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「産業廃棄物税が不法投棄に与える影響」

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(1)

産業廃棄物税が不法投棄に与える影響

【要旨】

近年,産業廃棄物の排出抑制を図るために産業廃棄物税を導入する都道府県が増加している.

本稿では,都道府県別パネルデータを用いて,産業廃棄物税が不法投棄に与える影響を検証するた

め計量分析を行った.その結果,産業廃棄物税を導入した都道府県は,導入していない都道府県と

比べて,年間の産業廃棄物不法投棄件数が平均約

4.4 件多くなっていることが示された.また,近

隣で産業廃棄物税を導入した都道府県がある場合,無い場合と比べて,年間の不法投棄件数が平均

6.0 件多くなっていることが示された.

2012 年(平成 24 年)2 月

政策研究大学院大学 政策研究科

修士課程 まちづくりプログラム

MJU11008 後藤 文豪

(2)

目 次

1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

2. 廃棄物処理法制及び産廃処理の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2-1. 廃棄物処理法制の経緯と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2-2. 産廃処理の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

2-3. 産廃不法投棄の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

2-4. 廃棄物処理法における産廃不法投棄対策の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

3. 産廃税の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

3-1. 地方税制の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

3-2. 産廃税の経緯と現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

4. 産廃税導入が産廃の不法投棄に与える影響に関する理論分析・・・・・・・・・・・・・・15

4-1. 正規の産廃処理サービス市場への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

4-2. 不法投棄市場への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

5. 産廃税導入が産廃の不法投棄に与える影響に関する実証分析・・・・・・・・・・・・・17

5-1. 分析対象及び推計式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

5-2. 基本統計量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

5-3. 推計結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

6. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

(参考文献)

(3)

1.はじめに

2000 年 4 月の地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成 11 年法律第

87 号.以下,

「地方分権一括法」という.

)施行により,地方公共団体(以下,

「自治体」という.

が地方税法(昭和 25 年法律第 226 号)に定めの無い独自の税制を導入する手続が緩和され,全国

の自治体で様々な税が導入されている.

特に,産業廃棄物

1

(以下,

「産廃」という.

)の排出・処分行為を課税客体とする税(以下,

「産

廃税」という.

2

の導入については,2002 年 4 月に三重県にて全国で初めて導入されて以降,他の

自治体(主に都道府県(以下,

「県」という.

)レベル)で導入が進み,2012 年 1 月現在では 28 自

治体にて導入されている.

産廃税を導入する自治体の目的は,大きく二つが考えられている.一つは当該税導入で産廃排出

コストを上昇させることによる排出者への産廃排出抑制インセンティブの付与,もう一つは財源

(特に環境行政に係る財源)の確保とされている

3

.しかし産廃税の導入には,産廃の排出を抑制

するインセンティブのみならず,正規の処理過程を経ずに産廃を不法投棄するインセンティブも高

めてしまう可能性も指摘されている

4

産廃税に関する研究としては,制度についての理論的考察に関するものが多い.諸富 (2003)は,

環境税研究の観点から産廃税を課す理論的根拠や望ましい制度設計について検討を加えている.倉

阪 (2003)は,環境法の立場から法制度上の課題を挙げて問題提起している.租税法の立場からは,

中里 (2000, 2002)は,産廃に関わる業種を狙い撃ちにするような税には否定的であり,当該自治体

独自の税としての産廃税を当該自治体区域外の者へ課すことの限界について指摘している.これら

を含めほか多数の先行研究を踏まえ,産廃税の創設経緯・理論的考察・制度のモデル分析などを体

系的にまとめたものとして,金子林太郎 (2009)がある.金子林太郎 (2009)は,産廃税をピグー税

として正当化するのは困難であるが、次善の税であるボーモル=オーツ税として位置付けることが

可能であると述べている.いずれの研究も,不法投棄の増減については言及していないか,もしく

は今後の実証研究における課題であると述べるにとどめている.

実証研究では,笹尾 (2011a, b)は,県別パネルデータを用いて産廃税が産廃の排出量・最終処分

量抑制に与える効果の実証分析を行い,

その効果が限定的なものであることを示している.しかし,

産廃税が産廃不法投棄に与える影響についての実証研究は,これまでのところなされていない.

そこで本稿では,産廃税導入が産廃不法投棄の発生に与える影響を検証することを目的として,

2000 年度から 2008 年度までの県別パネルデータを用いて実証分析を行う.分析の結果,産廃税を

導入した県での年間不法投棄件数は,導入していない県と比較して平均約 4.4 件多くなっているこ

とが示された.また,近隣で産廃税を導入した県がある場合,無い場合と比較して年間不法投棄件

1

本稿において「産業廃棄物」とは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号.以下,

「廃棄物処理法」という.)第2条第4項の規定による廃棄物をいう.

2

正式名称は自治体毎に異なる(例えば北海道では「循環資源利用促進税」という名称である.)が,本

稿においては,産廃の排出行為に着目した税として,一律「産廃税」という.

(4)

数が平均約 6.0 件多くなっていることが示された.

