1. は じ め に
アスコルビン酸 ( ビタ
ミン ) は水溶性のビタミンである。 は グルコースから生合成される [1]。 ヒト、 霊長 類、 モルモットは グロノ γ ラクトン酸化酵素 の欠損により を合成することができない [2] (図1)。 細胞膜には還元型と酸化型 の両方のトランスポーターが存在する [3 4]。
1932年、 は
の結晶構造を報告し、 その生理作用が抗壊血病因 子であることを見い出した [5 6]。 壊血病は 重篤な 「ビタミン 欠乏症」 で、 コラーゲンな どの細胞外マトリックス形成障害により毛細血管 や骨の脆弱化が起こり、 出血や骨折さらに成長阻 止等を引き起こし、 最後には死に至る。 は コラーゲン合成過程において、 プロリンの水酸化 反応を促進するコファクターとして作用し、 体内
両親媒性アスコルビン酸誘導体の抗酸化機能 田中 英彦
(平成16年11月30日受理)
( 30 2004)
( ) ( )
( )
( )
福岡大学理学部化学科
8 19 1 814 0180
のコラーゲン量を調節している。
1970年、 は
の中で、 (1) 環境汚染物質やス トレスは肝臓や副腎での の消耗を増大させ る、 (2) を合成できる動物は1日に約10g の を合成する、 (3) の吸収効率はヒ トが他の動物より格段に優れているとはいえない ということを根拠に、 の大量摂取 (数g/
日) を提案した [7]。 大量に摂取された はシュウ酸に分解され、 腎臓結石の原因との報告 があったが、 水溶性である は短時間の内に のまま尿中に排泄されるため、 害は無いと 考えられている。 の提案は と壊血 病の関係だけに留まらない新しい の機能探 索のための出発点となった。 また、 今日、 多くの
ビタミンやアミノ酸がサプリメントとして大量に 摂取されるようになった。
1969年、 と によりスーパー オキシドジスムターゼ ( ) が見い出され、
生 体 内 で 生 じ る 活 性 酸 素 種 (
) の研究から、 が多くの疾患 の原因ではないかと考えられるようになった [8]。
はミトコンドリアの電子伝達系や免疫防御 反応過程で、 常に生体内で生成している。 健康な 状態では、 生成する を やカタラーゼ 等の抗酸化酵素、 あるいは 、 グルタチオン、
ビタミン などの低分子抗酸化剤により消去し、
生成と消去のバランスが保たれている。 しかし、
虚血や炎症等により、 このバランスが の生 成に傾くと、 障害、 脂質過酸化、 酵素の失
図1 アスコルビン酸の生合成と代謝分解
図2 活性酸素障害機構
活等により種々の疾患が起こると考えられている (図2)。
はγ ラクトン環内にエンジオール基を持 ち、 強い還元性を示す。 血漿中において は 最も重要な抗酸化剤である。 さらに、 は膜 中で脂質ラジカルの消去に働くビタミン との 相乗効果により、 様々な場において抗酸化作用を 示す [9 10]。
現代は大気汚染や様々なストレスにより 「潜在 性ビタミン 欠乏症」 の人口が増加しており、
長期化した場合、 感染症、 癌、 動脈硬化等の生活 習慣病や老化の原因になっていると考えられてい る。
2. の酸化と還元
の 値は約4 2で、 生体内ではアニオ ン型として存在している。 アニオンは酸素 や微量の遷移金属イオンにより容易に酸化され、
モノデヒドロアスコルビン酸 ( ) を経て デヒドロアスコルビン酸 ( ) となる。 生体 内では、 生成した や はそれぞれの 還元酵素により ヘと還元される (図3)。
では、 は加水分解により2 3 ジケトグ ロン酸になり、 さらに、 溶液の 、 酸素の有無 等 の 条 件 に よ り 、 様 々 な 分 解 産 物 を 生 成 す る [11 12]。
