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都市域における降雨流出特性と内水氾濫解析

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Academic year: 2021

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(1)

修士論文要旨(2008 年度)

都市域における降雨流出特性と内水氾濫解析

Runoff Characteristics and Countermeasures against Flood Disaster in Urban Area

土木工学専攻  21 号  此島  健男子 KONOSHIMA Takehiko

1.はじめに 

都市域の水災害の多くは 内水による被害 下水管・雨水管

を考慮した雨水 排水計画が必要

都市流域における流量の現地観測

都市・山地流域にも普遍的に適用可能な 流出計算,管路流計算および氾濫計算を

組み合わせた統合型モデルの構築

都市域の水循環プロセスの解明 効率的な雨水排水対策の検討

下水管・雨水管を流れる

流量データが希少 土地利用状況 を考慮した雨水 排水計画が必要

図-1  研究の位置づけ  近年,都市域における水災害が頻発している.この原

因は,集中豪雨の増加,宅地や道路等の造成による流域 の市街地の拡大による不浸透域の増大などが挙げられる.

都市域に降った雨水は図-2 に示すよう地表面や下水管 を流下するとともに,貯留施設,ポンプ排水および外水 門などの影響を受け非常に複雑な流出経路をたどる.よ って,都市域の水循環機構の解明および降雨流出・氾濫 量の定量的評価には,地表面・下水道管路網・河川網お よび水工施設を統合的に扱う詳細な雨水追跡手法が必要 不可欠である.また,年々土地利用形態が変化し,複雑 な流出機構を持つ都市域において,どの程度の空間分解 能で水文パラメータを反映させ降雨流出計算を行うべき かに対する明確な答えは存在しないのが現状である.さ らに,都市域の水文データ(雨量,流量データなど)に 関して,一級河川におけるデータは充実している反面,

都市中小河川や二級河川におけるデータは充実しておら ず,都市流域における流量データ,特に下水道を流れる 流量データが少ないのが現状である. 

本研究は,地表面流出計算,管路流計算および氾濫計 算を統合した流出モデルの構築を行うとともに,地表面 流出計算において考慮すべき計算条件(例えば,サブ流 域の代表空間スケールなど)の定量的な評価を行ったも のである.これにより,都市流域における水循環機構の 解明を行うとともに,提案するモデルを用いることで,

効率的な雨水排水計画対策の定量評価に関するフレーム ワークを構築することを目的としている.

 

2.都市域における現地流量観測と流域特性

都市流域は,1 級河川と比較して流量データが非常に 不足している.都市流域における降雨流出特性の解明お よび構築した流出モデルの検証を目的とし複数の都市流 域において実際に流量の現地観測を行った.以下に一例 として,いたち川流域における現地観測の概要と結果を 示す.

神奈川県横浜市栄区に位置する二級境川水系の二次支 川であるいたち川流域を対象とした.いたち川流域の特 徴は流域の上流部に山林地域が混在し,下流部は都市化 した流域である.流域面積は約 13.9km

2

であり,本川の 流路延長は約 9.0kmである.いたち川流域の土地利用形 態の割合は市街地が 67%,裸地が 9%,水田が 1%,山林

が 23%である.いたち川流域の末端から上流 1.0kmに位

置する水神橋地点と 2.2kmに位置する城山橋地点の2 箇所でプライス式流速計を用いて流速(断面内 5 点)と水 深を計測し,流量を算出した.一例として 2001 年台風

15 号のときの水深及び流量,流速の現地観測結果を 図-3 に示す.現地観測結果より,ピーク降雨時間とピーク流 量の時間の差である洪水到達時間は約 20 分と非常に短 いことがわかる.以上により,水文データの不足した都 市流域における流量データを現地観測より得るとともに,

降雨に対する流出の応答が早い都市域においては 1 時間 毎の降雨データではなく, 10 分毎の密なデータを使用す る必要があることを示した.

下水道

吐口 貯留施設

河川 ポンプ場

外水門 下水道

吐口 貯留施設

河川 ポンプ場

外水門

図-2  都市域における水循環プロセスの概念図 

3.地表面流出計算,管路流計算および氾濫計算を組み 込んだ統合型都市流出モデルの構築 

 

呉・山田

1)

らは,土壌・地形特性と降雨強度の関係か

ら表面流,鉛直浸透流,飽和・不飽和側方流に関する多

層流れを表現可能な,単一斜面における降雨流出計算手

法を提案している.この理論は地形・土壌特性と降雨強

度の関係から流出量を算出するため山地・都市域に問わ

ず普遍的な適用が可能である.この地表面流出計算モデ

(2)

修士論文要旨(2008 年度)

ルから算出される地表面流出量を集水域からマンホール への流入量とし,管路及び河道部における不定流計算を 行う.また,管路からの溢水に伴う氾濫水に対しては 2 次元不定流計算を行うことで,地表面流出計算,管路流 計算および氾濫計算を統合的に組み込んだモデルを構築 した.これにより,複雑な土地利用・被覆状態および下 水管路網を有する都市域の内水氾濫現象を細密に再現す

ることが可能になった.

