単身高齢者の居住支援におけるコミュニティソーシ ャルワークの位置づけに関する一考察
著者 洪 心?
出版者 法政大学大学院
雑誌名 大学院紀要 = Bulletin of graduate studies
巻 86
ページ 81‑91
発行年 2021‑03‑31
URL http://doi.org/10.15002/00023771
単
単身 身高 高齢 齢者 者の の居 居住 住支 支援 援に にお おけ ける るコ コミ ミュ ュニ ニテ ティ ィソ ソー ーシ シャ ャル ルワ ワー ーク クの の 位
位置 置づ づけ けに に関 関す する る一 一考 考察 察
人間社会研究科 人間福祉専攻 博士後期課程 3 年
洪 心璐
はじめに
近年、日本においては、少子高齢化が急激に進行している。未婚率の増加や、核家族化の影響を受け、世帯規模の縮小が続 くなか、 65 歳以上の単独世帯は顕著に増加する見込みである。単身高齢者をめぐる環境が変化している中で、家族機能の脆 弱化や社会関係の希薄化により、日常生活や居住環境に不安を抱く高齢者が増加している。このような状況の中、一人ひとり の高齢者が、地域で安心して暮らせる社会環境を構築するために、住まいを生活の基盤として安定させるために、社会福祉分 野と住宅分野の垣根を超えて、フォーマルサービスとインフォーマルサービスを結びつけることを通じて、居住支援サービス の拡充が求められる。
そこで、近年、生活圏や人間関係などの環境面を重視した相談活動や、地域を基盤とするニーズの発見・アウトリーチ、ま たはフォーマル・インフォーマルサービスの提供・関係調整、社会資源開発などの機能を果たすコミュニティソーシャルワー クが注目され、居住支援とコミュニティソーシャルワークの融合について提起されている。
本稿では、単身高齢者の居住をめぐる現状と動向を概観し、単身高齢者が抱える居住問題を整理した上で、居住に困難を抱 える単身高齢者の居住支援に関する課題に対応する方策として、コミュニティソーシャルワークを提起する。具体的に、コミ ュニティソーシャルワークの沿革を俯瞰するとともに、居住に困難を抱える単身高齢者の居住支援においてコミュニティソー シャルワークは、どのように位置づけられるか、また、その期待される機能について論じることとする。
1.単身高齢者の住生活をめぐる現状と課題
1)高齢化の進展と世帯構成の変化
近年、日本においては、少子高齢化が急激に進行している。 2020 年 9 月 15 日現在、総人口は 1 億 2,586 万人となっている。
そのうち、 65 歳以上人口は 3,617 万人に達しており、総人口に占める割合は 28.7 %と、過去最高となった(総務省 2020 ) 。こ の割合は今後も上昇を続けると予測されている。また、大都市部では 75 歳以上人口が急増しているのに対し、町村部等では 緩やかに減少し、高齢化の進展状況には大きな地域差が指摘される(国立社会保障・人口問題研究所 2018 ) 。
また、世帯構成の変化についてみてみると、未婚率の増加や、核家族化の影響を受け、世帯規模の縮小が続くと予想される なか、世帯主が 1 人の世帯、いわゆる「単独世帯」は、 2040 年には 1,994 万世帯となり、一般世帯総数に占める割合は 39.3 % へと上昇する(国立社会保障・人口問題研究所 2018 ) 。若年層による世帯の増加とともに、 65 歳以上単独世帯の増加にも起 因していると考えられる。これに対して、岡田( 2019 )は、 「家族類型別にみると、全ての都道府県において単独世帯の割合 は上昇し、これまで標準とされてきた夫婦と子から成る世帯に代わって単独世帯が最大勢力になっていくこと」と指摘してい
る(岡田 2019:3 ) 。図 1 − 1 で示すように、単独世帯は依然として三大都市圏に集中し、今後も引き続き増加する見通しである。
図 1−1 都道府県別 単独世帯数の推移(上位 10 まで)
出典: 国立社会保障・人口問題研究所(2014) 「都道府県の将来人口推計」のデータを基に作成
2)単身高齢者の住生活を取り巻く現状と課題
(1)単身高齢者の居住状況
戦後、日本においては、持家中心の政策が進められてきた。 2018 (平成 30 )年「住宅・土地統計調査」のデータによると、
高齢者のいる世帯の総数は 2253 万 4 千世帯となっている。住宅の所有の関係についてみてみると、持ち家が 1848 万 9 千世帯 で、 82.1 %となっている。一方、借家が 400 万 9 千世帯で、 17.8 %となっている(総務省 2018 ) 。
