日本語教育者のための文法教育
一参加型学習を取 り入れた教育の実践報告一
原 沢 伊都 夫
【 要 旨】
現在共働学習や教師の役割についての研究が盛んになってきている中で、本稿 は日本語 教師を対象 とした参加型文法教育の実践をどのように行なったかを報告するものである。
今回の教育実践 は、理論中心の講義型文法教育に、参加型学習の手法を取 り込む ことで、
ただ単 に理論を鵜呑みにするのではな く、 自ら考え、主体的にグループ活動に参加 し、 自 分の意見を出 し合いなが ら、体験的に文法事項を身 につ けることを目的 としている。本論 では、 このような参加型学習による文法教育の実施状況を報告す るとともに、参加者のア
ンケー トを もとに参加型学習の効果について も検証する。
【キーワー ド】講義型教育 参加型学習 日本語教育文法 グループ・ ワーク
1.は じめに
日本で 日本語教育に従事 している人の数 は平成 16年 現在 29704で あ り、 10年 前 と比べる と約 2倍 に達 し、その数 は今なお増加傾向にある。 これは、大学や民間の施設や団体など で学ぶ 日本語学習者数が昨年まで過去最高を記録 してお り
(1ヽ今後 もその状況 は続 くと予 想 されるか らである。 このような外国人に対す る日本語教育に従事す る者には、大学や日 本語学校で教える専門の日本語教員のほかに、地方公共団体や国際交流協会などで開設 し ている日本語教室で教えるボランティア教師 も含 まれる。近年 日本 に定住する外国人の増 加 とともに身近で学べる日本語教室へのニーズが各地で広 まってお り、それとともに日本 語教育に対する社会的関心 も高まっているといえるだろう。
このような日本語教育者を養成する方法 としては、次の 3つ が考え られる。大学 におけ る日本語教育課程 (主 専攻 または副専攻 )、 日本語学校 などが中心 に行 っている民間の日 本語教師養成講座、 さらに地方 自治体などが中心 に行 っている日本語 ボランティア養成講 座である。 これ らの日本語教師を養成するための教育 シラバスは、平成 12年 に文化庁 より 発表 された「 日本語教員養成において必要 とされる教育内容」に準拠 している
(2、その内 容 はコミュニケーションを核 として、 「社会・ 文化 にかかわる領域」 「教育にかかわる領域」
「言語 にかかわる領域」の 3つ の領域か ら成 り、 さらに「社会 0文化 0地域」 「言語 と社会」
「言語 と心理」 「言語 と教育」 「言語」 という5つ の領域 に分かれている。 これ らの中で、
日本語教育文法
(3)は「言語」領域の中の「 日本語の構造」 という区分 に含まれる。区分 と
しては、 16区 分の中の 1つ にす ぎないが、実際に日本語 を外国人 に教える上で、必要不可
欠な知識であることは言 うまで もない。それは、教授法であれ、教育実践であれ、その基
礎 となるのが日本語文法の知識であり、いずれ もその理論 な しには成立 し得ないことを見
静岡大学留学生 セ ンター紀要 第 5号
て も明 らかである。 したが って、 日本語教育をめざす人 にとって、まず初めに取 り組 まな ければな らない学習項 目の 1つ が日本語文法であると言 っていいだろう。
このような文法教育における教育のあり方 は、教師か ら学習者 に知識を伝える知識伝達 型であるのが一般的である
(4、その理 由として、先達の研究者が長い期間にわたって試行 錯誤を しなが ら考察 し、発展 させてきた研究成果を短期間で習得するためには、ある面で 講義型の教育方法が効率的であるか らである。曲が りなりにも日本語文法全体を把握す る ためには、膨大な文法用語 とともに、 ことばの集まりを意味のある日本語 として成立 させ るための様々な規員 Jや しくみを知 らなければな らない。それだけのルールや用語を列挙 し て説明す るだけで もかな りの時間数を要す ることになる。 したが って、現在ある研究成果 をそのまま知識 として受 け入れることは、 これまでの研究者が試行錯誤 してきた膨大な時 間を省 き、効率的に文法知識を得 るとい う意味で、効果的な学習スタイルであると言える だろう。
先 に述べたように、近年 日本語教育が盛んになるにつれ、大学で専門に日本語を勉強す る学生だけでな く、一般の社会人の中に も日本語教育 に関心をもつ人々が増えてきている。
