公的医療保障制度の存在下における 民間医療保険の役割
小 坂 雅 人
■アブストラクト
公的医療保障制度が存在する先進諸国における民間医療保険は 実損填補 型 が主流である。その機能は,公的保障の補完機能,補足機能,二重機能,
代替機能の4種類に大別でき,各国の公的医療保障制度の多様さに対応して,
複数の機能を組み合わせた民間医療保険が提供されている。また,公的医療 保障制度そのものにも,給付内容と保険料の選択制や,保険者機能の民間委 託といった民間的要素を一定程度組み込むことで,運営の効率化や選択肢の 拡大が図られている。我が国では 定額給付型 の民間医療保険が広く普及 しているが,在院日数の短縮や先進的で高額な医療の登場によって, 定額 給付型 ではカバーし切れない患者負担が生じ始めている。この様な環境変 化と,諸外国における事例は,公的医療保障制度を基軸に置きつつ,制度に 内在する課題を 実損填補型 民間医療保険が補うといった,今後の民間医 療保険に求められる新たな役割を示唆していよう。
■キーワード
民間医療保険,実損填補,定額給付
1.はじめに
先進諸国においては,医療サービスへのアクセス確保を目的として,何ら
25年10月27日の日本保険学会大会(愛知学院大学)報告による。
/平成26年1月14日原稿受
*平成
領。
●●●●●●●●●●●英文が入っている時は必 段落して右側がどのくらい空いているか確
認する ず。
かの形での公的医療保障制度が存在するが,成立の歴史的背景や財源構成,
社会的公正に対する国民意識の違い等により,その対象者やカバーする保障 範囲は大きく異なっている。
このような多様性に対応して民間医療保険が果たす役割や位置付けは異な るが,高齢化・医療技術の進歩等による医療費増大と財源制約は先進諸国が 抱える共通の課題であることから,公的医療保障制度が存在する各国におけ る官民の役割分担の現状を比較・検討することによって,今後のわが国にお ける民間医療保険のあり方についての示唆が得られるものと考えられる。
なお,本稿において公的医療保障制度とは税もしくは所得に応じた社会保 険料を主たる財源とする公的保障を,民間医療保険とは所得の多寡とは関係 しない被保険者の健康リスクに応じた保険料拠出に基づく私的保障を指す ものとし,運営主体が官であるか民であるかは問わないものとする 。
2.官民の役割分担の2つの視点
官民の役割分担を考えるにあたり,以下に述べる2つの視点を持ちつつ,
民間保険会社が果たしている役割について整理することとする。
⑴ 公的医療保障制度の 外 における民の役割
公的医療保障制度の存在下における民間医療保険の給付内容は,公的医 療保障制度の給付範囲や内容に大きく影響を受けている。各国の公的医療 保障制度の多様さに対応して,後述する複数の機能を組み合わせた多様な 民間医療保険が提供されており,国民のニーズと公的保障のギャップを埋 める補完的役割を果たしている。
1) 一般的に 公と私 官と民 が対義語として用いられるが,わが国におい ては 私的医療保険 よりも 民間医療保険 という用語が広く用いられてい ることから,本稿においては 公的医療保障制度 と 民間医療保険 を対義 語として用いることとする。
2) 公的医療保障制度の運営を民間保険会社が担っている場合は,公的医療保障 制度に分類される。
⑵ 公的医療保障制度の 中 における民の役割
一般的に公的医療保障制度の給付内容は一律であるが,国によっては給 付内容と保険料を選択できるオプションが用意されているケースもある。
また,公的医療保障制度における被保険者管理,保険料徴収,医療費支払,
疾病予防や健康管理といった保険者機能の一部民間委託や,さらには,ほ とんど全ての保険者機能を民間保険会社に委託している公設民営方式も存 在するなど,公的医療保障制度の運営に民間的要素を一定程度組み込むこ とで,運営の効率化や選択肢の拡大が図られている。
3.民間医療保険の機能分類
先行研究 における分類を参考に,公的医療保障制度が存在する各国にお いて民間医療保険が果たしている機能を以下の5つに整理した 。なお,
