中学校体育授業における教師行動に関する研究 − 教師行動の構造と教材との関係−
著者 岡沢 祥訓, 木谷 博記, 中井 隆司
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 44
号 1
ページ 57‑68
発行年 1995‑11‑24
その他のタイトル The Effect of Teacher Behaviors on the Subject Matter to Physical Education Class in Junior High Schools
URL http://hdl.handle.net/10105/1621
中学校体育授業における教師行動に関する研究
一教師行動の構造と教材との関係‑
同,i;汗 Jll
(奈良教育大学体育学教室) 木 谷 博 記
(六郷小学校) 中 井 隆 司
(長崎県立大学) (平成7年4月27日受理)
I.緒 言
授業は多種多様な要素から構成されており、しかもそれらの構成要素間の関係は複雑である。
そのため、これまでの授業研究の多くは実践報告の域を出ず、 「あらかじめ実践者や研究者が抱 く偏見によって結果を見てしまったり、都合のよい部分のみを抽出・拡大して評価するような傾 向がみられた」という指摘がなされている(14)。
そこで、最近の授業研究は、授業を構成している要素の検出を目的に行われるようになってき た。たとえば、水越(5)は、授業システムを構成しているものとして、 ①授業目標、 ②学習指導法、
③学習活動、 ④教授組織、 ⑤学習集団、 ⑥学習形態、 ⑦教育メディア、 ⑧学習時間、 ⑨スペース、
⑲評価、といった10個の授業構成要素と、それらのサブ要素83個を示し、坂元(13)は、授業設計の ための構成要素として、 ①目標、 ②内容、 ③教材、 ④展開、 ⑤教授媒体、 ⑥指導法、 ⑦指導形態、
⑧教授活動、 ⑨学習者の特性、 ⑲評価問題、を示している。また、このことに関連して、これま でブラック・ボックスであった授業での過程的事実を客観的に分析するための方法として、いく つかの優れた「授業観察法」が開発され(2)、これらを適用して多様な研究が報告されてきた。し かし、これまで行われてきた研究成果を通覧する限り、体育授業の過程的事実の分析(記述・分 析的研究)に焦点があり、授業過程の事実や授業成果に対して作用する諸変数を総合的に研究の 対象として位置づげ、それらの諸変数の関係を検討したものは少ない(12)(20)。
このような実状を踏まえて、われわれは、主に小学校の体育授業を対象に、授業過程の教師行 動や生徒行動の様態と児童の授業評価との関係を授業観察法を用いてさまざまな角度から分析す
ることによって、児童の授業評価に有効に作用する教師行動の一般的特性を明らかにしようとし てきた。その結果、 (塾教師行動と児童の学習行動及び授業成果(児童による授業評価)との関係 から、教師の肯定的な相I'L作用が児童の学習行動や授業評価にプラスに作用し、否定的な相互作 用はマイナスに作用すること(18)、 (塾教師行動の類型と児童による授業評価との関係から、間接的 な働きかけで児童の主体性を引き出そうとする教師や流動的・肯定的な相互作用を営む教師の方 が、直接的・権威的な教師や形式的説明を加える教師より児童から高い評価を受けること(9)、 ㊨ 教師行動と教師特性との関係から、向性(外向一内向)や神経症傾向といった教師のパ‑ソナリ
ティ特性や教師の教職経験年数が教師行動と関係すること(9)、 ④教材(運動領域) 、教師の教職
57
経験といった要因が児童の学習行動に影響を及ぼすこと(17)、 ⑤児童の学習行動と授業成果(児童 による授業評価)との関係から、 「体育的内容」 、 「従事行動」 、 「ALT‑PE」の割合が高い 授業ほど授業評価が高くなること(17)(18)、 ⑥授業中の教師行動は授業のプログラムやコンテキスト の変数によって差異が生じ、その差異は、児童の学習行動にはあまり影響しないが、学習成果に は大きく影響を及ぼすこと(7)、 ⑦体育授業中の教師行動は「マネ‑ジメソト」 、 「直接的指導」 、
「巡視」 、 「相互作用」の4大教師行動から成り立っており、熟練教師の万が一一般教師より児童 と多くの肯定的相互作用をもっていること。くわえて、授業評価の高い授業では、マネージメソ トや直接的指導の時間が少なく、発問、受理、技能に関わる矯lE的フイ‑ドバック、励ましなど の相互作用が多く適用される傾向がみられる一方で、行動に関する否定的フィードバック、技能 や認識に関する否定的フィードバックは少ないこと(19)、などが明らかになった。
