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清代に於ける妻女の生活秩序を侵す罪とそれへの対 応

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(1)

清代に於ける妻女の生活秩序を侵す罪とそれへの対

著者 森田 成満

雑誌名 星薬科大学一般教育論集

号 21

ページ 11‑34

発行年 2003

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000222/

(2)

清 代に於ける妻女の生活秩序を侵す罪とそれへの対応

森 田 成満

  目 次

序 言:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝◆⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝一二

第一節 妻女の生活秩序を侵す罪の仕組み⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝:=二

  第一款 妻女の身体的自由ないし父や夫の監護教令権を侵す罪・⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・−:=二   第二款 婚姻の成立や解消の要件や手続きに背く罪:⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・:⁝:⁝⁝⁝⁝二六

第二節 妻女の生活秩序を侵す罪への対応⁝⁝・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・:⁝⁝⁝:二八

  第一款 妻女の生活秩序を侵した者に対する処罰⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・・二八

  第二款 妻女の処遇⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝・二九

結語:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・三二

11

(3)

12 序言

  本稿は自分や他人の妻女を不法にその生活環境から離脱させることにより︑その生活秩序を侵す罪の仕組みと生活秩序       ω② を侵した者に対する処罰︑及びその妻女の処遇のあり方を明らかにすることを目指す︒それを通して清代に於ける身分秩

序の特徴の一端を窺うこともできる︒

  官がこの犯罪をどのようにとらえ︑どのように処理するべきであると考えていたかという︑いわば官法を見る︒

      ③

  妻の典売を巡っては岸本美緒氏の論稿がある︒ただ︑関心の置き所や事実の認識は本稿と必ずしも一致しない︒寡婦の

       ④ 再婚強制︵﹁逼嫁﹂︶については︑夫馬進︑喜多三佳両氏の間の論争がある︒

  使用する史料は主に律例と刑案である︒

註 ω  本稿は良人である妻女を対象とするものであって︑奴碑は本格的考察の対象とはしない︒

  勿論︑自分や他人の妻女をその生活環境から離脱させる行為がすべて生活秩序を侵す犯罪となる訳ではない︒官が犯罪をなした妻

  女 を連行する行為や手続きに沿った離婚が違法ではないのは当然として︑姦通したり逃亡した妻を官の処断に従って夫が売却する行

  為は違法ではない︷﹃臨時台湾旧慣調査会 台湾私法﹄︵︸九=年︑以下︑台湾私法と記す︶巻二下︑三四二頁〜三四四頁︸︒妻が特

 に悪性の大きい背信行為をなしたときは通常の離婚手続きとは異なる婚姻解消の方法があったことになる︒また︑貧困によってやむ

  を得ず親が子女の同意を得て奴脾として売却することも違法ではない︵同右書同巻三四二頁︶︒これは同意を得て家族員全員の生命   を守るたあになされるやむを得ない行為としている︒

  本稿はこれらを除く違法に妻女の生活秩序を侵す罪を対象とする︒

③  岸本美緒﹁妻を売ってはいけないか?1明清時代の売妻・典妻慣行  ﹂︵中国史学巻八︒以下︑岸本論文と記す︶︒

④  夫馬進﹁中国明清時代における寡婦の地位と強制再婚の風習﹂︷前川和也編﹃家族・世帯・家門ー工業化以前の世界からー﹄

(4)

︵ ミネルヴァ書房︑一九九三年︶︸所収︒喜多三佳﹁清代の寡婦の地位についての一考察﹂︵四国大学経営情報研究所年報8︒以下︑喜

多論文と記す︶︒本稿は喜多氏の考え方を支持する︒

第一節 妻女の生活秩序を侵す罪の仕組み

応       第一款妻女の身体的自由ないし父や夫の監護教令権を侵す罪

サ       コ

コス       く

の     刑 事 的処罰は律例に依るか律例を比付してなす︒処罰するべき犯罪行為すべてを成文にしてはいない︒ただ︑比付も量

へ れ   刑の基準として成文規定を考えるのであって︑量刑は必ず成文規定を手がかりにする︒ そ 梨     律例の目的は量刑の基準を示すところにある︒犯罪行為はその目的を果たす範囲で明文になっているに過ぎない︒よく

計   起こる犯罪行為を具体的に挙げてそれに対する刑罰を記す︒ただ︑刑罰から逆にそれに対応する行為の枠を決めることも

を    ② 序 ある︒

秩 蹄 萎は︑通例︑父︵母︶や夫と協同して生活している︒そういう妻女の生活を巡る秩序は保護されるべきであって︑不

如   法 に そ の 生 活

環 境から離脱させる行為をなしてはならない︒

珪     妻 女の生活秩序を侵す犯罪に対する裁判規範は主体︑対象︑目的︑行為︑結果等に着眼して構成される︒それは刑律略

け 於   人 略売人条︑戸律強占良家妻女条︑刑律典雇妻女条等の軸になる準則とそれらを修正︑補充するために定められた条例が

に 齢 記 す特別罪によ.て立体的な体系をなす︒また︑修正︑補充する・﹂とを目的にして定めた訳ではないけれども︑準則が重

  なりあう範囲で一般罪と特別罪の関係となっている場合がある︒

13       妻 女の生活秩序に対する侵害は生活秩序のどこを侵しているかによって︑妻女の身体的自由ないし父や夫が妻女に対し

(5)

14       ③

て もつ監護し教令する権利を侵す場合と婚姻の成立や解消の手続きに背く場合の二つに分けられる︒その侵害のあり方は

妻 女 と父や夫との身分関係を反映するのであって︑父や夫以外のものとは別に父や夫を取り上げて見ていかなければいけ

ないところがある︒

  妻女の身体的自由ないし父や夫の監護教令権を侵す罪は︑妻女の同意の有無を基準にしてその意思に反して不法にその

生 活 環 境から連れ去って自己あるいは第三者の支配に移すものと︑妻女の同意を得てはいるけれども父や夫の意思に反し

て なすものの二つに大別できる︒前者が﹁略誘﹂であり︑妻女の意思だけではなくて父や夫の意思にも反している場合と

父 や 夫は容認している場合がある︒妻女の意思に反していない後者が﹁和﹂である︒

  略誘は意思に反して連れ出す行為を広く指す用語である︒略︵取︶は暴行︑脅迫︑威迫︵﹁逼﹂︶によって相手の意思を

抑えて連れ出すものであり︑誘︵取︶︵﹁誘﹂︑﹁誘拐﹂︶はおびき寄せて連れ出す行為である︒誘は相手の意思を抑えるとき

に も︑また相手の同意を得ているときにもなされ得る行為であり︑本款で取り扱う略誘の誘に該当するおびき寄せて相手        ④

の 暇

疵 ある意思を利用するときと次款に記すおびき寄せ同意を得て連れ出すとき︵﹁和誘﹂︶がある︒

      ⑤   略誘は事実的行為によるとき︵例えば﹁誘拐﹂︶と法律行為によるとき︵﹁略売﹂︑﹁誘売﹂︶に分けられる︒特に︑略誘に

は 売 買が伴うことが多い︒略誘犯人が経済的な利得を目的とすることが多いことと関係するのであろう︒       ㈲m   刑 律 略人略売条は︑営利目的で意思に反して良人を略誘して妻妾や子孫あるいは奴脾にしたものの処罰を記す︒広く良

人 を対象とする人さらい︑人買いを禁圧する規定であってその中で妻女の生活秩序が保護される︒

 およそ︑方略を設けて良人を誘取し奴脾としたり︑及び良人を略売して人に与えて奴脾としたものは︑皆︑首従や未売を問わず杖一

百︑流三千里とする︒妻妾子孫としたものは造意は杖一百︑徒三年とする︒誘売に従わないので被略の人を傷つけたものは絞監候とし︑

人 を殺したものは斬監候とし︑従犯はそれぞれ一等を減じる︒被略の人は処罰せず親に与えて一緒にさせる︒もし︑仮に乞養過房を名

(6)

