奈良教育大学学術リポジトリNEAR
低出生体重児の身体発育の推移 ―横断調査による
―
著者 宮原 時彦, 北村 陽英
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 31
ページ 9‑14
発行年 1995‑03‑01
その他のタイトル Progress of Physiological Development among Low Birth Weight Infants ―A Study Based on Cross‑section Research―
URL http://hdl.handle.net/10105/6876
低出生体重児の身体発育の推移ホ
一横断調査による一
宮原 時彦舳・北村 陽英‡
(浜松医科大学公衆衛生学教室)(奈良教育大学学校保健研究室)
要旨:低出生体重児(出生時体重2,5009未満;LBW)の身体発育の予後を検 討するために、乳幼児健康診査を受診した4ヵ月から3歳6ヵ月までの乳幼児 に対して横断調査を行ったところ、LBWを5.2%認めた。また、体重および身 長は平均的には2,5009以上出生体重児への。atch upは見られなかった。しか
しながら、個々のケースを検討した場合では、幼児期において約半数が。atch upしていた。したがって、LBWの。atch upは幼児期に本格化し、以後学童期 に至るまで暫時増加していくことが示唆さ札た。
キーワード:低出生体重児 身体発育 横断調査
I. はじめ こ
全国のNICU(新生児集中治療室)設置数は1990年現在で338に上り、1981年のほぼ2倍に達 している 〕。このような周産期医療の充実は、小児死亡率減少の一因となっていると考えられる。
その一方、従来救命が困難であった小児が幸いにして救命された場合、その後の発育発達過程に おいて何らかの問題を呈する可能性が比較的高いとする見方もある別。
そこで本研究は低出生体重児(出生時体重2,5009未満、Low Birth Weight Infants;LBW)
に着目し、横断調査ではあるが、LBW児の乳幼児期における身体発育の実態把握を行い、出生 時に低出生体重というハンディキャップのあった小児が、一般の平均的な小児の身体発育の程度 に、どのくらいの追いつき(catch up)を示しているかを調べることを目的として、調査を実施
した。
皿.方法と対象
1992年4月から同年10月までの期間中に近畿地方楽市の乳幼児健康診査(以後、健診)を受診 した4ヵ月児、10ヵ月児、1歳6ヵ月児(以後、18ヵ月児)、3歳6ヵ月児(以後、42ヵ月児)
*Progress of Physiological Development among Low Birth Weight Infants −AStudyBasedo皿Cross−sectionResearch一
**Tokihiko MIYAHARA(Hamamatsu University,Schoo1of Medicine,Departme耐。f Public Health)
***Akihide KITAMURA{Nara University of Fducation,Department of School Heaith〕
を対象に調査を実施した。主な調査内容は、健診時に測定した体重および身長、母子手帳に記載 のあった出生時体重および身長、健診対象児の生年月日であった。調査は健診会場にて行い、調 査用紙への記入は母親に依頼した。調査用紙の配布数はユ,290部、回収数は1,153部であり、回収 率は89.4%であっれこのうち、欠損回答のなかった951児について、健診日のズレによる誤差 をなくすために平均日齢を求め、±1標準偏差内の児を分析対象とした。その結果、分析対象児 数は755児となった。分析対象児の平均日齢および児数はTab1e1に示した。
本研究では、出生時体重2,5009未満をLBW群、2,5009以上を統制群とした。この両群間の 各年齢での平均日齢の差を検討したが、統計的有意差は認められなかった。
分析項目は、①出生時体重分布、②出生時平均体重、③出生時平均身長、④各年齢における両 群の体重値比較、⑤各年齢における両群の身長値比較、⑥各年齢における統制群の体重および身 長の30および50パーセンタイル値※、⑦各年齢におけるLBW群の、統制群各パーセンタイル値 への。atch up率、の7項目とした。
統計学的有意性の検定にはt検定を用いた。また、一連の統計処理はSPSS PC+統計パッケー ジにより行った。
※パーセンタイル値とは、その値より低い値を示すケースの全対象中の割合を表している。例え ば、30パーセンタイル値が62.0㎝ならば、62.Ocm未満のケースが全対象中の30%を占めること を表している。本研究における「30パーセンタイル値での。atch up率」とは、30パーセンタイ ル該当値を越える値を示すLBWの全LBW群中に占める割合を意味す孔
皿.結 果
1)対象児の出生時体重・身長の平均値
