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九州大学学術情報リポジトリ

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

根管治療における超音波根管洗浄法に関する研究 : 模擬根管を用いた流れの解析

磯辺, 量子

九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保存学研究分野

https://doi.org/10.15017/26666

出版情報:Kyushu University, 2012, 博士(歯学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

根管治療における超音波根管 洗浄法に関する研究

-模擬根管を用いた流れの解析-

2012 年

磯辺量子

九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座

歯科保存学研究分野

指導教員 赤峰 昭文 教授

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本研究内容の一部は、下記の論文に掲載された.

「模擬根管内での超音波による根管洗浄時の流れの観察」

磯辺量子,吉嶺嘉人,松本妃可,牛島寛,坂田篤信,佐藤浩美,西原正治,

赤峰昭文

日本歯科保存学会雑誌 第 54 巻 5 号 314~321, 2011 年

本研究内容の一部は,下記の学会において報告した.

第 133 回日本歯科保存学会秋季学術大会 岐阜市 2010 年 10 月

「超音波洗浄効果に関する模擬根管を用いた解析」

磯辺量子, 吉嶺嘉人, 松本妃可, 後藤千里, 牛島 寛, 佐藤浩美, 坂田篤信, 赤峰昭文

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目 次

1 要旨 1

2 緒言 2

3 材料と方法 4

4 結果 9

5 考察 15

6 総括 19

7 謝辞 20

8 参考文献 21

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1

1.要 旨

歯髄組織が細菌に感染した場合,根尖歯周組織への炎症の波及の予防ないし 根尖性歯周炎を治癒に導く目的で根管処置が必要となる.その際,根管系の無 菌化と為害性物質の除去が極めて重要であるが,機械的清掃後に残存するスミ ヤー層の除去の他に,器具の到達不能な側枝・イスマス内を清掃するには,抗 菌性や組織溶解作用を有する薬剤を用いた化学的洗浄が必須である.一般的に はシリンジによる根管洗浄法が広く用いられているが,その効果は十分とは言 えず超音波装置が併用されることも多い.しかし,超音波根管洗浄法の作用原 理と効果には不明な点も多いため,本研究では高速度カメラを用いて模擬根管 内における水の流れを解析することで,安全で効果的な超音波根管洗浄法の確 立を目指した.

超音波用ファイルを水中で振動させて振幅を計測したところ,細いファイル ほど,また出力が高いほどファイルの振幅は大きかった.さらに,ファイル周 囲のキャビテーション気泡を観察し,根尖領域における流れをトレーサーで観 察したところ,キャビテーション気泡は模擬根管内においてファイルの先端部 と共振点でのみ観察され,急速な水の流れはファイルの直下 1 mm ほどの領域に 限局して観察された.最後に,側枝様構造内への洗浄作用の波及効果を調べた ところ,チップ先端の位置と振動方向が影響することが分かった.

以上の結果より,臨床で超音波洗浄法を行う場合,根管壁の切削を避けるた めに出力を低く設定し,根尖から 1 mm 程度にチップ先端を位置させるとともに,

側枝などに配慮した操作が必要なことが明らかとなった.

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2

2.緒 言

う蝕の進行などが原因で歯髄組織が細菌に感染した場合,抜髄あるいは感染 根管治療などの根管処置が必要となる.その目的は,根尖歯周組織に炎症が波 及することの予防,または根尖性歯周炎を治癒に導くことであり,この治療を 成功させるためには,根管系の無菌化と為害性物質の除去が極めて重要である

1-3⁾.しかしながら,リーマー・ファイルなどの器具を用いた機械的拡大による

清掃のみでは,この目的を達成することは困難である4-7⁾.その理由として,機 械的拡大後に根管壁に残存する象牙質削片や歯髄残渣を含むスミヤー層 8⁾,あ るいは機械的器具が到達できないような側枝,根尖分岐,フィン,イスマスな どの根管内の複雑な構造 9⁾の存在が挙げられる.このため,根管形成・拡大の 作業中または作業後に,抗菌性や組織溶解作用を有する薬剤を用いた化学的清 掃が必須である10-12⁾.

