確率的フロンティアモデルによる大学の効率性に関 する研究 : 展望
著者 北坂 真一, 菅原 千織
雑誌名 經濟學論叢
巻 63
号 3
ページ 357‑384
発行年 2011‑12‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013637
* 本研究には科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号20530186)と平成23年度私立大学等 経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学院重点特別経費(研究科分)の助成を受けた.
なお,本稿の一部は北坂(2011)に基づいている.
【研究ノート】
確率的フロンティアモデルによる 大学の効率性に関する研究:展望
北 坂 真 一 菅 原 千 織
1 は じ め に
近年は,経済活動の中で非営利組織(NPO:Nonprofit Organization)の重要性 が増している.中でも,大学をはじめとする高等教育機関については,規模 の経済性や範囲の経済性,あるいは生産性や費用効率性などの観点から,北米,
欧州,オーストラリアなどで多くの計量経済分析が行われ,世界的にも注目 される研究テーマとなっている.
わが国においても,2004年度の国立大学の法人化前後から大学のあり方が 世論を巻き込んで大きな関心事となり,最近では文部科学省が国立大学をそ の教育水準や研究水準などに基づいてランク付けし,運営交付金に反映させ ることが報道されている1).しかし一般の関心に比べて,学術的な観点からの 大学の経済分析は不十分で,欧米と比較してもその研究の蓄積は遅れている.
経済主体の効率性や生産性を分析する手法としては,DEA(包絡分析法:
Data Envelopment Analysis)と確率的フロンティア分析(SFA:Stochastic Frontier
Analysis,あるいは確率的フロンティアモデル)がよく知られている.確率的フ
1) 例えば,2010年3月25日朝刊各紙.
ロンティア分析とDEAに関する経済分析の基本文献としては,Coelli, Rao, O'Donnell and Battese (1998, 2005),Fried, Lovell and Schmidt (2008), Kumbhakar
and Lovell (2000)の3点を挙げることができる.また,最近の研究動向をふ
まえた確率的フロンティアモデルの分析手法に関するサーベイとしては,
Murillo-Zamorano (2004)やGreene (2008)がある.
こうした分析手法を高等教育機関の効率性分析に応用した研究の展望論文 としては,Worthington (2001)やSalerno (2003),Johnes (2004)がある.しかし,
その内容は主に2000年までのDEAによる研究が大半であり,確率的フロン ティアモデルの計量経済学的な観点からの議論は教育機関の効率性分析では ほとんど行われていない.
そこで本稿では,先に挙げた文献を参考にしながら確率的フロンティアモ デルによる大学の効率性に関する研究を念頭において,その分析手法と近年 の研究を展望する.本稿の構成は次のとおりである.第2節では,大学の効 率性分析に用いられる標準的な確率的フロンティア費用関数と効率性の指標 について説明する.第3節では,確率的フロンティアモデルの非効率性の特 定化と,推定・検定問題について論点を整理する.第4節では,確率的フロ ンティアモデルの推定・検定に用いるコンピューター・ソフトウエアについ て概観する.第5節では,2000年以降に欧米で行われた高等教育機関を対象 に行われた確率的フロンティアモデルによる6つの研究を展望する.そして,
最後に第6節でまとめを示す.
2 確率的フロンティア費用関数
大学のような高等教育機関を経済学的に分析するとき,その特徴として次 の2点を挙げることができる.第1に,大学は非営利組織(NPO)であり,株 式会社のように利潤を最大化(あるいは企業価値を最大化)する主体ではない.
したがって,この分野に企業行動の経済分析を応用するとしても利潤最大化 のような分析フレームワークを用いることはできない.第2に,大学は単一
の生産物ではなく性質の異なる複数の生産物(multi-product)を生産する.具 体的には,学部教育や大学院教育,純粋にアカデミックな研究や産業界の利 益に繋がるような技術開発,あるいは地域住民への学術的啓蒙活動など,大 学の活動は多岐に及ぶ.
このような特徴をふまえて,高等教育機関を対象に経済分析を行う場合,
生産関数や利潤関数ではなく費用関数を用いることが多い.費用関数であれ ば利潤の最大化や生産量の最大化ではなく,一定の生産量の下でその費用を 最小化するというNPOの経済行動と矛盾しない分析の枠組みを用いることが できる.また,複数財の生産を生産関数で扱うことは計量経済学的に難しい 問題を含むが2),費用関数であれば問題はない.したがって,大学を対象にし た多くの先行研究で,その分析には費用関数が用いられてきた.
一般的な費用関数は,次のように表すことができる.
C=C(pi, yj) i=1, …, m, j=1, …, n (1)
ここで,Cは費用,pjは生産要素価格,yiは生産物,である.具体的な費用関 数には,よく知られているコブ ダグラス型やCES型,あるいは伸縮的な 関数形であるトランスログモデル,さらにゼロアウトプットが問題になる場 合には対数値をとらない二次関数モデルや,その一種であるFFCQ(Flexible Fixed Cost Quadratic function)3)などが用いられる.この費用関数には,費用 関数の性質として生産要素価格に関する非減少性や1次同次性,凹性,生産 物に関する非減少性などの性質が求められる.
通常の費用関数の推定では,(1)式に確率的誤差項vを加えて確率モデルと して推定する.しかし,Aigner, Lovell and Schmidt (1977)やMeeusen and van
2) 複数生産物を含む生産関数による計量分析が不可能というわけではなく,距離関数を定義す ることによって分析する方法がCoelli and Perlman (2000)やMorrison et al. (2000),日本では中 山(2003),衣笠(2008)などで試みられている.