3. 5 メチル 3 4 ジヒドロキシテトロンの 生成と精製
を0 5 硫酸溶液中で90℃、 1時間加熱
すると、 から2 5 3
、 さらに、 2 3 4
を経て5 メチル 3 4 ジヒドロキシテトロン ( ) が生成する (図4)。 は と同 様に、 γ ラクトン環内にエンジオール基を持ち、
強い還元作用を示すと共に、 5がメチル基であ ることから、 有機溶媒にも可溶である。 このこと は、 は水溶液中だけでなく、 疎水的環境下 図3 アスコルビン酸の酸化と還元
図4 アスコルビン酸の分解と5 メチル 3 4 ジヒドロキシテトロンの生成
である膜内においても抗酸化作用を示す両親媒性 抗酸化剤として作用する可能性を示している。
の精製過程を図5に示す。 加熱溶液中の を酢酸エチルで抽出した後、 同時に抽出さ れる3 ヒドロキシ 2 ピロンとフロ酸を
10ゲルろ過と イオン交換ク
ロマトグラフィーにより除去し、 エーテル中で結 晶化した。 得られた結晶が であることを
13 スペクトルにより確認した [13]。
4. の抗酸化作用
の水溶液中及び有機溶媒中でのフリーラジ カル消去能を測定した (図6)。 ニトロキシ ( ) ラ ジ カ ル (3 2 2 5 5 3
1 ) を 10
7 4 ( ) に溶解した後、
あるいは を添加し、 ラジカルの電子ス ピン共鳴 ( ) シグナル強度の時間変化を測 定した。 シグナル強度が50 減少する時間は、
中では、 は7分、 は15分であっ た。 同様に、 エタノール中では、 は17分、
は 25 分 と 、 い ず れ の 場 合 も に 比 べ は強い還元性を示した。 次に、 脂肪酸の異 なった部位にニトロキシラジカルが結合したプ 図5 5 メチル 3 4 ジヒドロキシテトロンの
精製過程
図6 遊離ニトロキシラジカルの還元
●: ステアリン酸/エタノール、
■: /エタノール、
▲:ビタミン /エタノール、
○: / 、
□: /
図7 リポソーム中のニトロキシラジカルの還元
○:5 / 、
□:5 / 、
●:16 / 、
■:16 /
ロ ー ブ 、 ( 4 4 2 ) ( )をホスファチジルコリン ( ) リポソーム膜に取り込ませて様々な深さに スピンラベルし、 および による還元 作用を調べた (図7)。 は膜表面にあるスピ ン プ ロ ー ブ (5 ) を わ ず か に 還 元 し た が 、
は 膜 表 面 の 部 位 だ け で な く 、 膜 疎 水 部 (16 ) においても、 強い還元作用を示した。
さらに、 脂溶性ラジカル発生剤2 2 (2 4 ) ( ) を リポソー ムに取り込ませ、 膜内奥部で発生させた脂質ペル オキシラジカルを還元するかどうかを調べるため、
水溶液中に加えた と による脂質過酸 化抑制作用をチオバルビツール酸 ( ) 反応 により測定した (図8)。 コントロールに比べ、
は強い脂質過酸化抑制作用を示したが、
は リポソームに取り込まれたビタミン と同程度の抑制作用を示した。
スピンラベル法では、 が リポソーム 内奥部を標識した16 をほとんど還元しなかっ たのに対し、 による脂質過酸化誘導では 著しい抑制が見られた。 これは、 リポソーム 内奥部の連鎖的な過酸化反応の過程で生じる脂質 ペルオキシラジカルのラジカル基が膜の表面近く 迄浮上するためと考えられている [14]。
の実験において、 が十分な抗酸 化作用を発揮するためには、 組織内に取り込まれ ることが必要となる。 そこで、 マウスに を 腹腔内投与し、 血漿と肝臓中に含まれる の 量を、 逆相カラム ( 18) を用いる高速液体クロ マトグラフィーにより分離後、 電気化学検出器に より測定した (図9)。 血漿中では、 投与30分後 に と 濃度の上昇が見られ、 90分後に はほぼ投与前の値に減少した。 肝臓では、
