マーケティング活用に向けた人流計測データ分析手法 Pipeline Analysis for Marketing using Pedestrian-flow Data
辻 聡美
†淺原 彰規
†野宮 正嗣
‡Satomi Tsuji Akinori Asahara Masatsugu Nomiya
1. はじめに
近年,企業の競争力の源泉はイノベーションや価値創 造に移りつつあり,新しい価値を発見するためのビッグ データ活用に注目が集まっている.その背景には,スマ ートフォンやタブレットなどの高機能な携帯端末の広が りと業務管理アプリケーションの浸透により,日々,多 様かつ大量の記録がデジタルデータとして蓄積されてい ることがある.
日立グループにおいてもビッグデータ利活用によって 新 し い ビ ジ ネ ス 価 値 の 創 造に取り組んでおり,「デー タ・アナリティクス・マイスターサービス」を立上げ,
顧客との協創活動を通した
IT
ソリューションの実現によ って,顧客の戦略立案・実行の支援を目指している[1].さらに,日本の就業者数の
7
割がサービス業に従事してい る背景を踏まえ,人間に関する多角的なデータを集めて 知見を得ることが競争力強化に必要であると考えている.そこで執筆者らは人間行動計測技術を活用したソリュー ション提案を「ヒューマンビッグデータ® 」というコン セプトでまとめ,人間の振る舞いを考慮したサービス支 援ソリューションの実現可能性を検討している[2].
Web
空間において収集したデータのマーケティング活 用は既に広く知られているが,実空間における人間行動 計測データをマーケティングに活用する方法はまだ実用 化に至っていない.執筆者らは,商業施設や博物館など の公共施設をターゲットとし,レーザーレーダによる空 間内の移動軌跡計測技術の利用によって,空間活用を最 大化するため最適な内装設計,商品配置,商品紹介,接 客方法を提案し,迅速なPDCA
を回すことを目指してい る[3].そのための分析手法として「パイプライン分析」を構想しており,これによって顧客の空間への入場から 特定のエリアへの誘導,店舗への誘導,商品の購買に至 るまでのプロセスを計測し,どこで顧客が離れているの か,機会損失実態の定量的な把握が期待できる.
しかしながら,レーザーレーダによって顧客の入場か ら退場までの移動軌跡を途切れなく追跡することは困難 であることが明らかになった.この課題を解決するため,
本研究では断片的な軌跡データの集合から交差点での分 岐確率を推定する人流分岐モデルを提案する.このモデ ルの特徴は,交差点内のみの移動経路データを用い,各 交差点・通路の入出場者数を制約条件として空間全体の 整合性を合わせることである.実験では,人流分岐モデ ルを大規模展示会における約
4
万人分の移動軌跡データに 当てはめ,パイプライン分析の定量化の実現可能性,そ の有用性について検討する.2. 実空間マーケティングのための分析手法 2.1 パイプライン分析
日立製作所では人間行動計測・分析に関する技術を集 約し,実空間でのマーケティングに応用するためのソリ ューションの開発に着手している.想定する対象は商業 施設や博物館などの公共施設であり,来場者の移動軌跡 の計測によって,施設の目的(小売店の場合には顧客の 購買を,博物館などの場合には展示の閲覧など)を最大 化するための,最適な施策を提案し,その効果を評価す ることで,迅速な
PDCA
を回せるようにすることを狙い とする(図1)[4].
