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著者 伊室 亜希子

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全文

(1)

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金 をした場合における信託成立の可能性

その他のタイトル The Propriety of the Application of Trust Law to the Relationship between the Attorneys and Their Clients, the Insurance Company and the Insurance Agency

著者 伊室 亜希子

雑誌名 關西大學法學論集

巻 54

号 3

ページ 474‑499

発行年 2004‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/12180

(2)

他人︵委任者︶のために金銭を保管すべき者︵受任者︶が自己名義で専用口座に預金をして分別管理している場合 において︑その預金債権の帰属が問題となった最高裁判決が平成一五年に︑相次いで出された︒ひとつは︑保険代理 店が保険契約者から受領した保険料を保管するために保険料専用口座を開設した場合に︑預金債権が保険会社と保険

l

問 題

意

目 次

I

問 題 意 識

1 1

判例の概要

m

預金口座の帰属

w

信託の成立可能性

> 結 び に 代 え て

識

伊 室 亜 希 子

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で 預金をした場合における侶託成立の可能性

八 六

︵ 四

七 四

︶

(3)

八 七

︵最二小判平一五年︱一月︱︱一日民集五七巻一一号一頁︑以下︑判例2という︶︑もうひと つは弁護士が依頼者からの預り金を保管するために開設した預金口座の預金債権が弁護士と依頼者のどちらに帰属す

︵最一小判平一五年六月︱︱一日民集五七巻六号一頁︑以下︑判例

3

という︶というものである︒

この一︱つの事件においては︑預金債権の帰属ということが争点になっており︑当事者が信託の成立について何ら主 張立証しているわけてはない︒しかし︑弁護士の預り金口座の事件において︑補足意見ではあるが︑倍託契約成立の

(3 ) 

これに先立って︑公共工事の前払金保証制度に関する事案ては︑平成一四年に最高裁判決︵以下︑判例

1

と い

う ︶

が出され︑ここでは信託の成立が認められている︒同様の問題状況は︑

菓者や債権を回収した金銭をめぐる顧客とサービサーとの関係でも見られる︒

信託の本場︑米国ではどうかというと︑判例 1

に関連して建築請負の場面で信託が使われることを拙稿でも以前紹

介したが︑その他に︑判例 3

に関連して弁護士の預かり金についても弁護士と依頻人との関係は信認関係にあること

が紹介されている︒

以前は︑このような場面て信託が使われるということは思いもよらなかったかもしれない︒しかし︑わが国でも同 じような場面で︑信託の成立を考える余地が出てきているといえる︒

本稿では︑最高裁の三つの判例を中心に︑目的の定められた金銭を預かって専用の預金口座を開設する場合の信託

成立の可能性について考察したい︒

叙述の順序としては︑判例の概要

( I I )

を述ぺた後で︑預金口座の帰属

( r n )

︑信託成立の可能性

( N )

他人のために金銭を保管すべき者が自已名義て預金をした場合における信託成立の可能性

可能性が述ぺられた︒ る

か 代理店のどちらに帰属するか

︵ 四 七 五

︶

について マンションの管理費をめぐる管理組合と管理

(4)

に ︑

保証事業会社との間で︑前払金返還債務について︑保証契約を締結した︒保証約款によれば︑① Y l

A

建

設 は

︑ 前払金を保証事業会社が業務委託している金融機関に︑別口普通預金として預け入れなければならないこと︑②

A

ー 考

察 す

る ︒

( l

)

金法一六七七号五七頁︒第一審二札幌地裁小樽支判平成一

0

年︱︱一月一一日︵金商︱︱六七号一六頁︶︒原審口札幌高裁平

成︱一年七月一五日︵金商︱︱六七号一

0

頁 ︶

(2)金法一六八五号五九貞、金商――七六号五一頁。第一審~宮崎地判平成―一年六月―一五日、原審;福岡高裁宮崎支判平成

一三年七月一三日

(3)最一小判平︱四年一月一七日︵民集五六巻一号一︱

0

頁︑金法一六四五号五一頁︶第一審二名古屋地判平︱︱一年二月八

H

︵金商一〇八七号四

0

頁︶原審二名古屋高判平︱二年九月︱︱一日︵金商︱

10

九号

一︱

︱︱

一頁

︶︵

関連

二束

京地

判平

︱一

年︱

︱ 月二九日︵金商一〇八七号四

0

頁

︶東 京高 判平

︱︱ 一年 一

0

月

一一

五日

︵金

商︱

1 0

九号

三二

頁︶

︶ (4)拙稿﹃ニューヨーク州法における建築請負報酬債権の担保方法﹂︵早法七六巻一一号一五

0

頁以下︶において︑建築請負の

場面て︑注文者から受領した金銭につき︑請負人を受託者︑下請負人を受益者とする法定信託の制度を紹介した︒

( 5

)

樋

D

範雄﹃フィディシャリー︹信認︺の時代﹄︵有斐閣︑一九九九年︶一五頁以下︒

( 6 )

前掲注(4)の拙稿では︑立法論として法定信託の必要性を述べたにとどまったけれども︑今度は︑解釈論として︑建築請 負の場面における信託成立の可能性を意識しながら︑他人のために金銭を保管すぺき者が自己名義で預金をした場合におい て︑いかなる場合に信託が成立するのかを考察する︒

判例ー︵最一小判平︱四年一月一七日民集五六巻一号︱

1 0

頁︑公共工事の前払金保証制度に関する事案︶について

︵事

実の

概要

︶

関法

第五四巻三号

A

建

設 は

︑

B

地方公共団体と請負契約を締結し︑

I l

判 例 の 概 要

B

地方公共団体から前払金の支払いを受けるため

¥

¥  

J

'ノ

︵四

七六

︶

(5)

