直交変換係数にビットプレーンコーディングを適用した
自然画像の高能率符号化
(昭和63年5月26日 原稿受付)
電気工学科電子コース原田治行
Efficient Coding of Gray.Scale Images Using
Bit.Plane Encoding of Orthogonal Transfom coefficients
by Haruyuki HARADAAbstract
This paper presents a new efficient coding託heme for continuous gray−scale images. This
scheme is the non.information preserving coding. It cuts down the amount of information from the orthogonal transform coefficients of the images considering the visual characteristics, and applies bit.plane encoding to it s processed coefficients. Discrete cosine transform which is the most effi.cient energy compression for continuous gray.scale images, is chosen for the orthogonal transform.
Computer simulations show that the entropy of O.6 bits/pel and SNR of 33 dB of 8−bit images, are achieved by this scheme. These resUlts are comparable to the case of discrete cosine transform vectOr quantizatiOn.
ングの方法は,原画像の冗長度を取り除くのにビットプ
1.まえがきレーン内で,ランレングス符号化による方法と,隣接画 自然静止画像を伝送または,蓄積する場合の問題点は 素間の差分によりある程度冗長度を取り除き,さらに,
画像一枚当りの情報量が,線図形,面図形,及び,文字 ビットプレーン内で,ランレングス符号化により圧縮す などと比較すると極めて大きいことである。そこで,高 る方法3)と,ビットプレーン内で2次元予測を行いある
能率符号化の利用が不可欠となる。 程度冗長度を取り除いた後に,その予測誤差をランレン自然静止画像の高能率符号化は,従来から多くの研究 グス符号化することにより圧縮する方法4)がある。これ があるが,それらは可逆符号化と,非可逆符号化に分け らの方式は従来検討されているが,必ずしも,効率の良
られる。大半は視覚特性を考慮した非可逆符号化1)であ い結果が得られていない。
る。可逆符号化は,ファクシミリや,画像データベース 本稿では,原画像に直交変換を行い,その係数にビッ などのように画像にひずみを与えない分野で,用いられ トプレーンコーディングを利用した非可逆符号化を提案
ている。可逆符号化の中でビットプレーンコーディン し,原信号空間での単純なランレングス符号化による性グ2)は,濃淡画像を,何枚かの2値画像に分解し,それ 能と比較した。直交変換には,自然画像に対して最も効 それの2値画像(ビットプレーン)に,ランレングス符 率のよいカルーネン・レーベ変換と実質的にほとんど変 号などのファクシミリの符号化を応用するものである。 わらない離散コサイン変換を用いた。この変換の基底べ 本稿では,ビットプレーンコーディングを利用した, クトルは,画像データによらず,また,この変換には高
非可逆符号化を,取り扱う。すなわち,原画像から視覚 速演算が存在する。シミュレーションの結果より,性能 特性を考慮して情報量を削減し,その修正画像にビット 的には,離散コサイン変換ベクトル量子化に相当する結プレーンコーディングを行う。ビットプレーンコーディ 果が得られた:) 6)
36 原田治行
図一1に示す。各1から8ビットプレーンには,21(1 2.シミュレーションシステム
=0〜7)の重みが付いている。この各ビットプレーン シミュレーションに用いた画像は,東京大学生産技術 毎に,1一ラン,0一ランについてランレングス符号化 研究所の標準画像データベースSIDBAの中から自然画 を行う。ランは,ビットプレーンの1ライン内で完結す 像として,HOMEを,また比較用として文字画像の るものとする。すなわち,最大512ランとなる。