      とし良家の子女を買って転売したものも罪はこれと同じである︒⁝和同して相誘し取って自分のところにあり︑及び二人相情願して良

      人 を売って奴脾にしたものは︑杖一百︑徒三年とし︑妻妾子孫としたものは︑杖九十︑徒二年半とする︒被誘の人は一等を減じ改めて

   

  親に与える︒まだ売っていないものは︑それぞれ既に売ったときの一等を減じる︒十才以下は和するといっても略誘の法と同じである︒

   

  被誘略の人は処罰しない︒⁝子孫を略売して奴脾としたものは︑杖八十とし⁝和売したものは︑略売から一等を減じる︒まだ売ってい

      ないものは︑既に売ったものから一等を減じる︒被売の卑幼は和同したといっても家長に従ったのであって︑処罰せず︑親に与えて一

      緒 に させる︒その妻を和略売して奴脾としたり︑大功以下の尊卑の親属を売って奴脾としたものは︑それぞれ凡人の和略法に従う︒

   

  売った人を預かったもの︑及び買主が事情を知っていたときは犯人と同罪である︒死亡するに至ったときは︑一等を減じる︒牙保はそ

      れ ぞ れ 犯 人 か ら一等を減じる︒代金を追徴して官に入れる︒知らなかったものは︑皆処罰せず代金を追徴して所有者に返させる︒

応 ぐ      ぽ 鍼     貴 州司が取り扱った嘉慶十五年の次の事案は︑誘拐の例である︒被誘の人がその事情を知らないという事実から誘拐で

へ れ   あることを推定するという事実認定のための便宜の方法を使っている︒ そ と 罪   ⁝職等査するに︑誘拐婦女︑被誘の人がもし情を知らなければ︑巳売未売を論ぜずすべて例は死刑にする︒今︑楊光貴は胡氏が単身 計 三人で行くのを見て︑思・立・て誘拐して売ろうとした︒既・誘拐して僻処・至り張老長の店・住宿させた︒被誘の胡氏は事情を全 を  く知らない︒該省が楊光貴を絞候に処し従犯の王小五は流に処するのは例と一致する︒そのように回答するべきである︒

序 秩 活  刑律略人略売条には特別罪を示す条例が付されている︒その第一は︑被害者との身分関係が特別なものである︒姦夫が

生       ー        θ       D 如 姦 婦を誘拐したとぎ︑親属を略売したと割︑奴脾や雇工が家長の妻女を略売したと割がある︒第二は︑特定の地方に於け

謹 る人身売買を禁圧するものであ緬・

け 於    

姦 淫︑婚姻目的で暴行︑脅迫︵﹁強﹂︶によって良家の妻女を強奪して妻妾としたものの処罰を巡る戸律強占良家妻女条

こ      3 献 も裁判規範として軸になる︒反抗を聖る程まで大きく抑圧するものを﹁槍﹂とい互槍は強三部を占める概念である︒

    た だ︑槍を強よりも重く処罰する史料を検索できないのであって︑槍と強を分ける実際上の意味はない︒

15       事

実 的行為としての強は︑妻女を無理やり奪取する行為︵﹁奪﹂︑﹁占﹂︶としてなされ︵﹁槍奪﹂︑﹁強奪﹂︶︑法律行為とし

(7)

16        ⑭

て は無理やり売却する︵﹁槍売﹂︑﹁強売﹂︶形をとる︒

  行為に於ける強や槍というところとは別の部分に特別の要素があるこの律条の特別罪がある︒第一は︑主体に着眼し︑

集 団でかつ共謀︵﹁聚衆彩謀﹂︶して婦女を槍奪する罪である︒嘉慶六年︑十一年︑十九年の改正を経た条例は︑集団でか

つ 土ハ謀して路を行く婦女を槍奪して売ったり妻妾や奴脾にしたり姦したり︑また︑集団でかつ共謀して縁故ではない家に        ⑮聞

入 り込んで婦女を槍奪するとき等を規定している︒槍奪した婦女を売るときも記していることから推察されるように︑こ

の 条例は営利目的でなした強槍の事案にも適用される︒戸律強占良家妻女条の記す準則の適用範囲を拡大するものである        ㎝ けれども︑同時に必ずしも刑律略人略売条の存在を意識せずに定めたそれを修正する働きをする特別罪になっている︒

 およそ︑集団でかつ共謀して路を行く婦女を槍奪し︑あるいは売り︑あるいは自ら妻妾奴碑とし︑及び姦汚されたもの︑また集団で

共 謀 してもと縁故ではない家に入り込んで婦女を槍奪し︑媒説があったかどうかには関わりなく︑一度捕まえて門を出たら既遂にな

る︒事実であれば財を分かち取ったか取っていないかを分けずに首犯は斬立決に処する︒従犯は皆絞監候にする︒情を知って故買した ものは正犯の罪を一等減じ︑知らなければ処罰しない︒もし︑槍しようと室に入ったが︑まだ︑婦女を槍獲しなければ首犯は絞監候に

処 し︑従犯は極辺姻に発して軍に充てる︒集団で婦女を槍奪し拒捕して人を殺したものは已未成に関係なく︑下手殺人の犯は斬決臭示

とする︒⁝その集団でなく︑ただ︑強売して人に与えて妻妾としたものは絞監候に処する︒もし︑もと縁故のある家︑即ち必ず実際戚

誼 あるもので始めて縁故とするのだが︑先に︑縁談があって︑まとまらずよって衆を集めて強槍したものは強奪姦占已未成本律例を按

じて処断する︒もし拒捕して人を殺傷したものは槍奪殺傷人例に照らして処理する︒

  集

団 とは三人以上であるときを指し︑そのときは通常の共犯としてではなく︑集団犯罪としてとらえる︷﹁専指彩謀在三

       〇8 人 以

上 聚衆槍奪者而言﹂︵集団で共謀して三人以上が多く集まって槍奪するものをもっぱら指して言う︒︶︸︒三人以上かど

      09 うかは槍奪のときを基準にする︒首犯は槍奪の現場に行かなくても衆の数に入る︷﹁該犯係起意糾槍之人・非従犯可比・身

不 行・亦応以為首聚衆論﹂︵該犯は思い立って集め槍した人であり︑従犯の比較できるものではない︒体は行かなくても

(8)

       ⑳    首犯として聚衆として処断するべきである︒︶︸︒

      第二は︑強や槍の対象となった相手の身分とか相手との関係に着眼する特別罪である︒        ㎝       ⑳       身分が上の人の妻女を強奪する犯罪がある︒また︑縁談が纏まらなかった縁故の婦女を槍奪する犯罪がある︒縁談が     あったことが要件であって︑待聰の人ではないときは減刑しない︷﹁並非待聰之人・核与以礼求婚者・週不相同﹂︵待聰で       03閻     はない人は︑⁝⁝⁝調べるに礼をもって求婚したものとは全く同じではない︒︶︸︒売休の婦を強槍したときは犯姦婦女の例        080θ

応   に

照 らして処断している事案がある︒

サ 媒     人 を威迫する﹁逼﹂という行為がある︒逼が問題になるのは婚姻目的でなす寡婦に対する逼嫁である︒これは寡婦の自

へ れ   由を侵すものであると共に正しい婚姻成立手続きに対する侵害でもある︒戸律居喪嫁嬰条は実親も夫家の親も寡婦を強制 そ      伽 製   して再婚︵﹁改嫁﹂︶させてはいけないとする︒逼嫁には死んだ息子の親が残された寡婦を売却するという取引法として構