高齢者のいる世帯の内訳についてみてみると、高齢単独世帯の数は 638 万世帯となっている。そのうち、持ち家が 422 万 5 千世帯で、 66.2 %となっている。借家が 213 万 7 千世帯で、 33.5 %となっている。一方、高齢者夫婦のみ世帯の数は 648 万世 帯となっており、持ち家が 566 万 2 千世帯で、 87.4 %となっている。借家が 81 万 2 千世帯で、その割合は 12.5 %である(総務
省 2018 ) 。図 1 − 2 の通り、借家に居住する世帯の数についてみてみると、高齢者夫婦のみ世帯と比べ、高齢単独世帯の数が圧
倒的に多い。今後、単身高齢者数の増加に伴い、借家に住む単身高齢者の絶対数が増加することが見込まれる。
図 1−2 高齢者単身世帯・夫婦のみ世帯の居住状況(施設入居を除く)
出典:総務省(2018) 「平成 30 年住宅・土地統計調査」のデータを基に作成
もう一つの特徴として顕著なのは、単身高齢者の借家率と都市化の間の関連についてである。 65 歳以上人口のうち、借家
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
東京都 大阪府 神奈川県 愛知県 北海道 埼
玉県 千葉県 福岡県 兵庫県 京都府
千 世 帯
2010年 2015年 2020年 2025年 2030年
422 214
566 81
持ち家 借家
万戸
夫婦のみ世帯 単身世帯
に居住する単身高齢者の比率を都道府県別にみると、大阪府、東京都、福岡県などの大都市圏に集中する傾向から地域差がう かがえる(図 1 − 3 ) 。
図 1−3 都道府県別単身高齢者借家率(対 65 歳以上人口)
出典:総務省(2018) 「平成 30 年住宅・土地統計調査」のデータを基に作成
(2)借家に居住する単身高齢者の居住問題
前述の通り、借家に居住する単身高齢者が大都市圏に集中する傾向が示されている。したがって、都市部において、単身者、
とりわけ借家に居住する単身高齢者に対して、公的賃貸住宅及び民間賃貸市場における環境整備が急務となっている。しかし ながら、公的賃貸住宅及び民間賃貸市場においては、借家に居住する単身高齢者に対して、十分に受け入れ体制を整備できて いるとは言いがたい。これについて、平山( 2014 )は、 「民営借家に対する政策支援はほとんど存在しなかった」と指摘し、
「住宅関連の公的支援は「中間層」の「家族」による「持ち家」取得に集中し、 「低所得」 、 「単身」 「借家」世帯に対する援助 は限られていた」と批判している。
従来、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸する公営住宅に関しては、その応募倍率は、東京都( 20.0 倍)
をはじめ、大都市圏を中心に高い水準で推移している(図 1 − 4 ) 。また、公営住宅の地域別空き家率について、三大都市圏で
は 1.1 %で、地方部では 2.1 %となっている(国土交通省 2015 ) 。公営住宅は需要に対して供給が圧倒的に少なく、入居抽選で
当たる確率は低く、狭き門とも言われ、公的賃貸住宅に依存した住宅セーフティネットの限界が迫っている。近年、各自治体
が従来多くみられた公営住宅一辺倒の施策体系を再編しながら、民間賃貸市場の活力に着目しつつある。
図 1−4 公営住宅の応募倍率 出典:国土交通省住宅局(2015)
一方、公的な支援策が不在であった民間賃貸住宅の質に係る現状について、 2018 (平成 30 )年住生活総合調査結果のデー タによると、居住環境に対する評価についてみてみると、借家に住む人の不満率は持ち家より高く、 27.5% となっている。住 宅の評価について、個別要素ごとの不満率をみると、「高齢者への配慮(段差がない等)」が 47.2% と最も高くなっている。ま た、住宅所有関係別に居住面積水準をみると、持ち家世帯では「最低居住面積水準未満」が 0.8% と最も低く、 「誘導居住面積 水準以上」が 75.2% と最も高い。これに対し、借家世帯において、 「民営賃貸住宅」では「最低居住面積水準未満」の割合が 9.6% で、 「最低居住面積水準以上誘導居住面積水準未満」の割合は 52.6 %と、半数以上となっており、民間賃貸住宅の居住水 準は低いレベルにとどまっている状況にある(国土交通省 2018 ) 。