図
1
における改善施策を検討するためのコアコンテンツ として構想しているものがパイプライン分析である[3].これは,顧客が対象空間に入ってから特定の商品を購入 するまでのプロセスを段階的に説明するものである.図
2
のようなモデルを定量的な値で示すことで,どこで顧客 が購買から離れたのか,機会損失が起きているポイント を具体的に見つけることができる.これによって,施策 の決定,さらに施策後の効果測定に有用であると期待で きる.現状分析 実験計画 人流解析 改善施策の検討
施策評価
・課題、目標の確認
・分析観点の洗い出し
・実験、分析方針の検討
・適用領域(測定範囲)の検討
・測定のための要件洗い出し
・実験計画の策定
・人流データの取得
・分析データ(実験アウトプット×その他データ)整備
・データ分析・示唆導出
・改善仮説の検討
・シミュレーション実施
・改善施策まとめ
・改善施策の実施
・施策評価分析
・展開計画の策定
図 1 実空間マーケティングソリューションの
標準アプローチ
来店 ポテンシャル
(店舗前 通行)
店舗前を 素通り
店舗前での 気付き,
迷い入店
店舗への 非入店者
店舗への 入店
興味のない エリア
興味のある 商品エリア
興味のない 商品 興味のある
商品
非購入
通行プロセス 商圏全体での 想定顧客数
誘引プロセス 顧客の興味を 店舗に誘導する
入店プロセス 店舗に顧客を 入店させる
買い回り プロセス 各商品エリアを 買い回りさせる
商品選択 プロセス 特定の商品を
選択させる
購買決定 プロセス 特定の商品を 購入決定させる
購入
図 2 パイプライン分析のモデル
†(株)日立製作所研究開発グループ Hitachi, Ltd. Research
& Development Group
‡(株)日立製作所 情報・通信システムグループ Hitachi,
Ltd. Information & Telecommunication Systems Company
ヒューマンビッグデータ®は日立製作所の商標です.FIT2015(第 14 回情報科学技術フォーラム)
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RO-016
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2.2 レーザーレーダによる移動軌跡計測技術
実空間での人間行動を測定するために,レーザーレー ダによる移動軌跡計測技術を用いる.これは,計測領域 内の人々の位置・行動を測定するシステムであり,複数 のレーザー距離センサ(図
3)のデータに基づき統計的な手
法を利用して人物の位置を推定する技術である[5][6][7].これを用いることで,広範囲な空間の人間の移動軌跡を 追跡できる.図
4
にその例を示す.赤い丸が人間,オレン ジ色の線が追跡された移動軌跡である.図 3 レーザー距離センサ
図 4 レーザーレーダによる移動軌跡計測
2.3 パイプライン分析実現のための課題
レーザーレーダによる顧客の移動軌跡データによって,
パイプライン分析の定量的な実現が可能であると考えら れる.しかし,そのためには顧客が対象空間に入場して 退場するまでの全ての軌跡をトレースできることが前提 となるため,実際にはそれは困難を伴う.
図
5
に空間(4章の実験と同じ空間である)で計測され た座標値を重ね合わせた結果を示す.白い点がセンサの 位置であるが,奥まった場所や看板などの陰になる場所 において,測定されない場所があることがわかる.つま り顧客がこのエリアを通ると軌跡が途切れる確率が高い.実際に同空間で連続して取れた軌跡の長さを調べたとこ
ろ,約
14%の軌跡が 100[m]未満で途切れていることがわ
かった(図
6).センサの数を増やせば陰を減らすことが可
能だが,当然ながらそれはセンサの設置費用とのトレー ドオフとなる.また一方で10000[m]以上の軌跡も約 10%
存在し,こちらは補完過程で過度な軌跡の結合が起こっ たと考えられる.以上より,現在の計測技術では全顧客 の入場から退場までの軌跡を正確に取得することは困難 であり,これを前提として断片的な軌跡データの集合か ら移動経路の傾向を推定する方法の検討が必要となる.
約100m
図 5 計測の信頼性が低い個所(丸印)
0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00
0.00 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20
0 <= x < 100 500 <= x < 600 1000 <= x < 1100 1500 <= x < 1600 2000 <= x < 2100 2500 <= x < 2600 3000 <= x < 3100 3500 <= x < 3600 4000 <= x < 4100 4500 <= x < 4600 5000 <= x < 5100 5500 <= x < 5600 6000 <= x < 6100 6500 <= x < 6600 7000 <= x < 7100 7500 <= x < 7600 8000 <= x < 8100 8500 <= x < 8600 9000 <= x < 9100 9500 <= x < 9600 10000 <= x
軌跡の長さ[m]
軌跡の長さ別比率(述べ距離で計算)
比率(左軸) 累積(右軸)
図 6 軌跡の長さ別比率(述べ距離による計算)
3. 人流分岐モデルの提案
3.1
人流分岐モデル本研究では,断片的な軌跡データから空間全体の移動 経路を推定する方法として,人流分岐モデルを提案する.