根管洗浄液の撹拌手段は,手動式と機械補助による方法の2つに大別される

11,12⁾.一般的には,前者として洗浄用シリンジによる方法 5⁾が広く用いられて

いるが,上記した根管内の複雑な構造内の残渣を除去するための洗浄効果は十 分でないとする報告も見られる 13⁾.一方,後者としては超音波や音波を応用し た振動に基づく方法など各種の装置が開発されており,その有効性を指摘する 報告も多い11,14-16⁾.

超音波を根管洗浄に応用する際の作用機序は,超音波用チップが根管壁に直 接触れる場合(simultaneous ultrasonic instrumentation,UI)と触れない場 合(passive ultrasonic irrigation,PUI)で異なっている.UI ではチップを

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3

故意に根管壁に接触させることで根管拡大と洗浄を同時に行うが,超音波チッ プの動きを狭小な根管内でコントロールすることは難しく,結果的に根管壁の 不規則な形状や根尖近くでの穿孔を生じる危険性が指摘されている 17⁾.一方,

PUI の概念は 1980 年に Weller ら 18⁾によって初めて報告されており,その洗浄 メカニズムは,根管拡大後に洗浄液を容れた根管内において超音波用チップが 自由に振動することで,根管内に微小な流れやキャビテーション現象などの生 物物理学的力19⁾が生じることによると考えられている10,12,20,21⁾.しかしながら,

PUI の清掃効果が洗浄液の流れによるか,キャビテーション現象によるか,ある いは洗浄効果がどの範囲に及ぶかなどに関しては不明な点も残されている 12,22⁾.

本研究では,高速度撮影用カメラを用いて超音波用チップの振動とキャビテ ーション気泡の発生の様子を観察した.次に,模擬根管模型内において超音波 装置による洗浄効果に直接影響すると考えられる洗浄液の流れの可視化を試み た.さらに,根管系に存在する側枝を想定した模擬根管模型を用いて,側枝へ の洗浄作用の波及効果を調べた.

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4

3.材料および方法

超音波装置として,バリオス(Varios 350: Nakanishi,栃木)(周波数 28~

32 kHz)をエンド用モードで使用した.超音波用チップとして長さ 33 mm の U- ファイル(ナカニシ)を用いた.これを U-ファイル用ホルダー(E11: ナカニシ)

に挿入し,刃部側 23 mm がホルダーから出た状態で使用した(図 1).

図 1 超音波用チップ(U-ファイル)を装着したハンドピース

刃部側 23mm が出るように装着した. チップは矢印(点線)の方向

に振動する.   

撮影には実体顕微鏡(Stemi2000C: Carl Zeiss,ドイツ)を装着した高速度デ ジタルカメラ(HAS-220M: DITECT,東京,または Phantom V12: Vision Research,

USA)を使用し,パーソナルコンピュータ(Workstation T3400: Dell, USA)に 接続してデータを取込んだ.照明装置として 250W ハロゲン光源(KL2500LCD:

ハンドピース ホルダー

U- ファイル

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5

Carl Zeiss, Germany)を撮影対象の斜め前方に設置した.また,予備実験にお いてチップを先端方向から観察することで,チップはハンドピースと同軸方向 に振動することが確認できたため,図 2 に示すようにハンドピースを側面から 観察する装置構成で実験を行った.

図 2 装置の全体像

超音波用チップを装着したハンドピースの軸面を側方から観察す

るように設置した.  

3‐1.水中での超音波チップの振動

高速度デジタルカメラの前方に蒸留水を入れたガラス製セル(奥行 10 mm

幅 10 mm 高さ 50 mm)を置き,超音波用チップ(#15,#20,#25,#30)の刃 部 15 mm を水中に挿入した状態で固定し,エンド用モードの出力 1,3,5 で作

光源

実体顕微鏡 モニター

CC D カメラ 超音波装置 ハンドピース

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動させた.チップが振動する様子を連続撮影(撮影間隔: 2 ms,シャッター スピード: 2 ms)し,画像解析ソフト(AxioVision: Carl Zeiss)のスケー ル機能を用いて振幅を測定した.各サイズの新しいチップ 3 本を用いて,出力 を変えて各 5 回の計測を行い,振幅の平均値を算出した.