あ る

︒

建設は︑前払金を保証申込書記載の目的に従い︑適正に使用する責めを負い︑別口普通預金の払出しを受けるために

は︑預託金融機関に適正な使途に関する資料を提出して確認を受けなければならないこと︑③

保証事業会社は︑

Y l

前払金の使途を監査するために︑調査︑報告︑説明等を求めることができること︑④

保証事業会社は︑前払金が

Y l

適正に使用されていないと認められるときには︑預託金融機関に対し︑別口普通預金の払出しの中止その他の処置を

依頼することができること︑などとされていた︒

B

地方公共団体公共

t

事請負契約約款によれば︑前払金は当該工事

A

建設は︑保証証書を

B

地方公共団体に寄託し︑前払金として︑\信用金庫に約一七

0

0

万円の振込みを受けて預

B

地方公共団体は︑

A

建設の営業停止に伴い︑工事続行が不可能になったため︑請負契約を解除し︑

社が保証債務の履行として︑前払金から工事の既済部分に対する代価に相当する額を控除した残額相当分を支払った︒

その後

A

建設は︑破産宣告を受け︑

X

が破産管財人に選任された︒

八 九

保証事業会

y l

破産管財人

X

は ︑

X

が債権者であること等の確認を求めるとともに︑ 保証事業会社に対して︑本件預金について

Y l

倍用金庫に対しては︑本件預金の残額︵約五六

0

万円︶及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めたのが本件で

y z

︵ 訴 訟 の 経 過

︶

第一審は︑破産宣告前に

B

地方公共団体に代位した

Y

保証事業会社には実体的に信託類似の関係に

基づく取戻権があるとした︒原審は︑事実関係から

A

建設より担保の設定を受 保証事業会社は別口普通預金につき

Y l

けたものと認定して︑

保証事業会社は別除権を有するとした︒ X

Y I

が 上

告 ︒

金 し

た ︒

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性 の必要経費以外に支出してはならないとされていた︒

︵ 四 七 七

︶

(6)

第 五 四 巻 三 号

上 告

棄 却

︒ ﹁

︵ 前

略 ︶

上で本件前払金の授受をしたものというべきである︒このような合意内容に照らせば︑本件前払金が本件預金口座に

振り込まれた時点で︑

B

地方公共団体と

A

建 設

と の

間 て

︑

B

地方公共団体を委託者︑本件前払金を信託財産とし︑こ

れを当該工事の必要経費の支払に充てることを目的とした信託契約が成立したと解するのが相当であり︑︵後略︶﹂︑

﹁︵前略︶信託の受益者は委託者である

B

地方公共団体であるというべきである︒﹂﹁そして︑本件預金は︑

A

建設の

一般財産から分別管理され︑特定性をもって保管されており︑これにつき登記︑登録の方法がないから︑委託者であ

る B 地方公共団体は︑第三者に対しても︑本件預金が信託財産であることを対抗することができるのであって

法三条一項参照︶︑︵後略︶﹂したがって︑﹁︵前略︶信託財産である本件預金は

A

建設の破産財団に組み入れられるこ

判例

2

︵ 最

︱ ‑

小 判

平 一

五 年

二 月

一 ︱

一 日

民 集

五 七

巻 ︱

一 号

一 頁

︑ 損

害 保

険 代

理 店

の 保

険 料

専 用

口 座

の 帰

属 ︶

に つ

い て

︵事

実の

概要

︶

訴外A

社は

X

保険会社の損害保険代理店であり︑

Y

信用組合に﹁

X

代理店

A

﹂名義の普通預金

D

座

を開設した︒本件預金口座は︑

X

保険会社のために保険契約者から収受した保険料のみを入金する目的で開設された

ものである︒本件預金口座の通帳及ひ届出印は

A

が保管していた︒

A

社

は ︑

X

保険会社を代理して︑保険契約者と保険契約を締結し︑保険契約者から保険料を収受し︑収受した金銭

を本件預金口座に人金するまで︑これを他の金銭と混同しないよう︑専用の金庫ないし集金袋で保管する︒ A 社は保

険料として収受した金銭をすぺて本件預金口座に入金し︑毎月︑本件預金口座から前月分の保険料相当額を払い戻し︑

2

│ 1  

とはないものということができる

︵ 判

決 ︶

関法

︵ 信

託 法

一 六

条 参

照 ︶

︒ ﹂

と し

た ︒

九〇

︵四

七八

︶

︵ 信

託

A

建設はもちろん

B

地方公共団体も︑本件保証約款の定めるところを合意内容とした

(7)

︵ 判 決 ︶

上 告

︒

破棄自判

そこから代理店手数料額を控除した額の金銭を

X

保険会社に送金していた︒

九

保険料に関する上記取り扱いは︑平成七年に廃止された保険募集の取締に関する法律︑その後に出された大蔵省通

A

杜は一一度目の不渡り手形を出すことが確実となったため︑

X

保険会社に本件預金口座の通帳及び届出印を交付し

た ︒

Y

信用金庫は︑

A

社に対する貸付債権と本件預金債権を対等額で相殺する意思表示をした︒

X

保険会社が

Y

信用

金庫に対して預金の返還請求を行ったのが本件である︒

︵ 訴 訟 の 経 過

︶

一審︑原審とも

X

保険会社の請求を認容して︑

では︑預金原資の出捐者が預金者として預金債権の帰属主体となると解することとし︑①

A

社

は ︑

理して保険契約者から収受した保険料を︑他の金銭と混同することなく保管していたこと︑②本件預金の原資は上

記保険料及びその預金利息であること︑③

A

社は︑上記保険料自体の帰属については︑独自の実質的又は経済的な

利益を有していないこと︑④

X

保険会社は︑

め︑保険料の帰属について実質的または経済的な利益を有していることを考慮して︑保険料の所有権は占有者ではな

い

X

保険会社に帰属すると認めるべき特段の事情が存すると解する余地が十分にある︒仮にそうでないとしても︑上 記諸点を考慮すると︑本件預金の出捐者は︑

位を有していたのは︑

x 保険会杜に本件預金債権が帰属するとした︒原審

A

社の保険料受領時から保険金支払いの責任を負担することになるた

x 保険会社であるとした︒かつ︑本件預金口座を実質的に管理しうる地

x 保険会社であることから︑本件預金債権は

X

保険会社に帰属すると判示した︒

Y

信用金庫が

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義て預金をした場合における信託成立の可能性

達等によるものであり︑保険実務に沿うものであった︒

x 保険会社を代

︵ 四 七 九

︶

(8)