また、図 1 − 5 で示すように、内閣府 2020 (令和元)年版高齢社会白書のデータによると、住まいに関して不安と感じてい ることについて、 「賃貸住宅」に住む人のなかで、 「不安と感じていることがある」と答えた人が、 「高齢期の賃貸を断られる」
( 19.5 %) 、 「家賃等を払い続けられない」 ( 18.2 %) 、 「世話をしてくれる人の存在」 ( 15.6 %)を不安と感じていると答えた(内
閣府 2020 ) 。早川( 1997 )は、住居を「生存の基盤」とした上で、住居の安全性と快適性(建物の立地、居室の広さ、周囲の
環境など)が、生活の安定と心身の健康に影響すると論じている(早川 1997:18-86 ) 。今後、民間賃貸住宅における住生活の
品質をいかに高めていくことが重要な課題ともいえよう。
図 1−5 住まいに関して不安と感じていること 出典: 内閣府(2020)
民間賃貸市場における単身高齢者の受け入れ意識について、 2014 (平成 26 )年度日本賃貸住宅管理協会家賃債務保証会社 の実態調査報告書によれば、 65 %の大家は高齢者に対して拒否感を持っている。また、 11.9 %の大家が単身高齢者の入居を不 可とし、制限をかけている。また、家主側に「入居を制限する理由」として、 「家賃の支払いに関する不安」 ( 57.3 %)が最多 で、 「居室内での死亡事故等への不安」 ( 18.8 %)等があげられた(日本賃貸住宅管理協会 2014 ) 。連帯保証人を立てにくく、
これからの暮らしに何らかの生活支援が必要になる単身高齢者が、民間賃貸市場から締め出されやすい存在といっても過言で はない。
このように、単身低所得高齢者の受け入れ環境が改善されないと、やむを得なく「貧困ビジネス」を活用し、住み慣れた地 域から離れて暮らさざるを得ないことが懸念される。その深刻な実態があらわになったのは、 2009 年群馬県の施設「静養ホ ームたまゆら」で入居者 10 人が犠牲となった火災事件であった。犠牲者の多くが、都会の低所得の高齢者が地方に移り、都 内から移ってきた単身の生活保護受給者であった。しかしながら、今後、単身低所得高齢者の抱える課題はさらに表面化・複 雑化していくことが懸念される。総務省( 2014 )によると、被保護単身高齢者世帯が単身全世帯の比率を大幅に上回っている ことが明らかにされた(図 1 − 6 ) 。また、厚生労働省( 2020 )によると、 2020 月 7 月時点では、 830,370 の単身高齢者世帯が生 活保護を受け、その割合は世帯総数の 51.1 %にものぼり、過去最多を更新した。この点からも、単身高齢者の貧困化が推察で きる。
3.5 3.3 3.9 3.6 4.2 1.5 0.2
19.5
1 2.2
1.3 0.9 0 0
0
6.5
27.3 22.2
26.1 32.7 25 30.3 29.7
15.6
23 22.2
25.5 20.9 22.2
22.7 24.3
15.6
3.3 2.2
2 3.6 9.7 0 0.5
18.2
22.8 27.8
20.3 19.1
27.8 22.7
26.5
3.9
18.7 20 20.3 19.1
9.7 22.7
18.2 20.8
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
全体(n=491) 60~64歳(n=90) 65~69歳(n=153) 70~74歳(n=110) 75~79歳(n=72) 80歳以上(n=66) 持家(n=411) 賃貸住宅(n=77)
高齢期の賃貸を断られる 高齢期の賃貸を断られる以外で転居先が決まらない 虚弱化したときの住居の構造
世話をしてくれる人の存在 家賃等を払い続けられない 住宅の修繕費等必要な経費を払えなくなる
その他 不明
図 1−6 被保護世帯に占める単身世帯割合の推移 出典:総務省( 2014 )
以上のことから、単身高齢者が増え続けている中、家族や地域との繋がりが急速に薄れ、孤立し、日常生活や居住環境に不 安を抱く高齢者が増加することが予測される。高齢に達しても安心して暮らせる社会環境を構築するために、地域を基盤とし て、高齢者の入居を拒否しない住宅の普及促進および品質向上を図るだけでなく、民間賃貸住宅への入居支援、生活を支える ための入居後支援を一体的に取り組む居住支援の体制づくりが求められている。
2. 居住に困難を抱える単身高齢者の居住支援におけるコミュニティソーシャルワークの位置づけ 前述のように、単身高齢者の住生活をめぐる現状と課題について整理した。
