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ペロブスカイト鉄酸化物のサイト間電荷移動

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(1)

─ ─289 ( ) では,温度や圧力を変化させると金属−絶縁体転移,電 荷不均化,反強磁性−強磁性転移など,興味深い物性が 現れる。しかし,数十年の間,新しい高原子価をもった ペロブスカイト鉄酸化物の発見がなく,合成方法の改良 や開発が課題であった。この課題を克服するため,京都 大学のグループはより高い圧力で合成を行い,これまで 作ることのできなかった構造やA サイトへの遷移金属の 置換に取り組んできた。その結果,ペロブスカイト型鉄 酸化物ではじめてA サイトに遷移金属の Cu を入れるこ とに成功し,単純ペロブスカイト構造のA サイト部分が A サイトと A サイトに 1:3 の割合で置き換わり,秩序 的に配列しているA サイト秩序型ペロブスカイト型鉄酸

化物CaCu3Fe4O12 (CaCFO)が合成された1)。CaCFOは,

単純ペロブスカイト構造で現れる金属−絶縁体転移や電 荷不均化に加えて,比較的低い圧力でスピン転移が起こ はじめに ペロブスカイトおよび関連構造をもつ遷移金属酸化物 は,これまでに数多く合成され,多くの研究者が精力的 に研究を行っている。大部分のペロブスカイト型,およ び関連構造をもつ遷移金属酸化物は絶縁体で反強磁性を 示すが,銅(Cu)やマンガン(Mn)を含む酸化物は,超 伝導や強磁性金属など興味深い物性が現れることが知ら れている。Cu や Mn は,共に 3d 遷移金属の中では 3d 電 子数が多く,重い3d 遷移金属と呼ばれ3d 軌道が深くな るため,酸素の2p 軌道との混成が強まり,比較的電気 が流れやすい状態になる。原子番号がMn と Cu の間に ある鉄(Fe)の場合は,一般的な2価や3価の状態と比べ て,高原子価(4価)状態になると3d 電子数が減り,核 電荷の遮蔽が弱まるため3d 軌道が深くなる。Fe が高原 子価状態の単純ペロブスカイト型鉄酸化物(AFe4 +O 3 )

The intersite charge transfer was found to occur by applying pressure in the A-site-ordered perovskite oxide Ln3+

Cu3 Fe4O12 (Ln3 +: La, Tb, Dy, Lu). The pressure-induced charge transfer between the A-site Cu and B-site Fe in

LaCu3 Fe4O12 causes a transition at 4GPa from low-pressure LaCu3+3 Fe3+4O12 to high-pressure LaCu2+3 Fe3.75+4O12 . The

transition is accompanied by significant reduction of unit-cell volume, by unusual softening in bulk modulus, and by a change from an antiferromagnetic-and-metallic state. The unit-cell volume in TbCu3 Fe4O12 is smaller than

that of LaCu3 Fe4O12 . Similarly, TbCu3 Fe4O12 shows the pressure-induced intersite charge-transfer transition. But,

the high-pressure Fe3.75+charge transferred phase appears in DyCu

3 Fe4O12 and LuCu3 Fe4O12 of which the unit-cell volume

is smaller than that of TbCu3 Fe4O12 . Also the magnetic property in Ln3+Cu3 Fe4O12 can be explained qualitatively by the

unit-cell volume. When LaCu3 Fe4O12 iscompressed, the magnetic property changes from the antiferromagnetism to the

ferromagnetism. TbCu3 Fe4O12 shows the antiferromagnetism. On the other hand, DyCu3 Fe4O12 and LuCu3 Fe4O12 show

the ferromagnetism. Besides, either physical pressure or chemical pressure decreases the intersite charge-transfer transition pressure, while the ferromagnetism is enhanced.