3‐2.キャビテーション気泡の観察

高速度デジタルカメラの前方に蒸留水を入れた直径 1 mm のガラス製模擬根管 模型を置き,超音波用チップ(#25)を挿入してエンド用モードの出力 5 で使用 した.チップ先端側 5 mm の領域において,チップが振動する様子とチップ周囲 に生じるキャビテーション気泡を連続撮影(撮影間隔: 20 µs,シャッタース ピード: 9.71 µs)した.

3‐3.模擬根管模型内での流れの観察

高速度デジタルカメラの前方に,先端部が ISO #40 に相当する根管形状(長 さ 15 mm)を有するアクリル樹脂製の透明模擬根管模型を設置した(図 3).粒 子状トレーサーとして平均粒径 10 µm のガラス製微粒子トレーサー(Glass Hollow Spheres: LaVision,ドイツ)を含む蒸留水を注入し,超音波用チップ

(#15)の先端を模擬根管の底部から 1 mm または 5 mm の位置になるように設置 した後,エンド用モードの出力 1,3,5 で使用した.

模擬根管内で発生するトレーサーの流れと気泡発生の様子を連続撮影(撮影 間隔: 2ms,シャッタースピード: 2 ms)した.

(11)

7

図 3 模擬根管内に挿入した超音波用チップ  

図は模擬根管 (#40)の根尖相当部から 2 mm の位置にチップ (#15)

を設置した状態.

3‐4.根管側枝内での洗浄効果の解析

模 擬 根 管 模 型 と し て , 透 明 な Thermafil Training Bloc ( A0174 #1:

Dentsply-Maillefer,スイス)を用いた.この根管模型(長さ 13mm,根尖部サ イズ ISO #30)は J 字状に湾曲し,根尖相当部の上方 11 mm(側枝①)と 6 mm

(側枝②)の位置に水平に走行する側枝状構造(根管側で直径約 400 µm)を有 しており,この中に歯磨用ペーストを注入し,根管の反対側は粘着テープで封 鎖した.また,根尖側はシリコンで封鎖した(図 4a).

根管内に蒸留水を満たした後,チップ先端と側枝開口部の距離が洗浄効果に 与える影響を調べるために,超音波用チップ(#15)の先端を,側枝①の上方 1 mm

2m m

(12)

8

(A),側枝①と同じ高さ(B),側枝①の下方 1 mm(C),側枝①の下方 2 mm (D), の各レベルに保持して,エンド用モードの出力 1 で 30 秒間の洗浄を行った(図 4b).さらに,チップの振動方向の影響を調べる目的で,側枝①と同じ高さでハ ンドピースを 90 度回転させた状態(E)でも洗浄を行った.各条件で 5 回の計 測を行った.

洗 浄 後 に お け る 側 枝 内 の ペ ー ス ト が 消 失 し た 距 離 を 画 像 解 析 ソ フ ト

(AxioVision: Carl Zeiss)のスケール機能を用いて計測し洗浄効果の指標と した.統計解析には Tukey-Kramer法を用いて多重比較検定を行い,各洗浄法 間の有意差の有無を調べた.

a b

A B C D E 図 4 側枝様構造を有する模擬根管模型とチップ位置  

a: 根尖の上方 11 mm(①)と 6 mm(②)に側枝を備えている.  

b: 超音波用チップと側枝の関係  

A: 側枝の上方 1 mm, B: 側枝と同じ高さ  

C: 側枝の下方 1 mm, D: 側枝の下方 2 mm 

E: 側枝と同じ高さでハンドピースを 90 回転  

(13)

9

4.結 果

4‐1.水中での超音波用チップの振動

超音波用チップ(#15, #20, #25, #30)を出力 1,3,5 で振動させた際のチ ップ先端部の画像を図 5 に示す.図 6 には各サイズのチップの振幅(先端部の 移動量の 1/2)を出力毎にグラフに表している.出力が高いほど振幅は増加する 傾向を示し,細いサイズのチップ(#15 および#20)では,出力の増加に伴って 急激に振幅が増加した.特に,#15 のチップで出力 5 の条件では 80 µm 以上の振 幅を認めた.一方,太いサイズのチップ(#30)の場合は,出力5においても 20 µm 以下の振幅にとどまった.

