規制を介した相互連関性
著者 中井 教雄
雑誌名 社会科学
巻 45
号 4
ページ 105‑126
発行年 2016‑02‑29
権利 同志社大学人文科学研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014376
企業の会計政策と銀行の貸出行動
─ 自己資本比率規制を介した相互連関性 ─
中 井 教 雄
本稿の目的は,企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との相互連関性について理 論的な分析を行うことである。また,企業の経営者がこの相互連関性を考慮して会計 報告を行う場合,新規プロジェクトの資金調達を行う上で,既存プロジェクトの会計 報告における利益平準化が重要な役割を果たすことを明らかにする。
本稿の主な結果は,以下の 3 点である。第 1 に,企業には,安定した資金を確保す るために利益平準化を行うインセンティブが作用する。第 2 に,銀行の自己資本比率 規制は,このインセンティブを増大させる要因となり得る。最後に,企業の経営者が この相互連関性を考慮して会計報告を行う場合,将来に新規プロジェクトの資金調達 を行う上で,現時点での既存プロジェクトの会計報告における最適な利益平準化水準 が存在する。
これらの結果は,IFRSの導入等に代表される会計制度の変更が,企業の財務情報だ けでなく,銀行の貸出行動にも影響を及ぼすことを示唆している。
(キーワード)
会計政策,利益平準化,銀行貸出,自己資本比率規制
1 はじめに
損益計算書および貸借対照表に代表される財務諸表は,元来,企業の期間利益や財務 状況を正確に開示することにより,企業とステークホルダーとの間における情報の非対 称性を緩和させる 1 つの重要なツールである。しかし,これら 2 つの財務諸表を作成す る上で,常に経営者による会計処理の裁量性が存在する。例えば,最終利益は会計基準 上操作可能性の余地があり,収入と費用の計上時期を調整することにより,当期純利益 を経営者の意図する水準にまで(ある程度ではあるが)近づけることができる。
このような会計処理の操作は「利益操作」と呼ばれ,森(1999)によると,その操作 は 3 つの種類(利益捻出型利益操作,利益平準型利益操作および利益圧縮型利益操作)に
分類される1)。また,利益操作はしばしば粉飾決算と混同される傾向があるが,次の点に おいて異なる2)。まず,本稿が焦点を当てる利益平準化も含まれる利益操作は,あくまで も認められた複数の会計基準の中から経営者にとって最適な会計処理方法を採用し,目 標とする利益水準に報告利益を近づける会計処理である。それに対し,粉飾決算は,財 務諸表の基となる会計書類(例えば,伝票,領収書あるいは契約書・権利書など)その ものを改ざんもしくは隠匿することにより,会計情報を不正に操作し企業の財務実態を 反映しない数値にする行為である。よって,利益操作と呼ばれる一種の会計政策は,粉 飾決算とは大別され,法的に罰則が科されない会計処理であると言える3)。
その中で,利益平準化については,次のような会計処理を指す。当期純利益が高収益 であった場合,未実現利益(未収利益)があるならば,売掛金を計上せず,次期に実現 利益として計上することによって,最終利益を平準化することができる。また,当期純 利益が高収益であった場合でも,未実現利益がないならば,例として減価償却を定率法 にすることによって,最終利益を平準化することができる。それに対し,当期利益が(軽 微の)赤字であった場合,未実現利益を可能な限り計上したり,減価償却法を定額法に したりすることによって,最終利益を黒字化することができる4)。この点において,企業 による利益平準化行動では,保守的な会計政策が採用されていると言える5)。
このような企業による利益平準化行動は,市場を通じた投資家による当該企業の評価 および銀行による当該企業への貸出に大きな影響を及ぼす。後述のように,企業の利益 平準化行動による市場あるいは企業価値への影響については多くの既往研究が存在して いるが,利益平準化行動による銀行の貸出行動に対する影響については,殆ど検証され ていない。
そこで,本稿では,企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との相互連関性について 理論分析を行う。この理論分析により,企業(の経営者)が将来の新規プロジェクトを 実行する際に自身の効用を最大化しようとする場合,現在実行中の既存のプロジェクト において利益平準化を行うインセンティブが生じることを明らかにする。また,銀行の 自己資本比率規制がこのような企業の経営者のインセンティブを増大させることを示 す。
本稿は,以下のように構成される。次節では,先行研究と本稿の関係について述べる。
第 3 節では,モデルのセット・アップを行い,既存のプロジェクトを実施している期間 において,企業が当期純利益を平準化した場合に,銀行の貸出行動がどのような影響を 受けるのかについて分析する。また,銀行の自己資本比率規制が先の影響にどのような
変化をもたらすのかについて分析を行う。第 4 節では,第 3 節で導出したモデルに基づ き,企業が新規プロジェクトの資金調達を行う際,既存プロジェクトの会計報告におい て最適な利益平準化水準で利益平準化を行うことを理論的に明らかにする。最後に,本 稿で得られたインプリケーションおよび今後の課題について述べる。
