英語学習指導における英語発話の音変化の知 識の重要性:発音クリニック授業報告 2018
斉藤 悦子
Abstract:
The Importance of the Input of Sound Transformation in English Spoken Sentences for Japanese ESL Teacher Training Students: Report on the Class
“Pronunciation Clinic 2” of 2018
This is a report on the second year of the new “Pronunciation Clinic2” class.
Due to some registration complications, only 10 motivated students signed up for the two 45 minute classes, and so each class went on with 5 students. This allowed much time for individual one-on-one based practice with the instructor.
This also allowed more detailed observation of each student’s progress and habits.
Each student recorded some target phrases at the beginning of the first class, and at the end of the last class. Through tracing the progress of the students, some difference could be observed between those with good auditory perception and those who have difficulty in catching pitch modulations or rhythm. Speed is one challenging element to the Japanese ear used to the mild intervals of vowel combinations, and individual differences in auditory capability influence the accuracy of reproduction of natural speed English sentences. On the other hand, students with “good ears” showed fast progress with audio models and individual coaching, but could not reproduce sound from text as well. This seems to show the importance of simultaneous input of text with sound.
Also, in the questionnaire at the end of the class, many students pointed out the importance of systematic knowledge of the sound transformation in natural speed English spoken dialogues, and felt this indispensable in pronunciation education.
Keywords: Pronunciation,
ESL, EFL
要 旨:
昨年に引き続き、<発音クリニック2>の授業報告である。本年度は6月に教育 実習に行く4年生に配慮して後期に開講したが、前期登録が主体である制度のた め、受講できるかどうかが不確定な後期科目を後期を待って登録する学生は、この 科目に特別な期待を持った熱心な少数の学生に限定される結果となり、今年は10 名の、モチベーションの高い学生が受講し、5名づつ2クラスに分けた。少人数に なったことで、個別指導が行き届き、また、各学生の適性やニーズもよくわかり、
向上の度合いも詳細に観察することができた。
音の聴解力に優れた学生(音程、リズム等)と苦手な学生では、モデルを聞き取 って再現するのに差が生じた。音楽活動に長く携わってきた学生は、音モデルの吸 収が早く、再現力が高く、短期間に向上をみせたが、一方で、テキストから発話す ると、とたんに、もとの癖に戻る傾向があった。テキストと音モデルを同時に行い、
ビジュアルと聴解を繋げる訓練がさらに必要に思われた。
授業後のアンケートでは、どの学生も、自然なネイティブ・スピーカーの発話の 対話文などを素材に、きちんと「音変化の知識」を学習することの重要性を感じて いることが伺われた。また、これまでの中・高での発音学習にそのような「音変化」
の学習がないことは問題であり、今後、英語教員を目指す上で、音変化を理解した 発音学習を体系的に身につけた上で、自信を持って発音指導をしたい、という希望 を持っていることも示された。
キーワード:
英語学習 発音指導 英語教員
1.
はじめに昨年に引き続き、清泉女子大学英語英文学科では<発音クリニック2>
を開講した。2017年度は、前期に45分授業2クラスで開講したが、
四年生が5〜6月に教育実習で抜けなければならなかったため、今年度は 後期に移動した。しかし、前期登録がメインの中、後期初回授業時に抽選 で受講の可否が決定するクラスは、この授業に強い期待を持っている学生 以外に敬遠され、結果的に、教職や個々の活動のために特に発音を向上さ せたい、という強い意欲を持っている10名の学生の受講にとどまった。
この10名を5名づつ、45分間の
A、B2クラスに分け、少人数の分、個
別指導の時間をたっぷりとることができた。学生は9名が英語・英文学科 の学生、1名が地球市民学科の学生で、4名が教職課程を履修していた。2.
授業の方法昨年同様、子音の破裂消失が起こる舌の位置を「タッチ」と呼ぶことに して、発音しにくい
r
音と、その発音の際の舌の力の入れ方とリリースの仕 方、子音連続する時のタッチと息の遮断、発話における連結や同化、弱形 の丸まり方やスピードなど、音変化を意識して練習を行なった。テキスト の練習問題の他に、ヒット曲などで、音変化の特徴的な曲も練習に用いた。基礎練習が終わったあとは、学生の選んだ映画やテレビの場面で、4、
5行のフレーズをよどみなく美しく発音する練習をし、個別に指導した。
そして、後半は、昨年に続き、メリル・ストリープのゴールデン・グロー ブスピーチを5名で分担して壇上でリレー再現する課題に取り組んだ。
スピーチ課題では、発音だけでなく、プレゼンとしての効果的な間合い や強調、プレゼン技術なども指導し、リハーサルを録画して、個別に再生 画面を見ながら、自己評価を促し、アイコンタクトのあり方や声量、表情 も意識して組み立てるように助言した。
授業の冒頭に、以下の5つのセンテンスと、ターゲットフレーズである
“all over the world”
を全員に録音してもらい、最後の授業で再度このセンテンスとフレーズを録音し、効果を測定した。以下がそのセンテンスとフレ ーズである。
1)
She works as a fashion model.
