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ストレステストにおける合理的シナリオ選択

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(1)

指導教員(主査)

:

 室町 幸雄 教授 副査

:

足立 高徳 教授、原 千秋 教授

ストレステストにおける合理的シナリオ選択

首都大学東京大学院社会科学研究科 高松 慎矢

2019

1

10

(2)

概要

本稿では、金融機関のリスク管理手法の一つであるストレステストについて、シナリオ選 択の基準を提案する。ストレステストは

2007-09

年に発生した金融危機以降、特に注目を 集めており、盛んに議論されている。しかしながら、実務においてストレステストを実施 するシナリオの選択は、ストレステスト実施主体の感覚に委ねられており、シナリオ選択 の基準は確立されていない。そこで本稿では、主観確率を導入することによりシナリオ選 択を確率論的視点で数理的に表現し、さらに意思決定理論を応用することで合理的なシナ リオ選択の基準を提案する。これにより、ストレステストにおけるシナリオ選択に理論的 指針を与えることを目指す。

キーワード

:

リスク管理、ストレステスト、統合的リスク管理、意思決定理論

JEL classification: D81, G21, G28, G32

(3)

目次

1

イントロダクション

. . . . 3

2

ストレステスト

. . . . 9

2.1

ストレステストとは

. . . . 9

2.2

シナリオ

. . . . 10

2.2.1

シナリオ

. . . . 11

2.2.2

蓋然性

. . . . 13

2.2.3

シナリオセット

. . . . 15

2.3

銀行の健全度

. . . . 15

2.3.1

銀行の健全度

. . . . 15

2.3.2

ディストレス状態

. . . . 16

2.4

ストレステスト

. . . . 18

2.4.1

ストレステスト

. . . . 18

2.4.2

リバース・ストレステスト

. . . . 18

3

シナリオ尺度

. . . . 20

3.1

サヴェッジ型シナリオ尺度

. . . . 20

3.2

ショケ型シナリオ尺度

. . . . 26

3.3

マクシミン型シナリオ尺度

. . . . 28

4

ストレステストの具体的手順

. . . . 31

4.1

ストレステストの具体的手順

. . . . 31

4.1.1

ストレステスト

. . . . 31

4.1.2

リバース・ストレステスト

. . . . 31

4.2

シナリオセットの選択

. . . . 32

4.2.1

ストレステスト

. . . . 33

4.2.2

リバース・ストレステスト

. . . . 33

4.3

シナリオと銀行の健全度

. . . . 34

4.3.1

シナリオとリスクファクター

. . . . 34

4.3.2

リスクファクターと銀行の健全度

. . . . 35

5

結論

. . . . 38

(4)

記号一覧

t:

現時点(初出

8

頁)

T :

将来のある時点(初出

8

頁)

Ω:

時点

T

における状態の集合、標本空間(初出

10

頁)

F : Ω

上の

σ-

代数(初出

10

頁)

Q :

可測空間

(Ω, F )

上の客観確率に基づく確率測度(初出

11

頁)

d:

上の距離(初出

11

頁)

(Ω, O

d

):

距離

d

から生成される距離空間(初出

12

頁)

P :

可測空間

(Ω, F )

上の

Q

に絶対連続な確率測度の集合、主観確率集合(初出

12

頁)

G:

シナリオセット(初出

15

頁)

G

ε

: G

ε

近傍(初出

15

頁)

z

0

:

時点

t

における銀行の健全度を表す一般的記法(初出

16

頁)

Z:

時点

T

における任意の銀行の健全度を表す一般的記法(初出

16

頁)

Z : Z

の集合(初出

16

頁)

D:

ディストレス状態(初出

17

頁)

G :

シナリオセットの集合(初出

17

頁)

G Stress:

ストレステストに用いるシナリオセットの集合(初出

18

頁)

G Reverse:

リバース・ストレステストに用いるシナリオセットの集合(初出

18

頁)

ρ:

シナリオ尺度(初出

20

頁)

Z

G

: G

に基づき推定された銀行の健全度(初出

21

頁)

A : G

G

上で動かして得られる

Z

Gの集合(初出

22

頁)

x

0

:

時点

t

におけるリスクファクターを表す一般的記法(初出

34

頁)

X:

時点

T

におけるリスクファクターを表す一般的記法(初出

34

頁)

X

: X

の値が取る空間(初出

35

頁)

F

X

: Ω

X 上の

σ-

代数(初出

35

頁)

h:

期間

[t, T ]

における資産の保有量(初出

35

頁)

p

0

:

時点

t

における資産価格を表す一般的記法(初出

36

頁)

P :

時点

T

における資産価格を表す一般的記法(初出

36

頁)

b

0

:

時点

t

におけるバランスシートを表す一般的記法(初出

36

頁)

B:

時点

T

におけるバランスシートを表す一般的記法(初出

36

頁)

(5)

1

イントロダクション

ストレステストとは、システムに通常想定される以上の負荷「ストレス」をかけ、シス テムが正常に動作するか調べるリスク管理手法の総称である。金融以外の分野におけるス トレステストの一例としては、製品や