第 五 四 巻 三 号

最高裁は︑本件事実関係のもとにおいては︑本件預金債権は︑

x 保険会社にではなく︑

︵四

八

O )

A

社に帰属するとして︑原

最高裁は︑①金融機関である

Y

信用金庫との間で普通預金契約を締結して本件預金口座を開設したのは

A

社であ り︑また本件預金口座の名義である﹁

X

代理店

A

﹂が預金者として

X

を表示しているものとは認められないし︑

険会社が

A

社に

Y

信用金庫との間での普通預金契約締結の代理権を授与していた事情は記録上全くうかがわれない︒

②本件預金口座の通帳及び印鑑は

A

社が保管しており︑本件預金口座への入出金事務を行っていたのは

A

社のみで あるから︑本件預金口座の管理者は︑名実ともに

A

社である︑とした︒

そのうえで︑受任者が委任契約によって委任者から代理権を授与されている場合︑受任者が受け取った物の所有権 は当然に委任者に移転するが︑金銭については︑占有と所有とが結合しているため︑金銭の所有権は常に金銭の受領

者︵占有者︶

そうすると︑

会社に送金する義務を負担することになるのであって︑

送金を受けることによって︑初めて金銭の所有権を取得するに至るべきである︒したがって︑本件預金の原資は︑

A

社が所有していた金銭にほかならない︒したがって︑本件事実関係の下においては︑本件預金債権は︑

X

保険会社に

で は

な く

︑

さ ら

に ︑

A

社に帰属するというべきである︑と判示した︒

A

社が本件預金を

A

杜の他の財産と区分して管理していたり︑本件預金の目的や使途について

A . x

間の 契約による制限が設けられ︑本件預金口座が

X

保険会社に交付されるべき金銭を一時入金しておくための専用口座で

判決を破棄し︑自判のうえで

Y

の主張を認めた︒

関法

九

x 保

である受任者に帰属し︑受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるに過ぎない︒

A

社が保険契約者から収受した保険料の所有権はいったん

A

社に帰属し︑

A

社は同額の金銭を

X

保険

x 保険会社は︑

A

社が

Y

信用金唐から払戻しを受けた金銭の

(9)

また︑これまでの下級審判決でも︑代理店の破産事例で︑保険会社から代理店の破産管財人に対して︑預金債権の

( 1 0 )  

保険会社への帰属確認または取戻権の確認請求を認めたものがあった︒判例

2

の第一審︑原審判決もこの流れに沿う

ものであった︒

それに対して︑預金債権が保険代理店に帰属するという下級審判決もあったが︑保険代理店が破産していないのに

もかかわらず︑保険会社が銀行に対して預金の払戻しを請求した事件ということで︑ か

っ た

︒

判例

2

ては︑損害保険代理店の口座に入金された保険料は︑保険代理店に帰属するものとされたが︑実務では代理

店が収受した保険料は保険会社に帰属することを前提に制度設計がなされてきた︒

平成七年に廃止された保険募集の取締に関する法律︱︱一条及び同法施行規則は︑損害保険代理店が所属保険会杜の

ために収受した保険料を代理店自身の財産と明確に区分することなどを定めていた︒

この規定は︑平成七年に規制緩和を目的として廃止されたが︑大蔵省銀行長通達︵当時︶

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性

2

│ 2

判例

2

に関するこれまでの裁判例の流れ とも述べている︒

九

︵四

八一

︶

一応区別して考えられていた︒ ある︑いった事情は︑

Y

信用金庫に対する関係で本件預金債権の帰属者の認定を左右する事情になるわけではない︑

本判決には︑福田裁判官の反対意見が付されている︒

X

保険会社は

A

社に金融機関との間で普通預金契約を締結す るための代理権を授与していたと考えるべきであるから︑本件預金口座は

X

保険会社に帰属する︑とする︒

により実務に変更はな

(10)

原審は︑次のとおり判断し︑控訴を棄却した︒ るのが相当であるとして︑これを棄却した︒ が出金された︒ 3 判例 3 について

第 五 四 巻 三 号

けれども︑判例

2

では︑預金債権は保険代理店に属するとの判断が示されたのである︒

︵事

実の

概要

︶

︵最一小判平一五年一一月一︱一日民集五七巻二号一頁︑弁護士の預かり金口座︶

﹁X I

会社から債務整理事務を委任された弁護士である

が︑債務整理事務遂行のために︑

X z

から受領

X I

した五

0

万円をもって銀行に

0

名義の普通預金口座を開設し︑預金の出し入れを行っていたところ︑本件口座にか

X Z

かる預金債権につき︑

Y

税務署長により本件債権は

の財産てあるとして

X I

の滞納国税等の徴収のために︑本件債権

X I

の差押えがされたので︑

X

らが

Y

に対し本件差押えの取消しを求めた事件である︒

①Xl

は

と

X z

の 間

で ︑

の債務整理に関する事務処理を委任する旨の契約を締結した︒②

X I

は︑上記委任契約に基

X z

づき

の債務整理の委任事務を遂行するため︑

X I

名義の本件口座を開設し︑

X Z

から栢かった五

X I

0

万円を本件口座に

0

入金した︒③本件口座の届出印及び預金通帳は︑当初から

が管理していた︒④その後︑本件口座には︑

X z

の不動

X I

産及び動産の売却代金︑

込まれ︑本件口座からは︑

︵訴

訟の

経過

︶

関法

の売掛金及ひ請負代金︑ X i

第 一

審 は

︑

への公租公課の還付金等が︑

X I

の依頼により︑債務者から振り

X z

の債権者に対する配当金及びその振込手数料︑

X I

︵四

八二

︶

の従業員の給料︑社会保険料︑税金等

X I

の訴えを不適法として却下した︒そして

X I

の請求については︑本件預金の出捐者︑す

X z

なわち︑本件預金にかかる資産の現実の拠出者は︑

であると認められるから︑本件預金債権は X i

に帰属すると認め

X l

九 四

(11)