は投与30分後に投与前の約3倍の濃度迄上昇した 後、 血漿中と同様に90分後にはほぼ投与前の値に 減少した。 しかし、 は30分後でも濃度の上 昇は僅かであり、 90分後にはほとんど検出されな くなった。 これは、 が (1) 細胞内に取り 込まれなかった、 (2) 取り込まれたが細胞内で 分解された、 (3) 排泄が速い、 のいずれかによ るものと考えられる。
5. 両親媒性 誘導体の合成
は両親媒性抗酸化剤として水溶液中だけ でなく、 膜内部のラジカル消去作用を持つことを 示した。 しかし、 は の酸化分解過程 で生成する物質であるために、 分離精製に多くの 時間と操作が必要であった。 また、 は生体
図8 リポソーム膜脂質過酸化抑制作用
○:コントロール、
●: 、
■: 、
▲:ビタミン
図9 マウスに投与したアスコルビン酸と 5 メチル 3 4 ジヒドロキシテトロン の濃度変化
●:肝臓/ 、
■:肝臓/ 、
○:血漿/ 、
□血漿/
内濃度が十分に上昇しないこともわかった。
誘導体の開発研究はこれまで主に安定化 と脂溶化を目的に行われてきた。 は光、 熱、
酸化に対して最も不安定なビタミンであることか ら、 安定に機能を発揮させる上で、 その安定化は 最も重要な課題とされてきた。 また、 の体 内貯留性、 吸収性の向上や食品の抗酸化のために 脂溶化が行われてきた。 現在、 20種類以上の 誘導体が合成されており、 様々な分野に利 用されている [15]。
は様々な分解産物へと変化すると同時に、
褐変物質も生成する。 褐変物質は糖化反応を通し て、 酵素や の機能を阻害する。 また、 水溶 性の誘導体では との生理作用の差異は期待
できないであろうし、 脂溶性 誘導体は褐変 物質が長時間脂質内に留まり、 生体にとって好ま しくないと考えられる。 そこで、 生体内に素早く 吸収され、 比較的長時間安定に存在し、 脂溶性 誘導体より速やかに対外へ排出される事が 期待できる両親媒性 誘導体の合成を行い、
その有用性を検討することとした。
還元性を示すエンジオール基を保ち、 脂溶性を 付加するために、 の 6に様々な長さのア シル基をエステル結合させた。 と様々な鎖 長のビニル化合物を、 リパーゼを触媒として37℃
で3時間、 アセトン中で反応を行い、 両親媒性 誘導体を得た (図10)。 合成した 誘導 体の構造式を図11に示す。
図11 両親媒性アスコルビン酸の構造式 図10 両親媒性アスコルビン酸の合成反応
6. 両親媒性 誘導体の脂溶性
合成した 誘導体の脂溶性を調べるため、
逆相高速液体クロマトグラフィーによりそれぞれ の誘導体の を測定した (表1)。
移動相には、 5%あるいは15%メタノールを含む 0 05 リン酸緩衝液 6 0を用いた。 側鎖が長 くなるに従って、 も大きくなり、
脂溶性が大きくなったことを示している。
は15%メタノールを用いた時も105分と著しく大 きな値を示した。
7. 両親媒性 誘導体の抗酸化作用
赤血球ゴースト膜にスピンプローブ (5 と 16 ) をラベルし、 両親媒性 誘導体によ る還元作用を測定した (図12)。 膜表面に存在す る5 をラベルした場合、 誘導体の脂溶性 が大きくなるに従って、 スピンプローブの シ グ ナ ル 強 度 の 減 少 の 速 さ も 大 き く な っ た 。
は急激な還元 (10分間で約50%の減少) の 後、 シグナルの減少は緩やかになった。 膜 内奥部にある16 の場合、 によるスピン プ ロ ー ブ の 還 元 は ほ と ん ど み ら れ な か っ た 。