3) 例えば,Cohn, Rhine and Santos (1989)を参照.
den Broeck (1977)が提案した確率的フロンティアモデルでは,通常の確率的誤 差項vとともに費用の非効率性を表す確率変数uを加え,次のような確率的 フロンティアモデルを推定する.
C=C(pi, yj)+v+u i=1, …, m, j=1, …, n (2)
確率的誤差項vは平均ゼロ,分散σv2で相互に独立な正規分布N(0,σv2)に従 う通常の撹乱項であり,確率的費用非効率性uは非負(u≥0)で説明変数や確 率的誤差項vとは無相関と仮定する.確率変数uが費用の非効率性を表すた めには,非負(u≥0)であることが必要条件であることに注意しなければなら ない.この非効率性uの確率分布の形については,第3節で議論する.
この(2)式について,費用関数のパラメーターを推定すると,その推定値 から通常の費用関数の推定と同様に,規模の経済性や範囲の経済性のような 指標を計測できる.
さらに確率的フロンティアモデルでは,(2)式の非効率性uの期待値に基 づいて,個々の経済主体の効率性を計算する.この効率性の指標について は,Jondrow, Lovell, Meterov and Schmidt (1982) や Battese and Coelli (1988), Horrace and Schmidt (1996),Kumbhaker and Lovell (2000) Ch.4などで,効率性 の指標が考察されている.
ところで,費用関数に基づく効率性の意味については,注意が必要であ る.効率性の計測に費用関数を用いる利点は冒頭で述べたが,単一生産物を 想定する他の産業においては生産関数によって効率性を計測することが多 い.生産関数の場合,その効率性は現実の生産量が生産フロンティアに達し ない部分(すなわち生産量が少ない部分)で計測され,技術的(非)効率性(TE:
Technical (in) Efficiency)と呼ばれる.これに対して費用関数で計測される効率
性は費用効率性(CE:Cost Efficiency,あるいは経済効率性,overall efficiency)と呼 ばれ,技術的効率性と配分効率性(AE:Allocative Efficiency)という2つの効率
性を含むことになる.
この状況を示したのが第 1 図である4).いま説明のために収穫一定の技術 のもとで2種類の生産要素x1とx2を用いて単一の生産物を生産する企業を 考える.一定の生産量に対する効率的な生産技術が等産出量曲線SS’で表さ れており,点Pで生産しているとすれば生産量を減らすことなく生産要素の 投入量を点Qまで節約できるので,線分PQが非効率の量的指標となる.生 産関数による確率的フロンティアモデルにおいて,通常の誤差項がゼロだと すればこの線分PQが非効率性の項に該当する.そして,技術的効率性の指 標TEはTE=OQ/OPと定義される.この技術的効率性TEは0<TE≦1で
4) ここでの説明はCoelli et al. (1998, 2005)を参考にしている.
第 1 図 費用効率性CE,技術効率性TE,配分効率性AE x2
S
P
Q
A R
Qʼ
Sʼ
O Aʼ x1
あり,完全に効率的な状態はTE=1である.
以上の技術的効率性の議論では,生産要素価格の情報は用いられていない.
生産要素価格が与えられ,費用一定の関係を表す等費用線が第1図の点線 AA’で与えられたとすると,費用最小化される生産要素の組み合わせは点Q’
である.このとき,費用効率性の指標CEはCE=OR/OPと定義できる.この 費用効率性CEは0<CE≦1であり,完全に効率的な状態はCE=1である.
さらに生産要素の最適な組み合わせから乖離したことによって失われた生産 量を配分効率性AEと考えれば,AE=OR/OQと定義できる.この配分効率性 AEも0<AE≦1であり,AE=1が完全に効率的な状態である.
ここで示した効率性に関する3つの概念は,次のような関係として示すこ とができる.
TE×AE=(OQ/OP)×(OR/OQ)=OR/OP=CE
すなわち,費用効率性は技術効率性と配分効率性の積となる.
このような異なる非効率性の概念に関連してGreene (1980)は興味深い問題 を提起した.それは,トランスログ費用関数の推定などで費用関数とそれに シェパードのレンマを用いて導出されるコストシェア方程式を同時推定する ことが広く行われているが,確率的フロンティア費用関数に応用する場合,
費用関数が費用効率性の項を含むのに対して,コストシェア方程式は配分効 率性の項だけを含むことになり,これらの非効率性に存在する一定の関係を どのようにモデルや計量分析において反映するか,あるいは異なる非効率性 の項をどのように識別するかという問題である.この問題は「Greeneプロブ レム」と呼ばれており,Murillo-Zamorano (2004)がその対応策について言及し ているが,教育機関を対象にした確率的フロンティアモデルではコストシェ ア方程式を同時推定した研究は知られていない.
3 確率的フロンティアモデルの特定化と推定・検定問題
3. 1 効率性の特定化
第5節で紹介する先行研究のように,確率的フロンティアモデルによる分 析では単に効率性の指標を計測するにとどまらず,効率性がどのような要因 によって変動するかを含めてモデル化することが多い.以下では,効率性の 特定化を3種類に分けて整理する.
第1は,パネルデータにおいてtime-invariantモデルと呼ばれる次のような モデルである.
u=ui i=1, …, n (3)
ここで添え字iは個体を示す.分析の対象がクロスセクションデータであれば,
主体毎に効率性が異なることを意味する.パネルデータの場合は,個体毎に 効率性の違いはあるがそれは時間を通じて不変(time-invariant)であることを仮 定していることになる.