2)
Do you remember the title of the book?
3)
I was shocked by his death.
4)
We want you to bring your own bottle.
5)
One of the wooden panels is broken.
Target Phrase: “all over the world”
3.
学生の傾向学生のスタート時の発音の技量には個人差があった。特に1名の学生は、
始めから発音が非常に綺麗で、特に
r
音は完全にマスターしていて、他の音 への行き来も自在にでき、最初の授業時にth
音で多少苦労している様子だ ったが、1回の具体的な修正で、完璧にマスターしてしまった。また、習 熟度が高いせいもあるだろうが、発話モデルを聞いたあと、音の出し方以 上に、全体の音程やリズムまで、ぴったり同じに再現する力が顕著で、天 性の聴解力、耳からの再現力に特に優れた学生である、という印象を持っ た。海外経験はなく、幼少期に英語スクールに行っていて発音は自然に覚 えた、とのことであった。この学生は、発音の指導で、途中からあまり教 えることがなくなったため、長文の英文を効果的に音読する時の息継ぎの 位置や間の取り方の訓練をした。これも飲み込みが早く、最後のスピーチ の再現練習では、プレゼン技法としての声の上げ下げまで使いこなして出 色の出来であった。上記のセンテンスでは、title
などtl
を英国式にt
で少し 破裂させていたのが、最終回では、北米式に破裂消失させるようになった。上記以外の9名は、多少の幅はあるものの、平均的な英語系学科の学生 で、大きく発音に癖のある学生はおらず、子音にわずかに母音をつけてし まうところが共通して見られた。
r
を出す技量は、微妙に違い、基本的には、得意ではないが、コツを指導されると、すぐに上達し、しかし、綺麗に出 せるようになっても、
r
へ、もしくはr
から他の音への移動にともない、安 定して毎回綺麗に出すことにはまだ練習時間が足りない、という特徴が見 られた。th、 v
子音連続なども始めは苦手な者が多く、これらは練習を通し て段階的に向上し、モデルをよく聞いて再現に努め、授業後半には、かなり改善していた。。
9名全員がスタート時には、modelは
mo de l
と読んでいたが、全員が最 後にはmodl
と破裂消失をマスターしていた。 world は最初はword
のよう にこもりがちであったが、r
のひきつけ位置と、l
のタッチ位置がずれてい ることに意識を持って練習し、身体の振り付けにたとえて、下がりながら 縮こまり、斜め前に伸ばした手を返して跳躍するイメージトレーニングを して練習したところ、全員がr
からl
の返しができるようになり、早いスピ ードでも、worldが綺麗に聞き取れる発音で言えるようになった。発音の授業は、音のモデルを耳で聞いて、発話で再現する方法で指導す る。そのため、聴解、音感の得意な学生と苦手な学生では、正しく発音で きるようになるまでの所用時間に差があった。音感や聴解が不得手で、音 情報を「音程」「リズム」「音変化」など一度に把握することが苦手な学生 は、音変化に集中するとアクセントがくずれてしまったりし、弱形のリズ ムにもなかなか慣れず、苦労していた。音情報がよくつかめないので、再 現がうまくいかない。音そのものを手本とすることよりも、テキストに強 弱や高低のマークをつけていくことで、なんとか把握しようと努力してい た。そのため、ひとつひとつのマスターに時間がかかったが、自分のやり 方で努力をして、向上できていた。授業が短かったために、スピーチを流 暢に再現するには時間が足りなかったが、課題文とフレーズのコツを掴む までは達成できた。
逆に、音感や聴覚の訓練経験のある学生は、音モデルからの指導での向 上が非常に早かった。一人の学生はスタート時に、「発音指導」というもの を受けたことがないので受講に不安がある、と訴え、改善への意欲はある ものの、劣等感が強い様子をみせていたが、音楽活動を長年経験していて、
「音楽をやっていた人は発音の上達が早い」という初回授業のひとことに おおいに勇気付けられ、また、本当に音感がよいので、音のモデルの再現 力が高く、短期間でどんどんモデル文が上手になって行った。ただ、音の モデルから音感をたよりに再現するため、テキストから再現しようとする と、視覚情報から再現しづらい面がみられた。その落差が大きかった。そ こで、後半は、テキストと音モデルを同時に使って音読をドラマチックに やる方法で視覚と聴覚の情報処理を連動させるように努めた。これも、自
学へつなげる場合に、留意すべき大切な点であろう。自学の際には、テキ ストと音源を両方使ってのシャドーイングなどが推奨される。
4.
