れば甘いものから酸っぱいもの.触覚であればふわ ふわしたものから(e5).」にあるように,児童生徒 を外側から注意深く見守りながらも,感覚的には児 童生徒の側に立ちながら自分の指導を振り返る様子 が伺えた.
この常に児童生徒の反応におけるフィードバック を意識しながら指導を改善していくことや,児童生
徒の側に立って考えることは自らの意思表示に困難 がある重度・重複障害の児童生徒にとって非常に重 要なことだと言える.
そして,これらを適切に進めるためには自己評価 だけではなく他者評価が必要となるが,指導におけ る悩みを問われた際,「実態把握,指導方法,教師 の自己流の意味づけをしているが,『これでいいか な.』という迷いは常にある.(e6).」と最も経験年 数の長いE教諭が述べているように,経験年数に関 表 6 指導内容・方法
質問項目 B・C(経験年数 1 ~ 7 年目) D・E(経験年数14~30年目)
⑤指導内容・方法に ついて配慮してきた こと
・様々な素材を使ってみる.同じ素材でも固 め,柔らかめと状態を変えてそれぞれどのよう な反応があるか.スライムでは,やわらかめの 方が探るような指の動きがみられた.硬さの異 なったスライムを準備してどのような反応を示 すのか見たことがある.指を動かして感触を確 かめるような動きがあった.アロマの泡は,手 よりも足の方に反応があった.(中略)やって みると少しずつ反応がちがうなと.もしかした ら,足の感覚の方が優れているのかもしれない
(b5).
・繰り返し取り組んでいくことの良さを感じ た.少しずつ変えながら.ラベンダーの香りを 経験する活動の際も,花を近づけるとぱっと目 を覚ますことがあった.今年も題材(絵本)の 選択にはとても迷って.やるからには将来の生 活に生きていくものがいいのかなと.今も入浴 サービスを利用しているので,「お風呂は楽し いな.」と思いながら入浴できればいいと思い お風呂の絵本を取り上げた(c5).
・自分がしゃべり過ぎてしまう傾向があるので 気を付けている.間をあけるのが自分にとって は難しい.待つことが大事とはわかっているが,
反応がないとこちらの問いかけが忘れられてい るのではないかと不安になることもある.また,
教師の都合のいい解釈だけにならないよう気を つけたいと思っている(d5).
・人とのかかわりが少ない子どもなので,かか わりを大事にしていきたい.関わっている教師 に気付いたり,何か表出したりということを大 事に.心地よいものから始める.例えば,香り であれば甘いものからすっぱいもの.触覚であ ればふわふわしたものから.楽しみながらでき るように.初めて体験するものは,事前に自分 が必ず試してから行うことにしている.香りを どうしたら強く出せる,あるいはやさしく出せ るか,温度は冷たすぎないか・・細やかに試し てから行うようにしている(e5).
⑥指導における課題 や悩み
・反応がでるような働きかけを自分がするべき だと思う.それが自分自身まだ「これだ!」と いうものがなく,探っている状況なのでそれが 自分の悩みでしょうか.7 か月たって,最初は 本児の実態の読み取りに悩んでいたが,今は自 分の指導が適切かどうか悩む方に変わってきた かもしれない(b6).
・現在週 1 回,コンスタントに指導ができてい るが,体調によっては授業ができないこともあ り,指導の積み重ねが難しいところがある.指 導方法や教材研究について本当にこれでよいの かということは自分自身が学んでいかなければ いけないと思っている(c6).
・時間の使い方が課題となっている.昨年度の 流れを継続しつつも活動を精選していくことに 試行錯誤している(d6).
・実態把握,教師の自己流の意味づけをしてい るが「これでいいなかな」という迷いは常にあ る.他の教師が同行訪問で行った際に,手の動 きについて気が付いて教えてくれた.保護者と の連携.今後も工夫しながら本児の様子を伝え ていきながらかかわりを深めていきたい(e6).
係なく共通の指導の悩みとして存在していることが 分かった.
5 連携の状況(表 7)
訪問教育において「連携」は非常に重要なキーワー ドとなる.前述した教師の悩みにおいても,この必 要とされる連携の具体的なあり方を明確にし,校内 体制として組み入れていくことでより安全・安心な
状態で指導を進めることができると思われる.病院 訪問においては「看護師にも様子を伝える機会が日 常的にあるが,医師には伝わりにくい面も.研修会 でアドバイスを得たように,保護者との面談を通し て伝えていきたい(b7).」と具体的な連携の方法 について方策が検討されていた.一方,これまで保 護者との連携は比較的取りやすいとされていた在宅 訪問だが,父母の勤務等で日常的に情報交換が難し
表 7 連携の状況
質問項目 B・C(経験年数 1 ~ 7 年目) D・E(経験年数14~30年目)
⑦連携について
・家庭
・校内
・外部専門家 等
・看護師にも様子を伝える機会が日常的にある が,医師には伝わりにくい面も.前回の研修会 でアドバイスを得たように,保護者との面談を 通して伝えていきたい.(校内では)研修のた めのビデオ撮りはあるが,それ以外は合同学習 の際にお互いの指導を見ている状況.直接アド バイスを受けることができるので助かる.ス イッチ教材に関する指導の蓄積等,こちらから 尋ねていけば教えてくれる.リハビリの参観を する機会があった.車いすに乗せたときの姿勢 について,具体的に自分の方からも聞いてみよ うと思った(b7).