図 5 超音波用チップ先端の振動(出力:5)  

a: #15 b: #20 c: #25 d: #30  

A-B 間の距離の半分を振幅として計測した.  

b c d

a

A B A B A B AB

(14)

10 (µm)

図 6 超音波用チップ先端部の振幅  

チップが細く, 出力が高いほど振幅が大きい.  

4‐2.キャビテーション気泡の観察

模擬根管内でのキャビテーション効果による微小気泡の発生は,チップの先 端部および先端から約 3 mm 上方の共振点に限局して観察された(図 7).すなわ ち,気泡の発生はチップの振動に伴う左右への移動距離の大きい部位に限局し て観察された.

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

出力1 出力3 出力5

#15

#20

#25

#30 振

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11

図 7 超音波用チップ周囲のキャビテーション気泡  

微小気泡の発生は, チップ先端部(→)と上方の共振点(⇒)にお いて観察される. 

a: 先端部が左に振れた状態  

b: 先端部が中央の状態  

c: 先端部が右に振れた状態

4‐3.模擬根管模型内での流れの観察

超音波用チップを模擬根管底部から 1 mm の位置に設置した場合,根尖部を閉 塞するように大型の気泡の発生と停滞が認められた(図 8a).この現象は洗浄操 作を 30 秒以上継続することで次第に消失する傾向を示した(図 8b).根管底部 から 1 mm の位置にチップを設置した場合,出力 1 においてもチップの下方にト レーサーの活発な流れが観察された(図 9a).一方,根管底部から 5 mm の位置

a b c

(16)

12

にチップ先端を設置した場合,出力 5 に上げても根尖近くに早い流れは観察さ れず,急速なトレーサーの動きはチップ直下の 1 mm 程度の領域に限局していた

(図 9b).

図 8 模擬根管の根尖部(底部から 1mm の位置にチップ先端を設置)  

a: 根管底部に気泡(⇦)が形成され, この領域の流れが阻害される. 

b: 洗浄操作を続けると気泡が消失し, トレーサー(⇒)の活発な流

れが観察される.

a b

1m m

チッ

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13

図 9 模擬根管内での流体の模式図

a: 根尖部まで早い流れ( )が観察される.

b: 早い流れはチップ先端の直下 1mm の範囲に留まり,根尖近くま

では緩慢な流れ( )が認められる.

4‐4.根管側枝内での洗浄効果の解析

側枝内への洗浄作用の波及効果と超音波用チップ先端の位置との関係を図 10 に示す.側枝①とチップ先端が同じ高さの場合(B)は約 0.58 0.06 mm, 下方 2 mm(D)では約 0.28 0.02 mm にまで各々側枝内に流れが到達し, 両者の間には有

a 1m m b

5m m 超音波用チッ プ

模擬根管 (# 40)

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14

意差が認められた(P<0.01).一方, 他の設定位置(A, C)では側枝内の洗浄効果 は観察されなかった.また, ハンドピースを 90 度回転させた状態で行った場合,

洗浄効果は約 0.22 0.03 mm と顕著に低下した(P<0.01).なお, 側枝②におい ては,いずれのチップ位置でも洗浄作用は認められなかった.

図 10 側枝とチップ位置による洗浄効果の比較

側枝とチップ先端が同じ高さの場合, 他の条件に比べて有意に

高い清掃効果が認められた.

