は,南西諸島・九州の無降水日に着目し,縦軸に頻度, 横軸に無降水継続日数をとったグラフを作成し,その近 似直線の傾きの値に基づき,多雨傾向なのか干ばつ傾向 なのかを識別することにした。そして,高度場図,比湿 図,地上天気図を用いて,干ばつの発生頻度に対する地 域性,季節性,経年変動,および干ばつが発生しやすい 気象条件を解明することを目的とする。 Ⅱ.使用データおよび解析方法 Ⅱ-1.対象地域および使用データ 研究対象地域は,南西諸島7地点,および九州24地点 である(沖縄県・福岡県・佐賀県・大分県・長崎県・熊 本県・宮崎県・鹿児島県;図1)。NCEP/NCAR再解析 データの対象範囲は,北緯10∼50°,東経100∼160°と する。 使用データは,気象官署の降水量データ,『気象年鑑』 の天気図,NCEP/NCAR再解析データ (高度場850hPa, 500hPa,200hPa;比湿850hPa) である。 Ⅰ.はじめに 干ばつとは,無降水日・降水量が少ない日が長期的に 続くことである。干ばつは,西日本や南西諸島で発生す ることが多い (石島,1975;山崎ほか,1989;中村ほか, 1996;遠藤ほか,2007)。特に,四方を海に囲まれた南西 諸島は,年平均降水量2000mmを超す多雨地域であるに もかかわらず,古来から干ばつに悩まされてきた。 1825,1832年には,3,000人近くの餓死者が出るほどで あった。干ばつは,サトウキビの収穫量減少など農業に も大きく影響する。7,8,9月の月降水量を平年値の50% 減とした場合,南西諸島では,サトウキビ収穫量がha 当たり少なくても20%減少すると指摘されている (漆原, 1988)。東シナ海に面した九州でも,季節や地域によっ ては干ばつが発生し,人々の生活や農業などに影響を及 ぼしてきた。 干ばつと農業との関係についての研究は進んでいる が,南西諸島・九州の無降水日に着目し,干ばつの発生 状況や経年変動を記した論文は少ない。そこで本研究で
郡司 那央
*・山川 修治
*We investigated droughts in Southwest Islands and Kyushu from the viewpoints of regionality, seasonality, spacial and temporal variations and the weather conditions during the recent years. On the eastern coast of Kyushu, droughts tend to occur in autumn due to developing migratory anticyclones and anticyclone belts, accompanied with the dry air mass from the East China Sea. The weather conditions which seemed likely to cause droughts in Southwest Islands and Kyushu are as follows: high pressures with its prevailing dry air, and both fronts and typhoons tend to veer away from those areas because of developing subtropical high pressure zone.
Keywords: drought, no rainy days, weather condition, Southwest Islands, Kyushu
南西諸島・九州における無降水日からみた干ばつの特徴
Features of the Droughts in the Southwest Islands and Kyushu
Based on the Climatological Data of No Rainy Days
Nao GUNJI
*and Shuji YAMAKAWA
* (Accepted November 11, 2015)* Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences,
Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan
* 日本大学文理学部地球システム科学科:
