■ 短 報
看護基礎教育における倫理教育の実態調査
The present status of nursing ethics education in Japanese nursing colleges and schools: a survey
山本 真弓
1鷲尾 昌一
2入部 久子
2Mayumi YAMAMOTO Masakazu WASHIO Hisako IRIBE
キーワード :看護基礎教育、看護倫理教育、基礎看護学実習
Key words : basic nursing education, nursing ethics education, the basic nursing practicum
本研究の目的は、看護基礎教育における基礎看護学実習前後の看護倫理教育の実態を明らかにすることである。
2007年5月~7月看護基礎教育機関685施設の教育担当者に45項目の倫理教育実態調査を行った。結果、有効回答は
85施設、回答率12%(内訳:看護学校56、短大3、大学26)。基礎看護学実習の開講時期は1・2年次が多く、実習前 の倫理教育の報告は72施設(84.7%)に比べ、実習後の倫理教育48施設(56.4%)と少ない結果であり、実習後の臨床 経験に基づく教育の機会が不足していた。また看護倫理教育は科目として構築されておらず、構築する必要あり53
(62%)、必要ない13 (15%)、どちらでもない16 (19%)、無回答3 (4%)であり、大学の教育担当者と看護専門学校 の教育担当者間の科目構築の必要性に関する認識にはp値0.07と有意な差はないが、差の傾向が見られた。回答者の 年齢は51±8.6、臨床経験年数13±7.4である。
Ⅰ.緒言
現在、医療や介護、福祉に携わる看護職は、医療環 境の変化に伴う生命倫理の課題である「生命の始まり の問題」、「命の終わりの問題」、「インフォームドコン セント」、激動する社会状況に伴う「医療資源の活 用」、「研究における倫理」、「保健政策における倫理」
など、様々な倫理的問題を抱えている1, 2。人権問題 にとどまらず、生活上の権利や人々の医療サービス消 費者意識の変化、重症患者の増加等、看護人員の不足 や現場の多忙さ、医療事故やインシデントの多発など 多彩である。
日本看護協会は、1988年に看護師の行動指針であ る「看護師の倫理規定」を示したが、看護専門職を取 り巻く状況の変化に対応すべくICN「看護師の倫理綱 領(2000)」、ICN「看護研究のための倫理ガイドライ ン(1996)」、厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針
(2003)」に照らし、2003年「看護者の倫理綱領」と改 訂し普及啓発に努めている。
片田(2002)3は、看護倫理教育が歴史的変遷を経て
今日に至っており、明治時代の翻訳本には、看護倫理 について、「看護の職としての自律、患者への最善を 尽くし、害を未然に防ぐ事(坪井,1989; 高橋,1989;
山根,1989; 井口,1925)」とが書かれているとして いる。しかし、その後は、軍国主義も背景にあり、
「看護師の人としての特性や医師への従順、身だしな みの整え方や行動の仕方を示したものが主流」とな り、1960年代には、これまでの看護倫理の考え方に 批判が現れ、教科書での取り扱われ方も変わり、看護 学概論の中に含まれるようになり、必ずしも看護倫理 として表現されなくなったとしている。その結果、教 育の内容は個々の教員の裁量内となって4, 5今日に 至っている。
また、これら看護倫理教育の歴史的な変遷には、
1968年のカリキュラム改正(看護倫理が看護管理の 一部として扱われ、以後、科目から削除される)や指 定規則の動きも原因であった3, 6としている。近年、
医療法や保健師助産師看護師法が改正され、日本医療 機能評価の評価体系では平成12年(2002)4月から
「患者の権利と安全性の確保」の領域が新たに明示さ 1 日本大学大学院総合科学研究科 Advanced Research Institute for the Sciences and Humanities, Nihon University