第2のモデルは,パネルデータにおいてtime-varyingモデルと呼ばれる次 のようなモデルである.
u=f(t)•ui i=1, …, n (4)
ここで,f(t)は時間tに依存する関数であり,例えばBattese and Coelli (1992) は次のような関数形を想定している.
f(t)=exp{−η(t−T)} (5)
ここで,tはパネルデータの時点で t=1, …, Tであり,ηが推定すべきパラ
メータである.この特定化において,パラメータ η の符号と値によって非効 率性uの増減とスピードが決まる.この特定化では個体毎の効率性の間に順 位の逆転は生じず,時間を通じてすべての個体が一様に変化する.こうした 特定化は,北坂(2011)により国立大学のパネルデータ分析に用いられている.
これとは異なり,Cornwell, Schmidt and Sickles (1990)では時間の経過に伴い個 体の効率性の順位が変動するような特定化が提案されている.
第3のモデルは,Battese and Coelli (1995)のように非効率性uが,観察でき る他の変数に依存して変化するよう内生化された次のようなモデルである.
u=κ1z1it+κ2z2it+…+κqzqit+wit (6)
ここで,zmit , m=1, …, qは非効率性uに影響する変数,κmit, m=1, …, qは 推定の対象となる係数パラメータ,witは切断正規分布や半正規分布に従う非 負の確率変数である.
以上の3つのモデルに関して,推定方法は次に説明する最尤法を適用でき る.費用関数と(5)式,ないしは(6)式を最尤法の原理に従って同時推定す る.しかし,第3のモデルについては,第5節で紹介する先行研究のように 2段階に分けて推定が行われることも多い.すなわち,第1段階で費用関数
(2)式を推定し,第2段階では第1段階で推定した(2)式の残差を被説明変数 として(6)式を推定する方法である.この方法では,第2段階目の係数推定 値から非効率性uの理論値(予測値)を計算することができる.ただし,こう した2段階法では,費用関数の説明変数と非効率性の説明変数の間に相関が あると推定値にバイアスが生じることや,両者に相関がなくても非効率性の 指標にバイアスが生じるなど,いくつかの問題がKumbhaker and Lovell (2000)
Ch.7)やWang and Schmidt (2002)で指摘されている.したがって,モデルが正
しく特定化されており非線形関数の収束に問題が無ければ,統計学的には同 時推定が望ましい.
3. 2 推定方法
確率的フロンティアモデル(2)式の推定方法について,整理する.(2)式に は確率的誤差項vと確率的費用非効率性uの2つの撹乱項がある.この式を OLS(通常最小自乗法)で推定すると,スロープ係数は一致性を持つが,定数 項はバイアスを持つ推定値しか得られない.したがって,効率性の指標を適 切に計測するためには特別な推定方法が必要になる.その解決策として,大 きく2つの方法が考えられてきた.1つは修正OLS(COLS:Corrected Ordinary Least Squares)であり,もう1つは最尤法(ML:Maximum Likelihood)である.
この両者を比較した場合,COLSよりも最尤法の方が漸近的に有効(efficient)
な推定値を与え,またCoelli (1995)によれば小標本においても非効率性uの影 響が強ければ,最尤推定量の方がCOLS推定量よりも統計的に優れた性質を 持つことが示されている.そこで,現在では確率的フロンティアモデルには 最尤法が用いられることが多い.
(2)式のような確率的フロンティアモデルにおいて,誤差項vには通常の撹 乱項と同様に相互にまた説明変数とも独立に分布する正規分布N(0,σv2)を仮 定する.非効率性uには誤差項vと独立で非負という条件のもとで,いくつ かの確率分布が従来の研究で提案されてきた.Aigner, Lovell and Schmidt (1977) はuに半正規分布(u〜iidN+(0,σu2))を,Stevenson (1980)は切断正規分布(u
〜iidN+(μ,σu2))を,Greene (1990)は相互に独立なガンマ分布を仮定したモデ ルを提示している.こうした分布の仮定は異なった最尤推定値を与えるが,
Greene (1990)は効率性の指標についてそれほど大きな違いを与えるものでは
ない,と指摘している.
推定方法については,いま述べたように古典的な最尤法がこの分野では一 般的であるが,計量経済学者により多方面への拡張が活発に試みられている.
例えば,ベイジアンの観点から,Van den Broeck et al. (1994) やKoop et al. (1995) はベイジアンMCMC法を確率的フロンティアモデルに応用している.Kopp and Mullahy (1990)は,確率的フロンティアモデルにGMM(一般化積率推定法)を,
Kumbhakar, Park, Simar, and Tsionas (2007)はノンパラメトリックアプローチを,
Greene (2003)は推定にシミュレーションアプローチを採用している.こうし
た最尤法以外の推定方法は,今までのところ,大学の確率的フロンティアモ デルの分析ではほとんど用いられていない.
3. 3 検定方法
確率的フロンティアモデルの検定方法について説明する.OLS推定と異な り,最尤法による確率的フロンティアモデルでは漸近理論に従うので,費用 関数のパラメータに関するt値はt分布ではなく漸近的に標準正規分布(N(0,1))
に従うことを利用して検定する.
