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「暴対法の改正が犯罪に与える影響に関する研究 -威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任が犯罪に与える影響の分析-」

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1 暴対法の改正が犯罪に与える影響に関する研究 -威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任が犯罪に与える影響の分析- 要旨 近年,暴力団犯罪の対策として,いわゆる暴対法が制定・改正されているところである が,本稿では,平成20 年の暴対法改正により規定された,威力利用資金獲得行為に係る代 表者等の損害賠償責任が,暴力団犯罪に及ぼす影響について,理論分析および実証分析を 行っている. 理論分析では,強盗罪・恐喝罪を減少させるものの,窃盗罪・詐欺罪を増加させるとい う影響が示された.そこで,実証分析として,OLS により分析したところ,恐喝罪を減少 させる効果があったものの,逆に,詐欺罪が増加するという問題を引き起こしていること が,統計的に有意に明らかとなった.また,この分析結果を踏まえ,政策提言を行った. 2013 年(平成 25 年)2 月 政策研究大学院大学政策研究科まちづくりプログラム MJU12608 坂井 康二

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2 目 次 今後の課題 5.2 15 まとめと政策提言 政策提言 まとめ 13 4.5 考察 14 5.1 15 4.4 推計結果 4.1 10 4.2 11 4.3 12 7 強盗罪・恐喝罪の検挙件数に対する影響 被説明変数及び説明変数 推計式モデル 使用するデータ 18 参考文献 3 4 4 5 6 10 15 16 暴力団犯罪の現状と法改正の概要 暴力団犯罪の現状について 法改正の概要について 窃盗罪・詐欺罪の検挙件数に対する影響 8 6 2.1 はじめに 1. 2. 2.2 3. 4. 5. 代表者等の損害賠償責任の影響の理論分析 代表者等の損害賠償責任の影響の実証分析 6. 3.1 一般的な犯罪モデルについて 3.3 3.2

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3 1. はじめに 我が国における,平成14 年から平成 23 年までの刑法犯の検挙件数は,平成 16 年の 66 万 7,620 件をピークに減少傾向にある.しかしながら,暴力団犯罪における刑法犯の検挙 件数については,若干の増減を繰り返しながら,4 万件前後でほぼ横ばいの傾向にある(図 1). 【図1】 刑法犯の検挙件数の推移 出典:警察庁『平成23 年の暴力団情勢(確定値版)』 『平成18 年の暴力団情勢(確定値版)』より作成 暴力団犯罪に対しては,平成3 年 5 月に,「暴力団員による不当な行為の防止等に関する 法律(平成3 年法律第 77 号,以下「暴対法」という.)が制定され,それ以降も,改正が 繰り返されてきているところであるが,その影響について十分に実証的な分析がなされて いるとは言い難く,法改正の意図しない影響が生じている可能性がある. そこで,本稿では,平成20 年の暴対法の改正に係る代表者等の損害賠償責任が犯罪に及 ぼす影響について分析する.この法改正により,損害賠償請求が代表者等に対してなされ る可能性が高まる.とすると,威力利用資金獲得行為となりうる強盗罪・恐喝罪の期待刑 罰(刑罰の重さに刑罰の執行確率を乗じたもの)が引き上げられたと考えられ,犯罪に対 する何らかの影響が生じていると考えられるからである.具体的には,平成14 年から平成 22 年までの都道府県別パネルデータを用いて,強盗罪,恐喝罪,窃盗罪,詐欺罪の 4 つの

