日本食研の価値創造のメカニズム解明
1180479 別宮未紗 高知工科大学 マネジメント学部
1.はじめに
本論文は、ブレンド調味料分野でトップを維持し、圧倒 的なシェアを獲得している日本食研ホールディングス(以下 日本食研と略す)の価値創造のメカニズム解明をするものあ る。本稿では、「日本食研の価値創造はどのように競争優位 に波及しているのか」をリサーチクエスチョンとして設定し、
日本食研の事例に対して定性的な分析を行うことで同社の 価値創造のメカニズムを明らかにする。
以下では、まず 2 節で日本食研の会社概要について述べる。
次いで、3 節では、日本食研における価値創造の全体像につ いて示す。そして、4 節から 6 節にかけて、社内制度、製品 開発、提案営業のそれぞれにおける価値創造の事例を紹介す る。最後に、本研究の成果をまとめる。
2.日本食研の会社概要【1】
日本食研は、愛媛県今治市と千葉県印旛郡に本社を持つ企 業で、代表取締役会長は大沢一彦氏、代表取締役社長は大沢 哲也氏である。1971 年に創業、1973 年に設立され、資本金 3 億 8,800 万円で本社を含み 12 カ所の事業所を持つ。事業 内容はブレンド調味料及び加工調理食品の販売、研究開発や 持株会社としてのグループ戦略立案及び各種事業会社の統 括管理を行う。日本食研グループ 15 社を合計すると、工場 を含む 304 カ所(国内 272 カ所、海外 32 カ所)の事業所が あり工場は 8 カ所(国内 5 カ所、海外 3 カ所)持つ。(2017 年 4 月 1 日現在)資本金は 40 億 7,100 万円、営業利益は 78 億 4,000 万円、経営利益は 86 億 3300 万円(2017 年 9 月期)、 従業員 4,295 人(男 3,337 名、女 958 名、2017 年 10 月 1 日 現在)である。
当初は、ミートミックス等ハムソーセージに必要な調味料 及び器械器具を発売していた。その翌年には、今治市へ移転 して本社工場を新設し、やがて「たれ」の出荷量日本一の企 業となった。「焼肉のたれ彩(いろどり)」や「からあげの素 No.1」が業務用加工食品ヒット賞を受賞している。
同社は、ウィーンのベルベデーレ宮殿をモチーフにした宮
殿工場やユニークな社内制度が大きな特徴となっている。
2006 年 10 月には、KO宮殿工場や宮殿食文化博物館が完成 し、愛媛県の観光スポットにもなっている。2013 年には千 葉県に千葉粉体工場が完成した。年間売上のうち 9 割が業務 用商品で、その中でもブレンド調味料の分野トップを維持し 続け、約 40%を占めている。
日本食研には次に示す 2 大ビジョンが存在している(図 1 参照)。
図 1 日本食研 2 大ビジョン【1】
日本食研は、そうしたビジョンにしたがって新しい価値を 提供することで競争優位を築こうとしている。
3.日本食研に競争優位をもたらす価値創造の全体像 日本食研には大きく分けて 3 つの分野で価値創造を行っ ている。1 つ目はユニークな社内制度での価値創造である。
日本食研では、「社員が主役になる経営」が重視されており、
社員に自律的に働いてもらうための工夫が多くなされてい る。それは、離職率が高くなってきたことがきっかけとなっ
て検討されるようになった。当時は、急成長を続けていたが、
事業の拡大にともない業績や企業を主役として考えてしま い、社員をコストや手段だと考えていた。そこで、「エンジ ョイベースボール」をヒントに、社員が主役となって自律的 に働くようにすることで、離職率を下げることに成功した【2】。
そうしたユニーク制度に、「社内結婚神社」「叶える人事制 度」「社内インターンシップ」「社内SNS」などがあり、同 社の経営は、ユニーク制度のデパートと呼ばれている【2】。こ の中の社内結婚神社は、恋愛や結婚で社員が仲良くなる事を 目的としてつくられたものであり、気になる同僚がいれば社 内にある神社にお参りし、縁結箱に願いを書いていれる【2】。 そうして夫婦となれば、お互いが動機付けされることになる。
同社のユニーク制度のデパートは、社員の離職率を抑えるだ けでなく、社員がいきいきと働くように価値創造をしている。
2つ目は製品開発における価値創造である。同社には「サ クッと揚がる天ぷら粉」「業務用白味噌シート」「シェフ NO.