⑴〜⑷は公的医療保障制度によってカバーされない費用を補完的に保障する 実損填補型(indemnity)であり,⑸は公的医療保障制度とは直接関係しな い定額給付型である。
⑴ 補完(Complementary)機能
公的医療保障制度の受給に際して課せられる患者自己負担に対する保障 機能。
⑵ 補足(Supplementary)機能
公的医療保障制度の給付適用外とされている医療サービスに対する保障 機能。
⑶ 二重(Duplicate)機能
公的医療保障制度の給付対象である医療サービスについて公定価格を上 回る費用請求が認められている場合の差額や,公的給付の対象が公的病院
保険学雑誌 第 625号
3)
OECD(2004),pp.28‑40,田近・菊池(2012),8‑28頁。
4)
OECD
(2004)では,このほかに 主要(primary) と位置づけられる民 間医療保険の機能が挙げられているが,本稿では取り扱いの範囲外とする。での治療に限られている場合の民間病院での治療費などを保障する機能。
⑷ 代替(Substitute)機能
公的医療保障制度への加入義務が課されていない人々に対して,公的保 障と同様な範囲の医療サービスに対する治療費などを保障する機能。
⑸ 定額給付(Cash plan)機能
公的医療保障制度のカバー範囲とはリンクせず,入院一日あたり定額を 給付したり,がんに代表される特定の疾患に罹患した際に定額を給付した りする機能。
4.各国における公的医療保障制度と 民 の役割
【表1】に示したとおり,OECD諸国において,税や社会保険料など公的 財源による医療費支出は全体の72%を占めている 。このように医療費が主 として公的財源によって賄われていることからも,民間医療保険の役割は,
公的医療保障制度の存在や動向と切り離して論ずることはできないことは明 らかである。
5) 民間医療保険が主流といわれるアメリカにおいても,低所得者や高齢者・ハ イリスク者に対しては公的医療保障制度が提供されており,医療費支出に占め る公的財源の割合は5割近くに達する。
OECD
計 アメリカ ド イ ツ フランス イギリス 日 本72%
47.7%
76.9%
77.9%
84.1%
80.8%
28%
32.8%
9.3%
13.3%
1.1%
2.4%
12.3%
13.1%
7.3%
10.5%
15.8%
7.2%
0.7%
1.5%
4.3%
1.0%
100%
100%
100%
100%
100%
100%
合計 その他
自己負担 民間保険
公的財源
出典:OECD (2011)より作成。
【表1】各国における医療費支出の財源構成(2009年)
⑴ 各国における役割分担
公的医療保障制度が存在する諸外国における民間医療保険は実損填補型 が主流であり,民間医療保険が果たしている役割は公的医療保障制度の給 付内容と密接に関連している。以下,イギリス,フランス,ドイツ,アメ リカ,日本について,前述した官民の役割分担の視点と民間医療保険の機 能面から現行制度を概観してみる。
①イギリス
イギリスには全国民を対象とした包括的な公的医療保障制度 (
National Health Service:NHS)が存在しており,原則として受診時の患者負担
は課せられていないが ,NHSでは入院や専門医による治療は公的病院 のみを給付対象としており,民間病院での治療は対象外 となっている。
また,財政的な制約もあり,公的病院では救命的な治療が優先され,非救 命的な治療 に関しては長い待ち行列が生じている。このような待ち行列 を回避して民間病院での治療を選択した場合の費用や,公的病院での私費 患者 としての入院治療にかかる費用の保障(二重保険)に加え,高価な がんの新薬など
NHS
ではカバーされない医療サービス費用の保障(補足 保険)を組み合わせたPrivate Medical Insurance
(PMI) が民間医療保
険の中心となっている。また,Health Cash Plan(HCP
) と呼ばれる,自己負担をカバーする補完保険と定額給付保険を組み合わせた商品も提供 されている。
PMI