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4 犯罪を対象に,最小二乗推定法(OLS)により,実証分析を行う. 実証分析においては,威力利用資金獲得行為になりうる強盗罪・恐喝罪の検挙件数が, 法改正により,減少したこと及び威力を利用しない資金獲得行為である窃盗罪・詐欺罪が, 法改正の結果,増加したことを,統計的に有意に明らかにする. 結論を先に述べると,恐喝罪については減少したことが1%の水準で統計的に有意に示さ れた.詐欺罪については増加したことが 10%の水準で統計的に有意に示された.強盗罪と 窃盗罪については,統計的に有意な結果を得られなかった. なお,本稿の構成は次のとおりである.第 2 章で暴力団犯罪の現状と法改正の概要につ いて概観する.第 3 章では,代表者等の損害賠償責任が規定された影響について理論分析 を行い,第 4 章では,前章の理論分析で示した仮説について実証分析を行い,その結果を 考察する.そして,第 5 章では,実証分析の結果を踏まえて,政策を提言する.最後に, 第6 章で,今後の課題をまとめる. 2. 暴力団犯罪の現状と法改正の概要 本章では,平成20 年の暴対法改正において,代表者等の損害賠償責任が規定された威力 利用資金獲得行為となりうる強盗罪・恐喝罪と,威力を利用しない資金獲得行為である窃 盗罪・詐欺罪について概観する.2.1 では,暴力団犯罪の現状について最近の動向を示す. 2.2 では法改正の概要について示す. 2.1 暴力団犯罪の現状について 平成14 年から平成 23 年までの暴力団構成員等に係る強盗・恐喝・窃盗・詐欺の各犯罪 の検挙件数の推移を表したものが,次の図 2 である.強盗罪の検挙件数については,平成 15 年の 483 件をピークに,減少している.恐喝罪の検挙件数については,平成 15 年の 2,313 件をピークに減少している.窃盗罪の検挙件数については,平成19 年の 27,914 件をピー クに減少傾向にあったが,平成23 年には増加に転じている.詐欺罪の検挙件数については, 平成16 年の 3,148 件を底に,増加傾向にある(図 2).

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5 【図2】 暴力団犯罪における強盗罪・恐喝罪・窃盗罪・詐欺罪の推移 出典:警察庁『平成23 年の暴力団情勢(確定値版)』 『平成18 年の暴力団情勢(確定値版)』より作成 2.2 法改正の概要について 暴対法31 条の 21は,威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任を規定した. 暴力団犯罪における直接の加害者は,末端の構成員であることが大半で,資力に乏しい 場合が多く,損害賠償を請求したとしても,十分に賠償を得られない場合も多い. そこで,本条の制定以前より,代表者等に対する損害賠償請求がなされており,その場 合は,民法715 条2のいわゆる使用者責任の規定に基づいて,責任を追及してきた3 1 31 条の 2 指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の 威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位 を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによ って生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。 一 当該代表者等が当該代表者等以外の当該指定暴力団の指定暴力団員が行う威力利用資金獲得行為により直接又は 間接にその生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得 ることがないとき。 二 当該威力利用資金獲得行為が、当該指定暴力団の指定暴力団員以外の者が専ら自己の利益を図る目的で当該指定暴 力団員に対し強要したことによって行われたものであり、かつ、当該威力利用資金獲得行為が行われたことにつき当該 代表者等に過失がないとき。 2 715 条 1 項 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償す る責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意を しても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 3 例えば,平成20 年の暴対法改正の国会審議では,当時の警察庁刑事局組織犯罪対策部長より,「暴力団の不法行為に つきまして,当該暴力団の代表者またはその傘下組織の組長・・・の損害賠償責任を追及する訴訟・・・は,これまで 20 件が提起をされております.」との答弁がなされている(平成 20 年 4 月 25 日衆議院内閣委員会).

