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シリア内戦とレバノン

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Academic year: 2022

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シリア内戦とレバノン

小副川 琢

(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所機関研究員)

はじめに

2011年3月に本格化したシリアにおける反体制の動きはその後、政権側の強硬な対応も あって武装闘争が大きな比重を占めるようになっている。こうした中で、国際社会はこれ まで事態打開に向けて様々な手立てを講じてきたが、最近になって和平に向けた動きが加 速化している。この背景には、「イスラーム国(IS)」の存在が世界的な脅威になっている ことや、多数のシリア人難民が欧州諸国を中心に押し寄せていることがあり、同国で生じ ている事態を放置することはできない、との国際的なコンセンサスが成立している。

そこで、本レポートにおいては最初にシリア情勢を概観したうえで、国際社会による紛 争解決に向けた取り組みについて考察する。他方で、シリア情勢の安定化に向けた試みが 周辺諸国を中心に様々な影響を与えると想定される中で、同国と歴史的にも関係が深いレ バノンに焦点を当てて考察する。

1.情勢概観

(1)「内戦」という捉え方

現在のシリア情勢をめぐっては、「紛争」や「内乱」、「騒乱」、「反乱」という捉え方もな されているが、本レポートでは「内戦」というタームを使用している。そこで、同国の情 勢を「内戦」と形容するのが妥当かどうかを予め検討する必要があろう。

現在では当たり前に用いられている「シリア内戦」というタームではあるが、同ターム を用いて同国の情勢を捉える際には留保条件が存在することは指摘しておかなければなら ない。と言うのも、「内戦」とは、基本的には同一国家に属する帰属する集団が武力を用い て国家権力掌握のために闘争を繰り広げている状態、を意味するからである。そして、ア サド政権とシリア人主体反政府勢力(以後、反政府勢力と略記)、ISが三つ巴の武装闘争を 繰り広げている中で、ISは戦闘員3万人強のうち、半数が外国人戦闘員であることからシ リア国家に帰属する集団とは言い難く、また中央政府の権力奪取にプライオリティを置く よりも、むしろ支配領域拡大のために「破綻国家」の状況が長く続くことを好んでいるよ うに見受けられるのである。

ゆえに、「ローカルな」勢力と見なすことが難しい IS が、最近は欧米諸国やロシアによ

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2 る空爆により支配領域をかなり減少させていると報じられているものの、依然としてシリ アにおける主要なアクターであることから、「シリア内戦」という用語の使用には注意が必 要なのである。だが、アサド政権対反政府勢力といった構図が厳然と存在することや、政 権の帰趨が依然として国内・国際的に大きな存在であること、さらにはISに対する国際・

国内的な掃討作戦が「異分子」を排除し「内戦の構図」に戻すための試みとも解釈可能な こと、などを鑑みるに、「シリア内戦」というタームは現状を捉えるに充分な妥当性を持っ ていると考えられる。

(2)多面的な武力対立状況

それでは、シリアにおける内戦状況は具体的にどのような様相を呈しているのであろう か。アサド政権、反政府勢力、IS という構成単位から考えてみると、アサド政権対反政府 勢力、アサド政権対IS、反政府勢力対ISという戦闘構図の組み合わせが導き出せるが、現 場レベルでは政権軍とISが石油の密売などで協力していると度々言われ、また反政府勢力 の一部がISと戦術面で共闘したこともあった。

このうち、アサド政権に関しては、シリア政府軍や複数存在する治安組織はもとより、

国内民兵勢力である「国民防衛旅団」も戦闘に従事している。他方で反政府勢力の側は大 まかに「世俗勢力」、「スンナ派勢力」、「アル=カーイダ系」に大別可能である。世俗勢力 の代表例としては「自由シリア軍」や、「クルド人民保護部隊」(YPG)などのクルド勢力 があり、スンナ派勢力としては「イスラーム戦線」(「イスラーム軍」や「シャーム自由運 動」などから構成)が影響力を有している。アル=カーイダ系は「ヌスラ戦線」であるが、

イスラーム戦線の構成勢力の一部やヌスラ戦線が戦術的にISと連携する場合もあることに は留意が必要である。事実、2015年4月には、ダマスカス中心部からわずか7キロのヤル ムーク・パレスチナ難民キャンプを、ISがヌスラ戦線などの助力を得て掌握したのである。