IT

システムにストレスをかけ、それらが正常に動 作するかテストすることが挙げられる。また、東日本大震災を受け原子力規制委員会が原 子力発電を行う電力会社に対し義務付けた原子力発電所の耐性評価テストも、ストレステ ストの一例である。金融の分野におけるストレステストは、将来起こり得るシナリオを想 定しシナリオが発生したときに金融システムが正常に機能するか評価すること、あるいは 銀行のビジネスの継続可能性を評価することを指す。金融システムが正常に機能するか評 価するストレステストの実施主体は監督当局や中央銀行であり、銀行のビジネスの継続可 能性を評価するストレステストの実施主体は各銀行である。本稿では、銀行のビジネスの 継続可能性を評価するストレステストに焦点を充てる

*1

ストレステストは

2007-09

年に発生した金融危機(以下「金融危機」と呼ぶ場合はこの 金融危機を指す)以降、特に注目を集めている。バーゼル銀行監督委員会により、金融危 機の発生を許してしまった原因の一つとしてストレステストの活用が十分でなかったこ とが指摘されたためである(

BCBS, 2009

[3]

。また、米国連邦準備制度理事会(

FRB:

Board of Governors of the Federal Reserve System

)が包括的資本分析レビュー(

CCAR:

Comprehensive Capital Analysis and Review

)やドッド・フランク法(

DFAST: Dodd-Frank Act Stress Test

)に基づきストレステスト実施したこと、欧州銀行監督機構(

EBA: European

Banking Authority

)がストレステストを実施したことなど、金融危機の発生を受けさまざ

まな国や地域の監督当局や中央銀行がストレステストの実施を強化したことによってもス トレステストは注目を集めている。

ストレステストは金融危機以降、盛んに議論されており、その結果の一つとして、バー ゼル銀行監督委員会はストレステストの諸原則(

BCBS, 2009

[3]

を示した。しかしなが ら、ストレステストを実施するにあたりどのシナリオを選択すればよいかといった基準は 確立されておらず、ストレステストの実務においてはストレステストを実施するシナリオ をストレステスト実施主体の主観に基づき感覚的に選択されている。

そこで本研究では、シナリオ選択の基準を理論的に構築する。その準備として、まずス

*1

ただし、金融システムが正常に機能するか評価するストレステストは、各銀行におけるストレステストの 結果を統合したものだと捉えると、本稿の議論はこのストレステストにも応用が可能である。

(6)

トレステストをシナリオ選択に焦点をあてを数学的に表現する。そもそも、ストレステス トは確率論的議論の範疇外と認識されているが、このままではシナリオ選択の良否を議論 することが難しいと考えられる。そこで本研究では、ストレステストについて確率論的な 視点から徹底的に再考してみる。具体的には、主観確率を導入し、ストレステストを数学 的に表現することを試みる。

ここで、ストレステストの諸原則を参考に、ストレステストを数学的に表現するにあた り勘案すべき事項を洗い出す。その準備として、ストレステストの諸原則のうち銀行向け の諸原則かつ「個別的な対象分野」を除く諸原則(諸原則

1

10

)を類型化する

*2

。本稿 の議論の対象は各銀行が実施するストレステストであることより銀行向けの諸原則を類 型化の対象とする。個別的な対象分野に立ち入ることは本稿の目的にそぐわないことや 個別的な対象分野についてはそれぞれについて既にさまざまに研究がなされていること

Shin ,2010 [31]

Brunnermeier, 2009 [10]

Bianchetti and Carlicchi, 2012 [7]

Adachi and

Uchida, 2015 [1]

など)から、個別的な対象分野は類型化の対象としない。ストレステス

トの諸原則を類型化した結果は以下のとおりである。

1.

ストレステストの活用およびリスク・ガバナンスへの反映(諸原則

1, 2

ストレステストは銀行経営における意思決定の構成要素に含まれるべきである。

2.

様々な専門家の意見の勘案(諸原則

3

ストレステストはリスク管理担当者、エコノミスト、業務管理担当者、およびエコノ ミストといった関連する様々な専門家の意見を勘案し実施すべきである。

3.

ストレステストにかかるシステムインフラや実施体制の整備(諸原則

4,5,6

適切なタイミングで特定のシナリオについて銀行横断的にストレステストが実施でき るように、ストレステストにかかるシステムインフラやデータを整備すべきである。

また、ストレステストが有効に実施されるように、ストレステストの方針や手続きの 明文化、定期的な見直しや評価体制といったストレステストの実施体制を整備すべき である。

4.

銀行横断的なストレステスト(諸原則

7

*2

ストレステストの諸原則は、監督当局向けの諸原則と銀行向けの諸原則に分けられている。さらに、銀行 向けの諸原則は「ストレステストの活用およびリスク・ガバナンスへの反映」、「ストレステストの手法お よびシナリオの選択」および「個別的な対象分野」に分けられている。

(7)

ストレステストは銀行横断的に実施され、かつ様々なリスクをカバーすべきである。

また、銀行のリスクの全体像を得るために、様々なストレステストの結果を統一的な 視点で見る必要がある。

5.

フォワード・ルッキングなストレステスト(諸原則

2, 8

ヒストリカル・データに捉われず、フォワード・ルッキング

*3

なシナリオを想定し、ス トレステストを実施すべきである。

6.

