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風説の流布と偽計

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風説の流布と偽計

著者 川口 恭弘

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 7

ページ 2279‑2303

発行年 2018‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000300

(2)

    同志社法学 六九巻七号二五一二二七九

           

一  はじめに   新村出編﹃広辞苑﹄(第七版)によれば、﹁風説﹂は﹁世間のうわさ、とりざた﹂、﹁流布﹂は﹁世に広まること。広く知れ渡ること﹂である。また、﹁偽計﹂は﹁他人をあざむくはかりごと。また、その手段﹂とされている。このような一般的な用語のほか、﹁風説の流布﹂と﹁偽計﹂は法律用語としても使用されている。

  金融商品取引法(以下、﹁金商法﹂という)は、﹁何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等(有価証券若しくはオプション又はデリバティブ取引に係る金融商品(有価証券を除く)若しくは金融指標をいう。・・・)の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い 444444444444、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。﹂と定めている(金商法一五八条)(傍点筆者、以下同じ)。この規定に違反し

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    同志社法学 六九巻七号二五二二二八〇

た者は、一〇年以下の懲役もしくは一〇〇〇万円以下の罰金に処せられ、またはこれらが併科される(金商法一九七条一項五号)。両罰規定として、七億円以下の罰金刑も定められている(金商法二〇七条一号)。

  さらに、﹁風説の流布﹂および﹁偽計﹂については、刑法に信用棄損罪または業務妨害罪として、それを禁止する規定がある。すなわち、刑法第二編第三五章﹁信用及び業務に対する罪﹂において、﹁虚偽の風説を流布し、又は偽計を 444444444444444

用いて 444、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金に処する。﹂と定められている(刑法二三三条)。

  右の刑法の規定は、金商法上の規定およびその前身とされる規定が制定される前から存在するものである。また、金商法の規制は刑事罰を伴うものである。さらに、刑法の規定においては判例・裁判例や学説の蓄積がある。以上のことから、金商法の﹁風説の流布﹂や﹁偽計﹂の解釈が問題とされた場面では、刑法上の条文解釈が参考にされてきた。もっとも、同じ用語を使用しながら、両者の趣旨と保護法益は異なるものである。そのため、刑法上の解釈を金商法の解釈に適用することは妥当でない場面もある。本稿は、このような視点から、刑法上の規定との相違を明らかにし、あらためて、金商法の条文の解釈を検討する作業を行うことにしたい。

二  沿革と保護法益

1   刑 法 二 三 三 条

  旧刑法(明治一三年太政官布告第三六号)には﹁第二編公益に関する重罪軽罪﹂の第八章に﹁商業及ヒ農工ノ業ヲ妨害スル罪﹂が置かれていた。そこでは、﹁風説の流布﹂に関して、﹁虚僞ノ風説ヲ流布 44444444シテ穀類其他衆人需要物品ノ價直

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    同志社法学 六九巻七号二五三二二八一 ヲ昂低セシメタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス﹂と規定されていた(旧刑法二七二条)。また、﹁偽計﹂については、﹁僞計 44又ハ威力ヲ以テ穀類其他衆人ノ需要ニ缺ク可カラサル食用物ノ賣買ヲ妨害シタル者ハ一月以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ三圓以上三十圓以下ノ罰金ヲ附加ス(旧刑法二六七条一項)、﹁僞計 44又ハ威力ヲ以テ糶賣又ハ入札ヲ妨害シタル者ハ十五日以上三月以下ノ重禁錮ニ處シ二圓以上二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス﹂(旧刑法二六八条)、﹁僞計 44又ハ威力ヲ以テ農工ノ業ヲ妨害シタル者ハ亦前條ニ同シ﹂(旧刑法二六九条)、﹁農工ノ雇人其雇賃ヲ増サシメ又ハ農工業ノ景況ヲ變セシムル爲メ雇主及ヒ他ノ雇人ニ對シ僞計 44威力ヲ以テ妨害ヲ爲シタル者ハ一月以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ三圓以上三十圓以下ノ罰金ヲ附加ス﹂(旧刑法二七〇条)、﹁雇主其雇賃ヲ減シ又ハ農工業ノ景況ヲ變スル爲メ雇人及ヒ他ノ雇主ニ對シ僞計 44威力ヲ以テ妨害ヲ爲シタル者ハ亦前條ニ同シ﹂(旧刑法二七一条)といった規定があった。これらは基本的に業務妨害罪の行為類型に属するもので、その手段として、﹁偽計﹂や﹁風説の流布﹂が規定されているものであった。なお、旧刑法には、第二編第四章に﹁信用ヲ害スル罪﹂が規定されていたが、その内容は、貨幣、官印、官の文書、私印私書、免状鑑札・疾病證書、度量衡、公選の投票を偽造する罪であり、現行刑法(以下、﹁刑法﹂という)の信用棄損罪に対する規定は存在しなかった。