確率的フロンティアモデルの妥当性は,非効率性uの分散σμを検定するこ とで確認できる.Battese and Coelli (1992)が示すように,尤度関数における効 率性のパラメータは,σ=(σu2+σv2)1/2や Γ=σu/(σu+σv)のようにパラメータ 化されるので,Γのt値を漸近的標準正規分布を使って検定すれば分散 σμが 有意に「ゼロ」と異なるかどうかを確認できる5).Γが大きく有意に「ゼロ」
と異なれば非効率性uの分散は相対的に大きく,確率的フロンティアモデル の妥当性が支持される.なお,Γは非負であるから通常のt検定と異なり,両 側検定ではなく片側検定である.このようなt値タイプの検定は,標準正規 分布を用いることからz検定と呼ばれることもある.
また,非効率性の確率分布が切断正規分布(u〜iidN+(μ,σu2))のように分散 以外にμのようなパラメータを持つ場合には,そのt値が漸近的に標準正規 分布に従うことを利用する.切断正規分布の位置パラメータ μ は,正負いず れの値もとりうるのでt値による検定は両側検定である.
5) 確率的フロンティアモデルにおける分散の相対的大きさはIzadi et.al. (2002)他でみられるよう
にλ=σu /σvとパラメータ化されることも多い.Battese and Coelli (1992)は Γ=σu /(σu+σv)と 特定化しているが,その利点は推定の際にパラメータ空間が0 Γ 1に限定され,繰り返し 計算の初期値の探索が容易なことが挙げられる.なお,多くの先行研究ではγ=σu /(σu+σv)と いう表記が用いられている.
しかし,Coelli (1995)はこうしたt値の漸近的正規性に基づくz検定はモン テカルロ実験により小標本におけるパフォーマンスが悪く,誤って帰無仮説 を棄却する傾向が強いことを指摘している.そこで,次のような尤度比検定 統計量LRが自由度Jのカイ自乗分布χ2(J)に従うことを利用した次のよう な検定を推奨している.
LR=−2 (lnLR−lnLU)〜χ2(J) (7)
ここで,LRは帰無仮説で制約されたモデルの最大化された尤度の値,LUは 制約のない対立仮説のもとで最大化された尤度の値,χ2(J)の自由度Jは検 定の対象となる制約の数である.
半正規分布を仮定するΓの検定(H0:Γ=0)では,自由度1のカイ自乗分 布を使う片側検定となる.また,切断正規分布の場合は,H0:μ=Γ=0とい う複合的な帰無仮説に対して,尤度比検定統計量LRが近似的に自由度2の カイ自乗分布に従うことを利用する6).さらに非効率性の確率分布について,
半正規分布(u〜iidN+(0,σu2))か切断正規分布(u〜iidN+(μ,σu2))かの選択には H0:μ=0を検定すればよく,自由度1のカイ自乗分布による両側検定を行う.
このように,最尤法による確率的フロンティアモデルではt値タイプの検 定(z検定)と尤度比検定の2種類の検定方法が考えられるが,両者の結果が 小標本で一致する保証はない.Simar and Wilson (2010)はCoelli (1995)と同様 にt値による検定の信頼度の低さを指摘し,尤度比検定やブートストラップ 検定を推奨している.
ところで,確率的フロンティアモデルにおける,費用関数の誤差項は,確 率的誤差項vと確率的費用非効率性uの合成物であり,確率的誤差項vが通 常の仮定に従い「0」を中心に対称的に分布するのに対して,非効率性uは
6) 厳密には,この場合の尤度比検定統計量は混合カイ自乗分布に従うので,その臨界値は通常 のカイ自乗分布よりも小さいと考えられる.Coelli et.al. (2005) Ch.9の議論を参照.
非負(u≥0)と仮定される.したがって,費用関数の残差は非効率性のため にプラス方向に広がりを持つはずで,そのskewness(歪度)にはプラスであ ることが求められる.Simar and Wilson (2010)は,費用関数の残差の歪みを 確認することなく確率的フロンティアモデルを推定する危険性を指摘してい る.統計学的な有意性とは別に,費用関数の残差の歪みが正しい方向でなけ れば,費用関数における非効率性の存在に疑問が生じる.こうした wrong
skewness 問題を回避するためには,費用関数の残差のskewnessを確認する
必要がある7).しかし,確率的フロンティアモデルによる大学の効率性の先行 研究では,必ずしもこのチェックは十分に行われていないように見受けられ る.
4 コンピュータ・ソフトウエア
確率的フロンティアモデルを推定・検定するためのコンピュータ・ソフト ウエアについて,概観する.前節で述べたように確率的フロンティアモデル の主な推定方法は最尤法である.したがって,尤度関数を示して最適化問題 を解くプログラムを作成すればどのようなコンピュータ・ソフトウエアでも 計算可能である.しかし,確率的フロンティアモデルの尤度関数は複雑であり,
費用関数のパラメータに加え,効率性の指標などもあわせて計算することを 考えると,プログラムの作成には多くの労力を要する.したがって,専用の コマンドや作成済みのプログラムを利用できる計量分析の専用ソフトウエア の利用が便利である.
例えば,TSP(TSP International)は確率的フロンティアモデルの専用コマン ドを持たないが,TSP社のホームページ(http://www.stanford.edu/~clint/tspex/)
には多くの計量・統計分析に関するTSPプログラムが掲載されており,その 中には非効率項が時間に依存する(5)式のようなBattese and Coelli (1992)の
7) Coelli (1995)は,残差のskewnessに基づく検定を提案している.
TSPプログラムや,非効率項を(6)式のように内生化したBattese and Coelli
(1995)のTSPプログラムも含まれている.TSPのプログラムは自由度が高く
それを改変する事も容易であり,パラメータへの制約や残差のskewnessの チェック,あるいは効率性指標の計算を組み込むことも容易である.
