問題提起:民間医療保険をめぐる 現状認識と構造的特徴
堀 田 一 吉
■アブストラクト
今回のシンポジウムでは,近年,社会的注目を浴びている民間医療保険に ついての現状を分析し,将来に向けての課題を議論する。そこで本稿では,
議論の前提として民間医療保険の現状と構造的特徴を整理し,シンポジウム の目的を明示する。医療保険は,伝統的保険とは異なる固有の性質を有して おり,その特性を踏まえたリスク管理や商品設計が必要である。規制緩和が 進展する中で,現在,夥しい種類の医療保険が各社から販売されているが,
その複雑さや多様さのあまりに,消費者選択や販売体制において,一部に混 乱する現象が見られている。契約者利益の保護のあり方を考える上でも,保 険業界として早急に対処すべき課題は山積している。
■キーワード
民間医療保険,多様化,消費者保護
1.民間医療保険の現状認識
近年,民間医療保険に対するニーズは,著しい高まりを示している。生命
*平成18年10月28日の日本保険学会大会(中央大学)報告による。
/平成19年1月29日原稿受領。
1) 本シンポジウムで考察対象としているのは,いわゆる 第三分野保険 のう ち,介護や傷害を除いたものとしている。ただし,伝統的生命保険において付 加されている医療保障特約についても,多くの議論は共通している。
保険における個人保険の新規保険契約件数の構成比推移を見ると,長い間,
主力商品であった定期付終身保険から,近年,医療保険やガン保険などのい わゆる第三分野商品へ主力が転換し,さらに大きく成長を続けている。
この背景としては,需要者(加入者)に関する要因と供給者(保険会社)
に関する要因の両面から理解できる。まず,需要面では,第1に,人々の生 命保険に対する意識の変化が大きく影響していると考えられる。これまでの 死亡保障を目的とする保険加入から,生存保障を目的とする保険加入への変 化である。その理由には,扶養家族の減少などにより,遺族保障の必要性が 相対的に低下してきていることがある。第2に,医療に対する人々の意識の 変化もあるだろう。誰しもが長生きをするようになってきた現代において,
どのような医療を受けるかは,個人の選択の問題であり,自己責任の領域に かかわる部分が大きいと考える人々が増えているのではないだろうか。第3 に,医療技術の進歩が与えている部分も大きい。医療をめぐる技術や環境が 目覚しく改善しているが,これを満足いくまで享受するためには,経済的不 安を解消しておかなければならない。そうした考えが,民間医療保険のニー ズを高めている背景にあるだろう。そして第4に,医療に対する不安を大き くしているのは,社会保障水準の低下である。国民は,より多くの自助努力 が求められているが,それに対する具体的な手段として民間医療保険が期待 されていると考えられる。
他方,保険会社が積極的に医療保険を供給している要因としても,主に2 つを指摘できる。第1に,保険会社はいわゆる逆さやを生み出した貯蓄性保 険への依存から脱却するとともに,新たな保険市場を開拓するという必要性 があり,国民のニーズが顕在化している医療保障分野へ本格的に進出すると いう意図がある。第2に,そして,人口減少社会の到来への対応が保険会社 にとって急務であることである。わが国は,人口の高齢化と少子化が同時進 行により,いよいよ人口減少社会に突入した。これまで,人口増加は,保険 業の成長を力強く支えてきたが。今後人口減少に転換する中で,保険業は,
新たな成長分野を模索しなければならない。
とりわけ,退職期を目前にした 団塊世代 にとって,直面する最大の関 心は,健康への不安への備えであり,医療保険の商品開発は,まさに 団塊 世代 をターゲットにしたものといえる。さらに,死亡保障商品が人口ピラ ミッドのピークをなす団塊世代の高齢化とともに保険料の上昇という限界に 突き当たるのに対して,医療保障ニーズは年齢が高まるにつれて高まるとい う点で画期的である。それゆえに保険会社は,商品自体の収益性には劣るも のの,団塊世代への顧客接点を維持するためのツールとして位置づけている。
ところで,わが国の医療保障制度を見ると,公的医療保険が広範な保障範 囲を提供しており,現在のところ,民間医療保険の担っている領域は限定的 である 。特徴的なことは,一定の支払い条件を満たせば,定額的あるいは
図表1 個人保険(個人年金を除く)新契約件数構成比の推移
出典) インシュアランス生命保険統計号 (各年度版) 生命保険事業概況 (各 年版)より筆者作成。
2) わが国における医療保障をめぐる個人負担の領域は,①保険給付以外の高度