以下、コミュニティソーシャルワークの沿革、またその機能などについて、理論的整理を図るとともに、本稿において、居 住に困難を抱える単身高齢者の居住支援におけるコミュニティソーシャルワークの位置づけとその機能について論じること とする。
1)コミュニティソーシャルワークの沿革
(1)日本におけるコミュニティソーシャルワーク理論の導入・展開
1930 年代にアメリカで発展された社会福祉援助方法であるケースワーク、グループワーク、コミュニティオーガニゼーシ ョンという 3 分類を統合化する必要性について、 1970 年代にアメリカやイギリスにおいて議論されてきた。 1982 年に、イギ リスで公刊されたバークレイ報告において、コミュニティケアの展開に伴ってコミュニティに焦点をあてた新たなソーシャル ワーク業務の進め方として、コミュニティソーシャルワークという概念が打ち出され、コミュニティソーシャルワークの機能 が提起された( Barclay Report 1982= 小田 1984 ) 。当時、日本において、バークレイ報告の内容や具体的実践として、パッチシ ステム等が盛んに紹介されており、その基本的な考え方として、①地域に焦点を当てながら、個人及び家族の現在ある社会的 ケアニーズに答え、社会的ケアネットワークづくりを行い、予防的対応策を含めて統合的に行うこと、②公的サービス、民間 サービス等との間にパートナーシップを重要視し、地方分権型のシステムを構築することとされた。 (濱野・大山 1988 ;小田 1993 ;田端 2003 など) 。
1990 年代より、日本においてコミュニティソーシャルワークが注目されるようになってきた。 1990 年に、社会福祉関係 8
法改正が行われ、中央集権的機関委任事務から基本的に市町村の団体委任事務への転換とともに、在宅福祉サービスが法定化
された。また、その一環として、社会福祉事業法が改正され、その社会福祉事業法第 3 条の 2 として、 「地域への配慮」が規 定され、 「社会福祉事業その他の社会福祉を目的とする事業を実施するに当たっては、医療、保健その他関連施策との有機的 な連携を図り、地域に即した創意工夫を行い、及び地域住民等の理解と協力を得るように努めなければならない」と規定され た。同年に、厚生省社会局保護課生活支援事業研究会において、地域を基盤として、個人や家族の生活課題をエコロジカルに 分析し、現行の公的社会福祉サービスのみならずインフォーマルケアも含めて、かつ社会各関係分野との幅広い連携・調整を 図り、統合的な援助のあり方の必要性が提示され、日本の国情に応じたコミュニティソーシャルワークの機能の必要性が指摘 された(厚生省社会局保護課生活支援事業研究会 1990 ) 。
1998 年から推進されていた社会福祉基礎構造改革による措置から契約制度への移行がきっかけとなり、 「施設から地域へ」
という理念が広く一般化した。地域での自立生活を支えるために、地域福祉のさらなる展開が求められてきた。
そうした流れのなかで、大橋は、イギリスやアメリカの理論的発展を踏まえて、コミュニティソーシャルワークについて、
今後の地域福祉の理論や方法を再構築するものとして提起し、その再定義を図っている。 (大橋 1990 ; 2005 ; 2015 ) 。また、
岩間( 2011 )は、コミュニティソーシャルワークと同様の意味合いを持つ理論として、 「地域を基盤としたソーシャルワーク」
という用語を用い、 「ジェネラリスト・ソーシャルワークを基礎理論とし、地域で展開する総合相談を実践概念とする、個を 地域で支える援助と個を支える地域をつくる援助を一体的に推進することを基調とした実践理論の体系である」と定義してい
る(岩間 2011:6 ) 。これを踏まえ、岩間・原田 ( 2012 )は、 「地域を基盤としたソーシャルワーク」の特質として、 「クライエ
ントを生活圏域から切り離すことなく、生活全体に焦点を当てた援助を展開できる」ことで、 「地域生活上でクライエントが 認識するさまざまな『生活のしづらさ』に焦点を当てることができる」としている。
今日、コミュニティソーシャルワークの定義について、諸氏による論説があるなか(加納 200881 ;平野 2003:32-40 ; G. ブ ルーグマンら :2002 ) 、代表的な論者である大橋は、コミュニティソーシャルワークについて、以下のように定義している。
「コミュニティソーシャルワークとは、地域に顕在的、潜在的に存在する生活上のニーズを把握(キャッ チ)し、それら生活上の課題を抱えている人や家族との間にラポール(信頼関係)を築き、契約に基づき対 面式(フェイス・ツー・フェイス)によるカウンセリング的対応も行いつつ、その人や家族の悩み、苦しみ、