0.0

1.0 2.0 3.0

10 5 0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

時刻

水深[m] :城山橋(上流側)

:水神橋(下流側)

0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 18:00

10:00〜11:30欠測

10分間降雨強度[mm/10min]

流量[m3 /s]流速[m/s]

総降雨量=89.5[mm]

2001年9月10日〜9月11日(台風15号)

ピーク降雨強度=

7.0[mm/10min]

9/10 9/11

流出係数:0.34 洪水到達時間:

20分

図-3  いたち川水神橋地点(流域末端から 1.0km)  および城山地点(流域末端から 2.2km)に  4.地表面流出計算におけるサブ流域および水文データ

の時空間分布の取り扱い   

複雑な土地利用・被覆状態を有する都市域における地 表面流出計算において,サブ流域の取り扱い(例えば,

サブ流域代表面積の違いなど)が流出計算結果に与える 影響を評価するため,以下の項目に着目して計算を行っ た. 

(1)サブ流域代表空間スケールの違い 

(2)サブ流域の分割方法の違い 

(3)降雨の時空間分布の違い 

本論文では,紙面の制限上(1)のみ詳細な計算結果を 記述し, (2) , (3)に関しては得られた知見のみを記述 する. 

細かく分割した場合 粗く分割した場合

図-4  流域の分割スケールの違い   

(1)流域のサブ流域代表スケールの違いが  洪水流出特性に与える影響 

流域のサブ流域代表スケールは 図-4 に示すよう流域 を粗く分割した場合と細かく分割した場合で異なってく る.この分割スケールの違いが降雨流出計算にどの程度 影響を与えるのかを評価するため,いたち川流域の雨水 管路網下流端において流量ハイドログラフの実測値と計 算値の比較を行った.流域の分割方法は,流域をマンホ ール数と同数で分割した場合の分割数を真値と定義した.

そして,粗く分割するために真値からマンホール数を半 分ずつ減らすというプロセスを繰り返した.いたち流域 における計算結果を図-5 に示す.結果より,流域を粗く 分割した場合と細かく分割した場合の洪水流出特性の違 いが分かり,粗く分割すればするほど計算値と実測値が 合わないことが分かる.また,その他の流域の結果を図 -6 に示す.ここで,サブ流域面積とは流域面積/分割数 である.以上により,降雨に対する流出の応答の早い都 市域では,サブ流域面積をおよそ 0.1km

2

以内と密に分割 しなければ良好な地表面流出計算結果が得られないこと を明らかにした. 

:Calculated(1 division)

:Calculated(3 division)

:Calculated(7 division)

:Calculated(15 division)

:Calculated(31 division)

:Calculated(62 division)

:Calculated(127 division)

:observed

0 25 50

54 32 10

:Calculated(1 division)

:Calculated(3 division)

:Calculated(7 division)

:Calculated(15 division)

:Calculated(31 division)

:Calculated(62 division)

:Calculated(127 division)

:observed

0 25 50

54 32 10

流量(m3/s) 降雨強度(mm/10min)

9/10 0:00 9/10 18:00 9/11 18:00

時刻

:観測値

:1分割(計算値)

:3分割(計算値)

:7分割(計算値)

:15分割(計算値)

:31分割(計算値)

:62分割(計算値)

:127分割(計算値)

図-5  分割数の違いが洪水流出特性に与える影響   

(2)サブ流域の分割方法の違いが  洪水流出特性に与える影響 

サブ流域の分割方法とは, マンホール毎の集水域の分 割方法であり,物理的に地形・道路を考慮して分割する 方法と幾何学的(ティーセン分割)に分割する方法が一 般的に考えられている.これら分割方法の違いが洪水流 出特性に与える影響を評価した.その結果,サブ流域代 表面積が十分に小さい条件では,2 つの分割方法に基づ

く計算流量ハイドログラフの差異は,小さいことを示し た.つまり,都市域の様な小流域では,簡易的である幾 何学的分割方法でも,分割空間スケールが十分に小さけ れば良好な地表面流出計算結果を得られることを示した.  