しかし,問題が無いわけではない.TSPによる確率的フロンティアモデル の推定では,最尤法の「ML」というコマンドを用いるが,我々の経験では確 率的フロンティアモデルに関してその収束は容易ではなかった.オプション によって非線形計算のアルゴリズムや初期値をいろいろと試みても目的関数 が収束せず,推定値が得られないという事態にしばしば陥った.
第5節 で み る よ う に,い く つ か の 大 学 の 効 率 性 に 関 す る 先 行 研 究 で
FRONTIER Ver.4.1が使われている.本稿では高等教育機関への応用だけを考
察しているが,他の分野での研究を含めるとFRONTIER Ver.4.1の利用度は高 いと思われる.
FRONTIER Ver.4.1は,Tim Coelli教 授(Centre for Efficiency and Productivity Analysis:CEPA, University of New England, Armidale,NSW, Australia)に より 作 成 さ れた確率的フロンティアモデル専用の計量分析パッケージソフトウエアで,CEPA のウエッブサイトから無料でダウンロードできる.無料のソフトウエアとしては,
比較的詳細なマニュアルがCoelli (1996)として公 表されている.プログラムは
FORTRANで書かれており,コンパイルされた実行ファイルをDOSベースで実行し,
要求されるインプットファイル名やアウトプットファイル名,各種の条件が入力され ると計算が実行される.
FRONTIER Ver.4.1では確率的フロンティア生産関数および費用関数につい て,非効率性uが半正規分布や切断正規分布に従う場合の最尤推定値が計算 できるが,指数分布やガンマ分布に従う場合には対応していない.非効率性 uのモデルのバリエーションは豊富で,パネルデータにおけるtime-invariant とともにtime-varyingについても対応し,Battese and Coelli (1995)のような非 効率性を内生化したモデルについても最尤法による同時推定が可能である.
残念な点としては,DOSベースの専用ソフトであることからインプットや アウトプットが硬直的であることが挙げられる.また,FRONTIER Ver.4.1は 1996年以降バージョンアップされておらず,新しい分析手法が含まれていな い8).また計算される効率性の指標について,第2節で議論した費用効率性 CE(0<CE≦1)とは異なりFRONTIER Ver.4.1による費用関数の非効率性指 標(EFF)は1<EFF<∞で定義されている.
FRONTIER Ver.4.1と同様に確率的フロンティアモデルの分析にしばしば使 われるソフトウエアとして,世界的によく知られている計量経済学のテキス トの著者でもあるW. H. Greene教授が開発したLIMDEP(Econometric Software
Inc.)がある.LIMDEPは,クロスセクションデータやパネルデータモデルに
関する推定方法を豊富に含む包括的な計量分析ソフトウエアであり,本稿執 筆時点(2011年6月)の最新版は2007年にバージョンアップされたLIMDEP 9.0 である.
LIMDEP 9.0は確率的フロンティアモデルの専用コマンド「FRONTIER」
を 持 ち,そ の ユ ー ザ ー マ ニ ュ ア ル に は「Chapter E33 Frontier Models and
Efficiency Analysis」という1章を割いて,その特定化や推定方法について詳
細な解説がある.LIMDEP 9.0では,非効率性uの確率分布について半正規分 布や切断正規分布に加えて指数分布やガンマ分布を仮定することも可能であ る.また非効率性の指標として,Jondrow et al. (1982)を拡張したHorrace and
Schmidt (1996)の指標も計算でき,適応可能な非効率性のモデルも数多くの種
類を含む.したがって,現状ではLIMDEP 9.0はもっとも多くの確率的フロ ンティアモデルに対応可能な計量分析ソフトウエアと言えよう.
8) 近年,FRONTIER4.1のFortranコードを含む frontier というパッケージ・ソフトウエアが
更新されている(本稿の執筆時点で最新版はCoelli and Henningest (2011), http://frontier. r-fotge.
r-project.org/, 2011年6月29日取得).この frontier は統計・グラフィック言語Rにより作 成されている.
5 大学の効率性に関する先行研究
本節では,近年欧米で行われた高等教育機関の費用関数に関する確率的フ ロンティアモデルの研究を展望する.ここで取り上げるのは,いずれも2000 年以降に発表された6つの論文である.第 1 表に,一覧表としてその概要を まとめた.
5. 1 Robst (2001)
Robst (2001)は,米 国 の4年 制 大 学440校 の1991年 か ら95年 の5年 間 にわたるパネルデータを対象に,確率的フロンティア費用関数を推定して いる.費用関数の形は非線形性を考慮してCohn, Rhine and Santos (1989)の FFCQに似た2次関数を用いている.非効率性については,(6)式のように内 生化されたモデルを考え,その誤差項には半正規分布を仮定する.推定は,
FRONTIER 4.1による最尤法で,確率的フロンティア費用関数と非効率性を
モデル化した(6)式が同時推定されている.
費用関数の被説明変数は総支出額で,説明変数生産物として,学部生9),大 学院生,研究支出額の3種類,生産要素価格として教員給与,それ以外に研 究機関や博士課程・修士課程の有無に応じて分類されたダミー変数を用いて いる.また非効率性の動きを説明する重要な変数として,大学収入に占める 各州の補助金の割合を用いている.
主要な結論は,非効率性を含む確率的フロンティアモデルは統計的に支持 され,大学収入に占める州補助金の割合は非効率性に対してマイナスの(すな わち,効率性を高める)効果を持つ,あるいは少なくとも非効率性を高めると
9) ここで紹介する研究をはじめ欧米の分析では,いずれも教育の指標はthe full-time equivalent
enrollmentという概念が用いられる.これは学生によって履修単位数が大きく異なることを考
慮したもので,単純な学生数(在籍者数)ではなくフルタイムの学生に相当するように取得単 位数などで学生数を調整した教育の量的指標である.日本の大学に関して,こうした統計は公 表されていない.