2 聖マリア学院大学 St. Mary s College
れ、看護師はインフォームドコンセントを促進する役 割を担うこととなり、これまで医師や助産師だけで あった守秘義務は看護師や准看護師や保健師にも求め られるようになっている。
2001年(平成13年)「看護学教育の在り方に関する
検討会」文部科学省ならびに厚生労働省は、「新たな 看護の在り方に関する検討会」や「臨地実習における 看護学生が行う基本的な看護技術水準」の看護職員と して必要な基本姿勢と態度についての到達目標の中に 倫理的行動指針を盛り込んだ。「大学教育における看 護実践能力の育成の充実に向けて(2002)」7、「看護実 践能力の育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標
(2004)」8において、看護系大学協議会・平成15年度 看護実践能力の到達目標ワーキンググループは、看護 の実践に求められる能力として「Ⅰ.ヒューマンケア の基本に関する実践能力」「Ⅱ.看護の計画的な展開 能力」「Ⅲ.特定の健康問題をもつ人への実践能力」
「Ⅳ.ケア環境とチーム体制整備能力」「Ⅴ.実践する 中で研鑽する能力」以上5つをあげており、そのうち 倫理に関する能力は「Ⅰ.ヒューマンケアの基本に関 する実践能力」の中に提示した。同協議会の「看護研 究倫理委員会」では、「看護の倫理教育は単に科目と して開講しているだけでなく、人間の尊厳と権利を基 盤にした構築されたカリキュラムの中で展開されるも の」と位置づけ、看護実習に関わる教員、臨床家を対 象として系統立てた看護倫理に関する教育の普及が急 務と指摘している。つまり看護基礎教育、継続教育を 問わず、看護専門職としてヒューマンケアの基本に根 ざした実践的な倫理的意思決定能力を育むことが急務 とされているといえる。
教育実態調査は、片田(2002)3によると1990年代 になって、山田ら9によって看護学校3年課程を対象 に行われ、回収率60%、看護倫理学として科目を開 講している学校は16.3%、倫理学、生命倫理学、医 療倫理を含めると52.5%の学校で独立した科目とし て教育がなされている。看護倫理教育の重要性は、こ れまでに「日本看護科学学会看護倫理委員会」での看 護基礎教育の実態調査や、厚生労働省による「看護基
礎教育の充実に関する検討会」での指定規則の改正方 針から鑑みてすでに明らかである。看護教育のレベル アップも叫ばれている中、看護倫理を「看護倫理学」
として教授する必要性の是非も問われている。日本に おいて、ヒューマンケアリングの根本である看護職者 の信念や価値観、看護観を構築する基盤を学問として どのように教授するのかという課題もある。教育方法 もトップダウンでは効果がなく、理論からではなく実 践事例などのケースから学ぶこと、小グループで自由 に意見交換できる場が重要といわれている。チーム医 療を念頭において専門職間の教育も求められており、
大学で共に学ぶプログラムの開発も課題とされてい る。
現在は、看護倫理教育の充実を図るための教育方法 の検討が必要6であり、看護基礎教育課程における看 護倫理に関する教育内容・方法・教材などの早急な開 発が望まれている。基礎教育において臨地実習は、学 習した知識・技術の応用だけでなく、ケアを通して、
また看護職者の行動から看護観を育成し現場での倫理 問題への対処方法を学習させる場でもあり、看護倫理 教育の絶好の機会と成りうる。このような状況をふま え、本研究では初学者が複雑に変化する現代の医療社 会の中で看護の専門的知識・技術から実践(経験)を 通して創造力を身に付け、個別の倫理的事象に対応し うる能力を得るに、基礎看護学領域においてどのよう な教育プログラムを準備する必要があるかを検討した い。
Ⅱ.本研究の目的
本研究は、看護基礎教育「基礎看護学領域」におけ る看護倫理教育の実態、特に基礎看護学実習前後の授 業科目および学習内容、教育者の倫理的問題に対する 認識、ならびに教育者の看護倫理学樹立の必要性の認 識について調査することを研究目的とする。