  刑法(明治四〇年四月二四日法律四五号)は、業務妨害罪について、対象の業務範囲を商業および農工業から﹁人の業務﹂という一般的類型に拡大した。その上で、その手段としては﹁虚偽の風説の流布﹂﹁偽計﹂を維持した。さらに、﹁虚偽の風説の流布﹂および﹁偽計﹂による信用棄損罪を創設した上で、その手段の共通性から、信用棄損罪と業務妨害罪を同一の条文で定めるものとした(刑法二三三条) 1

  信用棄損罪の保護法益は﹁人の信用﹂である。﹁人の信用﹂とは、経済的側面における人の評価と解されている 2

。すなわち、人に対する社会的評価のうち、特にその経済的信用を保護するものである 3

。人は自然人のみならず法人その他

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    同志社法学 六九巻七号二五四二二八二

の団体も含まれる。業務妨害罪については、業務活動の自由、社会活動の自由を侵害するものとして、自由に対する罪と解する見解が有力のようである 4

。判例・通説は、﹁業務﹂を、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して従事する事務または事業としている

)5

。本条で保護される業務は経済的業務に限られない。

2   金 商 法 一 五 八 条

  金商法一五八条の起源は、取引所法に溯ることができる。明治政府は、証券取引所および商品取引所を規律する法律として、明治二六年に、取引所法(明治二六年三月四日法律五号)を制定した

)6

。その後、同法では、大正三年の改正で三二条の四が新設され、そこで、﹁取引所ニ於ケル相場ノ変動ヲ図ル目的ヲ以テ虚偽ノ風説ヲ流布シ、偽計ヲ用ヒ 444444444444444又ハ暴行若ハ脅迫ヲ為シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ罰金ニ処ス﹂と定められた。当時、現行の金商法に定める相場操縦に関する規定は存在せず、この規定が、相場操縦を一般的に規制するものと解されていた。なお、同様の規制が昭和一八年に制定された日本証券取引所法(昭和一八年三月一一日法律四四号)にも規定されている。

  つぎに、第二次世界大戦後、昭和二二年に、証券取引法(以下、﹁昭和二二年証取法﹂という)(昭和二二年三月二八日法律二二号)が制定された。昭和二二年証取法の八六条は、﹁有価証券の募集若しくは売出しのため又は有価証券市場における相場の変動を図る目的を以て、虚偽の風説を流布し、偽計を用い 444444444444444又は暴行若しくは脅迫した者﹂は﹁二年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する﹂と定めた。先の取引所法および日本証券取引所法の規定と比較すると、﹁相場の変動を図る目的﹂のほか、﹁有価証券の募集若しくは売出しのため﹂という目的での行為も規制対象に加えられた点が注目される。取引所法や日本証券取引所法が、取引所を規律する法律であったのに対して、昭和二二年証取法は、わが国最初の証券取引規制に関する総合的な法典であった。もっとも、一部の規定を除き、多くの規定が施行されるこ

(6)