・指導の後に祖母と話をし,年に 2 回保護者と の面談の機会がある.校内では学年の単位での 連携は少ないが,通信での学習内容の紹介や,
修学旅行でのお守りやお土産のやりとり等の繋 がりがある.リハビリの担当から体の動かし方 を教わる機会があった.こちらから学習面での 頑張っていることを伝えられたことも大きい成 果だった.本児の頑張りを伝えるととても驚か れた(c7).
・面談は年に 3 回実施している.現在のとこ ろ,通学生でというご家族の要望はなく,訪問 教育の形を望んでいる.訪問教育の担当者,学 年部の教師との繋がりがある.自分自身学年所 属であり,他の通学生の授業の補充に入ったり することもある.病院訪問,在宅訪問両方の担 当をしている.2 つを比較すると在宅訪問はご 家庭を訪問してなのでより気を遣う面も.保護 者の方が見てくださっていることや,部屋を教 材で汚さないようにという点も気をつけている
(d7).
・体の動き等,もう少しできそうな部分もある のだが情報が少ない状態.少しずつ関係性を深 めて(保護者が)話しやすい聴き方も工夫して いけばよいのかもしれない.「元気ですか?」
と聞くと,「元気です.」で終わってしまうので.
今後は指導に関連させてもう少し具体的に聞い てみたい(e7).
⑧通学生の医ケア児 担当者との繋がり
・通学生の医ケア児は一人いるが直接のかかわ りはあまりない.全校職員への医ケアの児童の 様子を紹介することはあるが,指導方法等につ いてはあまり触れる機会はない(c8).
・通学生の医ケアの児童生徒とお互いに授業内 容を参観することは現在のところない.自分と してもそうした機会があればいいと思う.訪問 担当の指導は基本的に 1 対 1 のため他の教師の 授業を見る機会が少なく不安があることも多 い.「これでいいのかな」という不安は常に抱 えながら進めている.まだ迷いながらなので指 導のノウハウにまでたどり着いていないかもし れない(d8).
・管理職との会で様子の報告はあるが職員全体 にという機会はない.自立活動の研修会の時に 話題になることはある.医ケアの委員会には所 属していないので,通学生の医ケアの児童とは あまりつながりはない状況(e8).
いケースも増えてきている.「体の動き等,もう少 しできそうな部分もあるのだが情報が少ない状態.
少しずつ関係性を深めて(保護者が)話しやすい聴 き方も工夫していきたい(e7).」というように,情 報共有の仕方を工夫しながら進めていく必要があげ られた.また,今回のインタビュー調査では,訪問 教育の担当者と通学生である医療的ケア対象児の担 当者との情報共有はあまりなされていない現状が見 えてきた(c8)(d8)(e8).通学生の医ケア対象児 の所属する委員会と,訪問教育担当者が所属する委 員会がそれぞれ設置されてはいるが,両者において 指導のノウハウについて共有する機会が必ずしも設 けられていないことが分かった.
この指導のノウハウについて,中堅どころのD教 諭においても「訪問担当の指導は基本的に 1 対 1 の ため他の教師の授業を見る機会が少なく不安があ ることも多い.(中略)まだ迷いながらなので指導 のノウハウにまでたどり着いていないかもしれない
(d8).」と述べている.しかし,最も経験年数の長 いE教諭においては,今回のインタビューにあたり 自分の指導のノウハウについてパワーポイントで分 かりやすくまとめ,示してくれたということがあっ た.自分の行っている指導がノウハウとして一般性 をもつためには,他者からの評価を受けて自分の中 で再構築される必要があると言える.
Ⅳ まとめ
1 児童生徒の変容から学ぶ
今回のインタビュー調査により,障害の状態が重 い児童生徒の指導にあたっては,指導の基盤となる 児童生徒の実態把握をどのように行い,そのわずか な表出をどのように捉えていくのかが非常に重要に なり,教師の経験によって洞察が徐々に深まってい くことが分かった.この実態の捉え方について,ど の教師も最初はこれまで自分が接してきた児童生徒 と比較するところからスタートしているが,徐々に 目の前の児童生徒と向き合い,優位な感覚を手掛か りに試行錯誤しながら把握していく様子が見られ た.このように児童生徒を見る視点を一度自分の中 で他児との比較から切り離し,児童生徒本人の発達 という視点に切り替えることで,これまで見えな かった児童生徒のわずかな変化が見えるようになっ ていくものと思われる.この視点は通学生として登 校している医療的ケア対象児の指導においても非常
に重要なことだと言える.通学することで,他児と のかかわりや周囲の人とのかかわりの広がりがみら れることの効果が指摘されているが,やはり教師の 基本的な指導の視点として,個の発達という視点を 基盤にしていくことは障害の重い児童生徒にとって 必要不可欠なことであると言える.この点が保障さ れて,他児とのかかわりの広がりを目指すことで,
より充実した指導へとつながると思われる.