の被保険者数は690万人(2011年)であり,人口の約11%がカバー されている。契約件数は396万件で,うち295万件が企業向けの団体保険,6) 薬剤については1処方あたり7.85ポンド,歯科は最高214ポンドの自己負担 がある(2013年)。
7) ただし,NHSからの委託を受けている民間病院での治療は給付対象となる。
8) 腰痛や白内障などが例として挙げられている。
9) 公的病院で治療を行う医師には,公私二重診療が認められている。
625 保険学雑誌 第 号
本 の文 ところの上付きの10が入るため強制送りします
101万件が個人加入である 。主たる加入目的は診療待 ち 時 間 の 短 縮
(queue jump)であり,専門医や個室入院を選択することも可能となって いる。保険料は年齢・性別・給付内容等に基づき算定されているが,PMI は1年契約(自動更新)であり毎年の契約更改時には年齢に伴って保険料 が上昇する 。また,告知書により既往症を保障対象から外したり,保険 加入前5年間に発症していた疾患について,加入後2年間は保障の対象外 としたりするなどのアンダーライティングが行われている 。また,PMI に特徴的なのは,保障の対象とする疾患が
Acute Conditions
に限定 され,慢性疾患は対象外となっている点である。Association of BritishInsurersでは Acute Conditions
を以下のように定義している 。A disease, illness or injury that is likely to respond quickly to treatment which :
aims to return the claimant to the state of health they were in immediately before suffering the disease, illness or injury, or
leads to a full recovery.
しかしながら,急性疾患と慢性疾患という二分法では整理しきれない治 療も存在する。例えば,同じ抗がん剤の投与であっても,手術が可能な大 きさに腫瘍を縮小させるための使用については制限なく
PMI
の給付対象 となるが,腫瘍の増大を遅らせるための使用については一定期間の給付限 度を設けられるなど,保険会社各社における扱いが異なるものもあり,商 10)Private Health Care UK
ウェブサイトhttp:
//www.privatehealth.co.uk/
service-to-industry
/statistics-and-data
/private-healthcare-key-facts
11) 大規模な団体契約についてはリザルトレイティングが用いられている。12)
Thomson et al.
(2009),pp.320‑323.
13)Association of British Insurers
(2011), p.3 .
品性の違いとなっている 。
HCPは歯科や眼科の自己負担額に対する一定割合の給付
や,入院1日あたり定額給付 が組み合わされた保険である。その契約件数は260万 件(2011年)であり,企業の拠出によるものが51万件,個人加入が210万 件となっている 。なお,HCPの保険料は年齢に関係なく同一である 。
以上のように,イギリスにおける民の役割は公的医療保障制度(NHS) の 外 におけるものであるが,PMIの加入者が待ち行列を回避して民 間病院での治療を選択する(二重保険の利用)ことは,公的病院における 待ち行列の減少等にもつながることから,PMIは間接的にではあるが
NHS
の 中 においても役割を果たしていると見ることもできよう 。②フランス
フランスでは,公的医療保険が全国民をカバーしており,医療費支出に 占める公的財源の割合は日本と近い(表1参照)が,償還払い方式が原則 であることや,割増料金(協約外料金)を請求できる高名な医師 が存 在することもあって,受診時には相当程度の支払いが必要となるケースが ある。また,医療行為や医薬品の種類によって自己負担割合が大きく異な
14)
Informa UK
(2011),pp.16‑19.