原判決に対し︑

x らが上告及ひ上告受理の申立てをした︒

九五

任意整理を受任した弁護士は︑その前払費用として委任者から弁済資金を受領したとしても︑委任者の債務の弁済 を委任者の代理人として行うことが委任の目的であって︑その目的以外に同弁護士がその弁済資金を自由に処分でき るものではなく︑善管注意義務をもってこれを管理し︑委任契約が解除されたときはその返還義務を負う︒本件の事 実関係と任意整理目的の委任契約の内容を考慮すると︑本件口座にかかる預金契約は︑

の

X I

出 捐

に よ

り ︑

の預金と

X I

する意思で

を使者ないし代理人として締結されたと認めるのが相当であり︑本件預金債権は

X z

X I A I

に帰属するというべ

きである︒委任者たる

から預かった弁済資金は︑受任者たる

X I

の所有となるとは解されない︒

X L

最高裁は︑上告については棄却決定をしたが︑上告受理決定をした上で︑本判決をもって︑原判決を破棄

﹁︵前略︶このように債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任者からの債務整理事務の費用に充てるためにあら かじめ交付を受けた金銭は︑民法上は同法六四九条の規定する前払費用に当たるものと解される︒そして︑前払費用 は︑交付の時に︑委任者の支配を離れ︑受任者がその責任と判断に基づいて支配管理し委任契約の趣旨に従って用い るものとして︑受任者に帰属するものとなると解すべきである︒受任者は︑これと同時に︑委任者に対し︑受領した 前払い費用と同額の金銭の返還義務を負うことになるが︑その後︑これを委任事務の処理の費用に充てることにより 同義務を免れ︑委任終了時に︑清算した残金を委任者に返還すべき義務を負うことになるものである︒

そうすると︑本件においては︑上記五

0

が 万円は︑弁護士

X0

から交付を受けた時点において︑

X I

に帰属するも

X z

のとなったのであり︑本件口座は︑

が︑このようにして取得した財産を委任の趣旨に従って自己の他の財産と区別

X z

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性

し︑第一審判決を取り消して︑本件差押さえを取り消した︒

︵ 判

決 ︶

︵四

八三

︶

(12)

第五四巻三号

︵四

八四

︶

これらによれば︑本件口座は

が自己に帰属する財産を持って自己の名義で開設し︑その後も自ら管理していたも

X z

のであるから︑銀行との間で本件口座にかかる預金契約を締結したのは︑

その後に入金されたものを含めて︑

の銀行に対する債権であると認めるのが相当である︒︵後略︶﹂と判示した︒

X z

本判決には︑深澤裁判官︑島田裁判官の補足意見がある︒

﹁︵前略︶会社の資産の全部又は一部を債務整理事務の処理に充てるために弁護士に移転し︑弁護士の責任と判断 においてその管理︑処分をすることを依頼するような場合には︑財産権の移転及び管理︑処分の委託という面におい て︑信託法の規定する信託契約の締結と解する余地もあるものと思われるし︑場合によっては︑委任と信託の混合契 約の締結と解することもできる︒︵後略︶﹂

であり︑本件口座にかかる預金債権は︑

X z

(7)

田爪浩信「損害保倹代理店の取扱実務ー~最判小判平一五・ニ・ニ―を契機としてー」金法一六八三号一頁(二

00

三 ︶

( 8 )

﹁損害保険代理店は︑所属保険会社のために収受した保険料を保管する場合においては︑自已の財産と明確に区分しなけ ればならない︒前項の保険料の保管に関して必要な事項は︑命令でこれを定める﹂︵旧募取法︱︱一条︶

( 9 )

保管保険料を金融機関等に預け人れ︑それを代理店固有の口座と別にすべきこと︵規則五条︶︑保管保険料口座の預貯金 は所属保険会社の指示による場合以外には代理店は使用できないこと︵規則六条︶︑保険料等について収支明細票を備えて

おくべきこと︵規則七条︶

( 1 0 )

①東京地判昭和六三年三月二九日︵金法︱︱︱二

0

号 一 ︱

1 0

頁︶︑判例評釈として︑伊藤演﹁判批﹂判評三七︱一号六

0

頁

︵一

九九

0 )

︑弥永真生﹁判批﹂ジュリ九九五号一〇七頁二九九︱‑)︑黒沼悦郎﹁判批﹂損害保険判例百選︿第二版﹀八六頁

︵一九九六︶︒②東京地判昭和六三年七月二七日︵金法︱︱︱︱

1 0

号三四頁︶︑判例評釈として︑山下友信﹁損害保険代理店の

して管理する方途として︑開設したものというべきである︒

関法

九六

(13)

せないといえる︒ 問題の一環をなしている︒

七九

保険料保管専用口座と預金債権の帰属﹂ジュリ九一一九号四九頁(‑九八九︶︑上野隆司

1 1 石井僕司﹁損害保険代理店の保険

料保管専用口座に基づく預金は誰に帰属するか﹂金法︱︱︱︱一八号︱一三(‑九八九︶ほか︒

( 1 1 )

千菓地判平成八年三月二六日︵金法︱四五六号四四頁︶

(12)

関連判例~最一小判平成一五年六月一―六日(金法一六八五号五一二頁)、東京高判平成一五年七月九日(金法一六八―一号一

六八頁︑金商︱︱七六号五一頁︶一審二束京地判平成︱四年三月一五日︵金法一六五七号三四頁︶判例評釈二田原睦夫﹁弁

護士の預り金口座の預金とその帰属﹂金法一六六二号四頁(︱

1 0

0 1

︱ )