散 成 する場合と・主婚とな三碧威逼して婚姻手続きを進めたという身分法の中で構成する場A・があ㎞︒安徽司の取り

を 序 扱った次の嘉慶十五年の説帖は︑寡婦の曹氏を義理の兄が無理やり改嫁させようとしたために曹氏が自殺した事案であ 秩      09 活 る︒自殺したために結局改嫁は成立しなかったけれども︑嫁売という取引法の中で構成している︒

生 如 珪  −曹氏が隣婦と往来し談笑するのは通常の・とである︒該犯はどうして後日︑きちんとしなくなるかも知れない・と・考笈び︑そ

け  の将来︑家風を壊すと指弾し早く嫁に出すのがよいとするのか︒既に端をかりて婦人を威圧する心があった︒族衆が仲裁して詫びを入 讃     れ させた︒該犯は隠れた︒曹氏はまた行って騒ぐ︒該犯はまた当たりのよい言葉で気休めさせず︑かえって侮辱し嫁売したいといった︒ 代  該犯が計画して必ず曹氏を嫁売しようとしたのははっきりしている︒もし資材を取得し聴礼をむさぼろうとする事実があって彼の弟の 清  妻が失節に甘んぜず自殺すると例に照らして絞首とする︒謀占倉図の事実がなくても寡婦を強奪する気で迫って改嫁させようとして自

7  殺させた︒該犯は曹氏の功服の卑幼である︒例に沿って極辺に充軍とするべきである︒承審官は厳しく確かな事情を調べず急に該犯を 1       婦 女 口 角軽生例によって加等して付近に発して充軍したのは特に信用できない︒該撫に実情を調べて例を案じて適当に処理させる︒

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18

  妻女に対する営利︑狼褻目的の逼取や狼褻︑婚姻目的の誘取を巡る準則を示す史料を検索できない︒そのような行為が

事件として官にまで持ち込まれることが少なかったのかも知れない︒ただ︑それらも略誘に包摂されるのであって不可罰

で あった訳ではあるまい︒

 留意しなければいけないのは︑妻女と父や夫との身分関係を反映して父や夫との関係に於いては妻女には自由が常には

保 障されていないのであって︑手続きが正当であれば妻女の真意に反してその生活環境から離脱させても違法にはならな

い ことがあるということである︒例えば婚姻は︑通例︑父が主婚として司るし︑父や夫は妻女のために労働契約を締結で       oり きる︒そのような契約は立会人を招いた手続きを通してなされるので妻女があくまで拒絶すれば手続きは滞る︒進んで拒

絶せず手続きが済んだときは妻女が生活環境から離れることに渋々にせよ従っている場合が多く紛争となることは少ない

し︑同意したと推定するのであろう︒しかし︑進んで拒絶していないからといって常に同意しているとは限らない︒

  生 活

環 境から離れることに同意している︵﹁和﹂︶妻女を父や夫の意思に反して連れ出す父や夫の監護教令権を侵す行為

に 於ける和は︑連れ出すものと妻女の間に成立する︒刑律略人略売条は妻女と和同して誘い出して自分のところに置いた

り双方が進んで合意して奴脾や妻妾子孫としたときを規定している︒

  この罪の第一は︑生活環境から離脱することを誘い ︵﹁誘﹂︑﹁誘取﹂︶︑それに対して妻女が同意する場合である︵﹁和

誘﹂︶︒和誘は妻女を誘惑し父や夫の利益を侵している点で違法である︒

  和には事実的行為である﹁和誘﹂︑﹁和同相誘取﹂と売却行為である﹁和売﹂︑﹁和同誘売﹂とがある︒

  人 妻との駆け落ち︵﹁同逃﹂︶はこの同意を得た罪の一つとして構成され得る︵﹁和誘知情﹂︑﹁和拐﹂︶︒安徽司からの嘉慶

       閲

元 年の次の説帖はその例である︒

(10)

     

  ⁝査するに︑李全は胡氏との恋姦の情熱く︑病いを患い無故の妻を離婚し姦婦の胡氏と駆け落ちして夫婦となった︒これ該犯が自分

      の 妻を離婚し人妻をかどわかしたのは︑既に淫悪である︒彼は彼の父の李進忠にたまたま出会って絞って案に差し出されて解決したの

      は本夫の陳登科に探し出すようにしたからである︒事はやむを得ない︒彼の父が自ら調べて報告したのではない︒互いに隠してもよい

     

親 属が言い出したのとは同じではない︒該司が和誘の本例に照らして軍に処したのは妥当である︒批を受け取った︒これこのように稿

   

  内に記したら疎漏はない︒

       ㎝    

和 売の例として︑広東司が取り扱った乾隆五十四年の一案がある︒

泌      

此 案︑粛阿得は出嫁した小功服姉の粛氏を和同して誘売し陳阿才に与えて妻とさせた︒律に治罪の明文がないといっても︑ただ︑

の  

  売って奴脾とするのとは同じではない︒自ら凡人が売って妻妾とした律に照らして処理するべきである︒粛氏が従って改嫁したのは姦

治 を犯したものと異ならな・︒誠・批・沿って杖・処し︑直ち・執行するべきである︒余罪は膳させる︒

そ 乳     第二は︑双方が進んで合意して︵﹁両相情願﹂︶生活環境を離れる場合である︒刑律略人略売条に記すように︑誘われた

尉   の で はなく妻女が進んで生活環境を離れることに同意していても違法になることがある︒妻女が進んで自分の身体や地位

を        測 序 を売る行為は父や夫の監護教令権を侵す︒それ故︑妻女も罪に問われる︒ 秩 酷

・ の ような妻の生活秩序を侵す罪の実行グ汀為はぞとらえられる︒父や夫を通した妻女に対する働きかけも妻女に対

如   す る略誘の実行行為となり得る︒例えば︑強をなす直接の対象が夫であってもそれが妻が生活環境から離脱することに結

建   び付けば強占の罪が成り立つ︒それは父や夫が妻女に対して監護教令権をもつ父や夫と妻との身分のあり方を反映してい

け 於  る︒嘉慶二十二年の福建司の次の事案は屈大が本夫の陳五に強暴に迫りその妻の陳張氏を姦占したものである︒強占の罪

ザ 

く        齢 として処断している︒

9   提督 杏送︒屈大が陳張氏を姦占した一案︒屈大は強占に照らして流に処するほか︑その張氏は本夫の陳五が縦容として人と通姦さ ー       せ たものであり︑例により離異させるべきである︒ただ︑陳五が妻にほしいままに姦を犯させたのは姦夫の強暴を恐れたものであって︑

(11)

   情はもとより無理やりである︒陳五が供述するに︑もし︑わずかに子女を彼に与えてとり戻させるなら︑彼は一人で貧しく養育できな む 2  い︒子女は幼少であって︑将来必ず失うところがある︒情として哀れむべきであり︑情を計って勘酌して処断する︒張氏と子女を共に