2 先行研究と本稿の位置付け
まず,企業の利益平準化行動が財務状況に与える影響に関する既存研究を整理する。
Lev and Kunitzky(1974)は,6 種類の会計変数(売上高,配当,資本支出,利益,流 動比率および資本構成)に関する平準度等を説明変数とし,市場モデルによって導出さ れた市場ベータを被説明変数とする重回帰分析を行い,各変数の平準度が市場ベータと 統計的に有意な関係を持つことを示している。この結果は,利益平準化により資本コス トが低下することを示唆している。
また,野間(2001)は,デリバティブと裁量的会計発生高を利用した企業の利益平準 化行動と資本コストの関係について実証分析を行っている。その結果,投資家およびア ナリストがキャッシュフローの平準化と会計発生高の平準化を区別しているため,企業 の資本コストの低下に有効なのはキャッシュフローの平準化のみであるということが明 らかにされている。
一方,八重倉(2000)は,配当割引モデルに基づいた 3 つの企業評価モデルから,株 主価値最大化にとって最適な業績評価指標の探索を試みている。この検証により,キャッ シュフローに基づいた業績指標よりも残余利益に基づいた業績指標の方が,企業業績を 評価する上で相対的に有効であることが示されている。
さらに,薄井(2004)は,株主資本の市場価値と会計上の簿価評価との乖離要因から 保守的な会計測定の経済的機能について分析している。その結果,株主と債権者間にお ける利益相反が大きいほど,保守的な会計基準を採用する傾向にあることを明らかにし ている。また,この分析結果を踏まえ,保守的な会計測定が,経営者と株主との利害調 整において重要な役割を果たすことを示している。
次に,企業の会計情報が資本構成に及ぼす影響に関する既往研究をまとめる。Liang and Zhang(2006)は,収益および費用を認識・測定する会計ルールが企業の最適資本構 成に与える影響について検証している。この分析により,(企業が有する私的情報に関連 する)固有不確実性が存在する場合において,公正価値会計よりも柔軟な発生主義会計
を採用した方が望ましい資本構成に達するということが明らかにされている。
また,大日方(2013)は,簡潔な理論モデルを用いて,資産の公正価値評価が景気変 動増幅効果(本稿ではプロシクリカリティ効果)に与える影響について分析している6)。 その結果,公正価値評価の導入により,自己資本比率が歴史的原価会計で計算された値 よりも変動が大きくなるということが示されている。
最後に,会計政策と企業の投資行動および企業価値との関係性について検証している 文献として,以下の既往論文がある。中野・大坪・高須(2014)は,2 種類の会計上の保 守主義(条件付保守主義および無条件保守主義)による企業の投資水準,リスクテイク および株主価値に対する影響について分析を行っている。その結果,無条件保守主義の 程度が高いほど,経営者のリスクテイク能力が高まることにより,ハイリスクな投資プ ロジェクトが採用される傾向があることを示している7)。
また,浅野・古市(2014)は,会計処理に関して経営者に一定の裁量が存在する場合 における会計戦略と企業価値および企業のガバナンス構造との関係性について考察して いる。その結果,企業価値が会計戦略の選択に依存する場合,利益平準化行動や保守主 義の採用により企業価値が向上する一方で,会計基準等によって企業の会計処理の裁量 余地を狭める方が望ましいケースも存在するということを推論している。
これらの先行研究を踏まえると,以下の点が述べられる。まず,既往研究では,企業 による会計政策および利益平準化行動が企業の投資行動や企業価値に及ぼす影響につい て理論・実証分析が行われている。しかし,そのような企業の会計政策(もしくは財務 戦略)が債権者(特に銀行)に及ぼす影響についてまで分析している文献は数少ない。ま た,企業による利益平準化行動について既存の投資プロジェクトと新規のプロジェクト に区分して分析している研究も殆ど存在しない。
そこで,本稿では,企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との相互連関性について 理論分析を行う。この分析により,銀行が企業のプロジェクトに関してどのような評価 を行う場合に企業に利益平準化を行うインセンティブが生じるのかを明確にする。また,
銀行の自己資本比率規制が,企業による利益平準化行動を行う余地を拡大させる要因と なり得ることを明らかにする。
3 利益平準化行動と銀行貸出の理論的関係
3.1 モデルのセット・アップ
本稿で用いるモデルでは,Liang and Zhang(2006)のモデルをベースとしているが,
以下の 2 点についてモデルの設定を変えている。第 1 に,企業の利益平準化行動をより 明確にするために,本モデルではT1, T2,…, T5 の 5 期間モデルを採用する。また,本モデ ルでは各期間における企業および銀行の相互作用に着目するため,各期間を期首および 期末に区分している。すなわち,Tn 期の期首および期末をそれぞれtn−1およびtnとして いる。第 2 に,企業―銀行間のリレーションシップに着目するため,本モデルでは銀行 行動についても明示的に扱う。
本モデルにおける経済には,共にリスク中立的な利潤最大化のエージェントである企 業および銀行が存在する。図 1 は,本モデルのタイミングを示している。