Tab1e1 Average age of anaIysis subjects
Age Mean(days) SD n
4montlls 133.6 3.56 176 10months 331.1 7.88 178 18montbs 560.1 9.99 225 42months 1,286.1 5.79 196
Table2 Subject s physio1ogic status at birth
Catego1y Mean(SD) n
Birth Weight(g) 3,130.3(418.53) 775 Birth height(cm) 49.3( 2.27) 775
出生時の平均体重および身長値をTab1e2に示した。出生時平均体重は3,130.3±418.53g、出 生時平均身長は49.3±2.27cmであり、これらの値は厚生省「平均2年乳幼児身体発育調査」訓と
ほぼ同様の傾向であった。
2)出生時体重の分布
5009毎の出生時体重の例数分布をTable3に示した。LBWは全対象児中の50児(5.2%)に認 められた。この50児のうち、2,0009以上2,5009未満が26児(3.4%)と最も多く、1,5009未満 の極小未熟児は3児(0.4%)であった。
LBW児の出生率について、寺尾ら一〕は7.1%、中村ヨ〕は5.9%と報告しており、本研究の把握率 はこれらより若干低くなっているが、極小未熟児や何らかの合併症をともなったLBW児はかか りつけの医療機関を受診していて健診は受けていない可能性もあり、本結果はこのことに因って いると思われる。
3)L8W群と統制群の体重比較
LBW群と統制群との各年齢における体重値の比較結果をTable4に示した。4ヵ月児では LBW群6,205.8±522,97g、統制群7,025.5±720.74gであり、統制群が有意に高値を示した(p
=.O00)。10ヵ月児ではLBW群6,916.7±381.88g、統制群9,191.3±991.42gであり、統制群が 有意に高値を示した(p=.000)。18ヵ月児ではLBW群10,004.5±919.91g、統制群10,532.1±
1,052.56gであり、両者に有意差は認められなかった。42ヵ月児ではLBW群13,678.6±1,007.99g、
統制群14,751.9±1,488.08gであり、統制群が有意に高値を示した(p=.002)。LBW群の体重 の平均値と統制群の体重の平均値とを比較すると、LBW群の体重の統制群の体重に対する百分 率は、4ヵ月児から順に88.3%、75.3%、95.O%、92.7%であり、両群間の体重の差は乳児期か
ら幼児期にかけ減少する傾向がみられた。
4)LBW群と統制群の身長比較
LBW群と統制群との各年齢における身長値の比較結果をTab1e5に示した。4ヵ月児では
Table3 Frequency distrib皿tion of subject s birth weight per5009
Birth weight(g) n(%)
<1.500 1,500≦,<2.000 2,000≦,<2.500 2,500≦,<3.000 3,OOO≦,<3.500 3,500≦,<4,OO0 4,500≦
3(.4)
11(1.4)
26(3.4)
224(28.9)
373(48.1)
129(16.6)
9(1.2)
Table4 Compared LBW s weight(g)with contrors at each age
LBW Contro1
Age Mean(g) SD n Mean(g) SD n t p
4months 6,205.8 522.97 12 10months 6,916,7 38ユ.88 3 18months 10,004.5 919.91 11 42months 13,678.6 1,007.99 14
7,025.5 720.74 164 3,86+ .000 9,191.3 991.42 175 3.96+ .000 10,532.1 1,052.56 214 1.63+ .105 14,751.9 1,488.08 182 3.69箏 .002
十Poo−ed variances estimate.
,Separate variances estimate.
Table5 Co皿pared LBW s height(cm)with control s at each age
LBW Contro1
Age Mean(cm) SD n Mean(cm) SD n t p
4months 61,0 10months 66,3 18months 77,1 42months 94.8
2.43 12 63.3 1.53 3 72.9 ユ.53 11 79.0 3.30 14 96.6
2.38 164 3.25+ .001 3.04 175 3.71+ .000 2,69 2ユ4 2.34+ .020 3.45 182 1.85+ .067
十Poo1ed variances estimate.