   陳五に引き渡して取り戻し一緒にさせる︒

       ㈱  実行行為が確立しなかったときの可罰性はその行為の違法性の大小によって異なる︒槍や強に着手すれば婦女に対する

支配が確立されなくても減刑はするけれども処罰する︒衆を集めて計画的に婦女を槍奪しようとして家屋に入り込んだけ

れ ども槍奪できなかったときについては条例がある︒

  逼 や 誘が確立しなかったときに処罰するとする史料を検索できない︒逼や誘が奏効しなかったときに略誘の罪として処

罰することはなかったらしい︒

  この罪の成立要件である結果は違法性の大小によって異なる︒通例は貞節を失うこと︵﹁失節﹂︶を結果とする︒それは

具 体 的には結婚させたり姦淫したり︑また子孫とすることを指す︒結婚させたり子孫にする場合︑自分の妻女にするとき

と他人の妻女にするときとがある︒被姦と売与は失節という点では同じである︷﹁被槍之婦・已被姦汚・与売為妻妾者・同        働 一

失 節﹂︵強奪された婦人が姦されたり売って妻や妾になるのは︑同じ失節である︒︶︸︒売買は引き渡したときに﹁已成﹂

となる︒いずれも今までの婦女の居所から場所が移転している︒

  ところが︑良人を略誘して奴脾としようとするような重大な犯罪は︑現行刑法の営利目的等の拐取罪のような目的罪に

似て︑婦女に対する支配が確立してしまえば失節の結果を必要としない︒略誘後の売却等はいわば不可罰的事後行為とな

る︒家屋に入り込んで槍奪したときは出門したとき︑車に乗っている婦女を槍奪するときは車から出したときのように妻        80 女 をはっきり確保したときに略誘は完成する︒道光十二年の説帖にのる安徽司の扱った路を行く婦女を槍奪した次の事案       ⑪ は︑売却も姦もせず︑また妻妾奴脾にもしていないのに減刑しないとする︒

(12)

  ⁝査するに︑衆を集めて路を行く婦女を槍奪したとき︑例内にあるいは売るあるいは自ら妻妾奴脾とする及び姦汚されるという語が

あるといっても︑結局まだ売らずまだ妻妾奴脾及びまだ姦汚されなければその減等を許すという明文はない︒たまたま槍奪して連れて

逃 げ次いで捉えられたものが未遂と処断し定例と符合しなくなるのはよくない︒かつ︑査するに︑道で婦女を槍奪するのと部屋に入っ

婦 女を槍奪するのは︑情況は同じではないけれども︑凶暴さに違いはない︒例を参照するに︑部屋に入って槍奪し門を出れば直ちに

既 遂 となるのに︑道で槍奪して連れて逃げた後にまだ減刑する理屈は決してない︒本部の今までの衆を集めて路を行く婦女を槍奪し既

に 連 れ て 逃 げたものの処断を査するに︑そのときに捉えられてもすべて既遂として処断している︒王効参の一案も画一に処理すべきで

ある︒例に沿って適当に解決するべきである︒

他 方︑子孫を略売したときのように違法性の小さい︹行為は婦女を失節させるまでにならなければ律条に沿・て未遂とし

効 て ︵ 呆成L︶減刑弘・

れ        83 そ  自首して婦女を解放したときは減刑する︒婦女を解放しただけのときも減刑するけれども︑その構成は必ずしも一様で と 挿 はない︒已省している点を評価して自首とするときと官に出頭していない故︑自首ではないとして未遂罪になぞらえると

搬 きが塾

糖 ただ・妻が生活竃から離脱する・とに同土思しているときは・事実上・自首や解放について考える必要は殆どない・ 活 生 同意し双方が満足しているときに自首や解放がなされることはない︒

の 数 略 誘された妻がその後に略誘の事実を知る男と正規の手続きを踏んで婚姻をな言︑とがある︒しかし︑略誘の後に妻

ほ   女 が 合 意 の 上 で このような婚姻をしても略誘したものを免罪しない︒河南省の上奏を巡る道光三年の次のような説帖があ

讃 翻・

代 清  ⁝この案・那梅トは蒋王氏を彼の兄の郡吉トに引き渡して妻にさせようとした・部吉トは話があ・たときは事情を知っていたけれど

ー  も︑蒋王氏の夫の兄が婚約の財礼銭文がやや少ないのを嫌って承知しないので︑郡吉トは外へ出て使用人となった︒周会遠がついで蒋 2       王 氏 を嬰り妻にしようとした︒郎梅トは争って要られるのを恐れて思い立って蒋王氏を強槍して家に連れてきた︒郡吉トは外から帰っ

(13)

      て 始めて分かった︒蒋王氏が結婚を情願して直ちに結婚した︒これ︑郡梅トが強槍したとき︑那吉トは全く事情を知らなかったので︑   2   一家共犯のとき罪を尊長に坐する律と符合しない︒那梅トを首犯の罪に処さない訳には行かない︒⁝

としながらも︑郡吉トは帰ってきたとき強槍と分かったのにも拘らず送り返さずに結婚した︒尊長には専制の義がある

の で あって︑那吉トを強奪良家妻女姦占従犯流罪上から減刑して徒に処するのがよいとしている︒       働

  このこととも関連して本罪は親告罪ではない︒

ω  ただ︑それが律例を適用することを意味するのか適用する自然的準則を見つける手がかりとしての働きをするだけかは必ずしも

  はっきりしない︒︷拙稿﹁清代法に於ける放火罪と失火罪の仕組みおよびその被害の賠償﹂︵星薬科大学一般教育論集十九輯︶三頁︸︒

    民 主 主 義に基づき罪刑法定主義をとる現代の刑事裁判に於いて適用する準則は解釈によって意味を限定された成文法に限られる︒

  清代法はそれとは異なり︑官法の根拠を常に成文法の中に置かなければならない訳ではないし︑予め公布しておかなければならない

  訳 で もない﹇拙稿﹁清代に於ける民事法秩序の構造再編﹂︷山内進編﹃混沌のなかの所有﹄︵国際書院︑二〇〇〇年︶所収︸六九頁﹈︒

②  本稿二〇頁︑二↓頁︒

③   拙 稿 ﹁ 清 代 家 族 法に於ける教令の秩序とその司法的保護﹂︵星薬科大学一般教育論集一五輯︶︒教令は母や祖父母等によってもなさ

  れ るけれども︑本稿では主たるものとして父や夫と記しておく︒

㈲   大 清

律 例︷﹃大清律例輯註便覧﹄︵光緒二九年︑成文出版社影印︶を使用︸巻二五︑刑律賊盗下略人略売人条輯註︵影印本三三五〇   頁︶は︑次のように記している︒

   ⁝始め知らないで後に情願でないものが略誘である︒先にともにいい後に情願するものが和誘である︒誘われた人にも欲求する    ところを倉る心︑分にないことを求めることがあるから︑相誘人の罪に比して一等を減じるに止どめる︒

⑤   刑 案歴覧巻二〇︑刑律賊盗略人略売人条﹁安徽司 査例載誘拐大功以下纒麻以上親及親之妻審無姦情者⁝嘉慶十五年説帖﹂は︑婦

  女 を略誘した例である︒

㈲  乞 養過房と法律構成をして脱法するのは違法である︒ m   大 清 律例巻二五︑刑律賊盗下略人略売人条︒

⑧  刑案確覧巻二〇︑刑律賊盗略人略売条﹁貴州司 査例載誘拐婦人不分已売未売⁝嘉慶十五年説帖﹂︒

(14)

     ⑨   大 清

律 例巻二五︑刑律賊盗下略人略売人条条例一二︒

      ㎝

  同右書同巻同条条例=二︑一四︒

      ⑪

  同右書同巻同条条例一六︒

      ⑫

  同右書同巻同条条例一一︒

      ⑬

  同右書巻十︑戸律婚姻強占良家妻女条︒

     

00  嘉慶十二年の事案は︑馬老五が劉麻子の妻の魏氏を強奪し姦した例である︵刑案匿覧巻八︑戸律婚姻強占良家妻女条﹁陳西司 査

        馬 老

五 因劉麻子外出伊妻魏氏独処⁝嘉慶十二年題准案﹂︶︒

︑  個 大清律例巻十︑戸律婚姻強占良家妻妾条条例五︒ 蹴 ㈹ 湖 広 司の扱・た妻を巡る道光±年の説帖は︑共謀が必要であるとする︵刑案讐巻八︑戸律婚翼貞家妻条溺広司此