しかし、これらの研究は特に小学校における体育授業中の教師行動に焦点があり、教科専任制 のもと、教師の専門的な力量を重視した授業が行われる傾向がある中学校の体育授業を対象とし た教師行動の ‑椴的特性を総合的・構造的に検討できたわけではなかった。
もっとも、これまで中学校の体育授業に焦点を当てた研究がなかったわけではない。たとえば、
岡沢ら(8)は、生徒行動とコソテキスト変数との関係から、教材、性別、授業時間の長さ、学習場 所、クラスの人数といった要関が生徒の学習行動に影響することを明らかにし、大友らは、 (彰生 徒行動と生徒の技能水準の関係から、技能水準の高い生徒は、 「運動での反応」 、 「運動の ALT」 、 「主運動のALT」に高い値を示し、練習場面やゲーム場面で積極的に運動に従事して
いること(10)、 ②生徒行動と生徒の体育授業に対する愛好的態度の関係から、体育授業に対する愛 好的態度の高い生徒は、ゲーム場面で積極的に運動学習に従事し、高い割合の「運動のALT」
を示すこと(ll)、などを明らかするとともに、効果的な教授技術や方略を示している0
しかし、これらの研究は授業過程の生徒行動を中心に、他の授業構成要素との関係から教授技 術や方略を推定しているものであり、事実としての教師行動を総合的に捉え、各行動のもつ影響 力を分析したものではない。授業において、設計者、実施者、評価者という3つの異なる役割を 同時にもっている教師(21)を抜きにして得られた授業改善の具体的示唆には、その不十分さが認め られる。そのため、これまで明らかにされた教師行動の一般的特性を踏まえながらも、改めて中 学校を対象とした体育授業中の教師行動を総合的・構造的に捉え直す必要があると考えられる。
そこで本研究では、 Birdwell"によって開発されたALT‑PE‑TB及びSteward による ORRPETBを修正して、高橋らが作成した教師行動観察法(19)を用いて、中学校の体育授業にお ける教師行動を総合的・構造的に観察記述するとともに、それらの教師行動が教材(運動領域) によってどのように異なるのかを検討しようとした。このような研究によって得られる知見は、
教師行動の一般的傾向(画I一一・的な教師の学習指導法)に加えて、教材(運動頚城)別の教授技術 や方略に対して具体的な示唆を与えるであろうと考えられる。
II.研究の方法 1. a *
表1に示されたように、中学校(奈良県、大阪府)の現職教師(29名)が担当した29の体育授 業を分析対象とした。収録した授業はいずれも単元の「なか」の部分で、運動学習を中心とした 学習指導が行われた。なお、本研究の対象とした授業は、そこで取り扱われた主たる教材(運動
領域)から「球技」 、 「陸上競技」 、 「器械運動」の3つの授業性1)に分類された。
表1 対象(教師,教材,教職経験年数)
教 職 経 験 年 数 別
基盤形成期充実・発展期 円熟期 (1‑ 年) (10‑29年) (30年〜)
^a^^^^^^^^^^Esi 別
計 球 技 陸上競技 器械運動 教 師 数 19 29 19
教職経験年数 13.59 15.26 12.57 5.33
X (S・D) ( 7.36) ( 7.07) ( 6.97) ( 2.49)
1人の教師について1教材・1授業を観察した。なお、教職経験年数の分類は、立花の教師のライフス テ‑ジ分類により行った(ttz)
。
2.期日
授業の観察は、1992年3月上旬から7月中旬にかけて行われた。
3.教師行動の観察・記録
授業中の教師行動を1台のVTR及びワイヤレスマイクで収録し、後に研究室で高橋らが作成
した「教師行動観察法(19)」を用いて記述分析を行った(表2)。この観察法は、3次元で構成さ れており、第1次元では、授業場面を観察し、生徒全体の学習行動の様態から、マネージメソト 場面か体育的場面かのいずれかが決定され、さらにその下位カテゴリーである具体的な学習場面 が記録される。第2次元は、2つの授業場面における教師の言語的・非言語的行動の特性を観察 するもので、主として相互作用、直接的指導、補助的活動、巡視、維持・管理、非機能のカテゴ リ‑及びそれぞれの下位カテゴリーのいずれかに記録される。第3次元では、教師行動が向けら れる対象生徒が観察され、個人、小集団、クラス全体のいずれかのカテゴリーに記録される。