    同志社法学 六九巻七号二五五二二八三 とはなかった。

  その後、昭和二三年に、あらためて証券取引法(以下、﹁昭和二三年証取法﹂という)が制定された(昭和二三年四月一三日法律二五号)。同法では、一九七条として、昭和二二年証取法八六条が引き継がれた。もっとも、そこでは、﹁有価証券の募集、売出し﹂に加えて、﹁若しくは売買その他の取引のため﹂という文言が追加された。前述のように、昭和二二年証取法において、相場の変動を図る目的がない場合でも、有価証券の募集または売出しに関する行為であれば規制の対象とされた。さらに、昭和二三年証取法では、発行市場での取引以外の流通取引での取引、すなわち、﹁売買その他の取引﹂について、﹁風説の流布﹂や﹁偽計﹂が禁止行為とされた。また、同年の改正で、﹁虚偽の風説﹂から﹁虚偽の﹂という文言が削除され、単に﹁風説の流布﹂が規制の対象となった。この改正は、﹁風説﹂の意義に﹁虚偽﹂が含まれないと解する根拠となっている。なお、昭和六三年の改正で、右の﹁売買その他の取引﹂の後に﹁若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等若しくは外国証券先物取引等﹂、平成一〇年の改正で、さらに、﹁有価証券店頭デリバティブ取引等﹂が追加された。その上で、平成一八年の金商法への改正にあたり、これらは﹁デリバティブ取引等﹂に改められ、現在に至っている。

  平成四年の改正まで、﹁風説の流布﹂や﹁偽計﹂を禁止する規定は、罰則の章で定められていた。同年の改正で、第六章﹁有価証券の取引等に関する規制﹂が新設され、その中で、これらは、他の不公正取引と並列的に、証券取引法上の禁止行為として規定され、その違反者に刑事罰が適用される枠組みが採用された。このような枠組みは金商法に引き継がれている 7

以法役懲の下以年二、はで取た証年二二和昭。たっあまは金和年三、で法取証年三二昭二、りなと金罰の下以円万で罰   ﹁﹂則罰の合場るす当該に計、偽﹁はたま﹂布流の説は風の懲円万〇〇〇五はたま役の引下以年二、は代時の法所取

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    同志社法学 六九巻七号二五六二二八四

下の懲役または一〇万円以下の罰金と改められた。その後、細かな改正を経て、平成九年の改正で、五年以下の懲役または五〇〇万円以下の罰金となり、平成一八年の改正で、現行法の水準となっている。平成九年の改正で両罰規定が定められている。

  刑法の信用棄損罪や業務妨害罪は、人の信用や社会活動の自由を保護法益として、これらを毀損または妨害する手段として﹁虚偽の風説の流布﹂や﹁偽計﹂を規定している。これに対して、金商法一五八条は、﹁風説の流布﹂や﹁偽計﹂の禁止を、﹁有価証券の募集、売出し若しくは有価証券の売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため﹂、﹁有価証券等の相場の変動を図る目的﹂によるものに限定しているものの、その保護法益については規定していない。他方で、金商法一条(目的規定)は、同法の直接の目的を、﹁有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成を図﹂ること、その究極の目的を、﹁国民経済の健全な発展及び投資者の保護﹂と定めている。金商法一五八条の適用範囲も、かかる金商法の目的に照らして決定される必要がある。

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(8)

    同志社法学 六九巻七号二五七二二八五 7 )。 、﹁ 444444444444 )。)。 、商、取(﹁、昭 7、﹁) 

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三  風説の流布

1   風 説 の 意 義

  刑法の信用棄損罪および業務妨害罪は、﹁虚偽の風説﹂の流布を対象とする。ここにいう﹁虚偽﹂は、客観的真実に反すること、すなわち、実際の事実と相違することと解されてきた 8

。また、﹁風説﹂の一般的な用法として、﹁噂﹂を意味することがある。噂は、自己の外で、他人により作出されるものが多い。もっとも、信用の毀損や業務の妨害は、自らが作り出した情報を利用して行うものが通常であろう 9

。そのため、このような情報も﹁風説﹂に含められる ₁₀

  ところで、軽犯罪法では、﹁虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者﹂は拘留または科料に処すると規定されている(軽犯罪法一条一六号)。ここにいう﹁虚構﹂は、存在しない事実を存在するように装うことを意味すると解

(9)

    同志社法学 六九巻七号二五八二二八六

されている ₁₁

。これに対して、﹁虚偽の風説﹂の﹁虚偽﹂には、基本たる実在の事実に虚偽事実を付加する場合も含まれる。すなわち、一部が虚偽であれば足り、また、真実が含まれていても、これに虚偽の事実を付加することによって全体が虚偽性を帯びる場合でも良い ₁₂