人生の見通し、希望等の個人因子とそれらの人々が抱えている生活環境、社会環境のどこに問題があるのか という地域自立生活上必要な環境因子に関して分析、評価(アセスメント)する。その上で、それらの問題 解決に関する方針と解決に必要な方策(ケアプラン)を本人の求め、希望と専門職が支援上必要と考える判 断を踏まえ、両者の合意で策定する。その際には、制度化されたフォーマルケアを有効に活用しつつ、足り ないサービスについてはインフォーマルケアを活用したり、新しくサービスを開発するなど創意工夫して、
必要なサービスを統合的に提供するケアマネジメントの方法を手段とする個別援助過程が基本として重視 されなければならない。と同時に、その個別援助過程において必要なインフォーマルケア、ソーシャルサポ ートネットワークの開発とコーディネット、並びに「ともに生きる」精神的環境醸成、ケアリングコミュニ ティづくり、生活環境・住宅環境の整備等を同時並行的に、総合的に展開、推進していく活動、機能である。 」
(大橋 2015:6-7)
2)コミュニティソーシャルワークとソーシャルワークの関係性
ここでは、コミュニティソーシャルワークとソーシャルワークの関係性について整理することとする。
1982 年のバークレイ多数派報告に参加したロージャー・ハーグリーブズ(山口訳 1984:85 )は、 「コミュニティソーシャル
ワークは一対一のソーシャル(ケース)ワークより、生産的で価値がある」と論じている。従来クライエント中心のソーシャ
また、伝統的なソーシャルワーク・アプローチに対して、大橋( 2001 )は、 「これまでのコミュニティワークは、個別課題 を抱えている人には必ずしも直接的にかかわりをもたず、その抽象的・外延的援助のための地域住民の組織化や、大多数の地 域住民の共通関心事の解決には取り組んできたが、地域で個別生活課題を抱えながら、地域自立生活を望んでいた人々への個 別支援とそれを支えるソーシャル・サポート・ネットワークづくりとを個別具体的に展開する実践は弱かった」と指摘してい
る(大橋 2001 : 26 ) 。また、宮城( 2005 )は、 「これまでの個別支援が、要介護者と介護者等の家族関係や社会関係、当事者
の自己実現なども含めた一連のケアマネジメントを行うものとはなっておらず」と論じており、公的福祉サービスの利用調整 機能しか果たしえていない限界性について指摘している(宮城 2005:157 ) 。
さらに、田中( 2015 )は、イギリスにおけるコミュニティソーシャルワークの考え方を踏まえ、伝統的なクライエント中心 のアプローチとコミュニティ志向のアプローチを対比した上で、 「コミュニティソーシャルワークがソーシャルワークである ことの基本的性格には変わりがない。違いは施設や病院など機関内の属性別・分野別のソーシャルワークとは性格が異なる」
と述べ、コミュニティソーシャルワークの特徴について、①ジェネラルソーシャルワークとしての性格を持つ地域基盤のソー シャルワーク実践、②個別化した援助に留まらず、幅広い社会文脈の中でニーズの普遍化を見るという個別化と脱個別化の統 合、③ニーズ把握を重視し、ストレングス視点から個人と地域を捉えるという個別アセスメントと地域アセスメントの連結、
④地域を問題解決の場に変えていくための専門職と非専門職の結合によるチームアプローチ、⑤行政の下支えを求めながらも 住民とともに地域課題を解決していくという公民協働による支援のコーディネート、⑥予防的なアプローチの重視、⑦地域ネ ットワークの形成と地域における総合的なケアシステムの構築、という 7 点にまとめている(田中 2015:21 ) 。
図 2−1 ソーシャルワークとコミュニティソーシャルワーク 出典:田中(1996:88)により引用
地 区 ク
クリリニニカカルル ソ
ソーーシシャャルル ケケーーススワワーークク
ソ
ソーーシシャャルル ググルルーーププ ワ ワーークク
3 3次次 生生
活 活圏圏 2 2次次 生生
活 活圏圏 1 1次次 生生
活 活圏圏
村 市 二次
医療圏 学
区
町
区 地
域 家 個 族 人 団 集 体 団
成 人
子ども 老
人 障害者 患
者 生
活 困窮者 婦
人
児童 相談所
診療所
福祉 事務所
施
設 保健所
社会福祉 協議会
病
院 司
法
地 地 域域 援
援助助利利 用用 者 者
対 対