預金口座の帰属

本稿で取り上げている

3

つの最高裁判例の共通項は︑他人のために金銭を保管すぺき者が自己名義で専用口座に預

金をして管理している場合の問題であるということである︒そのうち︑判例

1

と判例

2

は︑その管理者︵受任者︶が

破産した場合に︑管理者︵受任者︶ の債権者と金銭の管理を委託した者︵委任者︶が預金債権の帰属をめぐって争う

一定の目的のもとに受任者名義で預金されている金銭について︑委任者の利益を保護するためには︑当該預金債権 が受任者ではなく︑委任者に属するという結論になればよい︒その方法とは︑

ひとつは︑委任者が預金債権者である

︵ 認 ︶

とすることであり︑もうひとつは︑信託を成立させて︑預金債権を信託財産であると認めることである︒どちらの方 法をとっても︑受任者の債権者からの追及を免れることができる︒預金者認定の問題は︑信託成立の問題と切りはな

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義て預金をした場合における信託成立の可能性

1

預金口座の帰属と信託成立との関係ニ︱者択 m 

︵四

八五

︶

(14)

第五四巻三号 この観点から見ると︑判例

1

では︑まさに︑預金債権が元請負業者の破産財団に組み込まれないという結論を導く それに対して判例

2

では︑受任者である代理店に預金債権が帰属するという結論に至った︒この結論では︑委任者 である保険会社を救済する結果とはならないため︑信託構成を使うと︑保険会社を救済するという反対の結果となる︒

最後に判例

3

は︑受任者である弁護士の破産事例ではない︒そこで少なくとも信託のメリットのひとつである倒産

隔離機能とは直接には関係がないといえる︒それでも注目されるのは︑判例

3

では信託成立の可能性が補足意見で述 べられていることである︒判例

3

では︑債務整理を依頼した委任者の債権者から︑別口普通預金口座が弁護士に帰属 するとして保護がなされている︒ということは︑破産による信託終了の場面の話ではなく︑まさに信託目的に従って︑

信託財産が適正に使用されることが期待されているといえる︒

委任契約で受任者に代理権がある場合には︑通常︑受任者が受け取った物の所有権が当然に委任者に移転するが︑

金銭については占有と所有とが結合しているため︑金銭の所有権は常に金銭の受領者︵占有者︶

し︑受任者は同額の金銭を委託者に支払うべき義務を負うにすぎない︑と考えられている︒

この考え方からすれば︑判例2については︑代理店が受領した保険料は︑保険会社に送金される前は︑

理店の所有に帰属し︑同額の金銭を保険会社へ送金する義務を負担するにすぎないこととなる︒したがって︑この保

険料を原資として預金したとしても︑預金債権者認定に関する判例の流れ︵後述︶

2

占有

I I

所有ドグマ

ために︑信託という手法が用いられている︒

関法

からはこの預金は︑原則として︑

九八

である受任者に帰属

︵ 四 八 六

︶

いったん代

(15)

を負うことになるとし︑預金債権は弁護士に帰属するとされた︒

九 九

判例

3

についても︑弁護士が債務整理事務の委任を受けて︑あらかじめ交付を受けた金銭は︑民法六四九条の前払 費用に当たるとされ︑前払費用は交付の時に受任者に帰属し︑受任者は︑受領した前払費用と同額の金銭の返還義務 但し︑金銭についても帯封などにより︑特定性が認められる場合には︑占有と所有を切り離して考える余地がない

収受した保険料を代理店の金銭及び第三者の金銭から区別し︑専用口座に入金すること︑又は︑債務整理のために 依頼人から交付を受けた金銭を弁護士の金銭及び第三者の金銭から区別し︑専用口座に入金することによって︑流通 過程から金銭を切断し︑当該金銭を一種の動産と見ることが可能であれば︑占有と所有を分離して考え︑保険料︑前 払金を原資とする預金債権が︑それぞれ保険会社︑依頼者に帰属すると解する余地がある︒

しかしこの見解を最高裁が採用しないことが判例

2

︑判例

3

により明らかになったといえる︒特に判例

3

では分別

管理は︑単に委任の趣旨に従ったものとして︑それ以上の意味を与えていないように読める︒

預金債権者の帰属については︑周知のとおり︑学説が分かれている︒

主観説は︑預入行為者が他人のための預金であることを表示しない限り︑その者の預金とみる説である︒客観説は︑

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性

① 学 説

3

預金債権の帰属に関する学説

とはいえない︒ 代理店に帰属する︒

︵ 四

八 七

︶

(16)

③ 判 例

2

と判例 3

は客観説を採用したか︒

を採ることができるように思われる︒

判例は︑預金者の認定について客観説を採用しているとされる︒しかしながら︑客観説は︑定期預金︵無記名定期 預金及び記名式定期預金︶について発展してきた法理であって︑普通預金については︑反復継続した入出金の結果が 合算されて一個の預金債権として扱われるため︑定期預金と違って︑特定の時点で出捐者を確定するのは困難ではな いかという指摘がなされている︒

そして︑さらに振込取引の場合についてであるが︑﹁普通預金であっても︑振込金の原資の出捐者ないしは帰属先 が特定している﹁専用口座﹂については︑以上に述べたのとはやや性格が異なる︒それが特定の者からの振込金を受 け入れるだけであって他からの振込原資と混合せず︑かつ︑

いて︑預金債権として特定性を有しているなどの要件を充たす場合には︑︵口座の名義にかかわらず︶その専用口座

( 1 6 )  

全体についての原資の帰属者

11

出捐者を預金者と認定するという解釈が可能であろう︒﹂との指摘がされている︒

このように専用口座の特殊性を強調すると︑普通預金であっても︑原資の出捐者を預金者と認定する客観説の立場

② 

普通預金にも客観説が妥当するか

自らの出捐によって︑自己の預金とする意思で︑自らまたは代理人・使者を通じて預金契約をした者を預金者とする 説である︒預け入れ行為者が出捐者の金銭を横領し︑自己の預金とするなどの特段の事情がない限り︑出捐者が預金 者であるとするものである︒折衷説は︑原則として客観説に立ちながら例外的に預入行為者が自己を預金者であると 表示した場合には︑預入行為者が預金者となる見解である︒