定型的に支払われる形になっており,必ずしも実際に要した医療費とは関連 付けられていないということである。そのために,給付金や保険金は,使途 制限はなく,医療費だけでなく,一時的な収入減少の補塡や生活費の確保な ど所得保障に向けられる場合が多い。わが国の民間医療保険では,実際に要 した医療費を対して補償する実損塡補型はごく一部に限られており,医療
(費用)保障機能だけでなく,所得保障機能にも大きな重点が置かれてい る 。
こうした中で,保険業界では保険自由化が大幅に進められ,実に多種多様 な医療保険商品が開発されている(宮地(2006)を参照)。あまりに多様化 が進んでおり,特徴を明確に分類しながら整理することは非常に困難である が,大まかに整理すれば次のようになるだろう。すなわち,⑴保障内容の範 囲拡大(生活習慣病や特定疾病の保障拡充,付加サービスの提供など),⑵ 保障期間の長期化・終身化,⑶給付日数の多様化・弾力化(日帰り入院保障,
通算限度日数設定の多様化など),⑷加入者対象の特化(女性限定,高齢者 向け),⑸加入基準の緩和(既往者や有病者向け保険,無選択保険など),⑹ 販売チャネルの多様化(通信販売,インターネット申し込みなど),である。
これらの組み合わせにより,各社は独自の商品開発と販売チャネルを通じ て,ビジネスモデルの構築を模索しており,まさに,民間医療保険は,規制 緩和の象徴的存在となっている。ただし,こうした医療保険をめぐる多様 化・複雑化の傾向が,消費者・契約者にとって保険選択の幅を拡げている半
医療,②健康診断,大衆薬などの健康管理,③差額ベッド代や給食代,付添看 護費用など,④治療費の自己負担(現行3割),である。これに対して,民間 医療保険による給付は区々であるが,共通しているのは,①三大疾病(ガン,
心筋梗塞,脳卒中)になったときの一時金,②死亡・高度障害ときの一時金,
③手術給付金,④入院給付金,⑤リビングニーズ特約への給付,などである。
3) わが国の公的医療保険では, 高額療養費制度 により,一定の限度額を超 えた医療費の自己負担に対して超過分に対して償還を受けることができる。た だし,通常は還付されるまでには数ヶ月を要するために,一時的な自己負担が 必要となる。
面で,商品比較を困難にさせている部分も否めない。
医療保険への急速なシフトは,将来の保険業界に大きな影響を与えかねな い。現在,健康に問題がない団塊世代も,20年後になれば,後期高齢期に入 り,確実に保険給付が増えることが予想される。医療保険加入後,しばらく は,収入保険料が増えて,数字の上では,順調な成長を見せるであろうが,
将来,保険金支払いが集中する時期が訪れることを保険会社は十分に覚悟し ておかなければならない。健全な保険経営を維持するためには,現段階にお ける保険会社の慎重なリスク管理が求められる。
2.医療保険の構造的特徴
第三分野保険 としての医療保険は,保険業法上,伝統的な生命保険
(第一分野)あるいは損害保険(第二分野)とは区別され性格づけられてい る。これは,商法における保険分類にしたがって,人に関わるリスクを定額 で保障する生命保険とし,他方,モノに関わるリスクを損害塡補で補償する 損害保険とするとき,医療保険は,どちらにも当てはまらない,あるいは部 分的にはどちらの性格をも有する保険である。つまり,医療保険は,人に関 わるリスクを対象とする保険ではあるが,人の生死を基準とした死亡保険か 生存保険かという分類は適当でない。
現在,生損保両業界において積極的な商品開発ならびに販売を展開してお り,さらに今後,医療保険市場が大きく成長するに伴って,生損兼営禁止と いう保険業法上の建前は急速に薄らいでいくものと思われる。
しかし,医療保険は,医療リスクを引き受け対象とする保険であるが,従 来まで取り扱ってきた保険商品とは異なる特徴を持っている。そこで,まず 医療リスクの性質を他のリスクと比較してみると,次のように整理できるだ ろう。第1に,医療保険は,情報の非対称性の大きい医療を取り扱うことか ら,医療リスクは,十分なリスク情報の入手が困難なものといえる。医療リ スクへの認識についても,患者個人によって異なり,医療に対する無知や認 識不足のために,重篤な状態になるまで放置されることがある。社会的には,
予防や早期治療を促すことが費用最小化につながる可能性もある。したがっ て,効率的な資源配分のためには,受療への適正なインセンティブを与える 仕組みが求められることになる。こうしたことから,医療保険は,不可避的 に不完備契約となりやすい。場合によっては,保険市場の成立を妨げる要因 となりかねないことから,成立を可能とさせる工夫が必要となる。