Ⅲ.用語の定義
1.看護倫理
看護倫理は、倫理の考え方を看護の分野に応用した 応用倫理の一つである10。看護倫理とは、人間の尊厳 と生命の尊重という倫理的な大原則に照らし、ケアを 実践する中で、患者の人権を擁護すること、また、看 護師として倫理的問題に対する判断や論拠を探究する ことであると本研究において規定する。
2.看護倫理学
看護倫理学はナースが行う判断の倫理的分析であ る。「看護倫理」は、哲学と倫理学における一つの分 野として位置づいている11。また、看護倫理学は、知 を体系化したものである。したがって、看護実践にお ける道徳的側面を記述し、看護実践で用いられる言語
図1 基礎看護学実習の開講時期
やその理論的基盤を哲学の伝統的・現代的分析方法を 用い査定し、看護実践の目的に関する規範を示したも の12と規定する。
3.看護倫理教育
「看護倫理」「看護倫理学」を教授する目的で行われ ている教育活動とする。
Ⅳ.研究方法
1.調査対象者
日本看護系大学協議会に2007年4月時点で加入し
ている158校を含む685施設の基礎看護学の教育担当
者。
2.調査期間
2007年5月〜7月(2ヶ月間)。
3.調査方法
鷲尾ら13が「厚生労働行政施策の基盤となる疫学研 究の適切な推進に関する研究」の中で、疫学研究にお
いて倫理教育の実態調査を行っているものを参考に作 成した看護基礎教育における実習前後の教育内容およ び方略、科目の位置づけ等に関する45項目の質問紙 法による無記名式の調査を行った。調査協力依頼文と 調査票および返信封筒を送付、返信のあったものを データとした。
4.調査項目
質問紙の内容は45項目①基礎実習の開講時期、② 実習前の倫理教育3つ(1 科目名,2 開講時期,3 時 間,4 内容,5 具体的な教育方法,6 教材,7 その 他)、③実習後の倫理教育3つ(1 科目名,2 開講時 期,3 時間,4 内容,5 具体的な教育方法,6 教材,
7 その他)、④看護倫理学を構築する必要性とその理 由、⑤直近3年間の臨地実習指導、⑥直近3年間の臨 地実習指導4領域まで(1 領域,2 対象学生,3 担当 時間数,4 学生と指導教員の対話頻度,5 学生と臨 床指導者の対話頻度)、⑦基礎看護学領域にどのよう な方が関与、⑧実習指導をする際に特に気にかけてい ること、⑨実習指導において、基礎看護学領域に限ら
表1 回答者の基本属性
項目 M2±SD n
1.年齢 51±8.6
2.性別 男性 3 3.5%
女性 77 90.5%
無回答 5 5.8%
3.臨床経験年数 13±7.4
4.教育経験年数 15±8.7
5.一般学歴 1)高校卒 21 24.7%
2)短期大学卒 2 2.3%
3)大学卒 27 31.7%
4)修士課程 20 23.5%
5)博士課程 9 10.5%
6)無回答 6 0.7%
6.学士の有無 1)博士 11 12.7%
2)修士 16 18.6%
3)学士 22 25.5%
4)准学士 2 2.3%
5)学位なし 27 31.3%
6)無回答 8 9.3%
7.有資格 1)看護師 79 68.1%
2)保健師 17 14.6%
3)助産師 9 7.7%
4)その他 5 4.3%
5)無回答 6 5.1%
8.海外留学経験 1)有り 11 12.9%
2)なし 64 75.2%
3)無回答 10 11.7%
ず過去にどのような倫理的問題に直面したか、その具 体的内容および対処についてどなたの体験かを選択し
3つまで(1 どのような関係間での問題,2 具体的な
内容,3 対処,4 理論またはモデルを複数回答可)、
⑩特性について(1 設置主体,2 解説年度,3 宗教に 基 づ く 教 育 理 念,4 看 護 学 部 ま た は 学 科 の み か,
5 併設学部,学科状況)、⑪他の学部・学科と共に倫 理を学ぶ機会の有無、専門職種間の倫理教育(1 プロ グラムの開発の必要性,2 開発に取り組んでいる,
3 キーワード5つ)、⑫今回のアンケート調査に関す る自由記載、⑬対象者の基本属性(1 性別,2 年齢,
3 臨 床 経 験 年 数,4 教 育 経 験 年 数,5 一 般 学 歴,