その結果、今 までの知識伝達型の、いわゆる詰め込み式の教育スタイルでは、そのような 新 しいタイプの人々のニーズに応えるのが困難 となってきている。 これ らのタイプの日本 語教師予備軍 は、ある一定の基準の もとに入学 して くる学生 とは異なり、学歴、年齢、経 験などが様々であり、必ず しも大学型 の教育が効果的であるとは限 らないのである。
これ らのことか ら、 日本語教育文法 において最 も基礎的な部分を取 り出 し、それを知識 伝達型ではな く、学習者が主体的に参加 し、それぞれの特性を生か しなが ら身につけられ るような授業形態を模索す るようにな った。その 1つ の可能性が、参加型学習を取 り入れ た日本語教育文法講座である。理論中心の講義型教育 に、参加型学習の手法を取 り込む こ とで、ただ単 に理論を鵜呑みにするのではな く、 自ら考え、主体的にグループ活動に参加 し、 自分の意見を出 し合いなが ら、体験的に文法事項 を身 につけてい く。本稿では、 この ような参加型学習 による文法教育を実践 し、その実施状況を報告するとともに、参加者の ア ンケー トを もとに参加型学習の効果 について検証す ることにする。
2.参 加型学習 とは
「参加型学習」 とは一体 どのような教育を意味す るのだろうか。 「参加型学習」 という 学習 スタイルを特 に重視する開発教育では、 「学習者が、単 に受 け手や聞 き手 としてでは な く、 その学習過程 に自主的に協力的に参加す ることをめざす学習方法」 と紹介 してい る
(5、この考え方にしたがえば、その方法 には様々な ものがある。例えば、 「 ワークショッ プ」「 ディベー ト」「 ロールプ レイ」「 フィール ドヮーク」 「 ブレー ンス トー ミング」 「 シミュ レーション」「 ランキ ング」「 ゲーム」などといったものがその代表例であろう。 このよう に、「参加型学習」 には決 まった形式 はな く、講義 のよ うな一方向的な学習スタイルでは な く参加者の自主的な活動を促進す るものであれば、 どのような方法を用いて もかまわな い ことになる。 いずれの方法 をとるに して も、 それ らの手法 に共通す る基本的特徴 は、
「学習者の緊張を解 き、その場の雰囲気を和 ませる中で、学習者が持 っている知識や経験、
個性や能力を引き出 し、相互の意見交流や相互理解を促進すること、そ してその過程で学
― ‑54‑
習者が新 しい発見を していくことを重視 している。」 ということになろう
(6にここで一つ気をつけたいことは、開発教育 における参加型学習では、その方法が もっと も重視 され る。開発教育協会では、 「教育の方法 は、本来そのね らいや内容 と一致 したも のが求め られる」 と述べ、参加型学習 というアプローチその ものが、学習の目的となって いることを強調 している。 したが って、そのような参加型学習における活動では、正答は な く、参加 して話 し合 うという方法論その ものに意味があるのである。
これに対 して、今回の文法教育 における「参加型学習」では必ず しも方法が 目的 と合致 するものではない。参加型 とい う方法 はあ くまで、効果的に文法理論を身につけるための 手段 という側面が強 く、 目的その ものになっているわけではない。 グループで行 うタスク にはもちろん模範解答があり
(7、その解答にいたるまでのプロセスを重要視するのである。
では、文法教育にこのような参加型学習を取 り入れる意義 にはどのようなものがあるので あろうか。次項では、その点についてさらに見てい くことにする。
3。
文法教育における「参加型学習」の意義
「参加型学習」を取 り入れた文法教育について、筆者 はここ数年にわたる実践か ら、以 下のような効果を挙げたいと思 う。
1)プ ロセス重視による理論の習得
日本語の現象を説明する文法理論を一つの結論 として暗記す るのではな く、 自ら考え検 証す るとい う活動を通 して、 自分の理論 として身につける。 このようなプロセスを経験す ることで、その他の文法現象に対 して も同様な取 り組みができるようになる。 したがつて、
学習者か ら予想 もで きないような質問があったとして も、その場で考え、臨機応変に対応 できる台ヒカが培われることになる。
2)グ ループ・ ヮークによる教育効果の向上