Keywords: 57Fe Mössbauer spectroscopy, Negative thermal expansion, High-pressure, Charge transfer,

      Charge disproportionation

ペロブスカイト鉄酸化物のサイト間電荷移動

Takateru KAWAKAMI

* (Accepted November 16, 2013) * 日本大学文理学部物理学科: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

Department of Physics, College of Humanities and Sciences, Nihon

University 3-25-40 Sakurajousui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan

1

川 上 隆 輝

(2)

─ ─290 ( )2 Ln3 +のイオン半径や体積から物性を予想できれば,用 途に合わせた材料開発が可能になる。 結果と考察 1.Ln3 +Cu 3Fe4O12 のLn3 +イオン半径と体積 A サイトに異なる 3 価のランタノイドが占有した A サ イト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物(Ln3 +Cu 3Fe4O12) は,すべて立方晶をとる。A サイトに入る 3 価のランタ ノイドイオンのイオン半径が小さくなると体積もそれに 合わせて小さくなる。 本研究では,はじめに3 価のランタノイドイオン Tb, Dy,LuがAサイトに占有した 3 種類のAサイト秩序型ペ ロブスカイト鉄酸化物で研究を進めた。それぞれの3 価 のイオン半径Tb3 +Dy3 +Lu3 +のイオン半径は92.3Å, 91.2Å,86.1ÅでありTbCu3Fe4O12(TbCFO),DyCu3Fe4O12 (DyCFO),LuCu3Fe4O12(LuCFO)の 体 積 は そ れ ぞ れ 392.15Å3391.74Å3,388.84Å3となる。ランタノイド収縮 によって,周期律表の順に原子番号が増えるとA サイト 秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の体積は小さくなる。こ れらの物質で,57Fe メスバウアー分光を用いて温度や圧 力を変化させて測定を行い,磁性や電荷秩序について調 べた。LuCFO のみ大型放射光施設 SPring−8 BL10XU に

て放射光を用いた高圧X 線回折測定を行い,体積の圧力 依存性も調べ,磁性や電荷秩序と体積の関係についても 調べた。 すでに研究が進められている,3 価のランタノイドで 最 も イ オ ン 半 径 の 大 き なLa が A サ イ ト に 占 有 し た LaCu3Fe4O12(LaCFO) 1, 4) も加えて,化学的・物理的圧 力による物性の変化について検討した。 2.LuCu3Fe4O12 2.1 メスバウアー分光 A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物 LuCu3Fe4O12 (LuCFO) の原子価,磁性,鉄サイトの成分数とその割 合を明らかにするために,57Fe メスバウアー分光を用い て,アイソマーシフト(IS),内部磁場(HF),各成分の面 積の割合を調べた。大気圧下のメスバウアースペクトル とメスバウアーパラメーターの温度依存性を図1 と図 2 に示した。LuCFO の大気圧下・298K のスペクトルは, 橙 色 の 磁 気 秩 序 を 示 さ な いsinglet 1 成 分 の IS = 0.157 mm/s からなり,LuCFO の Fe の理想的な平均原子価 Fe3.75+に一致する(図1(a))。250 Kまではスペクトルに 大きな変化は観測されないが(図1(b)),240 Kまで温度 を降下させると橙色のsinglet 成分に加えて,磁気秩序 して6 本に分裂した sextet 3 成分が現れ,それぞれ深緑 ることが明らかになった。CaCFO の発見の翌年には,A サイトのCa を希土類元素の La で置換した LaCu3Fe4O12 (LaCFO)が合成された2)。 LaCFO は温度を降下させて いくと,393 K で Cu から Fe へ電子が移動するサイト間 電荷移動と同時に,平面四配位構造をもつCuサイトと, 正八面体構造をもつFe サイトの局所的な配位構造の違 いを反映した体積膨張が起こる。この新しいメカニズム で起こる負の熱膨張は,2009 年に英国科学誌 Nature に 掲載され大きな関心をもたれた。続いて2011 年には, SrCu3Fe4O12(SrCFO)が合成され3),サイト間電荷移動 を伴う負の熱膨張が発見された3)LaCFO の 393 K で不 連続な体積膨張とは異なり,約270 K から 170 K で線熱 膨張係数−2.26×10−5 / Kの連続的な体積変化を示した。 このように,A サイト秩序型ペロブスカイト型鉄酸化物 は,A サイトに遷移金属を入れられるようになったこと で,単純ペロブスカイトではみられなかった,A−B サイ ト間電荷移動を伴う負の熱膨張という新しい物性の発見 につながった。さらに,合成技術の向上によって,A サ イトに様々なイオンを入れられるようになり,LaCFOの La を他の希土類元素に置換した Ln3 +Cu 3Fe4O12(Ln3 + : Tb,Dy,Lu)が合成された。Aサイトに,Laイオンのよ うな大きなイオン半径をもつTbで置換したTbCu3Fe4O12 では,温度を降下させるとサイト間電荷移動を伴う負の 熱膨張がみられた。しかし,A サイトに小さなイオン半