  なお、学説には、﹁虚偽の風説﹂に関して、﹁風説﹂には、特段の意味はなく、﹁虚偽の風説﹂は﹁虚偽の事項﹂と同義との解釈も存在する ₁₃

  このように、信用棄損罪および業務妨害罪では、噂や情報(または、事項)の﹁虚偽性﹂が必要とされている。これに対して、金商法が定める﹁風説の流布﹂については、﹁虚偽の﹂という文言が付されていない。

  既述のように、明治二六年の取引所法の改正および昭和二二年証取法において、﹁虚偽の風説﹂という用語が使用されていたものの、昭和二三年証取法において、﹁虚偽の﹂という用語が削除された。このような立法過程を理由に、金商法(証取法)上の﹁風説﹂は﹁虚偽﹂まで不要とする見解が主流である ₁₄

。その上で、通説は、﹁風説﹂は、必ずしも、虚偽の情報である必要はなく、合理的根拠のない情報であれば足りると解している ₁₅

。この点で、﹁虚偽性﹂に重点を置く刑法よりも、金商法では、より広い範囲の情報を規制対象としている ₁₆

  信用棄損罪や業務妨害罪では、信用を毀損されまたは業務を妨害された﹁人﹂が想定できる。これに対して、金商法上の﹁風説の流布﹂の禁止は、これによって直接に損害を被った投資者の利益のみならず、市場における公正な価格形成をも保護法益とする ₁₇

。金融商品市場は一国の経済の要とも言えるインフラである。かかる市場は投資者の信頼がなければ成り立たず、そのために投資者の保護は金商法が最も重視する保護法益の一つである。さらに、公正な価格形成も、資本市場経済が発展するために不可欠な要素であり、それを確保することは国民経済の健全な発展に資するものである。このような趣旨から、金商法では、﹁風説の流布﹂を、信用棄損罪や業務妨害罪よりも、重い刑事罰を科すものとして

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    同志社法学 六九巻七号二五九二二八七 禁止している。さらに、﹁虚偽﹂という要件を﹁風説﹂から外した立法政策および﹁風説﹂の意義を、﹁虚偽﹂に限らず、合理的根拠のない場合にまで適用範囲を拡大する解釈もこの観点から説明ができる。

  つぎに、通説は、﹁風説﹂を合理的根拠のない情報と解しているが、ここにいう合理的根拠について、行為者の主観を基準として判断すべきか、客観的に判断すべきかが問題となる。信用棄損罪の﹁虚偽﹂について、従来の学説は、客観的真実に反するものと解してきた(客観説)。これに対して、近時は、﹁犯人が直接に経験あるいは認識した事実に反することをいう﹂または﹁犯人が根拠をもって行為者が真実と認識した事実に反することをいう﹂など、行為者の認識を問題とする有力説が主張されている(主観説・擬制説) ₁₈

。嘘であることを承知で、会社が経営破綻に瀕していると吹聴したところ、それが結果として真実であった場合、客観説では罰せられることはないものの、有力説では処罰されることとなる ₁₉

  金商法においても、同様の事例で、経営破綻に瀕していることについて合理的根拠のない情報を流布した場合に﹁風説の流布﹂として罰せられるかが問題となる。この点も、金商法の保護法益の視点から条文の解釈をすべきであろう。学説では、合理的根拠なく風評が立てられると、それが客観的事実に合致しているかどうか確知しえないため、投資者を惑わし公正な価格形成を妨げるとして、このような場合も﹁風説﹂に該当すると解する見解がある ₂₀

。もっとも、投資者は、流布された情報が真実であると信じて取引を行ったことを考えると、その情報が結果として真実であれば、投資者を惑わすこともなく、また、価格形成にも影響を与えていないようにも思われる。これに対して、金商法が﹁風説の流布﹂を禁止する保護法益は、情報を公表する者は少なくとも自らは合理的根拠を有してそれを行っているはずというコンセンサスを内包する公正な市場の維持にあるとみた上で、自ら合理的根拠を有さず情報を流布する行為には行為無価値のみならず、そのような保護法益を害する抽象的危険をはらんだ行為として結果無価値も認められると述べる立場