関法

第 五 四 巻 三 号

口座名義人である受任者の一般財産から分別管理されて

100 

︵ 四

八 八

︶

(17)

判例 2 における福田裁判官の反対意見は︑ x

保険会社は

A

社に金融機関との間で普通預金契約を締結するための代

理権を授与していたと考えるべきであるから︑本件預金口座は

X

保険会社に帰属する︑とする︒とすれば︑今後の対

策としては預金契約の代理権を授与していることを明確にすればよいのかというと少々問題があるように思われる︒

﹁金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律﹂が一︱

0

0

三年一月に施行された︒本法律によると︑

設の際には︑預金者本人︑または代理人により開設する場合には代理人と預金者両方について︑厳格な本人確認をす ることが義務付けられている︒問題はこの手続上の煩雑さにある︒

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義て預金をした場合における信託成立の可能性

④金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律の影響

あるように思われる︒ を行っている︒

10 

判例

2

と判例 3

は︑預金者の認定に際して︑原資の出捐者だけではなく︑さまざまなファクターを考慮した検討を 行っている︒判例2では︑預金の原資だけではなく︑預金開設者︑預金口座の名義人︑本件預金口座の通帳及び印鑑 の保管者︑預金口座の管理者が代理店であることから預金債権を代理店に帰属するとした︒判例

3

でも︑同様の認定 少なくとも判例

2

︑

3

が客観説と矛盾するということにはならないといえる︒しかし︑原資の出捐者を金銭の占有

者

11

所有者とするのは︑あまりにも形式的であって︑経済的な出捐をしているのは︑委任者であることは明らかであ る︒そういう意味では出捐者は委任者とも受任者とも言いうるのであって︑それだけでは決定的な理由とならない︒

それを補うために他のファクターも考慮されているが︑これは預金者の認定と一︱者択一の関係にある信託と関係が

︵四

八九

︶

口座開

(18)

ー

第五四巻︱二号

信託の成立要件

︵ 四 九

O )

また本法律の影響としては他に︑預金取引の相手方の実在性とともに︑同一性も併せて確認することが金融機関の

法的義務とされた以上︑そのもとでの預金取引においては︑客観説の根拠のひとつがほとんど意味を持たないものに

( 1 7 )  

なったとの指摘がある︒その根拠とは︑預金契約が締結されたに過ぎない段階においては︑銀行は預金者が何人であ

るかにつき特別の利害関係を有するものではないから︑出捐者の利益保護の観点から︑特段の事情のない限り︑出捐

信託法一条によれば︑①﹁財産権ノ移転其ノ他ノ処分﹂すなわち︑財産権の処分と②﹁他人ヲシテ一定ノ目的二従

ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムル﹂すなわち︑当該財産について他人をして一定の目的に従って処分または管理を

させるという

2

つの要件を充せば信託は成立する︒信託が成立するためには︑必ずしも当事者が信託という表現を用

( 1 8 )  

いていなくともよいとされている︒

問題なのは︑要件②を充たすのは具体的には︑どういう場合かということである︒

信託の成立については︑当事者が信託という表現を用いなくともよいとしても︑﹁当事者が信託法の定める効果を

享受するという意思を有していない限り︑﹁信託契約﹂が成立したとは︑

2

信託設定意思

N

信託の成立可能性 者を預金者と認めるのが相当であることである︒ 関法

いえないのではないか︑そして信託法の定

1 0

 

(19)

る ︒ ﹂ める効果を享受するという意思はなかなか認定できないのではないか﹂という問題がある︒

米国では︑信託設定意思の問題として取り上げられているところで︑受託者に当たる人に対し︑当該財産を取り扱 うにあたり︑別の受益者の利益のために行動するエクイティ上の義務︵信認義務︶を課す意思が表示されていること が信託成立には必要になる︒すなわち︑受託者・受益者間に︑信認関係を作り上げるような意思表示が存在すること

( 2 0 )  

が要求される︒

一定の目的に従って財産の管理または処分をさせる義務を受託者に負わせると いうことは︑信託設定意思も当然に含まれていると考えるべきではないか︒

判例

1

も要件②のあてはめについてそう読むことができる︒

これに対して︑信託法 1

条の信託成立の要件に︑プラスアルファする︑要件を加重するような意味での信託設定意 思というのも考えられなくはない︒受益者が︑信託の効果を得ることについての明確な意思表示をするという意味で ある︒これに対しては︑﹁信託法とは︑受託者に課される義務の面からいえば︑受託者をして︑それに与えられた信 頼にこたえさせるべく︑また︑受託者が信託財産の名義を有していることによって生じやすい濫用から受益者を守る ペく︑受託者にさまざまな義務を課するための法律であり︑受益者に与えられる権利の面からいえば︑﹁信託とは︑

所有者ではない者に所有者と同様の物権的救済を認めるという法理であり︑信託はそれを可能にするための法律であ 一言でいえば︑受益者保護のための法律なのであり︑その効果を得ることについて明確な意図を有してなされ

( 2 1 )  

る法律行為に対してのみ適用されるものではない︒﹂という批判をなしうる︒

また︑信託法

1

条を素直に読めば︑上記の意味での信託設定意思は要求されないのは︑明白である︒少なくとも︑

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性

この信託設定意思をどう捉えるか︒

I 

0

1

︱ ︱

 

︵四

九一

︶

(20)

第 五 四 巻 三 号 合に︑要件の加重は必要ないということは言えると考える︒

︵ 四 九 ︱

‑ ︶ 要件を加重するということであれば︑それは信託の成立の幅を狭めるということであるが︑救済として信託を使う場 判例

1

では︑地方公共団体を委託者兼受益者︑前払金を信託財産とし︑これを当該工事の必要経費の支払いに充て

①の要件﹁財産権ノ移転其ノ他ノ処分﹂は︑地方公共団体から請負業者の別口普通預金口座へ前払金が振り込まれ

②の要件﹁他人ヲシテ一定ノ目的二従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムル﹂については︑どうか︒