径をもつDy,Lu で置換したDyCu3Fe4O12とLuCu3Fe4O12

では,サイト間電荷移動も負の熱膨張もみられなかっ た。このことから,サイト間電荷移動を伴う負の熱膨張 はA サイトに大きなイオンを入れ,試料全体の体積を膨 張させることで起こることが明らかになった。本研究で は,上記のようなA サイトに異なる Ln3 +イオンを置換 し体積を減少させる化学圧力と,直接物質に圧力を加え て圧縮させる物理圧力とで,同じようにサイト間電荷移 動を伴う負の熱膨張が起こるかどうか比較し,サイト間 電荷移動が起こる起源の解明を研究目的とした。本研究 で用いた試料はLn3+Cu 3Fe4O12(Ln3+ : La,Tb,Dy,Lu) であり,これらはすべて立方晶をとるため,系統的に物 性を考察する格好の物質である。高圧下においても立方 晶が保たれているかどうかを調べるため,一部の物質で 高圧下のX 線回折測定を行い,結晶構造が変わらないこ とを確認することにした。すでに研究が進められている LaCFO と比較することで,サイト間電荷移動を含めた 磁性や電荷不均化を格子間隔や体積で系統的に説明でき るかどうか試みた。このような結晶構造が変わらず複数 のLn3 +イオンで研究がなされた例は少なく,物性を理 解する上で重要であり,また,物質開発の見地からも,

(3)

─ ─291 ( )3 色, 黄 緑色,青 色 で 示 し, いず れ も 常 磁性 の 橙 色 の singlet成分が磁気秩序することによって現れた成分であ ると考えられる(図1(c))。磁気秩序温度に関してはす でに磁化測定が行われており,キュリー温度TC = 250 K のフェリ磁性であることが報告されており,メスバウ アーの結果と一致する。深緑色は磁気秩序の転移温度で すでに大きなHF = 49.7 T の内部磁場が観測されるが, 黄緑色と青色は磁気秩序温度から内部磁場が徐々に大き くなる。これは,A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化 物のA サイトに 3 価の原子価をもつランタノイドが占め たときに現れる特徴である。さらに温度を降下させ155 K になると常磁性の橙色の成分は完全に消失し,すべて 磁気秩序した成分になる。本研究では最低温度4K の内 部磁場が飽和した状態では,深緑色の成分のIS = 0.393 mm/s,HF = 51.7 T,黄緑色の成分の IS = 0.328 mm/s, HF = 44.0 T,青色の成分のIS = - 0.016 mm/s,HF = 22.4 T となった。これらのアイソマーシフトの値から深緑色と 黄緑色の成分はわずかに大きさに差があるが原子価が Fe3+,青色の成分の原子価はFe5+と考えられる。内部磁 場からはスピン配列が推測でき,Feが占めるBサイトは 八面体の頂点に酸素が占め,中心にFe が占めるため, Feの3d 軌道は 3 重に縮退したt2g 軌道と2重に縮退した eg軌道からなる。深緑色と黄緑色のFe3 +の成分はt2g3, eg2となり,青色のFe5 +の成分はt2g3, eg0となり,それぞ れスピン量子数S = 5/2,S = 3/2 の高スピン状態である ことが明らかになった。一方,四極子分裂(QS)は 3 成 分すべてで観測されなかった。これは,FeO6八面体の対 称性が良く鉄の原子核位置で電場勾配がないことを反映 している。図1 のメスバウアースペクトルの各色で塗ら れた面積から,それぞれの成分の割合を求めることがで きる。4 Kの飽和した状態では,深緑色の成分は25.0 %, 黄緑色の成分は41.3 %,青色の成分は 33.7 %である。 結晶学的にB サイトの Fe は一種類の成分をとる。高温 では電子が各サイト間を素早く移動するため平均的な状 態を観測することになり,常磁性でFe3.75 +singlet 状 態はeg軌道に電子が平均1.25個存在する状態で安定する が,低温になると各サイトの電子は局在化し,二重に縮 退した軌道をもつeg軌道は,電子が軌道に占有しない空 の状態,あるいは半分電子が占有した2 個の状態,ある いはすべて電子が占有した4 個の状態が安定である。低 温でこのような状態を実現するためには,eg軌道に平均 1.25 個の電子が存在する Fe3.75 +e g軌道に電子が2 個占 有したFe3 +の状態とe g軌道に電子がひとつも占有しな いFe5 +の状態になるように電子を再分配する必要があ る。このような現象を電荷不均化と呼び,8 個の Fe3.75 + 図 1  大気圧下におけるメスバウアースペクトルの温度依 存性 図 2  大気圧下におけるメスバウアーパラメーターの温度 依存性