受講者 は、年齢、経験、職業などが異なる多種多様な人々で構成 されるため、そのよう な知識や経験を活用す ることが可能 となる。特 に日本語教育経験者 と未経験者が混在する 場合、経験者の実践的な知識に未経験者の素朴な疑問や発想が加わり、お互 いを刺激 しあ い、議論が深まる。 また、 グループ内では自分の意見が言 いやす く、疑問点などをす ぐに 確かめることがで きる。その結果、個人が対象 となるような講義型学習 と比べ、より広い 視点での考察が可能 とな り、大 きな教育効果が見込 まれる。
3)多 様性への気づ き
グループ 0ヮ ークを通 して、同 じ日本人で も異なる考えや語感を持つ ことに気がつき、
一人一人の個性や能力を尊重す ることを学ぶ。 このような態度 は、多様なバ ックグランド を持つ外国人を相手 とす る日本語教師に特に求め られる資質である。また、文法理論につ いて も理路整然 とした単純な体系ばか りではないことを体感 し、ひとつの考え方に固執 し ない柔軟な思考力が養成 される。
4)競 争原理 による学習意欲の向上
わか らないところをお互いに助 け合 うことで、 グループとしての一体感が生 まれる。ま た、他 グループを意識することでグループ間に競争が生まれ、 グループ活動が活発化する。
他 グループに遅れた くないとい う気持 ちが教室活動への積極的な参加を促 し、結果 として
静岡大学留学生セ ンター紀要 第 5号
個々の学習意欲が高まることになる。
5)充 実感の高い学習スタイル
グループ・ ワークの中で、与え られたタスクを自ら考え、意見交換を し、納得 しなが ら 進むので、個人個人の達成感や満足感が強まる。皆で話 し合いなが ら講義が続 くので、楽 しく学習を進めることができる。受身型の講義での 3時 間はつ らいが、参加型での 3時 間 はあっという間に終わる。
以上、 5つ の意義を挙 げたが、その中で も「 プロセス重視 による理論 の習得」が参加型 学習 による最大のメ リッ トであると考える。 これは、私 自身の経験か ら来ているのだが、
理論 をい くら鵜呑みにして も本当の意味での理解 とはほど遠いものである。実際に自分の 身になったと感 じたのは、多 くの例文 に触れ、 自分で考え、 自分な りのルールを構築 し、
確認 してか らである。 したがって、そのようなプロセスを経験できる場を提供することで、
参加者 自身がそのようなアプローチの仕方 を身につ けるというのが、 「参加型」 とい う学 習手法を導入 した最大の理由で もある。
4。
実施内容
今回の報告で扱 っている「参加型文法講座」 は、 日本語教育の現職 と教師志願者が混在 したクラスであり、以下の公開講座において実施 した。
実施講座
静岡大学留学生セ ンター主催 第 3回公開講座「 日本語のしくみ、
再発見
!」浜松国際交流協会・ 静岡大学留学 生センター共催「 日本語ボランティ
ア養成公開講座」
受講者数 32名 384ζ
受講者のタイプ 経験者中心の混在型 未経験者中心 の混在型 時期 平成 16年 10月 〜 11月 平成 17年 5月 〜 6月 場 所 静岡市産学交流セ ンター 浜松国際交流協会
回 数 毎週土曜 日の午後 (全 5回
)時 間 1回 3時 間
講 師 静岡大学留学生 セ ンター教員 3名 講座で扱 った講義内容 は以下の ものである。
第 1回
日本語の構造 (格 助詞 と基本文型
)①日本語文における格関係
②動詞の文型 (1〜 3項動詞の分類
)③格助詞の種類と働き
第 2回
主題化 (ハ の機能
)①主題化 とは
②格成分の主題化
③その他の成分の主題化
‑56‑
第 3回
自動詞 と他動詞
①自動詞と他動詞
②自他の対応による動詞の分類
③文法的枠組みにおける自他の対応
第 4回
ヴォイス (受 身 と使役
)①ヴォイスとは
②受身形 (直 接受身、間接受身、持ち主の受身
)③使役形 (強 制、容認、原因、責任、謙譲
)第 5回
アスペ ク ト (テ イル とテアル
)①アスペクトとは
②テイルの用法
③テアルの用法 (テ イルとの相関関係
)なお、静岡大学主催「 日本語の しくみ、再発見
!」では、文法だけの完結型 (5回 )で
あり、静岡大学 と浜松国際交流協会 との共催による日本語 ボランティア養成公開講座では、
全 13回 中 5回 だけの文法講座 となっている。
参加型学習の基本 はグループ・ ワークであり、今回の文法学習において もグループによ る活動が基本的な学習スタイルとなっている。 グループの人数 は最大 6名 まで とした。 こ れは、 6名 以上 になると、 どうして もグループ・ ヮークか ら遠 ざかる参加者が出ることが あり、できるだけ全員が積極的に参加するためには、 6名 までの人数が適切な数だと判断 したか らである。また、各 グループの構成員を毎回変えることで、参加者全員が知 り合い、