15) 年間限度額が設定されている。16) 年間限度日数が設定されている。
17)
Employee Benefits Group
ウェブサイトhttp:
//www.employeebenefits.co.uk/ benefits/ healthcare-and-wellbeing/
health-cash-plans-are-booming/100558 .article
18)Simplyhealth
ウェブサイトhttps:
//www.simplyhealth.co.uk/ sh
/pages
/individuals.jsp
19) 後述するドイツにおける 選択タリフ が,公的医療保障制度の 中 にお いて,負担と給付内容を選択可能とする仕組みであるのに対し,イギリスにお ける
PMI
は公的医療保障制度の 外 において類似の効果をもたらしている ものと考えられる。20) セクター2 と呼ばれ,医師全体の約 1/4を占める。
険学雑誌 第 625号 保
きの21が入るため強制送りします 本文のところの上付
り ,日本の高額療養費制度のような公的保険の自己負担に関する上限も 存在しない。そのため,自己負担部分をカバーする補完保険や,高名な医 師への割増料金をカバーする二重保険が広く普及しており,これらは補足 制度(assurance maladie complementaire)と呼ばれている。
補足制度は,共済組合,労使共済制度,民間保険会社の3種類の保険者 が提供しており,2009年時点における加入率は国民の93%,補足制度にお けるそれぞれのシェアは57%,18%,26% ,支払保険金が総医療費に占 める割合は7.6%,2.4%,3.4% となっている。このような,補足制度 に対する高い加入率は,1999年に創設された普遍的医療制度(CMU)に よ っ て 実 現 さ れ た も の で あ る。CMUは 基 礎 的
CMU
と 補 足 的CMU
からなり,前者は医療制度の根幹を成す公的医療保険の皆保険化 を,後者は低所得者層の補足制度への加入促進 を目的とするものであ った。補足制度は多くの場合,加入に際してリスク選択を行っていない点が特 徴的である。これには,共済組合や労使共済制度による契約は伝統的に保 険契約税が免除されてきた ことが影響しており,現在でも,被保険者 の健康状態に応じた保険料を設定せず,健康告知も求めないタイプの契約
( 連帯契約・責任契約 と呼ばれ,全体の90%を占める)については,保
21) 例えば,脳血管障害,糖尿病,認知症など,長期の治療と高額な医療費を要 する疾病(長期高額疾病)については患者の自己負担はなく,代替性のない高 価な医薬品については自己負担が不要である。一方,自己負担割合が85%の医 薬品も存在する。
22) 江口隆裕(2011),24頁。
23)
DREES
(2012),p.21.
24) 即ち,低所得者が無拠出で補足的医療保険に加入できる制度。なお,補足的
CMU
の対象者は3種類のどの保険者を選択することも可能であり,保険者は 引受拒否できないことになっている。25) 共済組合はリスク選択を禁止されており,労働協約に基づく団体契約のみを 取り扱う労使共済制度は,すべての被保険者を等しく加入させなければならな いとされていることが,その理由といわれている。笠木(2012),115頁。
険契約税が優遇されている 。
このように,フランスにおける補足制度は公的医療保障制度の 外 に おけるものではあるが,保険者に対する引受義務や,リスク選択を回避す るような減税措置等によって極めて高い加入率を達成している。これは,
補足制度に対して公的な性格,即ち公的医療保障制度の 中 での役割を 付与することで,給付内容の充実というオプションを提供しているものと 考えられる。
③ドイツ
ドイツにおける医療保障は公的医療保険が中心であるが,公的保険への 強制加入を免除されている層 が少なからず存在する。強制加入を免除 されている者は,任意被保険者として公的医療保険に加入するか,民間保 険会社が提供する代替保険に加入するかを選択する事が出来る 。また,
個室や医長による診察等を選択することができる二重保険,公的医療保険 の一部負担金(医薬品や歯科補綴など)をカバーする補完保険,給付適用 外となっている眼鏡・コンタクトレンズ等をカバーする補足保険,入院一 日当たり定額が支払われる定額給付保険も提供されている。
代替保険の被保険者数は898万人(2011年) であり,人口の約11%を 占めている。保険料は年齢・性別・給付内容 等に基づき算定されるが,
保険期間・払込期間ともに終身で平準保険料が採用されている点が特徴的 である。また,2007年の公的医療保険競争強化法により,代替保険の保険 者は,基礎タリフ での契約締結を希望する者を拒否できないこととさ
26) 笠木(2012),188頁。
27) 官吏,自営業者,高所得の被用者(2011年度は年収49,500ユーロ以上)は,
公的医療保険と代替医療保険の選択が可能とされている。
28) 公的保険は現物給付であるが,代替保険は償還払いが原則となっている。
29)
PKV(2012),p.16 .