研 究 国 対 象 データの形式 モデル 関数型 分布と 推定・検定方法 Robst
(2001) 米国 4年制
440校
バランスパネル 1991〜95年
(5年分)
内生化モデル FFCQに似た
2次関数
半正規分布,
最尤法による 同時推定
Izadi et al.
(2002) 英国 大学
99校
クロスセクション 1994年
time-invariante モデル CES
半正規分布,
最尤法,
Coelliの検定
Mensah and Werner
(2003) 米国
大学 110校 124校
クロスセクション 1996年と
1997年
内生化モデル FFCQ 指数分布,
最尤法とOLS,
Tobitの2段階法
Stevens
(2005) 英国 大学
80校
バランスパネル 1995〜98年
(4年分)
内生化モデル トランスログ
切断正規分布,
最尤法による 同時推定
Mcmillan and Chan (2006)
カナダ 大学 45校
クロスセクション 1992年
time-invariante モデルと内生
化モデル
簡略化した トランスログ
切 断 正 規 分 布,
指数分布による 最 尤 法 とOLS, Tobitの2段階 法の2種類
Horne and Hu(2008)
豪州 大学 36校
バランスパネル 1995〜2002年
(8年分)
内生化モデル コブ ダグラス
パネル推定と 修正OLSの
2段階推定
第 1 表 大学の効率性に関する主な先行研究一覧
注:いずれの研究も費用関数を対象にしている.詳細については本文を参照.
ソフトウェア 分析の視点 費用関数の
説明変数 結 果
Frontier 4.1
①パネル推定
②クロス推定
③変化分の推定
① 学部生,院生,研究 費,教員給与
② 州補助+授業料,州 補助率
州補助金は非効率性に 影響するか?
補助が少ない大学が効 率的とは言えない
GAUSS
①最尤推定
② 平均費用増分,規模・
範囲の経済性
③効率性の大学順位
文系学部生,理系学部 生,院生,研究費
非 効 率 性 パ ラ メ ー タ はZテストで有意だが MLテストでは有意で ない.非効率はあった としてもわずか.規模・
範囲ともにない
LIMDEP 7.0 ①FFCQクロス推定
② 2段階目のOLSと Tobit
① 学部生,院生,研究 費
② 4年卒業割合,評判,
パートタイム比率
③ 授業料,管理費比率,
無制約資産比率
財務上の自由度は必ず し も 効 率 性 を 高 め な い.反 対 に,財 務 の 自由度を高めると,費 用の効率性を悪化させ る.
記載なし
①最尤推定
② 大学毎の効率性指標
③ピアソン統計量,
スピアマン統計量
① 文系学部生,理系学 部生,院生,研究費,
給与
② 学 生 と 教 員 の 年 齢,
性別,人種,職位他
効率性について,
① 教員:非白人,職位,
研究活動プラス,50 歳以上マイナス,
② 学生:25歳以上,低 階層プラス,学生レ ベル,女性マイナス
LIMDEP 7.0と Frontier 4.1
DEAと比較
①最尤推定
② 効率性のスコアの統 計量
③ 効率スコアの相関係 数
④ 効率スコアのランキ ング
① 理系学部生,他学部 生,修士,博士,研 究費,教員給与,
②200km以 内 の 大 学 生数,パートタイム 学生比率,26歳以下 学生
DEAとSFAで 効 率 ス コアは異なるが相対的 位置は大きく異ならな い.
記載なし
① 固定効果,変量効果,
Fテスト,ハウスマ ンテスト,
② 残差にST比率を回 帰
③大学毎の効率性指標
① 院生,学部,工学系 比率,ビジネスマン 比率
②トレンド,ST比率
ANUが最下位
ST比 率 は 効 率 性 に プ ラス
は言えない,というものである.すなわち,州は補助金の削減を検討してい るが,それは大学の効率性をかえって悪化させるのではないか,と主張して いることになる.こうしたことが生じる背景としては,州からの補助金は州 政府の大学に対する監督の源泉となり,それが薄れるとマーケットからの監 督が行き届きにくい高等教育機関では効率性が低下する可能性が高い,と筆 者らは考えているようである.なお,個々の大学毎の効率性指標は明示され ていない.
5. 2 Izadi, Johnes, Oskrochi and Crouchley (2002)
Izadi, Johnes, Oskrochi and Crouchley (2002)は,英国の大学99校の1994年 度のクロスセクションデータを対象に,確率的フロンティア費用関数を推定 している.費用関数の形は生産関数の推定によく用いられるCES関数で,規 模の経済性や範囲の経済性とともに非効率性を計測することがこの論文の目 的であり,非効率性について(3)式のような最もシンプルなモデルを想定し,
確率分布として半正規分布を仮定する.推定は,CES関数が非線形推定を必 要とすることからLIMDEPのような既存のパッケージ・プログラムでは推定 できないことを指摘し,その上でGAUSS 386 (Aptech Systems, Inc)によりコン ピューターの計算速度などを考慮してNewton-Raphson法の最適化アルゴリ ズムを用いた最尤法のプログラムを作成し推定に用いている.
費用関数の被説明変数は総支出額で,説明変数は文系学部生,理系学部生,
大学院生,研究補助金額という4種類の生産物であり,要素価格を表す変数 などは含まれていない.