表2教師行動の観察カテゴリー
次 元 カ テ ゴ リ
1.授業場面 1)体育的場面 2)マネージメソト場面
2.教師行動
1)相互作用 a)発問:①価値的 ②創意的 ③分析的 ④回顧的 b)受理:①受理・受容 ②解答 ③傾聴
C)フィードバック:①肯定的(技能的,認知的,行動的)
②矯正的(技能的,認知的,行動的) (彰否定的(技能的,認知的,行動的) d)励まし:①技能的 ②認知的 ③行動的
e)補助的相互作用 2)直接的指導 a)演示
b)説明:①学習目標 ②学習内容 ③学習方法(組織化) C)指示:①指示 ②合図
3)補助的活動 a)補助 b)運動参加 C)審判・記録の伝達 4)巡視
5)維持・管理 6)非機能
サ3^H 1)個人 2)小集団 3)クラス全体
分析の方法は、 3秒を1単位とし、 3秒間で起こった教師の言語的・非言語的行動をカテゴリー の定義や具体例に従って記述した。 1単位時間に2つ以Lのイベントが生じた場合には、優先シ ステムに従って授業成果に有効な行動であると予想されるイベントを優先して記録した(江3'。分 析は3名で行われ、全てのカテゴリ‑において分析者相互間の‑一致率が80%以上確保̀拝4)される
まで訓練された分析者である。
4.データの分析と統計処理
全てのデータ処理は、奈良教育大学情報処理セソタ‑のSPSSプログラムパッケージを用い て行った。
III.結果と考察
1.中学校体育授業における教師行動の実態
表3は、中学校での体育授業中の各教師行動について、 29授業の平均値で示すとともに、比較 対象として小学校66体育授業の教師行動の平均値(19)を示している。
<中学校体育授業における4大教師行動の確認>まず主要な教師行動に充てられた割合をみる と、マネージメソト場面の行動は、 29.07%である。一方、体育的場面での直接的指導は15.42%、
巡視28.61%、相互作用21.62%であり、これら4つの行動で94.72%になる。また、小学校と比 較してみると、直接的指導を除いてほとんど差はみられなかった。
シーデソトップの報告(14)では、マネ‑ジメソト17‑35%、直接的指導14‑37%、巡視20‑45%、
相互作用3‑16%の範囲で示されているが、本研究の結果は、小学校での体育授業と同じように 相互作用の値を除いて彼の報告の範囲にある。本研究で得た榊互作用の割合が著しく高くなった ことが注目されるが、小学校での体育授業においても同じような割合を示していることから、学 校段階を越えたわが国の体育授業に於ける教師行動の特性である考えられる。以上のように、中 学校体育授業での教師行動は、小学校と同じく、 4大教師行動から成り立っていることが確認で きた。
次に4大教師行動の下位カテゴリ‑についてみると、以下の点が注目できる。
くマネージメント〉マネージメソトは、授業に関わった準備や整理に充てられる活動場面や行 動を意味するが、これらが全体に占める割合は29.07%である。そこでの教師行動の大半は「維 持・管理」 7.14%、 「説明」 6.93%、 「指示」 5.62%、 「巡視」 3.69%であり、これらで23.38
%になる。小学校での体育授業の結果と比較すると、全体量ではほとんど差異は認められないが、
下位項目で、両者に差異が認められる。まず、 「フィードバック」についてみると、中学校は小 学校に比して、 「矯正的フィードバック」が有意に多く、逆に、 「肯定的フィードバック」、
「否定的フィードバック」が少なく、小学校体育授業におけるフィードバックの内容と異なる傾 向を示している。また、 「励まし」についても中学校の方が有意に少なくなっている。また、
「説明(学習の組織化) 」 「維持・管理」については、中学校の方が有意に多く、その分「巡視」
が少なくなっている。
以上のことから、 +学校での体育授業中の教師のマメ‑ジメソトは、小学校と比較して授業に 関わった準備や整理に関する説明が多く、やや矯正的な雰囲気の中で行われていたと思われる。
く直接的指導〉直接的指導が占める割合は15.42%であるO これはシ‑デソトップの報告と比
表3 中学校体育授業における教師行動の構造(学校段階別を含む)
学 校 段 階
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(S. D)
ト "r" 柁 (n‑66)
(S. D)
差
V‑ J ニ 29.07(10.54) 27.04(10.45)