まず,t0 期において,企業は,T1 期に実施するプロジェクトに投資するために,借入
(L1)を行う。このプロジェクトは,t0 期において期待収益率(x)が見込まれている。ま た,この借入における借入利子率をr1 とし,その他の(固定費および変動費の両方を含 む)経営総費用をq2L21とする。すなわち,このプロジェクトは,規模に対して収益低減で ある8)。以上により,企業の利潤関数(πF1 )は,(1)式のように表される。
πF1=xL1−r1L1−q2L21 (1)
よって,企業の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる9)。
∂πF1
∂L1=x−r1−qL1=0 (2)
一方,銀行は,今期に預金(D1)および株式資本(E1)を調達することにより,貸出
(L1)を行う。その際の貸出利子率はr1であり,貸出の営業費用をc2L21とする。また,モ デルを単純化するために,預金利子率を 0 とし,株式の資本コストをrEとする10)。すな わち,銀行の利潤関数(πB1)は,(3)式のように表される。
πB1=r1L1−rEE1−q2L21 (3)
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㛫
図 1 モデルのタイミング
また,銀行は次式のように表される自己資本比率規制の制約を受ける。ここで,μはリ スクウェイトであり,ϕは最低所要自己資本比率である11)。
E1
μ1L1
侒ϕ (4)
ゆえに,銀行の利潤最大化の最適化問題は,以下のようになる12)。
max r1L1−rEE1−c2L12
L1
s.t. L1=D1+E1and E1
μ1L1
侒ϕ
以上により,銀行の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる13)。
∂πB1
∂L1=r1−rEϕμ1−cL1=0 (5)
これまで,企業の生産活動および銀行の貸出行動についてモデル化を行った。よって,
(2)式および(5)式により,t0 期の貸出契約における均衡貸出量(L*1)および均衡貸出 利子率(r*1)は,それぞれ以下のように導出される。
L*1=x−rEϕμ1
c+q (6)
r*1=cx+qrEϕμ1
c+q (7)
次に,t1 期において,T1 期における企業の実際の収益率が明らかになる。t1 期では,
企業の実際の収益率が期待収益率(x)と一致しているものとする。その結果,銀行は金 利収入を獲得し,t0期と同じ融資条件が継続され,T2期における既存プロジェクトが実施 される。ゆえに,T2期における均衡貸出量(L*2)および均衡貸出利子率(r*2)は,それぞ れ以下のようになる14)。
L*2=L*1=x−rEϕμ1
c+q (8)
r*2=r*1=cx+qrEϕμ1
c+q (9)
同様に,t2期において,T2期における企業の実際の収益率が明らかになる。しかし,t2
期では,企業の実際の収益率が期待収益率(x)よりもy(>0)高いものとする。このと き,企業は,実際の収益率と期待収益率の乖離yが一時的なものであることを認識して おり,より多くの借入を行うことによる利潤最大化行動と通時的な利益平準化のトレー ドオフに直面する。
その際,企業は超過収益率yを全額計上せず,一部を翌期に計上する利益平準化を実 施する。このような利益平準化の会計政策を採用することにより,t3期において会計報告 として計上される企業の利潤は,x+(1−θ)yとなる。ここで,θは,今期に計上せず翌期 に計上する超過収益率の割合である15)。その結果,企業は利潤最大化行動を通じて相対 的に少ない借入を行う。
ゆえに,ここでの企業の利潤関数(πF3)は,以下のように表される。
πF3={x+(1−θ)y}L3−r3L3−q2L32 (10)
よって,企業の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる16)。
∂πF3
∂L3=x+(1−θ)y−r3−qL3=0 (11)
一方,銀行行動においては,リスクマネジメント行動が企業の収益率の変化による影 響を受けるケースとそうでないケースが存在する17)。まず,バーゼルⅠ・BIS規制下に おいて,企業への貸出に対するリスクウェイトは 100%として一定である。従って,企業 の収益率が変化しても銀行のリスクマネジメント行動は影響を受けない。しかし,バー ゼルⅡ・BIS規制下においては,当該リスクウェイトは貸出先企業のリスクに応じて変 化する。これは,銀行が内部格付モデル(基礎的内部格付手法または先進的内部格付手 法)を採用するためである18)。そのため,銀行のリスクマネジメント行動は企業の収益 率の変化による影響を受けることになる。
このとき,銀行は企業による利益平準化の有無を認識することができないものと仮定 する。この点において,企業と銀行との間に情報の非対称性が存在すると言える。すな わち,銀行は,利益平準化後の最終利益を実際の当期利益として認識する。ゆえに,バー
ゼルⅡ・BIS規制下において銀行が設定するリスクウェイトは,利益平準化後の最終利 益に基づいて計算されることになる。
これらの影響の受け方の違いが貸出量や貸出利子率等にどのような影響を受けるのか については,次節で述べる。ここでは,t2期における均衡貸出量および均衡貸出利子率を 導出する。