本論文の主要な結論としては,次の3点を指摘できる.第1に,非効率性 を含む確率的フロンティアモデルは前節で述べたt値タイプのz検定では統計 的に支持されるが,(7)式に基づく尤度比検定では支持されないので,モデル の妥当性を示す強い理由は無い.第2に,規模の経済性は大学院や研究に関 して認められるが,全体や学部に関してはあったとしても小さく,理系の全
体や学部については認められない.また範囲の経済性については,認められ ない.第3に,大学毎の効率性に関する指標をみると,1位オックスフォード,
2位シェフィールド,3位ケンブリッジ,という順になっており,著名な名門 校が効率性の点でも上位に位置しているという結果になっている.
5. 3 Mensah and Werner (2003)
Mensah and Werner (2003)は,The US News and World Report College Survey に 掲 載 さ れ た 米 国 の 大 学(collegeとuniversity)に つ い て1996年 は110校,
1997年は124校を対象に,確率的フロンティア費用関数を推定している.費 用関数の形は米国の規模の経済性の計測でよく用いられるFFCQである.
非効率性について(6)式のように内生化されたモデルを考え,その誤差項に は指数分布を仮定する.指数分布以外にも半正規分布や切断正規分布につい ても計算したが,ほぼ同様の結果であったと明記している.推定はLIMDEP 7.0を使い,費用関数と非効率性のモデル化に関して2段階法の推定にしたがっ ている.
費用関数の被説明変数は総支出額の対数値,説明変数は生産物として学部 生,大学院生,研究費の3種類,それにカーネギー財団による大学の4分類(全 国的総合大学,全国的リベラルアーツカレッジ,地域的総合大学,地域的リベラルアー ツカレッジ)に応じたダミー変数,平均卒業率,学術的評判,パートタイム学 部生比率,非制約的資産比率などである.また非効率性の動きを説明する主 な変数として,経常収入,管理費の割合,財務上の自由度の指標などを含ん でいる.
主要な結論として,すべてのタイプの高等教育機関において財務上の自由 度と費用の非効率性の間には正の関係があり,一般に信じられているのと は反対に,財務上の自由度を高めることはかえって費用の非効率性を招く,
という分析結果を得ている.したがって,例えば項目別予算制度(line item
budgeting)は硬直的でプログラム形式の予算よりも費用効率の観点から劣って
いるという一般的な見方は容易には受け入れられず,より精緻な実証分析に よって精査される必要がある,と主張している.なお,大学毎の効率性の指 標は明示されていない.
5. 4 Stevens (2005)
Stevens (2005)は,英国の大学80校の1995年から98年の4年間にわたる パネルデータを対象に,確率的フロンティア費用関数を推定している.費用 関数の形はトランスログモデルで,非効率性について(6)式のように内生化 されたモデルを考え,その誤差項には切断正規分布を仮定する.推定は,非 効率項を含むトランスログ費用関数と非効率性をモデル化した(6)式を最尤 法により同時推定している.
費用関数の被説明変数は総支出額で,説明変数は生産物として理系学部生,
文系学部生,大学院生,研究費の4種類,生産要素価格として教員の平均給与,
それに学生の質を表す指標が含まれている.非効率性の説明変数はタイムト レンドを除くと,大きく教員の質に関するものと学生の質に関するものに大 別される.前者には教員の年齢(50歳以上),性別,人種(非白人),職位(教授,
上級講師),研究活動量が含まれ,後者には学生の年齢(25歳以上),性別,人 種(非白人),出身階層(保護者の職業による分類),出身国(非EU),文系学生 の割合が含まれている.
主な結論としては,非効率性を含むモデルは統計的に支持され,非効率性 に影響するタイムトレンドの係数はマイナスで,時間の経過に伴い大学の効 率性が改善していることを示している.ただし,費用関数のタイムトレンド 項はプラスなので,費用自身が削減されているわけではない.また,効率性 を改善する要因として,教員に関しては非白人,高い職位,活発な研究活動 が挙げられ,学生に関しては25歳以上,低い階層の出身,が挙げられる.反 対に効率性を悪化させる要因としては,教員に関しては50歳以上,学生に 関しては女性と質の高さ,が挙げられている.大学毎の効率性が各年ごとに
示され,その各年間の相関係数を示して効率性に関する大学間の変動は大 きくないことを指摘している.ちなみに,4年間の平均で,1位インペリア ル,2位オックスフォード,3位(同点)ケンブリッジとサザンプトン,4位 シェフィールド,となっており,オックスフォード,ケンブリッジ,シェ フィールドの3大学が上位に位置していることはIzadi, Johnes, Oskrochi and Crouchley (2002)の結果と同じである.
5. 5 Mcmillan and Chan (2006)
Mcmillan and Chan (2006)は,カナダの大学45校の1992年度のクロスセク ションデータを対象に,確率的フロンティア(SFA)費用関数を推定している.
論文では,カナダの大学についてDEAとSFAの2つの手法を応用し,効率 性の指標について大きな違いがあるかを比較考察している.費用関数は簡単 化のためにいくつかの説明変数を除いたトランスログモデルであり,非効率 性については(4)式のように効率性だけを計測するモデルと(6)式のように内 生化されたモデルの2つを推定している.推定方法はいずれも最尤法だが,(4)
式のモデルでは非効率性に指数関数を仮定し,計量分析パッケージLIMDEP 7.0で推定し,(6)式のように非効率性を内生化したモデルでは切断正規分布
を仮定しFRONTIER 4.1によって費用関数との同時推定を行っている10).