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‑0.24*
0.48 0.17*
2.87*'
‑0.89
‑2.69*"
1.77*
21.62( 9.46) 21.48C 7.42)
受理・受容
解 答 傾 聴
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1.02( 1.14) 0.04( 0.21) 0.13( 0.22) 0.49( 0.62) 0.37( 0.49) 2.58( 2.58) 0.89( 0.89) 0.26( 0.47) 1,43( 1.97) 9.02( 3.63) 3,12( 2.23) 2.92C 2.07) 0.12C 0.21) 0,08( 0.18) 4.47C 2.29) 3.04( 2.03) 0.12C 0.28)
1.3K 0.89)
1.49C 1.26) 0.95( 1.ll) 0.OS( 0.ll) 0.50( 0.68) 2.50( 2.67) 2.29( 2.60) 0.15 (0.32) 0.07( 0.16) 6,43( 4.05)
‑0.42
‑0.02
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5.79*"
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‑0.05*
一0.40**
‑0.85
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0.14**
‑0.47
直 接 的 指 導 15.42( 8.22) 21.29( 7.50) ‑5.87"
*W
*説
学習の目標 学習の内容 学習の方法
*指 示
指 示 IT b可
1.45C 3.15) 5,44C S.70) 0.39( 0.93) 3.38( 4.49) 1,67( 2.21) 8.54( 3.44) 7,60( 3.46) 0.94( 1.34)
1.29( 1.93) 6.12( 4.25) 0.33C 0.49) 3.26( 3.36) 2.53C 2.66) 13.88C 6.01) ll.67C 5.29) 2.21( 3.22)
O.lfi
‑0.68 0.06 0.12
‑0.86
‑5.34"*
‑4.07***
‑1.27*
学 習 の 補助 的 活 動 3.98( 5.94) 2.85C 3.34)
*補 助
*運 動 参 加
*審判・記録の伝達
0.38( 0.47) 2.56C 5.41) 1.04( 2.39)
1.29( 2.13) 0.25( 0.93)
1.3K 2.73)
‑0.91*
2.31**
‑0.27
巡 視 28.61(ll.48) 25.86(ll.94) 1.3K 2.29) 1.47C 1.14)
24.19(10.22) 35.43(12.46) 40.38(14.29)
24.57(12.20) 17.58(ll.18) 57.85(14,08)
‑0.38 17.85"*
‑17.47"**
(n‑授業数) Cp<0.05, …p<0.01, …詛p<0.001)
較するとかなり少ない部類に属する。その内訳をみると「指示」 8.54%、 「説明」 5.44%、 「演 示」 1.45%となっており、 「説明」以上に「指示」が大きな値を示している。小学校と比較する と、 「指示」を除いてほとんど差は認められない。 「指示」については、小学校教師の方が有意 に多く適用する傾向が認められるが、これは、中学校での体育授業の内容が、技能学習中心で行 われた結果、小学校での体育授業に比べて授業場面の転換が少ないことを示している。
く巡視〉巡視の割合は28.61%である。シーデントップの報告では、 20‑45%であるため、本 研究の結果は少ない方である。また、小学校との間には大きな差は認められない。
く相互作用〉相互作用は全時間の21.62%で、シーデソトップの報告(3‑16%)に比べて大 きな値が得られた。直接的指導の割合が少なかった分が、相苛二作用に充てられていると考えてよ い。下位項目に注目すると、 「フィードバック」 12.47%、 「補助的相互作用」5.96%、 「励ま