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6 しかし,使用者責任の規定による場合には,「事業性」「使用者性」「事業執行性」等の立 証責任を被害者側が負い,立証が困難であるという問題があった.そこで,本条は,被害 者の立証責任を軽減し,損害賠償を請求しやすくしたものである. なお、本条にいう威力利用資金獲得行為とは,具体的には,恐喝に当たる行為やみかじ め料徴収等の暴力的要求行為などである.暴力団員は,その所属する暴力団の威力を背景 に資金獲得行為を行うことをもっぱらとしているもので,この規定の対象となるのは,そ の意味では暴力団に典型的にみられる資金獲得行為ということができる4 本条を利用した組長訴訟については,警察庁の資料5によると,損害賠償請求を提起した 事例が2 件,損害賠償請求を提起した後に和解が成立し和解金が支払われた事例が 3 件あ るほか,本条の適用を視野に準備を進めた結果,和解が成立し和解金が支払われた事例が1 件ある.現在,係争中のものを除くと,本条を利用して損害賠償を請求した事例では,い ずれも和解により解決しており,判決に至った事案はない. 3. 代表者等の損害賠償責任の影響の理論分析 本章では,法と経済学の観点から,代表者等の損害賠償責任が暴力団犯罪に与える影響 について分析する.3.1 では,一般的な犯罪モデルを経済理論で示す.3.2 では,強盗犯と 恐喝犯に対する影響を示す.3.3 では,窃盗犯と詐欺犯に対する影響を示す. 3.1 一般的な犯罪モデルについて 経済理論によれば,人々は,意思決定に関してトレードオフ(相反する関係)に直面し ている.人々がトレードオフに直面している以上,意思決定にあたっては,さまざまな行 動の費用と便益を比較する必要がある.そして,ここでいう費用には,機会費用,すなわ ち,あるものを手に入れるためにあきらめなければならないものも考慮に入れなければな らない.また,合理的な人々は,限界的な部分で考える.限界的な部分で考えることで, より良い決定を下すことができる.合理的な意思決定者は,限界的な便益が限界的な費用 を上回るような行動だけを選択する.さらに,人々は様々なインセンティブ(誘因)に反 応する.すなわち,人々が費用と便益を比較して意思決定するということは,費用や便益 が変われば人々の行動も変化する可能性があるということである.たとえば,りんごの価 格が上がったとすると,りんごを買う費用が高くなったので,人々はりんごを食べる量を 減らして梨をたくさん食べるようになる,6とされている. 4 宮本(2008)6 頁参照. 5 警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課「平成21 年の暴力団情勢」「平成 22 年の暴力団情勢」「平成 23 年 の暴力団情勢」 6 N.グレゴリー・マンキュー (2005) 5-12 頁参照.

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7 これを犯罪に置き換えて考えてみると,合理的な犯罪者は,犯罪の費用と,犯罪から得 られる便益を比較して,犯罪を実行するかどうか決定する.ここで,犯罪の費用とは,期 待刑罰であるが,期待刑罰の引上げにより,人々の犯罪行動も変化する可能性がある.た とえば,A罪の期待刑罰が引上げられたとする.A罪を行う費用が高くなったので,人々 はA罪を犯すのを止め,B罪を犯すようになる. このように,期待刑罰の引上げは,犯罪行動を変化させ,犯罪の発生に影響を与えるも のと考えられる. 3.2 強盗罪・恐喝罪の検挙件数に対する影響 まず,強盗罪・恐喝罪の検挙件数に対する影響を考える. 強盗・恐喝の限界便益曲線を右下がりの直線MB1とし,限界費用曲線を一定のMC1と仮 定すると,強盗罪・恐喝罪の件数については,次の図3 のように考えられる. 合理的意思決定者である潜在的犯罪者は,限界便益が限界費用を上回る場合に犯罪を実 行することになる.すなわち,犯罪からの限界便益曲線と限界費用曲線が交わるX1点まで, 犯罪を実行する(図3). 【図3】 強盗罪・恐喝罪の限界便益曲線・限界費用曲線 ここで,強盗罪・恐喝罪について,損害賠償が請求しやすくなったことで,限界費用曲 線がMC1からMC2へ引き上げられると,他の条件を一定とすれば,強盗罪・恐喝罪の件数 は限界費用曲線の上昇に伴いX1点からX2点へ減少する(図 4). 犯罪件数 便 益 ・ 費 用 1 1 1

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8 【図4】 損害賠償責任が強盗罪・恐喝罪に与える影響 以上の分析より,強盗罪・詐欺罪について損害賠償を請求しやすくする法改正は,強盗 罪・恐喝罪の件数を減少させると考えられる. 3.3 窃盗罪・詐欺罪の検挙件数に対する影響 次に,窃盗罪・詐欺罪の件数に対する影響について分析する. 前節で強盗罪・恐喝罪について考えたのと同様に,窃盗罪・詐欺罪について考える.限 界便益曲線を右下がりの直線MB2とし,限界費用曲線を一定のMC3と仮定すると,窃盗 罪・詐欺罪の件数については,次の図5 のように考えられる. 合理的意思決定者である潜在的犯罪者は,限界便益が限界費用を上回る場合に犯罪を実 行することになる.すなわち,犯罪からの限界便益曲線と限界費用曲線が交わるX3点まで, 犯罪を実行する. 犯罪件数 便 益 ・ 費 用 1 1 1 2 2