まず,ここでの銀行行動は前述のモデルと本質的には同じであるので,t2期の期首にお ける銀行の利潤最大化の 1 階条件は,(5)式を踏まえると次式のようになる19)。
∂πB3
∂L3=r3−rEϕμ3−cL3=0 (12)
また,(11)式および(12)式により,T3 期における均衡貸出量(L*3)および均衡貸出 利子率(r*3)は,それぞれ以下のようになる。
L*3=x+(1−θ)y−rEϕμ3
c+q (13)
r*3={x+(1−θ)c y}+qrEϕμ3
c+q (14)
同様に,t3期において,t3期における企業の実際の収益率が明らかになる。t3期では,
企業の実際の収益率が当初の期待収益率(x)よりもy(>0)低いものとする。このとき,
企業は,t2期に繰り越した部分の超過収益率をt3期に計上するので,この期の最終利益 は,x−(1−θ)yとなる。その結果,企業は利潤最大化行動を通じて相対的に多くの借入 を行う。ゆえに,ここでの企業の利潤関数(πF4)は,以下のように表される。
πF4={x−(1−θ)y}L4−r4L4−q2L24 (15)
よって,企業の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる20)。
∂πF4
∂L4=x−(1−θ)y−r4−qL4=0 (16)
また,銀行行動においても前期と同様になる。すなわち,t3期の期首における銀行の利 潤最大化の 1 階条件は,(5)式を踏まえると次式のようになる21)。
∂πB4
∂L4=r4−rEϕμ4−cL4=0 (17)
ゆえに,(16)式および(17)式により,T4 期における均衡貸出量(L*4)および均衡貸 出利子率(r*4)は,それぞれ以下のように導き出される。
L*4 =x−(1−θ)y−rEϕμ4
c+q (18)
r*4 = {x−(1−θ)c y}+qrEϕμ4
c+q (19)
次に,t4期において,T4期における企業の実際の収益率が明らかになる。t4期では,企 業の実際の収益率が最初の期待収益率(x)に回帰しているものとする。このとき,企業 には利益平準化の余地はなく,企業の生産活動および銀行の貸出行動はt1期と同様にな る。
よって,T5 期における均衡貸出量(L*5)および均衡貸出利子率(r*5)は,それぞれ以 下のように表される22)。
L*5=L*1=x−rEϕμ1
c+q (20)
r*5=r*1=cx+qrEϕμ1
c+q (21)
ただし,T5期において,本モデルでは後述の新規プロジェクトに焦点を当てるため,T5
期における既存プロジェクトの資金需給については,以降の考察に含めないことにする。
ここまで,T1期からT4期における企業の資金需要および銀行の資金供給についてモデ ル化を行った。このような期間を通じた収益率の変動およびその結果としての借入額の 変動は,企業の経営者にとって完全予見であり,銀行からは観察不可能な情報であると 仮定する。すなわち,この点においても企業と銀行との間に情報の非対称性が存在する ことになる。
ここで,企業の利益平準化行動のメカニズムについて詳細に考察する。企業は,借入 可能資金の変動を資金調達リスクと見做す傾向がある。これは,借入可能資金が大きく 変動すると,実行可能な投資プロジェクトの規模も大きく変動し,結果として利益の変 動も増幅するためである。よって,本モデルにおいて,企業(の経営者)は,借入量(銀
行にとっては貸出量)のリスク(標準偏差)の最小化を図るものとする。
T1期からT4期における貸出量のリスク(標準偏差)をσ L*1→4とすると,以下のように計 算される。
σ L*1→4= rEϕ
4(c+q) 4μ21+3μ22+3μ32−4μ(μ1 2+μ3)−2μ2μ3
+ 1
2(c+q) 4(1−θ)2y2+(1−θ)y(μ2+μ3) (22)
where if regulation type is Basel II,
μ1=μ2=μ(x), μ3=μ(x+(1−θ)y)and μ4=μ(x−(1−θ)y)
上式より,θ=1 のとき,μ1=μ2=μ3=μ4となるため,σ L*1→4=0 となる。ゆえに,完全な 利益平準化が行われる場合,貸出量のリスクすなわち企業の資金調達リスクは消失する。
よって,企業は利益平準化を行うことにより,資金調達リスクを低減させることができ る。
3.2 自己資本比率規制を通じた企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との関係性
本節では,3.1 節の考察を踏まえ,T5期について考える。T4期において,企業は,(20)
式および(21)式に示される融資契約により既存プロジェクトを実行すると同時に,期 待収益率がAの新規プロジェクトに直面する。ここでは,この新規プロジェクトへの投 資に焦点を当てる。
企業は,この新規プロジェクトに投資するために,借入(LA)を行う。この借入にお ける借入利子率はrAである。このプロジェクトは,t5期において確率pで成功し収益率 がAHとなる。このとき,収益率AHは借入利子率よりも高く,企業に正の利潤をもたら す。一方,このプロジェクトは,t5期において確率 1−pで失敗し収益率がALとなる(AH
>1>AL)。このとき,収益率ALは借入利子率よりも低いため,銀行への返済額はALLA
となる23)。すなわち,銀行は企業から担保を没収することにより,ALLAの資金を回収す ることができるが,(1−AL)LAの貸倒損失を被ることになる。
