長 崎 大 学教 育 学 部 自然 科 学研 究 報 告 第54号37〜44(1996)
セ ラ ミックス材料 の電子線超音波顕微 鏡 に よる 非破壊 ・内部観察
竹 野 下 寛
長 崎大 学 教育 学 部 (平成7年10月31日 受理)
Nondestructive Internal Observation of Ceramics Using Electron-Acoustic Microscopy
Hirosh TAKENOSHITA
Department of Technology, Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki 852
(Received Oct. 31, 1995)
Abstract
An electron-acoustic microscopy (EAM) was proposed in 1980 as a means of nondestructive internal observation using ultrasonic signal excited by a chopped- electron beam. In a series of EAM studies, we have used semiconductor devices as a specimen. In this study, a ceramic disk making with a hot pressing method was lapped and a part of the disk surface was coated Au by vacuum deposition. The Au film on the surface was grounded for descharge.
The disk used as a specimen, EAM images (EAIs) were obtained as the same of the devices case. Pores in the disk were detected nondestructively and the observable depth of the disk was depends on the change of acceleration voltage (HV) of the beam.
EAIs at three HV conditions, with HV=25kV, HV = 30kV and HV =35kV were displayed on a CRT in blue, green and red respectively and were superimposed using a personal computer. The color at the pore in the superimposition image was changed.
This indicated that the pore was a distribution with depth direction.
1.はじめに
電子線超音波顕微鏡(EAM)1・2)の原理は,試料に断続電子線を照射した時,電子線の照 射・非照射に伴い試料は加熱・冷却を繰り返すことになる。電子線照射による加熱・冷却
を繰り返しながら試料内を伝播するが,これは断続電子線照射で 熱波 2)が発生して試料 内を伝播すると考えることができる。熱波は試料内を伝播中に音波に変換されて,音波が 試料内を伝播することになる。このように,断続電子線を照射し,試料表面で発生した音 波(EA信号)は伝播の後に試料裏面に取り付けた圧電性検出器(PZT素子)で電気信号
として検出される。検出されたEA信号は照射電子線の断続周波数(f)で同期させた2位 相ロックイン・アンプを用いて増幅する。走査形電子顕微鏡(SEM)の機構を使い,電子線 の走査方向をX軸に,検出・増幅されたEA信号は映像信号としてY軸に入力し,電子線 走査に同期してCRT上に画かせれば電子線超音波像(EAI)が得られる。このように構成 することで,SEMの機能を使い 各種の表面情報(SEMモード) で得た情報をもとに観 察場所を選択した後, 非破壊・内部観察(EAMモード) に切り替えることで選択場所の 非破壊・内部観察が可能となる。3−11)更に,2位相出力信号からパソコンを使って位相信 号(Phs)を算出し,CRTに表示して位相像(Phl)を求める。PhlはEA信号が変化する 位置を良く捉えることができる。6・8・9)この様な,選択場所の非破壊・内部観察法は,微細化
し高度に集積したLSIの開発,故障解析にとって欠くことのできない手法である,と同時 に,2種類の観察法を一つの装置として併せ持つものは他に見られない。