1ホワイトソース」「しょうが焼きのタレ・フレッシュ」「焼 肉のタレ B フレッシュ・焼肉のタレ C フレッシュ」「からあ げの素 No.1」などといった商品が存在する。これらはどれ も業務用として販売されている。この中の総菜店向きの業務 用洋風あんかけソース「シェフ NO.1ホワイトソース」は、
エビや魚などのフライにかけるソースとして総菜店で使用 されるものである【3】。この商品の特徴は、フライの衣にソ ースが浸透しにくいというものである。そのため、販売時に ソースが流れ落ちたり、衣に浸み込んだりすることがなく、
商品価値を長時間保つことが可能となっている【3】。同社の 製品では、こうした特徴が顧客にとって便益をもたらす価値 となっている。同社は製品開発において常に価値創造を心掛 けている。
3つ目は提案営業(ソリューション営業ともいう)におけ る価値創造である。これは、同社の顧客であるレストランや スーパーなどに社員が直接出向き、顧客の課題や不満や要望 を聞くとともに、商品のより良い方法を顧客と一緒に考える というものである【2】。提案営業の際に、顧客に深く関与す ることでより多くの情報を得ることができる。同社では、そ うして集めた情報を共有するとともに活用することで、たく さんの社員が顧客に対して新しい価値を生み出している。し たがって、同社は、提案営業において、同社の製品の新しい 利用価値を創造して、他社との差別化を図っている。
以上で述べた3つの価値創造には、共通する流れがある。
それは、コト発想→モノ発想→情報収集→利用方法の考案→
実際のプロセスである。
このプロセスで一番大切にされているのは、「コト発想」
である。同社は、様々なプロセスにおいて、積極的に「コト 発想」を持ち込むことで、商品やサービスを性能や品質とい った「モノ」の観点だけでなく、新たな価値を創造しようと する。また、コト発想とモノ発想に続いて、顧客や従業員か ら情報を収集し、社内で共有するとともに、それらをコト発 想とモノ発想に還元して完成度を高める。その後、あらため て商品やサービスの利用方法を考え、それを実行に移す(図 2 参照)。
以下に、同社のユニーク制度、製品開発、提案営業のそれ ぞれにおいて価値創造の事例を紹介する。
コトの発想
モノの発想
情報収集
利用方法を考える
実際に実行
蓄積された 情報の利用 蓄積された
情報の利用
図 2 日本食研の価値創造の流れ
4.ユニーク制度による価値創造【2】
ここでは、ユニーク制度の一つの例として「叶える人事制 度」を取り上げる。この場合のコト発想は、社員が主役とし て自律的に働いてほしいというものである。また、モノ発想 は、働く部署を社員が選ぶことが出来るというものである。
社員は、その際に、SNS や口コミを活用して情報収集を行う。
社員は、その後、行きたい部署を希望することで叶える人事 制度の利用方法を考えることになる。その結果、希望者本人
と受け入れ先の責任者の思いがマッチしたら原則的に発令 がなされて、叶える人事制度が実行されることになる。
ユニーク制度による価値創造は、「社内インターンシップ」
でも同様になされている。この制度では、社員同士のコミュ ニケーションの活性化がコト発想として考えられている。そ して、インターンシップ制度がモノ発想として設けられてい る。この制度の対象となる社員は、叶える人事制度のときと 同様に情報収集を行って、行ってみたい部署を希望すること で利用方法を考える。その結果、社員は、他の部署で 3 日間 インターンを体験できる権利が与えられて、その部署で実際 にインターンシップを行う。
同社では、以上で述べた価値創造のプロセスを経て、ユニ ーク制度が社員のやる気につながり、自律的に働く動機づけ になる。
5.製品開発による価値創造
以下では、日本食研のいくつかの商品を取り上げ、同社の 製品開発による価値創造について述べる。
「焼肉のタレ B フレッシュ・焼肉のタレ C フレッシュ」の場 合のコト発想は、タレ漬けした肉の難点である変色を防ぐこ とである【3】。また、モノ発想は、肉の酸化、変質、変敗を 防止するとともに、ビタミンなどの栄養分を含むというもの である【3】。
「からあげの素 No.1」のコト発想は、油を汚さない、そ して冷めてもジューシーであるということである【4】。また、
モノ発想は、油に入れるとすぐに衣の表面が固まり、肉をコ ーティングして、衣を介した加熱によって肉を油の中で蒸し 焼きにするというものである【4】。
「業務用白味噌シート」のコト発想は、味噌漬けを作る際 に、入れ物や手に味噌が付くことが能率や歩どまりを悪くす ることを防ぐというものである【3】。モノ発想は、シート状 になった不織布製の袋に白味噌をパックして、不織布の間に 食材を挟み込めるようになっている【3】。
これら3つの業務用調味料の製品開発では、客先での季 節ごとのメニューの提案や、現場での試作などを行う際に、