Ⅱ-2.対象期間および解析・検定方法 気象官署の降水量データは,1961∼2007年の47年間, NCEP/NCAR再解析データは,1979∼2007年の29年間 を対象とする。 各地点の無降水継続日数を算出し,縦軸に頻度,横軸 に無降水継続日数をとったグラフを作成した。そして定 量的に比較するため,近似直線を作成し,その傾きを比 較した。傾きが大きければ,頻繁に雨が降りやすい,つ まり,干ばつは起こりにくいと言える。逆に傾きが小さ ければ,無降水継続日数が長い,つまり,干ばつが起こ りやすいといえる。以下に,全地点の中で一番傾きが大 きかった名瀬 (図2-a),ならびに,一番傾きが小さかっ た大分 (図2-b) の近似直線のグラフを載せた。 この近似 直線の傾きから,干ばつの発生頻度に対する地域性,季 節性,経年変動を明らかにした。傾きの色分けは,傾き が大きい(多雨傾向)順に,青色・水色,傾きが小さい 図1 本研究における解析対象地点
(a)
(a)
(b)
(b)
図2 名瀬(a)と大分(b)における無降水継続日数別にみた出現頻度(日数) 青線は統計値,黒線は一次回帰直線を示す.を示した。 図4-cから,秋は屋久島・名瀬を除き,九州から南西 諸島一体で,干ばつ傾向がみられた。春・夏・冬と比較 的多雨傾向にあった阿蘇山でも同様の結果が導き出さ れ,春よりも夏,夏よりも秋の方が,干ばつ傾向が強ま ることがわかった。 図4-dから,冬は南西諸島で多雨傾向を示した。特 に,屋久島・名瀬・沖永良部島・名護では顕著な多雨傾 向が認められた。九州東岸部 (大分県・宮崎県) の強い 干ばつ傾向は,秋に引き続き冬でもみられた。厳原は年 間を通して干ばつ傾向にあったが,冬に一番強い干ばつ 傾向を示した。春・夏には,強い干ばつ傾向を示す赤色 の地域はなかったが,秋・冬には,無降水日が続く地域 が多くなったことがわかった。 Ⅲ-2.10 年ごとの経年変動 経年変動を捕らえるために,ここでは10年ごとの データで比較検討した (図 5)。1968∼1977年 (図5-a) の10年間では,長崎県・佐賀県・大分県が,比較的干 ばつ傾向にあった。九州南部から中部・北部にかけて, 干ばつ傾向が強まった。南西諸島に着目すると,那覇と 南大東島は,南西諸島の中でも干ばつが起こりやすかっ た。九州南部,南西諸島の南西部は多雨傾向であった が,名護・沖永良部島は,データ開始がそれぞれ1974 年,1970年であるため,地点だけを赤丸でプロットして (干ばつ傾向)順に,赤色,ピンク色で示し,地域性が 明瞭に表れるように値を区切った。 Ⅲ.結果 Ⅲ-1.干ばつ発生状況 (1)1961∼2007 年の干ばつ発生状況 図3 をみると,雨が多く降る多雨地域,無降水が続き やすい地域など,地域性が表れた。1961∼2007年の間で は,九州東岸部と厳原が赤色で,干ばつが発生しやすい 地域であることが読み取れた。また,南西諸島では,沖 永良部島・名護・那覇・久米島・石垣島が比較的干ばつ 傾向にあることがわかった。逆に,九州中部・九州北部 の内陸と,屋久島・種子島・奄美大島は多雨傾向にあっ た。 (2)季節ごとの干ばつ発生状況 図4-aから,春は九州を中心に干ばつ傾向がみられ た。九州の中でも,北西部 (長崎県・佐賀県・福岡県), 東岸部から南東部 (大分県・宮崎県) にかけては,干ば つ傾向となっていた。熊本県・鹿児島県から南西諸島に かけては,多雨傾向であった。特に,種子島・屋久島・ 奄美大島・沖縄島では顕著な多雨傾向が認められた。 図4-bから,夏は,阿蘇山・人吉・名瀬を除き,九州 から南西諸島一体で,比較的干ばつ傾向となっていた。 熊本県・鹿児島県・南西諸島に関しては,春に比べて干 ばつ傾向が強まった。屋久島は,夏に限り,干ばつ傾向 図3 1981∼20087年における干ばつの発生状況 0.39 0.33 0.30 0.27 0.20
多雨傾向
干ばつ傾向
干ばつ傾向は引き続きみられた。石垣島は,1968∼1997 年の30年間では青・水色の多雨傾向を示していたが, この10年間ではピンク色の干ばつ傾向を示した。屋久 島・名瀬 (奄美) では,1968∼2007年の40年間,多雨傾 向が現れた。また,1968∼1997年の30年間でピンク色 を示した佐賀が,この10年間では赤色に変化した。こ のことから,1968∼2007年の40年間のうち,佐賀では この10年間が最も干ばつ傾向にあったといえる。 Ⅲ-3.秋期の事例一覧 干ばつ傾向が最も強く現れている秋に限定して,無降 水の連続を記録した年/月を示したのが,表 1 である。 中でも,より多くの地点で長期的に干ばつが発生し,か つ,1 か月通して無降水が続いていたのは,1977年10 月,1994年10月,2006年10月であった。 Ⅳ.考察 Ⅳ-1.干ばつの発生状況 1961∼2007年の干ばつ発生状況 (図 3) から,九州の ある。 1978∼1987年の10年間 (図5-b) では,厳原・九州東 岸部・九州内陸部の一部が干ばつ傾向にあった。