し」 1.65%、 「受理」 0.94%、 「発問」 0.60%の順に高い値を示している。フイ‑ドバックは技 能学習に関連して多く与えられるが(10.81%) 、特に矯正的フィードバックが多い(10.33%) 。 小学校の結果と比較すると、全体量ではほとんど差異は認められないが、補助的相互作用を除い た下位項目で、両者に差異が認められる。まず、 「発間」についてみると、中学校では「創意的 発間」や「分析的発間」が少ないうえに、 「受理」の下位項目である「受理・受容」 、 「解答」 、
「傾聴」のすべての項目が少ないことから、発問‑ (応答)一受理といったサイクルで生徒の発 言や疑問を引き出すような認識場面を設定したり、それらに耳を傾けるような教師の行動がほと んど用いられていないことが窺える。また、 「フイ‑ドバック」については、マネージメソト場 面と同様に中学校では、 「矯正的フイ‑ドバック」が多く(中学校10.33%:小学校4.47%) 、
「肯定的フイ‑ドバック」 (中学校1.93%:小学校3.12%)や、 「否定的フイ‑ドバック」 (中 学校0.21% :小学校1.49%)が少なくなっている。その中でも特に、技能に関わる「矯正的フィー
ドバック」が小学校と比較して多くなっていることから、中学校の教師が、技能学習に焦点をあ てて生徒の技術達成や技能向上に対して積極的にフィードバックを行っていることがわかる。
く教師行動が向けられる対象〉 もう1つの次元である、教師行動が向けられる対象についてみ ると、 「クラス全体に対する行動」 40.38%、 「小集団に対する行動」 35.43%、 「個人に対する 行動」 24.19%となっており、クラス全体を対象にした行動が多い。小学校と比較してみると、
中学校では小学校に比べてクラス全体に対する働きかけが有意に少なく、逆に小集団に対する働 きかけが有意に多い。しかし、このことは、対象となった教材(運動額域)数が等しいわけでは なかったので、これらの結果をただちに一般化することは困難である0
以上の結果を総括すると、中学校体育授業における教師行動は、特に「マネージメント」 「直 接的指導(指示) 」 「相互作用(発問・受理・フィードバック) 」 「対象次元」にその特徴がみ られる。つまり、マネージメソト場面での説明が多く、授業の雰囲気は肯定的フィードバックや 励ましが少なく、矯正的フィードバックが多いことからやや矯正的であった。また、授業内容は 技能に関するフィードバックの多きから、技能学習を中心に授業が実施されていたといえよう。
その一方で、発問一受理がほとんどみられなかったことから、中学校教師は生徒の知的学習をあ まり大切にしていないことが窺われる。しかし、このような結果は、 「知識に焦点を当てた時間 の長さは、よい授業と悪い授業との間で差異がみられない」 (Siedentop(14),pp.62‑63)という先 行研究の結果が示すように、このことを直ちに授業の評価に結びつけるのではなく、中学校の1‑一 般的な体育授業の実態として捉えるべきであろう。
表4 教材の種類と教師行動の関係
教 材 別 球 技
(n‑19) (S. D)
陣 上嘩ft
(n‑7)
(S. D
器械運動
(nこ‑3)
(S. D)
マ ネ ー ジ メ ソ ト 25.75C 7.68) 36.81(14.09) 32.04(10.02)*発 問
*受 理
*フ イ ‑ ドパ ッ ク
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*補助的相二を二作用
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22.14(10.68) 21.59C 6.73) 18.34C 8.45)
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*フ ィ ー ドバ ッ ク ti i IIL)
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直 接 的 指 導 14.07(7.78) 13.39C4.44) 28.67(6.77)
*演
* ,s亡
Lr**yi") け 学習の内容
TW、'ヽ ),‑i、
ilifi g冠 rtf
合 図
0.93( 1.48) 5.74C 6.36) 0.60C 1.ll) 3.46( 5.10) 1.68( 2.21) 7.40( 2.96) 6.72C 2.71) 0.68( 0.68)
0.63( 1.45)
2.6K 2.54)
0.00( 0.00) 1.76C 2.19) 0.86( 1.48) 10.15( 2.81) 8.48( 3.S 1.67( 2.33)