情報交換を行い、結果 として参加者全体の一体感が醸成 されるように努めた。
今回の参加型学習の基本的な手順 は、最初 に文法事項を説明 し、それを確認するための 作業をグループで行 う。 この作業によって、不確かな部分を他の学習者 とともに話 し合い、
解消することができる。次 に、 さらに大 きなタスクを与え、 グループごとに挑戦するとい うものである。 タスクを達成 したあと、講師によって理論的な枠組みをもう一度確認する。
これを簡単 にあらわす と、「理論→確認→ タスク→ まとめ」 という流れである。例えば、
第 1回 の「 日本語の構造」 においては、述語 と格助詞のつなが りについての理論的な枠組 みを説明 した後、基礎的な問題を解 きなが ら述語 と助詞の組み合わせを確認する。その後、
グループ単位で 28の 動詞を共通す る組み合わせに したが って分類する。最後に、まとめと して これ らの文型について再確認するというものである。 このような参加型活動を 1回 の 講義の中で 2〜 3回 行な うように した。 この具体的なシラバスは、報告書の最後に「資料
①」 として記載 してあるので参考にされたい。
これ らの一連の流れに加え、講義の最後 には、その日の講義の内容のまとめて示 し、理
論の整理を行 った。 さらに、次回の講義の最初 に前回の復習チェックを行ないなが ら、理
解を確認す る問題を行な うことで、講義内容の定着を図 った。 また、文法学習が机上の空
論に終わ らないように、 日本語の教科書における実際例を提示するなどし、実際の日本語
教育 との関係性についての説明 も心がけた。
静岡大学留学生 セ ンター紀要 第 5号
5.参 加者のアンケー ト結果
今回の文法講座 2回 に参加 した 70名 に対 して、最終 日にアンケー トを実施 した。当 日休 んだ人などもいたため、実際にアンケー トを返却 したのは、 60名 であった。全員に対する 回収率 は 86%で ある。以下 は、そのアンケー ト結果である。なお、それぞれの質問には理 由を書 く欄があり、それ らのコメントについては「資料②」に記載 してあるので、参照 し ていただきたい。
ア ンケー ト項 目 A B C D E F 合 計
1)全 体評価 34 21
60 2)「参加型学習」への評価
И牡EU13
0乙3)「繰 り返 し」への評価 47 10
n u
4)日 本語教育 との関連性
0422 14
5)将 来への有用性
(8)27
0 0
A:大 変 よか った B:良 か った C:普 通 D:あ まり良 くなか った E:良 くなか った F:無 回答
1)「今回の文法講義の内容は全体 としてどうで したで しょうか ?」
回答者 の 57%が 「 大変良 か った」、 35%が
「良か った」 と評価 し、 この 2つ をあわせた肯 定的な評価 は 92%と なった。 このことか ら、参 加者か ら高い評価を受 けたと考えることがで き るだろう。多 く寄せ られたコメントを挙げると、
「多 くの人 と意見を交わす ことで、様 々な考 え に触 れ勉強にな った」「 グループで話 し合 いな が らの学習だ ったので、楽 しく勉強で きた」
「皆 に考えさせてか ら答えを導 く方法が良か っ
た」「 日本語のことを じっくり考える機会を もてて、良か った」などであった。一方、一 部の人か らは「初心者なので少 し難 しか った」 「文法用語が難 しく、理解するのに時間が かか り、進むのが早 いと感 じることがあつた」などのマイナス評価 もあった。
2)「 文法理論をそのまま暗記するのではな く、
学習 スタイルはどのように感 じま したか ?」
これについては、全体評価以上に、多 くの肯 定的な意見が寄せ られた。「 とて も良か った」
と評価 した人が全体の 75%に 達 し、 「良か った」
とあわせると、 97%に なる。 ほとんどの人が、
参加型学習による文法学習に対 して高い評価 を 下 したと判断できるだろう。 コメントも多 く寄 せ られたが、その中で も「 自分の考えだけでな く、皆の考えを聞 きなが ら、一緒 に考えるとい
グループの中で考えなが ら進めるという
一 ‑58‑―
うスタイルがよか った」 「 わか らないところは気軽 に質問で き、疑間がす ぐに解決 した」