CCITT72を,選んだ。これを,写真一1に示す。いず 0から512ランの生起確率を求めエントロピーを計算 れも,512×512画素,256階調である。シミュレーショ した結果を,表一1に示す。また,比較のために,256 ンに使用した計算機は,九州大学大型計算機センターの, 階調(実質的には,2階調)の文字画像CCITT72のエ FACOM M−530Sと,ベクトルプロセッサ VP−100 ントロピーも表一1に示す。
である。 3.2直交変換係数空間での,ビットプレーンコー デイング
3.ビットプレーンコーディング
自然画像の固有変換(カルーネン・レーベ変換)とほ
3.1原信号空間でのビットプレーンコーディング とんど同じ効率をもち,なおかつ基底ベクトルが画像 ビットプレーンコーディングは,2N階調の画像を, データによらず,また,変換には,高速演算の存在するN枚の2値画像(ビットプレーン)に変換し,各ビット 離散コサイン変換(DCT)で,直交変換を行う。
プレーンごとにランレングス符号化を行う。使用コード 画像信号ゾ( ,力 ,」ニ0,1,…,1V−1のDCTは,
は,自然2進コードよりも,グレイコードを用いた方が 次式で,定義される。
効率がよいことが,報告されている:)
しかし,本稿では源信号空間に較べて直交変換係数 F(・,〃)−2C(鵠鋼岩曇脳)・
空間でのビ・トプレーンを用いた非可逆符号化の方力㍉
@ C・S[(2刑⇒・C・S[(2ブ+1)当(・)効率がよいことを示すのが主な目的であるため,使用 2N 2N
コードは自然2進コードを用いた。256階調の画像 μ・ =0・1・…・1V−1
HOMEをビットプレーン1から8に,変換した例を,
1
7テ・ω=o
C(ω)=
9≠鰺
鱗 〔癬零、 ば㌔噸十 w (1)HOME
写真一1
(2) CCITT72
1, ω=1,2,…,1V−1
また,逆変換(IDCT)は,次式で,定義される。
表一1原画像のビットプレーンのエントロピー
(2)
HOME CCITT72
Bit−
olane Entropy/Bit Entropy/Bit 1,Run 0.Run Tota1 1.Run 0.Run Tota1
1 0.50 0.50 1.00 0 0 0
2 0.50 0.50 1.00 0.10 0.17 0.27
3 0.48 0.49 0.97 0 0 0
4 0.41 0.44 0.85 0.17 0.10 0.27
5 0.33 0.34 0.67 0.10 0.17 0.27
6 0.25 0.25 0.50 0.10 0.17 0.27
7 0.15 0.16 0.31 0.17 0.10 0.27
8 0.10 0.07 0.17 0.17 0.10 0.27
Total 5.47 1.62
(1) 1ビットプレーン (2)2ビットプレ_ン
(3)3ビットプレーン (4)4ビットプレーン
(5)5ビットプレーン
。 T ・ き㌔◆ぎ
(7)7ビットプレーン (8)8ビットプレーン
図一1 HOMEのビットプレーン38 原田治行
ゾ(↓,」)一寿顯c(・)cb)F(・.の・
C・S[(2 +1 21V)判・C・S[(2」暴)当(・)
ど ブ=0,1,…,2V−1
1V=512,256階調の場合のF(μ,めの値は,
0≦F(0,0)≦217
−218≦F(μ,o)≦218(μキσキ0)
となり,ビットプレーンの数は,高々37枚となる。ビッ
トプレーンの数を減らすために,DCT係数の絶対値を取り,新たに各係数の符号をあらわす符号ビットプレー ンを設けると,高々20枚となる。符号ビットプレーンは,
正の値を1,負またはゼロの値を0とした。実際には,
HOME, CCITT72とも,15枚である。
自然画像HOMEのDCTの絶対値データを,3次元
図一3 CCITT72のDCT係数の絶対値の3次元
で表すと,図一2となる。原点が,直流成分を表し原点 表示(100×100)
に近いほど低次の係数を表す。比較のため,文字画像
CCITT72のDCTの絶対値データを,3次元で表すと,
図一3になる。DCTは,自然画像ほど,低次へのエネ
ルギー圧縮率に極めて優れるという特長を有する。 表一2 DCT係数の絶対値のビットプレーンのエントロピー 原信号空間の場合と同様にして各ビットプレーンのラ
ンレングス符号のエントロピーを,表一2に示す。
図一2 HOMEのDCT係数の絶対値の3次元
表示(100×100)
HOME CCITT72
Bit.