フィードバック効果や相互作用効果を勘案したストレステスト(諸原則

2, 8, 10

フィードバック効果による初期ショックの増幅

*4

や金融市場・マクロ経済間の相互作 用効果によるショックの伝播を勘案したシナリオを想定し、ストレステストを実施す べきである。

7.

リバース・ストレステストの実施(諸原則

9

銀行のビジネスが継続不能となるような極端なシナリオを想定し、ストレステストを 実施すべきである(このストレステストを「リバース・ストレステスト」と呼ぶ) ストレステストを数学的に表現するにあたり、類型化した諸原則のうち

1

3

について、

数学的な議論にそぐわないため勘案しない。

6

について、フィードバックや相互作用効果 を勘案したシナリオ作成の具体的手法には立ち入らない。これは、フィードバックや相互 作用効果を勘案したシナリオ作成の具体的手法はさまざまに研究がなされており(

Cont

and Schaanning, 2017

[14]

、また本テーマに詳細に立ち入らなくとも一般性を失うこと

なく議論可能なためである。

ストレステストにおけるシナリオ選択を数学的に表現した既存研究はあまり多くないも ののいくつか存在する。本研究の視点からそれらの既存研究の概要をまとめ、それらの貢 献と本研究で既存研究を応用するにあたっての課題を述べる。

1

ストレステストにおけるシナリオ選択

Breuer and Krenn (2001) [8]

は、予め定められた閾値以上の確率が割り当てられたシ

ナリオを蓋然性があるシナリオと定義した。また、

Breuer et al.

2009

[9]

は、リス

*3

フォワード・ルッキングであるとは、入手可能な情報をもとに先を見越し、将来発生し得ることについて の予想を形成することを言う。

*4

フィードバック効果による初期ショックの増幅とは、金融システムの構成要素同士が相互作用することに より初期ショックが自己増幅することを言う。

(8)

クファクター間にマハラノビス距離を導入し、蓋然性があり、かつポートフォリオの 損失が最大となるシナリオを選択する手法を提案した。これら既存研究は、蓋然性を 数学的に表現したこと、蓋然性と損失の両方を勘案しシナリオ選択を数学的に行う方 法を提案したことは大きな貢献である。

本研究では、既存研究に次の観点を加える必要があると考える。ストレステストの実 務においては、銀行のビジネスの継続可能性(以下、「銀行の健全度」と呼ぶ)を評価 する指標として、損失額だけでなく複数の指標を勘案しており、複数の指標が存在す る下でストレステストを数学的に表現する必要があると考える。また、ストレステス トの実務においては、複数のシナリオを選択しており、複数のシナリオを選択する問 題としてストレステストにおけるシナリオ選択を数学的に表現する必要があると考え る。蓋然性についても、蓋然性の判断に関与するエージェントは複数存在すると考え られ、複数のエージェントが存在する下で、蓋然性を数学的に表現する必要があると 考える。さらには、ストレステストは確率論的議論の範疇外と認識されているが、ス トレステストにおける確率測度とは何かの議論が必要だと考えられる。

2

リバース・ストレステストにおけるシナリオ選択

Grundke

2011, 2012

[22] [23]

Glassermann et al. (2014) [21]

VaR

CVaR

の値 を資本バッファーと見做し、資本バッファーがゼロとなる確率が最も高いシナリオを リスクファクターに対しグリッドサーチ法を用い求める方法を提案した。

McNeil and

Smith (2012) [26]

は、分布の深度という概念を用い、蓋然性がありかつ銀行のビジネス

の継続可能性を表す指標に壊滅的な影響を与えるシナリオの集合から最も発生する確 率が高いシナリオを求める方法を提案した。これら既存研究は、リバース・ストレス テストにおけるシナリオ選択を数学的に行う方法を提案したことは大きな貢献である。

本研究では、これらの既存研究に次の観点を加える必要があると考える。ストレステ ストに関する既存研究同様、銀行の健全度を表す複数の指標の勘案、複数のシナリオ を選択する問題と捉えること、確率測度に関する議論が必要である。

以上、ストレステストの諸原則と既存研究について述べたが、本研究においてストレス テストを数学的に表現するにあたり勘案すべき事項をまとめると以下のとおりであると考 える。

1

銀行の健全度を表す複数の指標の勘案

ストレステストの実務においては、資本の十分性や流動性指標、期間損益といった銀 行の健全度を表す複数の指標の勘案しており、ストレステストを数学的に表現するに

(9)

あたりこのことを勘案する必要があると考える。

2

シナリオの集合の選択

ストレステストの実務においては、シナリオの集合を選択している。ストレステスト を数学的に表現するにあたり、シナリオの集合を選択する問題として表現する必要が あると考える。

3

距離

ストレステストの実務においては、シナリオの類似性を勘案していると考えられる。

例えば、似ているシナリオばかりを集めてストレステストを行うよりも性質が異なる シナリオを集めてストレステストを行うほうが好ましい場合がある。シナリオの類似 性を表す尺度として距離の概念を導入する必要があると考える。

4

蓋然性、銀行の健全度、距離のトレードオフを勘案したシナリオの選択

蓋然性、銀行の健全度、距離のトレードオフを勘案しシナリオを選択する問題として ストレステストを数学的に表現する必要があると考える。

5

確率測度に関する議論

ストレステストは確率論的議論の範疇外と認識されているが、このままではストレス テストにおけるシナリオ選択の良否を議論することが難しいと考えられる。確率論的 議論を行うため、主観確率を導入しストレステストを数学的に表現する必要があると 考える。