の       案羅九欲鴨郭久銘之女郭氏為妻⁝道光十一年説帖﹂︶︒ か   ≡この案・羅九は五人とともに郭久銘の娘を籍して妻・した・湯專の三人は該犯に言葉を飾・てだまして誘われ誤・て信じ

そ    て一緒に行ったのであるけれども︑ただ︑湯一等が移謀していないというのならよいけれども︑該犯について聚衆でないとはいえ と 罪    ない︒もし該犯が郭久銘ともともと関係がなければその死罪を寛容にすることはできない︒該犯がわずかに聚衆であって︑調べて 計   彩謀でなければ︑また彩衆ではなく︑ただ強売与人為妻妾の例に照・りして絞候に処するべきである︒⁝

剤         と記し︑該犯と郭久銘の関係の有無を調べて処断するべきであるとしている︒ 辮 ㎝ ・のよう・︑軸になってい・箭姦推︑拡大して新たな準則が導き出され・・﹂とや・・﹂から細かな特別罪を作・・﹂とがあ・︒

活  ⑱ 刑案匿覧巻八︑戸律婚姻強占良家妻女条﹁蘇撫 杏劉曾等各糾槍路行婦女李曹氏等欲図嫁売⁝道光二年説帖﹂︒ 姓 ⑲山東司が取り扱・た道光+二年・説帖は︑趙可倹が朱氏を姿ろうとし・うま各かないので誓したものである︵同右書同巻同条

女  

   ﹁山東司 査例載罪人不拒捕而檀殺以闘殺論⁝道光十二年説帖﹂︶︒その中に次のように記している︒

珪   −婦女を槍奪する妻は︑ある・は強嚢占律を援用して処断し︑ある・は聚衆蓑例を援用して処断する︒罪名の軽重は同じ

け    ではない︒すべて槍奪のとき集あて三人になるかどうかで判断する︒⁝ 讃     00   同右書同巻同条﹁直隷司 此案鄭思功充当県役⁝道光十一年説帖﹂︒

代    

閻  江蘇省巡撫の上申を巡る道光十二年の次の説帖は︑雇工が家長の妾を槍奪した身分が上の人の妻女を強奪したときのものである 清  ︵同右書巻九同右条﹁蘇撫杏在逃之趙泳貞起意糾撒現獲之金二麻⁝道光+二年説帖﹂︶・

3     ⁝査するに︑金二麻は被害者史凌漢の家の雇工であり︑平人の比すべきものではない︒敢えて他の人に付き従い家長の妾を槍奪 2           したのは特に不法である︒もしわずかにまだ捕まっていない従犯の劉月等と一律に流に処するとすると特に区別がなく見える︒金

(15)

          二 麻はまず枷号三か月にしてそれが満了してから再び発配する︒⁝

24        と記し︑解放しているので減刑して流に処するとした巡撫の上申を斥けて︑身分差を考えて平人よりも刑を加重して発配にするべ

    きであるとする︒

      ②   本稿十六頁︒

      ㈱  刑案匿覧巻八︑戸律婚姻強占妻女条﹁安撫 題秦広欲要王撹之妻姜氏為妻⁝嘉慶十八年案﹂︒

      00  陳西司が取り扱った嘉慶二十三年の説帖がある︵同右書同巻同条﹁陳西司 此案焦月娃因無服族弟焦三盛保之妻張氏⁝嘉慶二十三

    年説帖﹂︶︒

            ⁝査するに︑彩槍姦占の案︑例は縁故の有無を分ける︒もともと縁故がなければかつて媒説したかどうかに関係なく首従の各犯

      を分けて斬決絞候に処する︒本来淫凶の徒がはっきりもともと縁故がなくて強槍姦占すると罪名が極めて重いことを知って︑そこ

      で 承 知 しないことを予想しながら先に媒説をなして将来の重きを避けて軽きにつく地歩とする︒そこで例は内に詳しく明らかにし

      て 引用処断するようになっている︒縁故の二字については註にまたいっている︒必ず実際戚誼があって始めて縁故として扱うと︒

          これ︑もとから姻戚あり︑また互いに婚姻をなし得るものについていっている︒同姓は宗族であり︑これを戚誼の男女とはなせな

          い︒例として婚姻しない︒犯せば別れさせる︒縁故として扱えない︒

      ㈱  直隷司の取り扱った事案を巡る道光十一年の説帖は︑売休の婦を強槍したときは︑犯姦婦女の例に照らして処断するとする︵同右

    

書 同巻同女条﹁直隷司 此案鄭思功充当県役有県民呂二皇因貧将妻程氏売与杜勇為室⁝道光十一年説帖﹂︶︒

      06   娼 家︑居喪改嫁はそれを比照する︒本夫が縦姦していたときは減刑する︵同右書巻二〇︑刑律略人略売人条﹁陳撫 杏任潮棟姦拐

     

  任蓑氏同逃一案⁝道光二年通行已纂例﹂︒大清律例刑律賊盗下︑略人略売人条条例一二︶︒

      ⑳   大 清律例巻十︑戸律婚姻居喪嫁嬰条︒

      ㈱

  同右書同巻︑戸律婚姻典雇妻女条︒

    ⑳  

刑 案睡覧巻七︑戸律婚姻居喪嫁婆条﹁安徽司 査例載謀占資財貧図聰礼槍売兄妻未被姦汚⁝嘉慶十五年説帖﹂︒

    00   婚姻が主婚によってなされることは彼が承知しない限り婚姻は成立しないことや相手の選択等の主導権を彼がもつところに意味

        が ある︷拙稿﹁清代に於ける性を巡る法秩序とその司法的保護﹂︵星薬科大学一般教育論集二〇輯︶六九頁︑七〇頁︸︒

      ㎝  江西巡撫の上申に対する嘉慶二十四年の次の説帖は︑和誘の例である︒︵刑案確覧巻二〇︑刑律賊盗略人略売人条﹁江西撫 呑蓼員

       

観 誘拐脾女唐桂香一案⁝嘉慶二十四年説帖﹂︶︒

            ⁝この案︑蓼員観は蓼廷相の家の脾女唐桂香と姦通し誘って一緒に逃げ︑唐桂香をかどわかして蓼張氏の家に行き隠した︒つい

          で︑雇われて行李を担いで運ぶ曹朧観に彦廷相に向かって告知され︑彦廷相が県に申し立てて捕まえた︒彦員観に向かって隠し場

(16)

       

  所を聞き出した︒摩張氏︑唐桂香は聞き知って前後して罪を恐れて自殺した︒⁝

     

該 省は蓼員観を他人の奴脾ということで良人から一等減刑するとしているのを斥けて︑良人と奴脾を分けない和誘の本例に照らし

        て 処

断 している︒

      ㈱

  同右書同巻同条﹁安徽司 審辮李全姦拐胡氏一案⁝嘉慶元年説帖﹂︒

      倒

  同右書同巻同条﹁広東司 査律載和同相誘売為奴脾者杖一百徒三年⁝乾隆五十四年説帖﹂︒

    閲  

事 柄の性格から戸律強占良家妻女条にあるような集団で共謀するというような特別罪は見られない︵本稿十六頁︶︒

     

倒  刑案匪覧巻五二︑刑律犯姦縦容妻妾犯姦条﹁提督 杏送屈大姦占陳張氏一案⁝嘉慶二十二年福建司現審案﹂︒

      06  実行行為や結果は適正な刑罰を科するために︑先ず刑罰に着眼してそこから逆に犯罪行為の構成を考えている例である︒併合罪の 拡  とらえ方も刑罰の大小と関係する・ タ