A: 側枝の上方 1 mm

B: 側枝と同じ高さ

C: 側枝の下方 1 mm D: 側枝の下方 2 mm

E: 側枝と同じ高さでハンドピースを 90 回転

(19)

15

5.考 察

根管洗浄において,効果的な PUI を実施するには,根管壁に超音波用チップ が接触しない状態で振動させる必要がある 10,17,19⁾.また,水中での超音波用チ ップの動きとこれに伴うキャビテーション現象や流れを理解することは,臨床 における超音波を用いた根管洗浄を安全かつ効率的に行う上で重要と考えられ る.

超音波用チップの振幅に関して Lea ら19⁾は,チップ先端部での移動量(振幅)

が最も大きいと報告している.今回は先端部のみの移動量に関して,出力とチ ップの太さの影響を調べたところ,従来の報告と同様に,出力が大きいほど,

またチップが細いほど振幅が大きくなる傾向が認められた.

振幅は,出力やチップの太さ以外にも,チップの長さ,チップの形状(溝の 有無)などの影響を受けると考えられる.今回使用した超音波装置とチップの 組み合わせでは,最も細い#15 の U-ファイルにおいては,高出力では約 80 µm の振幅で振動するため,拡大号数の小さい根管の根尖部近くまでチップを挿入 して洗浄操作を行う場合は,根管壁の不要な切削や穿孔に注意する必要がある.

一方,根管壁面から残渣や細菌を除去するのに役立つ剪断応力は流れによって 生じ,その応力は流速に比例する 26⁾と言われており,根管壁面のスミヤー層の 除去等の効果は,チップの振動によって生じる流れの動きが速いほど高まると 考えられる.このため,洗浄効果を得るために必要な適切な流れが期待できる 条件として,細いチップを低出力で使用する操作法が安全で効果的と判断され る.

(20)

16

キャビテーションは,「液体の流れの中で圧力差によって短時間に泡の発生と 消滅が起きる物理現象」と定義され,空洞現象とも言われている 23⁾.その作用 は船舶のプロペラに穴が開くほど強いことが知られており,工業製品の洗浄や 医療用では胆嚢・腎臓の結石粉砕などにも応用されている.

超音波装置を用いた根管洗浄時に,水中でのチップの高速振動によって圧力 差が生じ,キャビテーション現象が発生している可能性を示唆する報告 24,25⁾が みられるが,根管洗浄におけるその役割に関しては否定的である.しかしなが ら,これらの報告はキャビテーション気泡発生の様子を高速度撮影によって観 察していないために,明確な証拠を提示するに至っていない.

今回の高速度カメラを用いた研究では,模擬根管内においてキャビテーショ ン気泡の形成がチップ先端部と共振点に限局して発生することを明らかにする ことができた.しかしながら,キャビテーション現象による洗浄効果が作用す るのは,気泡を生じた部位に近い根管壁に限局することから,PUI におけるその 役割は限定的であると考えられる.

超音波用チップの周囲に生じる流れに関しては,Ahmad ら 26⁾がトレーサーの 動きを報告しているが,根管模型内での流れは報告されていない.本研究では,

模擬根管内でのチップ先端直下の領域のトレーサーの動きを観察した.チップ 先端の位置を根尖近く(1 mm または 2 mm)に設定した場合,根尖部を閉塞するよ うに大小の気泡が形成され,効率的な流れの発生を阻害することが明らかとな った.本研究では,#40 のサイズを想定した模擬根管を使用したが,拡大号数の 小さい根管ではより気泡が停留し易いと予想される.しかしながら,この現象 は洗浄操作を続けることで解消され,根尖部での早い流れが回復した.一方,

(21)

17

チップの位置を 5 mm の位置に設定した場合,出力を高くしても根尖部での流れ による洗浄効果は高くないことが分かった.すなわち,早い流れはチップ直下 の 1 mm 程度の範囲に留まり,その下方では緩やかな流れが観察された.この理 由として,チップの動きは水平方向を主体としており,下方(根尖方向)への 急激な流れは生じにくいことが影響していると考えられる.