ピンク 色に着目すると,長崎・佐賀・日田・大分と,阿久根・ 人吉・延岡・宮崎・都城・油津のラインで九州を東西に 切るように,ピンク色と水色に分けられた。南西諸島で は,南大東島を除いて,全体的に多雨傾向であった。 1988∼1997年の10年間 (図5-c) では,九州東岸部の 干ばつ傾向が著しかった。1978∼1987年では,大分・延 岡・宮崎はピンク色であったが,この10年間でその3地 点は赤色に変化した。長崎・佐賀・日田では,1968年か ら30年間,ピンク色の干ばつ傾向が続いた。また,1968 年から多雨傾向にあった宮古島だが,1978年からの10 年 間,1988年からの 10年間を通じ,干ばつ傾向が強 まった。南大東島は,1968∼1987年の20年間と,1998 ∼2007年の10年間では干ばつ傾向なのに対し,1988∼ 1997年の10年間のみ水色になっていることから,この 期間は多雨傾向に転じた。 1998∼2007年の10年間 (図5-c) でも,九州東岸部の
(a)
(b)
(c)
(d
図4 春 (a:3∼5月),夏 (b:6∼8月),秋 (c:9∼11月),冬 (d:12∼2月) における干ばつの発生状況(a)
(b)
(c)
(d)
(d
多雨傾向
干ばつ傾向
1978∼1987年の10年間 (図5-b) では,九州を東西に 切るように地域性が現れたが,背振山地や九州山地など の山岳効果により,地域性が現れたものと推測される。 1988∼1997年の10年間 (図5-c) により,九州東岸部 の干ばつは,この年代に始まった。1988年頃からは地 球温暖化が明瞭になりつつあり,レジームシフトが起 こった (角田ほか,2006) が,それが関連しているもの と考えられる。亜熱帯高圧帯の北緑部にあたりやすく, 西風の頻度が増大したためと理解される。 1998∼2007年の10年間 (図5-d) もほぼ同様の傾向が 続く。1999年頃には再びレジームシフトが起き (山川, 2005),この年代に,シベリア高気圧の張り出しが例年 より強まり,シベリア寒気団が北∼北西風に乗って流入 しやすい総観場となりやすかったことが関連すると推測 される。 Ⅴ まとめ 本研究で得られた結果は下記のようにまとめられる。 ・九州東岸部は干ばつが発生しやすい。この要因として 東岸部は干ばつ傾向にあることがわかった。これは,東 シナ海からの湿った空気が九州西部に吹き込み,山岳効 果により内陸部で雨が降り,九州東岸部にはフェーン現 象による乾燥した空気が流れ込むためと考えられる。 また,屋久島では多雨傾向であることが読み取れた。 これは,九州随一の高度をもつ宮之浦岳 (1,935m) の存 在が,地形性の降雨をもたらすためと考えられる。 季節ごとの解析結果 (図4-a,b, c, d) をみると,南西諸 島・九州ともに,夏と秋に干ばつ傾向を示し,特に秋 は,一段と干ばつを生じやすい。これは,亜熱帯高圧帯 に加え,大陸から高圧部が張り出すためと解釈される。 Ⅳ-2.10 年ごとの経年変動 1968∼1977年の10年間 (図5-a) では,九州南部から 中部・北部にかけて,干ばつ傾向が強まるという地域性 が現れた。これは,水蒸気を多量に含んだ東シナ海から の南風∼南西風が吹き込み,山岳効果により九州南部で 雨が降り,乾燥した空気が風下側である九州北部に向 かって流れ込みやすかったためと考えられる。
(a)
(b)
(c)
(d
図 5 各年間 (a:1968∼1977年;b:1978∼1987年;c:1988∼1997年;d:1998∼2007年) における干ばつの発生状況(d)
多雨傾向
干ばつ傾向
表1 秋期における各地点の長期無降水継続期間とその発生域 無降水はじまり 無降水おわり 地点数 地 域 1966年 10月中旬 11月上旬 4 九州 1967年 8 月下旬 9 月中旬 4 九州 1967年 9 月中旬 10月上旬 2 九州 1968年 10月上旬 11月上旬 4 南西諸島1、九州 3 1969年 10月下旬 11月中旬 3 九州 1970年 10月下旬 11月中旬 2 九州 1971年 10月上旬 10月下旬 2 九州 1971年 11月上旬 11月下旬 2 九州 1972年 9 月上旬 9 月下旬 2 沖縄 1972年 10月中旬 11月上旬 2 南西諸島1、九州 1 1977年 10月上旬 10月下旬 17 南西諸島1、九州16 1979年 9 月中旬 10月中旬 2 九州 1980年 10月下旬 11月中旬 2 九州 1981年 10月上旬 10月下旬 2 南西諸島 1984年 10月上旬 10月下旬 2 九州 1984年 10月中旬 11月上旬 5 九州 1985年 9 月上旬 