 

(3)

修士論文要旨(2008 年度)

(3)降雨の時空間分布の違いが洪水流出特性に 

10

–2

10

–1

10

0

10

1

0 10 20 30 40 50 60 70

:Itati

:A

:B

:C

:D

10

–2

10

–1

10

0

10

1

0 10 20 30 40 50 60 70

:Itati

:A

:B

:C

:D

:いたち川流域

:浦安市A排水区

:浦安市B排水区

:三鷹市C排水区

:三鷹市D排水区

ピ ー ク流 量差 率 [%]

サブ流域面積[km

2

図-6  サブ流域面積とピーク流量差率の関係  与える影響 

総降雨量一定のもとで,降雨波形を前方集中型,中央 集中型, 後方集中型の 3 パターンの降雨流出計算を行い,

氾濫現象に与える影響を評価した.その結果,総降雨量 が増加するに比例して後方集中型の降雨パターンが前方 集中型,中央集中型よりも氾濫面積が 2 倍,3 倍と大き くなることを示した.つまり,都市流域においては降雨 波形に応じて大きく洪水氾濫範囲が異なるため,降雨デ ータは時間的に密な 10 分間雨量データを用い流出計算 を行う必要があることを示した.また,計算に与える降 雨を 6 箇所の雨量観測所の雨量を用いた場合と流域平均 雨量を与えた場合で氾濫箇所がどの程度異なるか比較し た.その結果,浸水箇所が一致したのは全体のおよそ 5 割であった.これにより,降雨の空間分布の違いが氾濫 現象に与える影響が大きいことから,都市域の様な複雑 な土地利用形態を有する流域においては空間的に密な降 雨データを用いる必要があることを示した. 

 

0 25 50

15 10 5 0

10分間降雨強[mm/10min]

流量[m3/s]

9/10 0:00 9/10 12:00 9/11 0:00

時刻 総降雨量:88.5[mm]

ピーク降雨強度:7.0[mm/10min]

:計算値(不浸透域+浸透域)

:実測値(柏尾川合流地点から 上流1.0km地点) 200199日〜911日(台風15号)

:計算値(不浸透域)

:計算値(浸透域–裸地)

:計算値(浸透域–山林)

:計算値

(管路及び河道追跡も含む)

図-7  いたち川水神橋(流域末端から 1.0km) 地点における 地表面流出量ハイドログラフ 

(4)本論文で提案する降雨流出計算手法の実流域への 適用 

上記(1)〜(3)で示した結果を考慮して,提案する流出 モデルをいたち川流域に適用し,計算値と実測値の流量 ハイドログラフの比較検討を行った.計算結果を 図-7 に 示す.不浸透域では降雨強度より飽和透水係数が小さい

ため Horton 型の表面流が発生し,逆に浸透域では降雨強

度より飽和透水係数の値が上回り地中に浸透し中間流と して流出している.また,管路及び河道部の追跡を行っ たことにより,計算値は実測値とほぼ一致した.以上に より,雨水管路網及び河道追跡を行う詳細な流出計算を 用い,時空間的に密な降雨データ及び土地利用・被覆情 報を与えることにより,再現性の高い流出計算を行える ことを示した.また,上流域に存在する里山のような浸 透域が降雨流出に与える影響は大きく,浸透域を考慮し た流出計算が必要不可欠であることを示した.

 

5.効率的な雨水排水計画の提案   

本研究で提案するモデルを用いて,都市域の水害を軽 減するために効果的な雨水排水対策を評価することを行 う.対象流域の千葉県浦安市は地盤沈下の影響で,管路 が逆勾配になる箇所や急縮する箇所が存在し,正常な排 水処理をできない現状にある.また,一部地域は地盤高 さが海面水位より低いため自由流下で雨水を河川に排出 することが出来ないためポンプによって河川に排水して いる.このような背景のもと,近年でも内水氾濫被害が 多く報告されており,雨水排水対策が急務である.よっ て,管渠布設替え,ポンプ場の新設および地下貯留施設 の新設整備とそれらの組み合わせの整備の氾濫シミュレ ーションを行い,どの対策が最も雨水排水対策に効率的 であるか比較検討を行った.計算に想定した降雨は時間

降雨強度 60mm/hr の降雨を基準とした.また,将来,地

球温暖化に伴い降雨規模が増大したときに設定した雨水

排水対策が有効であるかどうかを評価するために設定し た降雨外力を 1.1 倍,1.2 倍,1.3 倍,1.4 倍,1.5 倍と増 加した場合においても氾濫シミュレーションを行った.