このように、反政府勢力側は 3 つのグループに分類できるが、非常に多数の組織から構 成されており、組織間の統廃合は進んでいるとは言えない状況である。この背景には、「シ リア国民連合」(2012年11月に反体制派の政軍両面における統括組織として結成)内に設 置された「軍事評議会」が、全く機能を果たしてこなかったことがある。自由シリア軍や その他の武装組織を傘下に置くことが想定されていたのであるが、自由シリア軍でさえ一 枚岩ではないことから、同評議会による武装組織の統制が実現されることはなかったので ある。

こうした中にあって、アサド政権側は外部からの支援として、レバノンのシーア派組織

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「ヒズブッラー」やイラクのシーア派民兵、イランの「革命防衛隊」、さらにはロシアによ る軍事支援を得て、反政府勢力やISに対する作戦に乗り出している。他方で、反政府勢力 側に関しては、「世俗勢力」は米国などの欧米諸国を中心に、そして「スンナ派勢力」はサ ウジアラビアを筆頭とする湾岸アラブ諸国を中心に、外部支援を受けている。とりわけ、

ロシアは政権側からの要請に基づき「合法的に」支援を行っていることから、その規模は 圧倒的であり、また戦局に影響を与えている。アサド政権側が北のアレッポからハマー、

ホムス、ダマスカスを経て南のダルアーに至るシリア随一の基幹エリア「南北回廊」と、

アサド家の本拠地があるラタキアが存在する地中海沿岸地帯に焦点を当てた軍事作戦を発 動してきている中で、一定の効果を上げているのはロシア、さらにはヒズブッラーによる 助力が大きいように思われるのである。

だが、シリア北東部から北西部にかけてはISが広大な地域を押さえているほか、クルド 人による自治地域も存在しており、アサド政権による支配力回復の見込みは立っていない。

政権側が押さえているエリアの総面積はシリア全土の20~30パーセントに過ぎないとも言 われているが、他方で「南北回廊」と地中海沿岸地帯は人口・経済が集中していることか ら、支配領域の割合だけで情勢を判断するのは危険である。とはいえ、ラッカやイドリブ といった県都をISやヌスラ戦線にそれぞれ掌握されており、また、アレッポは政権側とIS、

反政府勢力によって都市機能が分断化されている。さらに、ダマスカス中心部は近郊から のロケット攻撃や自爆テロが時折発生しているものの、政権側が基本的には圧倒的な優位 に立っているが、郊外では反政府勢力によって押さえられている地区が存在している。し たがって、アサド政権、反政府勢力、さらにはISのどれもがシリア全土を支配する可能性 を有しておらず、ある程度の「勢力均衡」が存在していると言えよう。

2. 国際社会による紛争解決に向けた試み

シリアにおいてこのように「勝ち組」が存在する見込みのない状況は、紛争解決プロセ スにとってどのような意味合いをもつであろうか。こうした場合、アクターが「合理的」

であるならば、戦闘継続と戦闘停止それぞれから得られる利益を天秤にかけ、後者が前者 を上回るならば、停戦が成立する。ただ、シリアの場合においては、アサド政権側は反政 府勢力の正当性を基本的には認めておらず、他方で反政府勢力の側はアサド大統領の退陣 を求めていることから、国内アクターが「合理性」だけで行動するとは想定できない状況 にある。

そこで、重要となってくるのが国際社会の関与であり、とりわけ米ロ両国の動向である。

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4 2015年10月から11月にかけて開催された「ウィーン和平国際会議」においては、米ロ両 国や主要地域諸国が参加した結果、最終的には11月 14日に以下の点が合意されたのであ る。すなわち、(1)2016年1月1日を目標に、政府側と反政府側が公式交渉を開始するこ と、及び交渉開始と並行して全土における停戦を実現すること、(2)6 か月以内を目標に、

包括的な移行政府を樹立し、新憲法制定に向けた手続きを開始すること、(3)18か月以内 に、新憲法に基づく選挙を実施すること、であり、12月18日には上記合意内容がほぼ反映 された安保理決議第2254号が成立するに至ったのである。

こうしたことから、国際的な合意に基づく和平に向けたタイムスケジュールが設定され たものの、その後の反応は芳しいものではなかった。アサドは11月19日に、「テロリスト」