本稿の構成は次のとおりである.まず,2 章において廃棄物処理法制の概要と産廃処理の現状の

説明する.次に,3 章において地方税制の要点に触れつつ産廃税の概要を説明する.そして 4 章に

おいて,産廃税導入により不法投棄が増加することについて,部分均衡分析の手法を用いて理論分

析を行う.さらに,5 章において,産廃税導入が産廃不法投棄に与える影響を,県別パネルデータ

を用いて実証分析を行う.最後に,6 章において実証分析結果を踏まえた政策提言と今後の課題を

述べる.

2. 廃棄物処理法制及び産廃処理の概要

5

本章では,産廃税が不法投棄に与える影響を考察するための前段階として,我が国の廃棄物処理

法制及び産廃処理の経緯と現状について説明する.

2-1. 廃棄物処理法制の経緯と概要

我が国の廃棄物処理法制は,1900年制定の汚物掃除法(明治33年法律第31号)が最初である.汚

物掃除法では「汚物」の処理責任が市町村にあると規定され,我が国において廃棄物処理の責任の

所在が初めて法制上で規定された.これは我が国の廃棄物処理行政の原点と言える.当時は伝染病

が頻発していたため,当初の廃棄物処理行政は,疫病発生の防止による公衆衛生向上に主眼が置か

れていた.この立場は,1954年に制定された清掃法(昭和29年法律第72号)も基本的に踏襲してい

る.家庭から排出される廃棄物も企業・工場から排出される廃棄物も,ともに「汚物」として市町

村が自らの事務として処理してきた点が特徴である.

だが戦後の高度経済成長期に入ると,工場から排出される廃棄物が増加しその有害性の程度も高

くなってきたため,市町村の施設で処理するのが困難になってきた.水俣病等の公害問題の深刻化

も背景にあって,清掃法を全面的に改める形で1970年に廃棄物処理法が制定された.

廃棄物処理法では,廃棄物を「一般廃棄物(以下,「一廃」という.)」と「産業廃棄物」とに

区別し,主に家庭ごみが大部分を占める一廃の処理は引き続き市町村の責任としつつ,主に企業・

工場の生産活動に伴って排出される産廃の処理は,「汚染者負担原則(Polluter Pays Principle)」

6

基づいて,排出事業者の責任とされた.その後,数度にわたる改正により規制が強化されて,現在

に至る.

2-2. 産廃処理の現状

廃棄物処理法では,図1のとおり,廃棄物を一廃と産廃とに区分される.産廃の定義は限定列挙さ

れており,産廃以外の廃棄物は全て一廃として規定されている

7

.この区分から分かるように,企業

・工場から排出される廃棄物が全て産廃に該当するわけではない。ほか,一廃が市町村に処理責任

があり主に市町村直営の施設で処理されるのとは異なり,産廃は排出者に処理責任があり主に民間

企業が運営する施設で処理される点に特徴がある.

5

ここでの説明は,阿部・淡路編 (2006) pp.246-247,金子林太郎 (2009),廃棄物学会編 (2003)第1章を参

考にした.

6

ただし,細田 (1999)は,「汚染者支払い原則」と表現するのが適切であると述べている.

7

廃棄物処理法第2条を参照のこと.

(5)

図2は我が国の廃棄物排出量の推移を示している.産廃排出量は,1975年度においては2億3648万

トンであったが,2008年度においては4億366万トンであり,30年余りの間に約70%増加している.

近年ではほぼ横ばいである.一方,一廃は,増加しているものの概ね25%程度であり,過去20年で

は5000万トン前後でほぼ横ばいである.

図2:日本国内の廃棄物排出状況の推移(出所:環境省(2011b, d)を基に筆者作成)

図1:廃棄物の区分(出所:環境省 (2011a)より引用)

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

1975

年度

1980

年度

1985

年度

1990

年度

1991

年度

1992

年度

1993

年度

1994

年度

1995

年度

1996

年度

1997

年度

1998

年度

1999

年度

2000

年度

2001

年度

2002

年度

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

産業廃棄物

一般廃棄物

(6)

表1は,2008年度における産廃の種類別・業種別排出量を示している.種類別では汚泥・動物のふ

ん尿・がれき類,業種別では製造業・電気ガス熱供給業水道・農業林業・建設業が大部分を占めて

いる.

表2は2008年度における産廃の排出量と処理施設数を地域別にまとめたものである.この内訳から

も分かるように,排出量全体の約4分の1を関東が占めるなど,概ね企業活動が活発な都市部ほど排

出量が多い傾向が見られる.一方で,廃棄物処理施設数は排出量に対応したような割合とはなって

いない.施設毎に処理能力の差異があるので単純比較は難しいが,関東及び近畿は排出量の割合と

比べて処理施設数が尐なく,当該2地域からの産廃の広域的な移動が推測される.