6.6K 8.27) 10.1K 3.08)
O.OOC O.OO) 6.64( 2.89) 3.47C 3.22) ll.96( 4.91) ll.09( 5.09) 0.86( 1.50)
学習の補助的活動 5.64( 6.74) 0.90C 1.67) .63( 0.74)
*寺甫 助
*運 動 参 加
*寒til・nilM'‑iitご、達
0.43( 0.51) 3.88( 6.33) 1.32( 2.79)
0.16( 0.21) 0.06( 0.ll) 0.69( 1.61)
0.56( 0.62) 0.00( 0.00) 0.07( 0.12)
巡 視 30.96(ll.06) 25.94(10.64) 19.95(14.68)
1.44( 2.70) 1.36( 1.40) 0.37C 0.35)
21.OK 9.78)
40.20(12.14) 38.78(16.28)
31.39( 7.42) 27.42C 6.40) 41.19C 3.58)
27.57(ll.91) 23.84C 9.00) 48.59(17.53)
(n‑授業数)
2.教材(運動領域)の種類と教師行動
体育授業における教師行動は、授業で取り扱われる教材(運動領域)の種類によってかなりの 差異が生じることが予想できる(注5)。もし顕著な差異が生じるとすれば、教材(運動領域)の種 類を無視した平均的数字から画一的な教師の学習指導法を提示することには問題がある。そこ で、本研究で対象となった体育授業を、 「球技」 、 「陸上競技」 、 「器械運動」の3つに分類し、
それぞれの教師行動の各カテゴリーの平均値を求めた。表4は、授業で取り扱われる教材(運動 領域)の種類別に教師行動の各カテゴリ‑の平均、標準偏差の結果を示したものである。
くマネージメント〉まず、マネ‑ジメソト場面に費やされる割合は、球技(25.75%)に比し て陸上競技(36.81%)や器械運動(32.04%)でその値が高い傾向がみられた。このことは、教 材によってマネ‑ジメソトの時間がかなり大きな幅で変動するという先行研究の結果(拝6)に符合 しており、陸上や器械運動の教材を取り扱う授業では、特に、マネージメソト場面での準備や場 面設定にかかる時間量を短縮する工夫が必要であろう。
く直接的指導〉次に、直接的指導に費やす割合は、球技(14.07%)や陸上競技(13.39%)に 比して器械運動(28.67%)が高く、他の運動教材のほぼ2倍の値を示している。また、下位項 目についても、その時間割合に差異が認められる。すなわち、 「演示」については、器械運動に その割合が高く(6.61%) 、 「指示」についても、器械運動が球技に比して高い値を示している (ll.96%) 。先にも指摘したように、中学校全体では、教師が知的学習にあまりウエイトをお いていない傾向が認められたが、器械運動という教材の特性から、その技術内容の説明や牛徒が 陥りやすい失敗を教師が演示する行動を多く用いることが推察できる。しかし、このことは、単 に教材の特性だけではなく、器械運動の対象となった教師の教職経験年数が他の教材に比して少 ないこと(5.33年)にも起因していると考えられる。つまり、教職経験の少ない教師の方が、直 接的・権威的で形式的な説明を加える割合が多いという先行研究の結栄(10)が示されており、今後 は特に、この器械運動に焦点をあてた研究を行う必要があると思われる。
く巡視〉巡視の割合は、球技30.96%、陸上競技25.94%、器械運動19.95%と、ゲームなど集 団的学習場面を多く設定している球技が他の教材(運動領域)と比較して多くなる傾向がみられ
o
く相互作用〉相互作用の割合は、球技22.14%、陸上競技21.59%、器械運動18.34%と、器械 運動が若干少ないが、下位項目においてはほとんど差は認められない。
く教師行動が向けられる対象〉教師行動が向けられる対象は、個人スポーツである陸上競技が 球技より「個人に対する行動」が多く、逆に、集はスポーツである球技は陸上二競技.器械運動よ り「小集団に対する行動」が多くなる傾向がみられた。このことから、その教材が集団的か個人 的か、といった特性が直接影響していることが確認できた。