費用関数の被説明変数は経常支出と研究支出の合計で,説明変数は理系学 部生,理系以外の学部生,修士課程院生,博士課程院生,研究支出の生産物 5種類と,生産要素価格を表す教員の平均給与,それに文系・理系の各研究 助成金,Ph. D.(課程博士)プログラムの有無を示すダミー変数などである.
非効率性を推定するモデルでは説明変数として,200km以内の大学の学生数,
3・4年次のクラスサイズが26人以下の比率,プログラムに占める専門科目 のハーフィンダール指数,パートタイム学生の比率などが含まれている.
10) 著者たちは,当初FRONTIER 4.1ですべて計算を試みたが切断正規分布を仮定したモデルで
は収束せず,指数分布を用いるためにその推定が可能なLIMDEPを使ったと述べている.
先にも述べたように,この論文の目的はDEAとSFAによる効率性の指標 を比較考察することであり,費用関数や非効率性の説明変数の符号や有意性 については必ずしも十分な議論は無い.確率的フロンティアモデルにおいて も,そのモデルの特定化によって推定値はかなり異なっている.効率性の指 標や個々の大学のランキングも,DEAとSFAで異なり,またSFAの特定化 によっても大きく異なっている.しかし,著者らは個々の大学の相対的位置 は計測方法やモデルが異なっても基本的に整合的であると主張している.
5. 6 Horne and Hu (2008)
Horne and Hu (2008)は,オーストラリアの大学36校の1995年から2002年 の8年間にわたるパネルデータを対象に,確率的フロンティア費用関数を推 定している.費用関数の形はコブ ダグラス型で,非効率性について(6)式 のように内生化されたモデルを仮定する.
推定の手順は,まずパネルデータにおいて全ての大学の費用関数のパラメー タを共通とすべきかどうかをF検定で確認している.これにより,定数項を 除きスロープ係数は共通であるという結果を得ている.次に,費用関数の非 効率性 を確率変数とするか,非確率変数とするか,というモデル選択を行っ ている.ハウスマン検定(Hausman, 1978)によって,非効率性uが確率変数 であれば変量効果モデル,非確率変数であれば固定効果モデルが適切となる.
この検定の結果,変量効果モデルが選ばれ,非効率性uが確率変数となる確 率的フロンティアモデルが選択されている.
ここから先は,前節で言及した修正OLS(COLS)の考え方にしたがい,次 のような2段階の推定を行っている.ハウスマン検定の際には変量効果モ デルとして,費用関数を実行可能GLS(Estimated or Feasible Generalized Least
Squares:EGLSあるいはFGLS)で推定し,残差の最小値を最も効率的な状態と
みなし,各残差と最小値との差分をもとめ,それを第2段階の被説明変数と して(6)式をOLS推定している.
費用関数の被説明変数は総支出額であり,説明変数は大学院生,学部生,
理工系学生の比率,社会人学生の比率,その他のカテゴリーに属する学生の 比率で,教員給与のような要素価格は含まれない.また非効率性の説明変数 としては,定数項と1次と2次のタイムトレンドの他に,教員・学生比率が 含まれている.
主な結論は,次のとおりである.第1に,すでに述べたようにハウスマン 検定によって確率的フロンティアモデルが支持される.第2に,教員・学生 比率は非効率性に対していくつかの大学で有意にマイナスの効果を持つこと が確認され,反対に有意にプラスの効果を持つことは確認されないので,少 なくとも効率化に貢献する可能性が高い.第3に,効率性のランキングをみ ると上位10校に「グループ8」として協定を結ぶオーストラリアの主要大学 8校のうち1校しか含まれておらず,またオーストラリアを代表する世界的 な大学であるオーストラリア国立大学はサンプル期間中を通じて一貫して最 下位にある.
6 ま と め
本稿では,確率的フロンティアモデルの分析手法について論点をまとめた うえで,その応用研究として欧米で行われた大学の効率性分析に関する先行 研究を展望した.
確率的フロンティアモデルの計量分析については多くの論点があるが,近 年は計量経済学の方法論の観点からその精緻化が活発に進められている.ま た,確率的フロンティアモデルによる大学の効率性分析について,欧米で実 証分析の蓄積が進んでいることも確認した.しかし,計量分析手法の視点か らみると大学の効率性分析では,確率的フロンティアモデルの最新の研究成 果は未だ必ずしも十分には反映されておらず,多くの点で改善の余地が残さ れている.
わが国では大学の効率性分析について,確率的フロンティアモデルを応用
した研究自身が北坂(2011)など一部に限られており,最新の計量分析手法の 応用は大きく遅れているのが現状である.大学のあり方は国の将来にかかわ る重大な問題であり,世論においても大きな関心事となっている.わが国で もこの分野におけるより一層の研究の蓄積が必要である.
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(きたさか しんいち・同志社大学経済学部)
(すがわら ちおり・同志社大学経済学部)
The Doshisha University Economic Review Vol.63 No.3 Abstract
Shinichi KITASAKA and Chiori SUGAWARA, Stochastic Frontier Models for Efficiency Analysis of Universities: A Survey
Higher education institutions worldwide are increasingly becoming the subject of analyses aimed at defining, measuring, and improving efficiency. However, despite the importance of efficiency measurement in higher education, it is only relatively recently that more advanced econometric measurement techniques have been applied to higher education institutions such as universities. We survey the underlying models and econometric techniques that have been used in studying economic efficiency in the stochastic frontier framework and present a brief review of the literature on stochastic frontier models for the efficiency analysis of universities.