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Academic year: 2021

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Title クロザピン誘発性流涎症のリスク因子の解明と治療法の探索 [論文内容及び審査の要旨]

Author(s) 石川, 修平

Citation 北海道大学. 博士(臨床薬学) 甲第13774号

Issue Date 2019-09-25

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/75822

Rights(URL) https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

Type theses (doctoral - abstract and summary of review)

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File Information Shuhei̲ISHIKAWA̲review.pdf (審査の要旨)

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

(2)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨

博士の専攻分野の名称 博士(臨床薬学)氏 石川 修平

井関 審査担当者 菅原 武田 宏司 准教授 小林 正紀

クロザピン誘発性流涎症のリスク因子の解明と治療法の探索

博士学位論文審査等の結果について(報告)

統合失調症は、人口の約1%が罹患する精神疾患であり、思春期に好発し、再発率が高いことから、その疾病負 担は非常に大きいことが知られている。抗精神病薬による治療は統合失調症の主症状である陽性症状の改善に有 用であるが、複数の抗精神病薬を十分量、十分期間投薬しても治療反応性を示さない治療抵抗性統合失調症が30%

程度存在することが報告されており、臨床上、大きな問題となっている。

クロザピン (CLZ) は治療抵抗性統合失調症に対して、適応を有する唯一の薬剤であり、他薬と比較して、高い 治療効果を示すことが報告されている。一方で、CLZ は無顆粒球症、糖代謝異常、流涎、便秘などの多種多様な 副作用を呈することが知られている。中でも、CLZ誘発性流涎症 (Clozapine-induced sialorrhea; CIS) CLZ服用 患者に高頻度で認められ、Quality of life やアドヒアランスの低下に加え、誤嚥性肺炎を二次的に誘発することか ら、CLZ中止理由の上位に位置する重症度の高い副作用である。しかしながら、CISのリスク因子や発現機序は明 らかとなっておらず、治療法も確立されていないことから、その治療は困難を極める。

CLZは肝臓の薬物代謝酵素の一つであるシトクロムP450によって代謝を受け、活性代謝物であるN-デスメチ ルクロザピン (NDMC)、クロザピン N-オキシド (CNO) が生成される。これら活性代謝物は CLZ とは異なる薬 理・動態特性を有することが報告されており、CIS発現への関与が示唆されるが、CLZならびに活性代謝物とCIS の関連性を検証した報告は乏しく、先述の通り、有効性の高い治療法も確立されていない。そこで本研究では、臨 床・基礎の両研究からCISの原因物質およびCIS発現のリスク因子の解明とその治療法の確立に繋がる新規知見 を得ることを目的とし、種々の検証を行った。

1. クロザピン誘発性流涎症 (CIS) 原因因子の同定 (臨床研究)

北海道大学病院において20174月から20193月の間にCLZを服用している20歳以上の患者25名を対象 とした前向きの観察研究を実施した。流涎症重症度 (DSFS) を主評価項目とし、各種薬物の血液中および唾液中 濃度、錐体外路症状 (DIEPSS)、嚥下機能 (RSST) ならびに背景因子との相関性を検証することで、CISのリスク 因子を抽出した。その結果、DIEPSS、RSST、CLZの服用量、CLZおよびCNOの血液・唾液中濃度はDSFSと有 意な相関を示さなかった。一方で、NDMCの血液・唾液中濃度はDSFSと有意な正の相関を示した。

これらの結果から、他の抗精神病薬で誘発される流涎症のリスク因子である嚥下機能障害や錐体外路障害は、

CISのリスク因子とはならないことが示唆された。さらにNDMCCISの原因因子であり、NDMCの高血中濃度 CISのリスク因子である可能性が示された。

(3)