授業アンケート授業の終盤にアンケートを配布し、無記名で回収袋にだしてもらった。
100%の回答率であった。
アンケートでは、昨年同様、「発音がよい」=「英語ができる」のイメー ジがあるかどうか、また、「発音への苦手意識」が自分の英語へのコンプレ ックスにつながっている面があるかどうかを尋ねた。
「発音がよい」= 「英語ができる」と思うか、の項目には、<そう思う
>が4名、<ややそう思う>が5名、<どちらでもない>が0、<そう思 わない>が1名であった。
発音が苦手なことが英語へのコンプレックスになっていると思うか、の 項目には、<そう思う>が2名、<ややそう思う>が4名、<どちらでも ない>が4名、<そう思わない>が0であった。
昨年よりはばらつきがあるものの、やはり、発音へのコンプレックスが 自らの英語習熟度の自己評価を下げる心理的な傾向は見られるように思わ れる。
10段階のスケールで、中学1年生のレベルを1、バイリンガルの日本 人のレベルを10として、授業開始時の自分の発音の技量レベルと授業終 了時の自分の発音の技量レベルを自己採点してもらった。以下が10名の 自己採点である。
A
クラス: 1→5、 4→5、 4→6、 5→7、 6→8B
クラス: 1→5、 4→6、 4→6、 3→7、 6→8前節で述べたバイリンガルに近い発音のできる学生は
A
クラスであった ので、最高評価をした学生がそうであったとしても、中の上から、まずま ず、8割くらいに行った、という、かなり謙虚な評価になっている。2名 の学生が1→5、と答えており、これは、自分の発音が、英語の初学者で ある、中一レベルから進歩していなかったのが、真ん中くらいまで向上した、と感じていることを示している。英語系の学科であるので、中学1年 レベルの学生は一人もいなかったが、コンプレックスによって、自己評価 が過度に低くなりがちなことがこの数字からも伺える。ほとんどの学生が スタートポイントを真ん中よりも下に設定したことも、自己評価を低めに 設定する傾向として捉えられるのではないだろうか。
授業が発音の改善に役立ったかどうか、の設問には、10名全員が<と ても役立った>を選んでいた。
次に、授業で行なった学習や指導で発音の改善に特に役立ったものを次 の項目から選んでもらい、特に強く思うものに二重丸をつけてもらった。
a) 文頭の疑問詞や途中の前置詞、冠詞などが弱く早くなる「弱形」の 発音の仕方
b) 舌の「腹筋」をひきつけて出す“r”音の出し方
c) t,l,n,d,などが「タッチ」して終わり、空気の破裂を起こさない(破 裂消失)して音が「消える」こと
d) 単語と単語の境目の音が「同化」や「連結」をおこして一続きにな ったり音変化すること
e) S, Th, V など、歯や舌、唇を空気圧縮させて出す音の出し方 f) 文のテンポやリズム、強弱や高低、メリハリのつけかた g) 文章における息継ぎポイントの取り方
h) 口ならしのエクササイズ i) テキストの練習問題 j) 先生の個別指導
以下に(○・◎)の順で数を記録する。
a)
4・4b
)2・6c
)2・8d
)5・5e)
5・3f)
5・3g)
7・1h)
4・3i
)1・6j)
1・72枚の回答が、この項目について、設問の意味を取り違え、○と◎は、
1度づつしかつけられないもの、と思ったようだった。というのも、両方 とも
j
を選んでいないにもかかわらず、自由記述欄には、個別指導がとても よかった、と書いていたからである。この2枚以外は複数回答であり、ほとんどの項目に◎をしている者も多かった。
ここから読み取れることは、
c)
とd)
、すなわち、音変化の知識を得たこと については、全員が「役立った」と思っていること、特にc)のタッチ音の
破裂消失は、これまで学習することがなかった新知識として、かなりイン パクトを持って受け取られたことがわかる。j
も二重丸の率が高く、上記2 名の回答も、自由記述欄で、特記して、それがよかった、と述べているこ とから、今年のクラスでは、個別指導に十分な時間がとれたことに、受講 生は大きな満足を感じていたことがわかった。これまでの英語学習で発音がうまくいかなかった原因を自由記述で尋ね たところ、多くが中学、高校の授業において、発音指導の時間が少ない、
もしくはなかったこと、あっても単語単位の練習で、ナチュラル・スピー ドの生のやりとりに触れる機会が少なかったこと、音変化の学習が皆無で あったこと、CD を渡されるだけで、どのように発音の学習をしてよいか、
という指導がなかったこと、などを挙げていた。