本手法は,人が通る道をグラフ理論に倣って交差点(頂 点:vertex)と通路(辺:edge)で定義する.そして,交 差点内のみの移動軌跡を分析対象とする.
方法としては,各交差点における通路との接点をゲー トとして定義し,交差点にどのゲートから入りどのゲー トから出たかをカウントする.対象空間の通路を交差点,
通路,ゲートで模式化した例を図
7
に示す.また,実際の ゲート定義の例を図8
に示す.出口9
E13 E35 E56 E67
E24
E89 E01
入口0
E12 E47
E23 E45
E68
E78 V1
ゲ ー ト0
ゲート2 ゲ ー ト3
V2 ゲ ー ト4
ゲ ー ト6 ゲート7
V3 ゲ ー ト 8
ゲート9 ゲ ー ト 10
V4 ゲ ー 12ト
ゲ ー 13ト ゲート14
V5 ゲ ー ト 15
ゲート16 ゲ ー ト
17 V6
ゲ ー ト 18
ゲ ー ト 19 ゲート20
V7 ゲ ー ト 21
ゲート22
ゲート23
V8 ゲ ー ト24
ゲート25 ゲ ー ト26
通路 交差点ゲー
ト
どのゲートから入って どのゲートから出たか
(曲がったか,直進したか)
図 7 空間の模式化
(星印は実験におけるターゲット店舗)
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0 2
3
1
8 9
11 10
7 14
16
15 17 18
図 8 ゲート定義(一部抜粋)
3.2 生成手順 3.2.1. フローチャート
人流分岐モデルを生成する手順を図
9
に示す.本手法の 特 徴 は , 交 差 点 内 の 移 動 経路(入場ゲートと出場ゲー ト)別の人数をカウントしたものを基礎データとし,2つ の制約条件(通路両端の入出場者数,交差点の入出場者 数)によって全交差点間の移動軌跡の整合性を合わせる ことである.各交差点において,移動経路
(入場ゲートと出場ゲート)毎に 人数をカウント(A01)
各通路両端の入出場者の整合性を 合わせる(矛盾点は空欄とする) (A02)
各交差点の入出場者の整合性を 合わせる(矛盾点は空欄とする) (A03)
通路,交差点毎の整合性が合うように
(A02) ・(A03)で空欄としたゲートの 入出場者を決定する(A04)
(A01)の移動経路別の比率を基準として 交差点内の移動経路の値を補正する
(A05)
開始
終了
図 9 人流分岐モデル生成フローチャート
まず交差点と通路のインタフェースである各ゲートの 通過人数を確定する.そのとき,信頼性が高い(軌跡を 正確に計測できている)と考えられる交差点のデータを 優先的に用い,信頼性が低い交差点のデータを補完して いく.具体的には,整合性において明らかな矛盾(計測 された比率と,他の交差点から推論された比率の正負が 一致しないなど)が起きた箇所は空欄として計算を保留 にしておき,他の交差点間の整合性を合わせてから補正 する.
最後,ゲートの通過人数が確定した後に,交差点内の 移 動 経 路 ( ど の ゲ ー ト か ら入ってどのゲートから出た か)を実測データの比率を基準として決定する.
3.2.2 制約条件
整合性を合わせるための制約条件として,以下の
2
つが ある.信頼性の高い(軌跡を正確に計測できている)ゲ ートの実測値を優先して,他のゲートの値を順に補正することによって,全ゲートの両方向への通過人数を確定 していく.