顧客から直接不満や課題、要望を聞いて情報収集を行う。そ れを製品開発にフィードバックするとともに、店ごとにより 良い利用方法も考えていく。そして、実際にどのような場面 で食べるのか考え、朝食と夕食のシーンまで想定して試食す
るという実行がなされて製品を完成させる。
6.提案営業による価値創造
日本食研の「焼き込みチーズソース」は、レストランや スーパーに向けて作られたものであり、発売して10年以上 たつ定番商品であった【5】。それが価値創造のプロセスを経 て3カ月でヒット商品になった。同商品は、複数のチーズが ブレンドされたガーリック味のソースであり、パンや野菜に かけてオーブンで焼くなどの使い方をする【5】。
この商品がヒットした最大の理由は、ユニーク制度の一つ である社内SNSも大きく関係している【5】。この社内SN Sはグループ全社員が活用しており、現場社員の意見交換や 成功事例、失敗事例を共有する役目を果たしている(図 3 参照)。この商品のもともとのコト発想はトッピングが自由 自在で、焼き上がり後の見栄えが抜群であるというものであ る。そして、モノ発想は、3 種類のチーズを使用したスパイ シーなチーズソースというものである。
図 3 ベストプラクティスの活用
一方、提案営業でのコト発想は、ある営業担当者が社内S NSに書き込んだ写真つきの使用事例をそのまま客先で提 案したところ、その評判が良かったというものである【5】。 全国の営業担当者がベストプラクティスを横展開したこと で、商談数が増加するようになった。この提案営業における モノ発想は、ベストプラクティスとなった使用事例のレシピ である。ベストプラクティスの横展開というコト発想がレシ ピの先にあった。
以上から、日本食研では、成功事例や失敗事例などの様々
な情報を営業担当で共有しながらベストプラクティスの活 用を実践していていると考えることができる。ベストプラク ティスの横展開の結果もまた営業担当で共有して、それを新 たな提案営業に活かしている(図 3 参照)。
7.おわりに
日本食研では、ユニーク制度による価値創造と製品開発に よる価値創造と提案営業による価値創造が連鎖をして、相乗 効果を生み出すとともに、競争優位の源泉となっている。そ れは、叶える人事制度や社内インターンシップといったユニ ーク制度による価値創造が従業員のポテンシャルを高め、そ うした従業員が製品開発や提案営業で価値創造をすること で差別化を達成し、ひいては圧倒的シェアへと繋がるという ものである。例えば「叶える人事制度」であれば、自分の働 きたい部署が選べることで従業員のモチベーションが高ま る。それは、従業員間のコミュニケーションが増える要因に もなる。それが従業員に顧客に積極的に働きかけるよう促す ことにもなる。そうすると、従業員は、顧客ごとにより良い 商品の利用方法を提案したり、商品開発のヒントを顧客から 収集したりするようになる。その結果、社員が直接顧客と向 き合い、顧客とともに考えることで、顧客のニーズにマッチ した効果的な差別化戦略の達成が可能となる(図 4 参照)。
図 4 価値創造の連鎖
日本食研の2大ビジョンを具現化したものがユニーク制 度による価値創造と製品開発による価値創造と提案営業に おける価値創造である。これら3つの連鎖が顧客ニーズへの 適合となり、他社との差別化に繫がって競争優位を確立して いる(図 5 参照)。
図 5 日本食研の価値創造の競争優位への波及
参考文献
【1】日本食研HP
http://www.nihonshokken.co.jp/company/index.html
【2】日経BP 大沢哲也氏[日本食研ホールディングス社 長]ユニーク制度のデパート
http://bizboard.nikkeibp.co.jp/houjin/cgi-bin/nsea rch/md_pdf.pl/0000337435.pdf?NEWS_ID=0000337435&CO NTENTS=1&bt=NB&SYSTEM_ID=HO
【3】日経テレコン
1988/12/22 日経流通新聞 総菜店向けのホワイトソー ス、日本食研(新製品)
1991/09/21 日経流通新聞 肉や魚はさみみそ漬け簡単、
日本食研(新製品)
2010/01/27 日経MJ(流通新聞)サクッと揚がる天ぷ ら粉(食の新選組)
1983/10/28 日経産業新聞 日本食研、業務用しょうが 焼きの「たれ」発売
1983/05/30 日経産業新聞 日本食研、変色防ぐ焼き肉の タレ2種を発売
https://t21.nikkei.co.jp/g3/CMNDF11.do
【4】業務用ストア から揚げの素 NO,1
https://www.nihonshokken-gh.com/shop/shopdetail.ht ml?brandcode=000000000014&search=%A4%AB%A4%E9%CD%C 8%A4%B2&sort=
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