(4)

─ ─292 ( )4 低スピン転移が起こり,Fe3.75 +のスピン配列がt 2g4.25, eg0 のスピン量子数S = 1.5/2 (0.75) となることが明らかに なった。さらに50GPa まで加圧しても大きな変化はみ られなかった。 が5 個の Fe3 +3 個の Fe5 + (8Fe3.75 +→ 5Fe3 +3Fe5 +

になる。このような電荷不均化によって現れたFe3 + 黄緑色の成分であり,Fe5+は青色の成分である。理想的 にはFe3+とFe5+は 5 : 3 の比になるはずであり,おおよ そ上記で示した面積比で説明ができる。一方,深緑色の Fe3 +は,A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物に現れ る特徴的な現象である。A サイト秩序型ペロブスカイト 鉄酸化物は,A サイトに原子価が変化することのできる Cu が占め,B サイトも同じく原子価が変わる Fe が占め るため,Cu サイトと Fe サイトで電子の移動が起こるサ イト間電荷移動という現象がみられる。深緑色のFe3 + は,アイソマーシフトや内部磁場の大きさが,これまで の研究で知られている電荷不均化で現れるFe3 +のアイ ソマーシフトや内部磁場より大きいため,Cu イオンの 電子がFe イオンに移動する Cu-Fe サイト間電荷移動

(3Cu2++4Fe3.75+↔3Cu3+4Fe3+ が生じたと考えられ

る。高温で1 成分あったメスバウアースペクトルが低温 で3 成分に変化することは,電荷不均化とサイト間電荷 移動により,eg軌道の不安定性を除くことで説明できる と考えている。 次にLuCFOのHe温度近傍におけるメスバウアースペ クトルとメスバウアーパラメーターの圧力依存性をそれ ぞれ図3 と図 4 に示す。He 温度近傍では加圧に伴い, サイト間電荷移動で現れた深緑色の成分を占める割合が 減少し,大気圧下では25.0 %であった面積の割合が,10 GPaでは13.6 %まで減少し,20 GPaでは完全に消滅して いる。これは,体積圧縮により軌道混成が強まることで 電気伝導性を高め,上記とは逆のFe サイトから Cu サイ トへ電子が移動するサイト間電荷移動(3Cu3 ++4Fe3 +

→3Cu2++4Fe3.75+ が起こり,さらにFe3.75+が電荷不均

化(8Fe3.75 +5Fe3 +3Fe5 + した状態に変化したため

と考えられる(図3(a)−(c))。 一方,大気圧ではみられなかった四極子分裂が加圧す ることで徐々に現れ,FeO6八面体が歪みはじめたか,も しくは鉄の周りの電子の分布に偏りがみられる可能性が ある。さらに圧力を印加すると35 GPa でスペクトルに 大きな変化がみられた(図3(d))。35 GPaのスペクトル は内部磁場の小さな磁気秩序した桃色の成分sextet 成分 と常磁性の黄色のdoublet 成分からなる。磁気秩序した 成分が一つであり,アイソマーシフトの大きさが電荷不 均化した状態のおおよそ平均のIS = 0.139 mm/s である ことから,体積の圧縮によって電荷不均化が抑制され, 再びFe3.75 +の状態に戻ったと考えられる。磁気秩序した 成分の内部磁場の大きさは,HT = 6.7 T であり,FeO6八 面体を圧縮させることで結晶場が強くなり,高スピン−