最高裁の判断は︑

1

︑請負業者個人の財産とは分別管理され︑請負業者個人が自由に用いることができないような 仕組みの存在があり︑

2

︑請負業者︑地方公共団体間においてこの仕組みに従うことが合意内容になっていることを

( 2 2 )  

もって②の要件を充たすとしている︒

地方公共団体と請負業者との請負契約約款には︑前払金を工事の必要経費以外に支出してはならないことを定めて いるだけであった︒それだけでは︑前払金はまさに請負代金の支払いとなり︑請負業者の固有財産に帰属する︒しか しながら︑請負業者が前払金の支払いを受けるには︑保証事業法の規定する前払金返還債務の保証がされなければな らず︑前払金の保管方法︑管理・監在方法等については︑その前払金保証約款に定めがあり︑本件保証約款は当時の 建設省から各都道府県に通知されていた︒すなわち︑保証契約当事者である請負業者と保証事業会社だけではなく︑

ていることで︑充たしている︒

ることを目的とした信託契約が成立したものと解している︒

3

判例ーについて

関法

1 0

四

(21)

1 0

五

その保証約款の内容は地方公共団体も認識しているはずである︒最高裁は︑請負業者と地方公共団体が保証約款の定 めるところを︑合意内容としたうえで前払金の授受をしたことをもって②の要件を充たすとしている︒

また︑受託者破産時の処理については︑本件請負契約の解除︵請負業者の破産︶

がなくなったため︑信託目的の達成が不可能となり︑信託が終了する により︑工事が継続される見込み

終 r と同時に委託者である地方公共団体に本件預金債権が帰属し︑保証事業会社は︑保証債務を履行したことによっ

( 2 3 )  

て︑地方公共団体に法定代位し︑本件預金債権を取得するものと解されている︒

受益者は誰かという問題もある︒信託であることを明示していない︑当事者が意識していないこともあって︑誰が

第一に︑判例の採った注文者︵地方公共団体︶を受益者︵かつ委託者︶ と見る考えがある︒下請負業者や資材納人

業者への支払いによって工事がスムーズに進行し︑それによって発注者である地方公共団体が利益を受けるといえる︒

( 2 4 )  

第二に︑下請業者や資材納入業者を受益者とする裁羅信託の成立が考えられる︒これに対しては︑当事者の意識にそ

ぐわない︑これらの者に受益者としての権利・義務︵信託法二三条一項︑二七条︑二九条︑四

0

条二項︑四七条︑五

( 2 5 )  

八条等︶を認めるのが適切とは思われないので︑採用することができないとする批判がある︒

ニューヨーク州法をみると︑下請負業者や資材納入業者を受益者としている︒工事のために前払

いされた金銭が流用されることなく︑下請負業者や資材納入菓者への支払いに充てられることによって利益を受ける

判例

1

では︑注文者である地方公共団体が委託者兼受益者︑請負業者︵元請負人︶を受託者︑前払金を倍託財産︑

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性 のは第一に下請負業者や資材納人業者である︒

ア メ

リ カ

の 判

例 ︑

受益者か

︵ 誰

が 委

託 者

か ︶

ということが明確ではない︒

︵ 四 九 一

︱ ‑ ︶

︵信託法五六条︶︒信託法六二条により︑信託

(22)

いえるだろう︒ 判例

2

︑判例

3

について共通して言えることは︑預金債権が受任者帰属であると判断されたファクターは︑預金の 原資だけではなく︑預金開設者︑預金口座の名義人︑本件預金口座の通帳及び印鑑の保管者︑預金口座の管理者が受 これらのファクターに関しては、「(前略)預金名義が代理店であり、代理店が通帳•印鑑を保管していることは、

る保険会社が専用口座預金の引き出しについて指示することも信託であることを妨げない 代理店が財産権の名義人となっていることやその管理・処分権限が排他的であることをうかがわせる︒また委託者た

( 2 6 )  

︵ 引

用 略

︶ ︒

﹂ と

の 指

摘 と

付

合 す

る ︒

預金債権の帰属と信託の成立は委託者保護のための二者択一的な手段であると前述したが︑少なくとも専用口座が

受任者に帰属するという判断のファクターは︑同時に信託が成立するかどうかを判断するファクターでもありうると 任者︵保険代理店︑弁護士︶ 判例

4

2 ︑判例 3 について

前払金を公共工事の必要経費の支払いに充てることを信託目的とする信託契約が成立しているとしている︒前払金が 払い込まれた口座の預金債権の帰属が破産した請負業者にはなく︑注文者にあるという結論を導くために︑信託とい う構成を採用した︒信託の倒産隔離機能からすれば︑まさにこのような事例で信託を使うべきともいえる︒

しかし︑本判決の結論で重要なのは委託者が注文者である地方公共団体であり︑受託者が元請負人であるというこ とである︒受益者が必ずしも注文者でなければならない必然性はない︒

関法

第五四巻三号

であるということであった︒

1 0

六

︵ 四 九 四

︶

(23)

‑ 0

七

それでは判例

2

の事案において︑損害保険代理店を受託者とする信託の成立を認めることができるか︒

これは委託者が誰かということにも関連する︒第一に︑保険会社を委託者とすると︑出捐しているのは保険契約者 なので︑財産の処分がなく︑要件①を充たさないのではないかとの疑問がある︒保険契約者は金銭を支払えば︑それ で保険会社に支払ったことになるのであり︑あとはまさに保険会社と代理店の内部関係ということになろうか︒それ

( 2 7 )  

これに対しては︑代理店が保険料を受領することは保険料債権の管理・処分にあたると考える説がある︒

第二に︑保険契約者を委託者とすると︑要件②を充たさないのではないか︒保険契約者は保険料を支払えばそれで

( 2 8 )  

保険の保護を受けるのだから︑利害関係がないからである︒

一定の計画に従い︑同種の行為を反復継続して行う﹂こととされる が︑信託業となるか否かはこれに当てはまるかどうかということになる︒そうなると︑形式的には当てはまりそうで あるが︑信託法で念頭に置かれている信託業は︑投資により財産の運用を行うものであって︑投資