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9 【図5】 窃盗罪・詐欺罪の限界便益曲線・限界費用曲線 ここで,強盗罪・恐喝罪について損害賠償を請求しやすくすることによる期待刑罰の引 上げは,窃盗罪・詐欺罪により得られる利益が相対的に大きくなることを意味するため, 窃盗罪・詐欺罪から得られる便益を図 6 のようにMB2からMB3へ増大させる結果,窃盗 罪・詐欺罪の件数をX3点からX4点へ増加させる. 【図6】 強盗罪・詐欺罪への損害賠償責任が窃盗罪・詐欺罪の件数に与える影響 犯罪件数 便 益 ・ 費 用 3 3 2 3 3 犯罪件数 便 益 ・ 費 用 2 3 3 3 4

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10 以上の分析より,強盗罪・詐欺罪について損害賠償を請求しやすくする法改正は,窃盗 罪・詐欺罪の件数を増加させると考えられる. 4. 代表者等の損害賠償責任の影響の実証分析 本章では,代表者等に対する損害賠償責任が犯罪に与える影響を示した前章の理論分析 を検証するために実証分析を行う.まず,4.1 において,使用するデータとその出典を明ら かにする.次に,4.2 において,推計式の説明を行う.さらに,4.3 において,被説明変数 及び説明変数の説明を行う.そして,4.4 において,推計結果を示し,その結果に基づき, 4.5 において考察を加える. 4.1 使用するデータ 実証分析では,いずれも都道府県ごとのデータを用いた. 暴力団犯罪における,強盗罪,恐喝罪,窃盗罪,詐欺罪の各検挙件数を被説明変数とす る7.そして,人口,人口に占める65 歳以上の割合,歳出額,歳出額に占める警察費の割合 を説明変数として用いている.さらに,ダミー変数として法改正ダミーを用いている.サ ンプル期間は,制度改正があった平成20 年を中心に,平成 14 年から平成 22 年の計 9 年分 のデータを収集した.したがってサンプルサイズは423 である. データの出典について,暴力団犯罪における各犯罪の検挙件数については,平成14 年か ら平成22 年までの,千葉県警察本部の犯罪統計書『犯罪の概要』より引用した8.これは, 千葉県警察本部が毎年発表している統計資料である.ここでいう検挙件数とは,警察で検 挙した事件の数をいう. 人口については,総務省統計局『人口推計年報』より引用した.ここに記載されている, 毎年10 月 1 日現在の各都道府県の総人口を利用した.単位は千人である.ただし,平成 17 年及び平成22 年に関しては,『国勢調査』よりデータを引用した. 人口に占める65 歳以上の割合についても,総務省統計局『人口推計年報』より引用した. ここに記載されている,毎年10 月 1 日現在の各都道府県の年齢 3 区分別の総人口の中から 65 歳以上の区分の人口を利用した.単位は千人である.ただし,人口と同様に,平成 17 年及び平成 22 年に関しては,『国勢調査』よりデータを引用した.他の年次に合わせるた めに,各都道府県の5 歳階級の千人単位の総人口のうち,65 歳以上の人口を足し合わせた 7 検挙して初めて,暴力団犯罪か否かが判明することから,暴力団犯罪の発生件数を代替するものとして,検挙件数を 被説明変数とした. 8 各都道府県警によって,毎年,犯罪統計書の類が作成されている(都道府県によって,「犯罪統計書」であったり,「○ ○の犯罪」であったりするなど,名称は異なる).本研究にあたり,各都道府県警の犯罪統計書等を調べたところ,千葉 県警察本部の犯罪統計書「犯罪の概要」に全国の都道府県別のデータの記載があったため,平成14 年から平成 22 年の それを利用した.