6

複数の確率測度に関する議論

ストレステストの諸原則において、ストレステストは様々な専門家の意見を勘案すべ きであると述べている。これらの各エージェントは異なる確率的信念を抱いていると 考えられるので、これらを複数の主観確率に基づく確率測度が存在すると捉えること で数学的に表現することができる。以上より、複数の確率測度を導入する必要がある と考える。

7

包括的なストレステストの定式化

ストレステストとリバース・ストレステストは銀行のビジネスの継続可能性を調べる という同じ目的の下で実施するものであり、ストレステストとリバース・ストレステ

(10)

ストは統一的に数学的に表現されるべきであると考える。

ここで類型化したストレステストの諸原則

2

4

5

7

についてストレステストの数学 的な表現にどのように織り込まれるかについて述べる。

2

について、本稿では銀行横断的 な視点でストレステストを数学的に表現することを出発点とすることで勘案する。

5

につ いて、主観確率を導入することで勘案する。

2

について、主観確率に基づく複数の確率測 度を導入することで勘案する。

7

について、ストレステストと統一的な枠組みでリバー ス・ストレステストを数学的に表現することで勘案する。

本研究は、最近

20

年間におけるリスク尺度(

Risk Measure

)の理論の進展と実務への 浸透という成功事例に着想を得たものである。リスク尺度は数学的に厳密に議論されるこ とにより、包括的な理解が深まり、得られた結果がリスク管理の実務に反映されリスク管 理の高度化に寄与してきた(

Artzner et al., 1999

[2]

。本研究はこれら研究の延長線上に あるものではないが、彼らの業績に倣い、ストレステストを数学的に議論し、ストレステ ストの包括的理解を深め、ストレステストに理論的指針を与えることを目指している。

ここで、ストレステストを数学的に議論し、ストレステストの包括的理解を深めるため の研究に対する、本研究の位置付けを述べておく。本稿では、ストレステストを数学的に 議論し、ストレステストの包括的理解を深めるための研究の一部分を行ったものであり、

研究途上である。例えば、ストレステストそのものの良否についての基準を与えることや 様々な専門家の意見をいかに集約するかといった研究までは至っていない。しかし、スト レステストにおけるシナリオを数学的に議論し、ストレステストの包括的理解を深めるた めの研究の第一歩として、本研究では主観確率を導入しストレステストを確率論的議論の 俎上に上げた。さらに、ストレステストの良否の基準を与える第一歩として、ストレステ ストにおけるシナリオ選択の良否に焦点を当て、その基準を提案した。

本稿の構成は次のとおりである。

2

章では、ストレステストを数学的に表現する。

3

では、ストレステストにおけるシナリオ選択を評価する基準を与える。

4

章では、

2

3

の議論を基に、ストレステストの具体的手順を示す。

5

章で、本稿のまとめを行う。

(11)

2

ストレステスト

本章では、ストレステストを数学的に表現する。

2.1

節ではストレステストを数学的に 表現するための準備として、ストレステストの概念を述べる。

2.2

節および

2.3

節では、

ストレステストを数学的に表現するために必要となる概念である「シナリオ」と「銀行の 健全度」、およびそれらに関連する概念について述べる。

2.4

節では、ストレステストを数 学的に表現する。

本稿では、簡単化のため

1

期間モデルを考える

*5

。現時点を

t = 0

、将来のある時点を

T

と表す。

2.1

ストレステストとは

本節では、ストレステストにおけるシナリオ選択を数学的に表現するための準備とし て、ストレステストの概念を述べる。ストレステストとは、

CGFS

2000

[13]

によると、

「例外的ではあるが起こり得るイベントに対して金融機関がどの程度脆弱であるか を測るために用いられる様々な手法の総称」

である。

また、リバース・ストレステストとは、

BCBS

2009

[3]

によると、

「特定のストレステスト結果(例えば、規制上の最低自己資本比率を下回ることや 流動性の枯渇、支払不能)を想定し、どのようなイベントが発生すればそうした結 果に陥るかを問うもの」

である。

本稿では、便宜上、「起こり得る」を「蓋然性がある」、「イベント」を「シナリオ」と 表現する。「シナリオ」とは、将来発生し得るある状態のことである。シナリオは相互排 他的であり、全てのシナリオを集めた集合は網羅的であるとする。シナリオの集合を「シ ナリオセット」と呼ぶ。また、「金融機関がどの程度脆弱であるか」を測る尺度、すなわ ち「銀行のビジネスの継続可能性」を測る尺度を「銀行の健全度」という新たな概念を導

*5

本来は多期間モデルが望ましい。多期間モデルを導入するとストレステストをコンティンジェンシープラ ンやアクションプランの策定に役立てることができる。ただし、多期間モデルでは時間割引率を考える必 要があるなど、次章で定義するシナリオ尺度の動学的一貫性を保証することが難しい。

(12)