の      この犯罪をなす過程や結果として殺傷事件や自殺を引き起こしたとき︑律の併合罪は重い罪だけを科するとする︒﹇山東司が扱っ 治  た次の道光元年の説帖がある︵同右書巻八・一 律婚姻強貞家妻条﹁山東司査藁馨婦女之案道光元年説帖﹂︶﹈・

そ       臣等案情を細核するに︑もし宋年わずかにただ周化南に従い︑田張氏を彩槍して嫁売し︑周化南と田張氏が通姦するのを見るに と 罪及んで威圧して︑ヨ姦したのであって︑凶暴な情況がなければ︑ただ婦女を槍奪した従犯の罪として処断する︒もし輪姦のとき該 計   犯が思い立.て別に逞強殴逼し同時に淫をほしいままにする事実があれば該犯に輪姦の首犯の罪を科する︒⁝

剤        ただ︑一個の罪のとらえ方は緩やかで全体として一つの犯罪類型と評価することもある︒刑律略人略売条は被略の人を傷つけたり 稿  死なせたものの刑を加重している︒︵拙箪清代法に於ける放火罪と失火罪の仕組みお・びその婆口の賠償L吉︶︒妻が生活竃

活      から離脱することに同意しているときは︑殺傷︑自殺を引き起こすことは通例ないのであって︑それらが問題になることもない︒ 姓 閲 本稿+六頁︒

女     ㈱  刑案匪覧巻八︑戸律婚姻強占良家妻女条﹁奉天司 査例載聚彩謀於素無瓜葛之家⁝道光十一年説帖﹂︒ 棲

︒︾

同右書同巻同条﹁藻裂曾等各糾槍路行婦女書氏等欲図嫁売先後将氏姦汚葵−・道光二年説帖﹂︒

け  80 大清律例巻十︑戸律婚姻強占良家妻妾条条例五︒ 讃     ㈲   刑 案 匿覧巻八︑戸律婚姻条﹁安徽司 査例載聚衆彩謀槍奪路行婦女⁝道光十二年説帖﹂︒

代    ⑫   本 稿 十 四 頁︒ 清 63大清律例巻五・名例律下・犯罪自首条・

5  60 道光八年の江蘇省の次の事案は︑未遂になぞらえている︵刑案歴覧巻九︑戸律婚姻強占良家妻女条﹁蘇撫 杏陸象賢因与季明周素 2         無 瓜 葛央媒欲鴨其女大實姑為妻未成⁝道光八年説帖﹂︶︒

(17)

      陸象賢が季明周の娘の大實姑を妻にしたくて槍奪したけれども︑本人が頑として承諾しないので彼女を送り返したものである︵陸   2   象賢は花燭の典をなそうとしたけれども大實姑が泣き騒いで従わないので陸象賢は恐れて大寳姑を送り返した︒︶︒江蘇巡撫の強窃盗

        首 還 律に比照する考え方を斥けて次のように記している︒

            ⁝査するに︑妻女を強奪するのは最も婦人の名節に関係する︒一度槍奪してしまうと既遂になる︒罪を恐れて送還し姦していな

          い といっても結局まだ出頭して官に出てきてはいない︒強窃盗が自分から被害者の財物を返したのとは大いに異なる︒自首に比照

       

  して処理し軽くし過ぎることはできない︒⁝

     

  として︑槍奪婦女罪から一等を減刑している︒

      60

  同右書同巻同条﹁江蘇司 此案劉三聴従趙泳貞槍奪路行婦女按例罪応擬絞⁝嘉慶十二年説帖﹂︒

            江 蘇 司 この案︑劉三は趙泳貞に従い路を行く婦女を槍奪した︒例に沿って罪は絞に処するべきである︒ただ︑該犯等は一旦被

       

  害者が県に行って報告することを聞いて皆それぞれ恐れ反省した︒王氏を仲立ちにして槍奪された陳氏を送り返した︒その情況を

       

  調べてみると実際自首と異ならない︒該省が該犯を衆を集めて計画して路を行く婦女を槍奪した従犯は絞監候で追っ手を聞いて自

          首 したとき一等を減じる例に依って満流に処したのは妥当である︒このように回答するべきである︒

      ⑯

  同右同巻同条﹁河撫 題郡梅ト強槍蒋王氏与伊兄郡吉ト為妻一案⁝道光三年説帖﹂︒

      働  現行刑法二二九条は︑営利目的の拐取罪を除き未成年者の拐取や狼褻︑または結婚目的の拐取罪について親告罪とする︒

第一一款 婚姻の成立や解消の要件や手続きに背く罪

父 や 夫が妻女を婚姻や離婚の定まった要件や手続きに沿わずに連れ出したり譲渡したりして婚姻ないし離婚させる罪と

してここで問題となるのは︑妻女本人も︑また父︑夫も妻女が生活環境を離脱することに同意しているとき︑あるいは少       川② なくとも進んで拒絶してはいない場合である︒そこには妻女や父や夫の意思では左右できない婚姻の成立や離婚の要件な

い し手続きという守るべき婚姻秩序がある︒この法益は社会的なものでもある︒

  戸 律典雇妻女条は︑夫が妻を他人の妻妾として典雇したり︑父が娘を典雇したときの規定であり︑妻女の生活秩序を侵

       リロ      る

す罪を巡る裁判規範の軸の一つとなる︒既に先学が紹介されているけれども︑便宜のために今﹈度律条を挙げる︒

(18)

  お よそ︑財を得て妻妾を他人に出典ないし暫雇して妻妾とした場合︑本夫は杖八十︒女を典雇した場合︑父は杖六十︒婦女は罪に問

われない︒もし妻妾を姉妹と偽って他人に嫁がせた場合は杖一百︑妻妾は杖八十︒事情を知って典嬰した者は各々同罪であり︑離異さ

せ た上で女は親に帰し︑妻妾は実家に帰して財礼は入官する︒事情を知らなかった買い手は罪に問われず︑財礼は取り戻して買い手に

与え︑離異させる︒

      売 買契約によって人妻を嬰る買休売休は婚姻手続きに沿わない婚姻であると同時に離婚の法理に依らずに離婚したのと       ⑤  

  同じになるという意味で婚姻の秩序を侵す︒刑律縦容妻女犯姦条は次のように記している︒

応      ⁝もし︑財を以て買休売休し︑合意の上で他人の妻を婆った場合︑本夫本婦及び買休人は各々杖一百︑婦人は離異させて実家に帰し︑ タ

の     財 礼は入官する︒もし︑買休人が婦人とともに計画して本夫に強要して離婚させ︑夫の側に売休の意思がなかった場合︑ 夫は罪に問わ か れ ま買休人及び本婦は各・杖六+徒一年とする︒婦人の余罪を収贈し本夫・引き渡して嫁売させる︒

そ 乳  ーこの買休売休に関する輯註の一節は次のように記し︑婚姻律は人を倫理に沿うべき存在としてとらえることを窺わせ

計 額︒手続きに背いて離婚はできないし︑人妻墨る・ともできない︒

を 辮  −けだし︑売休す・ものは自りその妻を捨て︑既・夫婦の倫豊失・︑・︒貝休するも・は人妻を婆ろうとして︑また︑婚姻・正義を失っ

活  ている︒姦に類しているので婚姻律に入れない︒⁝

生 如     妻 が 進 ん で 同意していても婚姻を目的とする夫による妻の売却は違法である︒台湾私法は刑律略人略売人条を解釈して 妻      m る 本人が情願するときは妻を嫁売できるとしているけれども︑売買手続きではなし得ないと考えるべきである︒ け 瞭 献  高  ︑