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11 値を利用した. 都道府県ごとの歳出額については,総務省『地方財政統計年報』より引用した.ここに 記載されている,「団体別歳入歳出決算の状況」より,都道府県目的別歳出決算の歳出総額 を利用した.単位は千円である. 歳出額に占める警察費の割合についても,総務省『地方財政統計年報』より引用した. ここに記載されている,警察費を,都道府県目的別歳出決算の歳出総額で除した値を利用 した. 法改正ダミーは,平成20 年以降について1を,平成 19 年以前について 0 をとるダミー 変数である. これらの変数の基本統計量は以下の表1 のとおりである. 【表1】 基本統計量 4.2 推計式モデル 本節では,前章の理論分析により導かれた「威力利用資金獲得行為に係る代表者等に対 する損害賠償責任が,強盗罪・恐喝罪の検挙件数を減少させる反面,窃盗罪・詐欺罪の検 挙件数を増加させる」との仮説について実証分析を行うため,平成14 年から平成 22 年ま での都道府県別パネルデータを用いて,次のモデルを推計する. (検挙件数)𝑖𝑡=α +β1×(人口)𝑖𝑡 +β2×(人口に占める65 歳以上の割合)𝑖𝑡 +β3×(歳出額)𝑖𝑡 +β4×(歳出額に占める警察費の割合)𝑖𝑡 +β5× LawDummy(法改正ダミー)𝑖𝑡 +ε𝑖𝑡 平均値 標準偏差 最小値 最大値 強盗罪の検挙件数 8.91 17.34 0 105 恐喝罪の検挙件数 38.88 60.45 0 476 窃盗罪の検挙件数 528.74 837.69 0 5506 詐欺罪の検挙件数 78.35 116.46 0 885 人口 2717.04 2583.34 589 13159 65歳以上人口割合 22.45 3.08 14.21 29.65

歳出額 1.03E+09 9.76E+08 3.33E+08 6.91E+09

警察費割合 5.98 1.71 3.56 11.78

法改正ダミー 0.33 0.47 0 1

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12 α:定数項 β1~β5:パラメータ ε:誤差項 i :都道府県 t :年 この推計式モデルは,法改正ダミーによって検挙件数に及ぼす影響を捉えようとするも のである.したがって,被説明変数は,強盗罪・恐喝罪・窃盗罪・詐欺罪の各犯罪におけ る検挙件数である.推定は最小二乗推定法 (OLS) により行う. 4.3 被説明変数及び説明変数 被説明変数:検挙件数 各都道府県における暴力団犯罪の罪種別の検挙件数を被説明変数とした. コントロール変数Ⅰ:人口 人口の増減に伴う検挙件数の変化を表す指標として,各都道府県における人口(単位: 千人)を用いた. コントロール変数Ⅱ:65 歳以上人口割合 犯罪の機会費用を表す指標として,各都道府県における65 歳以上人口の割合を用いた. コントロール変数Ⅲ:歳出額 犯罪の機会費用を表す指標として,各都道府県における歳出額(単位:千円)を用いた. コントロール変数Ⅳ:歳出額に占める警察費の割合 犯罪捜査力を表す指標として,各都道府県における歳出額に占める警察費の割合を用い た. 法改正ダミー 法改正ダミーは,平成20 年以降について1を,平成 19 年以前について 0 をとるダミー 変数である.予想される符号は,強盗罪・恐喝罪においてはマイナスであり,窃盗罪・詐 欺罪においてはプラスである.

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13 4.4 推計結果 モデルの推計結果を以下に掲げる(表2~表 5). 【表2】 強盗罪の推計結果 【表3】 恐喝罪の推計結果 被説明変数 説明変数 係数 標準誤差 人口 0.001 *** 0.000 65歳以上人口割合 0.084 0.149 歳出額 1.01E-08 *** 9.19E-10 警察費割合 2.407 *** 0.375 法改正ダミー -0.140 0.753 定数項 -21.805 *** 4.163 決定係数 観測数 ***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 暴力団の強盗罪の検挙件数 0.868 423 被説明変数 説明変数 係数 標準誤差 人口 -0.004 ** 0.001 65歳以上人口割合 -0.480 0.480 歳出額 5.37E-08 *** 2.93E-09 警察費割合 10.971 *** 1.193 法改正ダミー -9.259 *** 2.399 定数項 -58.713 *** 13.255 決定係数 観測数 ***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.889 423 暴力団の恐喝罪の検挙件数