象 象
援 援 助 助 機 機関 関
上述のように、コミュニティソーシャルワークは、ソーシャルワークとしての基本性格を持っている。ただし、ジェネラル ソーシャルワークとして、個別支援とともに、事前反応的な支援による地域支援システムの構築を重視する性格を有するとも いえよう。
2)コミュニティソーシャルワークの機能
大橋( 2005 )は、 「市町村において福祉サービスを必要とする人の地域自立生活支援を目標にはコミュニティソーシャルワ ークの機能が必要」とし、実践において、 「コミュニティソーシャルワークの機能を一人のソーシャルワーカーが担う場合も あれば、チームとして、組織としてその機能全体を展開する場合もある。要は、市町村においてコミュニティソーシャルワー ク機能を展開できるシステムが構築されているかが重要なのである」と述べている(大橋 2005:22 ; 2015:37 ) 。コミュニティ ソーシャルワークとして求められる機能について、以下の 10 項目にまとめている。
①ニーズキャッチ機能
②個別相談・家族全体への相談機能
③ICFの視点及び自己実現アセスメントシート及び健康生活支援ノート式アセスメントの視点を踏まえたケ アマネジメントを基に、 “求めと必要と合意”に基づく援助方針の立案及びケアプランの遂行
④ストレングス・アプローチ、エンパワーメント・アプローチによる継続的対人援助を行なうソーシャルワーク 実践の機能
⑤インフォーマルケアの開発とその組織化機能
⑥個別援助に必要なソーシャルサポートネットワークの組織化と個別事例毎に必要なフォーマルサービスの担 当者とインフォーマルケアサービスの担当者との合同の個別ネットワーク会議の開催・運営機能
⑦サービスを利用している人々の組織化とピアカウンセリング活動促進機能
⑧個別問題に代表される地域問題の再発予防及び解決策のシステムづくり機能
⑨市町村の地域福祉実践に関するアドミニストレーション機能
⑩市町村における地域福祉計画づくり機能(大橋 2005:22 )
大橋( 2005 )により提起されたこのコミュニティソーシャルワーク機能の内容については、個別支援から運営管理、計画策 定まで、かなり網羅的に捉えている点に特徴がある。しなしながら、より実現可能性を高めるために、実証的研究を踏まえな がら、さらに焦点化する必要があり、コミュニティソーシャルワーク機能の範囲については論点の一つとなっている。
そこで、岩間( 2011 )は、ジェネラルソーシャルワークの視点から、①広範なニーズへの対応、②本人の解決能力の向上、
③連携と協働、④個と地域の一体的支援、⑤予防的支援、⑥支援困難事例への対応、⑦権利擁護活動、⑧ソーシャルワークア クションという 8 つの機能にまとめている。これらの定義を踏まえて、宮城( 2015 )は、コミュニティソーシャルワークの展 開に求められる機能として、①ニーズ・キャッチ機能、②総合相談・支援機能、③ネットワーク形成機能、④社会資源開発機 能と、より簡素に練り上げている。
これから、地域における生活圏域をフィールドとしたニーズ把握や、フォーマル・インフォーマルサービスのコーディネー トなどの機能を果たすコミュニティソーシャルワークが注目されてきている。
3.単身高齢者の居住支援におけるコミュニティソーシャルワークの位置づけ
大橋( 2015 )は、戦後の社会福祉の節目を振り返り、 5 つの節目に分けている。 「 1961 年に制度化された『国民皆保険皆年
会課題に向き合ってきた。旧厚生省社会・援護局( 2000 )の「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する 検討会」報告書においては、 「近年、社会福祉の制度が充実してきたにもかかわらず、社会や社会福祉の手が社会的援護を要 する人々に届いていない事例が散見されるようになっている」ことが指摘され、単身世帯の増加や高齢者の孤立や孤独の問題 が問われ、 「社会的援護を要する人々」 、いわゆる「生活困窮者」の「今日的な『つながり』の再構築」に向けた新たな施策の 必要性が論じられている。川向・中谷( 2014 )が論じるように、 「要援護者の地域での孤立等、いわゆる『制度の狭間』にあ る問題が顕在化するに至り、要援護者のニーズ・生活課題を発見し、そのニーズ充足と生活課題を地域社会で共有化する「ア ウトリーチするソーシャルワーク実践」を必要とする認識が、コミュニティソーシャルワークへの期待につながっている」 (川 向・中谷 2014:11-26 ) 。