6 学位の有無,7 有資格,8 海外留学経験)の看護基 礎教育における看護倫理教育の実態に関する質問から なる。
5.解析方法
単純集計、群間の比較にはx2検定を用い、5%未満 を有意とした。本調査では、主に1)基礎看護実習開 講時期、2)実習前後の看護倫理教育、科目、時間、
具体的な教育方法、3)看護倫理学を構築する必要性 の有無とその理由について分析した。また、自由記載 等記述データは、クリッペンドルフの内容分析の手法 を用い質的に分析した。
6.倫理的配慮
本研究2007年4月24日、筆者の所属する大学倫理 委員会の承認を得て実施。質問紙は個人が特定される ことのないよう講座名、領域名のみの記入とした。調 査協力依頼文と調査票および返信封筒を送付、調査協 力は自由意志を尊重し同意の得られた対象者から後日 の調査票を各自で投函する郵送法とした。また返却さ れた調査票は、入力業者により入力。その後データの みを分析対象とし、調査票は破棄することとした。
Ⅴ.結果
質問紙を郵送した685施設(看護学校482、大学 158、短大45)中、回答を得られたものは、85施設
(回収率12%)。施設別回収率は看護学校12%、大学 16%、短期大学7%である。85施設の内訳は看護学校
66%、大学31%、短期大学3%である。85全施設の
回答を分析対象とした。
1.回答者の基本属性
回答者の基本属性(表1)は、1)平均年齢51歳(SD
±8.6)、2)性別(男性3.5%、女性90.5%)、3)臨床 経 験 年 数13年(SD±7.4)、4)教 育 経 験 年 数15年
(SD±8.7)である。
2.基礎看護学実習の開講時期
今回、看護倫理教育の前提条件とした基礎看護学実 習の開講時期(図1)は、総回答数136中1年次が89と 半数以上を占め、1年次前期44(33%)、1年次後期45
(32%)、2年次前期24(18%)、2年次後期16(12%)
の順である。基礎看護学実習の開講時期は1年次89
(65%)が最も多く、開講パターンは、単年開講のシ
ングル41校(49%)、多年次にわたり開講されている
ダブル26校(31%)、トリプル17校(20%)、約半数 は単年次に開講されている。
3.実習前後の看護倫理教育科目
基礎実習前と後に開講している看護倫理教育科目を 最大3つまで、科目ごとに看護倫理の基礎知識として 教えている内容をキーワード5つまでとし回答を得 た。
実習前倫理教育(表2)はn=72総回答数91(複数回 答可)のうち看護学概論33、基礎看護学概論・総論
11、基礎看護学方法論8などの専門科目64(70%)、
医療概論4などの専門基礎科目8(9%)、倫理学3など の基礎科目9(10%)、実習10(11%)である。実習後 は、n=48総回答数65(複数回答可)のうち看護学概
論10、看護倫理7、基礎看護学概論4、看護研究4な
どの専門科目40(61%)、医療倫理3などの専門基礎 科目9(13%)、倫理学5、生命倫理3などの基礎科目 14(22%)、実習2(3%)となっている。看護倫理は、
実習後の実習科目内では、ほとんど学習されていない ことや専門科目、基礎科目がシラバス上では実習後に 配置され学ぶ機会となっていた。
4.看護倫理教育の授業時間数
基礎実習前に開講している看護倫理教育科目の問い に答えている調査回答者は全体の72名(84.7%)であ り、 実 習 前 の 授 業 時 間 は 図2に 示 す 通 り、90分
(44%)が最も多く、180〜270分(22%)、360分以上
(24%)、無回答10%の順である。一方、実習後に開 講している看護倫理教育科目の問いに答えている調査 回答者は全体の48名(56.4%)であり、実習後の教育 時 間 は90分(11%)、180〜270分(18%)、360分 以 上(34%)、無回答37%。実習後に教授する時間は延 びている。しかし、そもそも実習後に開講している施 設が、全体の48名(56.4%)と少ない現状であり、看 護倫理を教授するのに十分な教育時間であるとは言い 難い。
5.教育ストラテジー