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14 【表4】 窃盗罪の推計結果 【表5】 詐欺罪の推計結果 法改正ダミーの係数の符号については,強盗罪ではマイナスとなったが,統計的に有意 ではなかった(表2).次に,恐喝罪ではマイナスとなり,1%の水準で統計的に有意であっ た(表3).窃盗罪についてはプラスとなったが,統計的に有意ではなかった(表 4).最後 に,詐欺罪についてはプラスとなり,10%の水準で統計的に有意であった(表 5). 4.5 考察 この分析の結果から,暴力団犯罪における恐喝犯・詐欺犯は,予想どおり,代表者等に 対する損害賠償責任に反応していることが示された.一方,強盗犯・窃盗犯については, 統計的に有意に反応しているとはいえなかった. 強盗犯については,もともと,組織の威力を利用した態様の犯行が少なかったために, 被説明変数 説明変数 係数 標準誤差 人口 0.242 *** 0.039 65歳以上人口割合 -17.561 11.897 歳出額 3.32E-08 7.33E-08 警察費割合 -11.399 29.872 法改正ダミー 57.916 60.040 定数項 280.266 331.776 決定係数 観測数 ***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.639 423 暴力団の窃盗罪の検挙件数 被説明変数 説明変数 係数 標準誤差 人口 0.122 *** 0.004 65歳以上人口割合 -0.666 1.280 歳出額 6.31E-08 *** 7.89E-09 警察費割合 9.415 *** 3.214 法改正ダミー 11.856 * 6.460 定数項 -65.131 * 35.699 決定係数 観測数 ***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す 0.784 423 暴力団の詐欺罪の検挙件数

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15 損害賠償を請求しやすくなっても,有意に減少しなかったものと考えられる. また,窃盗犯については,詐欺犯に比し,得られる利益が大きくならなかったために, 有意に増加しなかったものと考えられる. 5. 分析のまとめと政策提言 5.1 まとめ 本稿では,平成20 年の暴対法改正により規定された,威力利用資金獲得行為に係る代表 者等の損害賠償責任が暴力団犯罪に与える影響について,威力利用資金獲得行為となりう る強盗罪・恐喝罪と威力を利用しない資金獲得行為である窃盗罪・詐欺罪を対象に,平成 14 年から平成 22 年までの都道府県別パネルデータを用いて実証分析を行った.その結果, 恐喝罪については減少させる効果があったものの,その一方で,詐欺罪については増加さ せるという弊害が生じていることが明らかになった. 5.2 政策提言 以上の分析結果を踏まえて次の2つの政策提言を行いたい. まず,第 1 に,刑事罰と損害賠償責任とは連続しており,犯罪を抑止するための方策と して,損害賠償責任を規定するという方法も考えられるのではないか,ということである. すなわち,「これまでは,損害賠償法は被害者の救済,刑法は国家による犯罪者の処罰と, 役割を截然と独立に把える議論が普遍的であったが,どちらも外部性の内部化措置として 連続している」9のであって,犯罪抑止のためには,刑事罰の引上げのみならず,損害賠償 責任を規定することも,効果的である可能性が高い.とするならば,損害賠償の目的を被 害の回復だけにとどめるのではなく,一般予防を目的とした損害賠償も認めてよいのでは ないだろうか. 第 2 に,損害賠償責任による影響に対する十分な検討の必要性である.すなわち,損害 賠償責任を規定することにより,威力利用資金獲得行為が減少する可能性があることは, 理論分析からもわかるとおり十分に予想できたことであり,実際に,予想していた10ことで もある.とすると,代替的に,他の犯罪が増加する可能性についても,十分に検討する必 要があったのではないだろうか.今回,恐喝罪が減少する一方で,詐欺罪が増加している 9 福井 (2007) 149 頁参照. 10 例えば,平成20 年の暴対法改正の国会審議では,当時の警察庁刑事局組織犯罪対策部長より,「今回の規定〔筆者 注;暴対法31 条の 2〕が新設をされて,代表者等を相手方とする損害賠償請求が増加することによりまして,・・・こ うした威力利用資金獲得行為そのものが抑止されると,こういった効果も期待されるところでございます.」との答弁が なされている(平成20 年 4 月 17 日参議院内閣委員会).