30) 一般的に,公的医療保険よりも給付の範囲は広く水準は高い。
31) 公的医療保険と同等の給付内容で,全ての代替保険者において同一の保険料。
保険学雑誌 第 625号
れており,疾病リスクが高い者に対しても,保険料を基礎タリフ以上に引 き上げたり,給付内容を制限したりすることは認められていない 。これ は,公的医療保険の 外 における代替保険に対して 中 での公的な役 割を求めるものと言える。
さらに, 外 における民間医療保険としては,二重保険や補完・補足 保険も普及しており,その契約件数は2,250万件(2011年) である。そ の内訳は,眼鏡や補聴器といった公的保険の給付適用外となるものや外来 処方薬の一部負担金等をカバーする外来付加保険(補完・補足保険)が 768万件,室料差額や医長による診察費用をカバーする病院付加保険(二 重保険)が571万件,公的保険の歯科補綴に課せられる自己負担をカバー する歯科補綴付加保険(補完保険)が1,322万件,入院日額保険(定額給 付保険)が358万件などとなっている 。
一方,公的医療保険の 中 には,民間保険的要素が一定程度組み込ま れている。公的保険の被保険者は,自ら加入する保険者を選択することが 可能であり ,さらに【表2】に示すような 選択タリフ と呼ばれる多 彩な給付内容を選択することもできる。
以上のように,公的医療保険の 外 では民間医療保険(代替保険)に 対して引受義務を課して公的な役割を担わせる一方で,公的医療保険の 中 では保険者選択の自由や 選択タリフ といった民間的要素の導入 により 公的・民間の両領域の収斂化現象が起きている と言われてい る。
(公的医療保険の保険料の上限を超えてはならないとされている。)
32) 基礎タリフ以外の給付内容の場合,引受謝絶や割増保険料,給付除外などに よる契約締結が可能である。
33) 団体契約や複数契約への重複加入もあるため,被保険者数ではない。
34)
PKV(2012),p.16 .
35) この結果生じる被保険者構成の違いによるリスクを是正するために,リスク 構造調整が行われている。
36) 田中(2006),29頁。
④アメリカ
アメリカでは,OECD(2004)において 主要(primary) と分類 される民間医療保険を中心とした医療保障が行われているが,【表1】に 示したとおり,医療費支出に占める公的財源の割合は5割近くに達してい る。これは,低所得者向けの医療扶助制度(Medicaid)や,高齢者・ハ イリスク者向けの公的医療保障制度(Medicare)が提供されているため である。以下,Medicareと民間医療保険の関わりについて概観する。
Medicareは65歳以上の高齢者と65歳未満の障がい者,末期腎不全患者
等を対象とした公的医療保障制度である。病院等の入院費用をカバーする37) 代替保険の診療報酬単価は公的保険の2倍以上となっているため,加入して いる医療保険の違いが医療アクセスなどの格差をもたらしていると言われてい る。
38) 松本勝明(2012),104頁。
39)
OECD
の定義は,“private insurance for health costs, which for the in-sured individual represents the only available access to cover where a social security scheme does not apply. This includes employerʼ s com-
pulsory schemes if cover is privately insured or self-insured.”なお,本
稿で検討する民間医療保険の対象外としている。【表2】選択タリフの内容 選択タリフの種類
出典:松本勝明(2012) より作成。
被保険者へのインセンティブ 家庭医の紹介がなければ専門医の診察を受
けられないプログラム
疾病管理プログラム(定期的な検診受診や 患者教育への参加)
免責金額の設定
一年間給付がない場合に無事故戻し 代替保険の診療報酬による償還払い 保険給付外の費用(薬剤等)の償還
報奨金や一部負担の減額
報奨金や一部負担の減額 報奨金
報奨金
追加保険料が必要 追加保険料が必要
25号 保険学雑誌 第 6