①通路両端の入出場者の整合性
通路の両端にあるゲートにおいて,通路に入った人数 と通路から出た人数は一致するはずである.ただし,計 算上,通路途中で引き返すという条件もありうるため,
制約条件としては「両ゲートから出入りした人数の差が 一致する」と定義し,差の値を一方に合わせることによ って整合性を合わせていく(図
10(a)).
②交差点の入出場者の整合性
1
つの交差点に接するゲートにおいて,交差点に入った 人数の和と出た人数の和は必ず一致するはずである(図10(b)).
なお,図
11
における通行者数の値は,全入場者を100
とした場合の比率であり,その数は述べ人数で計測され るため,値が100
を超える場合がある.例えば1
人平均し て2
往復している場合,値は200
となる.→95
←80
→100
←85
(差→15)
→95
←80
(差→15)
5
IN合計 185 OUT合計
185
→110
←35
↑70 ↓25
→80
←50
(a)通路両端の整合性 (b)交差点の整合性 図 10 制約条件
3.3 本手法のメリット
3.2
節で示した手法によって整合性を合わせた結果の一 部(1 つの交差点におけるゲートの入退場,交差点内の移 動経路)を図11
に示す.なお,全体像は4.2
節に記載す る.値は対象空間への入場者数を100
人とした時の比率で 示している.これによって,交差点に左から入った人が 述べ人数で188
人,そこから直進した人が144
人,左折し た人が44
人というように分岐確率を空間全体の整合性が 合った状態で定量化することができる.→188
←88
↑91 ↓59
→171
←103 44
144
47 56 32 27
図 11 整合性を合わせた交差点の例
本手法を用いることの利点としては以下の点が挙げら れる.
・ 長い軌跡データが必要ない.交差点に入ってから出る までの軌跡が取れていればよい.一般的に交差点はひ らけているためセンサの陰になりにくく,正確なデー タを取りやすい.
・ 多数の顧客の軌跡データを統計的に扱うため,1人の顧 客の移動経路をトレースするよりも,プライバシーに 関する心理的抵抗が少なくなる.
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4. 実験 4.1 概要
人流分岐モデルを実際のレーザーレーダによる軌跡デ ータに適用することで,パイプライン分析を定量的に示 し,さらに図
2
の可視化,問題発見,施策提案,施策評価 の過程を実現できるかを確認するために,大規模な展示 会をショッピングモールに見立て,実験を行った.実施 概要は以下の通りである.・展示会名称 :日立イノベーションフォーラム
・対象空間 :東京国際フォーラム 展示ホール
・面積 :約
5,000
平方メートル・測定期間 :2013/10/30-31(2日間)10時‐18時
4.2 結果
本節では,人流分岐モデルを実データに適用すること でパイプライン分析を定量的に行う.またその結果に基 づいて,対象空間の問題発見・施策提案・施策評価を行 い,パイプライン分析の有用性を確認する.施策につい ては,パイプライン分析によって特定の地点における送 客力・集客力の向上に着目し,その観点に対して簡単な 介入実験を行うことで効果測定を行う.
4.2.1 人流分岐モデル
3
章で述べた手順に従って生成した人流分岐モデルの結 果を図12
に示す.数値は来場者全体を100
とした述べ通 過人数であり,計測では同じ人が往復すると複数回カウ ントされるため,値が100
を超えるエリアも多くある.図12
は空間全体の整合性が合った状態であり,各通路の通 過人数,交差点に入った方向・出た方向ごとに人数を把 握できる.さらに,この情報によって,通路の通過人数や,ある 交差点に到達した人が右折・左折・直進する確率を算出 できる.図
12
の値を元にして,左端の入口から入った来 場者が辿る典型的な経路を検討した例が図13
である.一 方のゲートから入った人が進む確率の高い方へ進んだ経 路を辿ったものである.これによると,典型的なパター ンとしては,入口から中央の通路を曲がらずに直進し,右端の付きあたりにて左折して会場全体を回るという経 路が取られたことがわかる.