我々は,これまで各種のバイポーラ・トランジスタ・チップを試料に用いて,動作条件を f=1MHz一定,加速電圧(HV)を変数に選びEAM観察を行ってきた。その結果,HVを 高くすると電子線が試料内でエネルギーを失う距離であるエレクトロン・レンジ(Re)12)が 大きくなるため,非破壊・内部観察が可能な深さ,即ち,観察可能深さ(tx)を増大させ ることが可能であることを報告してきた。3−11)
今回は,EAM観察をセラミックス材料に適用してみた。セラミックス材料についての報 告例は,F.Dominguez−Adame等13)が高温超伝導材料に適用した場合,ZhangBingyang 等14)がBaTio3に適用した場合の2例以外には見あたらない。
2.実験方 法
試料のセラミックス試料はチタン酸バリウム粉末を,ホットプレス法で製作された直径 約10ミリ,厚さ約1ミリの円板状で,試料表面は研磨仕上げがなされていた。しかし,こ のままでは表面加工層が厚く,EAM観察可能な深さが丁度この加工層厚に相当すると推 定され,EAM像で何等情報が得られなかった(第2図参照)。
そこで,送付されてきた状態の加工層が除ける様に,さらに微粒子の研磨材(1μmアル ミナ)を用いて研磨し,約10μmほど研磨で除去して表面仕上げを行った。次に,両端に金 を真空蒸着して電極を作り,これを接地することで試料の帯電を防止した。電極を取り付 けた試料は第1図に示す様に検出器にセット後,SEM観察を行い,得た表面像から観察場 所を選択した後に,EAMモードに切り替えて選択した場所の非破壊・内部観察を行った。
HV変化による像の変化を明示するために,2位相の出力信号を使って位相信号(Phs)
セラミックス材料の電子線超音波顕微鏡による非破壊・内部観察
39を計算した後にCRTに表示する。位 相像から3条件のHV条件で得られ た像を選択する。例えば,HV=20Wの 像を青色の濃淡,HV=25Wの像を緑 色の濃淡,HV二30kVの像を赤色濃淡
というように,1つの観察条件の像を 3原色のうちの1つの単色の濃淡で表 示し,3種のHV条件の画面を3原色 のうちの単色で表示した画面をスーパ
ー・
ンポーズする。この時,3つの 条件で同じ場所からEA信号が検出さ れれば白色で表示される。赤と緑色条 件で検出され,青色条件で信号が無け れば黄色と言う様に表示される。そこ で,スーパー・インポーズ後の像で,
青→水色→緑→黄→赤といった 色ズ
レ 起こしている場所は,HVの増大 に伴ってEA信号の発生する中心場所 が順次試料内の深い位置へ移動しなが
Au−evp。
HV
8奮
lelectronbeam
1 (scan)
†
〃
Glue
PZT transducer
Specimen
EA
第1図 試料を検出器に取り付けた状態略図 PZT transducer:圧電性音波検出器,
Glue:接着剤(試料からの音波を伝達する が,試料と検出器の間は電気的には絶縁),
EA:電子線励起音波信号。
らEA信号が発生していることを現しており,色ズレの方向はその像の試料内の分布,即 ちプロファイルを示すものとなる。6)
EAMは動作条件をf二1MHz,デューティー比=50%,の一定にし,HV=20,25,30,
35kV,と変化させて観察した。今回は解像度(r)は1。2≦r≦2.4μm4)からr≦0.8μmへと改 善出来ており,11)改善した状態での観察例を中心に報告する。
3.実 験結果
チタン酸バリウム試料の観察像を第2図に示す。第2−a,2−b図は送付されてきたま まの状態での観察例で,表面像(第2−a図,SEMモード)と内部像(第2−b図,EAM モード)ともに変化はみられない。更に研磨し表面仕上げした試料についての観察例を第 2−c,2−d図に示す。この場合は④に傷のあることが観察される。これは,試料の表面 加工層が存在し,発生した音波は加工層内で発生するか,加工層で散乱されて内部情報は 得られないと考えられる。
そこで,チタン酸バリウム試料について,更に慎重に研磨して試料厚さを約10伽ほど研 磨し,除去したものを試料にして観察した場合を第3図に示す。反射電子像(表面像,SEM モード)を第3−a図に示す。図中①は大きな 霧 の状態の材質不均一を,②には点在
し,分布していると考えられる材質不均一が観察される。15)
第3−a図と同一場所をEAM観察した内部像を第3−b,3−c,3−d,3−e図に示
す。第3−b図から第3−e図へとHVを上昇させて得た像で,HV増加と共により内部ま
で観察できる。図中①は籟状の大きな材質不均一の像で,表面像(第3−a図)と同じ位置
asprepared
(2−a)
BEl
(Compo)