ところの上付きの40と41が入るため強制送りします 本文の
Part A
,医師の技術料や外来治療に要する費用をカバーするPart B
に つ い て はCenters for Medicare & Medicaid Services
(CMS) が 運
営しているが,外来処方薬の給付を行うPart D
や,Part AおよびB を統合したPart
C (Medicare Advantage
) については,連邦政府が保 険会社に運営を委託しており,民間保険が公的医療保障制度の運営を一部 代行している。また,Part A,B,Dそれぞれの免責金額や一部負担金さ らには給付対象外となる長期の入院費用などをカバーする補完・補足保 険 (Medigap)が提供されている。【表3】は
Medicare加入者が選択できる保障オプションを示したもの
40)
Part A
は現役世代の社会保障税が主たる財源であり,多くの場合,保険料は課せられない。
41)
Part B
は任意加入であるが,加入資格を得た際,一定の期限内に加入しないと保険料が割り増しとなる。(期限から12ヶ月遅れるごとに10%加算) 42)
Part D
はPart A
およびPart B
の双方に加入する者が任意で加入する。加入資格を得た際,一定の期限内に加入しないと保険料が割り増しとなる。
(期限から1ヶ月遅れるごとに1%加算)なお,民間保険会社が運営している が,財源の大半は公的財源であり,高所得者の保険料は所得に応じたものにな っていることなどから,本稿の定義では公的医療保障制度となる。
43)
CMS
はMedigapを “Supplementary insurance”と 呼 ん で い る が,本 稿
の定義ではComplementary insurance
(補完保険)とSupplementary insur- ance
(補足保険)を組み合わせた保険となる。Medigap
加入不可 上記の補完・補足(
Part D) Part D
外来処方薬
Part B
医師の技術料・外来費用Part C
(通常,処方薬も給付)
Part A
入院費用
Medicare Advantage
Original Medicare
出典:Centers for Medicare & Medicaid Services(2011) より作成。
カバーする費用
【表3】Medicareにおける2つの選択肢
である。Medigapへ加入するには,Part AおよびBに加入していること が必要条件 になる。また,Medicare Advantageと重複して加入する ことはできない。Medigapには多様なプランが用意されているが,保険 料の算出方法も州によって異なり,加入時年齢で固定されるもの(Issue
Age Rating),毎年の契約更改時に年齢に伴い上昇するもの(Attained Age Rating),年齢にかかわらず同じ保険料であるもの(Community Rating)と多様である 。また, Open enrollment period
が設けられており,この期間内に加入申し込みがなされた場合には,健康状態が悪 い者に対しても,保険会社は加入を拒否したり割増保険料を請求したりす ることができない点が特徴的である。Medigapの被保険者数は977万人
(2011年) であり,Medicare加入者 の約20%に相当する。
Medicare Advantageは,Part
AおよびBに加入している者であれば 誰もが選択できるプランであるが,その加入者は,PartBの保険料 に 相当する額をCMS
に支払い続けることが必要である。Part AおよびB の全ての給付内容に加え,追加保険料なしで処方薬の給付をカバーするプ ランも多いが,利用できる医療機関が限定されているなどの制約が課せら れる。また,保険会社はCMS
から,Part AとBの給付に相当する金額 を加入者数に応じて受け取っているが,その金額は保険会社ごとに入札に より決定されており,入札額が法定のベンチマークを上回った場合,その 保険会社の加入者は追加保険料を支払う必要が生じる。なお,Medicare44)
Part D
への加入は必要条件ではないが,Medigapの給付に処方薬を含むことは禁止されている。
45)