これらの特性により,新規プロジェクトの期待収益率は,次式のようになる。
㲋────────────────
㲋────────────────
A=pAH+(1−p)AL (23)
また,その他の(固定費および変動費の両方を含む)経営総費用をq2LA2とする24)。すな わち,このプロジェクトは,規模に対して収益低減である25)。すなわち,企業の利潤関 数(πAF)は,次式のように表される。
πAF=p(AHLA−rALA)+(1−p)(ALLA−ALLA)−q2LA2 (24)
よって,企業の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる26)。
∂πAF
∂LA=p(AH−rA)−qLA=0 (25)
一方,銀行は,今期に預金(DA)および株式資本(EA)を調達することにより,貸出
(LA)を行う。その際の貸出利子率はrAであり,貸出の営業費用をc2LA2とする27)。その他 の条件については,上述の新規プロジェクトの特性を踏襲する。ゆえに,銀行の利潤関 数(πBA)は,以下のように表される。
πBA=prALA+(1−p)(AL−1)LA−rEEA−q2LA2 (26)
また,銀行は以前と同様に,次式のように示される自己資本比率規制の制約を受ける。
ここで,μAは新規プロジェクトに対するリスクウェイトである。
EA
μALA
侒ϕ (27)
ゆえに,この期における銀行の利潤最大化の最適化問題は,以下のようになる。
max prALA+(1−p)(AL−1)LA−rEEA−q2LA2
s.t. LA=DA+EA and EA
μALA
侒ϕ
以上により,銀行の利潤最大化の 1 階条件は,次式のようになる28)。 LA
∂πBA
∂ALA=prA+(1−p)(AL−1)−rEϕμA−cLA=0 (28)
上述した企業の資金需要と銀行の資金供給から新規プロジェクトに対する資金需給の 均衡を導き出すことができる。(25)式および(28)式により,T5期における新規プロ ジェクトに対する均衡貸出量(LA*)および均衡貸出利子率(rA*)は,それぞれ以下のよ うに導出される。
LA*=pAH+(1−p)(AL−1)−rEϕμA
c+q (29)
rA*= cpAH−q(1−p)(AL−1)+qrEϕμA
p(c+q) (30)
ここで,新規プロジェクトに対するリスクウェイトの設定方法について 2 種類の考え 方が存在する。1 つは,内部格付けモデル等を利用することにより,貸出先企業の過去の 財務データに基づいて新規プロジェクトのリスクウェイトを設定する方法である。いま 1 つは,シミュレーション分析等により,新規プロジェクトの将来リスクに基づいてリス クウェイトを設定する方法である。ここでは,銀行によるリスクウェイトの設定方法の 違いが,企業の利益平準化行動および銀行貸出行動にどのような影響を与えるのかにつ いて検証する。
まず,銀行が内部格付けモデルにより,貸出先企業の過去の財務データに基づいて新 規プロジェクトのリスクウェイトを設定するケースについて考える。この場合,リスク ウェイト(μA)は既存のプロジェクトのリスク(本モデルではT1期からT4期までの収益 率の標準偏差)に基づいて決定される。すなわち,このケースにおける新規プロジェク トのリスクウェイト(μHA)は,次式のように表される。
μHA=μHA
(
(1−θ)㲋─2 y)
(31)このとき,新規プロジェクトの収益性を示す 3 つのパラメータ(p,AHおよびAL)に よる貸出量への影響について,以下のように比較静学分析の結果が得られる。
∂L*A
∂p=AH−AL+1
c+q >0 (32)
∂LA*
∂AH= p
c+q>0 (33)
∂LA*
∂AL=1−p
c+q>0 (34)
このように,銀行が内部格付けモデルにより,貸出先企業の過去の財務データに基づ いて新規プロジェクトのリスクウェイトを設定する場合,均衡貸出量は,新規プロジェ クトの特性を起因とした自己資本比率規制による影響を受けない。換言すれば,このケー スにおける均衡貸出量は,既存プロジェクトの特性を起因とした自己資本比率規制によ る影響を受けることになる。この点については,次節で検証を行う。
次に,銀行がシミュレーション分析等により,新規プロジェクトの将来リスクに基づ いてリスクウェイトを設定するケースについて考える。この場合,リスクウェイト(μA) は新規プロジェクトのリスク(本モデルでは新規プロジェクトの収益率の標準偏差)に 基づいて決定される。すなわち,このケースにおける新規プロジェクトのリスクウェイ ト(μSA)は,以下のようになる。
μSA=μ
(
SA p(1−p)(AH−AL+1))
(35)これら 2 つの特性の違いについて検証するために,新規プロジェクトの収益性を示す 3 つのパラメータ(p,AHおよびAL)による貸出量への影響について比較静学分析を行う。
このとき,(29)式における各偏微係数は,次の通りである29)。
∂LA*
∂p =
AH−AL+1−rEϕ ∂μSA
∂p
c+q >0 (36)
∂LA*
∂AH=
p−rEϕ ∂uSA
∂AH
c+q >0 (37)
∂LA*
∂AL=
1−p−rEϕ ∂uSA
∂AL
c+q >0 (38)
このように,銀行がシミュレーション分析等により,新規プロジェクトの将来リスク に基づいてリスクウェイトを設定する場合,均衡貸出量は,既存プロジェクトの特性を