辺 E (通路)
点 V (交差点)
出口 入口
→188
←88
↑91 ↓59 44 144 47
56 32 27
→171
←103 →171
←103
↑37 ↓56 25 146 12
75 28 28
→174
←87
→121
←089
↑67 ↓86
→165
←152
→174
←87
↑59 ↓64 32 142 27
58 29 35
→177
←85
↑59 ↓64
↑72 ↓147
→88
←188
↑72 ↓147 64
24 8
69 119 28
→52
←77
→122
←105
↑92 ↓117
↑155 ↓163 3
116 81 71 18 49
119
46 18
137 15 44
78 119 69
36 69 3
→165
←152 →163
←155
→197
←105 →122
←105 71 97 66
51 8 84
→100
←100
図 12 人流分岐モデル(詳細データ)
出口 入口
→100% 23%
77% 15%
85% 18%
82% 60%
40% 58%
42%
88%
12%
47%
53%
81% 19%
49% 51%
※2周目
V5 V7
V4 E47
図 13 典型的な移動経路
(各交差点の左折/右折/直進確率を表記)
4.2.2 パイプライン分析結果と有用性評価 (a)
問題発見図
12
の人流分岐モデルの数値に基づいて算出したパイ プライン分析の結果を図14
に示す.図2
のモデルのうち,会場内に入った時点を
100%とし,ターゲット展示(図 7
の星印)内に入るまでを追った.なお,ターゲット展示 は,交差点V7
とV4
を両端とする通路E47
上にある.そ の段階的なプロセスとしては,まず①会場集客から,② エリアへの誘導(隣接する交差点V7
またはV4
に到達),③展示前への誘導(ターゲット展示前の通路
E47
に入 る),そして④展示内への誘導までの各プロセスについ て,交差点V7
側からかV4
側からかを区別して算出した.これによって,全来場者のうちの
69%がターゲット展示
前の通路を通過しており,37%が展示内まで入店してい るとの結果が得られた.★に 入 店
55%
左 か ら
(17%)
右 から
(20%)
46%
70%
全 入 場 者
(1 00
%
)
累積人数比:
100%
V4(26%)
98%
98%各ステップ間の 誘導率
V7 側 から(69%) 隣 接す る 交差 点 を通 過
①会 場 集 客
②エ リ ア への 誘 導
③展 示 前 への 誘 導
④展 示 内 への 誘 導 展
示
★前 の通 路 に入 る
73%
69%
V7 側 から
(45%)
V4 側 か ら
(24%)
65%
92%
37%
図 14 パイプライン分析結果
計算方法としては,図
13
のように,各交差点において 特定のゲートから入った人が左折・右折・直進する確率 をそれぞれ算出しておく.それによって特定の経路(例 えば入口→交差点V1→V3→V5→V4)を辿る人の数を各
交差点での確率を乗算することによって算出できる.こ れによって,入口から交差点V4
まで通る(ただし交差点E47
を通らない)経路を網羅的にリストアップすると,交 差点V4
に到達する人数が26%であることを試算できる.
同様にして,交差点
V4
に到達した人がゲート13
を通っ て通路E47
に入る確率から,通路に入る人数が求められ る.④の展示内への誘導については,別途展示前通路のFIT2015(第 14 回情報科学技術フォーラム)
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軌跡を計測し,通路の通行者に対する展示内への入場者 の比率を算出したものである.
図
14
のパイプライン分析によって対象空間における以 下の2
点の課題,特定の交差点から目標方向に顧客を送客 する力,通りがかった顧客を特定エリアに引き込む集客 力に関する課題が発見された.・『送客力』の問題
交差点
V4
側に到達する人数が26%と低い
・『集客力』の問題
交差点
V7
側から通路に入った人のうち,入店した人数が
46%と低い
(b)
施策提案(a)で発見された問題の原因を検討すると,空間設計者
が期待していた顧客の動線は図15
のように各交差点に設 けられたテーマステージで曲がる経路であったが,実際 にはその通りには移動していなかったからであるという ことがわかった.特に,④展示内への誘導において左右 で入店する比率に差が付いたのは,左側入口には動画の ディスプレイを置いて顧客を誘導したが,右側入口には そのような仕組みがなかったことが影響したからである と考えられた.入口
出口 テーマ
ステージ
テーマ ステージ
テーマ
ステージ テーマ
ステージ
テーマ ステージ
図 15 顧客の想定移動経路
これを踏まえ,以下の施策を提案した.