具体的な教育手法については、科目回答ごとに 1 講 義、2 演 習、3 ケ ー ス ス タ デ ィ、4 イ ン タ ビュー、5 PBL、6 自己分析レポート、7 SP参加型 演習、8 その他の8つの選択肢から複数回答可として
回答を得ている。倫理教育方略(図3)、実習前の科目 91の教育方略は総回答数196中、講義が110(56%)
と 最 も 多 く、 演 習33(17%)、 ケ ー ス ス タ デ ィ20
(10%)、インタビュー2(1%)、PBL2(1%)、自己分 析レポート2(1%)、SP参加型演習6(3%)、その他8
(4%)、無回答13(7%)となっている。実習後の科目
65の教育方略は総回答数175、講義64(37%)、演習
29(17%)、ケーススタディ26(15%)、インタビュー 1(1%)、PBL3(2%)、 自 己 分 析 レ ポ ー ト6(3%)、
SP参 加 型 演 習2(1%)そ の 他6(3%)、 無 回 答38
(22%)であり、実習の前も後も、講義形式の手法が 多くの施設で使われている。
表2 倫理教育科目回答一覧 基礎看護学実習前‒実習後対比表
実習前 n=72(複数回答) 実習後 n=48(複数回答)
専門科目 看護学概論 33 64
専門科目
看護学概論 10 40
看護学総論 1 看護学原論 2
看護学原論 4 基礎看護学概論 4
看護実践学原論 1 看護管理概論 1
基礎看護学(概論・総論) 11 看護研究 4
看護基礎理論 2 看護倫理 7
基礎看護学方法論 8 看護倫理学 2
看護管理 1 現代看護の動向Ⅱ 1
看護倫理学 3 基礎看護学Ⅳ 1
専門基礎 医療倫理(医の歴史と倫理) 1 8
成人看護学概論 1
生命の科学と倫理 1 成人看護学終末期 1
医療概論 4 ターミナルケア 1
ケアと倫理 1 小児看護学目的論 1
バイオエシックス 1 小児看護学方法論Ⅰ 1
基礎科目 生命倫理 2 9
母性看護学概論 1
倫理学 3 専門職看護論 1
人間社会と規範 1 特別講義臨床看護のジレンマ 1
現代とキリスト教 1 専門基礎
医療倫理 3 9
哲学 1 保健統計 1
道徳教養・教諭ゼミ 1 保健医療論 1
文化人類学 1 先端医療概論 1
実習 オリエンテーション 10 10 生命と倫理 1
看護哲学と生命倫理 1
看護哲学と倫理 1
基礎科目
生命倫理 3 14
倫理学 5
関係法規 1
人間学 1
哲学 1
人間科学 1
法と倫理 1
哲学、倫理 1
実習
基礎Ⅰ実習反省会 1 2
実習のまとめ 1
6.看護倫理学を授業科目として構築する必要性 看護倫理学を授業科目として構築する必要があると するものは、「強くそう思う」、「思う」ものを合わせ 53(62%)、必要がないとするものは、「思わない」、
「まったく思わない」ものを合わせ13(15%)、どちら でもないは16(19%)、無回答3(4%)であった。
また、大学の教育担当者と看護学校の教育担当者間 の科目構築の必要性の認識(表3)について有意差検 定をExcel2007により行った。ピアソンの責率相関係 数r=0.793を求め、t=2.258、TDISTから相関係数p 値を求めた。p=0.07、したがって2群間に有意差は 見られなかった。
看護倫理学を必要とする理由は、「専門職として重 要な資質を育てるため」、「ケースで考えさせるには概 論では時間数が足りない」などの67文脈単位の記述 回答があり、記述内容を分析すると、「学問として必 要である」、「専門性を高める」、「倫理観が希薄である ため」、「時間不足」、「倫理的実践」、「実習を通し学ぶ こと」を理由としている。また、必要ないとする理由
は16文脈単位あり、「内容を各専門科目で学習でき
る」、「看護倫理学とする場合を考えた」、「専門基礎科 目で学習できる」、「基礎科目で学習できる」などが記
述されている。どちらでもない理由は、17文脈単位 あるが、内容分析すると「教育は必要であるが、方法 は迷う」として、科目でなくてもできることを理由と していた。
7.実習指導体験
1)問5.臨地実習指導を担当したか。
直近3年間の臨地実習への関与をたずねた。「担当
した」56(69%)、「担当していない」22(25%)、無回 答4(6%)であった。担当した領域の総回答数110、