LBW群61,O±2.43cm、統制群63.3±2.38cmであり、統制群が有意に高値を示した(pユ.001)。
1Oヵ月児ではLBW群66.3土1.53cm、統制群72.9±3.04cmであり、統制群が有意に高値を示し た(p=.000)。18ヵ月児ではLBW群77.1±1.53cm、統制群79.0±2.69cmであり、統制群が有 意に高値を示した(p=.020)。42ヵ月児ではLBW群94.8土3.30cm、統制群96.6±3,45cmであ り、両者に統計的有意差は認められなかった。LBW群の身長平均値の統制群の身長平均値に対 する百分率は、4ヵ月児から順に96.3%、90.9%、97.6%、98.1%であり、体重と同様に、幼児 期における差は乳児期よりも減少する傾向がみられた。
5)パーセンタイル値によるLBW群の。atch up寧
LBW群の。atch up率を把握するための指標として統制群の30パーセンタイル値および50パー センタイル値を算出した。その結果をTab1e6に示す。これらの値は、体重、身長ともに厚生省 報告値刮に準ずるものであった。
このTable6に示された値を上回ったしBW群の児数および割合をTab1e7に示した。4ヵ月
Table6 Va1ues of percenti1e in contro1 s growth
Weight(9)
Age 30舳e 50州e
4months 6,700,0 10months 8,540,0 18months 10,000,0 42months 13,895.O
Height(cm)
30%ile 50%iIe
7,000,0 62,0 63.5 9,100,0 71,4 73,0 10,600,0 77,9 79,0 14,675,0 94,5 96.6
Table7 Incidence of LBW catching up to growth le・els(30%i1・,50%ile)ofc㎝t・olgroup
Weight Height
〉30%ile 〉50冊ile 〉30%ile 〉50%ile Age n(%) n(%) n(%) n(%)
4months 2(16.7)
10months 0( .0)
18months 4(36,4)
42months 3(21.4)
1(8.3) 3(25.0) 1(8.3)
O( .O) O( .O) 0( .0)
2(18.2) 1(9.1) 2(18.2)
4(2816) 2(14.3) 5(35.7)
児の体重では3児(25.0%)、身長では4児(33.3%)が30パーセンタイル値を上回っていた。10ヵ 月児では体重、身長とも0児であったが、LBW群は対象児数が3と少ないため比較が困難であり、
本調査では確かなことが言えない。18ヵ月児の体重では6児(54.6%)、身長では3児(27.3%)
が30パーセンタイル値を上回っていた。42ヵ月児では体重、身長ともに7児(50.O%)が30パー センタイル値を上回っていた。42ヵ月児の4児は体重で、5児は身長で50ハーセシタイル値を上 回っており、50パーセンタイル値での。atch up率は42ヵ月児が最も高かった。
v.考 察
4ヵ月児から48ヵ月児までを対象とした本研究において、LBW群の統制群への。atch upは平 均的には認められなかった。これは乳児を対象とした山口ら副の見解と一致するものである。し かしながら、catch up率を見たとき、体重に関しては18ヵ月児で既に30パーセンタイル以上の児 の割合が5割に達している。また、50パーセンタイルを越える事例湘2ヵ月児において最多となっ た。さらに、LBWの一卵性双胎を対象とした足立らηは、体重差は5歳で消失したと報告してい る。これらより、LBWの身体発育面での。atch upは幼児期に本格化し、以後学童期に至るまで 暫時増加していき、出生時にLBWであった小児の殆どは少なくとも学童期には一般の平均的な 身体発育のレベルに到達するものと予測される。
この論文の主旨は、第40回日本学校保健学会にて発表した。
文 献
1)Statistics lnformati㎝Department Minister s Secretariat Ministry ofHealth&Welfare=Health &Welfare Statistics inJapan,Health&WeHare Statistics Association,Tokyo,1993
2)原仁:極小未熟児の長期追跡研究,発達の心理学と医学,1(1〕,43−53.1990
3)厚生統計協会:国民衛生の動向・厚生の指標,臨時増刊,40(9),厚生統計協会,東京,1993 4)寺尾俊彦,稲本裕1低出生体重児の出生動向に関する研究,臨床婦人科産科,43(7),687−693.
1989
5)中村敦:人口動態統計より見た低出生体重死出生率の年次推移・未熟児は増えているのか,
産婦人科の世界,42(1),37−45.1990
6)山口規容子:低出生体重児の身体発育,周産期医学,21,730−732.1991
7)足立憲章,城裕之,川瀬孝夫,遠藤泰弘:低出生体重児で生まれた一卵性双胎の発育,発達 について,小児科臨床,41(8),195ユ,ユ988