(7)

表1:日本国内における産廃の種類別・業種別排出量

表2:産廃排出量と処理施設数の地域別構成比

種   類

排出量

(千t)

割合

(%)

排出量

(千t)

割合

(%)

燃  え  殻

2,053

0.5

87,974

21.8

汚     泥

176,114

43.6

17

0.0

廃     油

3,617

0.9

12,866

3.2

廃     酸

2,721

0.7

76,465

18.9

廃アルカリ

2,648

0.7

124,899

30.9

廃プラスチック類

6,445

1.6

9,041

2.2

紙  く  ず

1,383

0.3

飲 料 ・ た ば こ ・ 飼 料

3,280

0.8

木  く  ず

6,262

1.6

812

0.2

繊 維 く ず

74

0.0

1,096

0.3

動植物性残渣

3,194

0.8

247

0.1

動物系固形不要物

124

0.0

パ ル プ ・ 紙 ・ 紙 加 工 品

33,583

8.3

ゴ ム く ず

41

0.0

印 刷 ・ 同 関 連 業

727

0.2

金 属 く ず

8,766

2.2

14,216

3.5

ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず

6,174

1.5

石 油 製 品 ・ 石 炭 製 品

1,356

0.3

鉱  さ  い

18,440

4.6

プ ラ ス チ ッ ク 製 品

1,061

0.3

が れ き 類

61,189

15.2

262

0.1

動物のふん尿

87,698

21.7

な め し 皮 ・ 同 製 品 ・ 毛 皮

105

0.0

動物の死体

168

0.0

窯 業 ・ 土 石 製 品

8,529

2.1

ば い じ ん

16,550

4.1

31,955

7.9

合  計

403,661

100.0

3,848

1.0

2,354

0.6

はん用機械器具、 生産用機

械器具、 業務用機械器具、

そ の 他 の 製 造 業

4,128

1.0

電子部品・デバイス・電子回

路、 電気機械器具、情報通

4,823

1.2

輸 送 用 機 械 器 具

3,475

0.9

96,283

23.9

762

0.2

1,892

0.5

(注1)2008年度実績

534

0.1

(注2)産業廃棄物の種類は,廃棄物処理法の規定により分類

1,795

0.4

(注3)業種は,日本標準産業分類の大分類により分類

174

0.0

(出所)環境省 (2011d)を基に筆者作成

403,661

100.0

教育、学習支援、複合サービス業、サービス業

公   務

合   計

建  設  業

製  造  業

電気・ガス・熱供給業・水道業

情報通信業、運輸業

卸売・小売業、飲食店・宿泊業

医療・福祉

業   種

農 業 、 林 業

漁     業

鉱     業

(千トン)

(%)

(箇所)

(%)

(箇所)

(%)

(箇所)

(%)

北海道・東北

75,127

18.6

3,552

18.4

626

16.1

599

27.2

関東

103,557

25.7

3,333

17.2

877

22.5

172

7.8

中部

58,150

14.4

5,180

26.8

978

25.1

541

24.6

近畿

65,805

16.3

1,541

8.0

337

8.7

138

6.3

中国

27,498

6.8

1,861

9.6

427

11.0

265

12.1

四国

16,153

4.0

1,033

5.3

176

4.5

123

5.6

九州・沖縄

57,371

14.2

2,845

14.7

473

12.1

361

16.4

全国

403,661

100.0

19,345

100.0

3,894

100.0

2,199

100.0

(注1)地域区分は環境省(2011e)の広域処理ブロックによる

(注2)排出量は2008年度実績,処理施設数は2009年4月1日現在

(出所)環境省(2011c, d, e)を基に筆者作成

地域名

排出量

中間処理施設数

うち焼却施設

最終処分場数

(8)

2-3. 産廃不法投棄の現状

排出された産廃は,図3のとおり中間処理

8

・最終処分

9

・再生利用のいずれか又は複数の過程を経

る.環境省 (2011b)によると,2008年度における我が国の産廃排出量は4億366万トンであり,うち4

%(約1616万トン)が最終処分されている.一方,環境省 (2010)によると,2008年度における我が

国の産廃不法投棄量は20万3千トンであり,これは産廃排出量の0.05%に相当する.

8

最終処分又は再生利用の前段階として,廃棄物の分別・減容・無害化・安定化等の処理を施すこと.

9

埋め立て・海洋投入により廃棄物を最終的に処分すること.

図3:産廃処理の流れ

(注)2008年度実績

(出所)金子林太郎(2009),環境省(2010),環境省(2011b)を基に筆者作成

(4.04億トン=100%)

最終処分(埋立)

4%

(脱水,破砕,焼却など)

利 用

54%

減量化

42%

76%

直接再生利用

22%

残渣

2%

処理後再生利用

31%

直接最終処分

2%

不法投棄

0.05%?

(9)

図4は近年の産廃不法投棄の状況をまとめたものである.1990年代後半まで増加傾向であったが,

2000年代以降は減尐傾向にある.

図4:日本国内の産廃不法投棄の推移(出所:環境省 (2011b)を基に筆者作成)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

1993

年度

1994

年度

1995

年度

1996

年度

1997

年度

1998

年度

1999

年度

2000

年度

2001

年度

2002

年度

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

2009

年度

投棄量

投棄件数

(10)

2-4. 廃棄物処理法における産廃不法投棄対策の経緯

廃棄物処理法制定以降の,同法における産廃不法投棄対策の経緯を見ると,表3のとおり年々規制

強化がなされていることが分かる.

不法投棄に対する罰則については,1970年の廃棄物処理法制定時においては罰則規定が無く,処

罰は他の法令

10

に委ねられていた.その後罰則が創設されてその範囲・上限も拡大し,2012年1月現

在では,個人に対しては5年以下の懲役・1000万円以下の罰金又はこれらの併科,法人に対しては3

億円以下の罰金と規定されている.