      ほ 妻女の意思に反して父や夫が妻女を婚姻や離婚の定まった要件や手続きに沿わずに連れ出したり譲渡したりする行為は妻女の身 7   体的自由を侵す罪と競合する︒ 2       ②   手 続 きが正当であるときには同意していなくても婚姻が成立したことがあったのとは逆に︑手続きが違法なときには同意していて

(19)

    も違法であって︑婚姻や離婚は成立しない︒︵本稿十八頁︶︒   2  ③ 戸律典雇妻女条は妾についても記している︒本稿は妻女を対象としているので妾については格別言及していないけれども︑その生

    活秩序の保護の基本的な仕組みは妻女と同じであったと思われる︒

   ω 大清律例巻十︑戸律婚姻︑典雇妻女条︒

   ⑤ 同右書巻三三︑刑律犯姦縦容妻妾犯姦条︒

   ⑥ 同右書同巻同条輯註︵影印本四六〇〇頁︶︒

   m 台湾私法巻二下︑三四三頁︒

第二節 妻女の生活秩序を侵す罪への対応

        第一款妻女の生活秩序を侵した者に対する処罰

  妻 女の生活秩序を保護するたあに︑官はそれを侵したものを処罰する︒刑罰の軽重は主体や相手︑目的︑行為︑結果等

に よって決まる︒

  相手が身分が上の妻女のときは刑は重くなり︑身分が下の妻女の生活秩序を侵したときは刑は軽い︒例えば︑雇工が家

      ユ       

長の妾を強奪したときは重く︑子孫を略売して奴脾としたときは軽い︒        ③  

結 婚話が進んでいる親戚のときは違法性は小さくて減刑される︒

      ④

  第二に︑行為の悪性によって刑罰は異なる︒強槍は重く処罰する︒

      ㈲

  第三に︑結果によって刑罰は異なる︒妻女を奴碑にすると重く処罰される︒

       ⑥

  第四に︑妻女の同意のあるときは刑は軽い︒

  第五に︑土ハ犯や未遂︑解放︑併合罪等のようにいわば基本的な犯罪類型が修正されることによって刑罰は違う︒例えば︑

(20)

       け 婦 女の槍奪を集団で共謀して行ったときは︑通常の共犯の理論によるときに比べて重く処罰する︒

犯罪としての刑罰は余り重くはない︒生活秩序の保護はそれ程重要なものとして位置付けられていなかったらしい︒集

団でなしたときや相手を死亡させたときを除いて死刑はなく流徒刑を基本とし︑子孫を略売したときや犯姦した妻女が相

手のときは杖という軽い刑罰を科する︒        ⑧

  また︑ときには調整して刑罰を軽減することもある︒

拡  註 タ

の   ω 本稿十五頁︒ か ② 同右+吾︒ そ  ③ 同右十六頁︒ と

罪 ω 同右十五頁︒

計  ⑤同右+五頁︒ ぺ を  ⑥ 同右十五頁︒ 栴 m 同右+六頁︒

活     ⑧   岸本論文二〇三頁︒ 生 如 珪           第二款 妻女の処遇

け 於  妻女を売ってよいか否かということと売られた妻女をどのように処遇するかは常に対応する訳ではない︒前者は行為時

に 齢 を基準に判断するのに対んて後者は裁判時に於ける判断となる︒連れ出したものを処罰しはするけれども妻の処遇につ

    い て は 調 整

す ることもある︒

29       妻女の生活秩序を保護するということからは︑不法に連れ出された妻女を原状に回復し︑妻は夫に娘は親に返すのが原

(21)

30 則である︒刑律略人略売条や戸律強占良家妻女条は妻は夫に女は親へ引き渡すとする︒ときには官が承認して夫に売却さ

せ ることもある︒ところが︑連れ出されたところでそのまま生活することを認めたり実家への引き渡しを命じることがあ

る︒

  妻女を妥協︑調整して処遇する事情の第一は︑生活秩序を侵す罪の悪性が小さいことである︒貧しい中で自分や家族の

生 活を維持するために妻を連れ出したときや妻の進んでなした同意を得て連れ出したときの悪性は小さい︒貧しさから妻       ② を売った河南巡撫の上申に対する嘉慶二十三年の次のような事案がある︒

  河 撫杏︒王黒狗︑妻の雇氏を売って李存敬に与えて妻とした︒取り調べてみるに貧しさと病によって致し方なかったのであり︑理

由なく売休したものとはやや違う︒また︑雇氏の母家には親属はない︒もし律に照らして離異させると勢いまた節を失う︒情を計り勘

酌 して雇氏はそのまま後夫の李存に渡して取り戻して一緒にさせる︒王黒狗が手に入れた財礼銭文は追徴を免除する︒

      ③ 熱 河

都 統の上申に対する道光七年の直隷司の次の事案は妻が売却を情願した例である︒

   熱河都統 杏︒傅泳は貧しさで度し難く︑勝手に彼の妻の趙氏を売って張得林に渡して妻とさせた︒張得林は事情を知って買ってい

 る︒趙氏もまた情願である︒万倉や辛志喜が仲に入って媒人となったのはすべて不届きである︒ただ︑傅泳は貧しさによって妻を売っ

 たのは売休買休と同じではない︒情を計って酌量して処罰する︒傅泳︑張得林︑趙氏︑万倉︑辛志喜は皆︑不応重律杖八十に照らす︒

趙 氏の前夫の傅泳では養育できないのみならず︑帰るべき宗もない︒かつ︑年齢は死にそうである︒離異させて再び所を失わせるのは

 よくない︒後夫の張得林に引き渡して家族一緒にして余生を終わらせるのがよい︒

       ④

  拐取後であっても妻女が現状を容認したときにはそのままにすることがある︒

      ⑤

  第二に︑妻女を得たものの利益の保護を考慮するものである︒事情を知らずに妻女を買い受けたときが好例である︒嘉

       ㈲ 慶二十年の江蘇司現審の次の事案はその例である︒

(22)

  北 城 察 院 移送︒楊景栄は妻の宋氏を仲人を立てて李廷治に売却して妻とした︒李廷治は夫のある婦人とは知らなかった︒楊景栄︑

宋氏をすべて売休律に照らして杖一百とし宋氏はそのまま李廷治に与えて取り戻し一緒にさせる︒

  第三は︑妻女に夫や親がいなかったり引き取り手として不適当なときである︒盛京刑部が上奏した嘉慶年間の次のよう      m な事案がある︒妻を売った夫の悪性を考慮している︒

     ⁝この案︑金栄は養謄の力がないので妻の張氏を休売して粛世彬に与えて妻とし財礼を受け取ったあとに︑また︑思い立って張氏を

端 騨矧薙誇㍑鱗竃鷲聾凝哺誘鷲い甦翼鷲パ竃甦O鷲鑓講竃鑓竃

効 す ると区別がなくなる︒該省が該犯を警を減らして処罰したのは妥当である︒張氏は彼の夫の金栄が休売して璽彬・与えて妻とし

れ     た︒律は離異し帰宗すべしとする︒該省が張氏を彼の兄の張元春に引き取らせるのは本来律を按じて処理したものである︒ただ︑査す そ  るに︑張元春は知情売休の人であり︑もし彼に取り戻させると︑勢い︑必ず改嫁させる︒いたずらに張氏をしてしばしばその夫を代え と

罪 させることになる︒情ことにあわれむべきである︒情を計り粛世彬に与えて一緒にさせる︒司に渡してこのように改めさせるべきであ す  る︒ 侵      ︑

を       た だ︑妻妾︑夫が売ったのであり︑そのまま完聚するのはよくない︒本宗に帰するべきである︒この親の字は本宗を含むように思わ 序       れ る︒もし本宗の帰るところがなければ︑今一度臨時に適宜に処理する︒ 秩 活