以上のように、教材(運動盾域)によって授業中の教師行動に大きな差異が認められた。教材 (運動領域)別にみてみると、球技は、教師のマメ‑ジメソトや直接的指導が少なく、巡視や小 集団に対する働きかけが多くなる傾向がみられ、陸上競技では、教師の直接的指導が少なく、マ メージメソトや個人に対する働きかけが多くなる傾向がみられた。また、器械運動では、教師の マネージメソトや直接的指導(説明)が多く、巡視が少なくなる傾向が認められた。
以Lのことから、教材は体育授業中の生徒行動(ALT‑PE値)に対して影響を及ぼすとい う先行研究の結果(17)とともに、教材は教師行動をも含めた授業過程全体に対して大きな影響力を もつ要田であることが認められた。つまり、その教材(運動領域)が、集団スポーツか個人スポー
ツかという軸Lのどこに位置しているのか、という特性が教師行動をも含めた教師の学習指導法 を規定し、そのことによって、必然的に生徒行動も異なってくると考えられる。また、教材(運 動領域)の種類によってその数値に差異が生じるということは、各教材(運動領域)に対応した 有効な教師の学習指導法を事例的に作成する必要性を示唆している。
Ⅳ.摘 要
これまで、小学校を対象とした体育授業中の効果的な教師行動は総合的・構造的に明らかにさ れてきたが、中学校の体育授業中に教師が何を行っているかという事実は総合的・構造的に理解
されてこなかった。そこで本研究では、中学校教師29名による29の体育授業を対象に体育授業に おける教師行動を総合的・構造的に観察記述するとともに、それらの教師行動が教材によってど のように影響を受けるのかを検討した。なお、教師行動は、 3次元からなる組織的観察法によっ て分析された。
その結果、次のようなことが明らかになった。
(D 中学校での体育授業中の主要な教師行動は、マネージメソト、直接的指導、巡視、相互作用 の4つに大別された。小学校においても同様の結果が得られていることから、学校段階を越え た日本の体育授業中の教師行動が「4大教師行動」であることを示していると思われる。
(診 小学校と中学校の教師行動の間に大きな差がみられた。その中でも特に、中学校の体育教師 の方が発間、受理、肯定的フイ‑ドバックが少なく、逆に、マネ‑ジメソト(説明) 、矯正的
フィードバ・yク(技能的)が多くみられ、技術指導を中心に比較的矯正的に生徒と関わってい た。
③ 授業で取り扱われる教材(運動領域)によって体育授業中の教師行動は異なることが認めら れた。その特徴として、球技は、教師のマネージメソトや直接的指導が少なく、巡視や小集団 に対する働きかけが多い。陸上競技は、教師の直接的指導が少なく、マネージメントや個人に 対する働きかけが多い。そして、器械運動では、教師のマネージメントや直接的指導(説明) が多く、巡視が少ないことが明らかであった。
注
(1) 教材(運動商域)の分類は中学校指導書(6)に基づいて行った。その内訳は球技(バスケットボール、
バレーボール、卓球、バドミソトソ、ポール運動) 、陸上競技(短距離走、障害走、走り高跳び) 、 器械運動(マット運動、鉄棒)である。
(2) 教職経験年数の分類は、立花(16)の分類に基づいて行った。立花は、教師の教職経験年数を教師のライ フステージから「基盤形成期(入門期(1 年)・成長期(4‑ 年))」 、 「充実・発展期(充実期 (10‑19年・発展期(20‑29年))」 、 「円熟期(完成期(30年以L))」の3つに分析し、各期間におけ る教師像や生涯設計のタイプなどについて検討を加えている。
(3) 秒の観察時間で2つ以Lの行動が観察された場合、授業成果に有利であると仮定される行動が優先 的に記録される。具体的には、図1の各次元の上方に位置する行動(数の少ない番号)が優先して記録 される(19)
(4) この観察法による観察記録の信軒性を保つために、観察者相互間の記録の一致率がSI I法 (Scored‑Interval Method)によって算出された。算出法は、 「一致率‑一致÷(一致+不一致)」の計 算式である。この計算を各イソタ‑バル毎に行い、全ての 一致率が80%になることが求められる(4)。
(5) 子どもの学習行動(ALT‑PE催)は教材(運動領域)の種類によって変動する、という先行研究 (17)から教師行動にも影響することが予想される。
(6) McleishO'は、教材によってマネージメソトの時間がかなり大きな幅で変動するとし、テニス、サッ カー、バスケットポ‑ル、バレ‑ポ‑ル、バドミソトソなどを教材とする授業では、その値は20%bU 後であった。ところが、水泳では14%、フイトネスでは7%、また器械体操(器械運動)では32%で