図 3 メスバウアースペクトルの圧力依存性 図 4 メスバウアーパラメーターの圧力依存性

(5)

─ ─293 ( )5 2.2 高圧下 X 線回折測定

A サイト秩序型ペロブスカイト型鉄酸化物は大気圧で は立方晶をとることが知られている。高圧下においても 立方晶を保つかどうかを確かめるために,大型放射光施 設SPring−8 BL10XU にてLuCu3Fe4O12(LuCFO) の高圧

下で粉末X 線回折測定を行った。この実験の X 線のエネ ルギーは29.997 keV (波長は0.4133Å) を用いた。LuCFO の各圧力の粉末X 線回折測定のパターンを図 5 に示す。 加圧による新たなピークの出現や既存のピークの消滅は 確認されず,測定した2.8GPa ∼55GPa の圧力範囲では, 立方晶を保っていることが明らかになった。これは同じ 構造をもつ他のA サイト秩序型ペロブスカイト型鉄酸化 物においても高圧下で立方晶を維持している可能性が高 い。また,回折ピークが加圧に伴い高角度側にシフトし ており,これは圧力によって徐々に体積が収縮している ことをあらわしている。各圧力の回折ピークから格子定 数を求めて体積を計算し,縦軸に体積V ,横軸に圧力 P をとりプロットしたものを図6 に示す。また,圧力 P [GPa],体積 V [Å3],大気圧下の体積V 0 [Å3 を用いて Birch-Murnaghan の状態方程式

(( ) − 1)

でフィッティングを行い,体積弾性率K 0を求めた。ペ ロブスカイト構造をもつ物質の体積弾性率の圧力微分 K 0

'

はこれまでの高圧実験から,おおよそ4.0 でフィッ ティングされる例が多く5, 6),今回のLuCFO においては 体積弾性率の圧力微分K 0

'

= 4.0 とした。図 6 を見ると, 25GPa 近傍の圧力で 2.3%ほどの体積の不連続な減少が みられた。前述のLuCFO の高圧下メスバウアー分光の 結果では,20GPa ∼ 35GPa の間で圧力誘起の高スピン − 低 ス ピ ン 転 移 が 起 こ っ て い る。 ま た,大 気 圧 か ら 25GPa の圧力範囲で,LuCFO の体積は 8.09 %減少して お り,25GPa ま で の 圧 力 範 囲 の 体 積 弾 性 率 は,K 0 = 230GPa である。一方,体積の不連続な減少がみられた 25GPa から測定した最大圧力の 55GPa までの圧力範囲 において,25GPaと55GPaの体積を比べると9.42%減少 していた。また,25GPaから55GPaの圧力範囲の体積弾 性率はK 0 = 174GPaとなった。これは,体積の不連続な 減少がみられた25GPa以上の圧力範囲で体積が縮みやす くなったことをあらわしている。以上のことから,高ス ピン−低スピン転移によって酸素方向に高い電子密度を もつeg軌道に電子がなくなりFe- O- Fe 間のクーロン反 発が弱まり,体積が減少したと考えられる。LaCu3Fe4O12 (LaCFO)においても室温高圧下 X 線回折測定が行われ ている。LaCFOの場合,室温大気圧下においてサイト間 電荷移動したFe3 +のスペクトル1 成分であるが,室温 で圧力を印加すると,4GPa で Fe3.75 +のsinglet 成分が現

れる。さらに,Fe3 +からFe3.75 +になる3GPa ∼ 4GPa 付

近で,体積の不連続な減少がみられている4)。これは,

加圧によってFeO6 八面体の体積を縮めることで,Fe か

(6)

─ ─294 ( ) 電子がなくスピン転移が起こらないため変化がない。 LuCFO の圧力スピン転移と比較すると,LuCFO はスピ ン転移と同時に電荷不均化の抑制が起こり,Fe3.75 +にな るという違いがある。しかし,このメカニズムはまだ明 らかにされていない。   4.TbCu3Fe4O12 4.1 メスバウアー分光 TbCu3Fe4O12(TbCFO)はA サイトに Tb3 +が入った物 質であり,Dy3 +Lu3 +よりもイオン半径は大きく前述