第2に,統計的には,医療リスクは加齢とともに著しく大きくなる逓増リ スクである。通常,中高年以降になると受診率が高くなり医療コストも急増 する。集団として見るとき,医療リスクとしては,年齢が高くなるほど,急 激に高くなっていくことは明らかである。ところが,個別に観察すると,医 療リスクの大きさは年齢が高まるにつれて,むしろ正確に把握できることも 特徴的である。若年時にはほとんど同質に見られる集団が,時間と共に次第 に健康体と病弱体とに次第に選別されていく。医療リスクは,高齢者になる ほど,そのリスクの偏差(=散らばり)は大きくなる。医療リスクを引き受 ける立場から見るとき,若年集団については,契約を多く集めることでリス ク分散(プーリング)効果が大きくなるというメリットがあるが,中高年以 降の集団については,リスクの高い者の保険需要が顕在化するという形で逆 選択を発生させやすいことから,保険経営において危険選択(=アンダーラ イティング)の重要性が一段と高まる。
第3に,医療リスクは,医療制度や医療技術の変化など,外部要因に大き な影響を受けるリスクである。とくに公的医療保障制度のあり方は,医療機 関へのアクセスの頻度,さらに医療サービスの需要量に影響を与える。民間 医療保険としては,社会保障制度は,外部要件として受け入れざるを得ず,
その条件に基づいて,保障範囲を設定することになる。また,新しい医療技 術の開発は,医療需要に変化が生じるだけでなく,新たな医療保険のコスト を引き上げる要因となる。
次に,医療保険を構造的に分析すると,伝統的な生命保険である死亡保険 や年金保険とは異なる以下のような特徴を有する(図表2を参照) 。第1
4) 以下の記述は,堀田編著(2006)序章,pp.7‑8に基づいている。
に,保険事故認定の客観性が低いことである。死亡保険の保険事故は,いう までもなく死亡であり,自殺や故意など,免責条項を除いて,被保険者の死 亡が認定されれば,保険給付が行われる。また,年金保険においては,所定 の年齢に到達した事実が保険事故ということになる。この条件さえ満たされ れば,保険給付が開始される。これに対して,医療保険では,一義的には疾 病や傷害が保険事故と理解できるが,実際には,疾病や傷害の認定は必ずし も客観的なものではない。しかし,認識の個人差が大きいと予想できること から,かなり厳密に定義をしなければ,保険契約や保険金支払いをめぐるト ラブルの火種になりかねない 。通常,医師が病状を診断するものと考えら れるが,仮に医師が完治したと診断しても,患者(=被保険者)自身が症状 を訴える限り,依然として疾病状態にあると理解せざるを得ない。あるいは,
患者本人が病気にかかっていても,医療を受けない限り,保険事故として保 険給付の対象とはならない。医療保険では,人の生死でという客観的事実に ではなくて,疾病という基準で保険金給付要件が発生する。
第2に,医療保険においては,リスク発生が反復的である。これに対して,
死亡保険の場合には,死亡という一度限りの保険事故に対して,一回だけ保 険金が支払われることになる。年金保険の場合には,一旦支給開始年齢を過 ぎると,所定の年限に到達するまで,継続的に保険金(=年金)が給付され る。しかし,医療保険の場合には,保険事故(=疾病や傷害)が発生した都 度,保険給付は反復して行われる。もちろん,給付入院日数や一日あたりの 補償額などに上限は設定されてはいるが,その範囲では,繰り返し保障が提 供される。このことが,契約保全の観点からして,より手間とコストを要す ることとなり,同時に,保険金支払いをめぐる不正行為を誘引させる要因と なっている。
5) 近年の医療保険をめぐる保険金不払い問題の多くが,契約前発病に対する認 定の曖昧さから生じている。この場合,客観性が困難な場合において,医師に よる判断が唯一の条件となると思われる。この問題については,この後の甘利 論文で詳しく考察されている。
第3に,給付形態の違いである。理論的には,保険金支払いコストは,事 故率(F)と損害規模(D)により算出される。これに従うと,死亡保険の 事故率は死亡率であり,損害規模は保険金ということになる。死亡保険の場 合には,通常,保険金は定額であり,一旦事故が発生すると保険金として予 め決められた額が支払われて,同時に,契約は終了する。これに対して,医 療保険は,医療費の3要素(受診率,一件あたりの受診日数,一日あたりの 医療費)のそれぞれに影響を受ける。例えば,民間医療保険の入院給付金で は,一日あたり補償額を基準として疾病日数に応じて給付される。この点に 着目すれば,医療保険は,定額保険を典型とする生命保険よりも,むしろ損 害塡補を典型とする損害保険に近い性質を有している。