㲋────
起因とした自己資本比率規制による影響を受けない一方で,新規プロジェクトの特性を 起因とした自己資本比率規制による影響を受ける。すなわち,(36)式から(38)式より,
新規プロジェクトの収益性を示す 3 つのパラメータ(p,AHおよびAL)による貸出量へ の影響については,各式右辺分子の最終項の分だけ,前者のケースよりも変動が大きく なる。これは,自己資本比率規制によるプロシクリカリティ問題として取り挙げられて いる30)。
これら 2 つのケースにおいて問題となるのは,銀行がどちらのリスクウェイト設定方 法を採用するのかという点である。銀行が内部格付けモデルにより,貸出先企業の過去 の財務データに基づいて新規プロジェクトのリスクウェイトを設定する場合,企業の経 営者は,将来実行する新規プロジェクトの資金調達リスクを低減させるために,既存の プロジェクトにおいて,利益平準化を行うインセンティブを有する。その 1 つの理由と して,利益平準化前では,企業の利潤が大きく変動するため,資金供給主体(本モデル では銀行)にとってハイリスク・ハイリターン型の融資となり,企業の資金調達コスト は高くなることが挙げられる。また別の理由として,その一方で,利益平準化後におい ては,企業の利潤がそれほど変動しないため,資金供給主体(本モデルでは銀行)にとっ てローリスク・ローリターン型の融資となり,企業の資金調達コストが低くなることが 挙げられる。
一方,銀行がシミュレーション分析等により,新規プロジェクトの将来リスクに基づ いてリスクウェイトを設定する場合,銀行は当該プロジェクトそれ自体の(収益性など の)特性のみを考慮して融資条件を決定する。そのため,企業の経営者にとって,既存 のプロジェクトにおいて,利益平準化を行うインセンティブは作用しないと考えられる。
次節では,本節で導出したモデルを基づき,企業(の経営者)にとって最適な利益平 準化水準が存在することを理論的に明らかにする。
4 企業の最適な利益平準化行動
前節では,企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との相互連関性について理論分析 を行い,銀行によるリスクウェイトの設定方法が企業財務のヒストリカルデータに基づ いて設定される場合,企業の経営者にとって利益平準化を行う余地が生じることを明ら かにした。ここでは,企業(の経営者)にとって実際に利益平準化を行うインセンティ ブが生じる条件を理論的に明らかにする。
銀行は,企業の新規プロジェクトに対して,既存プロジェクトの実績(すなわち企業 財務のヒストリカルデータ)と新規プロジェクトの収益性(すなわち,プロジェクトの 成功確率(p),成功した際の収益率(AH)および失敗した際の収益率(AL)の両方から 全体的にリスクを評価する。このとき,(29)式で示された均衡貸出量は,以下のように 変形される。ここで,β(0 ≤ β ≤ 1)は,銀行が企業財務のヒストリカルデータに基づい て設定するリスクウェイトの割合である。
LA*= pAH+(1−p)(AL−1)−rEϕ{βμHA+(1−β)μSA}
c+q (39)
また,企業の経営者は,将来の新規プロジェクトに対する資金調達リスクを低減させ るために,現在の投資プロジェクトにおける通時的な利潤を平準化する。本モデルにお いては,t1期からt4期までの収益率がこれに該当する。その一方で,毎期の決算におい て,既存のプロジェクトに対して過剰に利益平準化を行うと,会計情報の信憑性が毀損 するため,企業の経営者はマイナスの評価を受ける。その結果,企業の経営者は,期間 ごとの業績を向上させるために可能な限り多くの資金を借り入れることによりプロジェ クトの規模を拡大させると同時に,通時的な利潤を平準化するために当該期間の資金調 達量を平準化するという 2 つの目的を有する。
本モデルでは,t5期において,企業の経営者がこれら 2 つの目的を達成する上で,次式 のように表される効用関数を有するものと仮定する。ここで,α(0 ≤ α ≤ 1)は新規プロ ジェクトに対する評価ウェイトである。
U(θ)=αL*A+(1−α)σL*1→4 (40)
換言すれば,上式は,新規プロジェクトへの投資資金を増やすと評価が高まる一方で,
既存プロジェクトに対して利益平準化を行うと評価が低下するという企業の経営者にお ける評価関数を表している。
ゆえに,経営者の効用最大化の最適化問題は,以下のようになる。
max aL*A+(1+a)σL*1→4
θ
s.t. (22),(31),(35) and (39)
以上により,経営者の効用最大化の 1 階条件は,次式のようになる31)。
−αβrEϕ c+q
∂uHA
∂θ −(1−α)rEϕ 4(c+q) Ω㲋─1 ∂u2
∂θ(3μ2+2μ1+μ3)+∂u3
∂θ(3μ3+2μ1−μ2) −
(1−α)rE ϕ
4(c+q) Ω㲋─2 (1−θ)(∂u2
∂θ −∂u3
∂θ −8y)−(μ2−μ3) =0 (41)
where
Ω1≡ rE ϕ
4(c+q) 4μ21+3μ22+3μ23−4μ(μ1 2+μ3)−2μ2μ3
and
Ω2≡ 1
2(c+q) 4(1−θ)2y2+(1−θ)y(μ2−μ3)
ここで,この 1 階条件を満たすθを最適利益平準化水準(θ*)とする。上記の最適化問 題の解法により,以下の命題が得られる。
命題.