罰則以外の規制強化としては,当該法の違反者に対する措置命令制度の導入,産業廃棄物管理票

(マニフェスト)制度の導入による廃棄物の排出・処理過程の可視化,廃棄物処理の技術的見地や

暴力団対策を背景とした廃棄物処理業者・廃棄物処理施設の許可要件厳格化などが挙げられる.

10

例えば,軽犯罪法(昭和23年法律第39号)第1条第7号などがある.

表3:産廃不法投棄対策の経緯(出所:笹尾 (2009),牧谷 (2007)などを参考に筆者作成)

制定・改正時期

不法投棄に対するする罰則

その他主な改正

1970年制定時 特になし(軽犯罪法で対応?)

1976年改正

3 か月以下の懲役,20 万円以下

の罰金

・措置命令制度の創設

1991年改正

6 か月以下の懲役、50 万円以下

の罰金

・産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度の部分的

導入

・産業廃棄物処理業の更新制導入

1997年改正

(個人) 3年以下の懲役, 1000万

円以下の罰金又はこれらの併科

(法人)1億円以下の罰金

・マニフェスト制度の全面導入

・廃棄物処理業許可の欠格要件に,「 暴力団対

策法」に違反した者を追加

2000年改正

(個人) 5年以下の懲役, 1000万

円以下の罰金又はこれらの併科

(法人)1億円以下の罰金

・個人の罪に係る公訴時効が3年から5年に延長

・廃棄物処理業許可の取消要件に,暴力団員・

暴力団の支配を受ける法人を追加

・マニフェスト義務違反(不交付・虚偽記載) に対

する罰則導入(50万円以下の罰金)

・廃棄物の野外焼却の原則禁止(3年以下の懲役

又は300万円以下の罰金)

2003年改正

同上

・不法投棄及び不法焼却の未遂罪を創設

2004年改正

同上

( ※不法焼却の罰則を不法投棄

と同じ水準まで引き上げ)

・不法投棄目的の収集運搬に対する罰則の創設

2005年改正

同上

・マニフェスト義務違反の罰則を引き上げ(6 か月

以下の懲役又は50万円以下の罰金)

2010年改正

・(個人)同上

・(法人)3億円以下の罰金

法人の罪に係る公訴時効が3年から5年に延長

(11)

3. 産廃税の概要

11

本章では,地方税である産廃税を扱ううえで必要不可欠な地方税制の要点を概観し,そのうえで

産廃税の経緯と現状を説明する.

3-1. 地方税制の概要

我が国では,租税法律主義の原則

12

により,税の賦課には法律の根拠が必要となる.これは,国の

課する国税のみならず自治体の課する地方税においても同様である.中央集権制である我が国にお

いては,法律による根拠無しに,当該自治体の条例のみを根拠として新たに税を課すことは日本国

憲法上許されない

13

.このため自治体は,法律(地方税法)の規定を根拠として税条例を制定し税を

賦課徴収している

14

地方税法には,自治体が課すことができる税の税目・課税標準・税率などが規定されている.こ

れを法定税という.法定税は,税収使途が制約されない普通税が中心であるが,一部,使途が特定

される目的税も存在する.法定税以外にも一定の条件を満たせば自治体が独自に税目を設けて課税

することができる旨規定されている.これを法定外税という.法定税と同様に,法定外税も税収使

途の制約の有無によって,普通税と目的税

15

に区別される.

2000年4月に地方分権一括法が施行され,自治体の法定外税導入手続の緩和と法定外目的税の導入

がなされた.表4は,地方分権一括法施行前と施行後における法定外税導入のための要件をまとめた

ものである.表からも分かるように,当該法施行前は積極要件を充足しかつ消極要件に該当しない

ことが求められていたが,当該法施行後は積極要件が廃止され,消極要件に該当しないことのみで

足りることとなった.同時に,法定外目的税制度の創設もなされ,全国の自治体において法定外税

の検討・導入が進んだ. 産廃税の登場は,この地方分権一括法施行により生じた,課税自主権活用

の検討の活発化が背景にある.

11

ここでの説明は,金子宏 (2010),金子林太郎 (2009),木村 (2001),前田 (2010)などを参考とした.特

に,租税法の解説は金子宏 (2010)が,法定外税制度と地方分権一括法の解説は木村 (2001)が詳しい.

12

日本国憲法第84条を参照のこと.

13

ただし,金子宏 (2010)は憲法の地方自治の保証の趣旨にそぐわないと批判しているほか,行政法及び

租税法の専門家の中でも様々な議論がある.この点は本稿では扱わない.

14

地方税法第2条及び第3条第1項を参照のこと.