第4は,モラルハザードの発生についてである。これは,給付形態に影響 を受けているが,死亡保険の場合,保険金受取人は,通常,遺族であるので,
被保険者本人が保険金受け取りを目的とする行為をとることは,極めて限定 的といえる。年金においては,より多くの保険金を受け取るために故意に長 生きをするということは考えにくい。これに対して,医療保険では,保険事 故の客観性が必ずしも保証されていないことに加えて,保険金受取人が被保 険者本人となりうることから,場合によっては,モラルハザードを誘発させ る要因となりかねない。加えて,医療保険では,保険者と被保険者という二 者の間で発生するモラルハザードだけでなく,この関係に医療機関が介在す ることで,医療機関に対するモラルハザード(例えば,仮病や故意による傷 害など)が発生する可能性もある 。
6) 医療保険をめぐって発生するモラルハザードには,次の3つがあると考えら れる。すなわち,⑴ 注意力の弛緩 によるモラルハザード(=医療保険に加 入したことで健康管理を怠り,結果的に医療コストがかさむこと)である。⑵ 過剰診療 によるモラルハザード(=医療保険に加入することで,受診率が 高くなること)⑶ 過剰需要 によるモラルハザード(=受療時の医療サービ スの需要コストが低下することから,医療サービスの需要量が逆に過剰になる こと)である。実際には,保険者によるモニタリング(監視)が困難なために 完全な排除は不可能ではあるが,保険約款や保険料率の設計を通じて抑制する
第5は,財務上のリスク管理についてある。制度設計上,基礎率をどう把 握するかは,重要なポイントとなる。リスク管理を行うためには,事故発生 率と保険金支払いの将来予測をして,適正な保険料を算出し,あわせて,将 来の保険金支払いのために準備金を積み立てておかなければならない。死亡 保険ならびに年金保険においては,死亡率が最も重要な基礎率となる。これ に,市場金利や解約率,経費率などの予測が加味されて,制度設計が行われ る。これに対して,医療保険においては,死亡保険や年金保険よりも遙かに 多くの変動要素が制度設計に影響を及ぼすために,将来の保険金支払いを正 確に予想することが難しい。それだけに,信頼できる統計を整備することが 当面の大きな課題といえる。
医療保険は,上述のように保険事故やリスク構造に固有の特徴を有してい るために,今後の疾病構造の変化,医療技術の進歩,診療報酬体系や医療保 障制度の改革,平均寿命の延び,など不確実かつ変動的な要素が多く存在し ており,これらをいかに基礎率として制度設計に反映させるかが問題となる。
こうした複雑な構造を有する医療保険の財務リスクを管理することは,長 期にわたって医療保障を確実に提供する上で重要であるが,固定的な制度設 計は不可能である。したがって,変化に柔軟に対応できるような新たなリス
ための方策が採られることになる。
図表2 医療保険と年金保険╱死亡保険の構造比較
出典)堀田編著(2006)序章,p.9を一部改変
医療保険 年金保険╱死亡保険 保険事故 疾病の認定
(客観性に問題あり)
生死の事実 (客観性が高い) リスク発生構造 反復して発生 原則一度限り
給付形態 損害塡補(+定額給付) 定額給付 モラルハザード 多様な発生形態 限定的な発生
リスク管理 多様な変動要素を予測して リスク管理
主として死亡率を予測して リスク管理
ク管理の考え方が必要となる。また,社会システム全体として捉えた場合に,
民間医療保険の機能を充実させるためには,これまで以上に官との有機的連 携が重要となると思われる。
3.シンポジウムの目的と要旨
このように,民間医療保険をめぐっては,多くの課題が存在しており,未 対応のまま推移している部分が見られる。今回のシンポジウムでは, 民間 医療保険の課題と将来 と題して,民間医療保険をめぐる現状課題と将来展 望について,総合的かつ多面的な考察を試みたい。
シンポジウムの目的は,以下にあげる5点に集約できる。第1に,民間医 療保険は,いかなる構造と特徴を有するものであるかについて,保険医学・
保険数理・法律・経済,それぞれの角度から理論的整理をおこなう。それぞ れの観点からの考察を通じて,医療保険の構造的特徴は明確になると思われ る。
第2に,近年,医療保険商品の多様化が一段と進む中で,契約者から見る とき,選択の幅が拡大する半面で,拡大する選択自由と重みを増す選択責任 のバランスをどう考えたらいいかについて考えてみたい。医療保険に対する 理解度に個人差が一段と大きくなっており,保険自由化のメリットを活かし つつも,弊害を抑えるための体制構築が求められている。
第3に,契約者保護を図る上で,コンプライアンスや保険規制・販売ルー ルに関して,保険会社ならびに保険行政はどのような対応が必要かというこ とである。近年,社会問題化したいわゆる 保険金不払い問題 についても,