基礎看護学46(41.8%)、成人看護学19(17.2%)、老 年看護学16(14.5%)、精神看護学9(8.1%)、在宅看 護学8(7.2%)、母性看護学5(4.5%)、小児看護学4
(3.6%)、その他3(2.7%)であった。
2)基礎看護学領域の実習指導に関する事項 問6-1.領域
基礎看護学領域
問6-2.実習指導担当時の対象学生
総回答数102、1年生33、2年生23、3年生4、4 年生0、無回答42。
問6-3.担当時間数
総回答数85、30分未満0、30〜60分未満4、1時 間〜2時間未満7、2時間〜3時間未満4、4時間〜6 時間未満15、6時間以上18、無回答37。
問6-4.学生と指導教員の対話頻度
総回答数85、週1回未満0、週1回以上1、週2回 以上5、週4回以上41、無回答47。
問6-5.学生と臨床指導者の対話頻度
総回答数85、週1回未満1、週1回以上1、週2回 以上4、週4回以上40、無回答39。
問7.基礎看護学領域では、実習の指導にどのよう
な方が関与しますか。
総回答数113、常勤の教職員(教授・助教授・講
師・ 助 手)73(70.8%)、 非 常 勤 講 師12(11.6%)、
大学院生(全日)7(6.7%)、研究生(全日)0、教員 ではない研究員0、社会人大学院生・研究生など
(社会人などで毎日大学にいない人)1(0.9%)、そ の他10(9.7%)、無回答10(9.7%)である。
3)問8.実習指導をする際に特に気にかけているこ とはどんなことですか。
43人から自由記載の回答を得ているが、今回の 報告では省略する。
4)問9.実習指導において、基礎看護学領域に限ら ず、過去にどのような倫理的問題に直面されま したか。その具体的内容及び対処についてお聞 かせください。(3ケースまで複数回答可)
実習で直面した倫理的問題60例が報告された。倫 理的問題に直面していたのは、学生45、ご自身(教
員)7ケースであった。教育者は守秘義務や公平性、
患者の人権や安全に関するもの、学生の看護者として 図2 倫理教育法略 実習前後の比較
図3 実習前後の看護倫理授業科目分野間の比較
の振る舞いおよび学生のジレンマを問題としている が、学生は、医師、看護師、介護士の振る舞いに対す る人権の問題、本人の利益か家族の利益か、無害や善 行、自律の原則、関係性におけるジレンマを取り上げ ている。その内容は「身体拘束」、「オムツへの排泄」、
「認知症だから混浴」、「脳死患者家族に対する医師の 説明にそれでよいのか疑問」等である。
対処についての回答は、その場で口頭指導19、面
接32、カンファレンスによる意見交換29、インシデ
ントレポート報告10、インシデント分析5、倫理モデ ルを用い分析7、その他12である。その他に記載され ていたものは、「家族の要望に従う」、「記録を通して 指導」、「責任者と話し合い」、「ロールプレイング(ビ デオ撮影)」、「申し入れ」、「行動後振り返り」、「実習 グループに投げかけて考えてもらう」、「全学生に口頭 指導」である。理論またはモデルの使用は、トンプソ
ン&トンプソン生命倫理上意思決定モデル2、臨床倫
理の4分割表4、倫理の5原則(7原則)4、ピーター・
マドセンのVCR Framework 0、その他1となってい る。
8.教育機関の特性
問10-4.看護学部または看護学科のみである。
は い45(53%)、 い い え29(34%)、 無 回 答11
(13%)である。
9.他の学問領域の学生と倫理学を学ぶ機会の有無 一般教養で倫理教育があり他学部・学科も選択でき る15(18%)、看護学部・学科との医療系学部との共 通倫理プログラムがある5(6%)、看護学部・学科と 他の非医療系学部との共通の倫理教育プログラムがあ る2(2%)、 な し32(38%)、 無 回 答31(36%)で あ る。
10.専門職種間の倫理教育について
プログラム開発の必要性あり47(55%)、なし12
(14%)、無回答26(30%)である。
Ⅵ.考察
1.基礎実習前後の授業科目および教育内容