2. CISモデル動物を用いたCIS原因因子の同定と発現機序の解明 (基礎研究)

先の臨床研究はCLZの服用時間や血中濃度の測定時間を一定にすることが困難であったことから、研究限界を 有している。したがって、臨床研究で得られた知見の妥当性を確認するためには実験動物を用いた検証を実施す る必要がある。しかし、既報ではラットやマウスなどのげっ歯類に対して、CLZ 投薬による流涎症発現に関する 検証が行われているが、臨床を模したデザインにおいて、唾液分泌量の増加を認めた報告はない。そこで、本検討 では第一にCISのモデル動物の作成を行い、作成されたモデル動物を用いて、原因因子を検証した。

雄性Wistarラットに対して、CLZ 25、50、100 mg/kgを単回経口投与し、6時間毎に口腔内の唾液量を測定した ところ、CLZの単回投与は対照群と比較して、有意な唾液分泌量の増加を示さなかった。次にCLZ 25、50、100 mg/kg7日間反復経口投与し、24時間毎に唾液分泌を測定したところ、CLZ 100 mg/kg投与3日目から対照群と 比較して、有意な唾液分泌量の増加が認められ、その反応は測定終了日である 7 日目まで持続した。また、CLZ

100 mg/kg7日間反復投与した群においては、他の投与群と比較して、有意な唾液分泌量の増加を認めた。

さらに、CLZ 100 mg/kg7日間反復投与後、全脳、顎下腺内ならびに血液中の薬物濃度を測定したところ、各 組織内でNDMCの濃度が高値であった。さらに、CLZ 100 mg/kg7日間反復投与した群の各種薬物血中濃度は 臨床濃度に近似していた。

以上の結果から、CLZ 100 mg/kg 7日間反復投与はCISモデル動物の作成に適した方法であり、作成されたモデ ルは臨床像を反映している可能性が示された。加えて、CIS モデル動物の各種組織内において、NDMC の濃度が 高値であったことから、基礎的検討においても、臨床研究と同様の原因物質およびリスク因子が同定され、その妥 当性が示された。

3. 唾液腺細胞内Ca2+濃度を指標としたCIS原因物質の評価 (基礎研究)

唾液分泌はリガンドが受容体に結合した後、唾液腺細胞内の Ca2+濃度上昇を誘発し、各種トランスポーターや イオンチャネルを活性化させることで、引き起こされる。したがって、唾液腺細胞内の Ca2+濃度の変化を評価す ることで、薬物の唾液分泌への寄与を間接的に検証することが可能となる。唾液腺細胞を用いた本研究では、臨床 研究および実験動物を用いて実施した基礎研究で得られた結果の妥当性を異なる評価系で再検証することを目的 とした。ヒト唾液腺由来細胞(HSY細胞)に対して、CLZおよび代謝物を100 µMで処理した後に細胞内Ca2+濃度を 測定し、各薬物の唾液分泌亢進作用を評価したところ、CLZおよびCNO処理ではCa2+濃度の上昇は認められなか ったが、NDMC処理において有意な上昇が認められた。また、NDMCによるCa2+濃度の上昇は、抗コリン薬であ るアトロピンの前処理によって有意に抑制された。

以上の結果から、NDMC は唾液腺細胞のムスカリン受容体に対してアゴニスト作用を示すことによって、唾液 分泌反応を誘発している可能性が示された。

以上、本研究において著者は臨床・基礎両研究の結果からCLZの活性代謝物であるNDMCCISの発現に寄 与している可能性を示した。加えて、NDMC による唾液分泌量の増加はムスカリン受容体を介した反応であり、

この反応が抗コリン薬によって抑制されることを明らかにしている。In vivoの検討において、NDMCの唾液腺へ の集積性が認められていることから、唾液腺への移行性が高い抗コリン薬による治療が CISに対して有用である 可能性が示された。

以上の結果は、治療が困難であった CISに対して有効性の高い新規治療方法を確立する上で、有用なものであ り、治療の発展に大きく貢献するものである。

従って、著者は北海道大学博士(臨床薬学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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