あった、と報告している。
文 献
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The Effect of Teacher Behaviors on the Subject Matter to Physical Education Class in Junior High Schools
Yoshinori Okazawa
(De如iment of Physical Education, Nara University of Education, Nara 630 , Japan) Hiroki Kitani
(Rikugou Elementary School, Nara 632‑01 , Japan) and
Takashi Nakai
(De妙iment of Ecα従汐柁y, Nagasaki Prefectural University, Nagasaki 858 , Japan) (Received April 27, 1995)
The purpose of this study was to make clear the structure of teacher behaviors in physical education class in junior high schools and to examine the effect of the subject matter on those behaviors. The subjects were 29 physical education classes instructed by 29 teachers in junior high schools. The teacher behaviors in those classes were observed by the systematic observation instrumentation.
Main findings were as follows.
1)Major teacher behaviors in physical education class in junior high schools were management, instruction, monitoring, interaction. Though Siedentop.D reported 3
behaviors excluding interaction as the major behaviors, we could recognize that interaction behavior took the same rate as other behaviors.
2)There were significant differences between junior high school teacher s behavior and elementaly school teacher s behavior. Especially, the amount of time spent for management and corrective feedback of junior high school teacher s behavior were more than elementaly school teacher s behavior. But the amount of time spent for question, acceptance and positive feedback of junior high school teacher s behavior were lower than elementary school teacher s behavior.
3)The result of teacher s behavior was affected by subject matters. The more amount of time was spent for management on Track and field and Gymnastics than on Ball game. The more amount of time was spent for direct instruction on Gymnastics than on Track and field and Ball game.