9 月下旬 2 九州 1985年 10月上旬 10月下旬 3 南西諸島 1988年 10月中旬 11月中旬 8 九州 1993年 10月上旬 10月下旬 5 南西諸島2、九州 3 1994年 9 月上旬 9 月下旬 2 九州 1994年 9 月中旬 10月上旬 6 南西諸島3、九州 3 1994年 10月下旬 11月中旬 12 南西諸島1、九州11 1997年 10月上旬 10月下旬 4 南西諸島1、九州 3 1997年 10月中旬 11月上旬 7 九州 1998年 8 月下旬 9 月中旬 4 九州 1998年 10月下旬 11月中旬 3 九州 2000年 9 月中旬 10月上旬 2 南西諸島 2001年 11月上旬 11月下旬 2 九州 2005年 9 月中旬 10月上旬 2 九州 2006年 9 月下旬 10月下旬 10 南西諸島1、九州 9 2007年 10月中旬 10月下旬 2 南西諸島 2007年 10月中旬 11月上旬 5 九州 2007年 11月上旬 11月下旬 2 九州 2008年 8 月中旬 8 月下旬 1 南西諸島 2011年 8 月中旬 8 月下旬 1 南西諸島 2012年 10月上旬 10月中旬 1 南西諸島 2013年 9 月中旬 9 月下旬 1 南西諸島 2013年 11月中旬 11月下旬 1 九州
入しやすい環境場になったことも考えられる。これに は,太平洋10年規模振動 (山川,2005) が関連するもの と推測される。 ・干ばつが発生しやすい気象条件としては,大陸からの 高気圧,移動性高気圧などが発達し,南西諸島・九州が 下降気流の場になること,亜熱帯高気圧が強く西に張り 出し,前線や台風が近づけない環境場になること,南シ ナ海や東シナ海の亜熱帯高気圧圏内となり,南西諸島・ 九州に乾燥した風が流入することが考えられる。 ・地球温暖化による干ばつの頻発が予見される (吉野, 2010) なか,今後の推移が注目される。 謝辞 本研究を進めるにあたり,森 和紀教授,加藤央之教授, 佐野清文非常勤講師には,終始,数多くのご指導,有益なご 助言を賜りました。また,和気あいあいの研究環境を作って くれた気候気象システム研の仲間にも,多くの励ましを頂き ました。この場をお借りして,心から皆様に感謝を申し上げ ます。 なお,本稿は筆頭著者の2010年度卒業論文に基づき要点 をまとめたものである。 は,東シナ海からの湿った風が九州西部に吹き込み,山 岳効果により内陸部で雨が降り,東部では風下となり フェーン現象による乾燥した空気が流れ込むためと考え られる。 ・夏 (6,7,8月) と秋 (9,10,11月) に南西諸島・九州 ともに干ばつ傾向となるが,秋の方がより強い干ばつ傾 向を示した。この要因としては,亜熱帯高圧帯圏内また はその北緑部に入ることが多いこと,秋雨前線の影響が 少ないこと,移動性高気圧や帯状高気圧が発達しやすい ことが考えられる。 ・2007年までに強い干ばつ傾向 (赤色) を示さなかった 地点 (青色・水色・ピンク色) の多くでは,長期無降水 日の回数が増加傾向にあった。長い目で見ると,南西諸 島・九州は干ばつの発生頻度が増える可能性がある。 ・九州東岸部の強い干ばつ傾向は,1988∼1997年から始 まった。その要因としては,亜熱帯高圧帯の北緑部にお ける西風が吹きやすくなってきたことを挙げることがで きる。加えて,21世紀に入るころからは,シベリア高気 圧が平年より強まり,北∼北西からの乾燥した空気が流 石島 英(1975):沖縄本島付近における降水量の解析.天 気,22,2,73-77. 漆原和子(1988):南西諸島における干ばつの変化.筑波大 学地球科学系気象学気象学研究報告,14,97-101. 遠 藤 伸 彦・ 松 本 淳・ 山 本 奈 美・ 福 島 あ ず さ・ 赤 坂 郁 美 (2007):世界における降水量と降水特性の長期変化.地 学雑誌,116 (6),824-835. 角 田 友 明・ 川 端 穂 高・ 鈴 木 淳・ 簑 島 佳 代・ 鹿 園 直 建 (2006):石垣島安良崎のサンゴ骨格の酸素同位体比にみ る冬期の水温変動と1988/1989年気候レジームシフト. 参考文献 地球化学,40,301-311. 中 村 和 郎・ 氏 家 宏・ 池 原 貞 雄・ 田 川 日 出 夫・ 堀 信 行 (1996):南の島々.日本の自然 地域編8,216p. 山川修治(2005):季節∼数十年スケールからみた気候シス テム変動.地学雑誌,114 (3),460-484. 山崎道夫・仲吉良功・大城繁三(1989):沖縄の気象.日本 気象協会,275p. 吉野正敏(2010):南大東島の異常気象.気象ブックス 033 地球温暖化時代の異常気象.成山堂,pp.42-46.