本調査は85施設からの回答である。基礎看護学実 習時期の総回答数136中、1年次開講は89(65%)、2 年次40(29%)を占めており、看護倫理教育は、72施 設(84.7%)で基礎看護学実習前に行われている。看 護倫理教育科目を実習前後で比較(表2、図3)してみ ると実習後の専門科目では「看護倫理」が7施設と
「成人」「小児」「母性」などの各論の科目名が散見さ れる。実習前の基礎科目「倫理学」が3施設であるの に対し、実習後は「倫理学」5施設と実習後に意図的 に倫理教育科目が配置されている。
荻野14は、看護倫理教育の方法としてこの方法がベ ストであるというシステムが示されてはいないが、学 生にどのような倫理観が育成されているか、カリキュ ラムあるいは学校全体の評価をすべきだとしている。
85施設中41施設(49%)は単年開講のシングルの実
習であることから、臨床経験に基づく看護倫理教育の 機会が不足している状況である。各論実習は一般的に 3年次に配置されるため、基礎看護学実習がⅠ、Ⅱ
(ダブル)またはⅠ、Ⅱ、Ⅲ(トリプル)と段階的に科 目建てされ、形成的に学習機会が設けられている場 合、臨床経験に基づく具体的な学びが可能となると考 えられる。
2.教育担当者の見解と教育科目
本調査の基礎看護学領域の教育担当者は、基礎実習 前に行われている教育について、本調査の回答者の自 由記載に「90分では何もできない。他の専門科目、実 習教育との連動を考えているところです。」「3年生に なって、論理学の講義を入れています。実習前に1年 次実習演習として言葉遣いや態度、姿勢について学習 しています。」「1年次前期では、学生にとって現実感 に乏しいため、適切な時期も検討する必要あり。」な どを振り返っている。教育内容を科目でみてみると、
実習前倫理教育総回答数91(n=72)中70%が専門科
表3 看護倫理学を構築する必要性に対する看護教員の認識
短期大学 大学 看護学校
n=3 n=26 n=56
1 強く思う 2 67% 7 27% 11 20%
2 思う 1 33% 7 27% 25 45%
3 どちらでもない 0 6 23% 10 18%
4 思わない 0 4 15% 9 16%
5 全く思わない 0 0 0% 0 0%
6 無回答 0 2 8% 1 1%
p値(VS. 大学・学校) p=0.07
目である看護学概論や看護学原論、実習のオリエン テーションの中で看護倫理教育が実施されている。こ れら基礎看護学実習前の教育法のほとんどが講義形式 で行われており、中尾(2007)14の看護教育者110名
(回収率41%)を対象にした調査で明らかとなってい るように、看護教育者が倫理教育に関する豊富なデー タや教材、教育ストラテジーをもっていないことが考 えられる。今回のデータは中尾らの調査群より5歳年 齢が高く、教育経験も8.2±6.8年に比べ、15±8.7年 と倍に近い長さの教育経験がある母集団であるため単 純に比較はできない。
3.看護倫理学樹立の必要性の認識
2004年看護大学104校を対象にした大西15の調査 では、43校より回答があり(回収率41.3%)、授業科 目としての看護倫理教育の必要性について「独立した 授業科目として充実を図るべき」が31校(72.1%)、
「独立した授業科目でなくてもよいが、充実を図るべ
き」が9校(20.9%)と9割以上が充実を図るべきと考
えている。
本調査でも、基礎教育の担当者は85施設中62.4%
が独立した授業科目を構築する必要性を感じている。
大学の教育担当者と看護学校の教育担当者間の科目樹 立に関する認識はp値が0.07であり有意差はないもの の、2群間に差がある傾向にあるといえる。
横尾ら(1993)1は、看護職が臨床現場で倫理上の問 題と感じた状況86件の報告から72件の内容分析を行 い、「①医療における情報提供」、患者が医療参加でき ない状況である「②医療への参加」、「③生死の決定」、