のLuCu3Fe4O12(LuCFO) やDyCu3Fe4O12(DyCFO)と比

較すると体積も大きくなっている。TbCFO の He 温度近 傍のメスバウアースペクトルの圧力依存性を図8 に示 す。大気圧・298K では面積の 79.5 %を占める橙色で示 した常磁性のsinglet と,深緑色で示した 20.5 %の磁気 秩序したsextet の 2 成分で解析できる(図8(a))。深緑 色の磁気秩序したスペクトルのメスバウアーパラメー タ ー の 値 と 他 に 磁 気 秩 序 し た 成 分 が な い こ と か ら, DyCFO の大気圧・298K で現れた磁気秩序した成分は Cu とサイト間電荷移動を起こした Fe3 +と考えられる。 大気圧下において10K まで温度を降下させると LuCFO らCu に電子が移るサイト間電荷移動(3Cu3 +4Fe3 + →3Cu2++4Fe3.75+ が起こっていると考えられる。この 結果から,A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の物 性は,結晶の体積や格子間距離に大きく関係している可 能性が高い。 3.DyCu3Fe4O12 3.1 メスバウアー分光

DyCu3Fe4O12(DyCFO) は, LuCFO と比べて体積がわ

ずかに大きい物質である。大気圧・298Kのメスバウアー スペクトルは,面積の78.0%を占める黄色の Fe3.75 +の常 磁性のsinglet 成分に 22.0%の深緑色の Fe3 +の磁気秩序 したsextet成分が存在する(図7(a))。LuCFOの大気圧・ 298Kでは,sextet成分が含まれていないという違いがあ る(図1(a))。深緑色 sextet 成分は,電荷不均化成分の Fe5 +が現れていないことから,B サイトの 22.0%の Fe が,A サイトの Cu から電子を受け取り,サイト間電荷 移動を起こしたものと考えられる。詳しくは外部磁場を 印加したメスバウアー分光から磁性を議論する後で行う が,DyCFO の深緑色の成分は,比較的強い超交換相互 作用で反強磁性に磁気秩序しているため,室温で磁気秩 序した成分が現れていると考えられる。10K まで温度を 降下させると,磁気秩序したsextet 3 成分が現れる。こ れはLuCFO の大気圧・4K の深緑色で示したサイト間電 荷移動成分のFe3 +と黄緑色と青色で示した電荷不均化 成分のFe3 +とFe5 +のスペクトル(図1(e)) と類似した スペクトルがみられるが,内部磁場の大きなサイト間電 荷移動で現れた深緑色の成分が増加していることが明ら かになった。これはLu3 +に比べてイオン半径の大きな Dy3+Aに入ることで,Aサイトの周りだけ大きくなり, 結晶構造が歪むのを解消するために,A サイトの Cu2 + からB サイトの Fe3.75 +へ電子が移動するサイト間電荷移 動を生じさせFe3 +となり,B サイトの FeO 6八面体を膨 張させ,結晶構造を変えずに全体の体積を大きくさせバ ランスをとるためである。 次に,高圧下メスバウアー分光の結果を示す。LuCFO と同様に,DyCFO も加圧に伴い深緑色で示したサイト 間電荷移動成分のFe3 +が減少し,黄緑色と青色で示し た電荷不均化成分のFe3 +Fe5 +のみになる(図7(c))。 この状態は15GPaまで維持されるが(図7(d)),19GPa まで加圧すると電荷不均化成分のFe3 +が高スピン−低 スピン転移を起こす。図7(e)の水色の成分が,Fe3+ 低スピン状態の成分となり,内部磁場HT が 6.6 T と見 積もられ,スピン量子数S = 1/2 の電子配置が t2g5, eg0と なる。青色のFe5 + の電子配置は t 2g3, eg0のためeg軌道に 6

図 7 DyCFOのメスバウアースペクトルの圧力依存性

(7)