Attained Age Rating
が最も多くの州で採用されている。46) 65歳に到達し,かつ
Part B
に加入した月の初めから6ヶ月間。この間,医 的診査による加入拒否や,待機期間の設定,割増保険料を課すことは禁止され ている。47)
Americaʼ s Health Insurance Plansウェブサイト http:
//www.ahip.org/ Medigap-
2012.aspx
48)
Part A
の保険料を負担している場合は,その保険料も併せて支払うことになる。
保険学雑誌 第 625号
Advantageの被保険者数は増加傾向にあり,2012年現在で1,310万人 , Medicare加入者の約27%となっている。
このように,公的医療保障制度である
Medicareの 外 では,その給
付を補完・補足するMedigapが提供されており, 中 では保険会社が委
託を受け,Medicare Advantageの給付・運営を代行するなどの役割分 担が行われている。⑤日本
日本では公的医療保険が全国民をカバーしている。約3,500の保険者は,
被用者保険,地域保険,および後期高齢者医療制度に大別されるが,保険 給付の対象範囲や診療報酬は同一である。医療サービスの受給に際しては 定率の自己負担 を支払う必要があるが,高額療養費制度によって一月 あたりの自己負担額には上限が設けられており,過重な自己負担が生じな い仕組みになっていることから,現状では公的保険の給付を補完(Com-
plementary
)するタイプの民間医療保険に対するニーズは小さいものと考えられる。また,諸外国と比較して公的医療保障制度の給付範囲が広 い うえ,公的保険の適用とならない診療と保険診療の併用は,厚生労 働大臣の定める 評価療養 と 選定療養 についてのみ認められてい る ことから,公的保険の給付対象外となる医療サービスの供給量は少 なく,補足(Supplementary)タイプの民間医療保険に対するニーズも限 定的なものになっている。
このような状況の下,わが国では,入院一日あたりの定額給付や,がん に代表される特定の疾患に罹患した際の定額給付を中心とした民間医療保
49)
Kaiser Family Foundationウェブサイト http:
//www.kff.org
50) 70歳未満が3割,70〜74歳が2割,75歳以上が1割となっている。51) 田近(2012),6頁。
52) 診察・検査・投薬・入院料等の基礎的部分については公的保険から給付され る。
と ろこ
の の上付きが入るため強制送りします 本文
険 が広く普及している。諸外国における民間医療保険が実損填補型を 中心として発展してきたのとは大きく様相を異にしているが,【表4】に 示したような平均在院日数の差異も,その要因のひとつと考えられる。
また,生命保険事業概況によると,2011年度の医療保険単品(定額給付 型)の新規契約件数は336万件,保有契約件数は2,553万件に達しており,
終身保険と並ぶ主力商品へと成長している。【表5】は疾病入院特約と医 療保険単品の保有契約件数の年次推移を示したものであるが,医療保険単 品が順調に保有契約を伸ばす一方で,疾病入院特約の保有契約は大幅に減 少しており,これらの合計件数は減少傾向にある。この他にも災害入院特 約や成人病入院特約など,入院給付金が支払われる商品は多く,一概には 言い切れないものの,現在の医療保険単品マーケットの成長は潜在的なニ ーズを掘り起こしたものではなく,従来から存在していた定額保障型の医
53) 保険期間は長期で平準保険料が採用されている商品が一般的である。
54) 療養病床を除く一般病床のみ。
【表4】平均在院日数の各国比較
出典:OECD (2013) より作成。
イギリス フランス ドイツ アメリカ 日本 10.1日
9.5日 6.0日
5.7日 9.0日
7.4日 2000年
2010年
24.8日 18.2日 4.9日
4.8日
【表5】保有契約件数の推移 (千件)
出典:生命保険協会 生命保険事業概況 (各年)より作成。
2001年 2003年 2005年 2007年 2009年 2011年 疾病入院特約
医療保険単品 合 計
22,806 25,534 48,340 27,911