I I

運用をともなわ

ない︑単なる財産の預かり・移転は﹁信託﹂であるが︑その営業は﹁信託業﹂には該当しないと見ることも不可能で

( 3 1 )  

はないと指摘されている︒信託銀行の積極的な投資とは区別して考えるべきであろう︒

判例

3

の事案では︑債務整理のために︑依頼人の債権者に対して公平に金銭を分配するためのものであったところ︑

依頼人の債権者が差押をするのは︑

いわば抜け駆け的な債権回収ともいえる︒これを依頼者の預金債権として︑差押

他人のために金銭を保管すべぎ者が自己名義で預金をした場合における信託成立の可能性

﹁業とする﹂とは﹁利益を得る目的をもって︑

︵ 四 九 五

︶

( 2

9 )  

判例

3

については︑特に救済手段としてではなく︑真正面から信託と認めた場合に︑信託業法一条に反しないかが

( 3 0 )  

題 問

と な

る ︒

は

Y

信用組合に対しても同様である︒

(24)

の と

い え

る ︒

できるか否かではないかと考える︒ て保管されているということは︑委託者である 信託にとっては︑倍託財産の特定性を確保することが︑本質的な要請に属することになる︒分別管理義務は︑まずこ じめ放棄することは︑その法律関係を信託関係てはなく︑たんなる債権関係とすることにほかならない︒したがって︑ ゆる﹁信託財産の独立性﹂の効果も︑この信託財産の特定性を前提にして初めて認められる︒目的物の特定をあらか

B

地方公共団体が︑第三者に対しても︑本件預金が信託財産であるこ

5 

第五四巻三号 えを認めることは︑実質的に考えて問題があるように思われる︒

さらに信託を認めることによって受託者である弁護士に公平義務が課されるという利点がある︒

信託財産の特定性と専用口座

四 宮

﹃ 信

託 法

︹ 新

版 ︺

﹄ ニ

︱

1 0

頁によると︑﹁信託関係が成立するためには︑信託財産の特定性が必要である︒いわ また︑判例

1

では︑本件預金は登記︑登録の方法がないから︑

A

建設の一般財産から分別管理され︑特定性をもっ

( 3 2 )  

金銭の交付があれば︑財産権の移転があると判断されるか否かを問題とする考えがあるが︑思うに︑信託では︑受 託者に財産の所有権を取得させることこそが重要なのであり︑問題は︑金銭の交付によって信託財産の特定性を確保

単に現金を預かるのではなくて︑専用口座に預金を分別管理しているというのは︑まさに信託の特定性に資するも とを対抗することができる

関法

︵ 信

託 法

三 条

一 項

参 照

︶

の目的に使えるのである︒﹂とある︒

と し

て い

る ︒

10 八

︵ 四 九 六

︶

(25)

他人のために金銭を保管すべき者が自己名義て預金をした場合における信託成立の可能性

1 0

九

( 1 3 )

道垣内弘人﹁最近信託法判例批評︵9

.完

︶﹂ 金法 一六

0

0

号八四頁では︑﹁預金されている金銭について︑委任者の利益

を保護するためには︑委任者が預金債権者であると認めることと︑預金債権を信託財産であると認めることとは一︱者択一的

なもの﹂であるとする︒

( 1 4 )

最判昭和三︱一年︱二月一九日民集︱一巻一三号ニニ七八頁︑最判昭和一二五年三月八日裁判集民事四

0

号一七七頁︑最判昭

和四八年三月二七日民集二七巻二号三七六頁︑最判昭和五二年八月九日民集三一巻四号七四二頁︑最判昭和五七年三月三〇

日金法九九二号三八頁

( 1 5 )

森 田 宏 樹

﹁ 振 込 取 引 の 法 的 構 造

﹁ 誤 振 込

﹂ 事 例 の 再 検 討

﹂ 中 田 裕 康 ほ か 編

﹃ 金 融 取 引 と 民 法 法 理

﹄ 一 三 九 頁

︵ 有

斐閣︑二

0

0 0

)

﹁このように︑普通預金や当座預金などの流動性のある決済性預金ては︑個々の預入金ごとにその出捐者

が預金者てあるという客観説の論理はうまく妥当せず︑つねに一個の預金債権が全体として誰に帰属するのかが問題となる

だけてある︒そして預金債権の帰属先は︑通常は︑預金口座の開設時にける預金名義人であろう︒﹂

(16) 森田宏樹•前掲注 (15) 一三九頁

( 1 7 )

渡辺博已﹁専用普通預金口座の預金者と預金者破綻時の預金の帰属﹂金法一六九

0

号六 九頁 (︱

1 0

0

三 ︶

( 1 8 )

最三小判昭和一九年︱一月二六日︒大村敦志﹁遺言の解釈と信託信託法二条の適用をめぐって﹂財産法人トラスト60

﹃実定信託法研究ノート﹂三七頁(‑九九六︶

( 1 9 )

道垣内弘人﹁最近信託法判例批評

( 8

)

﹂金法一五九八号四六頁︵二

0 0

0 )

( 2 0 )

樋口範雄﹃アメリカ信託法ノートI﹂

1 1

0

頁︵弘文堂︑︱

1 0

0 0

)

(21) 道垣内•前掲注 (19) 四六頁

( 2 2 )

角紀代恵﹁判批﹂金法一六八四号九頁(︱

1 0

0

三 ︶

(23) 道垣内•前掲注 (19) 四五頁、金法一六四五号五四頁 (24) 道垣内•前掲注 (19) 四二頁

( 2 5 )

宮川不可止﹁公共工事の前払金保証制度における前払金専用

D

座の法的性格

I

│

│請負者の破産と侶託法理の適用可能性に

つ い て

﹂ 金 法 一 六 二 七 号 四 八 頁 (

︱

1 0

0

I )  

( 2 6 )

弥永貞生﹁取戻権の対象代理店が収受した保険料が専用口座に保管された場合の預金債権﹂ジュリ九九五号一

︵四

九七

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