(12)

表4:法定外税導入要件の比較(出所:筆者作成)

地方分権一括法施行前

地方分権一括法施行後

積極要件

①当該自治体にその税収入を確保できる税

源があること

②その税収入を必要とする当該地方公共団

体の財政需要があること

無し

消極要件

①国税または他の地方税と課税標準を同じ

くし,かつ住民の負担が著しく過重となること

②自治体における物の流通に重大な障害を

与えること

③国の経済政策に照らして適当でないこと

同左

国の関与 自治大臣の許可

自治大臣(現・総務大臣)の同意

特  徴

①国と自治体は上下の関係として規律され

ていたため,「許可」という文言を使用

②積極要件該当性の審査について,国の裁

量の余地が大きい

①国と自治体は対等・協力関係となった

ため,「同意」という文言を使用

②自治体の課税自主権を尊重し,積極

要件を廃止

③消極要件に該当しなければ国は必ず

同意しなければならず,国の関与を縮小

(13)

3-2. 産廃税の経緯と現状

産廃税は,2002年4月に三重県にて条例が施行され,我が国で初めて導入された.都道府県レベル

で導入された法定外目的税としても,我が国で初めてである.当時三重県では,当該税導入以前よ

り産廃不法投棄が多発し,この対応のために掛かる予算の膨張に頭を悩ませていた.これを背景と

して,環境行政に係る予算の財源確保と産廃の排出量・最終処分量の抑制のために,全国で初めて

導入したものである

16

産廃税は,その後全国の他自治体(主に県レベル)でも導入が進み,2012年1月現在,27道府県と

1政令指定都市(福岡県北九州市.2003年10月1日条例施行.)

17

で導入されている.図5は県レベル

での導入状況を示したものである.三重県周辺の府県や北日本・西日本などを中心に導入が進む一

方,東京・大阪都心周辺の県では,導入はあまり進んでいない.

16

三重県での産廃税導入経緯の説明は,長﨑 (2003)が詳しく,これを参考にした.

17

2005年4月に福岡県においても産廃税を導入されたが,同一の課税対象に対して両自治体からの二重課

税が生じないように,所要の調整が図られた.これについての解説は倉阪 (2003),諸富 (2003)が詳しい.

図5:産廃税の導入状況

(14)

各自治体の産廃税の課税方式については,課税客体・課税標準・納税義務者などにより,表5のと

おり分類できる.表5からも分かるとおり,いずれの自治体でも当該税は産廃の重量を基に課税額が

計算される(従量税).また、税の徴収方法も大きく分けて2つあり、申告納付方式と特別徴収方式

18

とがある

19

.なお,税率は基本的に自治体間の差異は無い(1,000円/トン)

20

18

金子宏 (2010)第3編第3章第2節を参照のこと.

19

笹尾 (2011a, b),諸富 (2003)は,税の徴収方法の差異によって効果が異なると述べている.本来は徴収

方法の差異に着目すべきだが,標準税率に差異が無い(後述)ことと,分析対象が県単位でありサンプル

数の制約があることから,本稿では徴収方法による区別はしない.実証分析(後述)においても,推計モ

デルの単純化のために産廃税制度の有無のみに着目している.

20

一部の自治体で軽減税率や課税免除規定などを設けているので,完全に同一ではない.ただし,標準

税率に差異が無いことから,本稿では特段区別しない.

表5:産廃税の徴収方法

事業者申告納付方式

最終処分業者

特別徴収方式

最終処分業者

課税方式

焼却処理・最終処分業者

特別徴収方式

課税客体

中間処理施設又は最終処

分場への産廃の搬入

最終処分場への産廃の

搬入

最終処分場における産

廃の埋立処分

焼却施設及び最終処分場へ

の産廃の搬入

課税標準

・最終処分場への搬入時

→当該産廃の重量

・中間処理施設への搬入時

→当該産廃の重量に処理係

数を乗じて得た重量

最終処分場へ搬入され

る産廃の重量

最終処分場において

埋立処分される産廃の

重量

焼却施設及び最終処分場へ

搬入される産廃の重量

納税義務者

産廃を最終処分場または中

間処理施設へ搬入する事業

最終処分場に搬入され

る産廃の排出事業者及

び中間処理業者

最終処分業者及び自

家処分事業者

焼却施設及び最終処分場へ

産廃を搬入する排出事業者

又は中間処理業者

主な導入自治体

三重県、滋賀県

東北各県など18道府県 北九州市

福岡県ほか九州各県

(出所)金子林太郎 (2009)を基に筆者が一部編集して作成

(15)

4.産廃税導入が産廃の不法投棄に与える影響に関する理論分析

本章では,産廃税導入が正規の産廃処理サービス市場及び不法投棄市場へ与える影響を,部分均

衡分析の手法を用いて分析し,産廃税導入により不法投棄が増加することを説明する.

4-1. 正規の産廃処理サービス市場への影響

産廃税が導入されると,税額分だけ産廃排出コストが増加する.当該税導入自治体の大部分が最

終処分場による特別徴収方式を採用している現状を鑑みれば,排出者の立場から見ると、当該税の

導入は処理料金の値上げとほぼ同一視できる.このため,図6-1のとおり当該税導入によって供給曲

線が上方シフトし,廃棄物処理数量はq

legal

からq

legal

’に減尐する.

図6-1:産廃税導入による正規の産廃市場の変化

P

(処理価格)

S'

S

B

p

legal

'

A

p

legal

Tax

D

O

q

legal

'

q

legal

(処理数量)

Q

(16)

4-2. 不法投棄市場への影響

一方で,当該税の導入により不法投棄価格が相対的に下落するため,産廃を不法投棄するインセ

ンティブが高まる.

このため,

図6-2のとおり需要曲線が上方シフトし,不法投棄数量はq

illegal

からq

illegal

に増加する.