根管系においては,根管壁面に形成されるスミヤー層の除去に加えて,側枝・

イスマス・根尖分岐などの特異な構造内に残存する壊死歯髄組織や残渣を清掃 することも重要である.本研究では,主根管での水の流れに加えて,これらの 構造内への超音波洗浄作用の波及効果を調べる目的で,側枝を有する模擬根管 を用いた.これまで,根管内残渣としてコラーゲン 27),象牙質削片 28),牛歯の 歯髄組織29)などを応用した報告がみられるが,水の流れによって比較的容易に 除去可能な素材として,歯磨用ペーストを側枝様構造内に填塞した透明根管模 型を用いた.超音波用チップ先端と側枝の開口位置との関連性を調べるために,

側枝の上方 1 mm から下方 2 mm の範囲にチップを設置した場合を比較したとこ ろ,同じ高さの場合に最も側枝内への流れの波及効果が及んでいた.この理由 として,超音波法による洗浄効果が発揮されるのは,主に振幅の大きいチップ 先端を中心とすることによると考えられる.すなわち,側枝の清掃に振動によ る流れとキャビテーション現象が影響したと思われる.また,チップの振動方 向と側枝の位置を 90 度変えるとその波及効果は大きく減少していた.Jiang ら

30)は本研究と同様に,チップの振動方向が抜去歯の主根管に形成した溝状の構 造内の清掃効果に影響することを報告している.以上の結果より,効率的な超 音波根管洗浄には,チップの位置に加えてハンドピースの方向にも配慮する必

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18 要のあることが分かった.

臨床の場で超音波による根管洗浄を行う場合,チップを完全に固定して操作 することは難しく,根尖近くでのチップ使用時に根管壁を傷つける可能性は高 いため,長時間の洗浄操作は可及的に避けるべきである.また,根管の直径や テーパーが超音波洗浄の効果に影響することが知られており31,32⁾,今後さらに,

太さの異なる根管や湾曲した根管での PUI 時におけるチップの適切な設定位置 と出力に関して,安全で効果的な使用条件を調べる必要があると考えられる.

(23)

19

6.総 括

超音波装置による根管内洗浄作用に関して,in vitro の条件下で高速度カメ ラを用いてチップの振動とキャビテーション気泡発生の様子を観察し,さらに チップ先端部近傍の流れの観察と側枝様構造内への洗浄作用の波及効果の解析 を行った結果,次のような結論を得た.

1)超音波用チップの先端部は,細いほど,また出力が高いほど大きい振幅を 示す.

2)キャビテーション作用は,チップの振動の大きい部位に限局するため,根 管洗浄における役割は限定的である.

3)根尖部の清掃には,根尖近くで細いチップを低出力で操作する方法が安全 で効果的である.

4)側枝などの洗浄の際は,チップの位置と振動方向に配慮する必要がある.

(24)

20

7.謝 辞

本研究は,九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保存学研究分 野 赤峰昭文教授のご指導のもとに行われたものであり,先生の懇篤なご指導,

ご助言,ならびに御校閲に深く感謝致します.また本研究を遂行するにあたり 終始御指導を賜りました九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保 存学研究分野 吉嶺嘉人准教授に厚く感謝致します.最後に,九州大学大学院 歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保存学研究分野,ならびに九州大学病院歯 内治療科教室員の皆様方に心より御礼申し上げます.

(25)

21

8.参考文献

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24

25) Ahmad M, Pitt Ford TR, Crum LA, Walton AJ: Ultrasonic debridement of root canals: acoustic cavitation and its relevance; J Endod 14: 486-493, 1988.

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27)Huang TY, Gulabivala K, Ng YL: A bio-molecular film ex-vivo model to evaluate the influence of canal dimensions and irrigation variables on the efficacy of irrigation; Int Endod J, 41: 60-71, 2008.

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30)Jiang LM, Verhaagen B, Versluis M, van der Sluis LW: Influence of the oscillation direction of an ultrasonic file on the cleaning efficacy of passive ultrasonic irrigation; J Endod, 36: 1372-1376, 2010.

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参照

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