そこで、これについては、追加のアンケートを行った。
追加のアンケートでは、中学、高校での英語学習において、発音学習が 伸びなかった原因として思い当たるものに複数回答で丸をつけ、特に強く 思うものに二重丸をつけてもらった。項目は、
1) ネイティブ・スピーカーの録音した音源を与えられても、どのよ うにしたらそのように発話できるかという具体的な指導がなされな いため、聞くだけになりがちである。
2) 発音は入試に関係ないので、授業でほとんど取り上げないし、定 期試験にも関係ないので、生徒も取り組む必要を感じにくい。
3) 教員に発音の詳細な指導をする用意がない。(音変化まで踏み込む ような指導をしたことがなく、指導の仕方がわからない、もしくは、
発音指導にあまり自信がない等)
4) 教科に発音の指導をする時間的余裕がない。
5) 全体指導はしてくれるが、個別指導でない分、それぞれの得意な 発音や苦手な発音を汲み取るような細やかな指導がなく、苦手な発 音を修正、向上させる効果がでにくい。
6) 楽しく発音を向上させるようなアクティビティー(映画や音楽を
使う練習など)が少ない。
以下に(○・◎)の順で回答の数を記録する。
1)
6・3 2)3・2 3)7・0 4)6・0 5)5・5 6)4・2この結果が示すように、学生が発音の学習においては、自学が難しく、
個別指導によって、それぞれの苦手な音の出し方や音変化などを教えてく れる指導法を欲しているが、中学、高校の時期にそのような指導がないこ とが「発音」に自信がもてない要因のひとつとなっている可能性を示唆し ている。
追加アンケートでは、また、英語科の教員が発音指導に積極的になれな い理由のひとつとして、教員自身が学生時代などに、発話の音変化を詳説 する授業をうけたことがなかったり、発音の個別指導を受けたことがなか ったり、「発音の指導法」というような訓練をうけたことがないからだと 思うか、と尋ねたところ、4名が<強くそう思う>6名が<少しそう思う
>と回答し、<どちらでもない>と<そう思わない>はゼロであった。
また、自身が英語の教員になった場合、そのための訓練を受けて、発音の 個別指導ができるようになりたいか、と尋ねたところ、10名全員が、そ のような訓練を受けて、自信を持って発音指導ができる教員になりたい、
と回答した。また、そのためには、音変化の知識を得ることが重要である、
ということを指摘した回答も多かった。
今回の授業はそのような機会になったのだが、ほとんどの学生が、時間 が足りない、と感じ、授業を90分に延長したり、通年に延長したり、翌 年度も継続受講できるようにしてほしい、と書いており、個別指導しても らえる機会をもっと継続的に長時間持つことで、さらに発音の向上や定着 が進むことを期待している様子が伺えた。
英語学習として発音学習を始める時期については、「楽しい学び」を基 調として、<小学校から始めるべき>が7名、<中学から>が2名、<高 校から>が1名であった。3節で述べた、発音のレベルの高かった学生も 小学校の時の英語スクールでの、ネイティブ・スピーカーとの歌や遊びを
通してのアクティビティーから英語耳を培っており、文字の学習が始まる 前でも、音モデルをコピーする力はつけることができるため、早期から英 語に楽しみながら触れることは、よいスターターになると考えられる。
5.
結び2年目の発音クリニックは、意欲のある少人数の学生だけで編成された ため、密度の高い授業を行うことができた。学生はみな、母語話者のスピ ードのあるまとまった発話における音変化について初めて学習し、すでに 学習している(もしくは学習していなくとも英語発音のキーポイントとし て意識してきた)
r
音よりも、子音処理について踏み込んだ学習ができた ことが発音改善に役立ったという印象を強く持ったようであった。個別指 導では、音のモデルを示して、苦手な音を正確に発話するコツなどを練習 した。このように、全体指導において、体系的な知識として、音変化がどのよ うに起こっているか、タッチ音(破裂消失)というものが、文字表記だけ ではわからない、息の流れのせき止め方であり、どのように、舌が動き、
息が止まったり流れたりすることで、実際の英語の発話が発音され、どう 聞こえるか、ということをできるだけ「具体的に」学び、それを個別指導 でひとりひとりの舌の動きを見ながら課題を使って実習することで、学生 たちは、より自信を持って発音と向き合えるようになったように思われる。
2018年度の<発音クリニック2>は、以上の点から、個別指導を手 厚く行えたことで、学生満足度の高い授業となった。