医療保険の複雑な特性を十分に認識することなく,もっぱら販売実績のみに 傾倒した結果と見ることができる。こうした状況に対していま何をするべき かについて議論したい。
第4に,医療保障における民間医療保険の役割は何であるかということで ある。医療保障において,民間医療保険がその役割を果たすためには官との 連携が欠かせない。しかしながら,国際的に見ると,医療保障における官民
関係は,医療に対する政策理念の違いにより,国によって様々である 。し たがって,わが国の医療事情を踏まえた独自の官民役割分担のあり方につい ての議論が必要である。
これを踏まえて,第5に,民間医療保険の将来性についての展望を図りな がら,果たして,保険業の柱となりうるか。そして健全な発展を遂げるため には,どのような対応が必要であるかを議論する。医療保障に対するニーズ は,高齢化が一段と進行する中で,しばらく高水準を維持すると予想される が,現状の保障内容でいいのか,将来に向けて取り組むべき課題は何である かを考えてみたい。
これらの問題意識を共有した上で,最初に,4人のパネリストからそれぞ れ専門の角度から報告をしていただく。小林三世治報告( 保険医学からみ た民間医療保険の課題 )では,保険医学の観点から,危険選択の考え方に ついて,医療保険と死亡保険と相違を医療統計に基づいて分析し,危険選択 の効果と課題について考察する。次に,明田裕報告( 民間医療保険におけ るリスク管理の課題 )では,リスク管理の観点から,保険設計に際して用 いられる基礎率において,死亡保険よりも不確定要素が多い医療保険におい て,責任準備金やソルベンシーマージンをめぐる問題を論及する。続いて,
甘利公人報告( 医療保険約款における法的問題 )は,始期前発病(責任開 始前発病)についての保険約款上の問題を中心に,保険金請求をめぐる紛争 を未然に防ぐ上での問題点を指摘する。最後に,中浜隆報告( 民間医療保 険の役割−日米の比較を通じて− )では,公的保障と私的保障の関係が全 く異なる日米両国を比較しながら,日本独自の民間医療保険の役割について
7) 医療保障における官民役割分担については,⑴民間保険が主導的な関係,⑵ 代替的(substitutive)な関係,⑶補完的(complementary)な関係,⑷追加 的(supplementary)な関係などに分類することができる。(堀田編著(2006) 第9章)とくに,中浜(2006)では,米国における民間医療保険の位置づけに ついての詳細な研究が展開されている。さらに,国際比較については,Scott
(2001),砂 川=江 頭(2003),OECD(2004),モ シ ア ロ ス(2004),OECD
(2005)などを参照されたい。
議論を展開する。
以上の報告を踏まえて,シンポジスト相互の討論ならびに全体討論を通じ て,民間医療保険が確実な保障を提供し続けるためには,いま何をするべき か。民間医療保険が直面する現状と課題を多角的に捉えて整理し,将来展望 を行う。
(筆者は慶応義塾大学教授)
【参考 献】
堀田一吉編著(2006) 民間医療保険の戦略と課題 勁草書房.
宮地朋果(2006) 医療保険をめぐる商品開発の動向 堀田一吉編著 民間医療保 険の戦略と課題 勁草書房
モシアロス,エリアス[ほか]編著(2004)(一圓光彌監訳) 医療財源論:ヨー ロ ッ パ の 選 択 光 生 館.(
Elias Mossialos
(2002), Funding Health Care
:Options for Europe,Open University Press.
)中浜隆(2006) アメリカの民間医療保険 同文館出版.
西村周三=田中滋=遠藤久夫編(2006) 医療経済学の基礎理論と論点 勁草書房.
OECD Health Project
(2004), Private Health Insurance in OECD Countries, OECD.
OECD
編(阿萬哲也訳)(2005) 世界の医療制度改革 明石書院(OECD(2003)Toward High-Performing Health Systems) , OECD Health Pro- ject
).Scott, Claudia
(2001), Public and Private Roles in Health Care System, Open University Press.
砂川知秀=江頭達政(2003) 欧州3カ国の医療・介護分野における民間保険市場 の最新動向 損保ジャパン総研クオータリー 42