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    同志社法学 六九巻七号二六〇二二八八

もある ₂₁

。結果的に真実であったという理由で合理的根拠のない情報の流布に免罪符を与える場合、合理的根拠のない情報を誘発することが考えられる ₂₂

。また、意図的に合理的根拠のない情報を発信し、市場を混乱させようとする意図がある者に対して、結果的に投資者に損害がなかったということだけで免責することは、健全な金融商品市場の発展を目途とする金商法の保護法益にそぐわない ₂₃

  なお、企業が将来の予想を述べる場合に、その予想の根拠などについてどこまでの合理性を必要とするかという論点もある。将来の予想は、主観的なものとならざるを得ない。もっとも、その主観を形成する過程は合理的なものでなければならない。現状の客観的な分析とともに、入念な市場動向の調査などを行った上での予想であれば、それが結果として、真実とはならなかった場合でも、企業は免責されると解される ₂₅

)(₂₄

2   流 布 の 意 義

  信用棄損罪および業務妨害罪における﹁流布﹂とは、不特定または多数人に伝播させることをいうというのが通説のようである ₂₆

。名誉棄損罪(刑法二三〇条)の適用には、公然と事実を摘示することが必要である。信用棄損罪や業務妨害罪には、かかる要件がないため、当初は特定少数の者に伝えても、その者から不特定多数の者に伝播されることを認識していれば、流布に当たると解されている ₂₇

  金商法上の風説の﹁流布﹂についても同様に解して良いと思われる。これまで、﹁風説の流布﹂に当たるとされた事例として、十数名の証券業者や関係記者を招いた説明会を実施したもの(日本レアメタル事件)(﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₂₈

、取引所の記者クラブでの記者発表を実施したもの(テーエスデー事件)(﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₂₉

、記者クラブの幹事会社にファクシミリを送信したもの(東天紅事件)(﹁相場の変動を

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    同志社法学 六九巻七号二六一二二八九 図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₃₀

、雑誌の株式欄に記事を記載したもの(ギャンブル大帝事件)(﹁有価証券の売買その他の取引等のため﹂および﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₃₁

などがある。情報の伝達先が特定少数の新聞記者や新聞社であっても、新聞報道を通じて不特定多数の者に情報が流れる可能性があるため、これらの行為を﹁流布﹂と評価することは妥当である。近年は、インターネットを利用したものも見られる。たとえば、自社のホームページで、転換社債型新株予約権付社債の払込みが完了した旨および一部が株式に転換されたことで資本金が充実した旨の虚偽の事実を公表した事件がある(メディア・リンクス事件)(﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₃₂

  インターネット上の﹁掲示板﹂への書き込みも﹁流布﹂に該当すると解される。匿名での書き込みが、どれほど情報としての信頼性があるのか疑問がないわけではない。もっとも、その情報が正確に株価に反映しないとしても、株価形成に影響を与えることは十分に考えられる ₃₃

。そのため、これを﹁流布﹂に該当しないとする必要はない。これに関して、ジャスダック市場やマザーズ市場に株式を上場する会社について、新聞社等による記事掲載という事実がないにもかかわらず、それがあったかのように装った虚偽の内容の文章を掲示板に書き込んだ事件があった。これは、インターネット上の掲示板を悪用した事件を告発した初めての事例であった(﹁有価証券の売買のため﹂および﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₃₄

。類似の事例として、インターネット上で募集した会員に対して、虚偽の電子メールを送信したものがある(ドリームテクノロジーズ事件)(﹁相場の変動を図る目的﹂による﹁風説の流布﹂) ₃₅

もれなりのと評価さる悪べきであろうよ質 ₃₆ にいてれま含が実事の偽虚め信発報情なうよのこ、場たのる者合え、らかさき大、力響影るの与資に投資投の判断の形成 通せることがそ常である。を寄頼は部れそう行が者外比、信ていつに信とべ報真ういとるあで実がてれそは者資投、発   ﹁説発が)者行発(社会行のの券証価有、うは﹂布流行風場が情う行が社会発。るあと合合場う行が者の部外、と行

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    同志社法学 六九巻七号二六二二二九〇

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