また、 「地域共生社会実現政策」の一環として、 2018 年に社会福祉法が改正された。そこで、 「福祉サービスを必要とする 地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若し くは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう。 ) 、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要と する地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に参 加する機会が確保される上での各般の課題」と、地域生活課題の一つとして、 「住まい」が明文化されている。
図 3−1 居住に困難を抱える単身高齢者の問題構造 出典:筆者作成
図 3 − 1 居住に困難を抱える単身高齢者の問題構造について示したものである。
単身高齢者の中には、個人の選択や家庭的事情などの理由により、一人暮らしを始める人が多い。仮に心身機能の低下や経 済的困窮など個人的要因で、いままでの住居に住めなくなった場合、地域に住居の選択肢が十分に用意されているかが課題と なっている。しかしながら、現状では、 「民間サービスだけでなく、公的サービスでも救えない、制度のはざまやサービスの はざまに陥る人が存在する」と指摘されている(国土交通省 2016 ) 。このように、 「制度のはざま」が依然として存在してお り、制度的資源の不足が懸念されている。また、サービス不足や物的資源などの社会的要因により、単身高齢者にとって、居 住に関わる選択肢が限られており、困難な状況に追い込まれることが推察できる。
単身高齢者がますます増加していくなか、居住に困難を抱える単身高齢者を個別事例として捉えるのではなく、地域に同じ ようなニーズを抱える人が存在することとして捉えることが重要となる。そのため、秋山( 2019 )が述べているように、 「入 居者一人一人にあった個別の支援を通して、支援する人たちのネットワークをつくり、必要に応じて地域の潜在的資源の発掘 や時にはニーズ対応型の社会資源の開発を行い、サービスを必要としている人を排除することもなく、住民同士の見守りなど、
地域に住む人たちの関係性を豊かにしていく」と、居住支援におけるコミュニティソーシャルワーク機能を発揮させることが
親族との別居/死別/絶縁 従前居住地からの住み替え 高齢入院患者地域支援事業 高齢刑余者の地域生
活定着支援
…
居住支援の契機心身機能の低下 経済的困窮 家族的機能の欠如 一人暮らしへの不安感
…
個人的要因 サービス不足
ソーシャルサポートネットワークの脆弱化 居住支援サービス提供団体の不足
物 的資源の不足 公営住宅の高倍率 円滑入居できる良質な賃貸物
件の不足 低廉な入居費用
の高齢者向け住宅の不足 施設の入居条件におけるハードル
(中重度要介護度優先入居)
制度的資源の不足 縦割り行政による連携不足
制度のはざま 社会的要因
期待されている(秋山 2019:3 ) 。
今後、 「個別支援と地域支援を結びつける」というコミュニティソーシャルワークの視点が重要と考えられる。コミュニテ ィソーシャルワーク機能を視座の中心にすえて、地域に潜在化しているニーズを把握し、顕在化させることが、居住支援を始 まる極めて重要な第一歩である。また、これまでの社会福祉制度や住宅制度の枠組みでは対応しきれない「制度のはざまにあ る人」になりやすい単身高齢者を支えるために、いかに「制度的資源」の欠如を直視し、社会資源を開発していくかが問われ る。さらに、住まいを生活の基盤として安定させるために、ネットワーク形成機能を発揮させ、フォーマルサービスとインフ ォーマルを結びつけることを通じて、居住支援サービスを拡充させることが求められる。
居住に困難を抱える 単身高齢者の生活を地域で支えていくための支援体制を構築するためには、実際に行われて いる支援の方法と内容について、実証的に検証することが求められる。最後に、本稿では、居住に困難を抱える 単身高齢者への居住支援において、コミュニティソーシャルワークの機能の位置づけを明らかにし、その有効性 を提示したが、その視座をもとに、単身高齢者への居住支援に先駆的に取り組んでいる居住支援組織にインタビ ュー調査を行っており、それについての分析は別稿に譲ることとしたい。
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