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16 ことを明らかにした.もし,改正後に詐欺罪が増えたから次は詐欺罪に対して何らかの対 応をするということであるとすれば,いわば「もぐら叩き」的に法改正を繰り返すだけに なる可能性もあり,その結果,犯罪の総数は減少しないということにもなりかねないので はないだろうか. 6. 今後の課題 本稿の研究は,データ上の制約から,分析できなかったものがいくつかある.例えば, 分析対象とした各犯罪の内容がどのようなものか,分析することができなかった.また, 今回の分析においては,検挙件数に着目して分析を行ったが,被害額については分析する ことができなかった.法改正により,件数が減少した犯罪と増加した犯罪とを被害額で比 較したときに,仮に被害額が大きくなっているのであれば,法改正をしない方がよかった ということにもなりかねない.さらに,今回の分析においては法改正の効果のみに着目し たが,平成23 年までに全都道府県で施行された暴力団排除条例の適用状況による暴力団犯 罪の抑止効果について検証し,刑事罰,民事罰たる損害賠償責任,行政処分の最も効率的 な組み合わせを明らかにしていくことも重要であると考えられる.これらは,今後の課題 となろう. こうした点を考慮しながら,分析を積み重ね,今後の犯罪抑止策に反映させていくこと が期待される. 付録:主なデータの出典 データ 出典 暴力団犯罪における検挙件数 千葉県警察本部『犯罪の概要』 人口 総務省『人口推計年報』 人口に占める 65 歳以上の割合 都道府県ごとの歳出額 総務省『地方財政統計年報』 都道府県ごとの歳出額に占める警察費の割合

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17 謝辞 本論文の執筆にあたり,主査を担当してくださった橋本和彦助教授,副査を担当してく ださった福井秀夫教授(まちづくりプログラム・ディレクター)及び西脇雅人助教授(副 査)からは度重なる丁寧なご指導をいただきました.深く御礼申し上げます.また,ゼミ の事前相談等において貴重なご意見を下さった安藤至大准教授や,有益なご指摘をいただ いた植松丘教授,岡本薫教授,北野泰樹准教授,下村郁夫教授,鶴田大輔准教授,吉田恭 教授ら諸先生方およびまちづくりプログラム,知財プログラムの学生の皆様にも感謝申し 上げます.さらに,宮嶋康明弁護士,警察庁刑事局暴力団対策課阿部徹警視ほか,各都道 府県警の組織犯罪対策ご担当部署並びに統計ご担当部署の方々にも,暴対法の現状や統計 データ等につきまして有益な情報をいただきました.ここに記して感謝申し上げます.最 後に,政策研究大学院大学での研究機会を与えていただいた派遣元である石川県にも感謝 申し上げます. なお,本論文における見解及び内容の誤りはすべて筆者に帰します.本論文は筆者の個 人的な見解を示したものであり,筆者の所属機関の見解を示すものではないことを申し添 えます.

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18 参考文献 ・浦川道太郎(2010)「組長訴訟の生成と発展」Law&Practice No.04 145-162 http://www.lawandpractice.jp/files/yongou/urakawa.pdf ・菅野直樹(2004)「組長訴訟の現状と課題」自由と正義 Vol55,No.7 79-85 ・工藤陽代(2008)「対立抗争等における暴力行為の抑止,暴力団による被害の回復の促進 及び暴力団の資金源の封圧を図る」時の法令1816 号,6-16. ・警察庁刑事局暴力団対策部(2002)『暴対法施行 10 年』 ・警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課(2007)『平成 18 年の暴力団情勢』 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/bouryokudan/boutai11/20070423.pdf ・警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課(2010)『平成 21 年の暴力団情勢』 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/bouryokudan/boutai/h21_bouryokudan.pdf ・警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課(2011)『平成 22 年の暴力団情勢』 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/bouryokudan/boutai/h22_bouryokudan.pdf ・警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課(2012)『平成 23 年の暴力団情勢』 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/bouryokudan/boutai18/h23_jousei_kakutei.pdf ・島村英・工藤陽代・松下和彦(2008)「「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法 律の一部を改正する法律」について」警察學論集61 巻 9 号,39-86 ・田中勝也(2008)「暴力団による資金獲得活動と暴力団対策法の一部改正」警察學論集 61 巻 9 号,23-38 ・福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』日本評論社 ・宮嶋康明(2012)「暴対法 31 条の 2 に基づく組長訴訟の現状について」自由と正義 Vol63,No.6 18-23 ・宮本和夫(2008)「暴力団対策法改正と組織犯罪対策における今後の課題」警察學論集 61 巻 9 号,1-22 ・N.グレゴリー・マンキュー著 足立英之ほか訳(2005)『マンキュー経済学Ⅰミクロ編(第 2 版)』東洋経済新報社

参照

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