入し表すとする。さらに、「特定のストレステスト結果」、すなわち「銀行のビジネスの継 続可能性を脅かす状態」を「ディストレス状態」

*6

という新たな概念を導入し表すとする。

「シナリオ」や「銀行の健全度」など、ここで新たに導入した用語の数学的な定義は

2.2

以降で与える。

本稿では、新たに導入したこれら用語を用い、ストレステストおよびリバース・ストレ ステストを次のように表現する。「ストレステスト」とは、蓋然性があるシナリオセット に対し、各シナリオが銀行の健全度に与える影響を評価する様々な手法の総称とする。一 方、「リバース・ストレステスト」とは、ディストレス状態に陥るシナリオセットに関す る具体的な情報、例えば各シナリオが発生する確率やシナリオの状態を示す変数の範囲な どを抽出する様々な手法の総称とする。

本稿では、リバース・ストレステストを、ディストレス状態に陥るシナリオセットに対 し、各シナリオが発生する確率を評価する様々な手法の総称として数学的に表現する。こ れは、

BCBS

2009

[3]

の「どのようなイベントが発生すれば特定のストレステスト結 果に陥るかを問うもの」という表現に対応していないように見える。しかし、本稿のモデ ルでは、ディストレス状態に陥るシナリオセットに対し、各シナリオが発生する確率を評 価することは、ディストレス状態に陥るシナリオを特定することも含め、ディストレス状 態につながる事象の情報を引き出す過程を全て含んでいる。したがって、リバース・スト レステストを上記表現に変更しても、一般性は失わない。さらに、リバース・ストレステ ストを上記のように表現することで、リバース・ストレステストをストレステストと対比 させて表現することができる。

以上により、ストレステストとリバース・ストレステストの違いは、前者が蓋然性を起 点としたストレステスト、後者がディストレス状態を起点としたストレステストであると 整理できる。

2.2

シナリオ

本節では、ストレステストを数学的に表現するために必要となる概念である「シナリ オ」、およびシナリオに関連する概念である「蓋然性」と「シナリオセット」について述 べる。

*6

ディストレス状態とは、元々、ストレスを上手く処理できず心身が不調に陥った状態を指す言葉である。

(13)

2.2.1

シナリオ

時刻

T

における不確実性を表す確率空間を

(Ω, F , Q )

とする。

は期間

(t, T ]

に発生す る様々な現象を踏まえた時点

T

における状態の集合であり、標本空間と呼ぶ。

2.1

節で述 べたとおり、シナリオは相互排他的であり、標本空間は網羅的であるとする。標本空間

は有限集合、可算無限集合、非可算無限集合いずれであってもよいとする。

F

上の

σ-

代数とする。

Q

は可測空間

(Ω, F )

上の客観確率に基づく確率測度とする。客観確率と は、我々の主観とは独立に存在する(神のみぞ知る)真の確率あるいは市場のコンセンサ スに基づく確率を表すものとする。

「シナリオ」を以下のように定める。

定義

2.1

シナリオ

の要素をシナリオと呼ぶ。

2.1

シナリオ

世界経済成長の減速という事象

E

を考える。事象

E

には、複数のシナリオ

ω E

が含まれる。例えば、

1

年後に世界の経済成長率が

0%

となるシナリオや世界の経済成長 率が

0.1%

となるシナリオである。

一般に、標本空間は非可算無限集合になる。例

2.1

では、世界の経済成長率が

1

次元実 数空間上の異なる値をとるようなシナリオが世界経済成長の減速という事象に含まれるこ とを示した。実数の濃度は連続濃度であることから、例

2.1

のようなシナリオは非可算無 限個存在する。以上のように考えると、一般に、標本空間は非可算無限集合になる。

任意の

2

つのシナリオの類似性の度合いを表す尺度として距離を導入する。

定義

2.2

距離空間

(Ω, d)

上の距離を

d : Ω × R

+

*7

とする。

上の距離を導入する理由を述べる。ストレステストの実務において、複数のシナリオ を選択するにあたりシナリオの類似性を勘案することがある。例えば、同様に米国のバブ ル崩壊を引き起こす

2

つのシナリオと、アジア通貨危機を引き起こす

1

つのシナリオの計

3

つのシナリオから

2

つのシナリオを選択する状況を考えよう。ただし、米国のバブル崩 壊を引き起こす

2

つのシナリオは、同様の経済的帰結をもたらすとする。ここで、

3

つの

*7 Ω

上の任意の

2

ω, ω

, ω

′′ に対し、

d(ω, ω

) = 0 ω = ω

d(ω, ω

) = d(ω

, ω)

d(ω, ω

) +

d(ω

, ω

′′

) d(ω, ω

′′

)

を満たす。

(14)

シナリオから

2

つのシナリオを選択しなくてはならないのは、ストレステストにコストが かかるからだと考えればよい。このとき、米国のバブル崩壊を引き起こす

2

つのシナリオ を選択せず、米国のバブル崩壊を引き起こすシナリオ

1

つとアジア通貨危機を引き起こす シナリオ

1

つを選択することが想像できる。このように考えると、シナリオ選択において シナリオの類似性を勘案していると考えるのは自然である。以上から、シナリオの類似性 を勘案することができるよう、

上の距離を導入する。

コンパクト性や

上の

σ-

代数について議論するため、位相空間を以下のように定める。

定義

2.3

距離

d

から生成される位相空間

ω

に対して、

B

ε

(ω)