これら降雨は浦安市において降雨確率年 8 年, 12 年, 20 年,35 年,50 年,75 年に相当する.この入力降雨を用 いるとともに,本研究で提案する降雨流出計算手法を適 用することで, 各種対策前後の氾濫浸水面積を算出した.

各降雨規模における各種整備対策の被害額の結果を図 -8 に,被害額と整備前の被害額から整備後の被害額を差 し引いた被害軽減額と降雨の確率年の結果を図-9 に示 す.ここで,どの対策が最も有効であるかを評価するた め,各種整備対策の費用対効果を算出した.B/C の算出 方法は以下の通りである.

B={(Σ(整備前の被害額−整備後の被害額)×降雨の 生起確率)×評価対象期間(年) }

C=整備費用+維持管理費

つまり B は,Σ(整備前の被害額−整備後の被害額)×

降雨の生起確率)の算出により年平均被害軽減期待額を

算出している.これに評価対象期間(整備施設の耐用年

(4)

修士論文要旨(2008 年度)

被害軽減額 (億 円)

(整備前の被害額

-

整備後の被害額)

降雨規模(確率年)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0

5 10

 :管渠布設替え  :ポンプ場の新設  :貯留施設の新設

:管渠+ポンプ整備

:管渠+ポンプ +貯留施設整備

:管渠+貯留施設整備

:ポンプ+貯留施設

図-9  降雨規模別の被害軽減額  0

5 10 15

●:現況の管路網  :管渠布設替え  :ポンプ場の新設  :貯留施設の新設

:管渠+ポンプ整備

:管渠+ポンプ +貯留施設整備

:管渠+貯留施設整備

:ポンプ+貯留施設

r 1.1r 1.2r 1.3r 1.4r 1.5r

被害 額 [ 億 円 ]

降雨強度

(基準降雨:r)

図-8  降雨規模別の被害額 

数)を乗じることで対象期間の被害軽減期待額が算出さ れる.尚,被害額の算出方法は国土交通省河川局出典の

「治水経済調査マニュアル」を参考にした.これによ り算出された各種整備対策の費用対効果を図-10 に示 す.この結果より,最も効率的に排水対策をするため には貯留施設が有効であることがはじめて明らかにな った.つまり雨水排水対策を計画する際には,本論文 で提案する内水氾濫計算手法を用い浸水面積を算定す るとともに,各種対策の費用対効果に基づく評価を行 うことで,効率的な整備対策方針が得られることを示 した.

費用対効果(評価対象期間50年)

B/C

整備項目

0 5 10 15 20 25 30

管渠 ポンプ 管渠

ポンプ+ 貯留

ポンプ貯留+

管渠貯留+ 管渠貯留+ ポンプ+

図-10  各種整備対策の費用対効果  以上,本研究は純然たる物理過程に基づく都市流域

における降雨流出・氾濫計算手法を提案するとともに,

都市域における氾濫被害額,費用対効果の詳細な算定 手法を提案したものである.これにより,流出モデル の構築から適用で注意すべき観点,内水氾濫による被 害額の算定から各種対策の費用対効果の算定までの詳 細なフレームワークを提案したものである. 

 

6.まとめ 

1)サブ流域代表面積,土地利用・被覆状態の取り扱い,

降雨の時空間分布の取り扱いが都市域における降雨流出 計算結果に与える影響を示した.これにより,複雑な都 市域の流出計算においては時空間的に密な流出計算が必 要不可欠であることを示した.

2)土壌・地形特性と降雨強度の関係に基づく地表面流 出計算手法が都市域・山地地域において普遍的に適用可 能であることを示した.これにより,里山などの浸透域 が都市域における洪水逓減に大きく寄与していることを 示すとともに,これら浸透域を考慮した流出計算が必要 不可欠であることを示した.

3)雨水排水対策の各種被害軽減期待額と整備費用の関

係を算出することにより,都市域の水害を軽減するため の整備対策を効率的に行うための枠組みを構築するとと もに,実際に千葉県浦安市において最も効率的な排水対 策は貯留施設の建設であることを明らかにした.

参考文献 

1) 呉修一,山田正,吉川秀夫:表面流の発生機構を考慮した斜面 多層降雨流出計算手法に関する研究,土木学会水工学論文集,

Vol.49,pp.169-174,2005.

2) 土屋修一,土肥学,海野修司,山田正:管路網水理解析による 都市洪水流出特性に関する研究,土木学会水工学論文集,

Vol.46,pp.259-264,2002.

3) 国土交通省河川局:治水経済調査マニュアル,

2005

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