22,057 49,968 33,009
18,685 51,693 38,071
15,859 53,930 41,909
12,103 54,011 45,758
9,176 54,933
保険学雑誌 第 625号
療保険マーケットが,特約タイプから単品タイプへ置き換えられたものと 捉えることもできよう。
⑵ 各国の役割分担の比較から得られる示唆
規制のない医療保険市場における市場の失敗を避けるために,先進諸国 では公的医療保障制度が存在しているが,サービス利用時の価格低下は医 療サービスへのアクセスを容易にする一方で必然的に過剰利用を引き起こ すことになる。そのため,各国においては,公的医療保障制度を安定的に 運営するために,サービス供給量をコントロールしたり ,サービス利用 時に一部負担金を課したり,需要の価格弾力性が高いと考えられるサービ ス を(一部)給付除外とするなどして,モラルハザードに対応してい る。本稿で取り上げた諸外国では,このような自己負担をカバーすること を目的とした実損填補型民間医療保険が公的医療保障制度と共存している が,これらの民間医療保険は,単なる公的医療保障制度の財源補完の役割 を果たすに止まらず,各国における公的医療保障制度の存在の大きさ,そ の成立の歴史的背景や財源構成,社会的公正に対する国民意識の違い等を 踏まえた工夫によって,公的保障と民間保険の役割分担が図られている。
イギリスでは
NHS
の給付対象を公的病院のみに絞っており,民間病院を 利用するための費用はPMI
を活用したり自己負担としたりすることで,原則無料で利用できる
NHS
におけるモラルハザードに対処している。フ ランスでは,公的医療保険を償還払いとすると共に比較的高い自己負担割 合を課すことでモラルハザードに対応する一方で,低所得者に対しては補 足制度の保険料を国が負担したり,リスク選択による社会的弱者の排除を 防止するために保険者に対して引受義務を課したりするなどの措置を講じ ている。ドイツでは,代替民間保険に対して基礎タリフでの契約締結を法 により強制することでリスク選択を防ぎ,公的保険に選択タリフという民55) 公的病院における
Waiting List(待ち行列)に代表される。
56) 一部の外来処方薬や歯科補綴など。
間保険的要素を取り入れることで画一的になりがちな公的給付における選 択肢を拡大している。また,アメリカでは
Medicareを補完する Medigap
の加入に際してOpen enrollment period
を設けてリスク選択による ハイリスク者の排除を緩和しているほか,Medicare Advantageでは公 的制度の運営を民間保険会社に委託するなど,社会資源としての活用が図 られている。我が国では 定額給付型 の民間医療保険が広く普及しているが,定額 給付型の嚆矢となった手術給付金付疾病入院特約が発売された1970年代に は50日を超えていた平均在院日数は,近時は30日に迫り,徐々に短縮して いる。また,入院日数の長短とはリンクしない先進的で高額な医療の登場 によって, 定額給付型 ではカバーし切れない患者負担も生じ始めてお り,入院日数を支払事由とする 定額給付型 商品は,今後その合理性・
商品性の低下に直面することが予想される。
このような環境変化と,諸外国における事例は,公的医療保障制度を基 軸に置きつつ,制度に内在する課題を 実損填補型 民間医療保険が補う といった,わが国における今後の民間医療保険に求められる新たな役割を 示唆していよう。
(筆者は東京海上研究所勤務)
【参考 献】
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http:
//www.seiho.or.jp
/data/ statis tics
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/)田近栄治(2012) 序文 フィナンシャル・レビュー 111号,pp.1‑7。
田近栄治・菊池潤(2012) 医療保障における政府と民間の役割:理論フレームと 各国の事例 フィナンシャル・レビュー 111号,pp.8‑28。
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