olane Entropy/Bit Entropy/Bit 1−Run 0−Run Total 1.Run 0−Run Total
1 0.50 0.50 1.00 0.50 0.50 1.00
2 0.45 0.55 1.00 0.50 0.50 1.00
3 0.31 0.57 0.88 0.48 0.52 1.00
4 0.16 0.41 0.57 0.43 0.55 0.98
5 0.07 0.21 0.28 0.35 0.60 0.95
6 0.03 0.10 0.13 0.17 0.52 0.69
7 0.01 0.04 0.05 0.06 0.20 0.26
8 0.01 0.02 0.03 0.02 0.08 0.10
9 0.00 0.01 0.01 0.00 0.02 0.02
10 0.00 0.01 0.01 0.00 0.01 0.01
11
0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 12 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 13 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 14 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 15 0 0 0 0 0 0 16 0 0 0 0 0 0 17 0 0 0 0 0 0Total 3.96 6.01
と,四捨五入量子化でほとんど変わらないためである。
4.画像の情報量削減による画質とエントロピー
4.2 DCT係数空間での特性
の特性 DCT係数の絶対値を量子化幅2・で,切捨て量子化
4.1原信号空間での特性 と,四捨五入量子化を行い,それをIDCTして原画像 表一1から低ビットプレーンほど,エントロピーが大 との,S/N比を求めた。 S/N比を求める式は,原信号
きい。よって,低ビットプレーンを削除すれば,すなわ 空間の場合と同じである。ただし,直流成分は,電力の ち,すべてゼロにすると全体のエントロピーは小さくな 集中が,非常に大きいにもかかわらず,ビット数が高々 るが,当然画質は劣化する。低ビットプレーンを削除す 17ビットと,全体にしめる割合が,小さいので,量子化
ることは,画像の濃度値を2Nで切捨て量子化した事に せずに17ビットで,送信する。なる。比較のため四捨五入量子化も検討する。 切捨て量子化の場合は,残りのビットプレーンのエン
画質は,原画像と情報量を削減した画像(修正画像) トロピーと,符号ビットプレーンのエントロピーを加え
とのS/N比で,評価する。 れば,1画当りのエントロピーが,求まる。ただし,符 S/N比は,次式で定義する。 号ビットプレーンについては,切捨て量子化によってゼ
ロになった画素の符号は,もとの量子化しない符号ビッ
S/N−−1・L・G[隠綴禦議竃魏誓!2] トプレーンの値を修正した.この様にしたほ城ラン
(4) レングス符号化の効率が良くなるのは明らかである。す 切捨て量子化の場合は,残りのビットプレーンのエン なわち,量子化幅が大きくなるに連れて高次の係数が,
トロピーを加えれば,1画素当りのエントロピーが,求 ゼロになるために同じ値が続くからである。
まる。しかし,四捨五入量子化の場合は,四捨五入に 四捨五入量子化の場合は,原信号空間と同じように,
よって桁上がりが生じる場合があるので,単純に残りの 改めて四捨五入値を,ビットプレーンに変換してエント ビットプレーンのエントロピーを,加えるわけにはいか ロピーを求めなければならない。この場合にも,量子化
ない。そこで,四捨五入値をビットプレーンに変換して 幅は,24,25,26の3通りについて行った。また,符号改めてエントロピーを計算する必要がある。四捨五入量 ビットプレーンも,切捨て量子化の場合と同じ考え方で
子化の場合のエントロピーの計算は,簡単のため量子化 行った。自然画像HOMEと,文字画像CCITT72につ 幅は,24,25,26の3通りとした。.自然画像HOMEと, いて,量子化幅, S/N比と,エントロピーの関係を求 文字画像CCITT72について量子化幅, S/Nと,エント めたのが,表一4である。ロピーの関係をまとめたのが表一3である。 エントロピーは,切捨て量子化のほうが,四捨五入量 HOMEの場合,エントロピーが切捨て量子化と,四 子化より小さいのは,原信号空間の場合と比べてDCT
捨五入量子化でほとんど変わらないのは,画像の振幅値 係数の絶対値の変化が,大きいので,切捨て量子化のほ がゆるやかに変化しているので,ラン長が切捨て量子化 うが,同じ値が続くために,ビットプレーンのラン長が
表一3原信号空間の量子化幅に対するS/N比とエントロピー 表一4DCT空間の量子化幅に対するS/N比とエントロピー
HOME CCITT72
量子
サ幅
Bit/ Pel
四捨五入S/N切捨て
四捨五入切捨て
рa Bit
@Pel NidB) Bit/ SN@Pel (dB
Bit/ Pe1
SNрa21 一 一 4.46 51.1 一 } 1.61 一 22 一 一 3.46 42.7 一 一 1.35 50.2