・『送客力』に関する施策
交差点
V5
に案内板を置いて左折させる(交差点V4
側に誘導する)※ターゲット展示における入店率は V4
側から入る人の方が高いため,交差点
V5
においてV7
側に進む(直進する)人を
V4
側に誘導する(左折させる)と 最終的な入店者数の増加が見込める・『集客力』に関する施策
ターゲット展示内の
V7
側に動画を置き,通行者を内 部に誘導する(c)
施策評価(b)にて提案した施策(案内板の設置による送客,動画
による集客)の効果を評価するため,個別に簡易的な介 入実験を行った.①案内板の設置による送客効果
交差点
V5
に左折を促す矢印を記載した案内板を設置し,左折する人の比率を比較した(図
16).その結果,案内板が
ある時はない時よりも6%左折する人が増えた(図 17).
図 16 交差点 V5 への案内板の設置
(左折を促す狙い)
18%
24%
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
案内板なし 案内板あり 左に進む人の割合
図 17 案内板の効果(サンプル数 n=230 人)
②動画の設置による集客効果
情報を提供する媒体の差異による集客効果の違いを比 較するため,あるロボットの展示の両側に静止画(紙)
による解説と動画(タブレット)による解説を設置し(図
18),その周辺に滞在する時間を計測した.図 19
にエリア流入者数に対するタブレットまたは紙の周囲での滞在者 の比率を示す.この結果より,動画の方が静止画よりも
3%多く注意を引きつけたことを確認できた.
動画
(タブレット)
静止画
(紙)
図 18 説明手段(動画/静止画)による集客効果
の比較実験
60%
42%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
注意
(3秒以上の 立ち止まり)
興味
(5秒以上の 滞在)
57%
38%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
注意
(3秒以上の 立ち止まり)
興味
(5秒以上の 滞在)
(a)動画(n=964 人) (b)静止画(n=764 人)
図 19 集客効果
③総合効果試算
送客効果・集客効果の向上によって,最終的に増加す るターゲット展示への入店者数の見込み数を試算した結 果を図
20
に示す.①の結果より案内板の設置によって交 差点V5
から左折する(V4側に向かう)確率が6%増加す
ることでV4
に入る人数が4%増加し,②の結果より交差
点V7
側からの入店率が46%に対して 2%増加したとする
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と,最終的にターゲット展示内に入店する人数は
4%増加
する(37%から41%へ)との試算が得られた.これは本
展示会の2
日間の全来場者約4
万人に対して,ターゲット 展示内に入る人が約1,600
人増える見込みであると言える.★ に入 店 55%
→58%
左 から
(17→20%)
右 から
(20→21%)
46%
→48%
70%
全 入 場 者
(1 00
%
) 累積人数比:
100%
V4
(26→30%)
98%
98% →99%
→99%
誘導率
V7 側 から(69%) 隣 接 する 交 差 点 を通 過
① 会 場 集 客
② エ リ ア へ の 誘 導
③ 展 示 前 へ の 誘 導
④ 展 示 内 へ の 誘 導 展
示
★前 の通 路 に入 る 73% 69%
→71%
V7 側 から
(45→42%)
V4 側 から
(24→28%)
65%
92%
37%
→41%
図 20 送客力・集客力向上による入店者数の
増加見込み
5. 考察
5.1
人流分岐モデルによる移動パターンの定量化 本研究では,提案した人流分岐モデルを適用すること で,図14
に示したようにパイプライン分析を定量的に生 成できることを示した.人流分岐モデルを使うことで,移動軌跡データが途切れるという課題を克服し,断片的 なデータの集合から空間全体の整合性が合った状態で移 動パターンを定量的に示すことができた.本モデルは,
人が通る空間をグラフ理論に倣って交差点(頂点)と通 路(辺)のみで定義し,各交差点の入出場者数,各通路 の入出場者数を制約条件として,信頼性の高い(正確に 計測できている可能性が高い)地点を優先し,信頼性の 低い地点の値を補完していくことが特徴である.