は5 の場合と異なり、 ほぼ直線的に シグナル強度が減少した。 これらの結果は、
以外の 誘導体は時間と共にゆっくり と膜内奥部へと浸透して行くのに対し、 は ある深さまで急激に浸透した後、 さらに奥部へと 徐々に進むものと考えられる。
次に、 誘導体とビタミン の相乗作用を 調べた (図13)。 リポソーム調製時にビタミ ン を取り込ませ、 紫外線照射をして膜中のビ タミン を酸化した。 その後、 誘導体を加 えてビタミン を還元した後、 再び紫外線照射
図12 両親媒性アスコルビン酸による赤血球ゴースト膜中のスピンプローブの還元 㪇
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㪘㫊㪘 㪘㪚㪘 㪚㪩㪘 㪧㪩㪘 㪙㪬㪘 㪟㪜㪘 表1 両親媒性アスコルビン酸の
を行った。 紫外線照射16分と32分後におけるリポ ソームの脂質過酸化を 反応により測定した。
ビタミン のみを含むコントロールよりも や を加えた場合、 反応物質の生成が 抑制された。 はこれらよりさらに強い抑制 作用を示した。
膜内奥部で生成した脂質ペルオキシラジカルは 膜表面方向に移行してビタミン と反応する。
この反応によりビタミン は酸化され、 その極 性 部 は 膜 表 面 に 露 出 し 、 バ ル ク 相 に 存 在 す る と膜表面で還元され、 再び脂質ペルオキシ ラジカルの還元を行うと考えられている (図14) [16]。
以上の事から、 は膜表面に移行してきた 脂質ペルオキシラジカルやのビタミン ラジカ ルを還元するだけでなく、 膜内奥部で生成した脂 質ペルオキシラジカルを直接捕足して連鎖反応を 停止する可能性が考えられる。
8. お わ り に
は多くの生理機能を持つことが知られる ようになり、 の生体内における重要性が益々 大きくなってきた。 の効果はその還元性に よるものである。 では、 の関与す る反応は2、 3の連鎖反応で終了するため、 反応
過程での の働きは分かりやすい。 しかし、
においては、 多くの反応が生体の恒常性 維持に密接に関係しており、 投与された や その誘導体が、 と同じ効果を発揮すると は限らないために、 予想と反した結果が得られる 場合もある。 生命維持、 恒常性維持のための の働きを知るためには、 生体内で起こる生 化学反応の詳細なネットワークを知る必要がある であろう。
9. 謝 辞
ここで述べた研究は多くの卒業生の協力の結果 であり、 特に荒木優子さん、 久保田克弘君、 鶴丸 武彦君、 矢野杏子さん、 扇洋子さんに感謝します。
本稿は福岡大学理学部化学科談話会 (平成16年4 月24日) において講演した内容をまとめたもので ある。
文 献
1.
( )
( )
2. ( )
図13 両親媒性アスコルビン酸とビタミン に よるリポソーム膜脂質過酸化抑制 㪇㪅㪇
㪇㪅㪈 㪇㪅㪉
㪇 㪉㪇 㪫㫀㫄㪼㪆㫄㫀㫅 㪋㪇 㪍㪇
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Control Vitamin E
BUA HEA
AsA
図14 ビタミン の膜内分布とその脂質ペルオ キシラジカルの捕足ならびにアスコルビン 酸によるビタミン 再生のダイナミクスの 模式図
3.
( ) 4
( ) 5.
( ) 6
( ) 7.
( ) 8.
( ) 9.
( )
.
( ) .
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( ) .
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( ) . 山本 格 ビタミン ( ) . 福沢健治 ビタミン ( )