よって、当該税導入により不法投棄が増加することが示される.

図6-2:産廃税導入による不法投棄市場の変化

P

(不法投棄価格)

D

p

illegal

'

A

S

B

p

illegal

D'

O q

illegal

q

illegal

'

(不法投棄数量)

Q

(17)

5.産廃税導入が産廃の不法投棄に与える影響に関する実証分析

本章では,4 章における理論分析で示した内容を基に,

「産廃税導入により不法投棄が増加する.」

という仮説を証明するための実証分析を行う.

5-1. 分析対象及び推計式

分析対象は全国47県とし,2000年度から2008年度までの県別の産廃不法投棄件数をパネルデータ

分析により分析する.推計にはOLSモデル分析(Whiteの修正標準誤差を使用)及び固定効果モデル

分析の手法を用いる.また,誤差項が分散不均一である可能性があるため,通常の固定効果モデル

分析と併せて,OLSモデルに県ダミー及び年度ダミーを組み込んだロバスト修正による分析

21

も実施

し,誤差項の分散不均一の問題に対応する.

推計するモデルは次のとおりである.

(

)

は各県の産廃不法投棄件数である.

は,当該県で産廃税を導入していれば1を取るダ

ミー変数

22

は,当該県に陸続きで県境を接しているか,又は当該県庁所在地を中心とし

て半径100㎞圏内

23

に県域がある県で産廃税を導入していれば1を取るダミー変数である

22 24

.4章

での理論分析に基づくと,

の係数は正の値となることが想定される.また,ある県で産廃税

が導入された場合,県税当局・警察当局からの追跡回避を図るために当該県から近隣の他県に産

廃を運搬して不法投棄することが考えられるため,

の係数も正の値となることが想定さ

れる.

は,前記

の定義に該当した県の産廃排出量の和である.

の係数が正と

なることを想定した場合,近隣県での産廃排出量が多いほど近隣県から自県へ不法投棄目的で運

び込まれる産廃が増えることが考えられるため,

及び(

)とも係数は正の値と

なることが想定される.

そのほかの変数についても説明する.

は各県内で排出される産廃の排出量(重量)である.

自県内で排出される産廃全体の量が多いほど不法投棄ルートに流れる産廃が増えると考えられる

ため,係数は正の値となることが想定される.

は各県の警察官数である.不法投棄は犯罪であ

り警察の取締対象であることから,警察官が多いほど不法投棄の取締が厳しいと考えられるため,

係数は負の値となることが想定される.

は各県の産廃中間処理施設件数及び産廃最終処分場

21

ロバスト修正(Whiteの修正標準誤差使用)による固定効果モデル分析と同義.

22

年度途中で導入した場合,導入日から年度末までの期間が6か月以上であれば1,6か月未満であれば0

とした.

23

地図情報Webサイト(みんなの知識【ちょっと便利帳】

http://www.benricho.org/map_distance_radius/radius02.html)を用いて確認した.

24

海を隔てている場合,当該円内にトンネル・橋があって往来ができる場合は1とした(例:山口県と福岡

県).ただし,北海道と青森県は100㎞を超えているが,青函トンネルで直接繋がっているため,隣接し

ていると見なして1とした.また,A県庁所在地から半径100㎞圏内にB県域が含まれていなくとも,B県

(18)

件数である.産廃処理施設が多いほど正規の産廃処理サービスを享受しやすくなると考えられる

ため,これらの係数は負の値となることが想定される.

は,各県内に他の県から搬入される,

中間処理目的の産廃搬入量(重量)及び最終処分目的の産廃搬入量(重量)である.

と同様,

他の県から搬入される産廃が多いほど不法投棄ルートに流れる産廃が増えると考えられるため,

これらの係数は正の値となることが想定される.

は各県の耕地率(各県の耕地面積を各県の全

体面積で除して100を乗じた値)である.

は各県の森林率(各県の森林面積を各県の全体面積で

除して100を乗じた値)である.不法投棄は比較的人目の尐ない時間と場所を選んで実行される傾

向が指摘されることから

25

,耕地や森林など比較的人目の尐ない地域が多いほど不法投棄実行場所

として選ばれやすくなると考えられるため,これらの係数は正の値となることが想定される.な

お,

はパラメータ, は誤差項である.

25

石渡 (2002)など.

(19)

5-2. データ

各県の不法投棄件数は,環境省『産業廃棄物の不法投棄等の状況(各年度)について』を,各県

内の産廃排出量は,環境省『産業廃棄物の排出及び処理状況等(各年度実績)について』を利用し

た.

各県の警察官数は,総務省『地方公務員給与の実態(各年4月1日現在)』よりデータを引用した.

各県の産廃中間処理施設件数及び産廃最終処分場件数は,環境省『産業廃棄物処理施設の設置、

産業廃棄物処理業の許可等に関する状況(各年度実績)』を,各県内への他県からの中間処理目的

産廃搬入量及び最終処分目的産廃搬入量は,環境省『廃棄物の広域移動対策検討調査及び廃棄物等

循環利用量実態調査報告書(毎年度実績)』を利用した.

各県の耕地率の算出に際しては,各県の耕地面積は農林水産省『耕地及び作付面積統計(各年7月

15日現在)』

より,各県の全体面積は国土地理院『全国都道府県市区町村別面積調(各年10月1日現在)』

よりデータを引用した.