生     妻の実家の多くの人が売休の事情を知っていたときは帰宗させず官の承認を得て夫に嫁売させるとする河南司が扱った の        ー 藪 乾 隆六+年の妻があ郁︒

る け   ⁝査するに︑売休の婦人と夫の家とは恩も義もすべて絶えている︒そこで帰宗させて夫の族に戻すことは許さない︒これはもっぱら 讃 本夫が自分で売休して女家は全く事情を知らないものをい・ている・もし女家が同じく事情を知・ていれば渡して取り戻させては嫁売

代 の

私 をとげさせる︒律の精神と一致しない︒ただ︑全羽高がかつて氏の兄の劉徳に知らせたけれども劉徳は全く法廷に出てきて認めて

清  はいない・かつ該氏の父母の有無・皆事情を知・ていたかどうかについて取り調べては・きりさせていない・もし女家でただ劉徳天

1  が売却を認めていたのに過ぎないならば渡して取り戻させることはできない︒あるいはなお父母や別の尊属がいて売休の事情を知らな 3       ければ︑また︑劉徳が事情を知っていたからといって直ちに当官嫁売に処することはできない︒職等詳しく議論して売休の劉氏につい

(23)

て︑該撫に父母の有無や事情を知って売休したかどうかについて調査させて︑帰宗と官売に分ける︒批を受けた︒その通りせよ︒

32

  そ して︑実際にはこれらの事情が複数並存することもある︒

  岸 本美緒氏は官に於いても慣習に於いても後夫との婚姻を認めていれば妻を売却してよいとしているととらえられると

して︑成文法︑裁判︑慣習が妻の典売を認めていたかを検討される︒しかし︑典売してよいときとは典売に違法性がない

とするときである︒典売に違法性がないときと典売された妻女の処遇に調整をなすときとは連続しているのであろうけれ

ども︑裁判に於いて時に調整して後婚を有効とすることがあるからといって官が妻女を典売してよいと考えていたとはい

えない︒

ω  台湾私法巻二下︑三四三頁︑三四四頁︒

②   刑 案匪覧巻五二︑刑律犯姦縦容妻妾犯姦条﹁河撫 杏王黒狗将妻雇氏売与李存敬為妻⁝嘉慶二十三年案﹂︒

  同右書同巻同条﹁熱河都統 杏傅泳因貧難度⁝道光七年直隷司案﹂︒

ω   本稿二一頁︒

⑤  慣習は子とするために女を買い受けることを認めている︒︵岸本論文一八二頁︶︒

㈲  刑案匪覧巻五二︑刑律犯姦縦容妻妾犯姦条﹁北城察院 移送楊景栄将妻宋氏央媒価売与李廷治為妻⁝嘉慶二十年江蘇司現審案﹂︒

m  同右書巻七︑戸律婚姻典雇妻女条﹁盛京刑部 題李中棲殴傷李富潤身死一案⁝嘉慶十七年奉天司説帖﹂︒

⑧   同右書巻五二︑刑律犯姦縦容妻妾犯姦条﹁河南司 査律載用財買休売休和同嬰人妻者⁝乾隆六十年説帖﹂︒

結 語

現 行 刑 法は妻女をその生活環境から不法に離脱させる罪として拐取誘拐罪を置く︒それは身体的自由を保護することを

(24)

    主 な﹇日的としている︒監護権は万人を自由︑平等︑独立した人格として措定する体系の中で未成年や精神障害者という限

  られた人の監護者がもつ副次的な法益である︒

   

  さらに︑例えば妻を生活環境から不法に離脱させたとき︑損害賠償の義務が発生したり離婚原因となるというような民

   

事 的な効果も発生する︒

      清 代の妻女が自ら主導的に新たな法律関係を形成することは稀である︒家産を巡っては父や兄弟が家産支配を代表す

応   る︒娘の婚姻については父が主婚となり︑娘は完全には独立していない︒日常的行動については父や夫の一般的な監護教

対 の  令権の下にある︒

へ れ     そして︑このような生活環境から妻女を不法に離脱させる罪は刑事的な側面と民事的な側面を分けない︒ そ 乳     妻を典売してよいかという岸本美緒氏の論稿との関連でいえば︑官は姦通したり逃亡した妻を夫が官の処断に沿って売

財   却するときのみ典売できるとしてい抱︒そのときは妻に自ら婚姻秩序を侵したという落ち度があるために婚姻秩序の保護

を       ③ 序 が問題にならない︒ただ︑この他の場合であっても︑典売してしまったときに調整してそれが有効とされることがあった︒ 秩 活  ところが一方︑妻を典売することを認める慣習の広がりの大きさから見て︑夫が妻を典売することに何の後めたさも感

生 如   じなかったとまでいってよいかはともかくとして︑民間の人々が考える婚姻の秩序は厳格なものではなく︑また︑それを

建   守らなければいけないという意識はそれ程強くなかったらしい︒特に家族の生存維持等のためであれば妻の典売を容認す

エノ       リ

於 ることが多かった︒典売する側は婚姻秩序を守ることよりも経済的な利得が欲しかったし︑典買する側は事実上の妻を得

こ      じ       ド 

齢 て 労 働し子を残して欲しかった.りしい︒

      ただ︑民間の人々も身体的自由は遵守しなければいけないと考えていたのであって︑夫は嫌がって同意しない妻を強売

33     や 逼

嫁 してもよいとしていたということではない︒典売の契約は立会人の下でなすべきであるとしている︒

(25)

      註   3  ω 拙稿﹁清代に於ける性を巡る法秩序とその司法的保護﹂六九頁〜七一頁︒

         

権 利主体の仕組みを明らかにすることは権利の客体をどのようにとらえるかということとも関連する清代法史学上の難問の一つ

        で ある︒一般的に権利主体となり得るものを考えるというような形では体系化していないということ︑身分制度を反映して︑事柄に

     よって主体となり得るものが異なるところに最大の特徴がある︒誰が権利能力をもつかというのではなく︑どういうときに誰がいわ

        ば

権 利の主体となるかを具体的に考えなければならない︒

    ②  人の身体の法的位置付けも身分関係を反映し︑法律関係によって違う︒奴脾は一般的に他人の権利の対象となる︒良人は合法的に

     

  売却したり典雇できるときに限って他人の権利の対象となる︒

       

  因みに︑現代法は︑身体はその人のものであるとして人格権の一つとして構成する︒他人の身体を殺傷すると刑事犯罪になると共

        に その人に対する不法行為となる︒ただ︑自分のものであっても身体を譲渡する行為は通例︑公序良俗に反する︒そのことを実質的

        に も保障するために︑憲法二四条は婚姻は両性の合意のみによって成立するとし︑労働基準法五八条は親権者又は後見人が未成年者

        に 代 わって労働契約を結ぶことを禁止している︒ただ︑例外的に血液や臓器のような身体の一部については有償でなければその取引

        が 目的等を限定して認められる︷法と身体を巡る問題を多角的に考察したものとして︑森田成満編﹃法と身体﹄︵国際書院︑二〇〇四

        年刊行予定︶がある︒本稿との関連では︑特にその拙稿序文を参照︸︒

     ③

  台湾私法は︑妻が同意したときと貧困のときに分けてそれぞれ典売できるとする︵台湾私法巻下︑三四三頁︶︒しかし︑同意があれ

        ば い つ で も典売できた訳ではない︒貧困であり︑かつ同意があったときに典売できると考えるのが至当である︒

      ω   喜 多論文六三頁︒

     ⑤

  また︑官法上︑妻を典売することが違法行為であることを人々は十分には承知していなかったのかも知れない︒民間では官に比べ

        て その違法性が阻却する事由が多かったように見える︒

参照

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