─ ─295 ( ) やDyCFO とは異なり,深緑色で示した磁気秩序したス ペクトルsextet 1成分のみが現れた(図8(b))。この深緑 色で示したスペクトルのアイソマーシフトと内部磁場の 大きさから,サイト間電荷移動で現れたFe3+とほぼ同じ 値を示した(0.1 MPa (10K))。この結果より,TbCFOで はLaCFO と同じように,すべての Fe3.75 +Cu とサイト 間電荷移動を起こしていると考えられる。TbCFO では Lu と Dy に比べてイオン半径の大きい Tb が A サイトに 入っている。そのため,DyCFO よりも結晶の局所的な 歪みが大きくなり,結晶構造を安定化させるためにすべ てのFe3.75 +がサイト間電荷移動を起こしたものと考えら れる。 TbCFO を加圧すると,体積を圧縮させた 10GPa での 低温10K の測定では,大気圧で温度降下させたときに 生じたCu から Fe へ電子が移るサイト間電荷移動とは逆 に,Fe か ら Cu に 電 子 が 移 動 し 再 び B サ イ ト の 鉄 が Fe3.75 +に一部戻るが,同時に電荷不均化が起こり,黄緑 色のFe3 +と青色のFe5 +に分かれる(図8(c))。これは, 低温ではFe3.75 +では不安定であり,e g軌道に電子が半分 占有した状態のFe3 +と空の状態のFe5 +に電子を再分配 して安定するためである。さらに加圧して20GPa にす ると,サイト間電荷移動成分の深緑色で示されたFe3 + が完全に消失し,電荷不均化を起こすFe3.75 +になる。こ のFe3.75 +が電荷不均化した成分のFe3 +は,高スピン状 態の黄緑色の成分と低スピン状態の水色の成分にさらに 7 分かれ,複雑なスペクトルが現れる(図8(d))。30GPa まで加圧すると,内部磁場の小さな成分のみ現れること から,スピン転移が完全に完了することが明らかになっ た(図8(e))。しかし,低スピン状態からなるスペクト ルは,水色のFe3 +と青色のFe5 +に加えて,電荷不均化 が抑制されたFe3.75 +の低スピン状態の成分も含んでいる 可能性がありスペクトルがさらに複雑なため,解析を続 けているところである。そのため成分分けをしていない スペクトルを載せることとなった。 5. Aサイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の電子状態 の圧縮効果 A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物(ACu3Fe4O12) のTbCFO,DyCFO,LuCFOの圧力効果の結果とすでに 実験が進んでいるLaCu3Fe4O12(LaCFO)と比較して,A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の電子状態の圧縮 効果についてメスバウアー分光の視点から考察する。 LaCFO は A サイトに 3 価のランタノイドの中でも最も イオン半径の大きなLa が入っていることから,LaCFO を圧縮していくと大気圧下でLaCFO より小さい体積を もつTbCFO,DyCFO,LuCFOの性質がこの順番で現れ, A サイト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の体積圧縮で発 現する物性の変化を系統的に説明できるか試みる。A サ イト秩序型ペロブスカイト鉄酸化物の圧縮効果で物性を 説明する際,サイト間電荷移動や電荷不均化,磁気成分 の数だけでなく,磁気構造にも踏み込んで説明するとさ らに深い物性の理解につながるため,外部磁場を印加し たメスバウアー分光の結果も追加する。 はじめに本研究でTb3+Dy3+Lu3+の中で最も大きな イオン半径をもつランタノイドTb3+のTbCFO とLaCFO を考察する。LaCFO に 2.0GPa の圧力を加えたスペクト ルとTbCFOの大気圧下のメスバウアースペクトル(図9 (a)−(d))は,A サイトがCu3+B サイトが Fe3+の状態 にある磁気秩序した深緑色のsextet 1 成分からなる。ど ちらも外部磁場を印加すると6 本に分裂したピークの左 から2 本目と 5 本目の強度が増加するが,内部磁場の増 加がみられないため,反強磁性になることが明らかに なった。

LaCFO を 3.5 GPa まで加圧すると Cu-Fe サイト間電荷

移動が一部で起こり,深緑色のFe3+の成分に加えて,A サイトがCu2 +B サイトの Fe3.75 +が電荷不均化して黄 緑色のFe3+と青色のFe5+成分が現れる(図9(e))。この スペクトルはDyCFO の大気圧のスペクトル(図 9(g)) と類似している。注意すべきところは,どちらのスペク トルも深緑色のFe3 +成分が黄緑色のFe3 +成分より多い 図 8 TbCFOのメスバウアースペクトルの圧力依存性