また,各県の森林率の算出に際しては,各県の森林面積は林野庁『森林・林業統計要覧』より,

各県の全体面積は総務省『全国市町村要覧』よりデータを引用した

26

表6は各変数の基本統計量を示したものである.2000年度から2008年度までの全国47県のパネルデ

ータであるので,いずれの変数も観測数は423である.

26

林野庁『森林・林業統計要覧』における森林面積のデータが,毎年度は更新されておらず,1995年度・2002年度・

表6:各変数の基本統計量

変数

観測数

平均値

標準誤差

最小値

最大値

不法投棄件数(件)

423

15.31915

26.43968

0

270

産廃排出量(t)

423

8727176

7444941 1395209

40200000

警察官数(人)

423

5136.232

6853.69

1133

43632

中間処理施設数(箇所)

423

409.4043

258.5308

37

1366

最終処分場数(箇所)

423

52.49645

64.56445

2

429

県外からの中間処理目的産廃搬入量(t)

423

620.6785

890.4022

0

5540

県外からの最終処分目的産廃搬入量(t)

423

79.57683

150.4241

0

1033

耕地率(%)

423

12.98416

6.049806

3.8

29.9

森林率(%)

423

62.82175

14.95057

30.6

84.3

産廃税導入ダミー

423

0.2765957

0.4478445

0

1

近隣県産廃税導入ダミー

423

0.5271868

0.4998515

0

1

近隣県産廃排出総量(t)

423

63200000

34800000

0 139000000

近隣県産廃税導入ダミー×近隣県産廃排出総量

423

33200000

38600000

0 139000000

年度ダミー

(省略)

県ダミー

(省略)

(20)

5-3. 推計結果

表7は推計結果を示したものである.OLS分析によると産廃税導入ダミーの係数は統計的に有意で

はなかったが,固定効果を考慮することで産廃税導入ダミーの係数は5%水準で有意に正であった

27

近隣県産廃税導入ダミーの係数の値は,OLS分析及び固定効果モデル分析とも10%水準で有意に正

であった.両ダミーの係数の数値に着目すると,不法投棄件数は産廃税導入により平均約4.4件,近

隣県産廃税導入により平均約6.0件の増加となることが示された.

他の変数は,耕地率は1%水準で有意に正だったほか,森林率は有意ではなかったが係数が正であ

りt値も比較的大きな値を取った.こちらも概ね想定どおりの分析結果と言える.他方,警察官数は,

係数は負であったものの統計的に有意ではなかった.不法投棄は通常,警察が重点的にパトロール

・取締を行う地点(市街地や住宅地など)とは離れた所で行われることが多いため,警察が通常の

取締業務の延長として不法投棄対策を行うことに,限界があることを示唆していると考えられる.

最終処分場数が5%で有意に正だったことについては非常に解釈が難しいが,元々不法投棄が多かっ

た地域なので最終処分場を増やして不法投棄を解消しようとしたのでは,という逆の因果関係も考

えられる.また,最終処分場の多寡に関わらず不法投棄は起こり得るということが示されたと解釈

することもできよう

28

当該モデルと並行して被説明変数に産廃不法投棄量(重量)をとったモデルでも推計を試みたが,

産廃税導入ダミー及び近隣県産廃税導入ダミーの係数は統計的に有意な結果はとはならなかった.

なお,不法投棄件数と不法投棄量との相関分析を行ったところ両者の相関は非常に小さいことが示

されている

29

.これは,不法投棄1回あたりの投棄量の個体差が大きい可能性もあるが,件数は発見

すればその場で加算できるが,重量は加算するうえで当該廃棄物を回収して測定する必要があるた

め,件数と比較して測定誤差が大きいことが推測される.事実,OLS分析の決定係数は0.0373,固定

効果モデル分析の決定係数は0.0399と低い値をとっており,測定誤差の問題が大きいことが示唆さ

27

Hausman-testの結果,分析では主に固定効果モデルを採用した.

28

石渡 (2002)は,不法投棄実行者がしばしば,正規の産廃処理施設が足りないためやむなく投棄してい

る旨の弁解をすることを紹介している.

29

2000年度から2008年度までにおける不法投棄件数と不法投棄量との相関係数の値は0.1608であった.

表7:推計結果

被説明変数:不法投棄件数

説明変数

係数

標準誤差

t値

係数

標準誤差

t値

産廃排出量(t)

0.00000243 *** 0.000000658

3.69

-0.000000204

0.00000121

-0.17

警察官数(人)

-0.001467 ***

0.0003917

-3.75

-0.0082037

0.0085041

-0.96

中間処理施設数(箇所)

-0.0171433 ***

0.0052003

-3.3

-0.0111987

0.014543

-0.77

最終処分場数(箇所)

-0.0819569

*

0.0450371

-1.82

0.2570584 **

0.1182142

2.17

県外からの中間処理目的産廃搬入量(t)

-0.0020221

0.001874

-1.08

0.0031948

0.0040777

0.78

県外からの最終処分目的産廃搬入量(t)

-0.010849 **

0.0052834

-2.05

-0.0057035

0.0112161

-0.51

耕地率(%)