「④快適な療養環境」、「⑤不当な心身への侵害」など のテーマをあげているが、本調査では、直近3年間の 実習指導において、基礎看護学領域に限らず「直面し た倫理的問題」の事例を3つまでとし60事例の回答を 得た。倫理的問題60事例は学生と実習指導教員のど ちらの気づきとして報告されているか、倫理的問題は 何をテーマ、本質としているかについて、同質性、異 質性により分離・統合しながら分類し集合体を形成し た。また、対処方法の傾向を分析した。教育者は守秘 義務や公平性など学生の看護者としての振る舞いおよ び学生のジレンマを問題としているが、学生は、医 師、看護師、介護士の振る舞いに対する無害や善行の 原則におけるジレンマを取り上げている。その内容は
「身体拘束」、「オムツへの排泄」、「認知症だから混浴」、
「脳死患者家族に対する医師の説明にそれでよいのか 疑問」等を問題と意識しており、教育者が意識の志向 性をどこに向けて教育するかで、倫理教育は左右され る恐れがある。対処についても、個々に教育がなされ るか、実習中のカンファレンスによる教材化、また実 習後の教育ストラテジーも講義が主流で、わずかに ケーススタディが増加している程度であることから、
教育者の育成が急務であるといえる。
本調査の看護倫理学を必要とする理由、「専門職と して重要な資質を育てるため」、「ケースで考えさせる には概論では時間数が足りない」などの記述内容を分 析すると、「学問として必要である」、「専門性を高め る」、「倫理観が希薄であるため」、「時間不足」、「倫理 的実践」、「実習を通し学ぶこと」を理由としており、
「臨床現場での現実的な倫理感覚は、理論的な学習や 事例を通して倫理的判断を行う訓練を経て身に付くも のであり、現在我が国の看護教育での倫理の教育は、
それほど充実しているわけではない」とする片田3ら の見解と本調査の教育者の見解は一致している。しか し、本調査は5月から7月と業務煩雑な時期および郵 送法(回収率20〜30%といわれる)により回収率が低 く、回答を促すこともしていない。また自記式調査で あり、質問45項目と多く回答者に心理的負担となっ たと思われ、信頼性や妥当性に関する限界がある。
Ⅶ.結論
本調査で回答を得た85施設中、基礎看護学実習の 開講時期は1・2年次が多く、136回答中、98(65%)
1年次に開講されており、看護倫理教育は72施設
(84.7%)が基礎看護学実習前に行われていた。その うち64(70%)は専門科目であり、看護学概論や看護 学原論、実習のオリエンテーションの中で看護倫理教 育が実施されている。実習後に意図的に倫理教育科目 が配置されているが、基礎看護学実習前後の倫理教育 は授業形式で行われることが多く、実習前の教育n=
72(84.7%)に 比 べ、 実 習 後 の 倫 理 教 育n=48
(56.4%)と少ない結果であり、実習後の看護倫理教 育の機会が不足している状況である。基礎看護実習な どにより形成的に学習機会が設けられている場合、臨 床経験に基づく具体的な学びが可能となると考えられ る。看護倫理を教授するに十分な時間であるとは言い 難い現状から、85施設の教育担当者は53(62.4%)が 独立した授業科目を構築する必要性を感じている。ま た大学の教育担当者と看護学校の教育担当者間の科目 樹立に関する認識は、p値が0.07であり有意差はない ものの、2群間に差がある傾向にあった。
遠藤(2012)が2011年までの国内の研究動向と課 題を報告しているが、我が国の看護基礎教育での看護 倫理教育の教育者についての研究は、極めて少ないと している。本研究は2007年のデータであり、回収率 も極めて低いが質的データである教育者による事例報 告など、倫理教育の実態に関する貴重なデータもある ことから今回報告をまとめるに至る。今後の課題は、
カリキュラム構築や教育者の育成についての思索につ ながるよう、看護倫理教育者の意識の志向性、科目ご とのキーワードを分析し、調査の精度を上げることで ある。
謝 辞
調査にご協力くださいました基礎看護領域の教育担 当者の皆様に感謝いたします。
助 成
本研究はどの教育機関からも助成を受けていない。
利益相反
本研究における利益相反は存在しない。
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