(8)

─ ─296 ( )8 ところである。このような状態にあるとき外部磁場を印 加すると,図9(e)−(h)より深緑色のFe3+の成分の2 本 目と5 本目のピークの強度は増加し,黄緑色の Fe3 + 青色のFe5 +の成分のピークの強度は減少していること がわかる。さらに,黄緑色のFe3 +と青色のFe5 +の成分 の内部磁場の値が減少していることから,磁気モーメン トの向きが外部磁場に対して平行に向いていることが明 らかになった。この結果から,深緑色のFe3 +成分は反 強磁性を示し,黄緑色のFe3 +と青色のFe5 +の成分は強 磁性を示すことが明らかとなった。磁気モーメントと外 部磁場の関係は,反強磁性成分と強磁性成分は相分離し ている可能性がある。 さらにLaCFO を 6.0 GPa まで加圧すると,深緑色の Fe3 +は,黄緑色のFe3 +成分と比べて少なくなる(図9 (i))。このような成分比でスペクトルが現れるのが,本 実験で最もイオン半径の小さいLu3 +A サイトに入っ たLuCFOである(図9(k))。同様に外部磁場を印加して 測定すると,すべてのスペクトルの2 本目と 5 本目の ピーク強度が減少する。しかし,深緑色のFe3 +の内部 磁場の値は増加し,一方,黄緑色のFe3 +と青色のFe3 + の内部磁場の値は減少した。これは,深緑色のFe3 + 磁気モーメントは外部磁場に対して反平行に向き,黄緑 色のFe3 +と青色のFe3 +の磁気モーメントは外部磁場に 対して平行に向き,全体としてフェリ磁性的な配列にな ることが明らかになった。 結 論 LaCFO を圧縮させると物理的圧力と A サイトにラン タノイドでイオン半径の大きいイオンから小さいイオン へ置換して体積を圧縮させる化学的圧力が,定性的には 物性の変化を説明することができた。本研究では,圧力 をパラメーターとして議論したが,体積や格子定数,あ るいは物性を支配する局所的な構造の大きさや距離をパ ラメーターとして議論できれば,物理をより正確に理解 することができるようになる。今後は,高圧下X 線回折 測定を進め,高圧下における構造解析を進めることで, 圧力だけではなく格子定数などで議論することが重要で あると思われる。 謝辞 本研究で試料を作製していただいた山田幾也大阪府立大学 特別講師に感謝する。本研究は文部科学省私立大学戦略的研 究基盤形成支援事業「構造制御および電子状態制御に基づく 新物質の開発(S0901022)」の補助で実施された。 図 9 外部磁場を印加したメスバウアースペクトル

(9)

─ ─297 ( )9 1) I. Yamada, K. Takata, N. Hayashi, S, Shinohara, M.

Azuma, S. Mori, S. Muranaka, Y. Shimakawa, and M. Takano Angew. Chem. Int. Ed. 47, 7140 (2008).

2) Y. W. Long, N. Hayashi, T. Saito, M. Azuma, S. Muranaka, Y. Shimakawa, Nature 458 60 (2009).

3) I. Yamada, K. Tsuchida, K. Ohgushi, N. Hayashi, J. Kim, N. Tsuji, R. Takahashi, M. Matsushita, N. Nishiyama, T. Inoue, T. Irifune, K. Kato, M. Takata, and M. Takano Angew. Chem. Int. Ed., 50, 6579 (2011).

4) Y. W. Long, T. Kawakami, W. T. Chen, T. Saito, T. Watanuki, Y. Nakakura, Q. Q. Lin, C. Q. Jin, and Y. Shimakawa, Chem. Mater. 24 2235 (2012).

5) J. R. Smyth, S. D. Jacobsen and R. H. Hazen, Rev. Mineral. Geochem., 41 157 (2000).

6) T. Kawakami, S. Nasu, T. Sasaki, S. Morimoto, S. Endo, S. Kawasaki and M. Takano, J. Phys. Soc. Jpn. 70 1429 (2001).

(10)

参照

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