「考えることで頭を使 うので、授業 に集中できた」 「 自分だけでは解答できなか ったが、他 の人 に教えて もらい、安心納得できた」「 自分で考えることにより、 自分なりに文法ルー ルを作 り、考えてい くことができた」などが代表的なものである。マイナス評価 としては
「一人の人に頼 る傾向が出て しまう」 「 グループに積極的に発信する人がいるときにはうま く進んだが、全員 (自 分 も含め )あ まりそ うでない人が集 まると、なかなか進まず大変だっ た」 という意見があった。
3)「 講義の最後 にまとめの復習を し、次回の最初に復習 チェックを して、 さらに、練習 問題をや りなが ら、講義内容の定着を図 りま したが、それについては、 どのように感 じま
したか ?」
今回の講座では、 「参加型学習」 とい う参加 者主体の学習スタイルに加え、既習事項を繰 り 返 し確認する作業を通 じて、学習内容の定着を 図 った。参加型学習 とい うのは確かにその時 は 楽 しく、パ ンチの効いた学習スタイルであるが、
や りっばな しのままで終わって しまうとその定 着度 はそれほど高 くないと思われる。 グループ 作業のあとに、理論的な枠組みを再確認 し、講 義の最後にまとめとして復習する。 1週 間後 の
講義では、前回の内容の復習 と練習問題を行 い、再度忘れていたことを思い出す。 これ ら の作業により、講義内容の定着化がより促進 されるように試みた。 この方法には、 A評 価 が78%と 非常 に高 く、全体の 95%の 人か ら肯定的な回答が寄せ られた。評価す るコメント
としては、 「 1週 間経つ とす っか り忘れているので、講義 の最初 に思 い出 し、次の講義へ の橋渡 しとなった」「 自宅ではなかなか復習がで きないので、非常に助か った」「一段一段 階段を上 るように理解できていった」など、復習をすることで忘れていたことを思い出 し、
再確認することがで きたというものがほとん どであった。 これに対するマイナスのコメン トはなかった。
4)「 文法学習が単なる理論の学習だけにおわ らないように、実際の日本語教育 との関係 についての説明を心がけま したが、それについてはいかがで したで しょうか ?」
文法理論を学習す ることと、そのような理論をどのように教育現場で生か してい くのか ということは別問題であ り、限 られた時間内でその両方を学習者 に満足する形で提供する ことは難 しい。 しか し、 日本語教育 という枠組みの中で文法学習を している以上、学習者 の頭の中には絶えず「実践」 という二文字が存在 しているわけで、その意味で、理論 と実 践 との関係性を明確 に伝えてい くことは必要であろう。
このことか ら、講座で扱 う文法事項が、 どのような形で 日本語教育において実践されて
いるのか、できるだけ具体的な形で学習者 に提示することを心がけた。ただ、講座の第一
の目的は文法理論の学習 にあるため、理論の実践の仕方 については簡単な説明にとどまっ
静岡大学留学生 セ ンター紀要 第 5号
た。 このことはア ンケー ト結果 にも反映 してい て、 7割 の参加者か ら肯定的な意見が寄せ られ たものの、それまでの質問事項 と比べ、相対的 に低 い評価 となった。「 もっと日本語教育 と関 連づ けて欲 しか った」「 もう少 し日本語教育の 実情 について聞 きたか った」 「実際に教えた こ
とがないので、 ピンとこなか った」「文法を理 解するのに必死で、関連性を感 じる余裕がなかっ た」 など、 どのように学習者に満足 して もらえ
るように関係性を伝えてい くか、改善の余地があることが伺える。特にく 日本語教育未経 験者 は、実際の教育現場を思い描 くことが困難であることか ら、話だけでは具体的な状況 が理解できず、 このような未経験者 に対する配慮が もっと必要であると言えるだろう。
5)「 今回の講座で勉強 した知識は日本語教育 にとつて (ま たは、その他の点で )役 に立 つと思 いますか ?」
今回講座で勉強 した内容が将来において役立 つか どうか どのように感 じているのかをたずね たところ、大多数の参加者 (97%)が 「 とて も 役に立つ (45%)」 または「役に立つ (52%)」
と答えている。両者の評価の差 は、現在実際に 日本語教育 に携わ っているかどうか という点 に も大 き く左右 され るよ うだ。 「教師 と して必要 な知識だ った」「 ネイテ ィブ・ ス ピーカーなの で今 まで文法に疎か ったのですが、今回勉強 し