1.412039 ***

0.3386304

4.17

2.194505 ***

0.7317222

3

森林率(%)

-0.1606205

0.1572088

-1.02

5.757368

3.809601

1.51

産廃税導入ダミー

1.253802

1.998267

0.63

4.438043 **

2.132438

2.08

近隣県産廃税導入ダミー

7.509724

*

4.25014

1.77

5.955234 *

3.380027

1.76

近隣県産廃排出総量(t)

0.000000147 ***

4.98E-08

2.96

3.09E-08

3.88E-08

0.8

近隣県産廃税導入ダミー×近隣県産廃排出総量

-0.000000103

*

5.67E-08

-1.82

-3.27E-08

4.04E-08

-0.81

年度ダミー

(省略)

(省略)

定数項

-11.64342

15.15072

-0.77

-352.6676

244.1411

-1.44

決定係数

0.3654

0.2117

(注1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.

(注2)数値はロバスト修正後のものである.

OLS

FE

(21)

れる.このため本研究では,産廃不法投棄量を用いた推計は採用せず,産廃不法投棄件数のみに着

目している.

6.おわりに

本稿では,産廃税導入が産廃不法投棄の発生に与える影響を検証するために,まず産廃及び産廃

税の概要を説明し,次に理論分析において産廃税導入により産廃不法投棄が増加することを示し,

そのうえで産廃税が産廃不法投棄の発生に与える影響を実証分析により検証した.その結果,実証

分析から産廃税導入により不法投棄件数は増加する傾向が確認された.不法投棄現場毎の撤去コス

トの差異を考慮する必要はあるものの,産廃税導入によって社会的費用が増加している懸念がある

と言えるだろう.なお,笹尾 (2011a, b)が示しているように

30

,産廃税は産廃を削減するという導入

当初の目的を十分に果たしていない.したがって,産廃税導入による不法投棄の増加を考慮すると,

産廃税は社会的余剰を損なうものである可能性がある.

また,産廃税導入により,導入した県の近隣県にて不法投棄件数が増加する傾向が確認された.

したがって,各自治体は不法投棄の問題の対応を考える場合には,近隣自治体の政策決定に注目し

た対策が必要となるだろう.また,不法投棄が近隣自治体に波及することは,産廃税には負の外部

性が伴うことを示唆している.したがって,各自治体が独自に産廃税を策定する場合,外部性を考

慮せずに政策の策定がなされている可能性があるため,過剰な規制が導入されている可能性がある.

このため,当該自治体単独で行動するよりも,近隣自治体で連携した方が望ましい.ただし,自治

体間の連携が難しい場合には,産廃税の導入については県レベル,あるいは国レベルでの政策策定

が望ましいといえるだろう.

ほか,産廃不法投棄削減のための対策として,以下の二つを提案したい.まず,単純な警察官増

員に依るだけでは必ずしも効果的な不法投棄抑止に繋がらないことが,実証分析結果から示されて

いるが,これは5章でも触れたとおり,不法投棄対策を警察の通常業務の延長として位置付けること

に限界があることが原因と考えられる.よって,不法投棄取締の専門組織を創設することを提言す

る.また,他の犯罪捜査を例にとり,「密告・報奨金制度」を導入するなど,市民に不法投棄を発

見させるインセンティブを付与して,安価に発見・摘発が進む枠組みを整えることも,考察に値す

るだろう.

本研究の課題としては以下の点が挙げられる.まず,本研究では,県別の産廃処理料金の違いが

不法投棄に与える影響は分析されていない.産廃処理料金に対する不法投棄に与える影響が明らか

になれば,不法投棄予防のための政策の策定,例えば罰金金額の設定などにも有用であると考えら

れる

31

.また,産廃税制度に係る厳密な費用便益分析は未だ行われていない.これらは,今後の課題

30

笹尾 (2011a, b)は,産廃税導入による排出抑制効果は限定的なものであり,最終処分抑制にも有意な影

響を及ぼさないことを示している.ただし,笹尾 (2011a, b)の実証分析は,本稿と同じ県別パネルデータ

分析だが,本稿と異なり税の徴収方式や税導入からの経過年数に着目して細かくダミー変数を置いている.

当該ダミー変数は妥当か否か,十分な説明力が保てているかに課題があると言える.

31

ただし,本研究における実証分析は,固定効果モデル分析及び県ダミーを含んだOLS分析の手法を用い

(22)

としたい.

謝辞

本稿の作成にあたり、本学の北野泰樹助教授 (主査),黒川剛教授 (副査)、丸山亜希子助教授 (副

査)から丁寧なご指導をいただいたほか,福井秀夫教授 (プログラムディレクター) をはじめ,ま

ちづくりプログラム及び知財プログラムの関係教員の皆様からも大変貴重なご意見をいただきまし

た。ここに感謝申し上げます。また、政策研究大学院大学での研究の機会を与えてくださった派遣

元の皆様にも感謝申し上げます.最後に,研究生活の苦楽を共にした同期生の皆様と,郷里から東

京での研究生活を支えてくれた家族に心より感謝申し上げます.

なお,本稿は筆者の個人的な見解を示すものであり,筆者の所属機関の見解を示すものではあり

ません.また,本稿における見解及び内容に関する誤りは全て筆者個人に帰属します.

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