今回行った実験は,実空間マーケティングを想定した 初めての大規模な計測実験であり,混雑し過ぎる場合や,
予想外の障害物(レーザーの前に人が立つ,可動式看板 が設置されてしまうなど)によって移動軌跡が途切れる ことが明らかになった.レーザーの設置個数を増やすこ とで改善可能であるが,当然費用のトレードオフとなる.
よって,来場者の軌跡を入場から退場まで全て追跡でき ないという前提で,空間全体の移動モデルを作る本手法 は,パイプライン分析を行うために必要不可欠となる.
今回の結果から,パイプライン分析の誘導率(図
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にお ける,左の棒グラフから右の棒グラフへの遷移比率)が,機会損失の大きさを表しており,これに着目することが 施策提案の着目点を決定するために有用との知見が得ら れた.さらにパイプライン分析と人流分岐モデルを用い て試算することで,図
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に示したように,部分的な改善 施策がもたらす最終的な効果(ターゲット店舗への入場 者数や,特定商品の購買)を説明できることが確認でき た.従来では,空間内のデザインの変更や,イベントな どを実施した場合に,その商業的な効果を見積もることは非常に困難であった.しかしながら,本技術によって 間接的な影響を考慮して効果を定量化することが可能に なり,今後の空間設計の
PDCA
の高速化が見込める.5.2 今後の課題
人流分岐モデルの生成における課題としては,再現性 の低さが挙げられる.図
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にフローチャートを示したよう に,本モデルはデータの信頼性の高さを決める基準が主 観的だからである(現在では図5
のように計測された座標 を 目 視 確 認 し , 交 差 点 や 通路の信頼性を優先付けてい る).よって今後は,座標値毎にデータの信頼性の高さ を評価する基準を設け,補完する順序を定義することが 必要である.これによって,再現性の向上が期待できる.6. おわりに
本研究は,大型店舗や公共施設における消費(購買,
展示の閲覧)を最大化するために,顧客の行動プロセス をパイプライン分析によって定量化することを目的とし,
断片的な軌跡データの集合から交差点での分岐確率を推 定する人流分岐モデルを提案した.本提案モデルを実デ ータに適用した結果,パイプライン分析の定量化を実現 し,さらに集客・送客に関する課題の発見と改善施策の 実施・検証に利用できる有用性を確認した.これによっ て人流計測データをマーケティングに活用できる見込み を得た.
今後の課題は以下の通りである.
・ 人流分岐モデルにおける再現性向上
・ 計測の信頼性評価基準の定義
謝辞
本研究を進めるにあたり,実験にご協力いただいた皆 様,ご助言頂きました皆様に深く感謝いたします.
参考文献
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吉田順, 辻聡美, 田中毅, “ヒューマンビッグデータが切り開く 新しいIT
ソリューション”, 日立評論, Vol. 95, No. 10, pp. 658- 661, (2013)
[3]
野宮正嗣, 瀬戸宏一, 原英一, 土肥真梨子, “施設経営を高度化す る空間データ・マネジメント”, 日立評論, Vol. 96, No. 10, pp.
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[4]
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年4
月時点[5] Akinori Asahara, Nobuo Sato, and Masatugu Nomiya, “Pedestrian- flow Analysis System Improving Exhibition Events”, 14th International Symposium on Spatial and Temporal Databases, 2015 [6] ATR, “
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p.com/products/HumanTracker.html, 2015
年4
月時点[7]ジック株式会社, “レーザー測定システム”
http://www.sick.jp/product/automatic/laser/, 2015
年4
月時点FIT2015(第 14 回情報科学技術フォーラム)
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