企業の経営者は,新規プロジェクトへの投資資金からの評価と,既存プロジェクトに 対して利益平準化による評価の両方に直面する場合,自身の評価を最大化する最適利益 平準化水準(θ*)を設定することにより,期間を通じて既存プロジェクトの利益平準化を 行う。
このとき,αおよびβの値が小さくなるにつれて最適利益平準化水準(θ*)は上昇する。
αの値が大きいということは,企業の経営者が,新規プロジェクトよりも既存のプロジェ クトの評価を重視することを表している。また,βの値が大きいということは,銀行が新 規プロジェクトのリスクウェイトを設定する際,企業財務の時系列データを重視するこ とを表している。特に,後者のケースは,銀行がリスクウェイを設定する際,景気変動 による影響を考慮し中長期的に安定した「Through-the-Cycle(TTC)格付」を採用する 傾向にあることを意味する32)。
すなわち,企業の経営者が既存のプロジェクトの業績に対して利益平準化を行う理由
⎧⎨
⎩
⎫⎬
⎭
⎧⎨
⎩
⎫⎬
⎭
㲋────────────────
㲋─────────────
として,以下の 2 点が挙げられる。まず,企業自身の要因として,経営者が将来の新規 プロジェクトにおける資金調達リスク(および資金調達コスト)を低減させるために,期 間を通じて既存のプロジェクトに対する利益平準化を行う。また,資金供給主体として の銀行側の要因として,銀行がリスクウェイトを設定する際,景気変動による影響を考 慮し中長期的に安定した(TTC)格付を採用する場合,企業の経営者は,新規プロジェ クトにおける更なる資金調達リスク(および資金調達コスト)の低減を図るため,利益 平準化の程度を強める。
5 おわりに
本稿では,企業の利益平準化行動と銀行の貸出行動との相互連関性について理論分析 を行った。この理論分析により,企業の経営者がこの相互連関性を考慮して会計報告を 行う場合,新規プロジェクトの資金調達を行う上で,既存プロジェクトの会計報告にお ける利益平準化が重要な役割を果たすことを明らかにした。本稿の主な結論は以下の通 りである。
第 1 に,企業には,安定した資金を確保するために利益平準化を行うインセンティブ が作用することが示された。企業は,借入可能資金の変動を資金調達リスクと見做す傾 向がある。これは,借入可能資金が大きく変動すると,実行可能な投資プロジェクトの 規模も大きく変動し,結果として利益の変動も増幅するためである。本稿ではこのメカ ニズムを,企業が利益平準化を行うことにより,借入量(銀行にとっては貸出量)のリ スク(標準偏差)の最小化を図るものとしてモデル化を行った。その結果,企業による 利益平準化が,各期における既存プロジェクトの規模の安定化を通じて,新規プロジェ クトの資金調達リスクを低減させることができるということが明らかになった。
第 2 に,銀行に対する自己資本比率規制が,企業による利益平準化のインセンティブ を増大させる要因となり得ることが示された。これは,銀行が内部格付けモデルにより,
貸出先企業の過去の財務データに基づいて企業の新規プロジェクトに対する貸出のリス クウェイトを設定する場合,企業の経営者は,将来実行する新規プロジェクトの資金調 達リスクを低減させるために,既存のプロジェクトにおいて利益平準化を行うインセン ティブを有するということである。
最後に,企業の経営者がこの相互連関性を考慮して会計報告を行う場合,新規プロジェ クトの資金調達を行う上で,既存プロジェクトの会計報告における最適な利益平準化水
準が存在することが明らかになった。企業の経営者は,新規プロジェクトへの投資資金 を増やすと評価が高まる一方で,既存プロジェクトに対して利益平準化を行うと評価が 低下するというトレードオフに直面する。一方,銀行は,企業の新規プロジェクトへの 新規貸出に対するリスクウェイトを設定する際,既存プロジェクトの実績(すなわち企 業財務のヒストリカルデータ)と新規プロジェクトの収益性のいずれかの方法を一定の 割合(もしくは確率)で採用することになる。その結果,企業の経営者は,自身の評価 を最大化する最適利益平準化水準で各期に既存プロジェクトの利益平準化を行うことに より,新規プロジェクトの投資規模を決定することなる。
これらの結果は,IFRSの導入等に代表される会計制度の変更が,企業の財務情報だけ でなく,銀行の貸出行動にも影響を及ぼすことを示唆している。すなわち,企業の財務 状態をより正確に報告するための会計制度の改正が,銀行の貸出行動(またはリスクマ ネジメント行動)を不安定化させ,逆説的に企業の資金調達に負の影響を及ぼす可能性 があることが明らかになった。
本稿を締め括るにあたり,今後の課題について述べる。本稿のモデルでは,実際の収 益率が期待収益率を上回る(下回る)場合,当期利益を過少(過大)申告し,次期に調 整することによって利益平準化が行われる。しかし,例えば次期に超過利益を計上する のであれば,それがわかっている以上,異時点間の資産制約式から資金需要関数を求め ることも合理的である。すなわち,次期に計上する利益の現在割引価値を当期の利潤関 数に加えて,資金需要関数を決定することも可能である。上記のように異時点間にわた る資産制約式を用いれば,θの最適値を内生的に求めることもできよう。
また,利益の平準化が企業にとって望ましいという結論は,消費者にとって所得が恒 常的で安定している方が望ましいという恒常所得仮説に通じるものがある。恒常所得仮 説では,通常の効用関数(限界効用逓減)を用いて,将来の所得の変動を消費者は好ま ないことが導出されている。これを発展させれば,本モデルでは企業は危険中立的な主 体であることを前提として分析されているが,危険回避的な効用関数を用いることに よって自明的に利益の平準化が最適になることも導き出せるとも考えられよう。
さらに,本稿では,企業の経営者による利益平準化行動が企業の経営者の効用最大化 に起因するものとしてモデル化を試みた。そのような(ステークホルダーの視点におけ る)経営者の非合理的な行動は,本モデルに行動ファイナンスの要素を組み込むことに より,より忠実に表現することができ,新たな結果が導き出されることが期待される33)。