B

ε

(ω) := { ω | d(ω, ω

) < ε } (2.1)

とする。

(Ω, O

d

)

を、距離

d

に対し

{ B

ε

(ω) | ω Ω, ε > 0 } (2.2)

で定められる集合族を基底とする位相空間とする。

定義

2.4

距離

d

から生成される

上の

σ-

代数

距離

d

から生成される

上の

σ-

代数

F

d とは、位相空間

(Ω, O

d

)

上のボレル集合族

B (Ω, O

d

)

とする。

定義

2.5

客観確率

Q

(Ω, F

d

)

上の確率測度とし、これを客観確率測度と呼ぶ。

定義

2.6

主観確率集合

主観確率集合

P

とは、可測空間

(Ω, F

d

)

上の、

Q

に絶対連続

*8

な確率測度

P

の集合とす る。

P ∈ P

を主観確率に基づく確率測度と呼ぶ。

主観確率に基づく確率測度

P

を導入する理由を述べる。ストレステストにおける標本 空間には、新しいタイプの金融危機の発生や大規模災害の発生など、未だ経験したことが 無い事象が含まれている。これらの事象に対し、ヒストリカル・データに基づく頻度主義 的な確率を割り当てることはできないため、客観確率に基づく確率測度

Q

を知ることは できない。また、株式市場の暴落や戦争の勃発といった同じような仕方で繰り返されない

*8 P

Q

に絶対連続とは、同じ可測空間上の二つの測度

P , Q

に対し、

Q (E) = 0

となる可測集合が必ず

P (E) = 0

を満たすことである。

(15)

事象についても同様に、ヒストリカル・データに基づく頻度主義的な確率を割り当てるこ とはできないため、妥当性のある確率測度

Q

を作ることはできない。以上のようなシナ リオを含む標本空間に対し、確率を割り当てる概念的なツールとして有効なものは主観確 率と考えられる。

ストレステストは確率論的議論の範疇外と認識されているが、主観確率を導入すること により、確率論的な視点からストレステストを数学的に表現することが可能になる。

次に、確率測度

P

の集合

P

の解釈を述べる。

BCBS

2009

[3]

は、ストレステストの 諸原則において、ストレステストはリスク管理担当者、エコノミスト、業務管理担当者、

およびエコノミストといった関連する様々な専門家の意見を勘案し実施すべきであると述 べている。様々な専門家はそれぞれ異なる確率的信念を抱いていると考えられるので、こ れら確率的信念を複数の確率測度が存在すると捉えることで数学的に表現する。

定義

2.7

主観確率空間

P ∈ P

に対し、確率空間

(Ω, F

d

, P )

を定める。

以後の

2

章および

3

章では距離空間

(Ω, d)

を固定する。

2.2.2

蓋然性

「シナリオが発生する確率」を以下のように定める。

定義

2.8

シナリオが発生する

( P , ε)-

確率

確率測度

P ∈ P

および予め固定した正の数

ε

に対し、シナリオ

ω

が発生する

( P , ε)-

確率とは、

P (B

ε

(ω)) (2.3)

とする。

以下では、

P

ε

を明示的に示さなくとも議論が可能な場合、単に「シナリオが発生す る確率」と表現する。

「蓋然性があるシナリオ」を定義する準備として、蓋然性基準を以下のように定める。

定義

2.9

蓋然性基準

確率測度

P ∈ P

および予め固定した正の数

ε, ξ

の組

( P , ε, ξ)

を蓋然性基準と呼ぶ。

定義

2.10 π-

蓋然性があるシナリオ

(16)

π-

蓋然性があるシナリオ

ω

とは、蓋然性基準

π := ( P , ε, ξ)

に対し、

P (B

ε

(ω)) ξ (2.4)

を満たすとする。

定義

2.10

は、シナリオの

ε

近傍に対し、ある閾値

ξ

以上の主観確率が割り当てられて いるシナリオを「蓋然性があるシナリオ」とすることを表している。上述のとおり、確率 測度

P

をある専門家の確率的信念と捉えると、定義

2.10

はある専門家の確率的信念に基 づく「蓋然性があるシナリオ」であると解釈できる。

次に、様々な専門家の意見を集約した銀行としての「蓋然性があるシナリオ」を定義す る。ここで、ストレステストに参加する専門家を「エージェント」と呼び、全ての専門家 を表すエージェントの集合を以下のように定める。

定義

2.11

エージェントの集合

Λ

をエージェントの集合とする。

定義

2.12

蓋然性基準の集合

エージェント

λ Λ

毎に蓋然性基準

π

λ

= ( P

λ

, ε

λ

, ξ

λ

)

が定まるとする。

λ Λ

毎に

ε

λ

, ξ

λが定めるのは、シナリオの近傍や蓋然性の閾値の基準がエージェント λにより異なることを表すためである。

全ての専門家

λ Λ

の意見を集約した銀行としての「蓋然性があるシナリオ」を以下の ように定める。

定義

2.13

蓋然性があるシナリオ

蓋然性があるシナリオ

ω

とは、ある

λ Λ

が存在して、

ω

π

λ

-

蓋然性がある シナリオであることとする。

定義

2.13

は、誰か一人のエージェントが「蓋然性があるシナリオ」と判断したら、銀 行としても「蓋然性があるシナリオ」と判断することを表している。

「蓋然性があるシナリオ」を定義する方法は、定義

2.13

以外にも様々に定義することが 可能である。例えば、任意の

λ Λ

に対し、

ω

π

λ

-

蓋然性があるシナリオであると き蓋然性があるシナリオとすることもできる。これは、全てのエージェント

λ

が「蓋然性 があるシナリオ」と判断したら、銀行としても「蓋然性があるシナリオ」と判断すること になることを表している。しかし、ストレステストは想定外のシナリオをいかに拾い上げ るかが重要であると考えるため、本稿では銀行としての「蓋然性があるシナリオ」を定義