23 一 一 2.49 35.8 一 一 1.35 50.2
24 1.61 34.8 1.65 29.5 0.81 30.8 1.08 30.8
25 0.92 28.6 0.97 22.9 0.27 28.9 0.81 27.9 26 0.48 23.6 0.48 16.3 0.27 23.9 0.54 21.7 27 一 一 0.17 12.3 一 一 0.27 11.4
HOME CCITT72
量子
サ幅 Bit四捨五入
切捨て
四捨五入切捨て
@Pel
SN
рa Bit@Pel SNрa Bit/@Pe1
NidB Bit/@Pel SNрa
21 一 一 3.90 48.6 一 一 6.00 48.5
22 一 一 2.72 42.7 一 一 4.99 42.3
23 一 一 1.54 37.4 一 一 3.97 35.8
24 1.26 36.3 0.73 33.3 3.27 34.7 2.87 29.8
25 0.59 32.6 0.33 30.1 2.37 28.8 1.60 24.3 26 0.27 29.5 0.15 27.3 1.41 23.4 0.58 20.5
27 一 一 0.05 24.9 一 一 0.20 18.0
40 原田治行
長くなりランレングス符号化の効率が上がるためであ 6.情報源の符号化
る。
ランレングス符号化は,情報源符号化の一つである。
5・シミユし一ション結果の検討 今まで求めてきた情報圧縮の可能性(エント。ピー)を
シミュレーションの結果を,図一4,図一5に示す。 実現させるためにはまず,実際に情報源シンボル(ラン 図一4は,自然画像HOMEに対する原信号空間と, 長)に符号語を,割り当てなければならない。
DCT係数空間でのエントロピー(BIT/PEL)と, S/N 一般に,統計的な符号化は完全には,エントロピーを 比(dB)の関係を表す。量子化方法は,切捨て量子化 実現出来ないが,最もコンパクトなハフマン符号を用い
である。ただし,ダッシュは,四捨五入量子化の場合を れば,実際の平均符号長(n)は次式を満足する。
表す。
可逆符号化では源信腔間のほう坑効率力㍉良い H≦万≦H+1 (5)
力淳可逆符号化では,DCT願空間のほうが効率 ただし・Hはエント゜ピーを表す・
が良い。原信号空間の,エントロピー約1.6(BIT/PEL)で, もし,情報源からの符号数が,十分に大きい場合は,
S/N比約35(dB)に較べてDCT係数空間では,エン ハフマン符号の平均語長は情報量の下限,すなわち,エ
トロピー約0.6(BIT/PEL)で, S/N比約33(dB)の ントロピーに近づく…)
性能を有する。 よって,次式が成り立つ。
同じ量子化幅の場合に・画質を優先する場合は・四捨 @万≒H (,)
五入量子化を,伝送効率を優先する場合は,切捨て量子
化を行えばよい。 本稿の場合,この式は十分に成り立つ。
図一5は,文字画像CCITT72に対する特性図である。 しかしながら,ハフマン符号を構成する場合には,各 DCTが,自然画像に対して効率の良い直交変換である 情報源シンボル(ラン長)の生起確率を,測定する必要
ため当然ながら,文字画像については,自然画像に比べ がある。原信号空間では,各自然画像によって,この生 て性能が良くない。また,原画像空間の場合と比較して 起確立が変化するので画像毎にハフマン符号を構成し,
も性能は,良くない。 さらに,その符号表を受信側に送信しなければならず実 本稿で提案する,DCT係数空間で,ビットプレーン符 際的でない。従って,符号化のパラメータを変化させな
号化を用いた非可逆符号化は,濃淡を有する自然画像に い非適応的符号化方式では,ある生起確率のモデルによ 適している。 り構成された一種類のハフマン符号を使うことになり,
50
40
630
▽る
20
10
0
↓
1●
U
5i6
6・ @㌣
9
げ 号7 06
○:原信号空間
恣 DCT係数空間
博嘯ヘ量子化幅21のiを表わす。
ハ子化方法は切捨てである。
スだし,ダッシュは四捨五入量子 サである。
1 2 3 4 5
50
40
a30
巴zの 20
10
O
ENTOROPY(BIT/PEL) ENTOROPY(BIT/PEL)
図一4 画像HOMEに対する性能 図一5 画像CCITT72に対する性能
2.3
2
疋
4 4ξ3
o.50566 6
㌔1
36
O7
●ただし,
○:原信号空間 ・ 怐FDCT係数空間
博嘯ヘ量子化幅21のiを表わす。
ハ子化方法は切捨てである。
@ ダニシュは四捨五入量子 サである。
1 2 3 4 5
1
モデルと統計的性質の異なる画像では,極端な性能劣化 際にハフマン符号語を構成し,平均符号長を計算するこ
が,生じることがある。 とである。ところが,DCT係数空間では,図一2に示すように
8.謝 辞
自然画像のDCT係数の絶対値分布の性質が,画像データによって,大きく変化しないために,適当な生起確率 本研究を行うにあたり,日頃,ご指導していただいて モデルを使うと,ほぼ,エントロピーに近い性能を得る います太田諦二教授に感謝致します。また,シミュレー
ことが可能である。 ションの,一部を手伝っていただいた大学院生の端浄殖彦君に謝意を表します。
7.まとめ
自然画像の高能率符号化として,DCT係数空間での 参考文献