(2−b)
EAl
]
20μm
afterlapped
だ ヘ デ
. (2−c)
.・津
一譲
灘麹騨、・品・
(2−d)
EAl
第2図 研磨処理前後の観察像
左側が送付されて来たままの状態の試料(as prepared)
右側が再度研磨した後の試料(after lapped)
各図の上方が表面像(BEI),下方が内部像(EAI)に配置してある。
観察条件:HV二30kV,f=IMHz,試料:ホットプレス法で製作されたチタ ン酸バリウム円板。
①②は傷の位置を示す。
で,全てのHV条件で観察される。他方,②は表面像からは明確な形としては観察されな いが,HV=25W以上のEAI(第3−c〜3 e図)からは②に環状に配列した像が得られ,
材質の不均一が原因と考えられる欠陥が試料内部に存在することがわかる。
EAMモードではHVの増大に伴って観察可能な深さ(tx)が増大する3−11)ので,HV変 化によるEAM像の変化に注目してみる。第3−c〜3−e図から,HVを20kVから35Wへと 高圧化するにつれ,①は同じ位置で信号強度が増しているのが観察される。②はHVが増 大するほどEA信号の強度が増すが,HV二25kV以上では②を中心とした環状の傷の存在 が分かる。これは,表面像(SEMモード)では観察されなかった像を得たことから,これ らは試料内部に存在することを示している。このように,EAM像はSEM像よりも多くの 情報が得られ,②は従来の報告から5・8・11)表面から約3μmの深さまでの内部へ向かって環状
の欠陥を持っていることが非破壊で分かる。
この様子を明示するために,第3図に示したEAM像から3条件のHV条件で得られた
像を選択し,2位相信号から位相像を算出する。6・8・9)これを「2.実験方法」で述べた方法
でスーパーインポーズしてみる。そこで,HV=20kVの像(第3 b図)を青色の濃淡,HV二
25kVの像(第3 c図)を緑色の濃淡,HV−30kVの像(第3 e図)を赤色濃淡で表示す
セラミックス材料の電子線超音波顕微鏡による非破壊・内部観察
41蝉誉食
…嶺 (3−a)
糞般
} SEI
〜、
蒙
1
蒸
〔3−b)
EAl
20kV
EAl
25kV
(3−d)
EAl
30kV
(3−e)
EAl
35kV
第3図 チタン酸バリウム試料の表面像と電子線超音波顕微鏡像(EAI)
再研磨した試料を使い,同一場所について観察条件を変えた観察像。
(3−a):表面像(二次電子像(SEI),SEMモード),(3−b):EAI(HV二20W),(3 −c):EAI(HV=25kV),(3 d):EAI(HV二30kV),(3−e)二EAI(HV=35kV)
第2−c図の試料を再研磨したものであるが,第2−c図と同じ場所の観察像では なく,SEMモードで選択した(3−a)を,観察条件を変えて観察した写真。
①二籟,②二環状に点在した欠陥。
30kV
G C
Phs
25kV 20kV
G C
Phs
G C
Phs Green
Phs
Red Superimpose
]
↓
G:inphase
Blue C=outphase
Phs=tan−1(G/C)
20μm
30
20kV 25kV
第4図 3観察条件の像のスーパー・インポーズ 青:HV二20kV,緑:HV=25kV,赤:HV二30kV 図内の記号は第3図に同じ。
る。次いで,これら3原色の濃淡で表示している3観察条件の3画面をスーパー・インポー ズする。こうして得た像を第4図に示す。この図から①では色ズレが観察され,その色ズ レ方向から試料表面から斜めに内部に向う矢印方向に入った傷であることが分かる。他方,
②では色ズレではなく,3原色が各々独立に観察されるので,点在する欠陥が内部に向か って高密度に環状に分布し,透過像として環状の形状として観察されることを示している。
4.検
討
従来我々がSiバイポーラ・トランジスタ,Mos−lcで観察してきたと同様の方法3−11)
を,ポット・プレス法で製作されたセラミック試料に適用して観察可能であることが分かっ
た。
EAMでの非破壊・内部観察はX線法よりも倍率が高く解像度も高い。3)しかし,観察可 能深さはさほど深くなく,観察物質にもよるが,SiをHV二35kVで観察した場合,表面か
ら約6〜8μmの範囲であることを報告した。5・8・11〉これは観察試料の表面に加工層が存在す
ると,欠陥で発生したEA信号は加工層で散乱・吸収されて,欠陥によるEA信号が検出
セラミックス材料の電子線超音波顕微鏡による非破壊・内部観察
43器にまで到達しにくく良質なEAM像は得られない。しかし,加工層を取り除くことで EAM像の質を改善することができた。