(17)

2.13

のように定めた。ただし、異なる「蓋然性があるシナリオ」の定義であっても、本稿 の議論は一般性を失うことなく適用可能である。

定義

2.13

のように「蓋然性があるシナリオ」を定義すると、例えば宇宙人の襲来とい う、ストレステストにおいて考えなくてもよいシナリオを「蓋然性があるシナリオ」に含 めなくて済む。全ての専門家がそのようなシナリオが発生する確率は極めて小さいと考 え、宇宙人の襲来するシナリオに全てのエージェント

λ Λ

ξ

λ未満の確率しか割り当 てないとき、宇宙人の襲来するシナリオは定義

2.13

より「蓋然性があるシナリオ」とは 判断されない。しかし、大地震や津波が発生するシナリオや戦争が勃発するシナリオに、

誰か一人のエージェントがそのようなシナリオが発生する確率は

ξ

λ以上だと主張したな らば、大地震や津波が発生するシナリオや戦争が勃発するシナリオは「蓋然性があるシナ リオ」と判断される。

2.2.3

シナリオセット

「シナリオセット」を以下のように定める。

定義

2.14

シナリオセット

F

d の元をシナリオセットと呼ぶ。

後の議論で必要となるため、シナリオセットの近傍を以下のように定める。

定義

2.15

シナリオセットの

ε

近傍

シナリオセットの

ε

近傍

G

εとは、

G ∈ F

d に対し、

G

ε

:= ∪{ B

ε

(ω) | ω G } = { ω

| ∃ ω G, d(ω, ω

) < ε } (2.5)

とする。

2.3

銀行の健全度

本節では、ストレステストを数学的に表現するために必要となる概念である「銀行の健 全度」、および銀行の健全度に関連する概念である「ディストレス状態」について述べる。

2.3.1

銀行の健全度

「銀行の健全度」を以下のように定める。

定義

2.16

銀行の健全度

(18)

時点

t = 0

における銀行の健全度

z

0 は定数ベクトル

z

0

= (z

01

,

, z

0K

) R

K

(2.6)

とする。また、時点

T

における銀行の健全度

Z

K

次元確率変数ベクトル

Z : Ω R

K

(2.7)

Z(ω) = (Z

1

(ω),

, Z

K

(ω)) (2.8)

とする。

以下の例に見るように、銀行の健全度を表す指標は通常複数存在すると考えられるため ベクトルとして定義した。

2.2

銀行の健全度

銀行の健全度の成分

Z

k

(ω), k = 1,

, K

の候補を以下に示す。

資本の充実度

 規制上の自己資本比率

VaR

ES

といったリスク量に対する経済資本の比率

流動性指標

期間損益

定義

2.17

銀行の健全度の集合

時点

T

における銀行の健全度の健全度

Z

の集合を

Z

とする。

このとき、集合

Z

の解釈を述べる。例えば、銀行に課される規制はその時々によって 変わる。規制に合わせ、銀行の健全度を計算する方法は変わるだろう。銀行の健全度の集

Z

は規制毎によって定まる銀行の健全度と解釈できる。あるいは、銀行の健全度の集

Z

は様々なストレステストの手法を表すものとも解釈できる。

本章の以下の部分では、銀行の健全度

Z

を固定する。

2.3.2

ディストレス状態

ディストレス状態を以下のように定める。

定義

2.18

ディストレス状態

ディストレス状態

D

とは、

R

K の空ではない部分集合であるとする。

(19)

以下の議論では、ディストレス状態

D

を固定する。

2.3

ディストレス状態

VaR

を超える損失といったように、銀行の健全度を表す指標のいずれかが予め定められた 閾値を下回って悪化する状態をディストレス状態とする。このとき、ディストレス状態は

(z

1D

,

, z

KD

)

を予め固定した

K

次元定数ベクトルとして、以下のように表される。

D = { (z

1

, z

2

,

, z

K

) R

K

| ∃ k, z

k

z

kD

} (2.9)

ディストレス状態に陥るシナリオの集合は

Z

1

(D) := { ω | Z (ω) D } (2.10)

と書ける。

ここで、以下を仮定する。

仮定

2.1

P (Z

1

(D)) ̸ = 0

かつ

Z

1

(D)

はコンパクトであるとする。

補題

2.1

ディストレスを覆うシナリオセット

任意の

ε > 0

に対し、

Z

1

(D) S

εを満たす有限部分集合

S

が存在する。

証明

C := { B

ε

(ω) | ω Z

1

(D) }

と置くと、明らかに

Z

1

(D) ⊂ ∪C := ∪

A∈C

A

である。つ まり、

C

Z

−1

(D)