これらの問題については,今後の課題とする。
注
1 )また,岡部(1993)は,経営者のモデル分類において,利益操作を 3 つの仮説(報告利益 の最大化仮説,最小化仮説および平準化仮説)に分類している。
2 )ただし,利益操作と粉飾決算の区別は必ずしも明確ではない。例えば,田中(1996)は利 益操作と粉飾決算が同義であると述べているが,若林(1998)は対照的にこれら 2 つの会 計操作は異なると主張している。
3 )ただし,後述の理論分析で言及しているように,企業の経営者が過度な利益平準化を行っ た場合,資金供給者(例えば銀行)からの(企業あるいは経営者に対する)評価は低下し 得る。
4 )森(1999)は,利益平準化の手段を 6 つの類型(収益上の操作,繰延資産と無形固定資産 項目の利用,棚卸資産の評価,有形固定資産項目の利用,引当金の調整および異常損益項 目の利用)に分類している。また,その他の利益平準化の方法例として,繰延税金資産を 利用した利益制御の手法も存在する。詳細ついては,大沼(2004)あるいは小川(2004)を 参照されたい。
5 )岡部(2004)を参照されたい。また,当該文献では,利益操作前の当期純利益が低過ぎる と評価されているにも拘らず,更なる追加費用の計上により公表される最終利益を一層押 し下げるビッグバス(big bath)についても検証されている。
6 )「プロシクリカリティ効果」については,3.2 節を参照されたい。
7 )当該文献では,この現象を「リスクテイク促進効果」と称している。
8 )このような前提を設けている理由の 1 つとして,コブ=ラグラス型の生産関数を導入する ことによる計算の複雑化を回避しながら,収益低減型の企業の生産活動を表現することが 可能となる点が挙げられる。
9 )このとき,以下のように,L1に関する 2 階条件も満たされる。
∂2πF1
∂L21=−q<0
10)モデルの単純化を維持するため,ここでは株式の資本コスト(rE)を一定とする。
11)ここでの最低所要自己資本比率は,バーゼルⅠおよびバーゼルⅡ型のBIS規制における国 際基準の 8%または国内基準の 4%に相当する。
12)なお,第 1 の制約式は,銀行のバランスシート制約式である。
13)このとき,同様に,L1に関する 2 階条件も満たされる。
14)ここで,t1期およびt2期における実際の利益は等しいので,μ1=μ2となる。また,このよう にt0期およびt1期の均衡貸出量および均衡貸出利子率が同じ結果となるにも拘わらず敢え て区分している理由は,以降の分析結果との比較を容易にするためである。
15)すなわち,θ=0 のケースは利益平準化を行わないケースを表し,θ=1 のケースは超過利潤 をすべて翌期に計上する完全な利益平準化を意味する。
16)このとき,同様に,L3に関する 2 階条件も満たされる。
17)ここでのリスクマネジメント行動とは,BIS規制を遵守するための自己資本量の管理およ びリスクウェイトの調整を意味する。
18)その他のリスクウェイトの設定方法として,標準的手法がある。この手法は,バーゼルⅠ・
BIS規制における簡素なリスクウェイトの設定方法をベースとしながらも,信用リスクの 計測を精緻化した手法である。
19)このとき,同様に,L3に関する 2 階条件も満たされる。
20)このとき,同様に,L4に関する 2 階条件も満たされる。
21)このとき,同様に,L4に関する 2 階条件も満たされる。
22)ここで,t1期およびt4期における実際の利益は等しいので,μ1=μ5となる。
23)ここでは,新規プロジェクトの利払いが総営業費用よりも優先して支払われるものと仮定 する。この条件はやや強力な仮定であるが,当該プロジェクトへの資金供給がプロジェク ト・ファイナンス形式であるという前提を設ければ,幾分実際の融資実態に近いものであ るとも考えられる。
24)経営総費用のパラメータが以前の形状と同じである理由は,モデルの単純化を維持するた めである。
25)脚注 8 と同様。
26)このとき,同様に,LAに関する 2 階条件も満たされる。
27)モデルを単純化するために,ここでも預金利子率を 0 とし,株式の資本コストをrE(一定)
とする。
28)このとき,同様に,LAに関する 2 階条件も満たされる。
29)また,(30)式における各偏微係数に関する検証についても,同質の結果が得られる。
30)また,別種のプロシクリカリティ問題として,景気後退期において銀行に貸倒損失が発生 した場合,銀行の自己資本が毀損されることによる自己資本比率の低下から,銀行の貸出 行動と企業の生産活動に悪循環が生じるという経路も存在する。
31)このとき,θに関する 2 階偏微導関数は,以下のようになる。
−αβrEϕ c+q
∂2μHA
∂θ2 −(1−α)rEϕ
8(c+q) Ω1 ∂μ2
∂θ(3μ2+2μ1−μ3)+∂μ2
∂θ(3μ3+2μ1−μ2) −
2Ω1 ∂
2μ2
∂θ2(3μ2+2μ1−μ3)+∂μ2
∂θ
(
3∂μ∂θ2−∂μ3∂θ
)
+∂∂θ2μ23(3μ3+2μ1−μ2)+∂μ∂θ3(3 ∂μ3
∂θ −∂μ2
∂θ
)
+(1−α)8(c+q) y㲋─ Ω2 (1−α)r
Eϕ
4(c+q) Ω㲋─2 (1−θ)
(
∂μ∂θ2−∂μ∂θ3−8y)
−(μ2−μ3) −2Ω2 −2
(
∂μ∂θ2−∂μ∂θ3−4y)
+(1−θ)(
∂∂θ2μ22 − ∂∂θ2μ23)
上式は,現実的なパラメータにおいて負となり,この最適化問題における 2 階条件も満た
3
−2⎡
⎜⎣
⎧
⎨⎩
⎫
⎬⎭
2
⎧⎨
⎩
⎫
⎬⎭
⎤⎜
⎦
3
−2 ⎡
⎜
⎣
⎧
⎨⎩
⎫
⎬⎭
2 ⎧
⎨⎩
⎫
⎬⎭
⎤⎜
⎦
される。
32)Through-the-Cycle(TTC)格付については,Löffler(2004)を参照されたい。
33)山本(2010)は,企業の利益管理について行動ファイナンスの視点から検証している。
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