て文法 に対 してわか って きたので、授業 に生か したいです」「学習者一人一人 によって興 味、学習方法が違います。文法 に興味があったり、系統的な人、理論好 きな人 は初級者で あって もきちん と答えたほうがよいと思 いま した」「例文 を出す ときに、今回の講座で得 た知識 と連結する」 という現役教師のコメントと「今 は直接役 に立 っていないが、いつか 役 に立つ ときが くると思 う」 「今 までは日本語を教えた ことはないですが、いつかそのよ うな機会があれば、必ず今回の経験が もとになると思 います」「 まだ、 日本語教師をめざ す と確定 したわけではないですが、 いろんなことに気づ く大事 さを学びま した」「現在 は まだ 日本語教育に携わ っていないので良 くわか らないが、 きっと将来役 に立つ と思 う」 と いう未経験者のコメントに分かれた。
これ らのアンケー ト結果か ら、文法学習に「参加型」 とい う手法を取 り入れることに関 し、多 くの参加者か ら高い評価を得たと結論づ けることがで きるだろう。 また、「楽 しく 時間を忘れて学ぶ」 「学習者の緊張感を解 く」 「学習者の知識や経験を、個性や能力を引き 出す」 「相互の意見交流や相互理解を促進する」 「 そのような過程で、学習者が新 しい発見 を してい く」 とい う参加学習の利点が、文法学習において も効果的であることが確認でき
― ‑60‑―
たと言えるだろう。「つまらない」「難 しい」 というイメージの強い文法学習であるが、参 加型学習を取 り入れることで、楽 しく効果的な学習スタイルに生 まれ変わることも可能で はないだろうか。ただ、一部の参加者 に、 「ついてい くのが難 しかった」 「早 くできた人が どんどん進 めて しま う。」 「 自分だけ他の人 と壁を感 じた。」 などの声 もあるの も事実であ る。少数意見 として切 り捨てるのは簡単だが、 このような受講者 に対 して もきめ細かい配 慮を行 うことで、 より満足度の高い教育プログラムに修正 してい くことが必要である。 し たが って、講義の冒頭で参加型学習の意義を参加者 に明確 に伝え、 グループ全員が助 け合 いなが ら協力 して学習活動を進めるという体勢を整えることが今後重要 となってい くであ ろう。
6. おわ りに
参加型学習を用いた文法学習 は多 くの参加者か ら肯定的な評価を受 けたことで、従来の 講義型の学習 と比べて、 より効果的な側面があることが確認 された。 これか ら日本語教育 に従事す る人の裾野がさらに広がることが予想 される中で、多種多様 な人への有効な教育 手段 という意味で、 このような学習のあり方 はさらに重視 されていくべ きであろう。ただ、
参加型学習 にも少なか らず課題があることも事実である。 まず、参加型学習による効果の 検証をどうやって行な うのかという問題がある。確かに受講者の満足度 は高か ったが、そ れがイコール理論の習得 につなが ったのかは定かではない。それは、受講者が 日本語教育 の実践の中で初めて感 じることであり、文法理論の定着度を測 るためには、元受講者か ら の間 き取 りを行 うなどのきめ細かい追跡調査が必要 となる。その意味で参加型 と講義型 と の定着度の違いをどのように検証するのかが今後の課題 となる。
次 に、少数ではあるが参加型学習を苦手 とする学習者のことを考える必要がある。 アン ケー トのコメントの中にも見受 けられたが、消極的な人ばか りが集 まるとグループ活動が 進まないというものがあった。また、参加型学習は好 きだが、 自分が所属 したグループの 活動についていけないということもあるか もしれない。例えば、 日本語教育経験者の中に 一人だけ未経験者が入 って しまった時などである。 このようなケースの解決策には、グルー プ構成員の理解 とサポー トが不可欠であり、 グループ内の協力体制が機能するかどうかは、
ファシリテーターとして講義全体を率いる講師の日配 りに左右 される。参加型学習を リー ドする講師はファシリテーターと呼ばれ、学習の場を リラックスさせ、いかに受講者の能 力を最大限に引き出せ るかがポイ ントとなる。 したが って、受講者に対 して参加型学習の 意義を正確 に伝え、 グループごとに協力 して実践 してい く体制を作 り上 げることが、参加 型学習を成功 させ るための重要な要素 となるであろう。
最後 に、講座の内容 について、今回は 5回 であり、基礎的な文法項 目をカバー してはい