の開被覆である。ところで、仮定

2.1

より

Z

−1

(D)

はコンパクトな ので有限部分集合

S := { B

ε

1

),

, B

ε

n

) } ⊂ C

が存在して、

Z

1

(D) ⊂ ∪S

である。

このとき、

S := { ω

1

,

, ω

n

}

と置くと、

Z

1

(D) S

ε を満たす有限部分集合

S

存在することがわかる。

補題

2.1

により、シナリオは非可算無限個であっても、コンパクト性を仮定すると

Z

1

(D)

を有限個のシナリオとその

ε-

近傍で覆えるので、ストレステストで用いるシナ リオの集合を有限集合に限ってもよい。このことを踏まえ、シナリオセットの集合を以下 のように定める。

定義

2.19

シナリオセットの集合 シナリオセットの集合

G

とは、

G := { G ∈ F

d

| G

は有限集合

} (2.11)

(20)

とする。

2.4

ストレステスト

本節では、前節までの内容に基づきストレステストおよびリバース・ストレステストを 数学的に表現する。

2.4.1

ストレステスト

2.1

節で述べたように、ストレステストとは「蓋然性があるシナリオセットに対し、各 シナリオが銀行の健全度に与える影響を評価する様々な手法の総称」であった。蓋然性が あるシナリオセットの集合を以下のように定める。

定義

2.20

ストレステストに用いるシナリオセットの集合

エージェント集合

Λ

に対し、ストレステストに用いるシナリオセットの集合

G Stress

Π とは、

G Stress

Λ

:= { G ∈ G |

全ての

ω G

Λ-

蓋然性があるシナリオ

} (2.12)

とする。

定義

2.21

ストレステスト

ストレステストとは、銀行の健全度

Z ∈ Z

、シナリオセット

G ∈ G Stress

Π 、シナリオ

ω G

に対し、銀行の健全度

Z (ω)

を求めることである。

2.4.2

リバース・ストレステスト

2.1

節に示したとおり、リバース・ストレステストとは「ディストレス状態に陥るシナ リオセットに対し、各シナリオが発生する確率を評価する様々な手法の総称」であった。

ディストレス状態に陥るシナリオセットの集合を以下のように定める。

定義

2.22

リバース・ストレステストに用いるシナリオセットの集合

銀行の健全度

Z ∈ Z

、ディストレス状態

D

に対し、リバース・ストレステストに用いる シナリオセット

G Reverse

D,

Z

とは、

G Reverse

D,

Z := { G ∈ G | ∀ ω G, ω Z

1

(D) } (2.13)

すなわち、

G Reverse

D,

Z = 2 Z

1(D)

∩ G (2.14)

(21)

とする。

定義

2.23

リバース・ストレステスト

リバース・ストレステストとは、予め固定したディストレス状態

D

Z ∈ Z

G ∈ G Reverse

D,

Z

任意の

ω G

に対し、シナリオが発生する確率

P

λ

(B

ελ

(ω)), λ Λ

を求めることである。

(22)

3

シナリオ尺度

本章では、「シナリオ尺度」という概念を導入し、シナリオセットの集合からシナリオ セットを選択する基準を与える。ストレステストやリバース・ストレステストに用いるシ ナリオセットの集合から最も好ましいシナリオセットを選択することをストレステスト実 施主体の意思決定問題と捉え、意思決定理論を用いることによりシナリオセットの選択基 準を与える。ストレステスト実施主体は合理的な意思決定主体だとする。ここで、

2

章に おいてストレステストにおける確率測度は主観確率に基づく確率測度との前提で議論を進 めたが、その主観確率は本章の議論で構成される主観確率に一致するとの前提を置く。サ ヴェッジらの貢献により、意思決定は主観確率に基づく確率測度関する期待効用理論を用 いることができることが示されており、彼らの理論を応用することでシナリオセットの選 択という意思決定を数学的に表現する。その上で、シナリオセットの選択基準である「シ ナリオ尺度」の具体例を提案する。

ストレステストやリバース・ストレステストにおいて選択するシナリオセットの好まし さを測る尺度を「シナリオ尺度」と呼び、以下のように定める。

定義

3.1

シナリオ尺度

シナリオ尺度

ρ

は、以下の性質を満たす集合関数

ρ : G → R (3.1)

である。

G

1

, G

2

∈ G , G

1

G

2

ρ(G

1

) ρ(G

2

) (3.2)

3.1

サヴェッジ型シナリオ尺度

本節では、サヴェッジの定理(

Savage, 1954

[29]

を用い、シナリオ尺度を定義する。

まず、銀行の健全度の集合を以下のように定める。

Z(ω)

はシナリオ

ω

の下での真の銀行の健全度の値を求めることができるとし、全ての シナリオ

ω

に対し銀行の健全度の値

Z(ω)

を求めると真の銀行の健全度

Z

を表す確 率変数が取る値が全て明らかにすることができる。現実には、全てのシナリオ

ω

対し銀行の健全度の値

Z (ω)

を求めることは不可能であり、ストレステストにおいては、

の部分集合であるシナリオセット

G

に含まれる各シナリオ

ω G

に対し銀行の健全度 の値

Z(ω)

を求める。これを、

の部分的情報であるシナリオセット

G

に基づき銀行の

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