が国内にいる限り移行プロセスは開始されない、と発言した。他方、反政府勢力側はアサ ドの退陣が明言されなかったことから、合意内容そのものを評価しなかったものの、和平 プロセス履行に向けた準備は進めた。12 月 9日から10 日にかけて反政府勢力各派がリヤ ドで会合し、政権側との合同交渉団の設置に合意したが、クルド人勢力は招待されず、同 時期にクルド人だけで別の会合を開催した。

3.レバノンへの影響

既述のように、シリアおいては和平へのタイムスケジュールが国際社会の総意によって 設定され、その行方が注目されている。だが、ISやヌスラ戦線といった和平プロセスから 疎外されている勢力による妨害工作は想定されるところであり、欧米諸国やロシアはこれ ら組織に対する攻撃を激化させることであろう。その場合、ISやヌスラ戦線に属するメン バーがシリアから撤収し、トルコやイラク、ヨルダン、レバノンといった周辺諸国へ流入 し、これら諸国の治安が悪化する可能性が存在する。その中では、ISが既に相当な支配領 域を有しているイラクに、とりわけ同組織の多くのメンバーが逃れる可能性が高いと思わ れるが、レバノンにもかなりの数が流入すると考えられる。というのも、レバノンはシリ ア周辺諸国の中で最も中央政府の権威が弱く、また両国間の国境線(370キロ)には36か 所以上の帰属不明地点が存在し、非政府集団が国境を跨いでかなり自由に行き来すること が可能だからである。

それでは、レバノンで IS やヌスラ戦線はどのような活動を展開してきたのであろうか。

ISはすでに、レバノン国内に30か所程度の拠点を有しているとも言われているが、ヌスラ 戦線とともに基本的には対シリア国境地帯のレバノン北東部が活動拠点であり、ヒズブッ ラーがシリアのアサド政権に軍事支援を行っていることに対する報復攻撃を行っている。

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5 しかしながら、2014年1月にはベイルートにおけるヒズブッラー支配地区(通称「ダーヒ ヤ」)への自爆攻撃(2 回)に関して、IS(当時は ISIS:「イラクとシャームのイスラー ム国」)とヌスラ戦線がそれぞれ犯行声明を発した。また2014年6月20日には、ベイル ートの中心街であるハムラー地区において、ISIS メンバーが拘束されるという事件が発生 した。

こうした事件が発生したことから、レバノン政府軍や治安部隊がダーヒヤにおいてはヒ ズブッラーと協力しながら警備を強化し、またその他の地区や空港においても警戒を強め た。その結果、しばらくは平穏な状態が続き、ゆえにベイルートの治安状況に政府も自信 を深めていたものの、2015年11月12日には南ベイルートのブルジ・バラージナで連続自 爆攻撃が起こり、死者 40 数名、負傷者 200 名以上となる大惨事が発生した。事件後、IS が犯行声明を出したが、現場はダーヒヤから 1 キロ程度離れたシーア派地区で、しかもヒ ズブッラー支持者が多く居住していることから、ダーヒヤの警備がかなり厳しくなってい る中で、隣接しているブルジ・バラージナが犯行現場として選ばれたと思われる。

終わりに

以上述べてきたように、内戦状態に置かれているシリア国内はアサド政権と反政府勢力、

そしてISの関係性がかなり複雑であることに加え、多くの地域・域外諸国がそれぞれの思 惑からアクターを支援しており、シリアは地域政治の「主体」から「客体」へと変化した ようである。こうした状況は、かつてのレバノン内戦(1975~1990年)を彷彿させるがゆ えに、「シリアのレバノン化」とも言えようが、同内戦が地域・国際社会のインセンティブ によるターイフ合意により終結の道筋を付けられたように、シリアにおいても同様な動き が生じつつあり、政府及び一部の反政府勢力は2016年1月25日にジュネーブで開催予定 の和平協議に向けた準備を進めつつある。

このことは自体は無論望ましいことであるが、IS やヌスラ戦線が和平プロセスから疎外 されている状況は、シリアのみならず周辺諸国の情勢悪化をもたらす可能性を秘めている。

とりわけ後者に関しては、中央政府の権威が弱く、すでにISやヌスラ戦線による活動が見 られているレバノンにおける事態の展開に留意が必要であろう。

参照

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