るが、すべてではない。例えば、 「 品詞の特徴」 「活用の種類」 「 テンス・ ムー ド」 「複文の
構造」 などの重要なテーマは扱 っていない。今後は、参加型学習を取 り入れたこれまでの
授業内容を精査す るとともに、 これ らの文法事項をカバーす る参加型学習を実践 し、文法
全体を扱 う教育プログラムに発展 させていきたいと考えている。
0)
0 0
(4)
静岡大学留学生 セ ンター紀要 第 5号
<注 >
(1)日 本語教師および日本語学習者のデータは、文化庁文化部国語課の「平成 16年 度国内 の日本語教育の概要」 (平 成 17年 11月 )に よる。
平成 12年 3月 文化庁より発表 された「 日本語教員の養成に関する調査研究協力者会議 報告書」の中の『 日本語教育のための教員養成 について』 による。
本稿では、 日本人 に対する国語教育や日本語教育 と区別 して、特に外国人 に対する日 本語教育において必要 とされる文法 という意味で「 日本語教育文法」 と呼ぶ ことにす
る。
大学などで行われている講義の一般論を ここでは述べている。 もちろん、演習やゼ ミ 形式の少人数 クラスでは、学習者 とともに考えなが ら進める授業形態であることも多 い。
開発教育協会「参加型学習で世界を感 じる」(2003)よ り。
開発教育協会「参加型学習で世界を感 じる」 (2003)よ り。
今回の文法学習では、で きるだけ基礎的な文例を多用 し、多 くの参加者が納得できる ような解答 に してあるが、だか らといって、それ以外の考えをまった く否定するもの ではない。
アンケー ト項 目 5)将 来への有用性についての評価 は、 A(と て も役に立つ )B(役
に立つ )C(普 通 )D(あ まり役 に立たない )E(役 に立たない )と なっている。
5 6 7
侶
)く出典 >
(1)開 発教育協会 (2003)「 参加型学習で世界を感 じる 開発教育実践ハ ン
0)文 化庁文化部国語課 (2005)「 平成 16年 度国内の日本語教育の概要」
3)文 化庁文化部国語部 (2000)『 日本語教育のための教員養成 について』
語教員の養成に関する調査研究協力者会議報告書 J
)む さしの参加型学習実践研究会 (2005)「 やってみよう『参加型学習』
のための 4つ の手法〜理念 と実践〜」スリーエーネットワーク
ドブック」
文化庁「 日本
!日 本語教室
Teaching Japanese Grammar to Japanese Language Teachers:
By Involvement, Participation and Contribution in Class
Itsuo Harasawa
This paper focuses on how Japanese Grammar is taught to local Japanese
language teachers through participatory learning and action. Acquiring the
knowledge of Japanese grammar, which is a fundamental and essential part of language teaching is a one way communication from teacher to student. However'
with the increase of volunteer community workers who teach foreign residents
Japanese, there has been an urgent demand in learning such language teaching methods for the community volunteer teachers. This paper will present a report of Japanese grammar teaching programs organized by the International Student Center in 2004 and 2005, and examine the result of this workshop program based on the response of the questionnaire given to the local participants-the community volunteers.