また,指導においては 4 名の教師が児童生徒の変 容から自分の指導へのフィードバックを行い,自己 評価を繰り返しながら進めていることが分かった.
しかし,この自己評価には常に不安がつきまとい,
それを解決するのは同行訪問やビデオ視聴での他の 教師からの意見や,同じ訪問教育を担当している教 師の研修会でのアドバイスであった.こうした他者 評価を得ることで,自己評価だけでは見えなかった,
児童生徒の全体性をとらえることができ,結果的に はどの教師も目指したいと考えている児童生徒の調 和的発達につなげていけることが分かった.
2 連携の重要性
今回のインタビュー調査において,今日的課題と して,訪問教育において従来得られていた保護者か らの情報提供が必ずしも十分でないことが見えてき た.この部分を補完するために,それぞれの教師が 外部専門家も含めて広く情報を得ようと試みている ことが伺えた.また,校内の連携体制において,訪 問教育担当者間や,学年部とのつながりを様々工夫 しながら進めている様子が見られる一方,現状にお いては,訪問教育担当の教師と,通学生の医療的ケ ア対象児とのつながりはあまり見られないことが分 かった.
今回,インタビューで得られた重度・重複障害の 児童生徒への実態把握の方法や指導のノウハウは,
通学生の医療的ケア対象児においても非常に大事な 内容が多く含まれていた.これらのことを,校内で 共有することで,校内において今後も増加するであ ろうと考えられる医療的ケア等が必要な重度・重複 障害のある児童生徒の指導を充実させていくことが できると思われる.このことは,人数が減少してき ている訪問教育の担当者にとっても,他者評価を得 る非常に有効な機会となるであろう.そして,今回 の調査から,教師の指導における経験がノウハウと して蓄積されていくためには,自己の経験や知見の
「相対化」や「客観化」が必要なこと,それを可能 にするためには教師個人の努力だけではなく,学校 のシステムとして保証していくことが重要であるこ とが見えてきた.
また,校内連携に加えて,県教委によってこれま でも行われていた全県の訪問教育担当者の研修会を 今後もさらに充実させ,訪問教育担当者同士のネッ トワークを強固にしていくことで,より客観性を もった指導の充実へ結びついていくと考えられる.
謝辞
本研究に際し,快く調査に協力していただいた学 校及び 4 名の教師の皆様にはインタビューを通して 多くのご示唆をいただきました.また,本稿作成に あたり,皆様からご了解をいただきました.ここに 深く感謝申し上げます.
文 献
秋田県教育庁特別支援教育課(2016):訪問教育の 記録-またきてね先生-.
菊地紀彦,浜田 匠,八島 猛(2011):超重度障 害児に対する学校教育終了後から地域生活移行の ための教育的支援の検討,三重大学教育学部研究 紀要,62,135-143.
河野由美,三科 潤(2008):超低出生体重児の長 期予後,婦人科治療,96(4),410-414.
文部科学省(2009):特別支援学校小学部・中学部 学習指導要領.
文部科学省(2009):特別支援学校高等部学習指導 要領.
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2016): 教育支援資料(平成27年度).
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課(2016): 平成28年度特別支援学校等の医療的ケアに関する 調査結果について.
野崎義和,川住隆一(2112):「超重症児」該当児童 生徒の指導において特別支援学校教師が抱える困 難さとその背景,東北大学大学院教育学研究科年 俸,60,2,225-240.
笹原未来,川住隆一(2009):医療的ケア場面にお ける重度・重複障害者の状況把握の促進課程,特 殊教育学研究,47,231-243.
全国心身障害福祉財団(2015):新重複障害教育ハ ンドブック.
Summary
In recent years, children with severe and mul- tiple disabilities have posed a challenge for spe- cial needs schools, with a variety of complicating factors. Home-visit teaching has been conducted to meet the educational needs of these students, with demonstrated results. However, while the number of the students requiring medical care is increasing, the placement of professionals, such as school nurses, has resulted in a nationwide reduction in the number of subjects for home- visit teaching. Under these circumstances, previously developed expertise in home-visit teach- ing needs to be used for those children who commute to school and need medical care, and this instruction would be required to be shared with the entire school. In this study, an interview-style survey of teachers in charge of home-visit teaching was conducted. The objectives were to clarify how information about the students’ conditions and instructions for their care was obtained, and to reveal the status of information-sharing. Expertise in instruction has been shown to be built by the change in each teacher’s view of their students from their deepened knowledge from the teachers in charge of home-visit education, as well as by their adoption of others’ evaluations. Using this information for those children who commute to school and may need medical care, and sharing this information within the school, is suggested for enhancing instruction for severely and multiply- disabled students in special needs schools.
Key Words
: home-visit teaching, severely and multiply disabled children, medical care(Received November 24, 2017)