今回,試料に用いたセラミック材料は,僅かであるが電気伝導をもっており,これが効 果的に働いた。電極近傍ではあるがコーティングしない場所の観察にもかかわらず,倍率 500倍まで試料のチャージアップが原因で観察不能には至らなかった。
試料の帯電を防止するには表面全体を電導体でコーティングするのが一般である。しか し,蒸着膜が厚ければ,照射電子線のエネルギーがコーティング層で失われ,試料内にEA 信号発生のためのエネルギーが供給できなくなる。他方,薄すぎればチャージアップ防止 に役立たない。それ故,コーティング層の厚さを精密に制御する必要がある。特に,陶磁 器などの電気絶縁性のセラミックスについては再検討する必要がある。今後は,コーティ
ングは真空蒸着法でなくスパッタ法で行い,小さな凹凸面にも薄く,均一に導電性膜をコ ーティングする条件を見い出し,試料の任意場所が観察可能とする予定である。
5.ま と め
ホットプレス法で製作されたセラミックス(チタン酸バリウム)を試料に用い,SEMで 観察場所を選択した後に同一場所をEAMで非破壊・内部観察を行った。その結果,
(1)試料内部にまで分布した傷を検出することができた。
(2)ホット・プレスしたセラミックス材料についても半導体素子と同様に,EAMを用いて非 破壊・内部観察が可能であることが分かった。
(3)1つの観察条件の像を3原色のうちの1つの単色の濃淡で表示し,3種の観察条件の画 面をスーパー・インポーズし,合成後の像で,青→水色→緑→黄→赤といった 色ズレ
を起こしている場所と,色ズレの方向はその像の試料内の分布,即ちプロファイルを示す ものとなることが分かった。
謝 辞
試料を提供していただいた,中国科学院上海珪酸塩研究所Yin Qing−rui教授に感謝い たします。
この研究の一部は長崎先端技術振興協会の助成によるものである。
引 用 文 献
1)G.S.Cargill III:Nature286(1980)691.
2)E.Brandis and A.Rosencwaig;AppL Phys.Lett.34(1980)98.
3)H.Takenoshita,M.Managaki and K.Mizuno:Proc.5th Symp.Ultrasonic Electronics,Tokyo,
1984Jpn.J.App1.Phys.24(1985)suppL24−1,p.93.
4)H.Takenoshita:Proc.5th Pffeferk6ne Conf.BrUgen,Germany,1986.eds.,」.Kirschner,K.Murata and J.A.Venable.Scanning Microscopy1987(1987)suppl.1,p.211.
5)H.Takenoshita:JPn.」.ApPLPhys.27(1988)1812.
6)H.Takenoshita:Proc.11th Symp.Ultrasonic Electronics,Kyoto,1990.Jpn.J。AppLPhys.30(1991)
supp1.30−1,p.253.
7)H.Takenoshita and M.Kobayashi:J.Electron Microscopy40(1991)369.
8)H.Takenoshita and M.Tabuchi:Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)2521.
9)H.Takenoshita:Jpn.」.AppLPhys.33(1994)3204,
10)M.Kobayashi and H.Takenoshita:Jpn.J.Appl.Phys.33(1994)6403.
11)M.Kobayashi:Jpn.」.AppLPhys.34(1995)4020。
12)R.Castaing:Advances in Electric and Electron Physics,Vol.13.ed.C.Marton(Academic Press,
New York,1960)p.317.
13)F.Dominguez−Adame,P.Femandez and J.Piqueras:Solid State Comm.87(1993)843.
14)Zhang Bingyang,Yang Yang,Jiang Fuming and Yin Qingrui:First Asian Meeting on Ferro−
electrics,1995,Xi an,China.to be publishe(1
15)竹野下 寛:(a)1995年春季,第42回応用物理学関係連合講演会講演予稿集No.1,p.349,(30a−TC−3)
[1995.3.東海大学]
(b)長崎先端技術振興協会研究成果発表会資料(1995.7,長崎)p.53.