‑62‑
<資 料① >参 加型学習の実施例「格助詞の働き」
日本語文は、動詞や形容詞などからなる述語成分に名詞などの成分がいくつか結びつい てできています。
エ レニーニ ャ プ ラサキ ンゼ エ リザベ ッチ カイ ピリーニ
日本語ではこれだけでは名詞 と述語 との関係が不明なので、助詞 と呼ばれるものを使 って、
述語 に対す る名詞の役割を示 します。 このような助詞を格助詞 と呼び、格助詞 と述語の関 係を格関係 と呼びます。格助詞 は、文を構成す る成分の文法的な働 きを示す と言えます。
く 動詞文 の格関係〉
(動
作の主体 ) (動 作の場所 )
エ レニ ー ニ ャ ギ
このよ うな格助詞には、「が、を、に、へ、 と、か ら、よ り、 まで、で」があり、それぞ れガ格、 ヲ格、二格、へ格、 卜格、カラ格、 ヨリ格、マデ格、デ格 と呼ばれます。 これ ら の格成分の うち、その述語にとってな くてはな らない情報 を必須成分などと呼びます。例 えば、「飲む」 という動詞であれば、「誰が」「何を」 とい う情報がないと意味的に不充分 であると感 じます。それに対 し、 「 どこで」 「誰 と」 という情報 は必ず しもな くてはな らな いという情報ではありません。プラスアルファの情報 として考えることができるで しょう。
av=-= プラサキンゼで エリザベッチと カイピリーニャを 朧織彗
1(必
須 ) (必 須 )
上のように、 日本語の動詞文には必ず必要な格の組み合わせがあり、動詞の種類によって その組み合わせが決定 されるといえます。 ここでは、 このような組み合わせを文型 と呼ぶ
ことにします。
く 文型〉
これに対 し、「 プラサキ ンゼ」 に対する「で」や「 エ リザベ ッチ」 に対す る「 と」 は述 語 との結 びつ きというよりも、 これ らの名詞の持つ役害 1に よって付加 されていると言える で しょう。
以上の ことか ら、文法的な助詞の働 きには、述語 によって決定 されるものと名詞の役割 に よって決定 されるものとの 2種 類あることがわか ります。
【 練習
1】では、以上のことを理解 したうえで、次の動詞文の必須成分を考えて見ま しょ う。 ただ し、 ここでは「 は」 は考察外 とします。 「 は」 は格助詞 とは異なる働 きを もち、
これについては次国の講義で扱 うことに します。
① な ぐる (た た くの意味で )② 渡す (手 渡すの意味で )③ 着 く (到 着す るの意味で
)④対決す る (試 合などで )⑤ 聞 こえる (音 などが )⑥ 遊ぶ (子 供たちが
)静岡大学留学生 セ ンター紀要 第 5号
〔 タスク〕
次の動詞をそれが必要とする格成分 (必 須成分 )と の組み合わせによって分類 して くだ さい。いくつのグループに分類できるで しょうか。
紹介す る 歩 く 戦 う で きる
│ たどりつ く
出 る 爆発す る 騒 ぐ わか る
食べ る 殺 す 見 え る 結婚す る │
通 る
起 きる 飲 む 月 Jれ る 走 る
1 付 く 1 降 りる 1 飛ぶ 1 去 る 去 る │
〔 練習
1〕の解答例
①〜が 〜を 殴る
④〜が 〜と 対決する
〔 タスクの解答例〕
〈 1項 動詞〉
① Xが V
〈 2項 動詞〉
① Yに Xが V
② Xが Yを V
③ Xが Yを V
④ Xが Yを V
⑤ Xが Yに V
⑥ Xが Yと V
〈 3項 動詞〉
②〜が 〜に 渡す ③〜が 〜に 着 く
③〜に 〜が 聞こえる ④〜が 遊ぶ
起 きる /死 ぬ /爆 発する /騒 ぐ ある /で きる /わ かる /見 える
殺す /着 る /食 べる /飲 む
出る /離 れる /降 りる /去 る
通 る /飛 ぶ /走 る /歩 く
付 く /到 着す る /届 く /た どりつ く 結婚す る /ケ ンカす る /別 れる /戦 う
与える /紹 介する /教 える /貸 す
‑64‑
(状 態動詞 など
)(Y=目 的語
)(Y=出 発点
)(Y=通 過点
)(Y=到 達点
)(Y=共 同の動作者
)① Xが Yに Zを V
<資 料② >ア ンケー トのコメン ト (全 文
)1。